千年前戦争アイギス 占星術師の昔話   作:青き男

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E19 星の下で密会を

 

 王は亡くなる直前。鎧を、物質界の守護者。英雄足り得る力と、人々を束ね導く王の力を併せ持つ。『英雄王』の下へ、何を賭してでも届けよと、おっしゃっていました。僕には……それを名乗る資格がありません。赤の団団長あなたこそ、この鎧を継ぐに相応しいです。

 

 中央の強国。その最後の一粒種。

 故郷を襲われ、尊敬する王も、愛してくれていた両親も奪われ。

 魔物への恐怖で立ち上がることなく、芽生え開花することを拒み。

 自ら種のまま閉じこもった。

 

 「…………」

 

 ですが、団長はただこくりと頷き返し。

 アイギスの鎧は団長の寝室に残された。

 

 

 

 どうかお姿おぉ!

 団長様ぁああ!

 私達を見捨てないでぇ!

 

 影の射手が早急に。団長の住まい件本部に人の波を押し返す警備隊を編成して、寝室に団長に近しい者しか入らないよう配慮してくれましたが。それでもやっぱり声が聞こえる。昨日より声が大きくなったからでしょう。

 早朝の来訪者に引き寄せられるかのように、中央の強国の人々。そして、私達がかつてかの国に保護をお願いしていた避難民達が、続々と赤の団の拠点にやってくる。

 

 拠点はとっくに定員を超えています。超えていますが、それでも人はやってくる。

 主権領域と思われないよう外壁を作ってなかったので、際限はありません。

 

 「アトナテス、トゥアン。引き続き避難民達が暴徒化しないよう慎重に対処してくれ」

 

 アトナテス、トゥアンは昨日に引き続き避難民達が爆発する前に、鎮圧に当たり。

 

 「サナラ、ユージェン。協力者を集い、拠点周辺にバリケードを設置。この人の波に誘われ魔物達が襲撃して来ても不思議じゃない。出来る限り時間稼ぎ出来るよう準備してくれ」

 

 サナラ、ユージェンは戦えないが協力したい。そんな人達とせっせと周辺からバリケードの材料をかき集めて、形を整えて設置していく。これを一時的な外壁にするみたいですが。外壁が出来ても、そこからまた人が溢れ出しそうになり、外壁がどんどん広がっているみたいです。

 

 「アンブローズ。避難民達を可能な限り同じ地域、種族でまとめておいてくれ。今ここで余計な火種を産む可能性は減らしておきたい」

 

 アンブローズは避難民達を確認して回り、拠点内に仮の区を設け。団長の指示通り北やら南やらの生まれ、獣人、エルフと種族と分けていく。

 全員が全員。赤の団のようにすんなりと他国家や他種族受けいれるものではないからです。

 

 「…………」

 

 そして、ある程度指示を終えた彼は寝室の窓から見える喧噪をボーと見ていた。

 まぁそれは傍から見たらと言う奴で、実際は色んな事を考えているのでしょう。この人はそういう人です。

 

 「…………」

 

 私は私で、書類仕事くらいはしました。ただ素晴らしく有能な占星術師たる私は、あっという間に終わらせてしまい。手持ち無沙汰になってしまったので。そういえば読み終えてなかった魔術本を引っ張りだして読書に勤しみます。

 

 いやぁ、先日から激戦続きだったからでしょう。

 生きていると言うのは素晴らしい。こうして文字を通して新しい知識や。何を考え、何を思い書いたのか考える事が出来るのだから。

 

 ペラペラと私が本を捲る音だけが、寝室に鳴り響く。

 外の喧噪なんて気にしなーい。

 好きな人と同じ部屋にいるだけで、五感の全てはその人に意識が傾く物です。

 強いて言うなら、独りでに輝くアイギスの鎧が気になるくらいでしょう。

 あれ、神が生み出した神器と言う貴重な品みたいですからね。

 

 「そういえば……」

 「はい?」

 

 声をかけられ、返事を返す。

 いつの間にやら彼は私を見ていた。

 喧噪を見るのも飽きてきたのでしょう。というか鬼気迫った表情を浮かべる人々よりも。ここにいる可愛らしい占星術師を見つめる方が、彼にとっても有意義だとは思いませんか?

