千年前戦争アイギス 占星術師の昔話   作:青き男

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トラム、アルヴァ、トゥアンおりゅ!

ただアルヴァさんを出そうとしたらアテおじを色々見直さないといけないんで示唆する程度で本格登場はしません


エピソード5 撤退戦

 避難民が次々と、中央の強国へ続く森林の大道を走っていきます。

 その道に陣を布き防衛を、私達赤の団は努めます。

 背には、避難民の一時避難所。負ければ、彼らが襲われます。

 

 「戦闘開始!アトナテス右翼は任せた」

 「ソルジャー!アーチャー付いてこい!他は後から配置に着け!行くぜ相棒!」

 「ヘビーアーマー拠点前を守れ、一匹も逃すな。逃せば混乱を生み、さらなる被害が出る。これ以上、魔物に奪わせるな!」

 

 団長は団員達に、指揮を飛ばしながら中央と、左翼の防衛に努めます。

 次々と襲撃してくる魔物に、団長は二連斬撃を三体の魔物に飛ばし。火の魔法で焼き払い。逃げ遅れた避難民を、団長は自ら助け起こして、中央の強国へと逃がします。

 誰よりも前で、誰よりも多くの敵を倒し、多くの人々を助けていきます。

 

 「ソラス!」

 「任せてください!降り注げ星よ、アストロノヴァ!」

 

 そして、戦線から抜け出そうとした魔物を、私のアストロノヴァで狙い打ちます。

 ただ、数が少ない内はいいですが、魔物の数が増すと。私のアストロノヴァは、一体一体にしか攻撃できない以上、対処がどんどん遅れてきます。ヘビーアーマーの役を担う団員達が、全身を覆う厚い鎧と堅い盾で、魔物を体を張って、避難所への侵入を防いでくれます。

 ですが、魔物はそれ以上に襲い掛かり、このままじゃ突破されてしまう!

 

 「はぁ!」

 

 崩壊しかける寸前の所で、最前線から、本陣付近まで走ってきた団長が、そのまま剣を振るい魔物を斬り払います。

 玉のような汗をかきながら、息を切らしながら。それでも団長は、駆けつけてくれました。

 

 「ごめんなさい団長……」

 

 私は突破されてはいけない、最後の防衛線を任されています。

 本当なら、団長が背中を気にしなくてもいいようにしなければいけないのに。

 そう思うと、頭を下げるしかなかった。

 

 「気にしなくていい。頭を上げて、前を見るんだ。まだまだ魔物が来る。ソラスの力が必要だ」

 

 ですが、団長は私に怒ることなく。

 普段通り、優し気な笑みを浮かべます。

 それを見ると、私は活を入れ直し、杖を再び握り締めます。

 

 ただ、反省すべき点はしっかりと心に刻みます。

 今の私では、今回みたいな状況の時に、魔物を取りこぼしてしまいます。

 もっと、攻撃できる対象数を増やすか、もっと大軍を効率よく倒す手段を編み出さないと。

 別の技を。

 

 「まだまだ魔物が来る。ヘビーアーマー戦列を乱すな、お前達の不安は、そのまま混乱を生んでしまう。落ち着くんだ。ヒーラー達は回復を急げ。ソルジャーは撤退し、第二陣に備えろ。ウィッチは後退して、本陣の守護を厚くしてくれ。アトナテス!そろそろ魔物の二陣が来る。迎え撃つぞ。いけるな?」

 「当たり前だぁ!」

 

 けれど、考える暇は今はありません。魔物の軍勢は、私達の勝手を知らず、どんどん滅んだ小国から来ます。

 団長が言った通り、一息つく間もなく、次のラッシュがやってきました。

 私はすぐさま星天召喚の儀に取り掛かり、アトナテスはダークブレスで先頭の集団を焼き。

 団長は最前線へ行き、そこからさらに前進して、魔物の軍勢に真っ向から突っ込み。振るう剣で魔物を倒します。

 

 いつにも増して。その剣戟が激しいのは、国が滅んだということに、少なからず動揺しているからでしょうか。

 それとも、背にいる助けなければいけない避難民がいるからでしょうか。

 魔物の返り血を浴び、指揮を飛ばし、魔法を使い、剣を振るう。

 いつも通りなはずの団長の姿に私は、少し痺れる感覚がしました。

 そして普段よりも、星の力が弱まっているような……いえ、やはり考えるのは後です。

 

