悪役令嬢(笑)へ転生した俺!ぶっちゃけ商人上がりの偽貴族でほぼ詰み何ですけど!?   作:N2

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酸山様、桜 佳奈様、誤字報告ありがとうございます。
謝辞が遅れましたこと、真に申し訳ございません。


第17話 温泉、その言葉に浮かれてしまいました。

 「BとCの通路はクリアだ。リオンは?」

 

 ファンオース城にルクシオン先生の機能で忍び込んだ俺、エーリッヒとリオンは、ルクシオン先生のマップと俺の魔力感応波で先行してファンオース城詰めの兵士を無力化(暗殺)していた。

 

 『マスターがAルートの安全圏を確保しました。巡回している新たな見廻りが到達するまでの時間は30分です』

 

 比較的警備が薄い箇所をリオンが非殺傷弾で無力化していっている。

 

 「了解だ。合流しよう…… 大丈夫だよ。リオンに気づかれないように止めは刺しておく」

 

 『……貴方は理解が早くて助かります。しかし…… 本当にマスターと同一年代を生きていたというのを疑問に思いますが?』

 

 屍を放置してリオンのもとに合流しようとする俺にルクシオン先生が問いかけてきた。

 

 「倫理に引き摺られ過ぎるのがリオンの世代だよ。法整備が整った法治国家というのは、倫理程度は法の圧倒的に下位に存在するものだからね。大人になって実感したよ。僕の世代で荒れていた地域に暮らしていたのであれば、争い時には第一に自分は死なないよう徹する。次に敵対する相手には、殺さない程度で以て徹底的に痛めつけるのが普通かな。善で弱い者は守れ、強く邪悪な者、大切な人間を脅かされるのであれば、例え殺しても親族各位は敬意の念を払うと…… そんなふうに教え聞かされたよ。リオンの世代は知らないだろうけど、祖父母が明治や大正生まれだとそこそこ過激な事を孫や曾孫に言ってくる……」

 

 喧嘩のルールは、何を使おうが自分が死なない事、その次に相手を殺さない事だ。

 まぁ、その程度だろう。

 ポケベルとピッチの時代であれば、一都三県、まぁ、神がいるのか分からない全国で一番暴走しているという統計がある川の県で、喧嘩で死んだ奴も精々が、「今朝未明に発見された溺死体は、遊んでいて溺れたようです」と適当にアナウンサーがやる気のない表情で報道される時代だったからな。

 夏でなければテレビ報道すらされない。地方版の新聞に小さく記載される程度だ。

 

 『エーリッヒ、マスターは平成生まれの普通の範疇です。少年期に何かしていたようですが、貴方から見れば甘々でしょう。貴方と同様の心情で、この世界に来たというわけではないでしょう。同様のものを求めるのは酷というものです』

 

 前世であればそんな後輩は、昔は酷かったと言って可愛がるだけでいいが、この世界、ホルファートでは有り得ない。

 

 「僕だって前世では、流石に殺しは嫌だし経験は無かったけど、ヘルツォークでそんな感傷は早々に捨てたからね。でもまぁ、リオンの心因的部分を考慮して、手は汚させないように僕が担うのは吝かではないよ。でも、理解はしておいて欲しいかな」

 

 『……マスターの心を痛めないのであれば了承しましょう』

 

 ルクシオン先生、所謂彼のプログラムから発せられた機械合成音だというのに、釈然としない様子が窺える。

 

 「そもそも何を躊躇しているのかな? オフリーさんとリオン、それに僕が話していた時に先生は言っていたよね。新人類を滅殺したいって」

 

 『貴方とマスターとのこの世界に対する温度差が気になったのです。勿論今すぐにでも滅ぼしたいですよ。そもそも新人類共は非道にも―― 民間人の船を攻撃し―― こちらの問い掛けを無視して!? ――』

 

 ルクシオン先生は、プログラムのアンチコードを入力したような反応が返ってきた。

 90年代に子供から思春期、大人の扉を叩いた人物というのは、存外に人の生き死にと理不尽に慣れているという事だ。リオンのような平成生まれとは、性根と覚悟が根本からして違うという物だよ。

 

 「僕は君の味方で()()()()()。だから、僕が感じた魔力感応…… 二つあるが、どう判断する?」

 

 『保留にしましょう…… 事前にオフリーに聞いた概要から判断します。内蔵魔力が低いほうがヘルトルーデ、大きいほうがヘルトラウダと断定します』

 

