千年前戦争アイギス 占星術師の昔話   作:青き男

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おまたせ


E27 千年戦争の終結

 決戦の時は近い。そう英傑達に英雄王が私に告げた。

 その日を境に魔神と天使達の侵攻がぴたりと止まり。代わりのように、物質界全体に魔界の瘴気に似た。重く暗い空気が物質界に漂う。

 その空気を感じた誰もが英雄王の下へ。

 これから、何が起きるのかと尋ねにやってきた。

 

 「アイギス様からの神託だ。魔王と決着をつける時が来た。皆その時が来るまで体を休ませるように」

 

 それに対して英雄王は包み隠さず、決戦が近いと宣言した。

 建国以前の物質界ならば、恐慌状態になったに違いない。

 けれども、希望に満ちた表情を浮かべる人々は寧ろ奮い立ち。

 人から人へと、魔王との決戦が近いという。英雄王の宣言があっという間に物質界中に広まった。

 

 隠して混乱を招くよりは良い。

 というのが英雄王の考えであり、また魔王との決戦を前にして。全員が全員奮い立てるという訳でもない為。不安を感じた民達の為にも、王城への扉を開き。匿おうというのも、英雄王の考えだった。

 

 やがて、避難する人の流れが落ち着き。

 戦場へと挑むある者は、戦意を高揚させ。ある者は悔いはないかと振り返り。

 そう多くはない時が流れ。

 時は来た。

 

 北方と南方、ほぼ同時に魔界の深淵の瘴気を纏うゲートの出現。その報を聞き、英雄王は出兵を決意しました。

 魔王との決戦とならば、ぜひにと、戦士達ほぼ全員が英雄王に出陣を申し出て。

 英雄王はそれを受諾しましたが。

 戦闘を前にして、その大胆な采配には皆口をぽかんと開いて驚きます。

 

 英雄王は王国軍を二分させました。と言葉にしてしまえば簡単ですが、問題は人数です。

 北へ向かうのは、英雄王率いる私達英傑と多少の人員からなる少隊。

 南へ向かうのは、英傑の中からトラムを総司令官、補佐にアージェをつけた。その他全ての人員からなる総軍。

 人数だけで言えば、差は圧倒的。

 最強の剣士たる英雄王と、欠員がいるとはいえ。英傑と呼ばれる者達からなる少数精鋭。と聞こえはいいかもしれませんが。

 北か南。どちらかから魔王が出現することを思えば、普通なら半数きっちり分けるべきでしょう。

 

 しかし、元より英雄王が戦場に立てば、『英雄王の威光』の前に、英傑以外の人達はそう長い時間戦場に立つことなく。戦闘離脱を余儀なくされてしまいます。

 英傑以外はこの英雄王の威光を克服できなかった以上。この采配は致し方ない所もあったのかもしれません。

 

 「トラム、君に勝利を」

 「英雄王に、銀腕の加護を」

 

 出立前、互いに鼓舞するトラムに英雄王。

 決戦前の極めて真剣な場だと言うのに、堅苦しいのを好まない男がいる。

 

 「大隊率いることになったからって、緊張するなよ。甘味処の亜神よ」

 「もう!一回くらい食べて見たかったからいいじゃない!」

 

 先日悔いが残らないよう。お忍びで甘味処に向かい。あんみつを堪能していたトラム。しかし運悪く、目撃者がいたようで。アトナテスに揶揄され。トラムは顔を赤くしながら怒り、話を聞いたサナラやアンブローズが、今度は一緒に食べに行こうと騒ぐ。いつも通りの賑やかさに、場が和む。

 

 「マスター」

 

 その一方で、アージェは英雄王の前に立ち。

 

 「叶う事なら。アージェはマスターとこの決戦を挑みたかったです」

 「すまないアージェ。私の代わりにトラムを支えてあげてほしい」

 「了解です」

 

 そして、アージェは高い頭を少し下げ。

 英雄王はそっとアージェの頭を撫でる。

 ごく自然に、まるで親子のように二人は振る舞い。

 幾人かが、その光景を羨ましそうに眺めていたものの。引き締めた表情を浮かべる決戦の前に、さすがに自重をしたようだ。

 

