突如現れる怪人! 怪人から人々を守るヒーロー!
 平凡な男子高校生だった臥字路嗚論(がじろ・あろん)は、人間界への侵略を企てる怪人「ヴァニティ」が出現した時、怪人に抵抗するための大きな「力」を手に入れた。でも彼が力を使うには「とある条件」をクリアしなければならないらしくて……?
 突然ヒーローの力を得た少年。力の秘密をひょんなことから知ってしまった友人。はたして二人の男子高校生は、ついに「秘密」を解明した怪人の魔の手を退けることができるのだろうか!?

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 ヒーローは差別問題に向かって必殺技をぶちかまさない。物語の中で風刺的な内容が扱われるとしても、いつだってライダーキックは怪人や大悪人にしか放たれないように、人の中にはびこる根深く繊細な諸々をやっつけてくれるヒーローなんて基本的には存在しない。そういう類の悪は、ヒーローではない「みんな」が何とかしなければならないのだ。

 だから逆に言えば、怪人や大悪人の方に関しては、ヒーローさんにきっちりなんとかしてもらわなければ困る。「みんな」は人類間のいざこざで、いやそれどころか身近な人間関係のあれこれだけでも手いっぱいなのだから。

 

「ぐわあああああああああ!!」

 

 敗北映えする断末魔を上げて、藁人形に似た姿をした怪人は爆散した。

 離れて見る者の肌さえ焼きかねない熱を放つその爆炎の中から、肉体どころか衣服まで完全に無傷で、一人の男の姿が浮かび上がる。何かを悟ったかのような重々しい無表情を浮かべるその男、彼こそがこの世界のヒーロー、臥字路嗚論(がじろ・あろん)である。

 戦いを終えたヒーローの胸からは、光の粒子を伴ったスマホが当然のように排出されて、彼自身の手元に収まって行った。

「臥字路くん!」

 今日も一つ正義の味方としての役目を終えた彼のもとに、一人の少年が駆け寄る。低い背丈に華奢な体つき、ひ弱な印象をことさら強める細いメガネがトレードマークのその少年の名は並田研二(なみた・けんじ)、臥字路のクラスメイトだ。並田は初対面の人間すべてに「頼りない」という印象を与えるような男であるが、しかしその実、臥字路の秘密を知る唯一の一般人だったりする。

「今日も絶好調だったね」

「おうよ。自分で言うのもなんだが、負ける気がしないぜ」

「いつも助けてくれてありがとう。臥字路くんが強すぎるくらい強くてよかった」

「ふっ、まあいつものことながら、褒められると気分がいいな」

 特に照れる様子もなく胸を張る臥字路。彼がその正義の力を振るう機会は、大きく分けて二種類ある。一年ほど前から突如現れ始めた侵略的異種族「ヴァニティ」が地球を脅かそうと出現した時か、並田を脅かそうと出現した時の二種類だ。

 臥字路はこの一年の間、ひたすらヴァニティを退治し続けている。ヴァニティの姿はいわゆる「怪人」であり、たとえば先ほどの藁人形のように、基本的には人と同じ大きさ・形をしている。そんな怪人ヴァニティがある日突然「次元の裂け目」から地球に現れるようになり、それと同時に臥字路は、なぜか強大な力を手に入れた。彼はその力でヴァニティと戦うことを決意したが、次元の裂け目がなぜ発生するようになったのか、臥字路はなぜヴァニティの発生に呼応するかのように力を得たのか……といった全ての謎は、まあそのうち特撮ドラマ的な感じでなんやかんや判明するだろう。裏を返せば、今はまだ何も分かっていない。

 ただ、一つだけはっきりしていることがある。それは臥字路が力を使うには、ある条件を満たさなければならないということだ。今のところその条件を知る者は、臥字路本人と並田の二人しかいない。

