悪役令嬢(笑)へ転生した俺!ぶっちゃけ商人上がりの偽貴族でほぼ詰み何ですけど!? 作:N2
賭けはリオン君が巨額を自身に突っ込み、エーリッヒさんは表向きには一先ず表だった金額として、学園入学前のラーシェル神聖王国フライタール辺境伯王国側への越境戦で得た賠償金を自身に突っ込んだ。
そして、俺がエーリッヒさんの黒資金を原資に学園の生徒達に金貸しをしたら、加速度的に賭け金が積み上がっていって賭けが成立した。
「でも、ブックメーカー方式とかって何考えてるんですかね? 胴元がリスク背負うじゃないですか」
日本人の感覚が抜けないせいか、その辺がよくわからない。
「パリミチュエルだと美味しいと思ったオッズが変動するし、賭け金の総額から一割、二割差し引いて分配だからね。リスク負わないなんてお前らは商人か! 貴族の風上にも置けん! って蔑まれる。学園での賭け何て胴元も貴族だし、胴元の腕の見せどころだよ。上手くハマれば、胴元の儲けも大きいのがブックメーカー方式だ」
エーリッヒさんはそういうけど、胴元がリスク負うとかイミフなんだよなぁ。
「はぁ…… そんなもんなんですか」
「それにね、公営賭博の利権はバーナード大臣のアトリーが握っている。確か学園のブックメーカーを取り仕切っているのは、代々宮廷貴族の伯爵家で、学園に在席していない場合はそこの息が掛かった派閥の人物が行っている。准閣僚級で、バーナード大臣の利権に食い込みたい派閥だよ――」
それを聞いてしまうと学園が、貴族社会の縮図だと改めて認識させられてしまう。
「――ちなみに、貸付額はいくらぐらいになった?」
「聞いてくださいよ。30億ディアです。日本円にして3,000億ですよ! 意味がわかりません。カーラ達の調査では、9割はあの五人に賭けるそうです」
俺の報告を聞いてエーリッヒさんは少し考え込む。
「それだと、リオンと僕の賭け金だとあのオッズ比では、胴元を損させられないね。この際だから胴元にも損をさせて、バーナード大臣の酒を旨くさせてあげたいし……」
リオン君は白金貨500枚、2,000万ディアを賭けている。エーリッヒさんは白金貨100枚で400万ディア。
当初はそれで十分だったのに、俺の金貸しで殿下達側の賭け金が増大して胴元は既に泣いている。
胴元も結局はあの五人、というかリオン君がユリウス殿下とクリス、グレッグに負けると考えているからだ。
実際はチート持ちのリオン君が勝つし、エーリッヒさんに至っては、ジルクとブラッドを殺さないかどうかが心配なレベル。
終わってみれば、胴元は高笑いの大儲けが出来るだろう。
ただ、今の現状だと何故開催したのか正気を疑うレベルのオッズ比と賭け金の差だ。
「貴族のくせに皆は意外と堅実的で、ギャンブラーじゃないよなぁ。じゃぁ、胴元にも泣いて貰うためには、1億ディアをステファニー
何というマッチポンプ!?
更に自らでもマネロンをすると! 「大丈夫、ブービ商会の会頭はハルトマンさんという人だからね。まぁ、オフリーさんの目の前にいるけど」とか平然と言っているこの人は頭おかしい。
しかも全て理解してこの人はやっているし。
最近この人の笑顔が頼もしく見えてきた俺は、もう末期かもしれない。
だって、どこぞの少佐殿、大隊長指揮官代行殿みたいな微笑みなんだもん。
「バーナード大臣に恩をそこまで売るという事は、失恋のクラリス先輩を口説く為ですか?」
輸出入許可云々言っているけど、対浮島貴族領の本土間貿易の利権に食い込めたバーナード大臣は、充分過ぎるほどエーリッヒさんと懇意にする利益が、もう既にこの時点であると思うんだけどなぁ。
「は? 無理無理、爵位的にもそうだし。一応対外的に僕は父親不明の怪しい奴だよ。まぁ、実子証明の手続きは証拠を揃えて後はバーナード大臣に依頼したから、独自に調べて当たりを付けていそうだけどね」
そういえば、ぶっちゃけこの人の父親って誰なんだろう?
