千年前戦争アイギス 占星術師の昔話   作:青き男

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エピソード2-2 始まりの英傑ソラス

 「まだ、魔物がいる。もう少ししたら団員が来るはずだ。安心して休んでてくれ」

 

 アルト。

 そう名乗った彼は、ふたたびザッと走り出すと、そのまま私が逃げてきた方へ。

 魔物を一人で倒しきるつもりなのだろうか。私が止める間もなく、私は見送るしかなかった。

 そして、彼が言った通り。武装した人々がやってきた。

 

 「生存者か!?団長の直感はいつもながら恐ろしいな。君大丈夫か」

 

 大人もいれば、子供もいる。男性がいれば女性も、ただ皆一緒だったのは、彼を必死になって追ったのか息を切らしている。

 私は未だに現状把握が出来ていないまま、はい。と返すと。

 あれよあれよと保護され、そのまま蹲った。脳裏に何度も、両親が殺されるその瞬間。

 お母様の作りかけのお守りを、踏みにじるデーモンの姿が思い浮かべてしまう。

 何も、考えたくなかった。空気と一緒になって消えてしまいたかった。

 

 数時間後、魔物の返り血に濡れた彼が、何人かの生存者を連れて帰ってきた。

 見知った顔がいたが、全員目が死んでいた。

 私はどんな目をしていているだろうか。きっと、目の周りは腫れているのは間違いない。

 

 「すまない。彼らしか助けることが出来なかった」

 「どうしてもっと早く来てくれなかった!?」

 

 理不尽な言葉をぶつけられながらも、怒ることなく項垂れる彼の手は、硬く握られていた。

 本当に、心の底から悔しさと、悲しさを。縁もゆかりもない私達に、不思議なまでに、感じてくれていることが何となく分かった。

 そう思うと、ただ言う気力がないだけだったかもしれないが、彼を責め立てようなんて私は思わなかった。

 ただやり場のない悲しみを、涙として流すことしかできなかった。

 

 そしてその日の内に、犠牲となった者達を一つに纏めると、洗い埋める。

 その中に、私の両親を見かけ、私はまたわんわんと泣いた。

 同情の視線と、埋める土の重さが。

 私は一人になってしまったことを、嫌というほど突き付けた。

 

 

 

 「君達に二つ選択肢がある」

 

 翌日、生き残った者達に彼はそう言い。私はずっと縮こまっていたかったが、顔を上げる。

 その彼が言う君達の中に、私も含まれているからだ。

 

 「一つは、中央の強国の難民となること」

 

 世界は今、大体五つの大国と、雑多な小国とで、争ったり争わなかったりしている中ではあるが。

 その中で、もっとも平和とされているのが『中央の強国』だ。

 そこでは三か月から突如湧いた。魔物達の脅威を重く見た王により、国を問わず。私達のように魔物を襲われ、故郷を失った者を保護しているらしく。そこで、難民として過ごす。最低限の生活しか保証はされないが、強国と呼ばれるだけの軍事力によって、守られるらしい。

 今までと同じようにとはいかないが、生きてはいける。らしい。

 全部らしいなのは、ここにいる生き残った私達以外は、もう一つの選択をした人達しかいないからだ。

 そしてもう一つとは。

 

 「俺達。『赤の団』と一緒にこないか?」

 

 赤の団。その行動理念は一つ。

 魔物という脅威に対して、ありとあらゆる人達に、区別なく手を差し伸べ救済する事。

 それだけだ。私達を助けたのも、魔物に襲われていたからだ。

 ただ、それだけだ。

 

 まるで、正義の味方団だ。どんなお人好し団だ。

 私以外の生き残った者達は、そんな感想を抱いたのだろうか、生気を失っている顔に付いた目は冷たい。

 彼の言う救済には、決して魔物との戦いとは切り離せない。再び戦いに身を投じるのが、皆怖いのだろう。

 私も、怖い。

 今再び、魔物に囲まれたらきっと、私は何もできない。

 また無様に、恐怖で震えたまま。今度こそ、殺されるだけだろう。

 

 けれど私には、真剣に皆救って見せると、語る彼の。その、巨星のような輝きに惹かれた。

 怖さはある。戦う術なんて私にはない。

 けど、彼に付いていきたい。彼のように、誰かを助けたい。

 私は、お母様の遺言でもなく、星が導いたのではなく。私の心のままに叫ぶ。

 

 「付いていきます。私は赤の団になります!」

 

 そう言った私に、彼はこくりと頷く。

 

 「名前は?」

 「ソラスです」

 「ソラス。今から君は赤の団だ」

 