 いいえ、有意義なのです。

 せっかくなので、にこりととびっきりの笑顔を彼に見せる。

 

 「……ふっ」

 

 すると、お返しとばかりに、彼も笑みを一つ。

 口角の動き、頬の動き。揺れる眼差し。どれ一つとっても、彼の所作には惹かれる。出会った頃から変わらない。人の鼓動を勝手に早くする笑みです。

 ずるいです。顔が赤くなってしまうじゃないですか。

 ですが、今日は負けじと照れずに、視線を外さず笑みを保ち続けることにした。

 外何か気にせず、どうぞ私を見てください。

 

 「こういうのは怪我の功名と言うのかな。久しぶりにゆっくりしているなって」

 「団長は普段から無茶しすぎなんですよ。二日前のなんて本当に……」

 「……ソラスや皆に悪かったと思ってるよ」

 「それで反省してくれたら助かるんですけどね」

 「いやぁー」

 「褒めてないですよ!」

 

 言って、また私達は笑う。

 たぶんこう言った所で彼は無茶する悪癖は治さないだろう。

 彼は何でもできる。そう人に思わせ、信頼させるほどの才覚を持っている。

 けどやっぱり見てて、放っておけない人でもあります。

 

 「でも、ソラスが私を見つけてくれて嬉しかったよ。ありがとう」

 

 そしてこういうことをしれっと言ってくる人だ。赤の団団長の肩書が、物質界においてどれだけ重たくなっても。この人は軽々と、人に向けてぺこりと頭を下げる。

 ちょっとドギマギしつつ。彼の服の袖口を捕まえる。

 

 「私は団長を追いかけて捕まえるのは得意ですからね」

 

 彼は袖口を掴む私の手を払うことはせず。

 寧ろ空いて手を私の手に重ね。

 

 「……そうだったねソラス」

 

 彼は顔を赤くしながら、そういった気がした。

 

 

 

 外の喧噪は時間が経つにつれ、大きくなっていく。

 誰もが昨日を悲しみ、明日を不安に思い、今を絶望していた。

 冷静に考えるまでもなく。終わりはそこかしこにあり、そこにあそこに、ここにもあった。そんな中で、絶望だらけの物質界の、とある建物の一室で私と彼は。

 

 「戦っていて思ったが、天使達にもやっぱり感情はあると思うよ」

 「神の意にしか従わない。意志無き兵器ではないと?」

 「うん。私は天使達が、その姿を人と大差なく生み出されたのには、人との共存する道があるからだと。そう思いたいな」

 「……まぁ少なくとも、恐怖する感情はあると思いますよ」

 

 議論をしたり。

 

 「この前団長の伝記を書くんだって人がいましたよ」

 「えぇ……」

 「何でそんなにドン引きしてるんですか?」

 「いやぁ……私の伝記だろう?散々なこと書かれて終わる気がするよ」

 「どう考えてもそうはならないでしょうけど……あぁならいっそサナラに頼んでみたらどうです?あの子なら、団長の話を面白おかしく盛りに盛ってくれるでしょうし」

 「そうか。サナラにならお願いしようかな」

 

 雑談をしたり。

 

 「…………」

 「…………」

 「二人で一つの本を読むのって結構難しいですね」

 「だね」

 

 身を寄せ合いながら本を読んでみたり。

 外がどんな状況になっているか分かっているのに。なんとも穏やかな時間が流れていく。

 

 昨日からそうでしたが、いつもなら何かと理由をつけて団長の下へやってくる人達がまったく来ない。

 私と彼が二人きりになるよう気を使ってる。とは思わえないです。彼と彼女らにそんな性格を持ち合わせていないです。ただ忙しいだけでしょう。

 ではなんで私がここにいて文句を言いに来ないのか。と言われたら、きっと真面目な私ならまーたすぐ無茶し始める彼を、寝室に押し留める事が出来ると思っているのでしょう。

 やれやれ。そうだとしたら、あの子達は大きな勘違いをしていると言わざる負えません。

 