確か、アルトリーベ外伝ではマルティーナさんやマルガリータちゃん以外のヒロインは、兄妹だか姉弟だとか何とか……
ま、まさかバーナード大臣にあれだけ融通をして、更にはさせられてということは!?
クラリス先輩はエーリッヒさんの姉!
ならば頑なに婚姻相手として否定するのもわかるかも。
聞きたい! けど怖くて聞けない。もう少し時間が経ってからにしよう。
いや、独自にバーナード大臣が調べてと言った…… でもミスリードかな?
結局聞けなかった俺は、本日の金貸し本舗の営業は終了した。
さすがに学園内で金融業をするのは不味いだろうと言うことで、学園から程近い繁華街の一角を借りて営んでいる。
エーリッヒさんは殺し屋本舗として、用心棒みたいに控えてくれていたが、バレると不味いということで、口元だけ露出している仮面を装着していた。
魔力を流すと目を被うクリスタル部やデザイン状の切れ込みが赤く光るタイプで、気に入ったのか時折光らせて赤い人ごっこというか、全裸の器ごっこをしていた。しかし客の学生はその姿が不気味で怖がっていたけど。
ていうか何で仮面を被っただけで、エーリッヒさんだって皆分からなくなるのだろう…… 謎すぎる。
リオン君はここ数日、オリヴィアさんとアンジェリカさんと会っているみたいだ。
どうもアンジェリカさんの取り巻きが離れていった件もあり、学園での影響力が乏しくなっているみたいだ。
私は名乗りをあげた影響からか、部屋が荒らされてしまいマルティーナさんの部屋に保護されていた。
い、一応中身男なのに良いのかな?
いや、怖いから邪な事は考えてませんけどね。あぁ、何か勿体無い……
おかげでエーリッヒさんに対する女としてのアピールはないよ。あくまでビジネスです! と言い聞かせて納得してもらった。
寧ろ決定的な仕事が出来た気がする!
勝ったな、風呂入ってこよ!
☆
決闘当日、闘技場には数千人が集まっている。
そもそもこの闘技場は数万人規模を収容可能なため観客席は十分に余っていた。
エーリッヒさんが上空から急降下するというデモンストレーションで、観客の度肝を抜いていたが、その鎧を見た瞬間、俺は卒倒しそうになった。
「えっ!? 何これ、は、汎用機!!」
観客はリオン君登場時と違って歓声に湧いていたが、俺はそれどころじゃなかった。
「ブラッドとジルクのワンオフ機をこ、これで相手するんですか!?」
「派手な登場はスカッとしたしいいとして、オフリーさんの言うように大丈夫なのか? しかも制服のままだし」
リオン君の心配に激しく同意だけど、「まぁ、怪我をする気はない、平気、平気」なんて、椅子を尻で磨きそうな人みたいな事を平然と言ってるんだけど。
装備も旧式のライフルとブレードだけ。
いくら最新式の汎用機とはいえ、ゲームの設定では確かに知ってはいたけど、兵装も最低限にしているし本当に大丈夫なのか胃が痛くなってきた。
アンジェリカさんもこれであの破格の戦果をあげた事に驚いている。
そうこうしている内にコンテナのような物が空から降ってきて、中から話に聞くルクシオン製のアロガンツが出てきた。
本伝で課金アイテムではなかったため、俺は初めて見る鎧だ。
ジ○オとメッサ○ラ、森のくまさんを足して3で割った感じの大型機に見える。
「中々迫力があっていいね。さて、じゃぁリオン、前座の僕が先に行ってくるよ。オフリーさんはティナと一緒にクラリス先輩に付いていてね」
「わかりました」
「勝てるんならいいけど、殺すなよ」
まさか、とエーリッヒさんは笑顔でいいながら、舞台に上がっていった。
「ヘルツォーク兄か、君もスピアを使うと聞いている。どちらが上手く扱えるか勝負だな。名工に作らせたこの鎧、汎用機で勝てると思ったのか?」
「あ、すいません。装備してきてないんですよね。ほら、これだけです」
エーリッヒさんは、朗らかに答えてライフルとブレードを見せていた。
明らかに決闘の雰囲気じゃないのがヤバい。
「そ、そんな武器だけで!? ぼ、僕を馬鹿にしているのか!」
『言い争いはそこまで。両者、決闘の誓いを』
闘技場の審判に促されて、ブラッドは嫌々といった具合で宣誓をして、エーリッヒさんもその後に続いた。
「早く始めろ!」
「大金掛けてんだ!」
「ブラッド様、借金までしたの! ヘルツォークなんて田舎者、やっちゃいなぁっ!」
「やっちゃいなよ、そんな偽物なんか」
「しかしねぇ、君。彼も王国の貴族という立場であるのだから」
よく喋る。
最後の人は、エーリッヒさんを擁護でもしているのだろうか?