 「さぁ行こう皆。行って、帰ってこよう」

 

 英雄王の言葉に、英傑達は頷き。出立する英雄王の背を追い始める。

 

 (皆、ですか……)

 

 仲間を大切に思うが故に、英雄王はそうを言ったはず。

 なのに、私はどこか一抹の不安を感じた。

 英雄王にとって、皆とは。一体誰までを含めているのかと。

 

 ……いけない。この頃ずっとこんな調子だ。

 迷いを振り払うように頭を振り、私は英雄王の傍まで走り寄る。

 せめて、何があっても傍にいられるように。

 

 

 

 北の地へ進むにつれて増していく、瘴気による重苦しい空気。

 間違えるはずもない。これは魔王が放っていた瘴気。

 その場にいたアトナテスとサナラに目配せすると、二人も私と同じ意見だったらしく視線で頷き返す。

 そして、英雄王が……間違えるはずもなかった。

 

 「…………」

 

 英雄王が静止の合図一つで進軍が止まり。

 そのまま各々手筈通りの配置に付くと同時に。

 待っていたかのように。私達を囲うようにゲートが一斉に現れる。

 

 囲まれた。

 ですがこうなることは、英雄王の予想通り。

 この戦いは英雄王か魔王か。

 どちらが千年戦争を勝利するかという戦いである以上。英雄王は最初から撤退する気はなかった。

 

 「やはり来たか、人の子の王よ」

 

 数体の魔神と無数の魔物を引き連れ、四つの黒い翼を羽ばたかせながら、魔王ガリウスが決戦の地に降臨し。まるで全てが興味ないとでも言いたげな、何も通さないガラスの冷たき目で私達を一瞥し。

 唯一、英雄王のみをその瞳に映す。

 

 「人の子でありながら。予の配下と神獣共を退き。予を戦場に引き出した褒美にお前に、一つ問う」

 

 今更なにを。そんな思いを抱きながらも、全員がガリウスの言葉待つ。

 

 「予の配下にならぬか?」

 

 今更なにを!!

 衝動のまま突き動かしそうになる体を、私は必死に引き留める。

 今言葉に対して、真っ先に一太刀を加えてもよいはずの人物が。

 長い前髪の奥にある瞳を閉じたまま、動いていなかったから。

 

 「…………」

 

 もしや、ガリウスの言葉に揺れている。なんてことはない。

 英雄王の手は、アイギスの神剣を握られたまま。静かに闘志を燃やしている。

 けれど、ガリウスはその沈黙を英雄王の迷いと捉えた。

 

 「その才覚があれば分かるはずだ。人がどれ程愚かであるか。幾度も過ちを繰り返し、悪戯に世を乱し、都合の良い希望に縋り付く……」

 「…………」

 「人の子の王よ。お前は自らが望んで希望に。『英雄王』になったのか?」

 

 私がやらないと皆が!

 一瞬、英雄王になる前に彼が言った言葉が過る。

 

 「予の配下となれば。お前とお前の信じる者達の、永遠の平穏を約束しよう」

 「…………」

 

 けれど大丈夫。英雄王は引き抜いた剣先を。

 

 「ガリウス。確かに人は過ちを繰り返す。過ちの果て……王国が生まれる前。一度人は滅びかけた。今を生きる私達が全員が背負うべき罪だ」

 

 そのままガリウスへと向ける。

 

 「けれど間違いを認め、正す力もまた人にはある。お前の理屈は、数多の悲劇を生み出し。私の仲間を傷つけていい理由にはならない!全軍!戦闘開始!」

 

 号令と共に駆け出し始めた英雄王を契機に、戦闘が始まった。

 

 「なるほど。だが……英雄王。お前の言う間違いを正す力とやらは……人ではなくお前にのみあるのだぞ」

 

 ガリウスの言葉は英雄王が放つ火球により、掻き消された。

 

 

 

