千年前戦争アイギス 占星術師の昔話   作:青き男

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エピソード6 大地を紡ぎし英傑サナラ

 撤退戦の後、団長にベッタリと張り付くようになった少女がいます。

 いつもの簡素な椅子と机と、天幕があるだけの執務室に入ると、その子はすでに団長が執務している姿を、椅子に座り足をプラプラとさせながら、じっと見つめていました。

 

 「おはようソラス」

 「おはようございます団長。まーた夜更かしして執務していましたね。無理せずちゃんと休んでください!」

 

 目の下に隈を浮かべた団長に、苦言を零しますが。団長は頑張りすぎるのを、止めようとはしません。

 困ったように微笑むときは、大体は聞いてはいるが改善する気がない時です。実力行使に出るべきでしょうか。

 団長の頭をガッと掴んで、こう膝枕とか……は、難易度高いですね。やってみたいとは、えぇ思いますが。

 

 「それと、おはようございますサナラ」

 

 務めて、優しく穏やかにと意識しながら言ってみましたが。

 サナラは私の声に、ビクリと体を震わせると、椅子から立ち上がり。テテテと団長の背に回り、ジトーとした目で私の様子を伺ってきます。

 まだ、警戒されているみたいですね。

 

 「サナラ、挨拶はちゃんとしないといけないよ」

 「……おはようございます。ソラスちゃん」

 「えぇおはようございます」

 

 団長に促されると、サナラはペコリと頭を下げました。素直でいい子ですね。

 私も笑みを浮かべて、もう一度挨拶をすると。サナラは顔を俯かせましたが、顔が赤くなっているので、まぁ可愛らしい反応って奴ですよ。

 

 例の撤退戦、滅びた小国の王都で、ただ一人見つけることができた少女。

 サナラという名前が聞けたのは、彼女が目覚めてから三日も時が必要になりました。

 

 「あの人は、あの人はどこですか!?いや、いやぁ!」

 

 目が覚めた途端、パニックになり、泣き叫びながら鎖のついた分銅を振り回し、土魔法を乱発するサナラに、私達が慌てふためいていると。

 あの人こと、団長が現れると同時に、サナラは団長に飛びつき。そのまま、私達を怯える目で見てきました。

 団長は冷静に状況を確認し、サナラの姿を見て一考すると。

 

 「君に悪いことをする魔物も、君を置いていく人もここにはいない。大丈夫、俺が君と一緒にいよう」

 

 そう団長は言い、抱き締め。何度も、小さな背を撫でていると。サナラは泣き止み、パニックも収まりました。

 ですが、それからどこへ行くにも、食事をするにも、執務をするにも、眠る直前ですら団長にベッタリとサナラは張り付き。

 湯浴みまで一緒に入ってくれとサナラが言うので、私は全力で待ったをかけ。私の監視のもと、服を当然着て背を向いた団長が、サナラの手を握りながら、サナラの湯浴みを行うという。ハプニングが起きたりしつつ。数日が経ち。

 

 避難民達が、赤の団の一員となり共に戦うか。

 難民として、中央の強国に留まるかを決める最後の日。どちらも言わずに、ただ周囲に怯え、心を開いている団長に引っ付いたまま、夜になり。団長のベッドに眠るサナラに、団長は優しく頭を撫でながら。

 起こさないように静かな声で、間違いが起きないように見守っている私に、話します。

 

 「サナラは魔物の恐ろしさも、人に置いて行かれる恐ろしさ。どちらも心の底から、味わったんだろう」

 

 あぁサナラっていうんですかこの子。という反応は、連日振り回せている私には、すぐには返すことが出来ませんでした。

 ですが、心して団長の言葉を待ちます。

 

 「一緒にいてあげないと、酷だ」

 「この子を赤の団に入れるんですか。魔法の才は確かにありそうでしたが……」

 

 あれこれ振り回し、団長を独り占めしてるサナラに、一つどころではない文句は言いたくもなります。

 ですが、サナラを嫌いになれそうには、なれませんでした。

 サナラの気持ちは、少なくとも魔物に対する恐怖は、私には分かります。

 

 両親や、魔物によって生まれ育った地を蹂躙される恐怖を、私は忘れていません。

 ですが何もかも絶望して、心までもが生を諦め、死に切る前に。

 私の前に団長が現れ、その頼もしい後ろ姿を見て、団長の力になりたいから、私は魔物への恐怖を押さえ戦うことができました。

 

