千年前戦争アイギス 占星術師の昔話   作:青き男

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E13 転生の英傑アンブローズ

 アモンから撤退し、拠点に戻り数日経ちました。

 戦果としては、アモンが降臨した機械の大国に住む。いえ、住んでいた人々を、赤の団が殿を務めることで助ける事が出来た。故に目的は達成された。のは間違いないのですが。

 今回の戦いの原因たるアモンは、未だに機械の大国から動くことなく。ジッとしたまま、自らが奪い取った領地だと主張するように鎮座しているようです。

 

 目的は達成した。それゆえに戦略的勝利である。とは言えますが。

 故郷を奪われた人達の前で、堂々と勝利宣言することは出来ませんでした。最後まで残った私達の誰もが、あの戦いを勝ったとは。微塵も思っていませんでしたから。

 

 と言う訳で、私達はさっそく魔神に対抗する手段を探すべく、作戦会議を開きます。

 私は……先日の戦いから一度も団長と顔を合わせる事が出来ず。だからと言って、会議を欠席する訳にもいかないので、執務室の隅に椅子を置いて書記を務めます。幾度かそのことをいつもの人達に突っ込まれましたが、曖昧な答えしか出せず。疑問符を浮かべながら、各々の席に腰を下ろし始めました。

 団長の隣の席、私の定位置は空席のまま会議は始まりました。

 

 「あれ、何だったんですかね」

 「明らかにおかしかったな」

 「過去、アモンの撃退に成功したいくつかの話を調べてみましたが。どれも一度の復活と変身はすれど、七度も短い時間で復活したという話はありませんでした」

 

 サナラ、トゥアン、影の射手が各々発言して。

 

 「団長よ。あの時言ってた勝ち切れないってのはどういうことだ?」

 

 アトナテスがそう言って。戦闘後。休む間もなく機械の大国の生き残った人達と、今後の方針についてやりとりし続けていた為か、心なしか元気がないように見える団長は、そのままの意味だよと短く返し、やや大きく息を吐くと言葉を続けます。

 

 「トゥアンの言ったおかしいが、まさに的を得ている。あの魔神はいくら魔神だとしても、再生速度が異常だった。直接倒してみてから分かったけど、倒した瞬間。あの魔神はどこからか、膨大な魔力を受け体の再生をしたみたいだ」

 「どこかってのは?」

 「魔界のゲート。そしておそらくは……」

 「魔王か」

 「そうだね。魔神には治癒魔法を受けることが出来ない。それを可能に出来るとしたら、魔王しかいない」

 

 魔王。

 今回の魔神降臨と繋がりがあるとしたら、あの魔神アモンはさしずめ、魔王軍幹部といったところでしょうか。

 あんな強力な魔神を従える事が出来ているのは、魔を束ねる王であるからこそできる。ということなんでしょう。

 

 「だから魔王からの繋がりを断つためにも、魔界ゲートの破壊方法と、魔神を封印する術。この二つを見つける事が急務となる。何か情報が手に入ったら、私に知らせてくれ。私はなんとかできそうな人を知っているから、影の射手と一緒に、その人を探し出す」

 

 団長がやるべきことを明確にしてくれましたので、その場にいた全員が頷きましたが。

 同時に、スッと気を引き締めるよう促すように低い声で。

 

 「そして皆覚悟しておいてほしい。魔神はアモンだけではない。今後は複数体の魔神と戦うことも、想定しないといけない」

 

 部屋の温度が数度一気に冷えたような気がして、私は思わず身震いをします。

 アモンが一体の魔神が降臨しただけで、機械技術の力で魔物の侵攻を抑えていた機械の大国を呑みこんだのです。それなのに、複数体と戦うなんて。

 ……それに私は、団長がいる戦場に立てば。普段通りの力が出せず、挙句体が麻痺して、足手まといになることは分かり切っているのに、一体どうすれば。

 

 「たった一戦でそこまで解決策と先の戦いを予想するとは、さすが噂の赤の団の英雄さんですねぇ」

 

 やけに脳にこびりつくような、間が抜けるような。

 けれども何か惹かれる声が執務室に、響き。

 同時に薔薇をそこら中にまき散らしながら、ピンク色の派手なフリフリドレスを来た妙齢の美女が現れました。

 

 「「「…………」」」

 

 唐突の来訪者に唖然とした表情を浮かべる面々を尻目に、妙齢の美女は優雅な足取りで団長の前に立ち。スカートの裾を持ちあげ。

 

 「初めましてぇ。あたしアンブローズといいますぅ」

 

 そう挨拶をしました。

 