 雪が降り積もる大地に、爆炎を巻き上げる。

 アトナテスと紫竜が放つウルティメイトフレア。

 魔神達が持つ、強固な四肢を引き裂く。

 トゥアンの剛腕の衝撃。

 星々の囁きを紡ぎ、持ちうる全てを放つ。

 私のアストロバースト。

 サナラの地脈を束ねる力による、地の星の加護を受け。

 威力を引き上げられた技をもってしても。

 

 「…………」

 

 涼やかな顔をし、ギロリと睨むガリウスの凍れる視線を受け。否応にも。私達の背中に嫌な汗が流れる。

 まさか、まったく効いていないなんて……!。

 回避されたとか、防御したとかならばともかく。ガリウスは私達の攻撃を全て受け、尚且つ無傷だった。

 ダメージを受ける直前に、何らかの力で障壁を張って。私達の攻撃を拒絶していた。私達の実力では、魔王の敵にすら値しないとでも言いたげに。

 

 「……っ!」

 

 しかし、英雄王だけは違った。

 アンブローズの魔導陣ブルームペタル。ローズイラプションの爆撃で、動きを止めた魔神と眷属達の合間を潜り抜け。

 道を阻む雑多な魔物達を影の射手が放つ、ペインショットで道を切り開き。

 

 女神アイギスより授けられし、アイギスの神剣を持って放つ。

 物質界最強の剣士たる英雄王が放つ斬撃。

 その斬撃のみが唯一、あらゆる攻撃を拒絶するガリウスの障壁を。文字通り空間を引き裂くほどの力より引き裂き、ガリウスの体に届いた。

 

 シャディアの兄の依り代にしたガリウスの体から、魔の血が流れる。

 ガリウスは一瞬目を丸くして、体から流れる物を見て。

 鉄仮面さながらの無表情の、その口端が少しだけ上がった。

 

 英雄王が追撃で放つ炎の魔法を、ガリウスは障壁で弾くと。

 虚空より、黒い大剣を取り出し。英雄王に剣先を向けた。

 

 「魔王にして神たる予に匹敵するか!英雄王!」

 

 そして英雄王とガリウス、一対一の戦いが始まった。

 英雄王が剣を振るうたびに、その衝撃波がトラム達が住まう天界まで届くのかと心配してしまう程、空を裂いた。

 ガリウスが剣を振るうたびに、自らの領地である魔界を破壊してしまうのかと疑うまでに、地を裂いた。

 互いの剣がぶつかりあうたびに、物質界の空間がゲートとはまた違う類の空間のひび割れを出現させていた。

 

 それはさながら神話の再現。

 神と神が一度争いを始めたら、互いの命どころか、周囲全てを破壊するまで終わらないと、いくつかの叙事詩は語ったっていましたが。

 それが事実であると、幾分か認めなければいけないでしょう。

 ですが……。

 

 「英雄王」

 

 思わず、そう心の中で反芻する。

 いくら強いとか、アイギス様の加護を受けただとか、隔絶した存在だと思っていたけれど。それでも英雄王は人。

 人なのだ。決して神ではない。

 それにも関わらず、どうして英雄王はガリウスに届く。

 どうして英雄王だけはガリウスと戦える。

 

 英雄王の邪魔にならないように、また邪魔をされないようにと。魔神と魔物達に戦っている私達と、英雄王との間にある距離は。ただの距離以上の物を、今一度突き付けられているようにも思えた。

 

 そんな歯痒さを私以外も感じているのか、魔神達の戦いが半ば決した頃。英傑達も英雄王と魔王の激戦を、苦虫を噛んだ顔をしながら視線を送っていた。

 加勢するべきだと、思いはするが。二人の戦いに、一切つけ入る余地がなかったのです。

 

 そして決着の時は来た。

 

 「ッ!!」

 

 幾重の剣戟の末。迫りくるガリウスの衝撃波の嵐を英雄王は耐え。

 ガリウスの剣を英雄王が弾き。

 英雄王の一撃が、ガリウスの首を刎ねた。

 

 「オォ……」

 

 切り離されたガリウスの頭からも、驚嘆の声が上がり。

 魔王の体が膝をつき、そして地に伏す。

 その姿を見て。

 

