千年前戦争アイギス 占星術師の昔話   作:青き男

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2022/5/10
先月合わせる事1200パリン
無事イムラウちゃんを迎える事ができました。
よかった、急遽黒幕を大邪神アイギスにするところだった。


E23 王の義務

 亜神達が物質界に、王国に参入してから約半年。

 そろそろ、王国建国してから一年が経とうとしています。

 

 各地の開拓もそれなりに進み。

 穏やかな時間が流れる開拓地を見ると。

 人が人らしく生きていく為の営みを、魔物達から取り戻していると、私達に実感させ。

 人や戦士も亜神も。全てを束ね支配する英雄王の、民衆からの支持はより一層高まり。

 

 そして、英雄王の腹心。

 英傑という名も。英雄王ほどではないですが各地に残していきます。

 ですが何より嬉しいのは、やっぱり。英雄王の傍に英傑がいる。

 そのことに、不思議に思われなくなったということが、私達もしっかりと認められているんだなと思い。嬉しかったです。

 

 ですが英雄王のように慢心せず、日々の仕事もしっかりこなさいといけません。

 

 「あー……やっぱり、早めに英雄王に知らせておくべきですね」

 

 ふと、先日の遠征に関する報告書に、気になる個所を見つけ。

 夜分遅くもあり、明日にすべきかと思いましたが。

 緊急性が高いと判断して、英雄王の下へ尋ねることにしました。

 執務室はアトナテスと一緒に、英雄王を抑え込みながら無理矢理消灯させ。書類等政務に関わりそうなことは全て没収しましたので、この時間ならさすがに寝室で休んでいるでしょう。

 

 髪を梳かして……薄く化粧をして……香水をつけて。

 きちんと身だしなみを整えて。

 そんな展開起きないだろうなぁと思いながらも、殿方が喜びそうな、ちょっとエッチな下着を身に着け。英雄王の下へ向かいます。

 

 微かな蝋の灯りと月明かりを頼りに、書類を確認しながら歩き。

 英雄王の寝室へ繋がる。まっすぐな廊下へ差し掛かった所で。

 

 「……っ!?」

 

 目の前に飛び込んできた人物に、というよりも、その人物が身に纏っていた衣装に思わず言葉を無くしてしまった。

 

 「あっ……っ!!」

 

 そして、その人も私を姿を見るなり。顔を赤くしながら走り去る。

 頬から流れ落ちた涙をその場に残しながら。

 

 「あの人は確か……」

 

 銀の髪を持つ人は英傑含め王国には数多くいるけれども、そこに輝くエメラルドグリーンの瞳を持つ女性といったら、私の知る限りは北方の姫で間違いなかった。

 

 「…………」

 

 別に、北方の姫が英雄王と会うのは何も問題ありません。

 英傑達と比べたら、回数こそ少ないですが。英雄王と二人で王国の今後について話し合うこともある程度には親交がありました。

 

 ですが、つい先ほどすれ違った時に、身に纏っていた彼女の衣装を見たら。

 話はまったく別問題になります。

 

 彼女はバスローブを羽織っていました……。

 ですが、一度は解いたのであろう、乱れた紐で結んだバスローブの下には。

 その身に着けていたのは。所謂ベビードールと呼ばれる女性が殿方を誘う下着の類。

 私のとは違い、本格的に誘う時に身に着けるような淫猥な下着でした。

 

 そんな衣装を身に着けた彼女が、英雄王の寝室の方からやって……きた……。

 

 「…………」

 

 ドクンドクンと動機が早くなるのを感じる。

 沸き立つ汗の熱さが、急速に冷えていく体にぬるりと流れ落ちていく。

 

 まさか……まさか……。

 一歩、一歩。英雄王の寝室に近づくにつれて、視界が歪みと体の震えが増していく。

 

 もし、想像通りだった所で何が問題がある?

