黒ユージェンおりゅうううう!
サナラが赤の団に加入してから、早くも半年は経ちました。
その半年の間に、大国は魔物の攻勢にまだ耐えれていますが。
いくつかの、戦う力のある小国以外は国々はいくつか滅びました。
その度に、赤の団は彼らを助けに向かいます。
そして避難民を抱えて帰ってきます。
けれどその日。ついに、その時が来ました。
「もう、中央の強国が抱えられる難民の限度を超えた」
怒る訳でも悲しむ訳でもなく、ただ粛々と現実を受け入れ、団員に団長は告げました。
中央の強国が抱えるには、避難民達があまりにも増えすぎましたのでしょう。
受け入れ拒否です。
ですが、これは仕方のないことです。魔物が物質界を荒らして回るたびに、少しずつ、少しずつ。
生きていく為の基盤が壊されています。
彼等を、哀れな被害者として、救う手はもはや、物質界で最も強い、中央の強国とて容易に伸ばせなくなりました。
ですので、団長は彼らを赤の団に加えました。
彼等を、助けるだけ助けて放置することは。魔物が跋扈する世界に、無責任に放り投げる事と変わりません。
端的に言えば、死を要求することと変わりません。
団長が、それを容認するはずがありませんでした。
この頃から、赤の団に非戦闘員は存在せず。という暗黙の規則は形骸化し始めました。
難民達の中にも、戦う意志を持ち、剣や弓、杖を握る者は現れましたが。
全員が全員戦う意志を持てた訳ではありません。生気を失った目をしたまま、ただ死にたくないから赤の団にいる。
そんな、戦うことを諦めた人達もいます。
でもまぁ戦わないからという理由で、食事出さない訳にもいかず。
また戦わないのに、無償で食事を提供するにも限度があります。
代わりにといっては何ですが。
「団長何してるんですか?」
「皿回し」
「意外と難しいなこれ」
いつだかのように、樽に乗りながら、団長は両手に棒を持ち、その先で木皿を器用に回してます。
アトナテスは紫竜さんに乗っていました。ですが、ポロポロと木皿を落としては紫竜さんが拾い上げてます。
大道芸ですね。はい。
何でこんなことに。
「ソラスちゃんもどうですか」
「あっはい」
サナラから手渡された棒に木皿を乗せて、クルクルっと……あれ、落ちました。
むぅ、棒先と皿底の位置をじゃなくて!
「だから、何をしているんですか団長!?」
「色々とやってみようかと思ってね」
問い詰めてみるが、団長は惚けたような感じを崩しません。
そして、何人か。剣士としても、弓兵としても適性があまり良くなかった元避難民達に、皿回しやら、ジャグリング、ナイフ投げを教え。果ては、ただの村娘だった女の子に、踊り子として育成するとか言って、アトナテスと酒飲みがするような、肩を組み泥酔ダンスを始めたり。
「とう!」
「イェイ!」
どこかの国にありそうな、ワルツをサナラと踊ります。
実に楽しく。
まったく。どうせなら私と……いえいえ、流されてはいけませんソラス。
私がしっかりしないと、この三人いつまでも遊び続けます。
「ソラスも一曲いかがかな」
差し出された団長の手に、私は反射的掴んでしまい、足が勝手に動き出します。
もう、一曲だけですからね団長。
こうして、大道芸やら踊りやら、戦いだらけの世界に。魔物の襲撃をものともせず、各地に現れ娯楽を提供する。
赤の団の曲芸団が生まれました。
魔物の影響で、迂闊に世界を回れなくなり、離散した曲芸団の代わりに私達赤の団がその役を奪い、もとい行うことで。
少なからず収益を得て、そのお金で高騰しつつある物資の補給を、赤の団が自前で行いました。
蛇足ですが、興行している内に自信がついたのか。ある道化師やダンサーが戦場に立ち。彼等を見ることで、兵士達にやる気がでた。なんてことがありました。
「団長何してるんですか?」
「鍛冶」
「団長これは、地脈の力が。それはもう、溢れんばかり受けた良い鉄ですよ!角の形にして、アトナテスの紫竜ちゃんに被せて角を増やしましょう!」
「却下だ」
「何でですかー!?アトナテスは紫竜ちゃんにおしゃれさせたいと思わないんですか!?」
「あれで最高なんだよ相棒は!」
騒ぐアトナテスとサナラを他所に、カーンカーンと、団長は鉄を叩いていたと思ったら。