 それからというもの、何度も星天召喚の儀とアストロノヴァを繰り返していると、魔力が切れてしまい。

 星天召喚の儀が、上手くいかず。撤退をして、休息して再び出撃してを、私は何度か繰り返し。

 

 アトナテスと紫竜も、全身に傷を負い。

 自らと、魔物の返り血に濡れた体から、熱気の籠った荒い息を出しながら撤退し、傷付いた体に治癒を受け。一口水を飲んで、すぐさま団長の手助けに、出撃をして行く中で。

 

 団長だけは、最前線で一人になっても。剣を振るい、傷付いたとしても、自らの癒しの力で立ち上がり。

 そのままデーモンを斬り付け、打ち倒し、さらに前進します。

 魔物の軍勢を相手に、団長は一度として退く事なく、戦い続けていました。

 

 その背は、どれだけの人々を惹きつけ、勇気づけたのでしょうか。

 早く逃げてほしい所ですが、小国からの避難民は時折振り返り。団長の背、裏血が白の赤いマントを見つめ。

 誰かがポツリと呟きました。

 

 英雄。

 

 そして、戦い始めて一日は経とうかとする頃。

 全身余すことなく、傷を負い。ふらふらとしながらも、団長は本陣にようやく戻ってきました。

 

 「この辺りに魔物はいない」

 

 団長のその言葉に、周囲は安堵の息を零します。

 団長が魔物がいないと言えば、本当にいないのです。それは赤の団では共通認識でした。

 ですが、続く団長の言葉に、たぶん幾人かは戦慄したと思います。

 

 「……だが、首都にまだ生き残りがいるかもしれん。そこにはまだ魔物がいるだろう後は……。いや現地についてから話そう。少数精鋭だ。時間をかけられない。ついてこれる者はついてきてくれ。そうでないものは、避難所の皆を引き連れ。中央の強国軍が到着するまで、避難所を守っていてくれ。無理強いはしない」

 

 言うべきことは言ったとでも言いたげに、ボロボロなはずの体をくるりと翻し、滅びた小国の王都へ向かう団長。

 

 「一人で行ってどうすんだよ。俺も行くぜ団長」

 

 アトナテスは紫竜と共に、すぐさま団長の背を追い。

 私は、疲れ切った体に鞭打ち、団長についていきます。

 放っておけないですからね。

 団長についてこれたのは、私とアトナテスに、十人にも満たない団員達でした。

 

 荷馬車を引きながら、幾度かの魔物の襲撃を、団長とアトナテスのタッグで迎え撃ち。

 道中にあった集落で逃げ遅れた人を探し、いないことに落胆し。

 一日かけて滅びた小国の都市に、私達はたどり着きました。

 ……一瞬、来なければよかったと思いました。

 

 「ひでぇな……」

 

 いつになく悲痛な表情を浮かべるアトナテスが、現状を一言で全て表現しました。

 倒壊した家屋に、城を薪に燃え続ける火。あちこちで朽ち果てている人、人、人。

 斬られ、喰われ、焼かれ、数多な形の死が、そこには広がっていました。

 いっそ何もなかった方が、失ったという感覚を味わずに済んだかもしれません。

 

 「…………」

 

 団長は黙祷を捧げ、剣を引き抜きます。

 

 「魔物の気配があちこちにある。奇襲に警戒しつつ。逃げ遅れた人を救出。それと、使えそうな物は全部貰っていく」

 「いいんですか、それ」

 

 現地についてから話すといったのはこれだろうと、私は分りました。

 なるほど、避難民に聞かせられない訳です。それは所謂、火事場泥棒というモノでは。

 私と同意見らしく、幾人か頷く団員もいました。

 けど団長はふるふると首を振ります。

 

 「避難民の食事を中央の強国に押し付けるには、限度がある。それに、王族達が持つという魔剣やら聖剣の類が、魔物の手に渡るよりはずっといい。政治的ないい訳なら、あとでいくらでも考える。もっとも、こんな現状じゃ非難された方がマシかもしれないな……何にせよ、私欲の為には使わないよ」