 そして、その日。私は、赤の団団員ソラスになった。

 

 

 

 赤の団に、非戦闘員なるものは存在しない。

 魔物は突然湧いて出てくる。魔物は降伏をしない。そして魔物に慈悲はない。

 いざという時に、もとはただの主婦だった女性も、剣を持つ。私よりも小さい子供でも、弓を持つ。

 

 そして私は剣を持った。

 駄目だった。剣の才は私にはなかった。ぶんぶんと振っただけで、ぜぇぜぇと荒い息を吐く。ダガーのような小さい短剣を使ってみたが、これでは倒せてせいぜいゴブリン、デーモンを倒すなんて夢のまた夢だ。

 

 そして私は弓を持った。

 駄目だった。弓の才は私にはなかった。狙った所に当たらない。何度か矢を放つだけで、手がプルプルと震える。

 彼、赤の団団長であるアルト君は、弓の才までもあるようで、矢に魔法を纏わせることも、一流の弓手がようやく可能とする、三連射すらもやってのけた。ただ剣の方が圧倒的に強いというだけで、剣を握ってるだけのようだ。

 そして、その剣を握り始めたのは、魔物が出現してから。

 つまりたった三か月で、デーモンを屠るだけの剣技を身に着けたということになる。

 たった三か月で魔術を覚え、戦う術を身に着けたという。

 まさに、天才だ。

 

 ……ますます自信を無くす。

 剣も弓も使えない私に、他の団員達の目は、冷たくはないが。暗に大丈夫か、と言っている。

 私が戦場に出た所で、役に立たないとも、すぐに死ぬとも伝えている。

 

 大丈夫お姉ちゃんと、落ち込む私に小さな子供が声をかけてきた。

 その背あるのは弓。

 そうか、私よりも小さな子供が、その弓で魔物と戦えるのか。

 私とは違って。

 心が折れそうだ。

 

 朝から晩まで、魔物が出たという村への移動中、その合間の時間全てを使って、私は必死にダガーを振る。

 けど、一晩振り続けてみても、上達しているような気配はしない。

 私自身が、私の居場所はここ(赤の団)じゃないと言っているみたいだ。

 目に涙が浮かぶ。こういった時、決まってお父様やお母様が、慰めてくれた。

 けどもう、そのお父様もお母様もいない。

 

 涙が落ちた。悔しかった。悲しかったし、情けなかった。

 うじうじしても、泣いても何も変わらないのは分ってるけど、涙が止まらない。

 どうしたらいいか、分からなかった。

 

 「どうしたんだい?」

 

 人を安心させるような、魔法でもあるかと思うような声に、私は顔を上げる。

 案の定、団長がいた。思えば、私は団長には、泣いた顔しか見られてないように思える。

 ぐしぐしと袖で顔を拭ってみるが、涙は止まらなかった。

 情けなさや恥ずかしさやらで、膝を抱いて蹲る私の隣に、団長はそっと隣に腰掛ける。

 

 僅か数時間で分かったことだが、赤の団は団長ありきだ。

 こと戦闘において、団長と比類する者がなく。団を維持する上での、事務的なことまで団長一人がほぼ処理して。

 赤の団が救助した魔物の被害者を、中央の強国の難民として、受け入れさせる話を取り付けたのも。

 団長が王に、直談判もとい殴り込みをかけ、その気概を王が気に入った結果という。

 

 団長は多忙で、一番休める時に、休みを取らないといけない立場である。

 そんな団長が、新参で無才な私に、気に掛ける暇はないはずだ。

 けれども、団長は私の言葉を静かに待っていてくれた。

 

 優しいなぁ。あまりにも優しすぎて、やはり涙が落ちる。

 だから、落ちる涙に私は心中を乗せる。

 

 「私には剣と弓の才能がありません。そんな私がここにいてもいいんでしょうか?」

 「まだ剣を握って二日じゃないか。焦る必要はないんじゃないかな」

 

 微笑む団長を見ると、心がキュッと締め付けられる。

 何故か父性を感じさせるその佇まいに甘え。

 

 「でも、私がいたら、きっと戦場では足手まといになります!」

 

 つい、顔を上げて、声を荒げてしまった。

 嫌われただろうか。

 そして、足手まといと分かっているならば、さっさと中央の強国に向かえばいいのに。

 引き留めてほしいと、身勝手な思いを抱いてしまう。

 

 「…………」

 

 団長は静かに、一人の女性に指差す。

 私もそれに釣られて視線を向けると、給仕をしている女性がいた。

 その腰にあるのは剣。

 