唐突に。国を失ったばかりの、鍛冶職人の女性に、そのハンマーで俺に殴りかかって来いと言い。団長は、その鍛冶職人のハンマーを叩いていた鉄の延棒で受け。ふむと頷き。
「侮れないな」
そうポツリと言葉を零すと、頭に疑問符を浮かべている鍛冶職人を他所に、再びカーンカーンと鉄を叩き始めました。
ちなみに団長が鍛錬した剣は、初めてとは思えない天才だ。職人気質が多い鍛冶職人の方が、そう謙遜なく褒める剣が出来上がったそうです。
後日、戦場に鍛冶職人が出撃するようになりました。鍛冶諸君達は生粋の戦士ではありませんでしたが、普段が普段の作業なだけに、必要とならばハンマーで魔物を殴り倒し、また破損した武具をたちまち治す鍛冶職人が前線に来てくれると、何かと便利らしく。ソルジャーやヘビーアーマーの人達が喜んでいました。
また、鍛冶職人達の技術を各地の集落や村に、戦い以外の困りごとの対処をさせたりもしていました。
「団長何を――」
団長がいると聞いた部屋に入り、言いかけた言葉を、団長が指を口に当てる手振りに慌てて閉ざします。
団長に対するように座る人物が、身なりのいい、おそらく商人でした。
何か、重要な話をしていると察して、退出しようと思ったら団長に呼び止められたので、団長の隣に立ちます。
直立不動です。はっきり言って、気の利いた言葉を出せる気はしませんでしたので。出来るかぎり石像でいようと思いました。
「紹介致します。こちら赤の団の占星術師ソラスと言います。彼女の占星術にはいつも助けられています」
「あぁ貴方が、例の撤退戦で名を馳せた、占星術師ソラス殿ですか。美しいお嬢さんですな」
「えぇ、彼女は絶世の美女ですよ」
えへへ、絶世の美女ですか。世辞でも悪い気分ではありませんね。
団長。私に世辞だと思われたくないなら、ぜひとも、もっとロマンチックな雰囲気な時にもう一度言ってくださいね。
そしたら、もっと本気になる事間違いないですよ。
まぁ頬はにやけてしまってますがね、でぇへへ。
何て思っている内に、団長と商人さんの話は終わったようです。
やれ塩や砂糖、武器の仕入れだの、曲芸団を向かわせるだの、色々と話し合っていました。
つまるところ、商談です。団長は普段から、中央の強国の国王とは話をしているようでしたが。
最近は商人のようなことも、始めたようです。
団員達の中に元商人がいたらしく。その人の交渉手段を参考にしているみたいです。
そして、お互いに笑顔のまま握手をしていたので、たぶん上手くいったのでしょうね。
「団長話はどうでした?」
タイミングを見計らったように、サナラがやってきました、サナラはどうにも感が良いです。
団長が忙しくなる直前に、サッといなくなったと思ったら、落ち着けるというタイミングになると、どこからか現れます。
その為か、この頃私は団長と二人きりになったのは、執務室で書類と敵対している時くらいです。
「明日にでも砂糖菓子が手に入る。子供達と分け合おう」
「わぁい!」
はしゃぎ、飛びつくサナラを団長は優しくその頭を撫でます。
その姿は兄と妹のよう……いえ、サナラは童顔なのに、なかなかどうして強力な
そしてそれを、惜しげもなく団長に押し付けています。
まさか、あれは計算された所作なのでは。
じっと二人の姿を見ていると。
「団長、ソラスちゃんも頭を撫でてほしいみたいですよ」
「えっ」
思わぬサナラからの狙撃に、私は硬直し。
団長は私をじっと見つめてきます。
やる気ですか。団長、やっちゃうんですか。
え、えぇ。いいですとも、私はいつでも構いませよ。
労わる様に、優しく、出来る事ならサナラより丁寧に撫でてくだ――。
「サナラ。ソラスを困らせちゃいけないよ」
「はぁい」
団長は微笑みを浮かべ。サナラはサナラで、団長の胸板に、顔をすりすりとしていますね、羨ましいぃいい。
団長の体に触るなんて、私には何か月に一度のイベントだというのにぃいい。
内心沸き上がる感情を私は押さえつけます。
私は赤の団占星術師ソラス。常にクールでミステリアスな女ですとも。
えぇ。
もう!。
こうして、団長は赤の団でも難民を受け入れ始めてからというもの。戦い以外に、本当に色々なことをやりました。
何の為。答えは単純です、誰も飢えさせない為です。
中央の強国からの支援自体はまだありますが、それでは私達が抱えることになった難民達。全員の食糧となると足りません。
