悪役令嬢(笑)へ転生した俺!ぶっちゃけ商人上がりの偽貴族でほぼ詰み何ですけど!? 作:N2
乙女ゲー世界はモブの中のモブにこそ、非常に厳しい世界です
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こちらの幕間ですら語らない細かい設定なども話に盛り込んでいきます。
まぁ、こちらの作品は日常回が多いので、その絡みのような感じです。
ダンジョン実習も始まって少し経ち、学園の一年生男子も放課後はダンジョンで稼いだり、お茶会開催にと一年生全体も賑やかになってきている。
俺自身はダンジョンも興味無いし、男子のお茶会も参加したくない。
ということで、王都の商業区にある取引所に来ていた。
「シンジケートに現物、先物に株式か…… 粗いとはいえ前世でもかなり昔からあるから、そりゃぁこの世界でもあるか」
取引所から少し離れたオープンテラスのカフェで、先程チェックした銘柄の終値から、ローソク足をノートに書き込んでいた。
「そういえば、ローソク足は日本発だったっけ? しかし……」
すっかり忘れていた統計学も、学園で二年生から履修出来るので、図書室で前世の復習がてら勉強をしている。
取引所近くの喫茶店で、その復習の成果をローソク足と共にノートに書き込んでいくが――
「移動平均線と標準偏差を書き込んだけど…… 現物でも乖離が許容出来ない。先物には駄目…… 株式なら辛うじて」
情報強度と速度が個々人で異なり過ぎるから、反映がまちまちなんだろう。
「今は平和な王都でこれか。何が95.45%だよ…… 取引所を見るだけじゃ、結局はチキンレースじゃないか」
オフリー伯爵家との縁切りのため金は多いほうがいいので、一月近く前から取引所のチェックはしていた。
父は俺の人格が変わったかのような生活態度を訝しんでいたので、俺自身はオフリー伯爵家の息の掛かった商会や事業所、裏家業には出入りを控えている。
「銀行に預けているだけじゃなく、上手く使いたいけど、なかなか…… どうしようかなぁ」
頭を掻きながらペンでノートを叩くが、溜め息しか出ない。
コーヒーで頭をスッキリさせようと、冷めた黒々とした液体を勢いよく飲み込んだ所に、驚きで思わず漏れでたといった声色が降ってきた。
「ジョン・ボリンジャー? ボリンジャーバンドが何故…… 君は?」
は?
何でこれを知ってる? 上を見上げると――
「ぶほっ!? ゲホ、ゲホ」
「だ、大丈夫かい!?」
その人は慌ててハンカチを出して、俺の口元を拭いてくれた。
「エ、エーリッヒさん…… な、何で」
そう、そこには、オフリー伯爵家にとっての地獄からの使者が、不思議そうに、そして驚いたように俺とノートを交互に見ていた。
☆
マルティーナとミリーにジェシカは、本日は学園男子主宰のお茶会に参加せず、ウィンドウショッピングを楽しんでいた。
「ヴィム君はどんなのが好みなんだろう? こっちかな?」
ミリーはヘアアクセサリーを見て、王国本土の優良貴族家、カルロビ子爵家のヴィムの好みについて考え込んでいる。
「私は逆にクルト君に何かを贈ろうかな? そっちのほうがポイント高くない?」
ジェシカはミリーとは異なり、同じくランビエール子爵家のクルトへの贈り物の事で悩んでいる様子だった。
マルティーナも流行りものをチェックしている様子だが、少し普段よりも目付きを細めつつも、頭の中に疑問を浮かべているようにミリーとジェシカには感じられた。
「どうしたのティナ?」
「気に入らなかったのかしら?」
ミリーとジェシカが声を掛けてくれるが、それでもマルティーナの表情は変わらない。
「いえ、買い物中にごめんなさい。少し、エーリッヒ様の動向が普段と違うんですよ…… 気になってしまって」
「「は?」」
((つ、ついに頭がおかしく!?))