 「彼女。フーリアというが、剣の腕は他の皆より少し劣る。でも作ってくれるご飯は美味い」

 

 続いて団長は別の子供に、指を指す。

 その子は見覚えがあった。私に声をかけた子供だ。

 名前は……聞いていなかったな。そんな余裕すらなかった。

 

 「あの子。リルは弓を持っているが、的に当てたことは実はないんだ。でも、魔物のせいで両親を亡くしたのに、あの子はよく笑い。皆を気遣ってくれている。とても強い子だ」

 

 あの子も、両親を亡くしたのか。私のように魔物のせいで。

 でも、団長の言った通り。リルは笑みを絶やさず、他の団員と会話をしている。

 無茶をしているという感じもなく、周囲もそんなリルを可愛がっている。

 ムードメーカーというものだろう。

 

 「ここにいる皆が、剣や弓が上手という訳ではない。全員が戦えるという訳ではない。けど、皆にいい所がある」

 

 誇らしく語る団長に、私は困惑する。

 団長は本当に、私より一つ二つ年が上の少年なのだろうか。

 仮に私が、一つ二つ年を重ねても、その領域には、何年経ってもたどり着けない気がする。

 

 「ソラス。君も、君に出来る事を見つけて、それをやっていけばいい。大丈夫、俺は決して君を見捨てたりはしない」

 

 微笑み浮かべ立ち去る団長。その後ろ姿を見ながら、また私の心がキュッと締め付けられる。

 けど、この心の痛みは決して嫌なものではない。

 たぶん、尊敬。だろうか。

 この人の役に立ちたい。うん、そんな感情が広がる。

 

 私は空を見上げる。そこには輝く星々が私を見下ろしている。

 思えば、空を見たのは数日ぶりだ。両親が死んでから、ずっと下を向いてばかりだった気がする。

 スッと流れる星を見て。

 

 「あ」

 

 我ながらとことん呆けた声が出た。

 この数日、一体何をしていたんだ、私は。

 私は占星術師だ。少し先のことが分かるし、やろうと思えば魔物に星を落とせる。

 赤の団には、私のような占星術師は他にいない。

 私には、私の出来ることがあったんだ。

 

 私は普段以上に真剣に、全ての神経を注いで星を詠む。

 ここがきっと、私の分岐点に違いない。

 星よ、どうか私を導いて。

 

 星の流れが変わる。

 

 『巨星、岐路に立つ。右に向かうな。先はない。左へ行け』

 

 いつ、どこで、みたいな詳しいことは分からない。

 でも私の声、祈りが星に通じた。

 星がそう、私を導く。

 巨星が意味する者は、今の私にはそれは一つしかない。

 ……ところで、お母様が言った巨星はもう一つあるはずだが、それ誰だろうか。

 

 

 

 翌日、魔物が出たという村の近くに来た赤の団。

 皆、顔に戦闘前による緊張が走っていた。

 私も緊張で、頭が白くなりそうだったが、昨日の星の導きは忘れていなかった。

 順調な行軍だった赤の団、そこに岐路が待ち構える。

 

 どちらも、目的地には繋がっているとは事前の説明で聞いた。

 右は山道で、足場が悪いが近道だ。そして、左は森がある迂回路というだけだ。

 ただ、魔物が出た村を助けに行く。その点を考えれば、やはり近道を通るべきだろう。魔物は待ってくれないのだから。

 

 だが、私は確証していた。

 ここが、星の導きで示した岐路に違いないと。

 団長が右へ、山道へ行こうとするの見て。

 

 「団長!左へ!左の道から行きましょう!右の道はダメです!」

 

 そう声を上げた途端、周囲の視線が刺さる。

 突然何言ってんだこいつ。そんな声が聞こえた気がした。

 

 怖い。

 

 何でもないと、言ってごかしてしまいたくなる。

 

 「山道で、足場が悪いがそっちの方が近道だ。もたもたしてると、魔物が村を滅ぼしてしまう」

 

 私にそう言った男性、ケリーの言うのはもっともな意見だ。だから最初から右の道へ行こうとしていた。

 道を決めた団長は、何も間違えていない、賛同した団員達も間違えていない。

 

 「それとも、何か駄目な理由があるのか?この辺の土地に明るいのか?」

 

 明るい訳がない、故郷から出たのは魔物が出たあの日が初めてだ。

 

 「私は占星術師です。私には星の導きが聞こえます。星は告げました、岐路を右へ行かず。左へ行け、と。それが理由です」

 「……話にならねぇな」

 