「しかしまあ、お前もよく狙われるよな。尽くって感じだ」

「いや本当に、助けてもらってる立場で言うのもなんだけど、勘弁してほしいっていうか……。まさかこんなことになるなんて」

「それは俺も同じことを思ってるよ」

 臥字路が力を使うための条件とはつまり、臥字路の弱点その物を意味する。条件の達成を妨害し、常勝無敗の正義の味方を打破するため、ヴァニティたちはいつだってその弱点を知りたがっているのだ。故に彼らは、秘密だけを持ち力を持たない並田を執拗に狙ってくる。臥字路はいろいろな意味で絶対に彼を守らなければならない。

「あれ、臥字路くん、コンビニ寄らないの?」

「お?」

「今日月曜だよ」

「ああ! 忘れてた、ナイスだ並田」

 藁人形ヴァニティが現れたのは月曜日、二人が下校中のことだった。尋ねられた道を親切に教えることと同じような感覚で正義を執行し、無事ヴァニティを爆散させた臥字路は、しかしその拍子に大切なことを忘れてしまっていた。そう、月曜日は、楽しみにしている漫画雑誌の発売日!

 が、コンビニを出てからさっそくその雑誌を開き始めた彼は、しばらくすると肩を落として落胆した。

「どうしたの」

「休載してる……」

「ああ、あの呪術のやつ?」

 うなずく臥字路。一番楽しみにしている漫画が今週は休載のようだった。健全な男子高校生である彼は、楽しみにしていた漫画が一週飛ぶくらいのことでも真剣に落ち込むことが出来る。

 雑誌を閉じて、そそくさと帰路の歩みを早める臥字路。その背後をついていく並田が、偶然目にしたそれに「あっ」と声を上げた。

「えっ、なんだよ?」

「臥字路くん、それ、首のところ」

 臥字路の首の後ろに何かがあるらしいが、人体の構造的に本人がそれを見ることは出来ない。けれど並田がスマホで撮影した写真を見て、彼もようやく「げっ」と声を上げた。

「なんだこれ……」

「明らかにやばくない……?」

「明らかにやべぇな……」

 そこに写された首筋には、血のように赤黒い色ではっきりと「呪」の文字が浮き出ていた。さっき爆散していった藁人形怪人のことが二人の脳裏をよぎる。誰かのいたずらに今気付いた可能性よりも、あの藁人形が何らかの能力を発動していた可能性の方が遥かに高いことは明白だろう。

「え、なんともないの? 臥字路くん的には」

「完全になんともない」

「い、一回変身してみるとかどう? いつものパワーで祓えるかも。なんというかその、(じゅ)を」

「やってみるか……?」

 言いながら、彼はスマホを取り出して素早く操作し始める。そして一連の操作が完了した時、そのスマホは輝き始めた。画面だけではなくスマホ全体が小さな太陽のように激しく輝き、金色の光を放ち出すのだ。

解放(ドミネイト)!」

 かけ声に反応して、発光状態のスマホが彼の胸へと吸い込まれていく。その光が水中へ沈み込むように胸の中へ完全に消え去った時、どこからともなく、他では聞いたこともないような声が聞こえて来る。

 

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 直後、臥字路の肉体から強烈なオーラのような物が放たれ始めた。黄金色のそれはいかにも戦闘力の上昇を示した力強い物であり、見る者に「放っている人間の髪が金色にならないこと」への違和感を覚えさせるほどである。

 そう、そのスマホ操作こそが、彼が力を引き出すための条件であり、このオーラを放っている状態の彼こそが、数多のヴァニティを打ち倒してきた無敵のヒーローその人なのだ。しかしすでに言ったように、そのスマホの「操作」が具体的に何であるのかは、ここにいる二人以外に誰も知らない。

「どうだ、消えたか?」

「いや、全然……」

「マジかよ」

 今までに現れたヴァニティの中には毒を使った攻撃をしてくる者もいた。しかし今まで臥字路の無敵のオーラは、そんなあらゆる敵の攻撃を全て無力化してきたのである。従って無敵のヒーロー臥字路にとって、敵から受けた影響を振り払えない経験はこれが初めてだった。負ける気がしないと豪語していた彼も、これにはさすがに困惑の色を隠せなくなる。