ミリーとジェシカには何故この買い物、ウィンドウショッピングの最中にいきなりマルティーナがエーリッヒを気にしだしたのかが不明だ。
先程までは三人でおしゃぺりをしながら過ごしていたが、その時には現在のような翳りは見当たらなかったのだ。
「え、えっと、何か変な予定というか聞いてるの?」
「私はエーリッヒ君の仕事の事はよくわからないけど、急に帰るのが遅くなったりとかはあるんじゃない」
マルティーナの言葉の要領が捉えづらい二人は、一先ずは無難な質問をしてみる。
すると――
「いえ、お兄様は仕事終わりには必ず同じ場所に行くんですよ。確か喫茶店ですが…… 遅ければその喫茶店か付近で食事して学園に戻ります。今日のこの時間ですと、少し滞在したら学園に戻って学生寮の食堂で夕食を済ませる筈なんですよね……」
少々早口言葉でマルティーナは二人に説明する。
「また、呼び方がお兄様に戻ってるし。あはは……」
ミリーはその剣幕に苦笑寄りの愛想笑いで聞き流しているが、ジェシカは違った。
「ちょっと待って! 何でエーリッヒ君の居場所を!? 仮にまだ、事前に予定を聞いていたという事にしたとしても…… どうしてエーリッヒ君の滞在時間までわかるの?」
「あっ!」
ジェシカの驚きの質問で以てミリーも漸く、マルティーナがあり得ないことを言っていることに気が付いた。
「わたくし、この王都全域であればお兄様が何処にいらっしゃるかわかりますよ。本来ならヘルツォーク領本島全域は、お兄様が発する魔力の探知が出来るのですが…… 王都は人の流入も多く、建物も多く高層ですからね。新貴族街や繁華街、それに商業区までで精一杯です」
困りましたとでも言うかのように、マルティーナは頬に手を当てて溜息を
「「怖いっ!」」
「な、何がですか? ちなみにお兄様が気配を消し、自身の魔力反応を絞ろうがわかります。魔力は生きていれば必ず微弱ながらも発せられますからね」
二人の驚愕の声にマルティーナはビクッとしてしまった。
しかし、凄いでしょうとドヤ顔で、更に怖い事実をカミングアウトしている。
(え!? じゃぁ、エーリッヒ君とこっそり会ってもティナにバレちゃうってこと!? いや、魔力を阻害するような建物とかでなら……)
ジェシカは驚きで混乱したせいなのか、良ろしくないことを考えてしまった。
声に出さなかったファインプレーを褒めてもいいだろう。
「ま、魔力探知ストーカー…… ティナ、ちょっとヤバイよ」
ミリーは大いに引きながら言葉を漏らしてしまう。
「な!? ス、ストーカーじゃありません! それに魔力探知の性質上方角しかわかりませんし。わたくしが地理勘のある場所しか特定できません。このショッピング街や付き合いのある商会、それに取引所付近に飲食店、後は倉庫などですか」
「それ、ティナが王都全域を大まかにでも何があるか把握したら、エーリッヒ君の行動が丸わかりじゃない!」
流石にジェシカもドン引きしている。
「ふふふ、実は学園に入学してから見つけたわたくしの新しい趣味は、お兄様が訪れたことがある方角の散歩です。勉強の合間の息抜き程度ですので、なかなか思うように進まないんですよね」
「ティナ、ストーカーは自分の事をストーカーだってわからないの。エーリッヒ君に嫌われたくなかったら、程々にしたほうがいいよ。絶対にそんな事してるって言わないほうがいいからね!」
ミリーがマルティーナの両肩を掴んで、必死に言い聞かせている。
「別に態々言いませんよ。それにヘルツォーク領でも、常にお兄様が王都から帰ってくる時の出迎えや呼び出しをわたくしが率先してましたが、お兄様は何の疑問にも思っておりませんでしたよ。恐らくお兄様も常日頃から、わたくしの存在を感じて下さっている筈です」
マルティーナは一人、恍惚染みた表情を浮かべている。ミリーはこそこそとジェシカと内緒話を始めだした。
「えぇ…… どう思うジェシカ?」
「いや、無理でしょ。そんな魔力探知。実家や学園ですら聞いたことないもの」
「エーリッヒ君って強いんでしょ? それならワンチャン……」
「戦闘時とかほら、殺気とかじゃない? ティナみたいなのはあり得ないでしょ! これ、化け物の領域よ」
こそこそと話すミリーとジェシカをマルティーナは訝しむように覗き込む。
「何ですか?」
「いやぁ…… じゃ、じゃぁちょっとそっちに行ってみない? 偶然という事で挨拶するぐらいなら問題ないんじゃない?」