 

 文句を言う人がいなければ、何を持って行っても今は問題なし。

 団長のそれは、間違いなく言い訳ですが。

 反対意見は、誰にも出せませんでした。

 出せるはずがありませんでした。

 

 今日だけで何人の避難民が出てきたのでしょうか。

 そして彼らの食事だけで、たった一食でどれだけ必要になる事か。

 明日から、どうなる事やら。

 

 食べ物はタダじゃありません。

 今のように魔物との戦いで国々が疲弊すれば、食べ物が高騰してしまいます。お金で何とかなるうちはまだいいですが。

 どれだけお金があっても、食べ物がないという状態にでもなったら。

 魔物との戦いをしている暇は、なくなりやがて……人同士で。

 

 それに、魔剣聖剣といった類は。国としての威信だとか、権威を象徴するものであり。それが魔物の手に渡れば、人々は国が無くなったという絶望感を、さらに増すことになるでしょう。

 また、剣に秘められた強力な力によって、さらなる被害が出ることは想像に難くありません。

 団長が全部貰うというのも、頷けます。

 団長は夢想家ではありません。戦いの後も見据えています。

 

 「食いもんはいくらかあったな。相棒運んでくれ」

 

 王城で人を探しながら、魔物だらけの城の中を撃滅して、物資をかき集めます。

 幸い、魔物は人間の食糧には興味がないので。火の手でいくつかは無駄になりましたが、ある程度は確保できました。

 そして、厳重に封鎖された宝物庫の奥。

 団長がその扉を斬り捨てると、宝石貴金属に見向きもせず、奥に鎮座されていた剣を手にします。

 禍々しいと思ったのが、それはおそらく見た目からして魔剣の類だからでしょうか。

 

 「業物だな。こいつを然るべき担い手が使えば、もう少し国が持ちこたえかもしれねぇな」

 「例え民を犠牲になったとしても、城に火が付いたとしても、使いたくはなかったのだろう。これには、血を欲する危険な感覚がする……アトナテスこれも運んでくれ。出来る限り丁重にな。理由はなんであれ、この剣は、ここに国があったという証拠だ。幾人の人達が、この国で生きていたという証だ。分かるな?」

 「……あぁ。それを魔物共が奪いやがった」

 「だが、全てを奪われていない。まだ、俺達にやれることはある。皆、アトナテスを中心に、城内に生存者がいないか引き続き探してくれ。ソラスは俺を手伝ってくれ。いくつか持ち帰りたい情報がある」

 

 私は頷き、執務室に到着すると。ここでもあったであろう惨劇の痕に、一瞬の黙祷をして。

 団長が指示した、そのいくつかを探します。

 魔物や神話が書かれた古文書、小国の周辺地図、小国の機密っぽいあれこれ。

 

 「これでいいんですか」

 「それでいい。ありがとうソラス」

 

 何に使うかは分かりませんが、団長は一先ず地図を見つけると睨めっこしていました。

 数分後、地図に筆を団長は走らせ、団長は私に地図を手渡しました。

 必要になる。そう言って。

 

 こうして、主に食糧や、魔剣、いくつかの書類束等を荷馬車に詰め込み。

 小国の城を後にして、避難所まで撤退を始めます。

 結局、王都にたどり着いた後から今まで、魔物はいたけれど、人は見当たりませんでした。

 襲われることを承知の上で、声を張り上げ、生存者を探しましたが見つかりませんでした。

 改めて国が滅んだという事実を突きつけられ。

 私達に、暗い影を落とします。

 

 「ちょっと待て!」

 

 しかし、あと少しで王都を抜け出すという所で。団長はふと、何かに気が付いたのか、周囲をキョロキョロと見まわした後、ダッと一つの瓦礫の山に向かいました。

 何があったのだろうかと、私達は思った直後。

 団長は瓦礫を力付くで退けると、瓦礫の下に。何らかの意志によって、瓦礫を支えるように立つ岩柱を壊し、その子を抱き上げました。

 

 「大丈夫か、死ぬんじゃない!」

 