 

 心の中で、冷静な私が私に告げる。

 

 彼は英雄王。

 王である彼は、国を治める義務と同時に、その血筋を残す義務が存在する。

 いつか、そうなることなんて分かり切っていたじゃないか。

 彼がいつから、性に無関係な人物だと思っていた?

 彼に男として焦がれ、求めていたのはどこの占星術師だ?

 

 それを非難する資格や、非難できるような。

 英雄王にとって仲間でも、英傑でもない。

 唯一無二の『特別』な存在であったか?

 

 冷静な考えが過れば過る程、沸き立つ感情。

 身勝手な、自分勝手な、我儘な怒りの矛盾を指摘していく。

 

 彼の女性関係を知ってどうする?

 先日どこかで聞いたように、英雄王に怒りをぶつけるのか?

 それとも、嫉妬に狂い女を害するのか?

 

 ……立っていられない。

 吐き気や眩暈でふらつき、壁に頭をぶつけてしまいそうになる直前。

 

 「大丈夫ですか。ソラス?」

 

 そう問いかけながら私を支えてくれたのは。

 いつの間にやら、私の傍に来ていた影の射手でした。

 

 「影の……射手……」

 

 影の射手は老いを感じさせない翡翠の眼で、私の姿をじろじろと見ると。

 すべてが合点いったかのように、あぁと頷くと。

 

 「英雄王に用事があるのでしょう?どうぞお入りなさい。貴方が考えているようなことにはなっていませんよ」

 「あっ……あぁ……」

 

 ……例え王国で生きる者として、その考えは間違っているとしても。

 良かった。なんて、思ってしまった。

 

 「でもその前に。ソラス。深呼吸をなさい。そんな酷い顔で英雄王に会うつもりですか?」

 「あっ……はい。そうですね、ありがとうございます」

 

 スーハーと深呼吸をして……影の射手が言う酷い顔から普段の私を取り戻し。

 改めて、寝室の扉を叩いて寝室に入ると。

 

 「……ソラスか」

 

 英雄王は英雄王で、椅子の上にグデーと疲れ切ったように座り込み。

 普段の執務室の激務を熟した後でも、戦場で戦い抜いた後とも違う。

 もっと別方面で疲れたような顔をしていました。

 

 「どうしたんですか英雄王?」

 「いや、まぁその……」

 

 英雄王は言い淀み、そして私と一緒に入室した影の射手を見て。

 全てを悟ったかのように溜息を吐くと。

 

 「彼女は……どうしていた?」

 

 たぶんタイミングから、つい先ほど英雄王の寝室から飛び出したであろう。北方の姫の事を聞いているのでしょう。

 英雄王が北方の姫に興味を持ったらどうする。という暗い考えを抑え込み。

 それとは別に、ごまかした方がいいような気はしましたが……。この人には隠した所であっさり看破されるのが目に見えているので、正直に英雄王に伝えると。

 

 「そうか、彼女は泣いていたか……」

 

 より一層、重い溜息を吐くと。英雄王はやつれたような顔をしてしまいました。

 

 なんというべきか。

 英雄王も疲れた顔位はしますが。いつもやりきったような、爽やかな顔を浮かべているのが常でしたので。その陰気に感じさせる姿は、とても珍しい光景が見れた気がします。

 ……お疲れみたいですし、早く要件を伝えてしまおうと思っていたら。

 

 「どうせ泣かせるなら、ベットの上で鳴かせて差し上げればよかったのに」

 「ちょ!影の射手!」

 

 口端を少し上げて、冗談めかした口調で影の射手は言いましたが。

 その言葉の内容に英雄王はこれもまた珍しく。影の射手を敵を見つめる時のような、ギロッとした。息を呑むような怖い目で影の射手を見て。

 

 「…………」

 

 そして自己嫌悪するかのように、ばつの悪い顔を浮かべました。

 

 「英雄王」

 