 「やった!」

 

 自然と私の口からそんな声が上がり。

 激戦の疲労から、剣で体を支え。荒い呼吸を繰り返す英雄王と合流する。

 

 「倒したんだよな?」

 

 ほとんど同じタイミングで合流したアトナテスは、まだ実感がないようで。訝し気にガリウスの体を眺めていますが。

 ガリウスの体から、急速に力が失われていくのを感じる。

 そして、死という形とはいえ。魔王の依り代と解放された。シャディアの兄らしき人物の人相に戻っていく。

 

 「勝ったんですよね?英雄王?」

 「あたしも一発くらいは殴りたかった」

 「長くない寿命が縮むかと思いましたよ」

 「あらぁ影の射手ちゃん。それならあたしと一緒に転生しますか?」

 「遠慮しておきます」

 

 めいめいが、戦いの終わりの雰囲気を感じ取り。張り詰めていた緊張がゆるんでいくにつれ。周囲の兵達のみならず英傑達も、どさりと尻もちをついて体を休める。

 

 「ッ!!」

 

 けれど、シャディアの兄の体へ向けて英雄王は剣を振るう。

 

 「英雄王何を!?」

 

 死体が英雄王の剣を受けようものなら、肉塊になるのが自明の理。

 それなのに英雄王は続けざまに、炎の魔法まで放ち。

 火炎が肉塊を包む。

 英雄王の行動の意味することが、私達には理解できなかった。

 

 しかし、あぁしかし。

 この人の行動に無意味などないと、すぐに私は悟る。

 

 ギャッギャッ……ギャギャー!?

 

 炎の魔法により、焼かれるゴブリンの、素っ頓狂な鳴き声がやけに耳に響く。

 

 「皆、あの肉塊に攻撃を叩きこむんだ!」

 

 英雄王の声に、呼応するように私達は再び立ち上がり武器を振るう。

 けれど。肉塊に傷は与えてもすぐさま再生が始まり。

 

 ギャッギャッ。

 グォオオオオ。

 ウォオオオン。

 

 魔物の声が、魔物の産声が一向に収まらない。

 

 「どうなってるんですか。これぇ!?」

 

 血の気が引いた顔で、サナラが声を張り上げる。

 ……無理はない。

 私達は攻撃をしている。

 魔物を殲滅しようとしている。

 けれど、それを上回る速さで魔物が。

 あの、肉塊と化したはずの体から生まれてくる。

 

 「英雄王ちゃん!魔王は倒したことですし、一度撤退を!」

 「駄目だ!あれは無限に魔物を生み続ける。そういう物だ!ここで殲滅しなければすぐに物質界を覆いつくす!」

 「とは言ってもこのままじゃ……」

 

 僅かな間にも魔物は増えていく。視界の端まで魔物の海で満たされたのを見た時。

 空中で魔力の歪みが生じて、固まり。それが形を成しと、黒緑色の幽体のような姿へと変わる。

 

 「人の子の王。英雄王よ」

 

 そして、心の底が冷えるような声が空より聞こえた。

 

 「そんな……」

 

 思わず言葉を零す。間違いなくその声は、つい先ほど英雄王が首を刎ねたガリウスの声。斃したはずの魔王の声だったのだから。

 

 「人の身でありながら、予の首を刎ねたその力。称賛に値する。だが……予を依り代とした肉体に宿った、魔を生む権能を打ち消す術はあるまい」

 「…………」

 

 魔物は倒せる、それの発生源である肉塊にも、私達でもダメージは与えられる。

 けれども、倒しきれない。死によって終わったはずの肉塊が、生と死という枠組みから離れ。ただただ魔物を生み出す災厄を化してしまった。

 

 「予の死により。支配から離れたアレは、無尽蔵に魔を生み出し続け。そして、不本意ではあるが、物質界は魔の重圧に耐えきれず崩壊するであろう……英雄王よ。最初からお前がどう足掻こうとも、人の子の破滅の未来は変わらなかったのだ」

 

 そして災厄を止めるすべはなく。

 ガリウスの言う通り。このままだと魔物達が物質界中に満ち、焦土と化すのはそう遠くない。

 

