悪役令嬢(笑)へ転生した俺!ぶっちゃけ商人上がりの偽貴族でほぼ詰み何ですけど!?   作:N2

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第15話 決着後がカオスだと思っちゃいました。

 闘技場全体は、王太子殿下を応援する声に加えて、リオン君を罵倒する声で騒がしいというのに皆が一瞬でオリヴィアさんの声に聴き入るように静まり出した。

 

 「確かに王太子殿下はマリエさんを愛しているかも知れません。でも! アンジェリカさんだって王太子殿下を愛しています! だって、ずっと苦しそうにこの戦いを見守っているんですよ! 見ているのも辛いのに、目を背けないで悲しそうに見ているんです! 愛じゃないなんて言わないでください!」

 

 この騒ぎの中を一人の声が? 

 まるで魔法のような不可思議さが胸の内に広がってくる。

 

 「どうして否定するんですか! 相思相愛でなければ愛じゃないんですか?」

 

 「良いから止めろ。オリヴィア、もう止せ!」

 

 「いいえ、言わせて貰います。アンジェリカさんの気持ちは愛です。受け取る、受け取らないは本人の自由です。けど、否定なんてしないでください!」

 

 学生の内から愛を語るのも凄い話だよなぁ。しかも全員が真剣だし貴族だから家も深く関わる。

 でも一般的な上級クラスの学園男子は、体裁のため愛なんかろくに考えず、取り敢えずマシな結婚相手を探そうとしている。一般的な上級クラス女子は専属使用人や愛人で愛を育む。

 しかし、学園女子が酷いから、ちょっとマシな女の子ってだけで男子は恋に落ちる。

 この学園、ある意味愛に満ち溢れているな。

 愛こそ全ての学園生活。これはキャッチコピーに騙されてしまうな。

 愛、凄く嫌な物の代名詞になりそうだ。愛を下さいと叫んだ人には、この学園に満ち溢れた愛をお裾分けしてあげよう。

 中身男だけど、身体は女性の俺の愛や俺への愛って一体どうなるんだろうか?

 ふとマリエを見ると物凄い形相で主人公ちゃんを睨んでいる…… 怖っ!?

 

 (これだから良い子ちゃんは嫌なのよ。頭お花畑(メンパー)なんじゃないの? 一方的な気持ちなんて愛じゃなくて迷惑よ! 本当にイライラするわ。こいつの台詞ってイライラするのよね)

 

 ユリウス殿下とリオン君に気を取られて、皆がマリエの形相に気づいていないみたいだ。

 

 「ヒィッ!」

 

 そろぉっとマリエを覗いたら、何故か俺まで睨まれてしまった。

 

 (えぇ、そうよ。どうせアタシは偽物よ。美形で金も権力も持っている男達を侍らせるのは、本来はアンタだもんね。なのに少し強いだけのモブ達を味方にしただけで目立っちゃって。でもね、アタシには皆がいるわ。そんな強いだけの三枚目みたいなお笑い担当のモブやイケメンの癖に学園中に嫌われている奴なんかより、皆の方が絶対に良いに決まっている! あと、アンタは下っ端悪役令嬢の癖して一体何なのよ? うっ……)

 

 主人公ちゃんの視線がマリエへ向いた瞬間、マリエが一歩後ずさった。

 はぁ、やっとアイツの圧力が減ったよ。

 

 「言いたいことはそれだけかっ! 女ぁ!! 一方的に押しつけるのが愛だと? 俺を王子としか見ていないその女の気持ちが愛? 俺は…… 俺個人を見てくれる女性を見つけた。そして分かったんだ。これが愛だ。これこそが愛だ! アンジェリカ、お前は俺を理解しようとしたか? お前の気持ちは押しつけだ。愛じゃない。もう、二度と俺に関わるな! どちらかが死ぬまでこの決闘は終わらない。俺は覚悟を決めたぞ。お前はどうだ!!」

 

 ユリウス殿下の言葉に号泣するアンジェリカさんを見ていられない。

 クラリス先輩も共感なのかまた泣き出してしまった。そりゃあ自分に置き換えられる状況だ。アンジェリカさんの肩を抱いていて、そこから2人の嗚咽が聞こえる。

 

 (そ、そうよ。アタシは間違っていないわ。間違っているのはあっちよ。何よ、主人公と悪役令嬢と下っ端悪役令嬢までが並んじゃって。ゲームだと思いっきり争っていたじゃない。さっさと喧嘩しなさいよ!)

