プリティダービーに花束を(本編完結)   作:ばんぶー

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このお話、2年前くらいの連載時に下書きを作ったやつをなんとか完成に導いたお話です





特に個人の回ではないのでゆるっとみてください






今年もよきウマ娘ライフを


番外編・トレセン学園チョコレートの変

 

 

 ご存じふわふわ時間軸。バレンタインデーを間近に控えたトレセン学園のトレーナー室からお送りさせていただくのは、毎日のように皆にお菓子を配って回る年中ハロウィン気分のトレセン学園一の浮かれ野郎、大和です

 

 

 本日はまだ少し早い時期ではありますが時間をかけて皆の為のチョコレートの用意を始めようと思いますよ!と高らかに叫びながら机の上にお菓子関係の雑誌の束を叩きつけた。小難しい文字が敷き詰められた面白みのない書類達は下敷きになって僕の視界からも記憶からも消え去った

 

 

「ふぅ……静かにせんか。読書中のBGMには不適切だろうが」

 

 

 どったんばったん大騒ぎが耳障りなのか、本から視線を上げたエアグルーヴの視線が僕に刺さる。しかし浮かれ気分の僕は怯む事は無かった

 

 

「失敬失敬。しかしだね、日頃愛を語る僕として失敗は許されないイベントなんだよ。スカーレットとウオッカという新たな仲間が加わった以上尚のこと、より素晴らしい成果の為に君の助力は必要不可欠なんだ」

 

「成程。しかし私はそうなると、愛を受け取る側では無く配る側に回ったという訳だな?」

 

「無論、君を笑顔にするためのサプライズの準備も忘れないさ」

 

 

 そう。バレンタインとは愛をぶつけるイベントだ。ハートをぶつけて相手をダウンさせたら勝ち。この催し事の起源はヨーロッパとかの偉い人がなんかこう……派手なプロポーズをどうのこうのする際に想い人の鉄壁のハートを溶かす程の甘いお菓子を贈ったりしたりとか、きっとそういうオシャレで甘々な出来事があったに違いない。絶対そうだ。少なくともこの世界観ではそうだった筈だ

 

 

 年に数回、或いは数十回存在する楽しんだ者勝ちなイベントの中でも普段心の中で眠らせているふわふわした感情が特にくすぐられるこの祭りに乗じて僕のテンションも普段より数倍跳ね上がっている

 

 

「どうしようかな。贔屓にしている洋菓子店さんが今年は木苺のパウダーを使った赤いチョコレートをおすすめしてくれているんだ。スカーレットにはそれを贈ろうかな。ウオッカはビターチョコを欲しがるだろうけど……彼女苦いのがそこまで得意じゃないからね。見た目は落ち着いた大人な感じの、でもしっかり甘味のあるものが喜んでもらえるんじゃないかな。最近改めて食べたんだけど、ティラミスって想像以上に美味しいものなんだね。オシャレで大人っぽい雰囲気あるし候補の筆頭だね」

 

 

 君はどう思う?と楽し気に尋ねる僕はしかし彼女の妙な態度に違和感を覚えた。こういった年間行事には基本的に乗り気な彼女は僕の相談を快く受けてくれる筈なのだが、珍しく言葉に迷うように視線をさ迷わせている。ぶち上がっている僕も少し落ち着いた

 

 はてどうしたのだろう、もしかして時間軸がふわふわしているイベント回は好きじゃないのだろうか。そうは言っても確かにこの下書きを書いたのは夏だったし、秋に投稿しようとして諦めて気が付けばバレンタイン目前どころか当日を過ぎた。番外編というのはご都合主義的な舞台が用意される物だし、これから先はずっとこんな感じなのだから我慢して欲しいものだけれど

 

 

「トレーナー。今年は我慢したらどうだ」

 

 

 なるほど僕が我慢する方なのか?