 名を呼ぶ声の重さに。影の射手が先ほどの、冗談交じりの態度から変わり。

 真面目に、臣下として。或いは戦友として、それとも英傑として。

 英雄王を正すかのような、強く迷いない口調で言葉を紡ぎます。

 それが英雄王にも分かっているためか、英雄王も影の射手の目を真正面から受け止めます。

 

 「貴方には義務があります。一つは王国の統治」

 

 ……今更、誰かに指摘されるまでもない。

 統治において、英雄王以外誰が滅びかけた物質界まとめて立て直し、安定させ。

 反撃に至るまで王国を作り上げる事が出来るでしょう。

 完璧なる王を英雄王はやって見せました。

 

 「もう一つは英雄王。貴方という血統の保存……世継ぎを作っていただくことです」

 「「…………」」

 

 英雄王も……そして私も。

 言葉の意味することを理解していますので、口を閉ざしてしまいました。

 その代わりのように、影の射手は言葉を続けます。

 

 「英雄王の政治能力も戦争の才も至高です。英雄王以外。例えアイギス様の贈物があったとしても、無から人々を束ね。物質界を立て直すのは不可能だったでしょう。

 今世において必要なのは、散らばった力を繋ぐ手ではなく。散らばった力を束ねる手だったでしょうから」

 

 すでにある力を繋ぎ合わせ、力と力を繋ぐ手ではなく。

 無から力を生み出し、一つに束ねる手。

 似ているようで、決定的に違う。

 英雄王だけが持つ力。

 

 「ですから今。万が一にでも英雄王が亡くなれば、貴方という土台を失った物質界は今度こそ滅びるでしょう」

 「影の射手!その万が一が起こさない為に、私達英傑がいるのではないのですか!?」

 

 万が一にでも、彼が死ぬ?

 そんなことあってはいけない。

 もし、そんなことが起きるなら。いえ起きる前に身を挺してでも英雄王を私は守って見せます。

 英雄王の会話の横割りする無礼を承知で、影の射手に食いかかります。

 

 「えぇ、勿論そうですよ。ソラス」

 

 ですが、影の射手は怒らず。

 ただ普段通りに、穏やかな笑みを浮かべたまま。

 

 「――え?」

 

 影の射手が、アイギス様の加護を受けた黒弓に矢をつがえ、私に向けて射出した。

 それが理解できたのは。すでに、ヒュンと矢が空を切る音が鳴り。

 その矢をいつの間にやら椅子から立ち。私と影の射手の間に割って入り、素手で矢を掴み取った英雄王を見た時でした。

 

 「…………」

 

 どうして、影の射手は唐突に私に矢を?

 理解できない理解できない理解できない。

 同じ英傑として、戦場を駆けまわった戦友として影の射手は仲間だったのでは。

 どうして――。

 

 「……お見事です、英雄王」

 「あまり、この冗談も好きじゃないよ影の射手」

 

 矢を炎魔法で消しながら、英雄王は悲し気な表情を浮かべて影の射手を見て。

 そして一連にへたり込んでしまった私に、英雄王は手を伸ばしました。

 彼の手のひらから伝わる温度に、ようやく影の射手は冗談であることは理解しました。

 でも、でも冗談にしてもこれはいくらなんでも……!

 

 「影の射手!」

 「ソラス、どうして貴方は英雄王に庇われているのですか?」

 「…………!」

 

 その一言で、影の射手が言いたいことが分かってしまい。

 先ほどの、身を挺して守る等という意志に。

 私自身の行動が、それに伴っていないことへの恥が先に来てしまい。

 彼女への怒りが霧散してしまった。

 

 「そして英雄王。あなたはソラスを庇ってはいけません」

 「…………」

 

 英雄王も、こくりと頷きはしませんが。影の射手に口を閉ざします。

 

 「英雄王の仲間を想う気持ちは素晴らしいですが……それが強すぎて。英雄王は、自身の命を大切にしていない気が前からあります。忘れないでください英雄王。貴方の命は、英傑全員の命を引き換えにしたとしても、失う訳にはいないのです」

