後詰めである中央の強国が村に到着するまで、赤の団は村に留まることになった。
団長はもう魔物が出ないと言ったが、後詰めに村を託すまでが、今回の目的らしい。
私達のすぐ後ろを行軍中の強国軍は、予定通りなら日没までには到着ようだったが。
日没になっても来なかった。
そして、そのまま二日、私達は村に滞在することになった。
その二日間私は、はっきり言って浮いていた。
団長が私を庇ってくれたことで、表立って非難を上げる声がなくなったが。
だからといって、私と私の占星術の信用が回復する訳でない。
そして、私自身。もう開き直って。
団長のように堂々として、それでいて、さりげなく団長を占星術を使い助ける。
そんなクールなキャラで、赤の団で生きていることにした。
占星術は私の武器。私が出来る事。それを心の支えにして。
まぁ結局。どれだけ気丈にしてても、夜な夜な寂しくて一人、蹲ってばかりいたが。団長は、私の気持ちを察してか、よく気にかけてくれていた。
村の戦闘が終わって二日経った夜。
私と団長は、星を見上げていた。
どういった経緯かと言えば、ただ単に団長に、星を見ないかと誘われたからだ。
年若き男女が、二人で静かに星を眺めるなんて、なんとロマンチックと考えはしたが、不思議とそんな雰囲気にはならなかった。
「占星術というのはどういったものなんだ」
あ、これは説教か何かか。恐る恐る私は、私が知る占星術の知識を全て伝えてみる。
団長は星を眺めたまま、こくこくと頷いて聞いてくれた。
けど、理解してくれただろうかと、不安になる。
先を知らさせることは返って、不興を招くとお母様が言っていた。
「あの星を繋げると蟹みたいに見えるな」
「聞いていたんですか!?」
けど、子供のように。
いや、実際私も団長も、子供と言われるような年齢であるけど。
団長から、そんな言葉が返ってくると思わず、おいおいと突っ込みたくなる。
「あぁ聞いていたよ。先を読み、星を落とすか凄いなぁ」
そう言って褒めてくれた団長は空を見続ける。
私の話を聞き、星を読んでいる。というようには見えない。
本当にただ、星を眺めている。その横顔は、数日で嫌という程理解した団長の力と比較すると、なんだか、とても無邪気だ。
こんな一面もあるんだと、素直に思ってしまった。
「どうして、あの時私を信用してくれたのですか」
ポツリと零した私の言葉に、団長は星を見るのを止めて、私をじっと見る。
その目は止めてほしい。何だかむず痒くなる。
「君が嘘をついているようには、見えなかったからさ」
「それだけですか?」
こくりと団長は頷く。
目を見て、嘘をついてないから信用する。
それだけで、人を信用出来るんて。
「……お人好しですね、団長は」
「よく言われる。最初に団にいた人達は、それが原因で離れてしまったけどな」
そして、団長は赤の団が生まれる経緯を語りだした。
団長も、私と同じだった。
三ヶ月前に湧いた魔物に、両親を殺されたようだ。
嘆き、悲しみ、怒りのままに父が持っていた剣を振るい。
魔物を倒し続け、自分と同じ悲しみを生み出さないように、魔物に襲われた地を知ると、そこへ向かい戦った。
そんな日々を一月していると、団長に近づいて来る者達がいた。
団長が魔物を助け続けたことを聞きつけ、協力をしようとした賛同者、ではない。
その時から、魔物と一人で戦い、勝利する。そんな、団長の持つ力を利用して、自らの益にしようとした人達だ。
一人で戦うよりも、団として活動した方がより多く、人を助けられる。
そんな言葉から始まり、なるほどと団長が思い発足したのが、赤の団だ。
赤の団。当初は、魔物に襲われた村々や都市を助け、団長の許可なく。人助け料なるものを。
まぁ、はっきり言って一方的な用心棒代を、せびろうとした人々がいたが。
