千年前戦争アイギス 占星術師の昔話   作:青き男

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黒ユージェンおりゅうううう!


エピソード7 それは後の王国

 サナラが赤の団に加入してから、早くも半年は経ちました。

 その半年の間に、大国は魔物の攻勢にまだ耐えれていますが。

 いくつかの、戦う力のある小国以外は国々はいくつか滅びました。

 その度に、赤の団は彼らを助けに向かいます。

 そして避難民を抱えて帰ってきます。

 けれどその日。ついに、その時が来ました。

 

 「もう、中央の強国が抱えられる難民の限度を超えた」

 

 怒る訳でも悲しむ訳でもなく、ただ粛々と現実を受け入れ、団員に団長は告げました。

 中央の強国が抱えるには、避難民達があまりにも増えすぎましたのでしょう。

 

 受け入れ拒否です。

 ですが、これは仕方のないことです。魔物が物質界を荒らして回るたびに、少しずつ、少しずつ。

 生きていく為の基盤が壊されています。

 彼等を、哀れな被害者として、救う手はもはや、物質界で最も強い、中央の強国とて容易に伸ばせなくなりました。

 

 ですので、団長は彼らを赤の団に加えました。

 彼等を、助けるだけ助けて放置することは。魔物が跋扈する世界に、無責任に放り投げる事と変わりません。

 端的に言えば、死を要求することと変わりません。

 団長が、それを容認するはずがありませんでした。

 

 この頃から、赤の団に非戦闘員は存在せず。という暗黙の規則は形骸化し始めました。

 難民達の中にも、戦う意志を持ち、剣や弓、杖を握る者は現れましたが。

 全員が全員戦う意志を持てた訳ではありません。生気を失った目をしたまま、ただ死にたくないから赤の団にいる。

 そんな、戦うことを諦めた人達もいます。

 

 でもまぁ戦わないからという理由で、食事出さない訳にもいかず。

 また戦わないのに、無償で食事を提供するにも限度があります。

 代わりにといっては何ですが。

 

 「団長何してるんですか?」

 「皿回し」

 「意外と難しいなこれ」

 

 いつだかのように、樽に乗りながら、団長は両手に棒を持ち、その先で木皿を器用に回してます。

 アトナテスは紫竜さんに乗っていました。ですが、ポロポロと木皿を落としては紫竜さんが拾い上げてます。

 大道芸ですね。はい。

 何でこんなことに。

 

 「ソラスちゃんもどうですか」

 「あっはい」

 

 サナラから手渡された棒に木皿を乗せて、クルクルっと……あれ、落ちました。

 むぅ、棒先と皿底の位置をじゃなくて!

 

 「だから、何をしているんですか団長!?」

 「色々とやってみようかと思ってね」

 

 問い詰めてみるが、団長は惚けたような感じを崩しません。

 そして、何人か。剣士としても、弓兵としても適性があまり良くなかった元避難民達に、皿回しやら、ジャグリング、ナイフ投げを教え。果ては、ただの村娘だった女の子に、踊り子として育成するとか言って、アトナテスと酒飲みがするような、肩を組み泥酔ダンスを始めたり。

 

 「とう!」

 「イェイ!」

 

 どこかの国にありそうな、ワルツをサナラと踊ります。

 実に楽しく。

 まったく。どうせなら私と……いえいえ、流されてはいけませんソラス。

 私がしっかりしないと、この三人いつまでも遊び続けます。

 

 「ソラスも一曲いかがかな」

 

 差し出された団長の手に、私は反射的掴んでしまい、足が勝手に動き出します。

 もう、一曲だけですからね団長。

 

 こうして、大道芸やら踊りやら、戦いだらけの世界に。魔物の襲撃をものともせず、各地に現れ娯楽を提供する。

 赤の団の曲芸団が生まれました。

 魔物の影響で、迂闊に世界を回れなくなり、離散した曲芸団の代わりに私達赤の団がその役を奪い、もとい行うことで。

 少なからず収益を得て、そのお金で高騰しつつある物資の補給を、赤の団が自前で行いました。

 蛇足ですが、興行している内に自信がついたのか。ある道化師やダンサーが戦場に立ち。彼等を見ることで、兵士達にやる気がでた。なんてことがありました。

 

 「団長何してるんですか?」

 「鍛冶」

 「団長これは、地脈の力が。それはもう、溢れんばかり受けた良い鉄ですよ!角の形にして、アトナテスの紫竜ちゃんに被せて角を増やしましょう!」

 「却下だ」

 「何でですかー!?アトナテスは紫竜ちゃんにおしゃれさせたいと思わないんですか!?」

 「あれで最高なんだよ相棒は!」

 