 

 マリエの表情がユリウス殿下の言葉で持ち直してきた。

 そろそろ俺もあのマリエに腹が立ってきたんだけど…… でも何か怖いんだよなぁ、アイツ。

 

 「覚悟を決めた、ですか? 今まで覚悟もなく戦っていたと? 負けそうになってようやく決める覚悟ってなんですか? 馬鹿にしているんですか? というかさぁ…… 決闘ってそもそもそういうものだから。学園内の暗黙のルールがあるから命は取らないだけで、本気になったらすぐに終わっていたんだよ。気が付かなかったの? これなら3人同時に相手にしても良かったわ。その方が楽に終わったし。自分たちの方が強いって自信満々にしていたから警戒したけど、想像以上の弱さだったよ。勘弁してよ。これだと…… 俺が弱い者いじめをしているみたいじゃないか」

 

 苛つきを抑えようとしていると、リオン君がこれでもかと馬鹿にする罵声を響かせた。

 

 「今まで覚悟が決まってなかったけど、ボロボロになって負けそうだから覚悟が出来た、ですか。自分の命を盾にして勝ちを得ようとする執念は認めますよ。こう言えば俺が引くんだろうな、って淡い期待があるのが見え見えでドン引きですけどね。流石に俺も王太子殿下は殺せないし負けを認めてあげようかな。良かったね。君は王太子殿下だから戦いに勝利するんだよ。王子として生まれたくなかったと言いながら、立場を最大限に利用するその強かさは賞賛に値しますよ」

 

 俺自身はオフリー嬢の身体に憑依してまだ九ヶ月と少し、しかも女だから男性の辛さも実感としては無い。

 そもそもこの世界の事も未だによくわかっていないところがある。

 ただそれでも、あの五人とマリエの非常識さは理解できるんだけど…… 闘技場内の貴族の子息共は理解していないのだろうかねぇ。 

 

 「ほら、負けてくださいって言えよ。僕は大好きなマリエちゃんと離れたくないから、勝たせてくださいってお願いしろよ。負けるなんて思っていなかったんです。許してくださいってお願いしてごらん」

 

 リオン君の言葉にエーリッヒさんが拍手しながら喝采をあげている。

 周囲がリオン君を最低だと感じてる最中、このエーリッヒさんの行動はとても暴挙に映ったのだろう。近くにいた女子が立ち上がって――

 

 「あ、あんたね!!」

 

 「黙れよくそがッ!」

 

 「ひ、ひぃ……」

 

 あぁ、エーリッヒさんの殺気を浴びて失禁しちゃった。ちょっと興奮したのは内緒だ。

 

 「お兄様…… 素晴らしいです」

 

 マルティーナさんはキメ顔でそう言った。

 エーリッヒさんがマルティーナさんにドン引きしている。

 

 「え、と…… 君ってリュネヴィル男爵家の子だよね。大丈夫? カーラかイェニーは代えの下着って持ってる?」

 

 「持ってますよ。ていうか何でお嬢様は持って無いんですか?」

 

 いや、中身男だしあの日じゃないし…… 常に持っておくもんなの?