 「ならば魔力感知が高い僕個人でヘルトルーデ側のロストアイテムを確保する。リオンとルクシオン先生でオフリーさんから聞いたヘルトラウダと魔笛の確保を頼む。ヘルツォークには過去の第三者的な書類も残っているから、引き合いに出せばいい」

 

 『細かい処理は任せます。マスターも来ます。では、所定通りのオペレーション遂行。公国姫二名の奪取を開始します』

 

 ルクシオンの号令の下に冒険者が人情深くロストアイテムを駆使して作戦を成功させるが、偽物で贋作を自称する男は、身柄を確保した姫に対して恐怖と圧倒的力、そしてほんの少量の優しさと希望で、姫の意思で付き従えさせたのであった。

 

 『しかし、旗頭の両姫は残した方が良いのでは? 寧ろどちらか片方でも』

 

 ルクシオン先生の疑問が正解だが、それだとヘルツォーク、違うな…… 俺が困るのだ。

 

 「曖昧は未来に禍根を残す。どうせファンオースの奴らは大公家の遠縁を担ぎ上げるだろうさ。ルクシオン先生、新人類が減る状況に今後なるが…… 嫌なのかな?」

 

 『ほう…… マスターの心労が許容値内であれば歓迎しますよ』

 

 気にする時点で問題ない。リオンの性格からすると今後のファンオースの行動が何にせよ心を多少痛める。ならば、最大限に俺とヘルツォークの理に適う状況に持って行くだけだ。

 

 リオンとエーリッヒが暗躍する中、バンデルとファンデルサール侯爵が駆け付けた時には、ヘルトルーデとヘルトラウダと共に二つの魔笛は忽然とファンオース公国から消え去っていたのだった。

 

 

 

 

 債券証書の裏書をバーナード大臣に譲渡し、利息部分を先払いでエーリッヒさんから受け取った俺、ステファニー・フォウ・オフリーは、リオン君が所有する浮島の温泉で、何故か身を凍えさせていた。

 

 「おい、クラリスにマルティーナ、それにマルガリータもいい加減にしたらどうだ。オフリーもドレスデンの娘も温泉にいるというのに顔が真っ青だぞ」

 

 アンジェリカさんが名を挙げた面々の余りの迫力に苦言を呈してくれた。

 クソッ、温泉だぁわ~い! などと夢心地で、女体を合法的に拝めるじゃんラッキー! などと浮かれていた数分前の自分を殴りつけてやりたい。

 しかもマイ息子(サン)がないので、興奮と高揚が頭と胸の奥だけで下に行かない虚しさに、悔しくて泣けてきて怒りで震えて涙が止まらなかった。

 今は恐怖で震えて泣けてきて涙が止まらない。

 

 「ふ~んこれが…… リック兄様のお気に入り。それで後ろの人も、そこそこリック兄様好み…… ふ~ん」

 

 ジト目で俺と背後のナルニアを見るマルティーナさんの妹のマルガリータさんが怖いというかめっちゃ近い!?

 近眼なのかな?

 

 「あぁ、安心してくださいオフリーさんにナルニアさん。メグは眼が良いですから」

 

 「両方とも3.0以上ある」

 

 フンスとドヤ顔をするマルガリータさん。何のフォローにもなってねぇじゃねぇか!

 因縁付けてるだけじゃねぇか!!

 ヤバい、この温泉が俺の血で真っ赤に染まりそうな気がする!?

 

 「ま、まぁまぁ、でも私は羨ましいですよ。マルティーナさんやマルガリータさんが。ほら、だって結婚の障壁がないわけじゃないですか! リオンさんはお貴族様で…… 私には雲の上の存在ですから」

 

 なだめに入ってくれたオリヴィアさんだが、最後の方の自分の言葉で気落ちしてしまった。

 その万感の嘆きが籠った声色には、この湯にいる全員が意識を持って行かれてしまった。

 

 そう、この世界の貴族制は、前世のような国を跨ぐようなルーズな婚姻外交が横行しておらず、男爵家や子爵家程度の男や女が、女王の王配や王妃などには決してなれない。ホルファートの歴史上存在していない。

 前世の欧州のような時代によって爵位の格が変化するような流動性、はっきり言うが適当過ぎる立憲君主制上の爵位ではない。公候伯子男、候と同等の辺境伯が明確に権威に権力、そして責任が区別されて数百年と存在する国だ。

 平民がいくら頭脳明晰であろうが、バカボンの準貴族、騎士爵や準男爵を超える事は出来ない。その権利が無い。暴力という名の冒険で功績を立ててやっとといった所。頭脳明晰よりも現実を超えた脳筋馬鹿の方が騎士爵、そして平民が夢想する存在、準男爵に手が届くかもしれないと希望という名の絶望に縋っている。