 騒ぐアトナテスとサナラを他所に、カーンカーンと、団長は鉄を叩いていたと思ったら。

 唐突に。国を失ったばかりの、鍛冶職人の女性に、そのハンマーで俺に殴りかかって来いと言い。団長は、その鍛冶職人のハンマーを叩いていた鉄の延棒で受け。ふむと頷き。

 

 「侮れないな」

 

 そうポツリと言葉を零すと、頭に疑問符を浮かべている鍛冶職人を他所に、再びカーンカーンと鉄を叩き始めました。

 ちなみに団長が鍛錬した剣は、初めてとは思えない天才だ。職人気質が多い鍛冶職人の方が、そう謙遜なく褒める剣が出来上がったそうです。

 

 後日、戦場に鍛冶職人が出撃するようになりました。鍛冶諸君達は生粋の戦士ではありませんでしたが、普段が普段の作業なだけに、必要とならばハンマーで魔物を殴り倒し、また破損した武具をたちまち治す鍛冶職人が前線に来てくれると、何かと便利らしく。ソルジャーやヘビーアーマーの人達が喜んでいました。

 また、鍛冶職人達の技術を各地の集落や村に、戦い以外の困りごとの対処をさせたりもしていました。

 

 「団長何を――」

 

 団長がいると聞いた部屋に入り、言いかけた言葉を、団長が指を口に当てる手振りに慌てて閉ざします。

 団長に対するように座る人物が、身なりのいい、おそらく商人でした。

 何か、重要な話をしていると察して、退出しようと思ったら団長に呼び止められたので、団長の隣に立ちます。

 直立不動です。はっきり言って、気の利いた言葉を出せる気はしませんでしたので。出来るかぎり石像でいようと思いました。

 

 「紹介致します。こちら赤の団の占星術師ソラスと言います。彼女の占星術にはいつも助けられています」

 「あぁ貴方が、例の撤退戦で名を馳せた、占星術師ソラス殿ですか。美しいお嬢さんですな」

 「えぇ、彼女は絶世の美女ですよ」

 

 えへへ、絶世の美女ですか。世辞でも悪い気分ではありませんね。

 団長。私に世辞だと思われたくないなら、ぜひとも、もっとロマンチックな雰囲気な時にもう一度言ってくださいね。

 そしたら、もっと本気になる事間違いないですよ。

 まぁ頬はにやけてしまってますがね、でぇへへ。

 

 何て思っている内に、団長と商人さんの話は終わったようです。

 やれ塩や砂糖、武器の仕入れだの、曲芸団を向かわせるだの、色々と話し合っていました。

 つまるところ、商談です。団長は普段から、中央の強国の国王とは話をしているようでしたが。

 最近は商人のようなことも、始めたようです。

 団員達の中に元商人がいたらしく。その人の交渉手段を参考にしているみたいです。

 そして、お互いに笑顔のまま握手をしていたので、たぶん上手くいったのでしょうね。

 

 「団長話はどうでした?」

 

 タイミングを見計らったように、サナラがやってきました、サナラはどうにも感が良いです。

 団長が忙しくなる直前に、サッといなくなったと思ったら、落ち着けるというタイミングになると、どこからか現れます。

 その為か、この頃私は団長と二人きりになったのは、執務室で書類と敵対している時くらいです。

 

 「明日にでも砂糖菓子が手に入る。子供達と分け合おう」

 「わぁい!」

 

 はしゃぎ、飛びつくサナラを団長は優しくその頭を撫でます。

 その姿は兄と妹のよう……いえ、サナラは童顔なのに、なかなかどうして強力な()を持っています。

 そしてそれを、惜しげもなく団長に押し付けています。

 まさか、あれは計算された所作なのでは。

 じっと二人の姿を見ていると。

 

 「団長、ソラスちゃんも頭を撫でてほしいみたいですよ」

 「えっ」

 

 思わぬサナラからの狙撃に、私は硬直し。

 団長は私をじっと見つめてきます。

 

 やる気ですか。団長、やっちゃうんですか。

 え、えぇ。いいですとも、私はいつでも構いませよ。

 労わる様に、優しく、出来る事ならサナラより丁寧に撫でてくだ――。

 

 「サナラ。ソラスを困らせちゃいけないよ」

 「はぁい」

 