 団長に抱き上げた子は、橙色の髪をして、鎖のついた分銅を固く握る。私よりも年下の子供でした。

 そんな子供がたった一人で、魔物が蔓延る王都の瓦礫の下に、居続けたのです。

 どれだけ恐ろしく、心細かったことでしょう。城は後回しにして、もっと早く見つけるべきでした。

 団長も申し訳なさそうな顔をしていました。この人が一番、誰かを助けたかったはずですから。

 

 瓦礫の下にいた少女は、泣き腫らした顔にぐったりとしたまま。死人のような顔色をして、今にもその命が、尽きようとしていました。

 団長は、すぐにその子に治癒魔法をかけますが、顔色はよくなりません。

 治癒魔法は怪我を直しますが、気力までは回復してくれません。

 駄目か。そんな考えが、一瞬過ります。

 けど、団長は諦めませんでした。

 

 「生きろ、生きるんだ!」

 

 やっと見つけた生存者に、団長は必死に声をかけ。

 マントを脱ぎ、その子を包むと温めるように抱き締めます。

 治癒魔法をかけながら、何度でも少女に声をかけ続けます。

 

 諦めるな。生きろ。

 何度でも、何度でも。

 

 そして、団長の声は少女に届きました。

 

 「……ぅ」

 

 小さな、小さな掠れ声。

 けど、確かな反応でした。

 

 「水!」

 「はい!」

 

 叫ぶ団長に私は水筒を渡し、団長は包帯に水を濡らして少女の口へ。

 少しだけ喉が動いたことを見ると、そのまま水を少女の水に少しずつ流し。

 大半は口端から水が零れていきますが、喉が動き続け、ちゃんと飲んでいることは分かりました。

 

 「大丈夫、少しずつ飲むんだ」

 

 優しく声をかけ続ける団長に、少女は微かに目が開き、団長の顔を、たぶん人を見たことで安堵を覚えたのか。

 顔色は見つけた時よりも遥かによくなり。スゥスゥと寝息が聞こえました。

 

 「不幸中の幸いだな」

 「えぇ、よかったです」

 

 嬉しそうに笑うアトナテスの言葉に、私は思わず涙が零れそうでした。

 絶望だけで終わると思っていた所に、一人でも助けることが出来たと。そう思えたからです。

 ただ、そんなことは魔物は関係ありません。

 穏やかな表情を浮かべる少女を、団長は荷馬車に下ろすと同時に。

 背から、戦士達が言う所の闘気とやらでしょうか。少なくとも、これから戦闘が始まることを、団長は背で語っていました。

 私達全員が、戦闘前の緊張感を漂わせます。

 

 「ソラス」

 「はい!」

 「この子と物資、団員達を頼む。地図にいくつか、逃げやすそうな道を書いておいた。出来るね?」

 

 さっき地図を見ていたのは、この為でしたか。

 団長の先見の明には、いつも驚かされます。

 私は先ほどの地図を開き、道を頭に叩き込み直します。

 おそらく、走り始めたら見る暇はあんまりないでしょうから。

 

 「出来ます。出来ますが、団長はどうですんですか?」

 「残る。殿だ」

 「そんな!?駄目ですよ!それなら皆で戦った方が」

 「駄目だ。強力なデーモンの気配がする。魔物も大量に出てくるだろう。その子や、物資を守りながら戦うのは無理だ。人が足りない。物資も捨てるわけにはいかない」

 「物資なら捨てればいいじゃないですか!人命には変えれませんよ!」

 「駄目だ。物質も必ず持ち帰るんだ」

 

 強く、命令するような口調に、私は口を閉じてしまいます。

 

 団の団長が残り、殿をする。

 団長はそれが一番、皆で生きて帰れると信じているでしょう。

 正気の沙汰ではないです。一番生き残らなければいけない人が、一番危険な役を引き受けようとしているんですから。

 

 「必ず戻る。だから、先に行くんだ」

 

 いつものように、穏やかな微笑みを浮かべる団長。

 その微笑みに、私はどれだけ安堵を覚えた事か。

 でも、団長を残したままにすることは、やはりできません。

 私も残ります。

 そう口を開きそうになりましたが、バシンと背中を叩かれました。

 団長より、一回りは大きな手の持ち主、アトナテスです。

 

