千年前戦争アイギス 占星術師の昔話   作:青き男

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エピソード2 始まりの英傑ソラス

 怪しく光る、不吉な星が見えた。

 そんな夜。

 

 「嗚呼、なんということ。大いなる魔の星が世界に」

 

 お母様が嘆き、私に抱き着く。

 嗅ぎ慣れた安心する香りに。私はどうしたのお母様と、腕を背に回して尋ねる。

 するとお母様がギュッと抱き締め返す。普段よりも少し痛い。けど怖くはない。

 大切にされている、愛されている。そんな気持ちが伝わっているから。

 

 「ソラス。よくお聞き」

 

 はい。私はそう頷くと、お母様は、いつになく真剣な顔をしていた。

 これは、怖い。何か嫌な予感がする。

 

 「貴方は、私達が受け継いできた星詠みの力で、二つの巨星を導くことになるでしょう。一つは、近くにいます。七度夜を越した朝、巨星に会いに旅立ちなさい」

 

 お母様は、お父様は、それに他の皆は。

 どうして、私だけ。

 湧いた疑問をお母様に聞いてみるが、お母様は首を振り。

 

 「大丈夫です。貴方を守ってくれるよう、お守りを作りましょう」

 

 答えになっていない、答えを返し。

 私は寝かされる。眠れなかった。

 不安が胸の中で、グルグルしている。しているまま、眠る。

 

 翌日、いつも通りの朝、昼、夜が流れた。

 だから、私はいつも通り。星を詠む力の鍛練をする。

 朝でも、昼でも、夜でも。星は常に天にある。

 だから私は、星を見て。天気を読み、少し先を読み。魔術による詠唱をすれば、狙い定めて星を落とす。

 

 些細なことを含めれば、星詠みが上手くいかないことはある。

 ただ星が奇麗だなー、なんて思いながら見上げることもある。

 占星術師としては、私もまだまだだ。

 そしてそのまま一日が終わる。

 

 明後日、いつも通りの、朝、昼、夜が流れる。

 お母様がお守りを作っている。あれが出来たら、私は何故か、巨星を導く為に、旅立たないといけないらしい。

 青やら銀色やら、色々と奇麗な色を使ったお守り。きっと奇麗なお守りが出来るだろうな。

 でも、出来なければいいな。そしたら、お母様やお父様達と一緒に居られる。

 そう思いながら、また鍛練をして一日が終わり。

 

 明々後日、いつも通りの、朝、昼が流れ。

 いつも通りじゃない夜が来た。

 ゴロゴロガタガタと、何だか騒がしい音がした。

 何か起きただろうか。

 眠る前のぼやけた意識の中で、私は音の方へと向かい。

 家の中にいる異質な存在に、唖然とした。

 

 デーモン。

 

 物質界とは違う、魔界の住人。

 人を襲う悪魔。

 

 「そんな!?早すぎる!」

 

 占星術師として、常に落ち着いているお母様が動揺している。

 そんなお母様を見て、お父様が決死の表情で、デーモンに素手で立ち向かう。

 けど、お父様がデーモンに触れる前に、デーモンが持つ鎌が振り下ろされ、お父様が二つに分かれる。

 赤い。血が広がる。とても嫌な臭いが充満する。

 

 何で。

 

 「ソラス逃げて!」

 

 突き飛ばされた。そう気が付いた次の瞬間。

 悲鳴が私の耳に鳴り響き、赤い血がさらに広がり、いくつかは私の頬に辺り。

 微かな温もりを持つ血が、ぬるりと肌を舐める。

 

 「……ぁ、うぁ」

 

 死。それが具現化したような存在を前に、私は畏縮していた。

 手が足が、動かせない。

 逃げなければ死ぬ。そう頭が思っていても、体が言うことを聞かず、震えている。

 ギシギシと床を歩く音を立てながら、歩くデーモン。そんな中私はふと、お母様の手に握られている物に気が付く。

 

 作りかけのお守りだ。

 青と銀色の、奇麗な。

 

 私は作りかけのお守りに、手を伸ばす。

 それを手にして、何か変わるわけでもないのに。

 だけど、それは私の物だ。私に残された唯一の。

 

 しかし、その思いを嘲るように、デーモンはお守りを踏みにじった。

 

 「うわぁあああああ!」

 

 その行動で。私は突き動かされる。

 デーモンに挑む、ではなく逃げた。

 

 家の出入り口にデーモンがいるから、逃げ場は窓しかない。

 無我夢中で、窓を突き破る。

 パリンと音鳴り、割れた窓ガラスがあちこち体が切れて、すごく痛い。

 裸足で外を歩く、なんてことを一度もしてなかった。一歩一歩と足を動かすたびに、砂利や小石が足裏に刺さり痛い。

 とても痛い、全身が痛い、心が痛い。

 

 「だ、誰か!」

 

 助けを求めてみるが、すぐに無駄だと悟らざる負えなかった。

 右も左も、私と同じだ。

 家屋にデーモンや魔物が侵入し、大人を殺す。

 そして、私のように逃げられなかった子供の末路は、大人と同じ死だ。

 

 頭が白くなる。

 何で、何で。

 数日前までは、数時間前までは、いつもの日々が流れていたのに。

 どうしてこうなった。

 星に問いかけるが、何も答えは返ってこない。私がちゃんと星を見てないからだろう。

 