 団長は微笑みを浮かべ。サナラはサナラで、団長の胸板に、顔をすりすりとしていますね、羨ましいぃいい。

 団長の体に触るなんて、私には何か月に一度のイベントだというのにぃいい。

 内心沸き上がる感情を私は押さえつけます。

 私は赤の団占星術師ソラス。常にクールでミステリアスな女ですとも。

 えぇ。

 もう!。

 

 こうして、団長は赤の団でも難民を受け入れ始めてからというもの。戦い以外に、本当に色々なことをやりました。

 何の為。答えは単純です、誰も飢えさせない為です。

 中央の強国からの支援自体はまだありますが、それでは私達が抱えることになった難民達。全員の食糧となると足りません。

 そうなると、自分達で食糧を確保するしかありません。

 

 土地を持たない私達が農耕。無理です。ならほかの手段しかありません。

 遊牧も、団長は視野に入れたみたいですが、家畜を囲うとなると、移動できる道が途端に限られます。

 そうなると、神出鬼没の魔物の対処が、攻めるにも守るにも遅れます。

 誰かが言った。兵は神速を尊ぶの真逆です。団長はそんな愚を選択はしません。

 

 道化師やらダンサー、鍛冶職人、商人。それらは常に移動しながら営みを送る赤の団が、利益を生み出すのに、最適な仕事でした

 一部戦闘で何かと効果を上げたのは確かですが、原則はお金の為、そして食糧を手に入れる為です。

 

 可笑しな話ですよね。

 誰よりも、誰かを助けたいと言った団長が。誰かを助けるよりも前に。赤の団を潰さない為に、その才能を様々な方向へ使い潰し。団員達を守る方向へ舵取りを初めています。これでは、魔物と戦っているだけで、利益を追い求める傭兵団と変わりません。

 

 もっとも、それで現状。私達が誰も飢えていない以上。

 次から次へと、その才能を使い着実に利を生み出す。

 団長と言う大きな存在に、団員皆が寄りかかっていることには違いないです。

 私は占星術師。星を見て導き。星を降らせ魔物と戦う。

 

 それは出来ても、それで団員達を飢えさせない為の知略も、才能もありません。

 ましてや、組織を運用する力、カリスマなんて。

 

 非難なんて、赤の団にいる人間が言う資格がありません。

 誰かが言ったのならば。少なくとも、私含めて三人は苛烈な怒りを持って、対処していたことでしょう。

 幸い、そんなことは起きませんでした。そういった団員の感情のコントロールまでも、団長は丁寧に行っていました。

 何から何まで、団長が一人で。

 

 団長は今でも、魔物を嗅ぎつけては一人で走り出すことがあります。

 でも、誰も置いていこうとはしません。

 その結果。

 団長と言う多くの才持つ、遍く人々に手を差し伸べる巨鳥が。助けた人々という枷により、雁字搦めになろうとしています。

 団長が、団長である為に。

 

 皮肉な話ですよね。

 団長の足を引っ張りたくないと思っていたのに、気が付けば、ちょっと占星術が使えるだけの、足を引っ張る団員達の一人に仲間入りですよ。

 情けない話です。

 もっと頑張らないと。

 具体的には……。

 ここで、サッと案が思い浮かばのが、私と団長の決定的違いでしょうね。

 

 「さて、やってみようか」

 「おっし狩りだ狩り」

 「おいしいキノコをたくさん採りますよ!」

 

 弓と罠。今度はレンジャーですか。

 森へ行って狩猟をしてみる見たいです。

 本当に、団長は多才です。やろうと思えば何でも出来そうです。

 本人が望むならば、何でも。

 

 今日も今日とて、悪しき魔物を討伐する赤の団は、魔物が蔓延る陰鬱な世の中ですが。

 今日も飢えることなく元気です。

 右を見ても、左を見ても。どこを見ても、笑みがあります。

 今日の芸は上手くいった、この前の商談が上手くいった。

 訓練で良い成果を上げれた、難しい魔法が使えるようになった。

 様々な笑みが、零れていました。

 

 「ソラス、星を見ないか」

 

 そう、嬉しい誘いの言葉をかける団長だけは、笑っていませんでした。

 その日は珍しく、アトナテスもサナラも団長の側にいませんでした。

 何か、用事があるのでしょうか。はたまた、団長は実は撒こうと思えば、いつでも二人を撒けれたのでは。

 東の方にある大国出身の人から、隠密なる極意を学ぼうとしていたと聞いたので、それの効果でしょうか。

 