 「所詮人の子など、神々の掌で踊る矮小なる存在に過ぎぬ」

 

 私達に待つのは破滅だけ……そんなこと……。

 

 「諦めよ、英雄王」

 

 ガリウスの言葉に、英雄王はキッとガリウスを睨みつけるものの。

 これ以上手が……そう、思ったその時。

 

 「いいえ諦めてはなりません。英雄王よ、そして人の子らよ」

 

 暖かな声、女神アイギス様の声が聞こえ。英雄王の体が光ったかと思えば、分離するようにアイギス様が降臨する。

 そして、アイギス様から光が放たれると、ガリウスの幽体は拡散し。神々しき光に魔物達は飲まれ、その発生源だった物も、消滅していく。まるで最初からそこにいなかったかのように。

 

 「私の肉体と力を使い。この穢れを封印します。しかし、それに私の全ての力を使うことになります。魔王の消滅はなりません」

 「神で不死たる魔王は復活すると」

 「…………」

 

 アイギス様は頷いて肯定し。英雄王の剣を握る力が強まった。

 そして英雄王とアイギス様の視線が交差し、少しの沈黙が流れる。

 

 しかし、私はどういう訳か。

 アイギス様の視線が意味する物が、英雄王に未来を後を託すといった暖かなものではなく。

 まるで、英雄王をたしなめるような厳しいもののように、私は感じた。

 

 「英雄王……貴方なら、私の剣を引き抜いた貴方ならば分かるはずです」

 

 どういう……?などという疑問は、最期のように私達を一瞥するアイギス様により妨げられる。

 

 「短い間ですが、貴方の中で過ごした時を私は忘れないでしょう。さようなら、人の子らよ。魔の無き時代、人の子らの再びの繁栄を願っています」

 

 そして、再びアイギス様は光となり消えた。

 暗雲が去り、青い空が広がり、重苦しい瘴気から解放される。

 あぁ……あぁ!今度こそ千年戦争が終わった!

 さっきにはなかった解放感が、改めて実感させた。

 だと言うのに……。

 

 「よもや、予がこうもしてやられるとはな……」

 「なっ!?ガリウス!?しつこいですよ!」

 「いい加減見飽きたぞ」

 

 驚嘆の声を上げるサナラ。武器を構え直すトゥアン。

 私達もまた武器を構えたものの、アイギス様の光を受けた影響か。先ほどよりもガリウスを形成する幽体の姿が、どこか弱弱しい。

 いえ、弱っているのでしょう。ガリウスがゲートを開きました。

 

 空間を引き裂き現れるゲート。

 その向こうにあるのは魔界の風景と、零れ落ちるこの重苦しい感じは。

 

 「魔界の深層行きゲートですねぇあれは」

 

 アンブローズがそう言うなら、間違いないでしょう。

 弱った敵が逃げ道を作ったという事は。

 

 「此度の千年戦争。認めよう。貴様の勝利だ英雄王。だが……予は再び物質界に再臨する。その時にこそ、予が勝利する」

 「てめぇ!物質界を散々ぶっ壊しておきながら逃げる気か!?」

 

 まったくです!

 アトナテスの声にさすがのガリウスも、素直に敗北を認めているためか、鼻笑い一つだけ挙げるものの。そのままゲートの向こう、魔界の深淵へと去っていく。

 

 「さらばだ英雄王。もう二度と会うことはないだろう」

 

 そしてどこまでも、ガリウスには英雄王しか眼中にはなかった。

 ですが、これで魔王の、魔物の脅威は去った。

 やった、勝った!

 もう何度目になるか、ですが今度こそはって奴です!

 

 「ガリウスゥウウウウウウ!!!」

 

 ですが、そんな和やかになっていく雰囲気を引き裂くように、声が響く。

 

 

 

 怒りと、怨嗟に満ちた声。魔王ガリウスでさえ、驚愕の表情を浮かべた声。

 もしその声の主が、魔王を名を呼んでいなければ。

 私はきっと。新たな魔王の産声と勘違いしていたかもしれません。

 

 

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