そうなると、自分達で食糧を確保するしかありません。
土地を持たない私達が農耕。無理です。ならほかの手段しかありません。
遊牧も、団長は視野に入れたみたいですが、家畜を囲うとなると、移動できる道が途端に限られます。
そうなると、神出鬼没の魔物の対処が、攻めるにも守るにも遅れます。
誰かが言った。兵は神速を尊ぶの真逆です。団長はそんな愚を選択はしません。
道化師やらダンサー、鍛冶職人、商人。それらは常に移動しながら営みを送る赤の団が、利益を生み出すのに、最適な仕事でした
一部戦闘で何かと効果を上げたのは確かですが、原則はお金の為、そして食糧を手に入れる為です。
可笑しな話ですよね。
誰よりも、誰かを助けたいと言った団長が。誰かを助けるよりも前に。赤の団を潰さない為に、その才能を様々な方向へ使い潰し。団員達を守る方向へ舵取りを初めています。これでは、魔物と戦っているだけで、利益を追い求める傭兵団と変わりません。
もっとも、それで現状。私達が誰も飢えていない以上。
次から次へと、その才能を使い着実に利を生み出す。
団長と言う大きな存在に、団員皆が寄りかかっていることには違いないです。
私は占星術師。星を見て導き。星を降らせ魔物と戦う。
それは出来ても、それで団員達を飢えさせない為の知略も、才能もありません。
ましてや、組織を運用する力、カリスマなんて。
非難なんて、赤の団にいる人間が言う資格がありません。
誰かが言ったのならば。少なくとも、私含めて三人は苛烈な怒りを持って、対処していたことでしょう。
幸い、そんなことは起きませんでした。そういった団員の感情のコントロールまでも、団長は丁寧に行っていました。
何から何まで、団長が一人で。
団長は今でも、魔物を嗅ぎつけては一人で走り出すことがあります。
でも、誰も置いていこうとはしません。
その結果。
団長と言う多くの才持つ、遍く人々に手を差し伸べる巨鳥が。助けた人々という枷により、雁字搦めになろうとしています。
団長が、団長である為に。
皮肉な話ですよね。
団長の足を引っ張りたくないと思っていたのに、気が付けば、ちょっと占星術が使えるだけの、足を引っ張る団員達の一人に仲間入りですよ。
情けない話です。
もっと頑張らないと。
具体的には……。
ここで、サッと案が思い浮かばのが、私と団長の決定的違いでしょうね。
「さて、やってみようか」
「おっし狩りだ狩り」
「おいしいキノコをたくさん採りますよ!」
弓と罠。今度はレンジャーですか。
森へ行って狩猟をしてみる見たいです。
本当に、団長は多才です。やろうと思えば何でも出来そうです。
本人が望むならば、何でも。
今日も今日とて、悪しき魔物を討伐する赤の団は、魔物が蔓延る陰鬱な世の中ですが。
今日も飢えることなく元気です。
右を見ても、左を見ても。どこを見ても、笑みがあります。
今日の芸は上手くいった、この前の商談が上手くいった。
訓練で良い成果を上げれた、難しい魔法が使えるようになった。
様々な笑みが、零れていました。
「ソラス、星を見ないか」
そう、嬉しい誘いの言葉をかける団長だけは、笑っていませんでした。
その日は珍しく、アトナテスもサナラも団長の側にいませんでした。
何か、用事があるのでしょうか。はたまた、団長は実は撒こうと思えば、いつでも二人を撒けれたのでは。
東の方にある大国出身の人から、隠密なる極意を学ぼうとしていたと聞いたので、それの効果でしょうか。
美しい夜空が私達を見守り中、私があれこれ考えていますが。
団長はぐしぐしと、手のひらで目元をマッサージをしています。
疲れているんでしょうね。
戦い、執務して、戦闘員、非戦闘員問わず指導して、何やら勉強をして。
団長は短い睡眠時間以外、一人で静かに落ち着いて。団長と言う肩書を脱いで、呆けてる暇があるんでしょうか。
いえたぶん。ないです。もはや誰にも団長の隣で、執務していることを疑われなくなり。サナラとアトナテスと、多くの団員達と共に、常にあれこれとしている団長を見ている私が断言します。そんな団長を見た事がありません。
だからたぶん、この時間は私が何かしなければ団長が、休むことが出来る特別な時間。
……特別?え、もしかしてこれ特別なんですか。特別って言っていいのでしょうか!?