 美しい夜空が私達を見守り中、私があれこれ考えていますが。

 団長はぐしぐしと、手のひらで目元をマッサージをしています。

 疲れているんでしょうね。

 

 戦い、執務して、戦闘員、非戦闘員問わず指導して、何やら勉強をして。

 団長は短い睡眠時間以外、一人で静かに落ち着いて。団長と言う肩書を脱いで、呆けてる暇があるんでしょうか。

 いえたぶん。ないです。もはや誰にも団長の隣で、執務していることを疑われなくなり。サナラとアトナテスと、多くの団員達と共に、常にあれこれとしている団長を見ている私が断言します。そんな団長を見た事がありません。

 

 だからたぶん、この時間は私が何かしなければ団長が、休むことが出来る特別な時間。

 ……特別?え、もしかしてこれ特別なんですか。特別って言っていいのでしょうか!?

 

 「ソラス」

 「はい」

 

 名前を呼ぶ声音で悟りました。

 あっ、これシリアスですね。

 ふざけたこと言ったら、団長に心底呆れられそうです。

 

 「限界が来てる」

 「限界ですか?」

 「あぁ、赤の団は今までと、全く異なる運営をしないといけない。そういった時期が来たと言えるね」

 

 限界、異なる運営。

 それに私はピンと来ました。なるほど、アレですね。

 赤の団は連日。

 正規軍となり、一軍の将として国を守らないかといった話を、中央の強国含めた色々な国々に、持ちかけられています。

 元を辿れば冷笑されることもある。人助け集団だった赤の団を思えば、破格の待遇です。

 

 ですが当然ですね。団長は巷では、武と知と魔。そして勇と慈を兼ね備えた英雄と呼ばれ。

 アトナテスが訓練し、サナラが地脈の力で団員達の力を底上げし、私が魔術の指導した団員達の中にも、名が知られ始める人も出てきて。団長曰く。銀や金の如き輝きを持つ人達が、増えたと言っています。

 こと武力だけは、どこの国と戦うことになったとしても、勝てなくても、乗り切れると自信を持って言えます。

 

 そんな私達赤の団が正規軍として、まぁ懇意にしていて、王様との仲も悪くない中央の強国でしょうね。強国の一員として戦う。

 なるほど、いいアイデアでしょう。少なくとも、団長が飢えさせない為にと、あれこれ苦心しなくてもよくなり。

 団の皆が魔物との戦いに、集中できるようになるでしょう。

 

 けど、初志貫徹な団長が、中央の強国の正規軍になるのかと思うと、ちょっと意外です。

 団長がこの手の誘いはもっと前から。それこそ、赤の団発足した時点で、中央の強国の王様から直々に誘いがあったようですが、団長はその度に断りを入れていたようです。

 正規軍になるということは、その国の為に戦うことになります。そうなると、気軽に国境を超えて、魔物に襲われる人達を助けに行くことが難しくなります。

 団長は、誰かを助けたいのではなく、誰であっても助けたいのです。

 そんな赤の団の信念ともいえるものを、団長が変えるのか、と思っちゃいました。

 

 ……いえ、だからこそ。団長は限界と表現したのでしょね。

 例え信念を変えることになっても、私達赤の団が離散しないように。

 私達を思ってと思うと、情けなくもあり、嬉しくもあります。

 

 「ただまぁ上手くいくかどうかと思うと、心配でね」

 「団長でも心配するんですね」

 「当然さ。俺をなんでも出来ると言う人がいるが。そんなことはないさ。俺でも失敗はするよ」

 「本当ですかぁ?」

 「困ったな。俺はいつからソラスに超人扱いされるようになったんだい?」

 

 薄く微笑む団長に、私も笑ってしまいました。

 そして、出会った時から、という言葉は飲みました。

 それにしても、団長が心配をするなんて。いえ、団長も心配して当然ですよね、団長とて一人の人間ですから。

 なら、それを解消して見せるのが、占星術師のソラスの出番ですね。

 任せてください団長、ドーンと解決させますよ。

 

 「ですが団長、心配ならそれを解消するいい手がありますよ」

 「どんな手だい?」

 「空を見よ!」

 

 ズビシっと指先を空に指します。

 

 「…………」

 「…………」

 

 沈黙ですか。止めてください恥ずかしいです。

 何された訳でも、何言われた訳でもないのに、顔に熱が集っているのを感じます。

 もっとこう、決め台詞が似合ういい女にならないと、こういった台詞は言っちゃいけないですね。

 学習しました。だから、いい加減何かしら反応してください、本当に恥ずかしいです!