賭けでヒートアップしている観客は、そのほとんどが殺気立ちし始めている。
そして、ヤジを聞いたマルティーナさんが、ヒートアップして殺気を振り撒き始めた。
ヤバい。
「凄いヤジだな、まったく」
「さすがにエーリッヒさんが可哀想ですよ」
アンジェリカさんはため息を吐き、主人公のオリヴィアちゃんも心配そうにみつめている。
「だが、これでわかる。見せて貰おうか。艦隊指揮を熟しながら、ラーシェルの鎧77機を撃墜した性能とやらを」
俺はその言葉を聞いてアンジェリカさんを凝視してしまった。
「な、なんだオフリー? そんなマジマジと見詰めてきて……」
「あ、何でもないです。すみません」
ステフわかっちゃった!
アンジェリカさん、エーリッヒさんの妹だわ。
『両者、始め!』
そんなこんなで、審判からの決闘開始の声が聞こえてきた。
☆
「一瞬でケリをつけてやる!」
ブラッドは四本のスピアを背部から射出して、左右上下の四方からエーリッヒの駆る鎧、ダビデに向けて刺突させようとしたが――
「残念だったね」
ダビデのブレードが首を跳ねたかと思えば、両足の膝下を切断してブラッドの鎧は倒れ込んだ。
そしてブレードの刃先をブラッドの鎧のコックピットに当てながら、エーリッヒは優しげな声で告げる。
「降参するかい? それとも、コックピットにブレードを突き刺したほうがいいのかな?」
「こ、降参だ! 負けを認めりゃ……」
ほんの少し、ダビデがブレードをコックピットに突き刺したら、ブラッドは舌を噛むような声をあげて沈黙してしまった。
「き、きゃぁぁぁあああ!」
誰かの叫び声で場内が騒然としだした。
『へ、ヘルツォーク君離れなさい』
慌てて審判団が駆け寄り、ブラッドの鎧のコックピットを開放すると――
『な、何だ。気絶しているだけじゃないか…… 勝者、ヘルツォーク』
ブラッドの鎧が闘技場の端に移動され、ブラッドはそのまま怪我もないという事で、同じように闘技場の端で寝かされている。
とても気持ち良さそうに寝ているのが、観客席にいる全員から確認が出来て、安堵とともに失笑があちらこちらで漏れていた。
「クリス、見えたか?」
「いいえ、殿下。直線の動きしかしていないというのにブラッドのスピアがすり抜けたように見えました。剣自体の太刀筋は、私には少し及ばないと感じましたが、飛ばずにあの歩法は不可解です。正直、勝てる気がしません」
ユリウスの問にクリスは正直に答えた。
「オフリーさんの代理なのに申し訳ないが、僕の本命はジルク殿です。さぁ、色々とお話を聞かせて頂きましょうか」
エーリッヒの駆るダビデが妖しさを増して、ジルクを見据えていた。
次話は、拙作【乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です】https://syosetu.org/novel/250891/
第17話、第18話、第19話を参照みたいな感じで、省略した形を取ろうと考えています。