 日が落ちて、夜が来る。

 彼は再び窓から外を眺めていました。

 けれど、ふとポツリとこう言います。

 

 「ソラス、星を見に行かないか?」

 

 彼は安静をしないといけない身。出歩くなんて論外です。

 せめて、今日一日最後までは寝室で休むべきでしょう。

 ですが、その誘いに私は迷うことなく。

 

 「えぇ、行きましょう団長」

 

 本をぱたんと閉じて、立ち上がる。

 私だって、たまには馬鹿をしたいんです。

 

 

 

 赤の団の本部の裏口から私と彼は外へ出る。けれど、出てすぐ巡回する団員もいて彼を求める避難民達が本部を囲んでいる。

 一旦引いた方がと思ったが、ずんずんと意にも返さず歩を進める彼を信じて、私もその後ろに付いていく。すると不思議なことに、団員も避難民達も団長がすぐそばを通ったと言うのにまったく気が付かず、そのまま素通りできた。

 

 「何かしたんですか?」

 「うん。影の射手直伝の隠密化の魔法だよ」

 「わっ」

 

 彼が指をサッと動かす合図とともに、今まさに目の前にいた彼の姿が消え。

 すぐに姿を現す。

 

 「団長以前からいつの間にかいなくなることありましたが、それも今のですか?」

 「いいや、影の射手と出会う前はそういう技術を使っていたんだ。ほら」

 

 言うと彼は足を激しく上下させるが、タタタみたいな足踏みする音はまるでしない。

 はえーと感心したが、その使い道が外で遊ぶ為なのだからこの人はどうしようもないな。なんだか笑ってしまう。

 

 「隠密と一言で言っても、多種多様さ。技術によって体得する者もいれば、魔法で実現する者。そういう在り方という者もいる。求める結果は一つでも、それに至るまでの過程は無数であってもいいはずさ」

 

 けどそれに飽き足らず、別の方法もあっさりと身に付けてしまう。この人凄いなぁと素直に何度も思う。たぶん、先日私が占星術を使っても彼を見つける事が出来なかったのは、複数の隠密技術を併用した結果なのでしょう。

 

 それなら……この人は、きっと本気で逃げ隠れようとしたら、誰にも見つける事が出来ないのでしょう。

 今の立場も団員も避難民達も、全てを捨てて逃げ出し。この人の力なら、魔神が来ても神獣が来ても、その力と知識を持って、例え一人でも生き延びる事は難なくできるのでしょう。

 

 「……寒いだろうな」

 「そうでしょうね……」

 

 けれど、悲し気な眼で夜風に震える避難民達を眺めながら歩く彼には、きっと逃げ出すことは出来ない。

 きのみきのまま逃げ出した避難民達は、もう肌寒く感じる夜空の下。

 屋根もない、藁すらない。冷たい地べたに横になり、目尻から涙を流しながら震えている。

 問題は住処だけでなく食糧もです。

 

 避難民達に彼は食事を出す様に指示を出しました。けれど、それは一食とすら呼べない程にごく少量です。今の赤の団の備蓄では、物質界中から集まってくる避難民達全員に食事を提供しつつ、数日持たせようとしてもその程度の食事が限度でした。それでも彼は全員に食事を提供することを徹底しました。不平不満を抱いた避難民達が暴徒にならないように。

 

 助けて。助けて。そんな声が絶えず聞こえる人の森を抜け、小高い丘を目指す。

 何度か団長と星を見に行った事がある所です。

 やっぱり星を見るなら高く、阻害する建築物がなく静かな所が良いです。

 

 「団長知っていますか?」

 

 道中、私は占星術の知識を彼に披露する。

 せっかく二人きりなんです。彼はどうかは知りませんが。

 これはデート。なんです!