 

 「空か」

 

 一考してから、団長は空を見上げ。

 

 「星の導きかな」

 

 微笑むその姿に、何か寂しさを私は感じました。

 

 「えっと……」

 

 そうです星の導きが団長を見守っています。

 と言うつもりでしたが、その寂しい笑みに、何故か言葉を紡ぐことができませんでした。

 きっと、直感で団長が求めている答えではないと、分かりました。

 

 「あの、そのなんというか。えっと、その!あれです!」

 

 言うつもりだった言葉が出せないとなり、私は慌てふためきます。

 おかしいですよね、言いたい言葉は見つかっているのに。

 

 「うぅ……」

 

 慌てふためき、落ち込む私を団長は何も言わずに、信頼を感じる目でじっと見守ってくれます。

 いつものように、いつかのように。

 気が付けば、私は団長の暖かな手を取り。

 その手を、それなりに膨らんだ胸の下、トクントクンと動く心臓に当てます。

 

 自分でも、とんでもないことをやっている自覚はありましたが。

 これだけ伝えないといけないと思っていました。

 星の導きではなく、私の言葉を、想いを。

 

 「団長ならきっと出来ますよ。私はそう信じています」

 

 団長は、目を見開き。

 ゆっくりと前髪の奥にある瞼を閉じ。

 頬を少し赤くしながら柔和な笑み、赤の団団長でもない、英雄でもない。

 この頃、名乗るまでもなく赤の団団長と知られているので、使われなくなった名。アルトという、一人の青年の笑みを浮かべた。

 そう、感じたのは私の驕りでしょうか。

 

 「俺なら出来るか……」

 

 小さな声を共に、団長の瞳が開かれました。

 

 「ありがとうソラス」

 

 そう言った団長には、決意を秘めた表情を浮かべていました。

 あぁもうどうしてこう、決意を固めた男性は、魅力的に映るのでしょうか。

 もう何もかも差し出してしまいそうです。

 今直接、私の心臓の鼓動を感じている団長には、私の考えが筒抜けでしょうね。

 顔を真っ赤にしながら、笑うしか私には出来ませんでした。

 

 その後私達は眠る時間を惜しみ、一秒一秒の時を感じながら。

 二人で星を眺め続けました。

 もし、この時団長が襲っていたら、私は抵抗でき。いえたぶん、しなかったでしょうね。

 

 お互い、色を知る歳と言われたら否定できませんのに。

 団長はそういったことは、ある種合意ならばやりたい放題しても咎められないのに、全然しませんでした。

 団長にとって、赤の団にいる全ての人は、守るべき対象だったからでしょうか。

 私とて年頃の女です。そりゃ男の人を意識したことは、ありますが。

 だからといって、誰にでも体を許す気はありませんよ。当然です。

 

 そうなると、許す気のある男性。

 ……はい、はっきりいって団長ですね。本人はその気はないでしょうが、スキンシップが過剰な、可愛らしいサナラがあまりにもベタベタするものだから。私も焦り。

 執務室で二人きりの状況にこれ幸いと思い。さりげなく、上着を脱いだりしたり。団長との距離を詰めたり等、多少アプローチを仕掛けたことがありますが。

 それでも団長は反応することはありませんでした。

 

 結局の所、私もその他の団員達と同じく。団長には一団員としても、女としても重要視されていないのでしょうか。

 そう思ったら……悲しいですね。

 

 翌日。赤の団は進路を変えました。

 中央の強国の方へ行くと、私は思っていました。

 ですが、団長が行く道は私の予想とは異なり、中央よりも西の方へ。

 すでに滅びた小国達が、かつては土地を巡って争っていた。肥沃な森林地帯へ。

 ですがそこにはもう、人がいません。

 人々が争いを止め、自国の防衛すらままならず滅び、魔物が支配する土地となっています。

 

 ざわざわと、団員達が団長の意図が分からず騒ぎ出します。

 私達赤の団は、人を助ける為に行動しているので、人がいないと分かり切っている場所を向かう理由がありません。

 すたすたと先を行く団長に声をかけ辛いためか、何人かが、私に説明を求めましたが私にも分かりません。

 

 「団長には何か考えがあるんだろ」

 

 アトナテスが能天気と言えば聞こえは悪いですが、そうとしか思えないので、団員達はそれで一応は納得します。

 そして、森の奥。少し開けた場所に到着すると、団長はくるりと振り返り。

 

 「皆、聞いてくれ」

 