 はて、アンブローズさんとは。

 そう名乗った白髪の後ろ姿を各々は見て。誰かの知り合いだっただろうかと、記憶を探していると。

 団長はアンブローズ。アンブローズと、幾度か名前を呟いた後。ガタリと椅子から勢いよく立ち上がり。

 

 「あのアンブローズか!?転生の魔導士の!?」

 「はぁい。その転生のぉ魔導士のぉアンブローズですぅ」

 

 にっこりと、男女問わず惹かれる笑みを浮かべるアンブローズを団長はジッと、顔を見てたと思えば。ガシッとその細く白い手を両手で握り。

 

 「以前中央の王から話を聞いて、ぜひとも一度会い。君を赤の団に引き入れたいと思っていたんだ」

 「あらあらぁ。あたし随分と歓迎されてますねぇ」

 

 そのまま流れるようにワルツを踊る団長とアンブローズ。

 まるで、旧友にでもあったかのような団長のテンションの上り様に、私達は困惑しつつ。

 

 「団長その人誰ですか?」

 

 楽し気な団長にぷくっと頬を膨らませるサナラに、上機嫌な団長は踊りを止めず、笑みを浮かべながら。

 

 「彼女は、はるか以前より物質界の歴史を見て歩み。魔法を極めた偉大なる魔導士だよ」

 「そんなに褒められても、団長ちゃんを導くくらいしか出来ませんよぉ?」

 「赤の団に入ってくれるという事かい?」

 「そのつもりで来ましたよぉ」

 

 ……また、団長から誘う人が増えたな。

 心の内に沸き上がる嫉妬心をなんとかして抑えようとする私を他所に。

 

 「そうか!皆、聞いてくれ!」

 

 一通りダンスを終えた団長は。

 

 「アモンを撃退するぞ」

 

 不敵な笑みを浮かべて、そう宣言しました。

 

 

 

 数日後。旧、機械の大国。現アモンの根城に私達はいました。

 私達を目視するなり、咆哮を上げるアモンを団長は最前線に立ち。その背にある赤いマントを赤の団の団員達に見せつけてくれます。

 その隣には、赤の団に加入した直後。見た目の若さからは想像を出来ぬほど長い時、歴史と寄り添ったというアンブローズ。その謳い文句にまったく恥じることない深い魔法知識を、惜しげもなく赤の団面々に教授し。

 今の今まで相も変わらず副官等々赤の団では明確に決めていませんでしたが。表向きは体調不良という事で、副官地位のような所に居座っていた私の代わりに、高い事務処理能力で瞬く間に。副官の座を掴んだアンブローズが、当然のように並び立ちます。

 

 その場所は私の場所だったのになぁ。

 

 団長の事象が身に起きたことで、最後まで団長の側で、戦場に立ち続け。彼を支える事が出来なくなった私は。

 身を焦がすような嫉妬と、アンブローズのような、以前より団長が目にかけ。様々な方面で優秀で身目麗しい彼女ならば、仕方ないという諦観。

 やっぱり団長は、周囲に立つ皆とは違い。私の事なんて最初からどうでもよく。まったく気にかけてはくれないんだという。自分勝手な悲しみ。それらがごちゃ混ぜになった感情を抱きながら、離れた所で見る事しか出来ませんでした。

 

 「サナラ……」

 「ソラスちゃん、無理しないでくださいよ?」

 

 それはそれとして。どんな感情を抱こうとも、占星術師として、赤の団の一団員として。

 再度魔神アモンと戦う前に、一人で体調確認していると。サナラがやってきて。本当は件の事象の効果が身に起きて。

 私が勝手に、団長の側に立っている資格がないと感じたのが理由なのに。

 体調不良と嘘を吐いて、団長の傍から離れた私を心配してくれます。

 

 「大丈夫ですよサナラ。団長の指示があればいつでも戦います」

 「本当ですか?それならいいですけど……団長もこの数日元気ないようですから」

 「そう、なんですか?」

 

 サナラがそう言ってはいますが。

 遠く離れた所にいる団長を見ていると、まったくそんな気配はなく。

 むしろ、魔神との戦いを前にして、一切臆する様子がないその雄々しい背から、痺れるような威光すら感じさせます。元気がないようには見えないです。

 

 「だから皆で頑張りましょうね!」

 

 明るくにこりと笑うサナラに釣られて、私も笑いはしましたが。

 反転して団長の下へ向かうサナラに、思わず私も連れて行ってほしいと手を伸ばしかけ、止まります。

 