 

 

「おいおいエアグルーヴ。僕は我慢が苦手な大人だなんて周知の事実だ。改めて名乗りが必要だとは思えないが……わかった、拳は抑えて。最後まで聞くよ、事情次第だが。一体何を我慢すればいいのかな?」

 

「バレンタインに大人の財力に物を言わせ高価なチョコレートを押し付け……配り回る行為をだ」

 

「おいおいおい……おいおいおいおいおい。ちょっと待ってくれエアグルーヴ。それじゃなにかい?イベントだからという大義名分を振りかざし皆が断りにくいのをいいことに、学生の金銭感覚だと気まずくなるレベルの高級品を送り付けて彼女達をたじたじさせそれを楽しむ僕の趣味を___君は否定するのかな」

 

「高潔な振る舞いとはいえんな」

 

「善意100%で子供を困らせるのは高貴で高潔な大人の遊び方だよエアグルーヴ。間違いなくね。多くの後輩を可愛がってきた君ならこの想いを共有してくれると信じているよ」

 

「たわけ。私はそんな歪んだ嗜好は持たん。可愛い教え子達を困らせると解っているなら尚更やめるべきだろうが。対抗心を燃やして変に熱くなっている者もいるんだ。……それに学生側には遠慮するよう通達している以上貴様も張り切るのを控えるべきだろう?」

 

 

 変に熱くなっているというのはよく解らないが、はて。ネイチャだろうか、或いはライスかな。もしかしたらリベンジに燃えるメンツにスカイも入っているかもしれない。去年、『トレーナーさん、セイちゃんのチョコ欲しいですか~?』なんて言いながらすり寄って来た彼女に高級チョコを押し付けて日頃僕のサボリに付き合ってくれる感謝を熱く語った所逃げ出されてしまった。後日遠距離からチロルチョコを投げつけながら威嚇してきた

 

 

 今年に限って事情がややこしいというのはこっちにとってはむしろ都合が良い。一方的に配って回る、合法的な後押しができたのだから

 

 

「……まあ楽しみにしているのは解るが個別に渡す分はある程度抑えろ。その代わり何かチームメイト皆に宛ててのプレゼントとすればいい」

 

「解った、君がそこまで言うならそうするとしよう。ふーむ、それならでっかい噴水みたいなチョコフォンデュなんかを用意して皆を招く……という趣向ならどうだろう。パーティ感を出せば皆遠慮しなくて済むだろうし」

 

「そうだな。休日チームハウスで行えばいい。たまには会長もお招きするか……近頃は特にお忙しくされているからな」

 

 

 彼女は僕が机に広げた資料を読むため隣に腰掛け、何の気なしに髪をかき上げる。途端にふわりと温かく、甘い香りが顔の前を漂った。チョコの甘さを連想させるような素敵な香りに思わず鼻をヒクつかせながらスッと視線を横に逸らす。ばっちりと目が合った

 

 

「なんだ?」

 

「シャンプー変えたかい?随分いい香りだ」

 

「……まあ、変えた。別に構わんだろうが」

 

 

 そう言うとプイっと視線を逸らし資料を読み始める。ただ彼女のウマ耳は若干の恥ずかしさを誤魔化すかのようにくるくる回っている。ツッコミが返って来ないとなんだか気まずいな……セクハラしたみたいになっちゃわない?

 

 

「女性に対して匂いの話題を出すのはマナーが悪いだろうが!とか言って僕をぶったたいてくれなきゃ困るな……」

 

「日常会話1つに噴き上がる程鬱憤は溜まっていない。それとも他意があったか?」

 

「いやいや、変な意味は無いけれどね」

 

「……バレンタイン特集ということで、売店でチョコレートの香りをモチーフにした新作トリートメントが売られていてな」

 

「君も大概浮かれてるねぇ」

 

 

 

 軽く肩を小突かれた。フンと鼻息を吐くと彼女は視線を再び手元に落とした。それに倣い僕も仕事に集中する。学園の喧噪もなんだかいつもの調子と違って甘々な感じと言うか、ちょっとおかしな盛り上がりが漂っているような気もする。しかしまあ……大丈夫だろう。今日くらいはサボリも無しにして、真面目に楽しくパーティの計画を立てるとしよう