 「団長を一人にはしねぇよ。俺達も残る。だから、ソラスは団長の指示を成し遂げな」

 

 アトナテスは不敵に笑いながら、自らも殿をすると、主張しました。

 現状、団長が唯一、背中を預けるに足りうる戦士アトナテス。

 きっとアトナテス以外が、殿をすると言っても、団長は聞き入れなかったでしょう。

 アトナテスに、団長はこくりと頷き。

 

 「ありがとう」

 

 感謝する団長に、アトナテスはよせやいと言い。

 二人は武器、剣と斧槍を構えます。

 そして、合わせるように、それは現れました。

 

 ゲート。

 

 物質界と魔界を繋ぐ、まさに(ゲート)。開かれたらゲートから、魔物が物質界へ出てきます。

 ゲートの規模が大きければ大きいほど、消費する魔力を糧として、強力な魔物が物質界を侵略しに現れる。

 いつの間にやら情報を仕入れていた団長は、そう言っていました。

 

 そして出てくるはデーモンにして、剣を持つ剣士。

 デーモン剣士が二体。

 そして、それに付き添うように多数の魔物が。

 

 「走れ!!」

 「アトナテス、団長を任せましたよ!」

 「あぁ任せな!」

 「ガァオオオ!!」

 

 抗議するように、アトナテスの紫竜が叫びます。

 そうですね。紫竜さんも残って、戦ってくれるんですものね。

 

 「紫竜さんもお願いします!後で必ず、必ず会いましょう」

 

 団長と離れ、私達は逃げます。

 全速力で走りますが、後ろから魔物が追ってきます。

 

 団長とアトナテスが残ったことで、ほとんどの魔物を引きつけてくれているでしょうが、それでも全部引き受けるのは無理です。

 私は杖を持ち、星天召喚の儀を行います。

 追ってくる魔物の応戦は、団長に任された私の役目です。

 走ったままなので、集中できず威力は全然でません。

 でも、今は倒すよりも、逃げることを優先させるべき場面です。

 

 威力はまだ出せない。けど多くの魔物を狙い撃つ。

 そのことを意識しながら、星天召喚の儀を行い。

 魔物へ放つ直前。

 

 足元から何かが、私に力を与えました。

 正体は不明。けど、これはまたとないチャンスと思い。

 二連射は出来ないけれど、攻撃できる数は多く。

 

 「星よ、数多となり降り注げ!グランドクルス!」

 

 私の声に、魔力に、星は応え大量の星が降り注ぎます。

 その威力は私が想定していたよりも強く、倒せないと思っていた魔物達を、次々と倒していきます。

 何があったのだろう。

 私は背を振り返ると。荷馬車に乗っている。先ほど助けた少女の、小さな手に握る分銅が、一人でに浮かび上がり。

 私を指差す様に、向いているのを見ました。

 

 もしかして、彼女が力を?

 そんな疑問が湧きますが、後です後。魔物が来てます。

 団長とアトナテスはきっと何とか切り抜けてくれるでしょう。

 けど。

 

 「団長、アトナテス。無事でいてくださいよ……!」

 

 私はそう祈りながら走り続け、地図を頼りに、魔物を撒きやすい道を進みながら、避難所にたどり着きました。

 たった一人しかいなかったですが、連れ帰った生存者と、国の象徴であった剣を取り返したことに、私達は感謝されました。

 そして、持ちかえった物資を、余すことなく開放して、皆のお腹を満たします。

 これは私達が物資に手を出す前。団長が出した指示でした。

 

 腹が満ちれば、一先ず混乱は起きない。物資、特に食糧は必ず避難民に開放する事。

 団長は断言するように、そして珍しく強い口調で命令するように言いました。

 そしてそれは有効でした。

 私達が物資を届ける前、中央の強国が避難民を受けれいてくれると、説明を受けたものの。

 確証のない、これからの日々に不安を覚えた避難民が。

 若干の恐慌状態に陥りそうだったと、残った団員から聞き。

 