団長の足は速い。
彼らが、人々に金品を受け取る話が決着する前に、団長は数日分のパンと水のみ貰い受けると。
さっさと次の地へ動き始めるので、そんなことしてる暇がない。
団長がそんなことを繰り返していると、利用しようとした人達は、団長を切り捨てようとした。
人を助けるなら、中央の強国の王の協力を得た方がいい。
無論。いかに目的が崇高でも、血筋も実績もない人が、王に謁見など叶う訳がない。
団長を王の元へ向かわせ、無駄死にさせるつもりだったのだろう。
だが、そうはならなかった。
団長は単身で、誰一人死傷者を出すことなく、王の前へ立ち。
語る言葉の熱意で、強国の王の信を得た。
こうして、赤の団は中央の強国の後ろ盾を得て。
団長と同じく、魔物から人々を助ける。そんな志を同じくする者達が、集う場になった。
同時に、団長を利用とした者は去った。
彼等は悟ったのだ、団長が手に負える人物ではないと。
それからというもの、団長としては魔物から人を助けるを、変わらず実行してるようだが。
本当の意味での団長の賛同者が増え、団長率いる赤の団の力が広まるにつれて。
人と戦っているわけでもないのに、傭兵団が同業者潰しに来たり。
小国が勢いがある団長に目をつけ、赤の団を取り込もうと、拉致しようとしたみたいだが。
団長は全て返り討ちにし。
傭兵団が魔物に襲われていると聞けば、襲われたことを気にせず助け。
拉致しようとした小国の、僻地にある村が。魔物に襲われていると聞けば、彼らを助けに行った。
魔物から人々を救済し続け、ふと魔物の気配を感じた団長は、私の故郷へとたどり着いた。
それが、私が赤の団に合流するまでの経緯だった。
「凄いですね」
「そうかな」
彼は嬉しそうに微笑むが、スッと険しい表情に変わり。
団長の父が持っていたという、形見の剣を握り締めていた。
「でも、魔物に襲われるなんてことは、あっちゃいけないんだ。あれは……人の死に方じゃない」
団長の言葉に、もう幾度目かになる光景が脳裏に蘇ってしまう。
まだ、しばらく。あの光景に苦しめられるだろうな。
そう思ったが、震えだしそうになった肩に、ポンと温かい手が置かれた。
途端に震えが止まる。
「ソラス。これからも君の力を頼りにさせてもらう」
そう言った団長に、私は。
「えぇ!占星術師のソラスに、ドドンとお任せください!」
なんて、気の利いた返事何て出来ず。
ただ、小さく、いつの間にやら俯いたまま。
「……はい」
としか答える事が出来なかった。
「蟹の星が言っていた。明日はよく晴れそうだ」
団長はそう言いながら去っていく。
星から明日の天気を読んでみる。
快晴とでた。まっさかー。
村の戦いから三日目の朝、快晴。ようやく後詰めの中央の強国軍は来た。
殺気だっていたので、団長が彼らの前に出て、あれこれと説明して。
そして村の現状と、赤の団を見て、彼らは驚きの声が上がる。
何かあったのだろうか。
「村の被害はこれだけか?」
「何があったんですか?」
団長がそう尋ねると、軍を率いていた人が言う。
強国軍は、例の岐路を右の山道を通る道を選び行軍した。けれども、待ち受けていたのは魔物だった。
強国軍はこの時点で、赤の団は全滅した物だと思っていたらしい。
魔物の撃退に成功したが、山道を通った先にあったのは、魔物のせいか土砂崩れで崩壊した道だ。
撤去することも出来るが、そんなことしている内に村が滅びる。
急いで岐路まで戻るのに一日、そして今度は私達が通った道を通り、万が一魔物によって村が占領されていた場合。
夜間での戦闘を避ける為に、村付近で待機して一日。そして、戦闘準備を終え、さぁ戦いだって所で、団長を見たという。
話が進むにつれて、私に視線が集まっていくのが分かる。
これは疑いでも、怒りでもない、驚きだ。