 そう言ったので老若男女問わず、団員達は団長の声を聞き静まり返ります。

 

 「"私"達は魔物達に家族を、故郷を奪われた。そして、それに悲しみを怒りを、皆は抱いたはずだ。例えそうでなくとも、魔物が人々を襲うたびに生まれる悲しみに、心を打たれていない者はいないと、私はそう思っている」

 

 団長の言葉に、アトナテスは頷きました。

 彼は何かと経歴不明です。どうにも、過去に恐ろしい師匠がいたとかなんとか言っていましたが。

 魔物に襲われ、滅びる集落、村、国々を団長と共に見ていく内に、思う所があったのか。

 出会った頃、人を救うと言われても、ピンとこないと言っていましたが。

 今では、団長と同じく。魔物が困った人がいると聞けば、団長が指示するまでもなく、率先して戦いに赴くようになりました。

 

 「私達は奪われ続けた。そして、その悲しみは世界中あらゆる場所で起こっている。その規模は大きく。大国すらも魔物によって滅ぼされようとしている。このままではやがて。諦観の内に、魔物と戦い果てるのではなく。人と人が、残り僅かな物資を求めて争い滅びる」

 

 団長の言葉に、サナラは頷きました。

 お菓子がこの頃、食べられなくなっているみたいです。高価が理由だけではありません。お菓子の原料になる物がないのです。

 それだけならまだしも、少しずつ本当に少しずつですが、団長の指示で一食の量が減り始めています。

 どこもかしくも、魔物が穀倉地を踏み荒らしていくので。

 物質の供給が滞り始め、贅沢品を生み出す余裕がないのです。

 贅沢品を生み出せなくなると、それ以上の被害を受けると、今度は必要な物ですら生み出せなくなります。

 悪循環にすでにはまっているのに、魔物がいつまで経っても全滅しないので、抜け出せなくなっています。

 

 「だから私達は私達の手で、食べ物を作り、衣服を作り、住居を作り始めなければいけない。私達が、魔物と戦い。人々を助ける。そんな私達、赤の団であり続ける為にも。今は、食事をこの豊かな森から恵みを貰おう。そして、森を拓いて、鍬を手にして、大地の実りを手にしよう。衣服は今は買うしかないが、少しずつ糸を紡ぎ布を服にしよう。あとは皆で家を作ろう。最初は、木と泥の家ばかりで頼りないだろう。魔物から守ってくれそうな立派な壁、頑丈な石造りの家なんて夢のまた夢だ。でも、それだけあれば、今の私達なら十分暮していける」

 

 団長の言葉に、皆が頷きました。

 すでに、泣いてる人もいます。家族を奪われ、故郷を奪われ、どこもかしくも魔物に奪われる世界で。食べ物を作り、服を作り、家を作る。赤の団に入ってから、色んな事をしている内に。そんなかつてはあった生活、忘れそうになった当たり前を、一緒にやろうと言う人がいるのです。

 人の形をした希望が、私達の前に居たのです。

 

 「私達は、私達の手で住むところを作るんだ。だから、ここを赤の団の拠点として。ここから。物質界の人々を助ける手を伸ばそう。私に賛同する者は、私と共にここから、私達の生活を取り戻すんだ!」

 

 団長の声が、私達の心を震わせます。

 

 「団長!団長!」

 「うぉおおお!俺は団長に付いていくぜ!」

 

 森の中、歓声が上がります。

 反対し、赤の団から離れようとする人は誰もいませんでした。

 

 それにしても、団長には毎度驚かされますね。

 私はてっきり中央の強国の正規軍になると思っていましたが。

 団長は私の想像を、軽々と上を行きます。

 

 私達が赤の団でいる為に、赤の団で拠地を構え、赤の団のまま人を救い続ける。

 こんなこと、団長以外誰が思いつき、誰が実行できるでしょうか。

 本当に、団長は凄いです。

 

 「よし、さっそく行動開始だ!」

 

 団長の指示のもと、赤の団の拠点を作り始めます。

 忙しくなる。そんな予感が、何だか嬉しいと思いながら、この活気あふれる光景を胸に刻みました。

 

 

 

 こうして、赤の団の、拠点が生まれました。

 まだ、国ではないです。拠点です。これ重要です。

 ですがまぁ歴史と言うのは不思議ですよね。

 ただ川があって、森があって、平地もあって、行こうと思えば海もいける。

 そんな理由で、英雄王が選んだ土地が、千年経っても続く王国の始まりの地なんですから。

 

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