 ゾっと背中に、悪寒が走りました。

 すでに大道の戦いでボロボロの状態になった団長が、無理をしてでも動かなかったら。

 団長がこうなることを見越して、物資の回収をしていなかったら、今頃どうなっていたことやら。

 火事場泥棒なんて、物資が人命になんて言ってる暇じゃない。

 

 明後日、明日じゃない。今必要だったから、団長はすぐ行動をしたのです。

 あの時、団長が私に冷笑一つ浮かべなかったのは、団長が偏に優しいからでしょう。

 私は、能天気でした。国が無くなった。そのことを理解していませんでした。

 

 「ソラス、団長はどうしたんだ?」

 「アトナテスと一緒に殿を……」

 

 私の言葉に、幾人かの団員は崩れ落ちます。

 彼等の言いたいことは、私には痛いほど伝わります。

 

 やはり団長は真っ先に、その命を大切にして、撤退すべきでした。

 団長の才覚は、私と逃げ帰った団員達の命を天秤にかけても、到底釣り合いません。

 万が一が起きたら。あの場で無理にでも、団長を引きずらなかった私の無能さに。

 気が付けば、両腕で私は、私の体を抱き締めました。

 

 恐ろしかった。

 団長が、あの巨星が、万が一失うことになってしまったら。

 何か、取り返しのつかない事、赤の団が消える以上の何かが起きる。

 そんな確信がありました。

 私達が避難所にたどり着いた数時間後になっても、団長は戻ってきませんでした。

 

 「団長を助けましょう!すぐに編成を」

 「中央の強国の援軍がたどり着くまで、この避難所を離れては駄目だ!これは団長の指示だ。今魔物に襲われたら、どれだけ被害がでることか分からんぞ!?」

 

 団長を助ける、助けに行けない。

 まとめ役がかけ、纏まらない会議に、時間が過ぎていき、焦燥感が募ります。

 そして、私達の混乱は、避難民達の混乱を招きます。

 団長が言った通りに。

 

 「どうなっているんだ」

 「団長はどこへ!?」

 「助かるのか私達は!」

 

 赤の団の本営に押しかけてきてる避難民達が、口々にそういった不安を零し。

 一度零れた不安は伝染し、避難所に様々な悪感情が渦巻き始めます。

 暴動が起きる一歩手前の爆弾になっていました。

 

 「魔物だ!」

 「戦闘準備です!」

 

 そして、その悪感情に引き寄せられるように、または爆弾に点火しにきたように魔物の出現が、避難所に出現します。

 数は、僅か五体。

 団長は魔物がいないと言いましたが、あれから一日は経っています。どこからかやってきた魔物でしょう。

 避難所までは入ってこられたのは、団長の言葉に安心した私達の怠慢でしょう。

 

 すぐに対処を始めます。

 団長もアトナテスもいない。私も指揮官には向いていません。指揮官不足です。でも、この数なら私一人で、アストロノヴァを放てば対処できますし、ヘビーアーマーやアーチャーの人達が自ら判断して対処も出来ます。

 実際、魔物は早々に倒せました。

 

 でも、魔物が出た。

 ただそれだけで、国を失ったばかりの避難民は、ただそれだけで、パニックになりうる理由でした。

 散り散りに逃げ出しそうになる避難民達を、赤の団は武器を使いそうになるのを堪え、なんとか抑え込みます。

 ……結果的に、魔物との戦いには怪我人一人もでなかったのに、避難民達を抑え込むのに怪我人が出ました。

 団長が、避難所に一匹も通すなという訳です。

 

 そして、次なる問題は魔物が出た以上、他にも魔物がいるかもしれない。

 もういない。

 ただそう言うだけで、そこに立つだけで。私達に安心感を齎す人がいません。

 いつ魔物が出てくるか分からないという不安感が、私達を襲い。

 いつまたパニックになるか分からない避難民と、見てもいない魔物との間に板挟みとなり、赤の団は休む暇がまるでなく。

 このままではまずい。それは分っているのに、団長を助けにいけず、何もできないでいました。

 

 「伝令!魔物の出現を確認!」

 