 でも、もし誰も助けに来てくれず。

 目の前で何度も何度も、助けてほしいのに、人が目の前で過ぎ去り置いていく姿を見たら。

 怖くて、寂して、とても恐ろしかったでしょう。サナラはそんな絶望に身を浸したまま、一人で生き残ったのです。

 

 嫌いになんかなれませんよ。

 だから出来る事なら、戦う才があったとしても。魔物との戦いに身を投じるのは、サナラの為にならないと私は思いました。

 ですが、団長の意志は固いようです。

 

 「サナラを入れるべきだ」

 「……分かりました。でも、そろそろ団長離れしないと困りますから。そのことは忘れないでくださいよ」

 「あぁ」

 

 その翌日、赤の団に入ることを、魔物と戦うことを了承したサナラは、少しずつですが、団長離れが出来るようになりました。

 そして、団長以外と最初に打ち解けたのは、意外なことにアトナテスでした。

 

 「何だ。ようやく団長から離れやがったかこのガキんちょは」

 

 数日団長を取られたままだったので、若干不貞腐れてるアトナテスに、サナラに口を尖らせ。

 サナラはサナラで、頬をプクーと膨らませて反抗します。

 

 「サナラです。子供じゃありません」

 「んなことを言ってるうちはまだまだガキだ。団長ー鍛練しようぜ」

 「団長は執務に忙しいんです。団長を困らせないでくださいー」

 「あぁ?」

 

 サナラとアトナテスの視線がぶつかり合い、火花が散りますが。

 その間にせっせと執務を片付けた団長が、まぁまぁと声をかけます。

 

 「気分転換になるし、剣が鈍ったら困る。付き合うよアトナテス。サナラも一緒に来るかい?」

 「ははっどうだ見たかサナラ。団長は俺を優先させたんだ」

 「違いますー!団長は気分転換の為に私を誘ったんです!」

 

 言い合っていますが、数日あれこれと世話した私よりも、すでにアトナテスの方が会話量が多いのは、単に私が畏れ多いからでしょうね。こう見えて、赤の団では団長の相談役であり、幹部、副官と周囲の人は認識されていますからね。

 認識されてるだけであって、団長から明言されていませんですけどね、えぇ悔しくないですとも。

 

 「……ソラスちゃんも行きませんか?」

 

 上目遣いで、不安げな表情を浮かべ、サナラが私を誘ってきます。

 ちゃん、ですか。

 

 これはサナラなりに、歩み寄ってくれているということでしょうか。

 そう思ったら、悪くないですね。ちゃんと呼ばれるのも、何だか親し気があっていいです。

 この頃、私とアトナテスは、団長を除けば。これといって、格差らしい格差を設けていない赤の団ですが、それでも別格扱いされていますからね。尊敬の念を持たれてるというのは、何となく伝わり、それで少し壁が出来てしまい。

 壁を持とうとしない団長の元へ、自然と赴く原因になったりします。

 

 「分かりました。私も行きましょう」

 

 パッと顔を明るくして、サナラは団長に抱き着きます。

 まだ、団長離れは出来なさそうですね。

 とりあえず、サナラを団長から引き離してみました。

 唸られました。この時からしばらく、私はサナラにとって、団長と引き剥がそうとする厄介者認識されました。

 えぇい私だって、団長に抱き着いたりしたいというのに!

 

 そして、それからまた数日経ちました。

 訓練場にて、サナラとアトナテスは、一対一で模擬戦が始まろうとしていました。

 勝利条件は制限時間までに、サナラが少しでもアトナテスに傷をつけたら勝ち。

 条件としてはサナラが圧倒的に優位でしたが、アトナテスが引き受けたということは、本人は傷を受けても無傷でいれるという自信があったのでしょう。

 サナラは、自身をジオマンサーだと言い。土魔法による攻撃を得意としていましたが。それでも、赤の団にて団長と、唯一戦えるアトナテスに傷つける事なんて出来ないと、誰もが思ってました。

 団長もそうなのでしょう、アトナテスに程々にと言っていました。

 そして、戦いが始まると。

 

 「えーい!とーう!」

 

 鎖付き分銅をぶんぶんと振り回し、地中から岩を生やす土魔法を放ちますが。アトナテスは、相手の武器を振るう前の挙動だけで攻撃先を予測して、行動を移すことが出来ますので、ステップを踏むように岩を回避します。