「ソラス」
「はい」
名前を呼ぶ声音で悟りました。
あっ、これシリアスですね。
ふざけたこと言ったら、団長に心底呆れられそうです。
「限界が来てる」
「限界ですか?」
「あぁ、赤の団は今までと、全く異なる運営をしないといけない。そういった時期が来たと言えるね」
限界、異なる運営。
それに私はピンと来ました。なるほど、アレですね。
赤の団は連日。
正規軍となり、一軍の将として国を守らないかといった話を、中央の強国含めた色々な国々に、持ちかけられています。
元を辿れば冷笑されることもある。人助け集団だった赤の団を思えば、破格の待遇です。
ですが当然ですね。団長は巷では、武と知と魔。そして勇と慈を兼ね備えた英雄と呼ばれ。
アトナテスが訓練し、サナラが地脈の力で団員達の力を底上げし、私が魔術の指導した団員達の中にも、名が知られ始める人も出てきて。団長曰く。銀や金の如き輝きを持つ人達が、増えたと言っています。
こと武力だけは、どこの国と戦うことになったとしても、勝てなくても、乗り切れると自信を持って言えます。
そんな私達赤の団が正規軍として、まぁ懇意にしていて、王様との仲も悪くない中央の強国でしょうね。強国の一員として戦う。
なるほど、いいアイデアでしょう。少なくとも、団長が飢えさせない為にと、あれこれ苦心しなくてもよくなり。
団の皆が魔物との戦いに、集中できるようになるでしょう。
けど、初志貫徹な団長が、中央の強国の正規軍になるのかと思うと、ちょっと意外です。
団長がこの手の誘いはもっと前から。それこそ、赤の団発足した時点で、中央の強国の王様から直々に誘いがあったようですが、団長はその度に断りを入れていたようです。
正規軍になるということは、その国の為に戦うことになります。そうなると、気軽に国境を超えて、魔物に襲われる人達を助けに行くことが難しくなります。
団長は、誰かを助けたいのではなく、誰であっても助けたいのです。
そんな赤の団の信念ともいえるものを、団長が変えるのか、と思っちゃいました。
……いえ、だからこそ。団長は限界と表現したのでしょね。
例え信念を変えることになっても、私達赤の団が離散しないように。
私達を思ってと思うと、情けなくもあり、嬉しくもあります。
「ただまぁ上手くいくかどうかと思うと、心配でね」
「団長でも心配するんですね」
「当然さ。俺をなんでも出来ると言う人がいるが。そんなことはないさ。俺でも失敗はするよ」
「本当ですかぁ?」
「困ったな。俺はいつからソラスに超人扱いされるようになったんだい?」
薄く微笑む団長に、私も笑ってしまいました。
そして、出会った時から、という言葉は飲みました。
それにしても、団長が心配をするなんて。いえ、団長も心配して当然ですよね、団長とて一人の人間ですから。
なら、それを解消して見せるのが、占星術師のソラスの出番ですね。
任せてください団長、ドーンと解決させますよ。
「ですが団長、心配ならそれを解消するいい手がありますよ」
「どんな手だい?」
「空を見よ!」
ズビシっと指先を空に指します。
「…………」
「…………」
沈黙ですか。止めてください恥ずかしいです。
何された訳でも、何言われた訳でもないのに、顔に熱が集っているのを感じます。
もっとこう、決め台詞が似合ういい女にならないと、こういった台詞は言っちゃいけないですね。
学習しました。だから、いい加減何かしら反応してください、本当に恥ずかしいです!