「……ん? あ、いや、ちょっと待って。だんだん薄まってるかも」

「おお」

 爆炎の中から無傷で生還できるほど強力な力が「だんだん薄くする」程度のことしか出来ないのでは異常事態に変わりないが、ともかく全く成す術がないというわけではなかったようだと分かって二人は胸をなでおろす。

 「呪」の文字は、それから三分ほどかけて徐々に、しかし完全に消滅していった。

 呪いの文字が消滅し次第オーラを解き、胸から戻ってきたスマホはいつも通りポケットにしまう。いつもの余裕を取り戻した臥字路が、平和ボケした人間と同じくらい間の抜けた調子で言った。

「さっきの「呪」ってやつ、変身せずに放っておいたらどうなってたんだろうな」

「そのまま呪われたとか……?」

「呪われると、具体的にどうなる」

「それは分かんないけど、最悪死んじゃうとか……?」

「いや、やばすぎるだろ……。…………ん? あっ、いや違う、分かった!」

「どうしたの」

「俺が呪われたから休載してたんだ!」

「それは違う気がするけどなぁ」

 そんなのんきな会話を繰り広げる彼らはこの時、次元の裂け目の向こうでヴァニティの狡猾な陰謀が進行してしていることをまだ知らなかった……。

 

 

 

 

 

 

「ついに、ついに分かったかもしれない……」

 あの日、藁人形ヴァニティの能力により、約三分間だけ宿敵の「視界」をジャックしたヴァニティの上層部は、その宿敵……臥字路嗚論の弱点が何であるのかについての研究にいつも以上に注力していた。そしてついに、彼らは真実にたどり着いてしまったのである。

 包帯でぐるぐる巻きのミイラの姿をしたヴァニティが、仮説という名の真実を仲間内に報告する。

「……以上の情報から察するに、まさかとは思いますが、臥字路嗚論の変身条件は…………ということなのでは」

「そんな馬鹿みたいな話があり得るというのか……?」

「しかし映像から立てられる仮説はそれくらいの物で……。それに今思えば、人魚のヴァニティである彼女を送り込んだ時だけ、奴の変身シークエンスが短縮されていたような気も……」

「ううむ……」

 半人半竜の姿と、片目に付けた黒い眼帯……いかにも強そうなヴァニティが、ミイラの持ち込んだ映像を何度も見直しては低く唸る。そこには臥字路の目を通して見えるスマホ画面があった。彼らヴァニティ上層部は、臥字路がいつも具体的にどんな操作をしているのか、その真相を垣間見たのである。

 それは命を賭してようやく発動することの出来る藁人形ヴァニティの能力によって、彼らがやっとのことで手に入れた情報だった。臥字路が戦闘終了後すぐにオーラを解除することを知っていたヴァニティらが、死後……つまり戦闘終了後になってから発動する能力を用いるという搦め手の発想に至り、それが成功してしまったのである。

 ……しばらく悩んだ末、半竜はミイラに指示を出した。

「時計を呼べ」

 間もなくして半竜の前に現れたのは、体中のいたる箇所に時計の丸い文字盤が浮かんでいる奇怪な男だった。言うまでもなく、彼は時計のヴァニティである。その能力はあらゆる物の「速さ」を操ること……なのだが、その一見強力な彼の能力には弱点があり、そのために今まで出番が回ってこなかったという不遇な(あるいは恵まれた)境遇を彼は背負っていた。

 だが、藁人形が得た情報を用いる今回の作戦には、そんな彼、時計ヴァニティの能力が必要不可欠となる。ミイラと半竜から作戦を聞かされて、時計は心なしか目を輝かせているようだった。

「時計、頼めるか。これまでと同じように、失敗は死を意味するが……」

「もちろんです、ぜひやらせてください。この私がヴァニティ界の役に立てるというのなら」

 最強のヒーロー臥字路嗚論。……彼の最大のピンチが、すぐそこにまで迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 藁人形ヴァニティの死後から僅か三日後。新たなヴァニティの出現に、臥字路の通う高校の体育館には悲鳴がこだましていた。