 

 「サナラ!動きが読みやすいぞ!相手の動きに気を張れ!常に安全に戦えるとは限らねぇんだぞ!」

 「分かってます!」

 「どんどん来い!」

 

 これ模擬戦ではなく、訓練では。

 私が言うまでもなくそんな雰囲気が漂い始め、サナラが疲れ始めた頃。

 

 「まぁ一も二も、もうちと威力が欲しい所だな」

 

 アトナテスはサナラの岩を、軽々と斧槍で叩き潰し。

 制限時間がそろそろ来るので終わるか、と言いそうになったみたいですが。

 

 「ま、まだですよ!」

 

 グルりと、サナラは頭上に分銅を回すと、サナラの立つ場所が何やら光り始め。

 そのまま、アトナテスに土魔法を放ちました。

 アトナテスは先ほどと同じく、斧槍で迎え撃とうとしましたが。

 

 「ぅお!」

 

 アトナテスの斧槍を押し返し、肩に岩が突き刺さりました。

 そして、そこからたらりと血が流れます。当然、アトナテスのです。

 

 「や、やったー!勝ちましたー!」

 

 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、サナラははしゃぎますが、私含めてアトナテスが負けるとは思ってはいなかったので。

 周囲は純粋に驚きに包まれました。敗因はアトナテスの油断でしょうか。どちらにしろ、負けは負けです。

 

 「へぇ、やるなサナラ」

 「ふっふーん。私の実力が分かりましたかアトナテス!」

 「馬鹿。負けたのは認めるが、今のままじゃまだ戦力にならねぇ。さっき俺が言ったことを忘れるなよ」

 「はい!」

 

 明るく返事をするサナラに、思わず笑みが零れちゃいます。これが、きっと本来の彼女なのでしょうね。

 暗いよりはずっといいです。

 団長もきっと、同じ気分だろう。私はそう思い、団長に目を向け。

 サナラを普段の優し気な眼ではなく。不可思議な物を見るかのような目で、凝視していることに驚きました。

 

 「だ、団長?」

 

 何となく、声が震えてしまいました。

 けど、団長はすぐに普段通り顔になり。

 

 「サナラが勝ったから、何か褒美がないとな。何が欲しい?」

 「お菓子が食べたいです!」

 「じゃ何か甘い物を買ってこよう」

 「わぁいっ」

 

 その日、勝者であるサナラは色々な砂糖菓子を食べてご満悦でした。

 ですがこの次の日から、団長はサナラにジオマンサーの力を見せてくれといい。

 あれこれするサナラを、団長がジッと見るということが多くなりました。

 

 といっても、何か大掛かりな用意はなく。

 ここ数日。団長とアトナテス、サナラは、中央の強国軍の駐屯地にいる子供達と一緒に、泥遊びをしたりしていました。

 四角形に形を整えた泥の上に、サナラは手のひらに乗せた砂を落とし始めます。

 あぁ子供が泥に砂でコーティングする奴ですね、ジオマンサーの力を見せるとはと、思っていたら。

 団長は泥の上に砂を落とすサナラを、鋭い目つきにじっと見ていました。

 その目に私は、見覚えがありました。

 私の占星術を使って星の導きを団長に伝えたあの時の、私の言葉が本当か試すかのような目でした。

 

 「団長は良き出会いがありましたね!」

 「ほうそれは誰だろう」

 「私です!」

 「いや俺だろ」

 

 ふんすと鼻息を出すサナラに、アトナテスは間髪入れずに茶々を入れ、そのまま言い争う二人を見て。

 団長は、出会えた皆が俺には良い出会いだったよと、何ともまぁさらりと殺し文句を言って微笑みを浮かべると、砂を握り締め。

 サナラがそうしていたように、手のひらに零れる砂を眺めます。

 ただ、面白半分に紫竜の頭を作ろうとしているアトナテスや、ニコニコとしているサナラ。その他様々な泥を作ったり、投げたりしている子供達と違い、団長の表情は真剣そのものでした。

 

 「土占い、地相術、風水。いや違うな。もっと最奥の力、地に流れる力……地脈?星が関わっているのか?」

 

 何か、聞き慣れない言葉をぶつぶつと言っていますね。

 団長は滅びてしまった小国の、書庫にある古びた書物などを。合間の時間を見つけては、読むようになり始めてから。

 あの手この手の知識を、貪欲に取り入れるようになっていました。火と氷と治癒を扱う魔法使いなんて、団長しか見た事ないですが、それ以上の魔法を団長は求めているようでした。