「空か」
一考してから、団長は空を見上げ。
「星の導きかな」
微笑むその姿に、何か寂しさを私は感じました。
「えっと……」
そうです星の導きが団長を見守っています。
と言うつもりでしたが、その寂しい笑みに、何故か言葉を紡ぐことができませんでした。
きっと、直感で団長が求めている答えではないと、分かりました。
「あの、そのなんというか。えっと、その!あれです!」
言うつもりだった言葉が出せないとなり、私は慌てふためきます。
おかしいですよね、言いたい言葉は見つかっているのに。
「うぅ……」
慌てふためき、落ち込む私を団長は何も言わずに、信頼を感じる目でじっと見守ってくれます。
いつものように、いつかのように。
気が付けば、私は団長の暖かな手を取り。
その手を、それなりに膨らんだ胸の下、トクントクンと動く心臓に当てます。
自分でも、とんでもないことをやっている自覚はありましたが。
これだけ伝えないといけないと思っていました。
星の導きではなく、私の言葉を、想いを。
「団長ならきっと出来ますよ。私はそう信じています」
団長は、目を見開き。
ゆっくりと前髪の奥にある瞼を閉じ。
頬を少し赤くしながら柔和な笑み、赤の団団長でもない、英雄でもない。
この頃、名乗るまでもなく赤の団団長と知られているので、使われなくなった名。アルトという、一人の青年の笑みを浮かべた。
そう、感じたのは私の驕りでしょうか。
「俺なら出来るか……」
小さな声を共に、団長の瞳が開かれました。
「ありがとうソラス」
そう言った団長には、決意を秘めた表情を浮かべていました。
あぁもうどうしてこう、決意を固めた男性は、魅力的に映るのでしょうか。
もう何もかも差し出してしまいそうです。
今直接、私の心臓の鼓動を感じている団長には、私の考えが筒抜けでしょうね。
顔を真っ赤にしながら、笑うしか私には出来ませんでした。
その後私達は眠る時間を惜しみ、一秒一秒の時を感じながら。
二人で星を眺め続けました。
もし、この時団長が襲っていたら、私は抵抗でき。いえたぶん、しなかったでしょうね。
お互い、色を知る歳と言われたら否定できませんのに。
団長はそういったことは、ある種合意ならばやりたい放題しても咎められないのに、全然しませんでした。
団長にとって、赤の団にいる全ての人は、守るべき対象だったからでしょうか。
私とて年頃の女です。そりゃ男の人を意識したことは、ありますが。
だからといって、誰にでも体を許す気はありませんよ。当然です。
そうなると、許す気のある男性。
……はい、はっきりいって団長ですね。本人はその気はないでしょうが、スキンシップが過剰な、可愛らしいサナラがあまりにもベタベタするものだから。私も焦り。
執務室で二人きりの状況にこれ幸いと思い。さりげなく、上着を脱いだりしたり。団長との距離を詰めたり等、多少アプローチを仕掛けたことがありますが。
それでも団長は反応することはありませんでした。
結局の所、私もその他の団員達と同じく。団長には一団員としても、女としても重要視されていないのでしょうか。
そう思ったら……悲しいですね。
翌日。赤の団は進路を変えました。
中央の強国の方へ行くと、私は思っていました。
ですが、団長が行く道は私の予想とは異なり、中央よりも西の方へ。
すでに滅びた小国達が、かつては土地を巡って争っていた。肥沃な森林地帯へ。
ですがそこにはもう、人がいません。
人々が争いを止め、自国の防衛すらままならず滅び、魔物が支配する土地となっています。
ざわざわと、団員達が団長の意図が分からず騒ぎ出します。
私達赤の団は、人を助ける為に行動しているので、人がいないと分かり切っている場所を向かう理由がありません。
すたすたと先を行く団長に声をかけ辛いためか、何人かが、私に説明を求めましたが私にも分かりません。
「団長には何か考えがあるんだろ」
アトナテスが能天気と言えば聞こえは悪いですが、そうとしか思えないので、団員達はそれで一応は納得します。
そして、森の奥。少し開けた場所に到着すると、団長はくるりと振り返り。
「皆、聞いてくれ」