 「だが、私は仲間を失うのは嫌だ」

 「ならばこそ」

 

 影の射手は弓を下ろして、英雄王に跪き。

 

 「英雄王。世継ぎをお作りになりなさい。世継ぎがいれば。物質界は万が一。英雄王という土台を失っても。英雄王の血筋を引く者と、王国を拠り所にして生きていくことが出来ます」

 

 改めて、影の射手は英雄王にそう進言しました。

 

 ただでさえ、今の物質界には英雄王という存在が必要不可欠。

 そんな英雄王が、万が一にでも英雄王が殺されてしまったら。

 今まで幾度もやったみたいに。英傑の為、仲間の為。自らの生命を厭わない無茶をやって、その命を失うことになったら。

 

 支配者を失い、そして正当な後継者もいない王国は間違いなく瓦解するでしょう。

 魔王と戦わないといけないのに。王国発足前のように。今度はいくつものは派閥による内戦が起きるでしょうし。そして人々は、内戦を行う纏まりのない王国に見限り。また自分達の生活を保障してくれる国がない以上。人々は今まで以上に離散して散り散りとなり。

 幾度もあったように、少数になった集団に、大勢の魔物や天使達がやってきて……。

 

 あとは、一度物質界が滅んだ時の状況が、規模が小さくなっての繰り返し。

 そして今度は英雄王という。人々にとって、理想の王が現れるなんてことなんて。

 都合よく二度も起きる事はないでしょう。

 

 そして英傑たる私が、そんな状況に追いやられたと仮定した時……。

 果たして英雄王無き王国の為に、彼のいない王国に残り続ける事が出来るのか。

 ……はっきりとした答えを思い浮かべない。

 

 「分かっているよ。影の射手」

 

 絞り出すような、ゆっくりと硬く言葉を英雄王は言い。

 影の射手は、軽くふぅと息を吐きながら立ち上がると。

 

 「相手にお困りなら、そこのソラスなんていかがですか英雄王?」

 「っ!?」

 

 さりげなく放たれた矢に、私と英雄王は同時にお互いの顔を見て。

 

 「…………ぁ」

 

 私の鼓動がトクンと跳ね上がった。

 

 今までの話の流れが流れだけに、一瞬彼の視線が上から下へ。

 私の胸や、腰、尻。男女で明確に違いが出やすい箇所に移ろい。

 再び私の顔に視線が戻ると、少しずつ彼の頬が赤く染まり。

 

 その辺りの類の視線は気に留めないか、冷めた感情を抱いてはずが。

 他でもない。彼に見られた為か。

 今まで気配がなかったけれど、私も彼にそういう風に見て貰えるのかと、桃色な喜びに体全身に熱が宿り始め。身に着けていた下着を思い出して、恥ずかしさに内股になり。

 

 今更ながら、先ほど立ち上がる時に彼の手を握り、そして今も握ったままであることを思い出して。私と彼の、互いに熱くなっているはずなのに、感じとれる熱の違いに。思わず頭がクラっと来てしまう。

 

 長い数瞬の時間が過ぎ。

 

 もし……もし、ですよ。

 どうぞ。

 なんて言ったら、彼はどうなるでしょう。

 そんな考えが過り始めた時。英雄王は繋いでいた私の手を放すと。

 

 「そういった冗談も好きじゃない!」

 

 顔を赤くしながら、英雄王にしては珍しく口調を荒くして言い放つと。

 

 「…………」

 

 ……何故かまた、自己嫌悪のような顔を浮かべ。

 一方で影の射手は微笑ましいとでも言いたげな笑みを浮かべ。

 

 「ソラスから英雄王に言う事ないのですか?」

 

 完璧に……からかってますね。人の気も知らないで……!

 

 「し、知りませんよ!」

 

 反射的にそう答えてしまい。

 

 「その報告書の話ですよ?」

 

 うわぁあああああ!