 転生の魔導士に会う手段はないものか。なんてことも言ったりしてます。

 転生の魔導士って誰なんでしょう。中央の強国の国王から聞いた、と団長は言っていましたが。

 団長程の人が興味を示す魔導士。長生きした、白髭生やしたお爺さん。だったりしますかね。

 

 「あぁソラス。ちょうどいい来てくれ」

 「はい」

 「これを見てどう思う?」

 

 泥まみれの団長に言われるがままに、泥の上に広がる団長が落とした砂の模様、と言えばいいんでしょうか。

 見ろと言われたので、見てます。

 最初は、この模様に意味を見出すことが出来ませんでした。ですがふと、砂に混じった小石が天にある星に見え。

 それを元に、占星術師としての観点として、その模様を見てみると、一つの単語が思い浮かびあがります。

 

 「この地に力は無し、ですね」

 「地に力無しか。なるほど」

 

 私の言葉に、団長はふむと泥に汚れた手で顎を擦ります。

 団長が満足する回答だったのでしょうか。

 遠くを見つめる団長からは、何か私達では想像できない叡智を、見ようとしているように感じました。

 団長とはそれなりに長い付き合いになったとは思いますが、団長はそれでも底知れません。

 

 「天の星、地の星。同じ星なら通じる物があるか……」

 

 団長はあれこれと独り言を言ったのち。

 

 「ソラス、サナラ。仲良くするんだよ」

 

 唐突に、そんなことを言いました。

 

 「団長がそんなことを言わなくても、ソラスちゃんとは仲良くなりたいです……よ?」

 「それは私も同じですよ」

 

 おや、意外とサナラは私に心開いてくれてるようです。

 さりげなく、団長から引き離そうと手を伸ばしてみると、避けられ唸られました。

 

 「いつの日か、土壇場で協力しないといけないって時が来るかもしれないからね」

 「私は占星術師で、サナラはジオマンサー?で。全然分野が違うと思いますが」

 「まぁ団員同士、協力していこうぜって話だな団長」

 「そうだな。さて、泥を落としに湯浴みをしよう」

 

 それからしばらく、占星術はたまにしか使わないくせして、土占いは毎日してる団長とサナラは。

 その日も泥遊びのついでに、土占いをしていると思ったら。

 子供達が去り、サナラとアトナテス、そして私が場に残った時を見計らったかのように、団長は口を開きました。

 

 「サナラ、君は地脈を操れるのかい?」

 「えっ」

 

 笑顔のまま固まるサナラに、団長は追撃します。

 

 「俺もサナラを見て、地脈を読むことは出来るようになったが、操るまでは出来なくてね。地脈を操る術は。たぶんサナラにしか出来ないと思うが違うかい?」

 「えーと……な、なんのことか分からないです」

 「おうおう、子供は分りやすいな」

 

 嘘だ。サナラは嘘をついている。というよりは、つき慣れていないのか、目が泳いでます。

 私ですら分かることが、団長が分からないはずがありません。

 普段はすぐに返す、アトナテスの茶々入れすらも聞こえてないようです。

 

 「最初は明日の天気の予測から初めてみて、地に流れる力を読み解き、地の力を使ってみようと思ったけど。俺に才がないのかそれが出来なかった。これがこの数日、サナラを見て思ったジオマンサーの。いや、サナラの力の、俺の予想だ」

 

 少々厚いレポートをサナラに団長は手渡すと、サナラは恐る恐るめくり始め。

 読み進めるうちに、顔が青くなっていました。

 何が書かれてるんだろうと思い、覗き込もうとしたら団長が、私を制するように手を伸ばしました。

 見ては駄目、ですか。それぐらい、まずい情報なのでしょうか。

 

 しばらく経ち、団長のレポートを読み終えたサナラは顔を青くしたまま、固まっていました。

 これは相当、追い込むようなことを書いてあるに違いないでしょう。

 沈黙が続きましたが、団長はふっと笑みを浮かべ、サナラ頬を掴みます。

 まるで、笑ってくれと言わんばかりに。

 

 「言いたくないなら言わなくてもいい。たぶん、書いてあるような、ろくなことにならない使い道が出来るのだろう」

 「…………」

 