 占星術は理解を得にくい。お母様がよく言っていた。

 そして、事の次第によっては、害に思われ。排される事もあると。

 けど、挫ける訳にはいかない。

 占星術は、剣を持っても、弓を持っても駄目。

 料理も、ムードメーカーにもなれない私が。私が、赤の団にいられる唯一の武器だ。

 ここで引いたら、今度こそ私は無才の、何も役に立たない少女になる。

 

 さっさと行こうぜ、そんな空気が場を支配するが。誰も足を動かさない。

 何故なら、団長の足が止まっているからだ。

 

 赤の団の全てを決定する者、それが団長だ。

 どれだけ多数が、私に賛同しなくても、団長が私を賛同すれば、それは赤の団の決定になる。

 私は、団長の前に立つ。背丈はそう変わらないのに、何故か遥か高く、団長を見上げてるような気分になる。

 団長が持つ気迫が、そんな気分にさせるのだろう。

 そして、私は小人。小人らしい小さな声で、でもはっきりと巨人に主張する。

 

 「信じて……ください」

 

 巨人。団長は私を、前髪で隠れている目で、じっと見つめてくる。

 優しい目を持つ団長が放つ。無言の圧力に、じわりと涙が零れそうになる。

 けど泣かない。

 

 ここで泣いてしまえば、それは卑しい泣き落としだ。

 無様に泣いて、信じてなんて叫ぶような占星術師を、誰が信じられるというのか。

 堂々としろ、胸を張れ。

 私は詐欺師じゃない、占星術師。

 占星術師として、役に立って見せるんだ。

 

 永遠と思えるような沈黙。

 私は団長を、団長は私を見続け。

 やがて、団長の顔が、こくりと頷くように動いた。

 

 「……ソラスを信じよう。皆左の道を行くぞ!」

 

 団長の声に周囲が騒めく。

 信じるんですかと、信じられないと声がいくつも上がる。

 私も、信じられて嬉しいと思うと同時に、信じられるとは、なんて気持ちが微かにあった。

 つい先ほど、占星術を信じられないと否定されたばかりだからだ。

 けれども団長は、そんな人たちに呆気らかんに言ってのける。

 

 「じゃ、右行っても、変わらない速さでたどり着けばいいんだな。行こう!」

 

 そして団長は走り出す。もはや誰が待ったと言っても遅い。

 団長は力が強ければ、足も速いようだ。

 私達は必死で走り、団長を追いかける。

 どうにもこれ以前から、団長が先を行く。みんなで追いかける。たどり着いた時には皆で息を切らす。という図式が出来上がっていたようだ。

 ただ、団長は決して最後尾の人が、はぐれない程度の配慮は常にしていた。

 

 

 

 道中何事もなく、山道を通った道の予定時間よりも、少々遅れて村に到着した。

 魔物はいた。

 

 村に侵入しようとした魔物見ると即座に、団長が魔物に剣を振るう、その度に魔物が倒れ伏す。

 私達、いらないじゃないのか。そう思う程の激しく、雄々しい戦いぶりだった。

 けど、それは私が戦わない理由にはならない。

 

 これが私の初陣、剣も弓も私は持たない。

 代わりに持つ武器は、占星術だ。

 

 「星よ、我が声に耳を傾けたまえ!」

 

 詠唱と共に、昨夜の内に作っておいた、簡素な杖に魔力を込める。

 星天召喚の儀。

 時間をかければかける程、本来は威力と攻撃対象が増すが。

 今の私では、せいぜい一体に、星を一度振らせるくらいしかできない。

 

 そして、その間私は無防備だ。

 標的にしたゴブリンが来る。手に持つ棍棒で、私を殴ろうとしてくる。

 殴られた時のイメージをすると、怖い。

 頭が白くなっていく。杖に魔力を込めないといけないのに、うまくいかない。

 呼吸すらも、うまくできない。あぁ魔物だ。両親を殺された時の情景が思い出してしまう。

 怖い、怖い。

 

 「ッ!」

 

 思わず、私は両手で頭を庇うが。

 棍棒は、私に届かない。

 ゴブリンの両足に、いつだかのように氷柱が生えていた。

 

 「うぉおおおお!」

 

 その氷柱を出した人物、団長はサイクロプス二体を、同時に相手をしながら戦っていた。

 二体のサイクロプスが繰り出す、槌の猛攻を寸での所で躱し、あるいは剣で受け流すと、次々と剣でサイクロプスの堅い皮膚を斬り裂いていく。

 だと言うのに、私だけでなく周囲の団員達に時折、魔法を飛ばして援護している。

 傷付いた者がいれば、即座に回復魔法をかけている。

 一人で普通の軍隊の何人分の役割を、団長は熟しているのだろうか。

 思わず、その凄まじさに身震いして、力が抜けてしまう感覚がした。

 