 突如開かれた次元の裂け目より時計のヴァニティが出現。彼は人間たちが状況を飲み込むよりも先に、最も近くにいた適当な生徒一人を捕まえて人質にした。その間にも他の生徒たちのほとんどは我先にと逃げ出すが、彼らとて何も薄情なわけではない。臥字路よりも確実に人質を救出できる人物など存在せず、むしろ自分たちがその場にいれば足手まといになるだけだと理解しているのだ。

「臥字路くん!」

 その場に残っていた並田が、体育館の隅に避けてあった臥字路のスマホを投げ渡す。ヴァニティの出現が神出鬼没である以上、ヒーローである臥字路は怪人たちに抵抗する術をいつも傍に置いてあるのだ。

「サンキュー並田! さあ時計野郎、覚悟しろよ」

 彼の手慣れた素早い操作により、いつも通りスマホ向けブラウザが起動される。臥字路の目には、ブックマークリストの中にある「新しいフォルダー」が映された。

 ……しかし、そこから先がいつも通りにならなかった。新しいフォルダーの中身をタップしたのに、URLの読み込みがいつまでたっても完了しなかったのである。「ページを読み込んでいます」の状態のまま、まるでフリーズしてしまったかのように、通信制限にでもなってしまったかのように……。

「馬鹿な、50ギガだぞ……!? しかも今日は月初めで、なんでだ……!?」

 焦る臥字路をニタニタとした笑みで観察しながら、時計ヴァニティは勝ち誇った様子で語り始める。

「私の能力はですね、あらゆる物の速度を遅くすることが出来るのですよ。ただその能力には一つだけ致命的な弱点がありまして……、能力の対象と同カテゴリの、私の所有物まで遅くなってしまうのです。相手の動きを遅くすれば自分の動きまで……という風にね。だから私は、遅くなると相手だけが困る「何か」を、遅くしなければならない。……例えば通信速度とか」

「なっ」

「私は、あなたの弱点を知っているのですよ。あなたは……」

「あ、バカ、やめろ言うな!」

 怪人と正義の味方。人間を逸脱した力を持つ者同士の会話を、今この場では二人の一般人も聞いていた。逃げれば自分が狙われると知っているから臥字路の傍から離れない並田と、人質にされた無力な男子生徒の計二人。……特に後者の方は、臥字路の秘密をまだ何も知らない人間である。

 しかし怪人は、その場で無慈悲に真実を口にした。

「あなた、勃起しないと力を使えないんじゃありませんか?」

「…………」

「それも想像や妄想の力に欠けているのか、あなたのそれには必ず「画像」が必要だ」

「…………」

 あちゃー、という風に、並田が片手のひらで顔を覆う。秘密の保持者が、また一人増えてしまった瞬間だった。

 そう、臥字路嗚論は、自らの陰茎を勃起させなければ特別な力を発揮することが出来ない。しかし、目に見える「劣情を誘う物」がなければその条件を満たすことが出来ない彼は、お気に入りのエロサイトを山ほどブックマークしたスマホのことを変身アイテムとして扱っているのだ。……いや正確には、彼が強大な力に目覚めた時にはすでに、現在の変身シークエンスが完成されていたのである。強大な力その物が、まるで臥字路の性分を理解しているかのように。

 だが今や彼のスマホは半永久的な読み込み中ループに陥り、彼のスマホのインターネット通信を介する機能は全て死んだも同然となった。こんなことならブックマークではなくエロ画像その物をスマホの中に入れておくべきだった……と後悔してももう遅い。彼はすでに、ただの無力な男子高校生に成り下がってしまった。