 

 

 

______________

 

 

 

 

 とまあ、エアグルーヴの説得もあり大和は解決に辿り着いた。今年はおしとやかに、おだやかに終わらせようと。毎度毎度サプライズ、というのは面白みに欠けるから。長い付き合いでは緩急も大切なのだ

 

 

 しかしそうは問屋がおろさねぇ、と奮起するのはムーンシャインの若く猛々しいウマ娘達だ。手分けして買って来た材料をドンと机の上にたたきつけ、勝負服変わりにエプロンをビシッと着こなしチームハウスに勢ぞろい。ムーンシャイン所属のウマ娘達は今こそ己の女子力の高さを見せつけてやらんと息巻いていた

 

 

「先輩方の女子力ぅ?普段ソファーに寝転がってお菓子食べてるだけじゃんw って言いたそうな顔してんなぁ!スカイ!」

 

「まだ言ってないですけど!?」

 

 

 言ってないだけで思ってんじゃーねかよ!と先輩方から厳しくツッコミを入れられるスカイを見ながら、スカイ先輩もだらしない側ですよね?とツッコミを挟むか迷ったスカーレットはただただ薄く笑うだけだった。これ以上掻きまわすと場が進まなくなることくらい既に学んでいる。時にはツッコミを入れない、という選択肢の重要さを彼女は理解していた

 

 

「というより、足止めを頼まれてるのをいいことにグルーヴ先輩が大和サブといちゃついてる予感がしません?」

 

「ンな訳ないでしょ。もう個人ED回終わったんだし」

 

 

 レイヴンはタキオンが、大丸はタイシンがそれぞれチームハウスの外で足止めをかけている。トレーナー陣も大体察しているので大人しくそれに乗っかってサプライズを楽しむ心の準備をしている

 

 

 話題を逸らそうとしたスカイをメタメタしいツッコミで捌いたネイチャは今日のお菓子作りの会に相当の気合を入れて臨んでいる。ネイチャだけでない、揃った中等部ウマ娘全員が気合十分の顔付きだ

 

 

『バレンタイン当日、個人で贈り物を用意してトレーナーさんや先生方へ渡す行為は基本的には禁止です。お友達同士で送り合う程度ならOKです』

 

 

 トレセン学園はウマ娘の自由を尊重している。だがバレンタインに対しては少々厳しいルールが昔からあった。だが長い年月を経て形骸化し、黙認する風潮ができあがっていた。ライスが入学した世代もそういう雰囲気だった

 

 

 だがネイチャが入学した頃からか、毎年二月になれば朝礼で軽く注意が入るようになっていた。昨今のコンプライアンスが重要視されるSNS全盛期時代の到来により、ウマ娘とトレーナーの関係性をしっかり線引きすべきだという風潮が強まって来たからだ

 

 

 今年にしても、まだ寒い二月のはじめに全校集会で通達された以上知らなかったでは通らない。わざわざ言われんでもそんなこっぱずかしいことする訳ないだろうとツンする子も、この機会に1年を通してつもった感謝を清算したいのにと憤る子も様々だ

 

 

 ただチームやクラス単位でなら黙認される。個人でなければいい。抑えつけすぎて暴走されるのを防ぐ為、学園側から提示された妥協点だった

 

 

「あ、寄せ書きの色紙回すから皆もう書いちゃって。後にすると忘れちゃうかもだし」

 

「最終回のあとにみんなで寄せ書き手渡しするとかちょっとくどすぎない?」

 

「そういうの言わない!!!こういうのはベタベタでやり過ぎなくらいが丁度いいの!半端に恥ずかしがって大人しめに仕上げちゃう方が意識してるみたいで後から恥ずかしくなるから!」

 

 