ミリーはこそこそ話を誤魔化すかのように、マルティーナが食い付くであろう提案を反射的に口に出していた。
しかし、マルティーナの反応は想像していたものと異なる。
「それは…… お仕事なのは間違いない筈ですので、あまり邪魔はしたくないのですが…… まぁ、何故か気にはなりますが」
「なら、いいんじゃない? 私達も食事という事で。実際これから食事しようとしてたのは事実だしね。仕事中のエーリッヒ君気になるし。この前みたいに仕事用の服装なのかな?」
ジェシカはマルティーナの背中を押すように、ミリーに賛同する。
ジェシカの言う仕事用の服装とは、以前に女子会した時にマルティーナを迎えに来たときの姿の事だ。
「本日は、リッテル商会と取引所に寄るだけですので、学園の制服ですよ。本来なら、手短な打ち合わせだけで、学生寮に戻り出す頃合いでしたし。あっ、お兄様が移動しました! 寮に戻る方向とは異なります。例の喫茶店からなら…… しかし、別の場所で食事を?」
「そ、そこまでリアルにわかるんだ…… はは……」
ミリーは先程よりもドン引きしている。
「なら、急遽仕事関係の人と会って場所を変えたんじゃない? さすがに突撃するのは悪いかな」
ジェシカは頭が冷えてきたため、幾分冷静さを取り戻してきていた。
「……元々食事をしようとしていたレストラン街ですので、行ってみましょう。学生服のまま場所を移動してまで、打ち合わせをする相手が気になります」
結局は行くのかとミリーとジェシカは呆れながら、しかし興味が勝ったため、マルティーナの後を付いていくのだった。
☆
エーリッヒさんはコーヒーを頼み、カップを傾けながら俺とノートを見て考え込んでいる。
「エーリッヒさんは今日はどうして?」
俺の曖昧な言葉を正確に受け取った答えを返してくる。
「仕事の帰りには、いつもこの喫茶店に寄るんだ。今のところ、王都で唯一コーヒーが飲める店だからね。かなり高いけど、自分への御褒美かな」
「私はこの前たまたま見つけて…… ははは」
ドキドキしながら会話を進める。
しかし、エーリッヒさんは確かにボリンジャーバンドと言った。
こんなテクニカルはこの世界には無いのに。前世でも開発した人はまだ存命中……
「そう! ジョン・ボリンジャー!? た、確かさっき……」
やばっ! 迂闊にも思考が口から漏れてしまった。
俺の言葉を聞いたエーリッヒさんは、眉根を潜めながらコーヒーカップを置く。
「自分がそうなんだ…… そういう人物が他にもいるのか? とは考えた事はあったよ。いざその人物に会ってみると、コーヒーの味も香りもとんでしまう衝撃だね」
いえ、俺にはちょっと不機嫌そうな自然体にしか見えませんけど。
こっちは心臓が飛び出そうですが何か?
「場所を変えようか。本当なら食事をして帰るつもりだったけど。お互いにその方がいいと思うけど、どうかな?」
「そ、そうですね! あは、あはは……」
「個室を備えているレストランがある。多少込み入った話もトーンを抑えれば問題無い」
現状では、オフリーにとって逆らったり敵対してはいけない人物筆頭からのお誘い。
俺はビクビクしながら後ろを付いていく。
「ちょっと小洒落たレストランってだけだよ。変な所に連れ込むわけじゃない。そこまで怯えられるとさすがに僕も心にくるものがあるんだけど」
エーリッヒさんが頬を掻きながら苦笑いして困っている。
ふぉぁあっ! ヤバいぞ! エーリッヒさんの気分を損ねたら、月か海底に直行してしまう!
「いえ! 大丈夫です! 何処に連れ込まれようが、全く、何も! これっぽっちも問題ありません!」
ビシッと気を付けの姿勢で反射的に答えてしまった。
「いや、それは女の子としてどうなの? ただでさえ僕は学園で女子に評判が悪いんだから、そんな事しないよ」
オフリー嬢の中身は、俺というおっさんですけどね。
マルティーナさんと常にいるエーリッヒさんには、そういう意味での身の危険は感じないけど。
オフリー嬢に手を出すよりもマルティーナさんのほうが、何万倍も美人でスタイルいいし、彼女の受け入れ態勢もバッチリの筈だ。
爵位関係なく、オフリー嬢では遊び相手としても遠慮されそうだな。
あの外伝のオフリー嬢のヒロイン設定って、一体誰得だったのだろうか?
そんな事を考えながら、気分的にはドナドナされながら、エーリッヒさんの後ろを付いていくのだった。
ドナドナされるオフリー嬢、名前はまだ無い!