 けど、もう震えるだけなのは嫌。

 無力なままでいるのも。

 誰かが魔物で傷付くのも。

 全部嫌だ。

 私だって、戦いたい。

 

 「星よ、その力を見せつけよ!アストロノヴァ!」

 

 私の魔力に呼応して、空から力が下りてくるのを感じる。

 それは、地上に近づくに連れて、加速し、燃える砲丸となり。

 ゴブリンの脳天にぶつかると、小さな爆発が起き、断末魔を上げたゴブリンは崩れ落ち、塵となる。

 

 「や、やった!」

 

 初めて、魔物を。あの魔物を倒した。

 そう思うと、達成感と高揚感が私の体を包む。

 次だ。私は杖に魔力を込めて、星天召喚の儀を行おうとするが。

 

 「もう大丈夫だ。俺達の勝利だ」

 

 いつの間にやら、魔物を全滅させていたようだ。

 返り血で濡れた団長は、勝利宣言していた。

 

 「もう魔物はいないんですか?」

 「あぁ、いないよ」

 

 魔物がどこから出てきて、何体いるかなんて、すぐに分かるものなのか。

 キョロキョロと視線を動かすが、団長の言った通り。

 魔物はいなかった。

 勝ったという実感は、たかだか魔物一体しか倒せなかった私が噛みしめるには、まだ早い気がするが。

 高ぶる気持ちがずっと、体に残り続けた。

 

 

 

 魔物に襲われた村は、想像以上に被害は少なかったようだ。

 私のように、気が付いた時には何から何まで手遅れではなく、ほとんどの住人は村の教会に避難して。

 村に駐屯していた兵士と、幾人かの大人達が奮戦し、命を賭して、魔物を食い止めていたらしい。

 殴殺されたのか、痣だらけの死体。体半ば食われ絶命した死体、斬り裂かれた死体。

 団長は、見るも無残な遺体を前に、悲しみの表情を浮かべていていた。

 

 助けることが出来なかった。

 半開きのままだった兵士の目を、閉じさせながら団長はそう言う。

 村の被害は、軽微と言っていい。一応赤の団の後詰めとして、中央の強国軍がいて。彼らも村を守る為に移動していたが、私達が間に合わなかったら、今よりもっと酷い惨状の村と対面していたことだろう。

 

 団長は黙祷し、魔物によって失われた命、一人一人に対して、慈しみをもって洗い。

 村の住人達と共に、埋葬していく。

 私もそれに手伝っていると。

 

 「山道を通っていれば、もっと被害が少なくできたのでは。団長」

 「こいつが余計なことを言わなければ、彼らは生きていたかもしれないんだぞ!」

 

 ケリーを始め、幾人からそんな声が聞こえ。同時に、周囲の村人から、特にこの戦いによって犠牲になった者の親族から、憎悪に似た視線が突き刺さる。途端に、手に持つスコップの土の重さが増した気がした。

 けど、私には今それらを気にする余裕はなかった。

 土の重さが私に訴える。この人達の死は、私が起こした行動の結果と。

 

 私は、私が赤の団に居続ける為に、占星術を使い。団長に進言した。

 そして、進言を受け入れた団長の選択によって、もし右の山道へ行った場合、助かったかもしれない人達を。

 私が、見捨てたのか。

 

 「お前のせいだ」

 

 そんな声が、地中から聞こえた気がした。

 氷のように冷たい手で、足首を掴まれ、引きずりこまれそうになり。

 先ほど見た死体達の目が見開かれ、視線が合う。

 

 幻覚であり、幻聴だ。

 気にしてはいけない。気にしたら、もう二度と私は口が開かない。

 何一つ、言葉を話すことが出来ない。

 確信すら抱く、棘だらけの罪悪感が心に深く突き刺さる。

 

 「止めろ」

 

 けれどその声に、私は再び救われる。

 

 「ソラスを信じたのは俺だ。進路を決めたのも俺だ。責任があるのならば、それは俺だ。彼女に非はない」

 

 悪くない。そう言われただけで、罪悪感は残るものの、棘は幾分か丸くなる。

 見捨てはしないと言い、それを実現し続ける団長に、崇拝にも似た感情が、私に沸き上がるのを自覚した。

 心がトクンと、音を鳴らした。

 

 

 

 この時から、私の忠心は赤の団ではなく、団長。

 やがて英雄王になる男にのみ、忠誠を誓い続けることになったと思います。

 その男の死後、そして千年後の巨星を見出すまで。

 

 

 

 

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