 気が滅入るしか選択肢のない暗い話題を続けるよりは、やっぱり楽しいお話をしたいじゃないですか。

 

 「星に偶然というものがほとんどないなら、人と人の出会いは全て星の導きの下ほとんど必然なのかな」

 「そういう説もありますね」

 「私は皆との出会いは必然であってほしいんだけどなぁ」

 「ならそれでいいんじゃないですか?」

 「…………」

 「なっ何ですか何ですか?まるで詐欺師を見るみたいな目をして!?」

 「ふっ……」

 「笑いましたね団長!いいですか。占星術というのは星を見て解釈する者の意志にこそ極意があるのですよ!」

 

 それにしても、今日は本当に彼とよく話が出来る日だ。

 とっても、幸せで楽しいです。

 だから、もっと幸せになれるよう……手を繋げないかな。

 

 もっと前から、さりげなく手を掴めないかと機会を疑っていましたが。彼には隙という隙がない。どうせなら、彼から握ってくれないかなと、少し期待はしていましたが。彼は触れてこない。ならばその気にさせよう。

 えいっ。

 彼の腕にそこそこあると自負してる胸を押し当ててみたり、いつまでも握ってこない悪い手に自慢のお尻や太ももをかすめさせる。

 こんなことをしてたら、さすがの彼も少しは狼さんになることでしょう。

 なってくれないと、さすがに凹む。

 何度か繰り返していると。

 

 「ソラス」

 

 真剣なトーンの声に、さすがに調子に乗り過ぎたかと離れようとしましたが。

 

 「…………あ」

 

 彼が手を握ってくれた。

 ……温かいな。彼の手は。

 

 

 丘までたどり着き、星を見るに絶好の場所に腰を下ろす。

 手は繋いだまま。

 

 「今日は星が良く見える」

 「そうですねぇ……」

 

 私は彼と、星をただ何も考えず眺める。

 彼は望んだ。私と星を見に行くことを。

 占星術の知識も技も、今は彼は求めてない。

 だからただ夜空に浮かぶ星々の輝きと、このロマンティックな雰囲気を私は心の底から楽しむことにした。

 

 何となく五芒星を探してみたり。

 星々を繋げて夜空に絵を描いてみたり。

 スッと線を描く流れ星を見て、何気ない願いを心の内に願ってみたりする。

 

 えぇ分かってますとも。

 ……こんな幸せなことをしてる時ではありません。

 彼にはやらないといけないことがあります。

 私が彼を独占する訳にはいかない。

 

 けど、いいじゃないですか。

 私は幸せ。きっと彼も幸せ。それで物質界全部丸っと幸せ。

 それでいいじゃないですか。

 

 「ソラス。私は……王になるよ」

 

 いいじゃないですか、もう少しだけ……もう少しだけ。

 ねだる様に、彼の手を強く握る。

 けれど、それだけで振り向いて立ち止まってくれるような彼じゃない。

 

 「もう、打開策は考えておいた」

 

 この人は、本当に凄い。

 私が彼の立場だったら、自らをこんな状況まで追い込んだ環境を恨み。周囲を拒絶し、きっと閉じこもっていたはず。

 それでも彼は策があると言う。

 今日と明日を生き残る計画を立てていると言う。

 あぁやっぱり彼が、彼こそが物質界を束ねる。『英雄王』と呼ばれるに相応しい人物と、そう思わせる。

 

 「けど」

 

 そう言い、彼は空いてる手で自らの顔を握り潰しかねない力で掴む。

 咄嗟に止めさせようとしましたが、彼から発せられる気迫に押され動けない。

 

 「それをしたら私は、私の理想を壊してしまう。それが分かっていながら、それしか生き残る術がないんだ……」

 

 彼の理想は魔物という脅威に対して、ありとあらゆる人達に区別なく手を差し伸べ、救済する事。最近では魔物だけでなく、魔神やら天使やらその他諸々たくさんついていますが。彼はその理想を守り続ける為に、何度も何度も無茶をしてきた。

 それがついに壊れる。壊れてしまう。

 私もその理想の為の戦いを彼と共にしてきました。それを取り消さないといけないことに、寂しさは感じます。けれど、続く団長の言葉に少し戸惑います。

 