そう言ったので老若男女問わず、団員達は団長の声を聞き静まり返ります。
「"私"達は魔物達に家族を、故郷を奪われた。そして、それに悲しみを怒りを、皆は抱いたはずだ。例えそうでなくとも、魔物が人々を襲うたびに生まれる悲しみに、心を打たれていない者はいないと、私はそう思っている」
団長の言葉に、アトナテスは頷きました。
彼は何かと経歴不明です。どうにも、過去に恐ろしい師匠がいたとかなんとか言っていましたが。
魔物に襲われ、滅びる集落、村、国々を団長と共に見ていく内に、思う所があったのか。
出会った頃、人を救うと言われても、ピンとこないと言っていましたが。
今では、団長と同じく。魔物が困った人がいると聞けば、団長が指示するまでもなく、率先して戦いに赴くようになりました。
「私達は奪われ続けた。そして、その悲しみは世界中あらゆる場所で起こっている。その規模は大きく。大国すらも魔物によって滅ぼされようとしている。このままではやがて。諦観の内に、魔物と戦い果てるのではなく。人と人が、残り僅かな物資を求めて争い滅びる」
団長の言葉に、サナラは頷きました。
お菓子がこの頃、食べられなくなっているみたいです。高価が理由だけではありません。お菓子の原料になる物がないのです。
それだけならまだしも、少しずつ本当に少しずつですが、団長の指示で一食の量が減り始めています。
どこもかしくも、魔物が穀倉地を踏み荒らしていくので。
物質の供給が滞り始め、贅沢品を生み出す余裕がないのです。
贅沢品を生み出せなくなると、それ以上の被害を受けると、今度は必要な物ですら生み出せなくなります。
悪循環にすでにはまっているのに、魔物がいつまで経っても全滅しないので、抜け出せなくなっています。
「だから私達は私達の手で、食べ物を作り、衣服を作り、住居を作り始めなければいけない。私達が、魔物と戦い。人々を助ける。そんな私達、赤の団であり続ける為にも。今は、食事をこの豊かな森から恵みを貰おう。そして、森を拓いて、鍬を手にして、大地の実りを手にしよう。衣服は今は買うしかないが、少しずつ糸を紡ぎ布を服にしよう。あとは皆で家を作ろう。最初は、木と泥の家ばかりで頼りないだろう。魔物から守ってくれそうな立派な壁、頑丈な石造りの家なんて夢のまた夢だ。でも、それだけあれば、今の私達なら十分暮していける」
団長の言葉に、皆が頷きました。
すでに、泣いてる人もいます。家族を奪われ、故郷を奪われ、どこもかしくも魔物に奪われる世界で。食べ物を作り、服を作り、家を作る。赤の団に入ってから、色んな事をしている内に。そんなかつてはあった生活、忘れそうになった当たり前を、一緒にやろうと言う人がいるのです。
人の形をした希望が、私達の前に居たのです。
「私達は、私達の手で住むところを作るんだ。だから、ここを赤の団の拠点として。ここから。物質界の人々を助ける手を伸ばそう。私に賛同する者は、私と共にここから、私達の生活を取り戻すんだ!」
団長の声が、私達の心を震わせます。
「団長!団長!」
「うぉおおお!俺は団長に付いていくぜ!」
森の中、歓声が上がります。
反対し、赤の団から離れようとする人は誰もいませんでした。
それにしても、団長には毎度驚かされますね。
私はてっきり中央の強国の正規軍になると思っていましたが。
団長は私の想像を、軽々と上を行きます。
私達が赤の団でいる為に、赤の団で拠地を構え、赤の団のまま人を救い続ける。
こんなこと、団長以外誰が思いつき、誰が実行できるでしょうか。
本当に、団長は凄いです。
「よし、さっそく行動開始だ!」
団長の指示のもと、赤の団の拠点を作り始めます。
忙しくなる。そんな予感が、何だか嬉しいと思いながら、この活気あふれる光景を胸に刻みました。
こうして、赤の団の、拠点が生まれました。
まだ、国ではないです。拠点です。これ重要です。
ですがまぁ歴史と言うのは不思議ですよね。
ただ川があって、森があって、平地もあって、行こうと思えば海もいける。
そんな理由で、英雄王が選んだ土地が、千年経っても続く王国の始まりの地なんですから。