 影の射手に、書類アタックの一つでも決めないと治まりそうにない怒りに身を任せ、影の射手を追い回しますが。

 忘れてるわけではないですが、彼女は隠密の使い手。するりと影と同化するように消えては現れてを繰り返し。先に私の方が折れてやることにしましたよ。

 

 この後、報告書の話をすることにしましたが……。

 先ほどからの件もあり、気恥ずかし過ぎて、まともに英雄王の顔を見れません。

 

 そして英雄王も英雄王で普段のように、はきはきとした返事ではなく。

 あぁとか、うんとか、ちょっと上の空。

 ……上の空になるくらい意識してるのかな。なんて、喜んでいる私がいて。報告どころじゃなかったですが、報告を終え。

 

 英雄王は窓際に立ち、夜空に浮かぶ。

 様々な報せを届けてくれる星々を眺めながら。

 退室しようとする私と影の射手に告げる様に。

 

 「……近々答えを出すよ」

 

 そう言葉を紡ぎました。

 

 

 

 そんなやりとりがあったからか、煙のない所にという奴なのか。

 この頃、こんな噂が王国中に駆け巡りました。

 

 英雄王は英傑の中から、妃に迎えるつもりだ。と。

 

 まぁ英傑と言っても、影の射手は高齢を理由に。

 アトナテスは一部の界隈から惜しまれながらも、対象外となり。

 

 私、サナラ、トゥアン、アンブローズ、アージェ、トラム。

 その六名の中からさぁ誰だ!?みたいなことになってました。

 賭け事の対象みたいなことに、しかも個人の感情に障る話なのでなんだかなぁと思いながらも。各々に探りもとい、話を聞いてみると。

 どうやら周囲が思う妃候補第一、第二はトラムとトゥアンでした。

 

 理由としてトラムは、今王国にいる亜神達との繋がりを強くするためという思案もあり、亜神ならば英雄王とも釣り合いが取れるだろうと認識されていて。

 トゥアンはトゥアンで、あの子は規模は小さいながらも今も残っている数少ない国の女王であり。亜神と比較したら釣り合いが。という考えがあるみたいですが、彼女はトラムとは違って英雄王との付き合いの長さで優ると認識されていました。

 

 そして当の二人の反応はというと。

 亜神トラムさんは噂を聞くと、大層顔を赤くされ。

 

 「だ、駄目よ!確かに神様と人が夫婦になったという神話はいくつもあるけれど!その……だ、駄目よ!私そんなつもりで物質界に来た訳じゃないからぁ!」

 

 駄目駄目言う割には、英雄王と夫婦になることに関して、彼女は嫌と言わない辺り。

 まったく意識してない男性と、週に何度も菓子作りなんかしないはずですし。

 トラムも天界のある都市を納める王として、英雄王の王としてのありかたに、憧れを抱いているのか。どこか英雄王を見つめる視線に熱があるのを感じました。

 英雄王が本気で求婚したらトラムは、ひと悶着こそありそうですが承諾しそうです。

 

 トゥアンは噂を聞くと平然と。

 

 「なるようになるだろ」

 

 そう言い普段と変わらない態度をしていましたが……この噂を聞いた以降。いかにトゥアンでも意識してしまったのか。トゥアンが執務室を訪ねる頻度が一時的に減り。たまたま二人が執務室にいる場面に出くわした所。英雄王は別段近づいた訳でもないのに、頬を赤くしながら近いと叫び。それなら離れたら離れたで、不機嫌そうにむすっとした顔を浮かべたりと。普段の彼女らしくない。女の子らしいというべきか、あれが素のトゥアンの振る舞いなのか。

 そういった行動が増えました。

 トゥアン様も色恋を思い出す時が来たのですねと、トゥアンの国の頃からの付き合いの兵士もひそかに喜んでいる様子でした。

 