 

 「あ、あの…… ありがとう」

 

 確かヘロイーゼさんだったかな。男子に人気のある子だ。可哀想にビクビクしながら腰をガクガクさせている。

 

 「エーリッヒさんやリオン君は怖いから、下手なこと言わないほうがいいよ」

 

 そう伝えたらお礼と謝罪を口にして、トイレへ着替えに去っていった。

  

 まだ終わっていなかったのかユリウス殿下の声が響く。

 

 「で、出来るわけがないだろう! これは神聖な決闘だ。互いに全力で戦うのが礼儀だ!」

 

 「え? 気を利かせてお前が負けを認めろ、って? 王太子殿下、それはきついっすわぁ。どう見てもここで負けを認めたら神聖な決闘の侮辱じゃないですかぁ。ここからどうやっても逆転できそうにないし。それとも俺の気持ちを動かすような名演説でもはじめます? まぁ、心が動かされるとは絶対に思いませんけどね。殿下含めて3人が3人とも、聞いていて首をかしげたくなる戯言ばかり。俺の心は一ミリも動かされませんでしたよ。逆にここまで嘘くさい台詞をよく言えると感心しましたけどね」

 

 闘技場内の雰囲気は最悪になっている。離れた所からは、リオンを倒せ! なんて言葉が飛び交っていた。

 俺達の周囲は対照的にエーリッヒさんの睨みが聞いているため異様な静けさだ。

 リオン君は殴りかかってきた殿下を捕まえたまま二人は膠着している。

 お肌のふれあい通信で二人だけで話でもしているのだろうか?

 殿下の白い鎧を解放したリオン君のアロガンツは思いっきりスコップで殴りつけた。

 スコップを手放してバランスを崩した白い鎧に、右手で殿下の鎧の胸部装甲に触れた。掌を当てるとアロガンツの右腕の装甲が展開する。その内部が光を放ちながら次の瞬間、「インパクト」とアロガンツから発せられて、王太子殿下の鎧が粉々となり、王太子殿下はリオン君のアロガンツに受け止められるのだった。

 

 リオン君が罵倒される中、彼はアンジェリカさんに騎士の礼で報告をしている。 

 それでもまだやはり、アンジェリカさんは心あらずと言った感じだ。端から見ると分かるけど、ユリウス殿下の身を案じているのが分かった。

 

 「リオン君、アンジェリカさんに対してもう少しアピールしてもいいと思うよ…… それと――」

 

 「別にいいよ。相手は王家に連なる令嬢だ。後の未来は上層部で好き勝手すりゃいいじゃん。俺達はやることがあるしな」

 

 俺の言葉は遮られてしまった。

 リオン君は三人で話をしたファンオースへの対処の事を言っているのだろうが、でもこの世界で生きているという事は、ゲーム以外の事象が大多数を加味するんだけど……

 リオン君はその辺りを軽視している気がする。

 だって――

 

 「クラリス先輩、ジルクと寄りを戻せるようにお父上の大臣に諮りますよ! 痛いっ!?」

 

 「……あら、ごめんなさい。決闘の凄さと興奮で、つい距離感が曖昧で踏んでしまったわ…… ティナさんの言う通り、平常時はアホなのかしら?」

 

 「何です? 後半は痛みで聞き取れませんでしたよ。アトリー関連の重要事項ですか?」

 

 「そうね! うふふふふふ」

 

 そして、この世界にどっぷり浸かっている人物だからこそ、爵位を気にしすぎて女性の気持ちをスルーしている人もいるけどね。 

 あぁ、エーリッヒさんって戦争や暗闘じゃなく、痴情の縺れで死ぬ残念な人っぽい。しかも泣いているマルティーナさんを左手で抱き、右手をナルニアの肩に添えながらクラリス先輩に応対しているのがヤバさマックスだって事分かってるのかな?

 クラリス先輩のエーリッヒさんを見る眼付きって、急転直下過ぎる深さを帯びているよ。

 女性の切り替えの早さは怖いと思います。

 

 「リオンさん! お疲れさまでした。でも、リオンさんは優しくて格好いいんだから、あの決闘での言い方は無いと思います! 私、リオンさんがワザとああ言って皆に嫌われるのは嫌です!」

 

 アルトリーベ本伝の主人公ちゃんはリオン君にぞっこんみたいだね…… 

 この世界ってカオス過ぎじゃない!?

 モブが本伝主人公を沼に嵌めて、外伝主人公が鬼無双してヒロイン二人とナルニアというモブを沼に嵌めてるんですけど!

 俺、もうどうすればいいか分かんないからね!


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