 人間、獣人、エルフ、ドワーフ、吸血鬼、魚人。種族も理由も思惑も、様々な人達が集う赤の団の中であっても。まったくその存在感を曇ることなく輝き続け、人々を助け導く。物質界の巨星たる団長の傍に。

 団長自ら誘われるだけの価値がない私は、最初から傍にいる資格がなかった。

 そう感じたからです。

 

 悔しさと、切なさ。そしてなりよりも、周りにはたくさんの団員がいるのに。かつて故郷を魔物に襲われた直後のように、また一人になってしまった。そんな寂しさに押しつぶされそうになりながらも。団長の戦闘開始の命令が聞こえ。

 私は星天召喚の儀を始めます。

 

 ですが、予想通り。星は私の求めに想像よりも、はるかに小さな力でしか応じず。

 多数の敵を高火力で殲滅することを得意とするグランドクルスは、僅か数体の魔物にしか届かず。その僅かな魔物でさえ、倒すに至らず。

 アモンを単騎で抑え込み、なおかつ周辺の魔物も斬り伏せる団長の姿を捉えた時。

 人智を超越した偉大なものを見た。

 そんな確信により体が痺れ、ぺたんと座り込んでしまい。私は思うように、力を発揮することが出来なくなりました。

 

 ……情けない。なんとも、なんとも情けない。

 

 「団長より伝令ですソラス姉さま!アモンの変身で攻勢激化。動けぬ者は至急撤退せよ。です!」

 「……分かりました」

 

 撤退命令が出て。前回、変身後にやられ。母であり師でもある影の射手と、保護者が板についてきたアトナテスに。実力不足と釘を射されたユージェンに支えられながら。未だに戦いの音が止まない戦場から撤退します。

 

 こうして、撤退するのは私だけではありません。赤の団の中でも選りすぐりの実力者。

 団長曰く。白金や黒の如き強さと謳う団員達。

 本来ならば、歴史に名を残すだけの実力者である彼ら、彼女達は。何も致命傷になりうる傷を負った訳でも、何か致命的なミスを犯した訳でもないのに。私と同じく事象によって体が麻痺して、戦えなくなり撤退します。最後まで戦場に立ち続けることが出来ない。そんな歯痒さを表情に浮かべたまま。

 

 思えば、団長の傍にいた時はこうやって。

 訳も分からない事象により、撤退する人の気持ちを理解することはありませんでした。

 私がそうであるように。彼らも、最後まで団長が立つ戦場に立てなくて、きっと本当は悔しいのでしょう。

 こうした同じ思いを抱く者達に、私は安堵に似た共感を覚え。

 

 「団長は凄いですね」

 

 ただ、そこに団長程の人物なら自分達がこうなっても仕方ない。

 そんな心地よい諦観が渦巻いていると悟った時。

 

 「ッ!」

 

 このままではいけない。

 このままでは、この渦に呑まれ私も馴染んでしまう。

 彼が、団長がもっと遠ざかってしまう。

 そんな嫌な未来が見えてしまい。

 

 撤退する人達の中で。事象とは無縁に、背後で戦い続ける団長達を、尊敬の眼差しで見続けるユージェンがそうしているように。

 私もなんとか振り向き。

 背後で、団長と団長の傍で戦う。随分と遠く輝いて見えるようになった。皆の姿を目に焼き付けます。きっとかならず、その場に戻る為に。

 

 

 

 野営地に戻り、私は戦場を俯瞰します。

 

 「ローズイラプション!」

 

 アンブローズの、極めて高度に圧縮された魔力により構成された。中央に彼女のトレードマークである薔薇が浮かぶ魔導陣。その一斉点火により。

 地中に潜み隠れる厄介なデーモンを含めて、まとめて爆破します。

 

 これは、凄いですね。アンブローズの高度な魔法運用を、私も身に付けることができたなら。アストロノヴァとグランドクルス。この二つ技だけではできなかったことが。例えば、星天召喚の儀を遥かに短縮出来るようになるかもしれません。

 情景と対抗意識を燃やしながら、アンブローズの戦いを目に焼き付けていると。

 

 以前にも聞いたように、アモンの断末魔が響きました。

 今回も倒すことは出来たようです。ですが、問題はこの後です。

 魔神は不死故に、復活するものだとしても、いくらなんでも早すぎるのです。

 

 アモンの撃退を決めた直後に、団内からいくつも湧いた疑問の声を。団長はアンブローズがいれば問題ない。実戦で証明しようと言っていました。

 再び肉体を得て、活動を始めようとするアモンの前にアンブローズは。

 

 「ゲートを通して、魔界からとんでない魔力が送られてきますね。普通の魔物だったらパンクして破裂しちゃいますよ。さすがは魔神ですねぇ。えいっ!」

 

 杖で何やら唱えたかと思えば、そのままアモンをスルーして。護衛としてアトナテスを引き連れ後方にあったゲートに近づくと、杖をコツン。

 

 えっ、それだけ?

