学生の頃に友情か恋に近い感情があったけど、お互いにそれが何かわかってないまま大人になって再会して…みたいなこと考えて書きました
男オリキャラ(名前あり)です。苦手な方はご注意下さい。

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胸の内の翠

岸辺露伴はふらふらと道を歩いていた。

特にこだわった理由はない。健康のために歩いていたり、ネタ探しであったり、あるいはただの暇つぶしである。

他よりも目を引く容姿かつ、見た目の奇抜さ具合で街中を闊歩する様子はさながらただの散歩とは思えない。

しかしこの男、本当にただの散歩なのだ。

ある男と、この後『ある約束』を果たすために、歩いているだけなのだ。

 

 

 

 

 

それは4月のどこかの日である。

 

「露伴君じゃあないか〜!!」

 

カフェ・ドゥ・マゴで緩やかな午後を過ごしていた岸辺露伴は突如街中から聞こえた、よく通る声で発せられた己の名前に思わず構える。

街中で通り過ぎゆく人々は皆露伴を見る。

“露伴”という聞き馴染みのない名前に反応した男は、これもまた見馴染みのない奇抜な男なのだから。名前の奇抜さと合った服装だろうと周りは思いながら、その歩を進めていく。

 

そして“露伴”と大きな声で彼の名を呼んだその人は……カフェ・ドゥ・マゴの隣にある短めの横断歩道から少し先の花屋から、淡い緑色のエプロンを付けた青年が大きく手を振っている。

 

岸辺露伴はその男を認識すると何も隠さず怪訝な顔をする。明らかに関わりたくないと言わんばかりの目をしていた。岸辺露伴は椅子に置いた荷物を手に取り店を発とうとする。しかし気がつくとそこには、

 

「やっぱり露伴君だ!」

 

横断歩道を無視してきたのか?そう言いたくなるほどいつの間にか近くまで淡い緑のエプロンの男がやって来ていた。

 

 

 

露伴は眉根にくっきりと刻まれた皺をより深くしながら目の前に座る青年に聞く。「君は誰なんだ」と。

青年はいつの間にか頼んでいたクリームソーダを楽しげに飲みながら、露伴の質問に対して「へ?」と間抜けな声を出してみせた。

 

「俺のこと忘れちゃったかあ〜、そっかあ、同じクラスだったんだけどな〜」

「同じクラス…?」

「高校の時一緒だったんだよ?」

「は…そんな前のこと僕が細かく覚えてるわけないじゃあないか」

「まあそうだよねぇ、興味も無かっただろうし」

 

青年はストローを指で遊ばせて、その反対の手は頬杖をついて、岸辺露伴を真っ直ぐに見る。

 

「学生の時に、多分こういう場所で君の絵を見せてもらって、ファン一号になったんだけどなぁ」

 

ファン一号だよ?ともう一度言うと、青年はストローを弾くのをやめて、人差し指だけを立てる。

その言葉と仕草で、露伴も靄のかかった自身の記憶から薄ら霧が晴れてくるのが分かる。そうだ、確かこの青年は…

 

「…お前は、名川 翠、…」

「思い出してくれた!よかったぁ〜」

 

名前が分かると露伴の中で霧が完全に晴れていく。思い出せばこんなやつだった。目の前のこの名川翠は、クラスのムードーメーカー的存在だった。運動勉学どちらにも長けており、まさに文武両道…だが、彼の欠点は美的センスが壊滅的だったことだ。美術も音楽もまるでダメ。岸辺露伴からすれば、美術的な目線で言うと対照的な存在とも言える。

 

露伴が名川翠のことを覚えていたのは、美術の授業で出すポスターの課題作成の時であった。

あまりに下手な名川翠に手を焼いた美術講師が、露伴に面倒を見てやって欲しいと頼み込んできた。正直付き合う気ははなからなく、当然断ったが、名川翠が露伴の絵を大絶賛したことから(露伴が「良く分かってるじゃあないか」と言いたくなるほど褒めの言葉が的確だった)、

名川翠の面倒を見てやることにした。

 

なんとか課題を終わらせた後、さっさと帰ろうとする露伴に、名川翠は引き留めた。今日はありがとう、と丁寧に言う名川翠に露伴は次はしないと吐き捨てる。鞄の中を整理して、さあ帰ろうとした時だった。

露伴の鞄の留め具が上手く閉まりきっておらず、鞄の中身が床に飛び散ったのである。

そこには露伴が漫画のラフを描いていたスケッチブックもあった。それが名川の目の前に飛んできてしまい、名川は好奇心からぺらりとめくった。

 

するとそこには。

鉛筆だけで描いたとは思えないほど美しい絵の数々があった。美的センスが全くの皆無である名川からすれば、こんなに高度な絵はオークションに出せば高値で売れるほどだろう、それほどにこんなに綺麗な絵は見たことがないと名川は褒め称えた。名川は、露伴が怒涛の褒め言葉に固まっている瞬間に次のページを捲る。すると漫画のラフがそこには描いてあった。まだ描き上がってもないし、絵も綺麗じゃない、やめろ!と取り上げようとする露伴を避けながら名川は漫画のラフを読む。

 

そして全部を読み終えた後、名川は満面の笑みでこう言った。

 

「俺、露伴君の漫画が好きだ!」

 

 

露伴は現実に戻された。記憶の中で名川に言われた言葉に、なぜか胸の真ん中がやたら騒がしくなっている。目の前の歳を少し重ねて、あの頃よりも男性らしくなった名川が露伴の顔を見つめている。

露伴の心境を何も知らずに、名川は明るく言う。

 

「俺、露伴君の漫画、今でも好きなんだよ。デビューしてからずっと買ってるし…」

 

名川は目尻を下げて本当に楽しそうに話している。露伴はそんな名川の様子を見て、やはり胸の真ん中で、何かが強く打ちつけている。しかし露伴はそれが何なのか分からない。名川は「だから、露伴君にまた会えて嬉しい。ファン一号目だからね」と続けて、何か誇り高そうにしているのであった。

 

露伴は、胴の真ん中の何かがうるさくなるのを必死に止めながら、突拍子もないことを言う。

 

「デッサンの、モデルにならないか」

 

 

 

そして冒頭の岸辺露伴の散歩に至る。

名川との待ち合わせの場所まで、あと横断歩道を二つ渡ればすぐである。信号を待っている間、名川がどんな服装で来ているのか、どんな風にモデルになってもらおうか…などと頭の中で溢れ返っていた。

あと数歩のところである。

何故か早まっていく足と、やはり胴の真ん中の何かを感じながら、露伴は名川の元へ行くのだった。


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