 第一、第二候補の二人もなんだかんだで。

 英雄王を男性として意識してるんだなぁっと思っていると。

 

 「私は花嫁修業とかばっちりですからねぇ、超優良物件ですよぉ」

 

 ない胸を張りながら、普段とあんまり変わらないアンブローズがいて。

 

 「アージェがもし王妃になったら。一先ず世継ぎに困りますね。トラムの相談が必要になるとアージェは考えます」

 

 心配の方向性がすで先を行ってるアージェもいる。

 

 「私が英雄王の花嫁ですか?……わぁ……」

 

 花嫁姿の自身の姿を思い浮かべのか、英雄王との結婚生活を思い浮かべたのか。

 サナラが、キャーと両手で赤くなった頬を隠し。

 そんなサナラを私はギュッと抱き寄せる。

 

 あぁサナラ……純粋過ぎるのも考えものだなと思っていましたが。どうかこれからも、純粋な貴方でいてほしい。そんな風に考えていると、サナラは私に問い返します。

 

 「ソラスちゃんが英雄王に妃になってと言われたらどうしますか?」

 「……さぁどうでしょう?」

 

 サナラの問い掛けに、私はより一層サナラをギュッと抱き締めました。

 ……恥ずかしくて赤くなった顔なんてあの人以外には、見られたくなかったからです。

 

 サナラの問い掛けにはそうですね。

 ……花束を持った彼が、情熱的だとか演劇的とかそういったものがなく。

 ただ一言。強く大切に心を込めて。

 

 「私の妃になってくれ」

 

 そう、言ってくれたなら。私は喜んで受け入れるでしょう。

 

 なーんて!……まぁはっきり言うと。

 英傑の中でと括るなら、私が選ばれるだろうと思ってました。

 なんなら全員恋敵とすら見ていません。

 

 だって、あの日。英雄王私にキスしようとしたじゃないですか!

 あれもう実質好きって言ってるようなものでしょう!?

 

 あぁいった雰囲気やシチュエーションが他の子にもなったとは、普段の彼女達と英雄王のやりとりを見てると、思えないですし、たぶんないでしょう。きっと。

 

 だから私は、英雄王が二人きりになる時を。

 彼のお嫁さんになったらどうイチャイチャしてやろうかと考えながら。

 今か今かと待っていました。

 そして噂から数日後。

 

 

 

 ……………………あれ?

 

 

 

 「彼女を私の妃として迎えることにした。皆よろしく頼む」

 

 英雄王に呼びされ、集まった謁見の間にて、私達英傑達は。

 その言葉を聞き、目が点になりました。

 

 「は、初めまして英傑の皆さん!」

 

 ドレスに着慣れていない為か、ぎこちない所作で挨拶をする。

 まったく、一度として英雄王と二人でいた場面を見た事のない。

 明るい茶髪の女性が、英雄王の妃。王妃なる女性と紹介されました。

 

 「か、彼女は一体?」

 

 震える声で問い掛ける影の射手。

 情報戦の玄人である彼女ですら、認知していなかった存在を。

 

 「あぁそいつが例の……」

 

 唯一アトナテスだけは、王妃となる女性の存在を予め知っていたようです。

 

 

 

 英雄王の妃。王妃様。

 物質界中。それどころか魔界、天界にまでその名を千年先にまで語り継がれる英雄王。

 その妃。

 

 あまりにも大きな肩書きであるはずなのに。

 どうして王妃の話が、まったく語り継がれていないか。

 不思議に思ったことはありませんか、王子君?

 

 うんうん。気になりますよね。

 と言っても話は単純で。

 ……王妃様が、英雄王の王妃であられた時間は。

 

 二年。あったかどうか……。

 

 …………。

 でも、王妃様はたしかにいました。

 例え英雄王のように、英雄譚が残されていなくたって、確かにいたのです。

 だって……。

 王子君が、今ここにいる。

 

 これ以上、王妃様がいたという証拠はないでしょう?

 

 

 

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