「さて、交渉といきましょう。この人質を解放するかわりに、あなたの命を差し出しなさい」

「こいつ……」

「が、臥字路ぉ……助けてくれぇ……」

 ずいぶんと久しぶりに見る、人が本当に怯えた時の表情。無敵の力を得てからというもの、ヴァニティの騒動に巻き込まれたあらゆる人間を一瞬で救出してきた臥字路にとって、それはさらなる動揺を呼び起こさせる恐ろしい物だった。怯えながら助けを求める人間を救えないことの恐ろしさを、彼は今日まで忘れていたのだ。

 そして彼は走馬燈のように思い出す。並田が初めてヴァニティに襲われた日……、あの時もひどく怯えた顔を見た覚えがあった。その頃の並田は臥字路の圧倒的な力をすでに知っていたはずなのに、無敵の正義の味方を目の前にしてなお怯えてしまえるほど、あの弱々しい友人は臆病だったのだ。

「臥字路くん! これを!」

 焦燥の渦中に飲み込まれつつあったヒーローの意識を、聞きなれた男の声が呼び覚ます。思わず振り返ると、どこかで見たことのあるような物体が宙を舞っていた。

 ……並田のスマホだ。さっき臥字路のスマホを投げて渡したように、彼が今度は自分のスマホを投げたのだ。でもどうして? 並田も体育の授業にまでスマホを隠し持って来ていたのか? しかしそれを受け取ったところでどうなる? 同じように通信機能は封じられているはずでは……?

 つかみ取ったあとのビジョンがまったく見えないまま、臥字路はとにかくそのスマホをキャッチした。すでにスリープモードは解除されており、画面にはギャラリーが開かれている。

「ぼくの趣味だけど、悪くはないはずだ! きっと君なら……!」

「……あぁ、そうか!」

 あわてて画面をスクロールする。すると、あった。まるで何かを隠しているかのように真っ暗なサムネイルと、「新しいフォルダー」の文字が。そしてそこに表示されているファイル数はなんと151! 151枚の画像全てが並田の保存した物である。

 黒いサムネイルをタップした瞬間、画面中に表示されるおびただしい数の画像、画像、画像。……それを見た正義のヒーローは、にやりと笑った。

「並田おまえ、……いい趣味してんじゃねぇか!」

 151枚のエロ画像を内包するそのスマホが光り輝き始める。太陽のように強烈な金色の輝きは、やはり臥字路の胸の中へと吸い込まれていった。

解放(ドミネイト)!」

 

『Access! New folder HERO!』

 

 臥字路の体から黄金のオーラが発された瞬間、超次元的な力により、人質となっていた男子生徒はすでに並田の隣にまで避難させられていた。そしてその瞬間移動と同じように、時計ヴァニティの体は、臥字路にとって「ちょうどいい位置」に移動させられていた。

 命乞いをする暇もない。凄まじいオーラを伴う彼の拳が、時計男の顔面にめり込み、歪ませていく。

「ぐっ!? うっ!? うおおおおおおおおおおおお!?!?!?!?」

 あまりにも強すぎるパンチの威力に力場が歪み、殴られた箇所を中心として発生した空間の渦にヴァニティの全身が巻き込まれていく。捻じれて原型をとどめなくなった怪人は、それでも最後に断末魔を上げて……派手に爆散した。

 そしてその爆炎の中から現れるのは、何かを悟ったような重々しい表情の……賢者のような顔つきをしたヒーロー、臥字路嗚論である。当然無傷で生還する彼の姿を、並田たちは自分たちにまで届く灼熱に顔をしかめながらも、しっかりと確認した。

「なぁ、さっきの話だけど、絶対に人に言うなよ……? 正義の味方ってことで通ってるから、示しがつかなくなっちまう」

 二人目の秘密の共有者となったその男子生徒は、くしゃっと笑って力強くうなずいた。さっきまで人質にされて恐怖に震えていたことなど、彼にとってはもう遠い過去の出来事になったようだった。

 ……後に彼ら三人は、一人目だった臥字路と同じように「ヴァニティと戦うための力」をそれぞれ発現し、ヴァニティ界と人間界の本格的な戦争に立ち向かっていくことになるのだが、それはまた別のお話……。

 

 

 

 


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