 それに対してムーンシャインでは毎年恒例として、トレーナー陣に対して全員の力を合わせてでっかいチョコケーキを3つ作ってそれぞれに贈呈する。各々が勝手に動くのではなく、トレーニングの時間を確保してくれるトレーナー達のスケジュール作りが大変にならないよう決められた日に一気に片付けてしまおうというチームの伝統なのだ。と、スカーレットとウオッカは得意げな顔のモノクロブーケから説明を受けた

 

 

 だらしない先輩方がトレーニング時間確保のために計画立てて動く、という辺りが非常に引っかかったスカーレットとウオッカだったが、年上を敬う事の大切さを知っている2人は疑わしい眼を向けるだけで特に突っ込まなかった

 

 

「まあなんでもいいっすけど……でもなんでケーキなんすか?」

 

「お料理下手な子でも役割分担次第で貢献できるし、見た目のインパクトが強いから美味しい美味しくないのジャッジに入る前に感動させることができるからね……!」

 

「あー……そうっすか」

 

 

 後ろめたいんだが前向きなんだか解らない裏事情は聞きたくなかった。ウオッカは先輩に白い目を向けたが、モノクロブーケは気付かないフリをするのが上手だった

 

 

「というかね。大和サブに限らずトレーナーって生き物は学生の私達が汗水たらして用意した物をぶつけられると悶絶する生物なんだよ。昔々、エアグルーヴさんのデレが上振れに上振れて、大事に育てたお花を一輪プレゼントしたら大和サブは天を見上げて失神したらしいし」

 

「モブ先輩、それどこ情報なんですか?」

 

「フクちゃん先輩情報」

 

 

 その時の動画もありますよ!とソファーに寝転んでウマホをいじっていたフクキタルが楽し気に叫んだ。皆があくせく働いている中怠惰に過ごす先輩に後輩達は鼻息を荒くして詰め寄る。フクキタルは観念したようにウマホから手を離し両手を上げた

 

 

「ちょっと先輩!気合入れてくださいよ!トレーナー陣をぎゃふんと言わせるチョコケーキを作るんでしょ!」

 

「いやぎゃふんって。バレンタインというのはもっと落ち着いたお淑やかなイベントだと思うのですが……」

 

「フクちゃん先輩はそれから最も遠いウマ娘でしょ。ほら立ってエプロン着て手伝ってください」

 

「んなぁ!皆さん厳しすぎじゃないですかぁ!?私先輩さんですよぉ!?」

 

「はいはい、皆尊敬してますよ」

 

 

 ネイチャ達に腕を引かれながらエプロンを身に着けたフクキタルは渋々チョコケーキ製作班に加わる。というか人手が多すぎてやることが全然ないから寝転がっていたので結局手持無沙汰になり後輩にちょっかいをかけて回るしかすることがない

 

 

 ネイチャはいぶかしんでいた。スカイも怪しんでいた。スカーレットもなんとなく何かを察していた。なんだか高等部の先輩方があまり乗り気じゃない。手を抜かず動いてはいるが、どこか暖かく見守るような目付というか主役は譲ってあげるといわんばかりの……なんというか『本命はここではない』と言いたげな態度だ。足の使いどころを見極めながら息を整えている、そんな雰囲気が漂っているのを一流の競技者であるネイチャ達が見逃す訳が無い

 

 

「怪しいっすなぁ……」

 

 

 そうポツリとネイチャが呟けど、図太い先輩達は聞こえないフリだ。しかしチョロイ先輩が1人引っかかってへたなフォローに走った

 

 

「ど、どうしたのネイチャちゃん?ほらチョコケーキ作り頑張ろう?えい、えい、おー!だよ?」

 

「こういうイベントだとあざといぐらい前のめりになりそうなライス先輩が余裕そうなのが特に怪しいんすよねー」

 

「な、なんてこと言うのネイチャちゃん!?せ、先輩に対して流石に失礼だよっ!?」

 

 