「どうして、山道を通らなかったのだ、赤の団よ」
「赤の団の占星術師ソラスの、星の導きの賜物です。彼女のおかげで、村の者達を助けることが出来ました」
団長の紹介にされ、団員達だけでなく、軍の人達からも視線が集まる。
これは、照れちゃいますね。
頬が少しずつ、上がっていくのが自覚できてしまう。
いけないわソラス。私はクールキャラで生きていくと、決めたじゃない。
頬の力を全力で動かし、口を閉ざしてみるが。
「素晴らしいなソラス殿。貴方の占星術で、これだけの人々を助けることが出来た!我々も改めて礼を言いたい」
その声は大きく、村中に響いた。
すると、その声を聴いた村人達も、昨日のあれこれを忘れて巻き込んでの、てんやわんやだ。
強国軍が、せめてものと、持ち込んでいた食糧が振る舞われ、酒宴が開かれた。
勝利と、犠牲者を引きずらない為の、強国軍の配慮だっただろう。
主役は私だ。
酒はまだ早いから、色々な料理を味わいながら、占星術の簡単な講義をしたりした。
案の定、理解はされてない。けど、私は私なりに、持つ力を使い。根拠があって、団長に進言したということは理解してもらえ。
考えなしに、酷いことを言って悪かった。そうケリーは謝罪した。
そして、ついでにケリーと少し会話をしていると、彼も団長と同じと分かる。
結局の所、彼も人を助けたいだけだった、一人でも多く魔物の手から。
そう思うと、数日燻り続けた嫌な感情も、途端に霧散していく。
こうなったらもう、自然と私も赤の団に溶け込んでいく。
「恋占いとかも出来ますよ!」
そう言ってみたら、女性陣に囲まれ、それはもう大変だった。
団長は強いとは言え、戦地にいる以上死と隣り合わせであり。
男女の距離が近くなると、やれ恋だの、愛だのには色々と尽きないらしい。
特に団長は、まぁその。人気だった。
色々と、はっきりさっぱりと言わないように気をつけながら、言っていると。
赤裸々な話がどんどん飛び交い、聞いてる私の方が赤くなってしまった。
何にせよ、結果だけで言えば、星の導きに従い進むことは正解だった。
今回の件で私は、赤の団団員ソラスから。
赤の団占星術師ソラスとしての立脚地を得た。
けど、今回の件は団長には、不満足だった。
話疲れて、夜風に当たっていると。周囲から離れた位置。
団長と、強国軍の人との会話を私は聞いた。
「そちらにも、魔物に襲われ犠牲者が出たのでしょう。村の安全が確保できたのならば、私達は引き返して、合流しておくべきでした。そうすればそちらに、犠牲者が出ることはなかったかもしれません」
「いいや団長よ。それでは私達の面子が立たん。私達は強国の軍隊だ。人との戦いであれ、魔物との戦いであれ、戦う以上は死は避けられん。今回の件もそうだ。占星術師の娘の力で、最善の結果は出せた。それで満足しておくべきだ」
「しかし!」
「あまり背負い過ぎるな団長。そのままではいつか押しつぶされ、潰れるぞ」
「…………」
どうやら団長は可能ならば、村からの犠牲者をなくしたかった。
後詰めである強国軍の犠牲すらも、なくしたかった。
団長には決して、最高の結果ではなく。最善の結果だった。
団員達は、誰もがこれで良かったと酒宴を楽しんでいるが。
団長ただ一人は、さらに上を目指していた。
「もっと、強くならないと」
手を強く握りしめ、誓うように。
今でも、十分強く。団員達が信頼を寄せる団長が、こんなことを言うのだ。
なら、今回の結果に、私は慢心している場合ではない。
もっと強くならなくちゃ。
誰よりも強いあの人は、誰よりも優しく。
何もかも背負おうとしました。
それはやがて物質界を、そこに住まう人々を全てを、あの人は背負った。
弱みをほとんど見せずに。
ただ一人で背負うには大きすぎる物を背負ったまま、立ち続け。
未来の為に戦い続けました。