 「……私はねソラス。常々思っている。魔王を倒して物質界に平和を取り戻し。10年、20年経った頃。ふと当時戦った仲間達が何となく集まって。バカ騒ぎして……酒を飲みながら当時を振り返って話すんだ。

 ……辛いことがたくさんあった、悲しいこともたくさんあった……」

 

 彼は未来を語る。ずっとずっと大切にしてきた思いを始めて吐露するように。

 一言一言に、彼の願いを私は感じた。

 

 「それでも楽しかった……」

 

 それは実にいい未来です。そして、そんな光景をすんなりと思い浮かべることが出来る。それぞれの事情によって姿がほとんど変わらない人がちらほらいますが。10年20年経ったらユージェンちゃんも、ダークエルフらしくシュっと背が伸びてることでしょうし。順当に成長したサナラも、すっかり大人の女性になってることでしょう。

 私は……ふふっ子供がいたりなんてして。そして私の愛しい未来の旦那様は……。まったくどうなってることでしょう。今でも凄すぎるくらいなのに。

 

「私は皆には、この戦いの日々はそういうものであってほしい……後ろめたい暗いものなんかいらない。あってはいけない」

 

 妄想をそこそこに、下がっていく彼の頭を見つめる。

 

 「けど今のまま私が王になったら、きっと……」

 

 彼の言う策は、生き残るという大義の為に、きっと皆の笑顔を奪うのでしょう。

 ですが彼の事だ。その策を実行した上で王になっても、その大いなる才をもって物質界を支え。魔王を討伐する偉大なる王。『英雄王』になるに違いない。

 ただ、その王の道の入り口には、避けようがない血だまりがあり。彼が血だまりを超えて先を進んでも、血は点々と彼の歩いた道の跡を赤く染めるのでしょう。

 それが分かっていながら、彼は歩かざる負えない。

 この世界を守る為に。

 

 ……今まで彼は頑張ってきた。

 今でも計り知れないほど苦悩している。

 そして、後悔すると分かっていても、本心ではきっと嫌だとしても王になろうとしている。

 

 それでは……あんまりじゃないですか。

 私は彼の手を放し、彼の真正面に立ち。

 そして――。

 

 「空を見よ!」

 

 ズビシっと指先を空に指します。

 うんうん。自信が多少ついてきた為か、以前よりは格好よく言える様になったと思います。

 

 「…………」

 

 それにしても、どうしてこの人はこんなにすんなり私の言う通りにしちゃうんでしょうか。

 クスリと笑いながら、その無防備な頭に腕を回して。

 彼をぎゅっと抱き寄せる。

 普段見上げてばかりな頭がすぐ下にあると言うのは、不思議であり心地もよくもあり。何とも言えない温かさを感じ。鼓動が高鳴り体が火照っていく。

 

 「……それなら逃げてもいいじゃないですか。団長なら誰にも見つけられないように逃げれそうですし」

 

 本心から私はそう思う。私の占星術でも居場所を掴めない。影の射手ですら彼を探し出すことが出来なかった。全力で逃げ隠れることを彼が選んだなら、たぶんそれが出来るし、その後も彼の事だ。文字通り一人でも生きていける。そんな確信があります。

 

 「周囲は『英雄王』になれなれと言うかもしれませんが。今の物質界で最も強大な勢力の長だからという理由で、団長がそれにならないといけない。そんな義務は私はないと思います」

 「けど、私がやらないと皆が!」

 

 抱き締めながら本心ついでに、考えを告げてみると。彼が私の両肩を掴んで、離れてしまった。

 残念、もう少し抱き締めていたかったんですけどね。

 

 「…………」

 

 あぁ本当に強い目をした人だ。人に敵わないと思わせる目だ。

 でも私はしっかりと彼を見つめ返す。

 目を逸らして自信なさげに言う言の葉に、一体誰が聞き届けるでしょう。

 

 堂々として、胸を張りなさい。

 クールでミステリアス。それでいてちょっとお茶目。

 そんな私が私である為に、両手を胸の前で組んで言葉を紡ぐ。

 