 にこにこ余裕ぶっこいてたライスがほっぺを膨らませる。ライスシャワーは健気で儚いウマ娘であり、過剰な程に謙虚なウマ娘であった。だが尊敬すべき先達やトレーナー達が信頼してくれている自分、というものに対しある一定の自信を持てるようになっていた

 

 

 そんな彼女はかつて自分が頼りとしたように、後輩が存分に頼れるよう先輩を名乗るに相応しい自分を目指していた。時には厳しく接しなければ、とライスは拳をぎゅっと握ったがネイチャからすれば耳を震わせながら両手を顔の横で握り上目遣いで頬を膨らませるライスシャワーはあまりにもあざとく、ただひたすらにカワイイだけであった

 

 

 

「あ、すんませんです。時にライスの旦那ぁ……実際どうなんです?ねぇ」

 

 

 ぬるり、と身体を傍に寄せてさらに上から顔を被せるようにすれば一瞬きょとんと眼を丸くしたライスはすぐに問いかけの真意を悟り視線をさ迷わせた

 

 

「ど、どうって……きょ、今日はいい天気だと思うな?」

 

「用意してんでしょ。チョコとかを。個人的に」

 

「こ、ここここれだけいい天気だとライスぽん菓子になっちゃうかも!!!」

 

「本音がポンしちゃいましたね」

 

 

 意味不明な事を口走った自分を恥じて顔を真っ赤にしてうずくまるライスをネイチャは冷たい目で見下ろした。もう自供したも同然だ。後々このポン菓子ネタで弄り倒してやろうと決心しながら厳しい視線をぐるりと部屋中に回せば、高等部の先輩方はそろいもそろって斜め上に顔を向けた

 

 

 わざとやってるのかってぐらい揃って惚ける面々にネイチャは頭の左右のもふもふを揺らしながら怒りを露わにする

 

 

「みなさん申し開きは?」

 

「いやまあ……いや違うよ。これはほら……お歳暮?」

 

「あーサブトレさんの誕生日って確か2月半ばくらいだったと思うんですよねぇ!勘違いだったなぁ!?それでも折角プレゼント用意したから渡さなきゃ!ねっ!?」

 

「クリスマスプレゼント……渡し損ねてたからぁ……」

 

 

 突っ込むのも億劫になる程に雑な言い訳がぽんぽん出て来る。先輩方のチョコを全部ポン菓子にすり替えてやりたいとネイチャは強く思った。ポン菓子を下に見るつもりはないが

 

 

「あのですねぇ!こっちに圧かけといてそれは無いんじゃないですか!?」

 

「圧って言い方は___すいませんなんでもないです」

 

 

 言い訳を挟もうとした先輩ウマ娘はネイチャの圧に負けて口を閉じた。一応言い訳すると、別にムーンシャインに限った話では無い。年代的に黙認されていたライスの世代まで辺りは、今でもなんとなく見逃されている節がある。ただそれ以降の後輩世代への指導としてはしっかり止めるようにと言われているのだ

 

 

 ルールの厳格化が図られる度、揉めに揉めているのだ。トレーナーとウマ娘が結ぶ絆はとても強固だ。というより種族として、大昔からウマ娘と人間が共存してきたのは特別な絆が生まれやすいという性質があったからであり、恋愛どうこう差し置いて育まれた大きな感情を伝えるイベントを不健全だと頭から抑えられれば反発するのは当然だった

 

 

 一斉に厳しくしようとすれば凄まじい反発が考えられる。なので数年かけて厳しくしていきたい。日和った学園側は一部の年代に若干配慮しながら時間をかけて空気を替えていきたかった。その配慮が結局学園のあちこちで小さな諍いの種を産む事態となっていた

 

 

 

 押しに押された先輩陣の出した結論は、今年だけは皆でわたそっか!というものだった。どうせ来年もこうなるだろうな、とダイワスカーレットは呆れた目で腰に手を当てながらチームメイト達を見つめていた。いやお前も数分前まで騙されていた事にバチギレながら地団太踏んでたじゃねーかよ、とウオッカは呆れた目を向けていた