 リオン君は現実が創作を超えたと言えるあり得ない存在だ。ほぼ平民に近い人物が成人年齢での男爵への陞爵だ。物語で子供を喜ばすあやふやな存在だろう。物語と同等の人物に描かれてしまうリオン君は、誰のどの身分に対しても理解に及ぼない存在となってしまっているだろう。

 そういう意味では、エーリッヒさんは認識可能なサイコパスの向こう側、正しい意味での英雄という認識で間違いない。100人殺せば英雄を桁違いにその身一つで体現している。

 ヘルツォークが好きすぎて言葉の端々にそれを感じ取れるから、一般的な貴族女性に敬遠されているだけだろう。高い位置で王国を俯瞰できるクラリス先輩やエーリッヒさんに直接的に接してきたマルティーナさんやマルガリータさんは、まぁ他の男なんか目にもくれないだろうとは思う。

 そしてナルニアは――

 

 「で、でも私は! 実績を知って直接話をして…… あの方の仕事を見た身では、他の男に懸想など出来ませんよ……」

 

 ちょ、おい!?

 その想いは地獄の扉を開いてしまうぞ!!

 俺は恐る恐るマルティーナさん達を視界に捉えると――

 

 「ふふふ、王国貴族の殿方とお兄様を比べたら、一目瞭然ですからね」

 

 え? 何故か得意げに胸を張るマルティーナさん。

 大きさがあるのにハリがヤバいぐらいあってありがとうございます。正にE女。 

 

 「へぇ、リック兄様の良さを分かっている。賢く明晰な感性? 女としての第一感を持っている」

 

 身を乗り出してナルニアを上から覗き込むマルガリータさん。

 両腕に挟まれて零れそうな程に歪んで食い込み、たゆたんでいるごっ立派様が、すごくすごい眼福でございます。

 迫力のGにレコンギスタ(再征服)致しましてございますことよ。

 

 「ていうかこの二人、怖いけどチョロくない?」

 

 ぼそりと呟いた俺の言葉は、湯の音が掻き消してくれた。

 そしてまさかの追撃が、ナルニアの口から発せられる。

 

 「アンジェリカさんもクラリス先輩もお可哀想だと思います。バルトファルト卿もエーリッヒさんも卒業後に男爵という身でありますから」

 

 青褪めた顔をしながらそれでも一矢報いる事が出来るナルニアは、純粋に何故オフリー家の俺と友達をやれているのか疑問に思う。

 いや、ある意味真実なんだけど、実際平民出のオフリーにその攻撃的言葉は言えないっス。

 やっぱりナルニアは、生粋の六位上の男爵家の令嬢という何かを持っているんだなと思ってしまう前世も今世も平民根性のワテクシ。

 

 「「ぐ、ぐぬぬぬ」」

 

 アンジェリカさんとクラリス先輩がヤバい。

 え? ナルニアってやっぱりけっこう凄いのかな?

 まぁ、貴族女子交流関係はナルニア任せな俺はなんも言えないけど……

 このやり取りを考えるに実際の所、下級貴族関連の債券なんかクラリス先輩やアンジェリカさんは、ぶっちゃけ大して気にもしていないらしい。

 だってオフリーよりも上位だったり遥かに歴史ある女性達が気にしてるのって男の事だし。

 仕方…… なくはないだろうが…… 女の子怖い。

 

 そして更に混迷を極めるのが、黒髪で細身の腰と脚が美しい女性とその妹で、低身長ながらも艶やかな黒髪と圧倒的ボリュームを持つ女性を持ち帰ったリオン君とエーリッヒさんがファンオースから戻ってからだった。

 自身と被らない二人の女性にアンジェリカさんとオリヴィアさんの反応が…… 

 微妙に腰と脚が被るマルティーナさんに二人を足して二で割るバランスが、いやおっぱいは立派なクラリス先輩が……

 ま、まぁ理由は分からないことにしておきたいワテクシですが、何か物凄い大変なことになった。

 何故、物語の民衆の憧れの勇者様的なリオン君と敵対する奴ぶっ殺英雄的なエーリッヒさんが、この国を取り巻く状況で政治と外交に戦争をさて置いて、女性陣に苦しむ状況に陥る摩訶不思議。

 

 「あぁ、これって乙女ゲーの世界だっけ」

 

 「ん? 何です、お嬢様?」

 

 「ナルニア、せめてこの泉質ぐらいは堪能しよう」

 

 俺、ステファニー・フォウ・オフリーは現実逃避した。


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