 今度は、避難所に到達される前に、魔物を発見することが出来ました。

 ただ、魔物が来た。今度は五匹程度は済まされない数が。伝令の声に避難民達が――あぁ。

 いつだかのように、忘れようとしていたのに、脳裏に両親が殺される瞬間が思い浮かびあがりました。

 同時に心中、這いずり上がるように沸き上がる感覚に覚えがありました。

 その名は、絶望。

 

 「落ち着くんだ、皆」

 

 その声は、人を安心させる魔法があるんでしょうね。

 その声を聴いただけで、奥底に閉じ込めていた絶望を消し飛ばし。希望が沸き上がるのを心から感じます。

 団員達が声を聴いた途端に落ち着きを取り戻し、避難民達もその声を聴き、見て、希望がやってきたことを確信したのでしょう。

 

 「団長!」

 

 傷だらけの紫竜の代わりに、気絶しているアトナテスに肩を貸しながら、団長は帰ってきました。

 その体には、回復する魔力すら尽き果て、傷だらけに血まみれ。歩くたびに滴血の道が出来ています。

 とっくにボロボロなはずなのに、すでに人にあるだろう、限界は超えているはずなのに。

 それでも団長の前髪の奥にある瞳は、確かな闘志に燃えていました。

 

 「ソルジャー、アーチャー。西方から魔物くる。すぐに配置に着け。いつも通りだ。慌てる必要はない。ウィッチは待機。メイジは戦闘準備。相手は雑魚だ。君達ならまとめて焼き払える。俺も前に出る。守りきるぞ、戦闘開始だ」

 「団長少しは休んでください!最初からずっと、戦い続けてるじゃないですか!?」

 「ソラス。よかった無事だったか……いや、そうも言ってられない。アトナテスが、俺がすぐに必要になると言って、奮戦してくれたからな」

 

 そう言って、団長はアトナテスを慈しむような手つきで、眠る頭を撫で。

 紫竜にも同じような手つきで顎をさすり、その優しい手で再び剣を握ります。

 

 「行こう。俺達は負けてはいけない。膝を屈してはいけない」

 

 団長が前に出ます。いつものように、誰よりも前へ、怪我だらけの体で疲労に疲労を重ねた体で。

 私は、団長の後を追います。団長を支えなければいけない。

 その一心で、グランドクルスを放ち続けました。

 

 そして、魔物を殲滅し、団長の存在に安堵した避難民達は、落ち着きを取り戻し、避難所を平定。

 アトナテスも少し休んだら、復活し。そのまま、再び起きた魔物の襲撃を一切の被害なく対処し。

 中央の強国軍がたどり着いたことで、完全に勝利することができました。

 

 団長は戦いの開始から終わりまで、まさに獅子奮迅の働きを私達団員と、避難民達に見せ。

 団長が休んだのは、事後処理を終えて、まっさらになった執務室の机に、突っ伏したその時でした。

 私は団長に、そっと毛布を掛けました。

 

 この小国の避難民を真っ先に助けに行き、そして生き残った者達を、戦地となった小国から中央の強国に撤退するまで。

 一度として、休むことなく戦い続けた団長は、今回の避難民を中心に、人道の英雄として、その名を物質界に轟かせ。

 赤の団の団長を知らぬ者は、ほとんどいないと言ってもいい程です。

 

 一方で私もアトナテスも、今回の撤退戦に十分な戦果を挙げたということで、赤の団の占星術師ソラスと、紫竜騎士アトナテスとして。あちこちで、知られ、語られるようになりました。

 赤の団の名声は留まることを知りません。

 それはいいことなのでしょう。でも当の英雄。団長は自嘲的な笑みを浮かべて言うのです。

 

 「小国を贄として、英雄が生まれたということだな。とんだ英雄だ」

 

 団長は自分の名声を利用する器量はあっても、誰が自分を知っていても、あまり興味を持ちません。

 ただ、亡くなった小国の人達に、今もなお魔物に襲われる人々に、団長は心を痛めていました。

 団長は何年たっても、そういった所は変わりませんでした。

 

 

 

 敗北は英雄を生むもの。

 と言ったら、王子君にはちょっと意地悪ですね。

 でも、人が英雄を求めるのはきっと、希望が欲しいと思ったからでしょう。

 私もそうでした。かつての私にとっての希望とは、私達にとっての希望とは、即ち英雄王でした。

 

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