 

 

 

___数日後。バレンタイン当日

 

 

 

 朝日がトレセン学園の切り開かれた敷地の中を光が駆け抜けた。その先で眩しそうに目を細めるのはヒシアマゾン。誇り高き美浦寮寮長だ

 

 

 その場にいるのは彼女だけでない。栗東寮を取り仕切るフジキセキ、バンブーメモリーを筆頭とする風紀委員、シンボリルドルフ、エアグルーヴを含む生徒会メンバー。無理やり招集をくらったナリタブライアンはめちゃくちゃに不機嫌だった

 

 

「おい……私は別にいいだろう……帰らせろ」

 

「やかましい。ここまで来て駄々をこねるな。私だって心底面倒だと思っているんだ」

 

 

 ブライアンは眠そうな目を見開いて驚いたようにエアグルーヴを見た。規則を軽んじるような発言をするエアグルーヴは(最近ちょこちょこよく見るとはいえ)珍しいものだ。ブライアンの意図に気付いたのか、エアグルーヴが目を合わせないままフンと鼻息を荒くした

 

 

「規則は規則だ。軽んじた事はない。だが……」

 

「なんだ?」

 

「その時々の立場で、多少目をつぶる事もする。取り締まる側がズルをしている場合などは特にな」

 

 

 

 小さな声で行われている会話を他所に、取り締まりの役割を与えられたウマ娘達はやる気に満ちていた。日の出とともに行われる事になっている本日の取り締まりに際し、『ダメなものはダメ』とかかれたハチマキを全員が頭に巻いて準備は万端だ

 

 

 立場を越えた協力関係という特別感にテンションが高まっているのだが、実の所それ以外に浮かれる理由があった。エアグルーヴはとうに見抜いていたが、他の面々は互いに気付かない。罪悪感を見ないようにしている焦りが目を曇らせているからだ

 

 

 

「じゃあまずは練習がてらお互いに持ち物チェックですね!」

 

「「「えっ?」」」

 

 

 

 空気が冷え込んだ。冬の朝だからか?どうだろうか。純粋に目を正義の光で輝かせた中等部のウマ娘が発した発言が命運を分けた。エアグルーヴが溜息をつき、ハチマキを巻いたウマ娘のうち半分が揃いも揃って視線を斜め上に向けながら自分の鞄をそっと胸に抱きしめた

 

 

「……バンブー先輩?」

 

「……!!!!」

 

「いやなんか言ってください。意を決した顔をしないで下さい」

 

「申し訳ないッス……!でもトレーナーさんに毎年渡して来たんで……!あげないと色々と……ほら!」

 

「ほらじゃないですが???」

 

 

 風紀委員の後輩に詰め寄られぎゅっと目を閉じたバンブーメモリーは観念したようにハチマキを外した。だが抱えたカバンを手放す気は一切無く、じりじりと後ずさりはじめた

 

 

「お願いします皆さん、嘘だって言ってくださいよ……」

 

「いやこれもう収拾つかんでしょ」

 

 

 じりじりと距離を詰めるのは中等部のウマ娘達だ。だが解っている。先輩方が本気で逃げるなら追いつくことは難しいし、取り押さえて没収するのはもっと難しい。これもう取り締まり成立しないでしょ、という諦めが蔓延し始めた

 

 

 空気を察して苦笑いをする寮長二人とエアグルーヴの鶴の一声により、本日の持ち物検査はうやむやになった。先輩達は後輩達からガンガンに怒られたし、早朝のコンビニまで一緒に間に合わせのチョコを買いに行くのに付き合ってなんとか許された

 

 

 

 そんな事が起きているとは露知らず。パチリと目を覚ましたスカーレットは枕元のウマホにメッセージが届いているのに気付く

 

 

『みんなで一斉に渡そうね!抜け駆けなしね!』

 

 