 とにかく村の外へ。

 そうすれば、生き残れる。

 誰がそう保証した訳ではないが、私は走り続ける。

 

 助けてくれ、という声が聞こえた。

 お母さん、お母さん。という声が聞こえた。

 神様、という声が聞こえた。

 私は全て、無視した。

 私では、無力な私では、彼らを救うことなんてできはしない。

 

 私は何度も躓きそうになりながら、吐き出しそうになりながらも走り続け。

 そして、絶望した。

 家屋にデーモンが入ってきてる時点で、気が付くべきだった。

 とうの昔に、魔物に包囲されていることに。

 

 出入口である門の周囲には、多数の魔物が待ち構えていた。

 ギャッギャッと声を上げるゴブリンに、残念だったなと言いたげな、下卑た笑みを浮かべるデーモン。

 他に逃げ道はない、突破するのは不可能だ。

 全身から力が抜け、座り込んでしまう。

 

 「やっ、いやぁ……」

 

 近づいてくる魔物達に、私は無様に後ずさりする。

 怖い、死にたくない。

 涙が止まらない。

 

 デーモンが鎌を振り上げる。

 お父様にそうしたように、お母様にそうしたように、私を殺すのか。

 私は目をギュッと瞑る。受け入れたのではなく、ただ怖かったからだ。

 

 (もっと色んなことをしたかったな)

 

 占星術師として活躍したり、美味しい物を食べたり、恋したり。

 なんてことを考えながら、私は最期を待った。

 

 

 

 もう死んだのか。

 思いの外、死の瞬間は痛くないのか。

 

 待っても待っても、最後らしい衝撃はやってこない。

 肌に纏わりつく気配が、生を実感させる。

 恐る恐る目を開け。私は、私が見たその光景を疑った。

 

 少年がいた。髪が黒く、前髪がやや長い。年は私より一つ、二つ上程度。

 必要最低限の防具と、俺はここにいると主張するような、目立つ裏地が白の赤いマント

 まだ、少年が子供であると証明するかのような。

 少年の左手にはやや大きい、無骨な剣を握っている。

 

 だが、少年は大人を軽々と裂くデーモンの鎌に、拮抗していた。

 そして、その見た目にどこにしまい込んでいるのかと、不思議に思うほどの、純粋な力でデーモンを押し返すと。

 そのままデーモンの心臓を剣で一突きして、苦悶の声を上げながら、デーモンが塵となった。

 

 突然の来訪者に、魔物達が混乱しているが、すぐに冷静さを取り戻したゴブリン達が、少年を襲う。

 ゴブリン一体一体の力は、そこまで高くはないが、数が多い。数の利をいかそうと、密集しながら接近するゴブリン達。

 しかし、ゴブリンが少年に触れることはなかった。少年の手に、熱を感じる。魔力を収束していることが、占星術を通して、そこそこ魔法を嗜む私には分かった。

 そして、少年は手に集められた火のエネルギー、魔法によって生み出された火球を放ち、着弾と同時に起きた爆発によってゴブリン達が、断末魔を上げて崩れ落ちる。

 

 次に動いたのはデーモンで。そのデーモンと、視線が合う。

 狙われている。そう気が付き、背筋が凍った気分になったが、実際に凍ったのはデーモンだった。

 少年はデーモンの狙いが、私だと気が付くと、氷の魔法をデーモンの足元に放ち、着弾した氷柱がデーモンの足の自由を奪う。

 そして少年は、剣を振るうと、その剣は飛ぶ斬撃となり、デーモンを切り裂く。

 

 ゴブリンとデーモンを一通り倒した少年の前に、ガチャガチャと音を立てて鎧が出現する。

 中身は当然ない。それはリビングアーマーと呼ばれる魔物で、見た目通り鎧を纏っているので、物理的な攻撃には強い。

 少年は再び火か、氷の魔法を使うのかと思ったが、少年は剣のツバに手をかざすと、そのまま剣を振るう。

 

 飛ぶ斬撃かと、思ったが明らかに先ほどのモノとは別物の、魔法の力が宿っていた。

 魔法の力が宿った飛ぶ斬撃は、リビングアーマーの堅い鎧を、軽々と両断し。

 残された魔物の群れは、少年一人の手により消え去った。

 

 夢か現か。

 もう死しか待ってないと思っていた私は、そんな気分だった。

 少年が近づいてくる。やはり、まだ小さい。私とそう大差ない身長差だった。

 しかし、私よりも強い。魔物を前にして、振るえているしかなかった私と違い。少年は魔物とたった一人で戦った。

 

 「大丈夫かい?」

 

 そう、手を伸ばしながら。声をかける少年の声は優しく。

 私は縋るように、その手を握ると、涙が出そうになるほど暖かい。

 

 「回復魔法をかけるよ。じっとして」

 

 少年が私に手をかざすと、少年の魔力が私に伝わり。窓ガラスで傷付いた体を治していく。

 

 「俺はアルト。君達を助けに来た」

 

 

 

 物魔の切り替えが可能な、斬撃を飛ばす程の剣技を持ちながら、火と氷と治癒の魔術を扱う使う少年。

 後に、物質界の王、英雄王となる。

 今は少年。

 微笑む、その少年に、私は巨星を見た。

 

 

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