 

 見ていた人が皆そう思っていたら、ゲートが目に見えてひしゃぎ歪み、暴走を始め。

 物質界と魔力に繋ぐ魔力を維持できなくなったようで、ゲートが瓦解を始めました。

 

 「ゲートから魔力が出てくるなら、ぶっ壊せばいんですよ。まぁ周囲の魔物倒さないといけないですしぃ、コツもいりますけどねぇ」

 「こんなあっさりと、なんとかなるものなのか……」

 

 先日散々苦労した原因の一つがいともたやすく取り除かれたことに、アトナテスが驚き。

 

 「まだまだ世界には、未知で溢れているということだね」

 

 団長は一連の動きにそう感想を述べ、同時にアンブローズのたった一回の動きだけで、コツを掴んだように手のひらをグッと握りました。……いえ団長ならもう、今後は自力でゲートの破壊が出来るでしょう。そう確信させるだけの才がある人ですから。

 

 「さて、アモンちゃんの精神を封印しますね」

 

 続いて魔力の供給を止められ、肉体を構成できず苦しむアモンの精神を、アンブローズは再び魔術を唱え。

 

 「肉体より離れた精神を、再構成した肉体に宿す。転生はあたしの専売特許ですよ。まったく……それぇ!」

 

 アモンの精神を地に叩きつけるように杖を振るうと、地面にアモンの姿が刻まれました。

 いかにも、封印されています。みたいな感じで。

 またもや、こんなにもあっさりと。

 

 「さすがは転生の魔導士だね。感動した」

 「そうでしょう。そうでしょう。団長ちゃんに降りかかるどんな難題も、このアンブローズが解決しちゃいますよぉ」

 

 えへんと。慎ましい胸を逸らしながら言うアンブローズに、遥かに長い時を生きたと公言しましたが。それにしては親し気な雰囲気のある彼女に、私も色々と惹かれる物を感じました。

 ただ、ほっとした直後。

 

 グォオオオオオと、数日の間にウンザリする程聞いた咆哮が響き渡り。

 

 「あらぁ?」

 「地脈が!地脈が乱れてますぅうう!」

 

 慌てふためくサナラの叫びと同時に地が揺れ始め。増援かと身構えている内に、地響きが収まった頃には、アモンの封印はどこかへ消えていました。

 一体何が。と混乱している内に、団長とアンブローズはアモンを封印した地面に手を当て。

 

 「無理矢理、アモンの精神の封印を引き剥がしたみたいだね。とてつもなく大きな魔力の痕跡がある。これが魔王の魔力か……」

 「封印を剥されるのは予想外でしたねぇ……これは、厄介なことになりそうです。まぁこんな無茶苦茶やったらぁ。さすがにアモンちゃんも消耗しちゃっているので、すぐには物質界に降臨することはないでしょうねぇ」

 

 何ともいない。不安が赤の団を包む中。

 

 「団長。あたしらは勝ったのか?」

 「おそらくアモンは再び物質界に現れる。だが、今度は完全に撃退した。私達の勝利だ」

 

 トゥアンの問い掛けに、団長はそう安堵させる笑みを浮かべ。

 私達はようやく、ほっと一息つきました。

 

 しかし一人、一人と団員が戦場を離れ。

 団長を含めて、数人が残ったところで。

 団長が、幾万の人畜が焼き払われ、培われた技術と歴史が焼き払われ、何もかもが魔物達の蹂躙によって消されてしまった。

 機械の大国という、そこにあり生きていたはずの大国の跡を眺め。

 顔を険しくして呟くのです。

 

 「……これが勝ちなものか」

 

 

 

 アンブローズがいなければ、千年前の無限にも思える程の短期復活を遂げる。

 特殊な魔神達への対抗手段を持つことができず。消耗したまま英雄王は敗北した事でしょう。彼女の加入は、とてもさりげなく。大きなものでした。

 

 そして、私にとってもアンブローズの加入は大きかったですね。

 私に出来ることを、何でも私よりも上回って出来て。

 私に出来ないことは、当然のように出来る。

 

 ライバル。って一方的に思ってました。

 でも、それ以上にやっぱり……あぁなりたいという憧れが、何よりも強かったですね。

 本人には言わないでくださいよ?

 

 

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