 チームメンバー全員が入っているグループチャットに残されていたワードは最早フリだったしスタートの合図であった。寝ぼけているウオッカを叩き起こし、ウマ娘の脚力を活かし顔を洗い身だしなみを整え最速で朝の支度を終え、スカーレットは部屋を飛び出した

 

 

 寮の出口は大変混雑していた。何事かと思いながら順番待ちをしていたが、玄関の所で風紀委員達が生徒達に注意喚起をしているのが答えだった

 

 

「何とは言いませんが、焦り過ぎないように。危ないので」

 

 

 でも急ぐなとは言いません。何かを諦めたような目で、ただ一時心の奥底にしまい込んだ使命感の代わりに熱い情熱を秘めた目で言い聞かせて来る風紀委員の先輩の想いを悟ったスカーレットは真っすぐに頷き、鞄を持ち直すと学園のルールに反しない程度の速度で走り出した

 

 

「なぁおいスカーレット!」

 

「なによ!」

 

「んな急いでどうすんだよ!」

 

「どうもこうも!チョコ叩きつけて、ありがとうって言うだけよ!バレンタインはそういうものなんでしょ!?」

 

 

 スカーレットは若かった。どういうイベントかは解っているが、それはそれとして『好きな人とかじゃなくてもお世話になった人に美味しいお菓子を贈るイベントなのよ』という母親の教えの方がイメージとしては強かったし、成程なと頷くスカーレットの目の前で母親が父親に手作りチョコをあーんと食べさせている光景もイメージに根付いていた

 

 

 トレーナーに対して抱えている感謝を真正面から言葉にするのは、今の時点のスカーレットはそこまで気恥しくも無かった。とはいえ誰かに遅れるようでは、まるで自分の感謝が軽いと思われてしまう。それは我慢ならない。だから彼女は走るのだ。スカーレットが走るというのなら、ウオッカはそれに遅れる訳にはいかないのだ

 

 

 自分が照れ屋だと解っていたし、こういう機会に便乗しなければ清算は難しいだろうと焦るセイウンスカイも。意識しすぎるのも恥ずかしいがお礼を渡さないなんてありえないだろうという考えが衝突し勢い任せでかかっているナイスネイチャも

 

 

 普段からお礼を言いまくっているとはいえ言い足りない、ライスシャワーは今日の準備は万全だ。フクキタルは……もうなんか色んな感情がぐるぐる回りすぎてネタに走るのもガチに赴くのも決めきれず無難も無難な物を渡し、特に何も言わないつもりだった。一対一だと何を口走るか解らなかった

 

 

 走って行く後輩達を見送るエアグルーヴは、あとで塩辛いものでも差し入れようと準備をしていた。毎年甘い物の連続で萎れていく彼を見慣れているから

 

 

 

 様々な想いが塊となってトレーナー室のドアを吹き飛ばした。椅子に座って寝落ちしていた大和は夢かどうか曖昧なまま、それでも微笑んだ。例え現実だろうとなんだろうと愛すべき友人達が訪ねて来てくれたのだ。彼にとって嬉しくない訳がない

 

 

 

「うーん、ずっと言いたかった台詞を遂に言える。人生の目標が一つ達成できそうだ。……皆僕の為に争わないでくれ!!!」

 

 

 仰々しく両手を広げた大和を見て全員一瞬で真顔になった。ある意味狙い通り全員を平常心に戻せたな、と微笑んだ大和だったが彼は少し見誤った。走り出したウマ娘がゴールに賭ける情熱は常識では図れない。彼が身構えるより早く再度のよーいドンがかかり___

 

 

 

 

 

 

 

 ※この後めちゃくちゃチョコフォンデュパーティした




この個人回をネイチャかライス用に用意しておいたのですが、あまりにもガチガチで甘ったるくなったので他の子からNGが入りました



皆さん今年はどなたかにチョコをあげたりもらったりしましたか?僕は仕事でした。お昼はラーメンで午後のおやつにおせんべいを食べました。労働は幸せです

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