 「だったら。やるとしても、ちゃんとやるって。皆を背負ってやる。平和な世界をお前達に見せてやる!そう言ってくれる人が『英雄王』になってくれるなら、私もこの身全て使って。貴方を支えたい。助けてあげたいのです……団長」

 「…………」

 

 こういった言葉が、こういった期待が、彼をどこまでも追い詰め伸し掛かる負担となり。彼を苦しめ続けるのでしょう。

 しかし、勘違いしないで貰いたい。

 逃げてもいいじゃないかというのは真剣です。ただそれに付け加えるなら。

 胸の前で組んでいた手をほどき、彼の胸元にぴょんと飛びつく。

 見下ろすのもいいですが、見上げて。真剣な顔をしている彼を、視界一杯に映すのもいいものです。彼もちゃんと、手を私の背に回してくれているのが尚グッドです。

 

 「あぁでも、もし逃げるなら私も連れてってくださいよ。どこまでもお供しますから」

 「…………!」

 

 彼は目を丸くして。

 そして今までの決心とは違う類の決心を、内に秘めたような気がしました。

 えぇ分かってますよ。実質告白みたいなものですよ、えぇ。

 顔を赤くしてもいいじゃないですか。そしてあんまり見ないでください。

 

 「……ありがとう。ソラス」

 

 彼も照れているのか顔を赤くしている。もっと、私に見せてください。

 

 「「…………」」

 

 彼が顔が近いなぁと思ったのは、私が近づいているからなのか。彼が近づいて来ているからだろうか。

 私は瞼を閉じる。誰に教わったかそういうものだと思ったからです。

 そして、そのまま唇に訪れるだろう甘美な感触を待ち。

 

 「団長ぉ!どこですか!!?」

 

 私と団長の間を引き裂くような声に、閉じた瞼を上げた。

 

 「「…………」」

 

 あぁ……目と鼻の先に団長の顔がある。

 もう少し近付けば触れるだろうという距離のまま私と団長は。

 

 「ふっ……」

 「ふふふ……」

 

 何だかおかしくなって、同時に吹き出すように笑ってしまった。

 まったくどこの名も無き警備兵さんですか。私と団長のロマンティックでコケティッシュな雰囲気を邪魔した人は。

 まぁ悪いのは、寝室から抜け出した団長と、止めなかった私なんですけどね。

 

 「行こうソラス。皆が待ってる」

 「はいっ」

 

 笑うのもそこそこに、私は団長の手を取り立ち上がり。本部へと戻ることにした。

 そして、案の定私と団長はこっぴどく怒られ。

 とぼとぼと自室に戻り、ベットに身を投げる。

 

 「…………」

 

 なんとなく指先を唇に当て。つい先ほど、すぐ近くにあった団長の顔を思い出す。

 

 あれ、私にキスしようとしたんですよね?

 キスと言うのは恋人同士がするものであって。

 キスしようとしたということは、私と恋人になりたい。

 つまり、好きってことですよね?

 そういうこと、ですよね?

 

 「うぁうぁあわぁぁあああ!」

 

 勿体ないことをしたぁあああああああ!

 もうあれこれ全部無視して最後までやっちゃっても良かったじゃないか!

 明日から今まで以上に忙しくなるのだから、しばらくはこんな展開訪れないのでは!?

 顔を目一杯枕に押し付けて、足をバタつかせる。こうでもしないと感情の整理がとてもじゃないが追い付けない。

 けど、最後は幸せいっぱいな気持ちで私は眠りに落ちた。

 

 

 

 その日、物質界の人々は皆同じ夢を見ました。

 とある変哲もない。ただ身寄りのない人達が集まっている広場に、不似合いなまでに神々しい輝きを放つ水色の結晶が現れ。そこに、これまた絢爛華麗な白い剣が突き刺さっている。

 ただそれだけの夢。

 ですが、人々は誰もが確信しました。

 この剣は然るべき人物に引き抜かれることを望んでいる。と。

 

 ですが、私にはそれが……。

 神ですら、あの人を王にせんが為に、圧をかけるのか。

 そう、思ってしまいましたね。

 

 

 

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