 こう言った場での沈黙は、肯定を意味するしかありません。

 ですが、団長は決して責めるような口調ではなく、宥める様に言い続けました。

 

 「そして、言わなかったとしてもそれを理由に、サナラを赤の団に追放はしたりはしない。もう一度言おう。俺が君と一緒にいよう」

 

 口説き文句が上手い人だ。

 サナラは驚愕し、目を見開いたまま団長を見て、決意するように頷きました。

 

 「……分かりました。全部言います私の力を」

 

 そして、サナラは地脈を読むとは別に、地脈を操る力の説明をした。

 簡単に言えば、地脈を操り、一部の地に力を募らせ、そこに立つ人に力を与えることが出来る。というものだった。

 アトナテスとの模擬戦中、一度は簡単に攻撃を防いだアトナテスに、傷を負わせることが出来たのは。この力のおかげだそうです。

 そして、小国の撤退戦の時。何故かグランドクルスの威力が増したのも、サナラの地脈を操る力を、無意識に使ったからと思えば、納得できます。なんだ、便利で良い力ではありませんかと、思いましたが。問題はこの先でした。

 

 人に地脈の力を注ぎ、寿命を延ばす。

 

 何だそりゃ。が、私の最初に抱いた感想で。

 ほぉと、軽く答えたのがアトナテス。

 そして、それに一番危機感を覚えたのが、それを予想していた団長でした。

 

 「地脈を扱えることを、誰にも知られちゃいけない。そう何度も言い聞かされましたが、団長にはあっさりばれちゃいましたね……」

 「確かに、人によっては喉から出る程の強力な力だろうね。例え力付くでも……」

 

 寿命を延ばす。何年くらいでしょうか。

 十年、二十年。なんにせよ、長命ではない人間に、寿命を延ばせる力があると聞けば。

 なるほど、邪な考えを持った人間がサナラを攫い、利用するということをしでかしません。

 知られちゃいけない訳です。団長があっさり見破ってしまいましたが、この人が色々と規格外なだけでしょう。

 そして、秘密を知った団長は、サナラの力を利用することを決めたようです。

 

 「けれど、他者に力を分け与える力は、大きな力になる」

 

 あくまでも、自分の為ではなく、誰かの為に。

 

 「サナラ。色々と分かった後だ。君の力を利用するような物言いになってしまうが。だからこそ言わせて欲しい。俺に、サナラの力を貸してくれ。魔物から皆を助ける為に、平和の為に」

 

 サナラは団長の言葉が真意なのか戸惑い。再び目を泳がせます。

 けど、サナラには分っているはずです。団長はサナラの力を、悪いようには使いはしません。

 力があろうが、なかろうが。そこに困っている人がいれば手を伸ばす。

 それが赤の団団長です。

 例え、サナラがちょっと地脈を操る天才だからという理由で、サナラが困ったときに。団長が手を伸ばさない理由には、ならないのです。信頼していい人なんです、団長は。

 

 「分かりました団長、私の力を使ってください!」

 

 サナラはコクコクと頷き、こくりと頷き返す団長を見て泣き出し、団長に飛びつき。

 団長はサナラの背を優しく撫で続けました。

 そして、泣きつかれたサナラをアトナテスに預けた団長はふと、私に呟きます。

 

 「ソラス」

 「はい」

 「君も……いや、なんでもない。そうならないのが一番だ」

 

 団長は何を言おうとしたのでしょうか。

 私達を置いて、一人で歩み去っていく姿に、何か不安な物を私は感じました。

 

 

 

 本当に、出会いと言うのは不思議な物です。

 助けたい。生きてくれ。

 英雄王のその思いが、サナラを救い、彼女は後の英傑になりました。

 

 大地を紡ぐ者サナラ。

 明るく元気な言動に、人々を勇気づけさせ。

 地脈操る力を操り、他者に力を与える。

 それが、伝記にあるサナラでしょうね。

 

 そうです。

 サナラが寿命を、自身以外の寿命を、操ろうと思えば、容易く操れるという記述はありません。

 英雄王は生涯、サナラのその力だけは、何があっても口外しませんでした。

 知っているのは、後に英傑と呼ばれる私とアトナテス。それに、本人から聞いた王子君ぐらいでしょうね。

 後から出会う英傑達は皆すでに長命でしたし。

 

 そして、記憶さえ封じなければ。

 私と同じく。英雄王の最期まで付き添い続けたといえる、英傑の一人でした。

 

 

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