無職転生 -今度こそ本気だす-   作:無気力な卵

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ダンスパーティー

もうすぐエリスの10歳の誕生日だ。

 

この頃になるとエリスは、剣神流の中級まで剣術の腕を伸ばしていた。

 

…まだ、なんとか勝てる。たまにヒヤッとする場面もあるが。

 

ある意味エリスに勝てているのは、俺自身にも変化があったからかもしれない。

再び、ルーデウス・グレイラットとしてやり直して、幼い頃からパウロの鍛錬を受けた。そしてなにより、ギレーヌとの鍛錬はやはり的確で分かりやすい。剣神流の才能なんて俺にはないと思っていたが、継続は力なりという事なのだろうか。

一つ一つの動きが洗練されていくのが分かる。俺は剣神流の技「無音の太刀」を会得していた。尤も、闘気を纏っていない俺の技は人によっては未完成とされるらしい。

 

「お前の間合いの取り方、技の動作は完璧だ。人によっては闘気を纏った威力を見せろと言うかもしれないが、あたしとしてはそこらの上級剣士より洗練されていると思う」

 

この話をギレーヌから聞いた時、不覚にも感動してしまった。

剣術は半ば諦めていた。でも、今よりもっと昔。それこそ前回、この世界に来て最初の頃から少なからず剣術の鍛錬は続けていた。身体作りがメインだったが、素振りをした回数はそれなりに多いだろう。

自分が闘気を纏えないハンデを抱えつつ、それでも積み重ねてきたモノが形になった。小手先だけの技術から「剣技」へと、いつの間にか昇華していたのだ。

それを嬉しく思わないはずはない。ギレーヌからは「上級剣士を名乗っても構わん」と言われたが、半分はお情けっぽいのでそれはやめておいた。

 

そんな俺を見てエリスはより一層、対抗心を燃やしていた。

 

「ルーデウス!私と勝負するわよ。今日こそ一本取って見せるわ!」

 

勝てそうで勝てない、しかし勝負にならない訳ではない。絶妙なバランスが互いの力をより高めていく。エリスはなぜそこまで俺に勝ちたいのだろうか?心なしか記憶にある前回のエリスよりも熱意を感じる。

俺が多少強くなったとしても、才能の差で抜かれるのはほぼ確定している。勿論、エリス自身はそんな事わからないだろうけど。まぁ、やる気があるのは良い事だ。しかし、剣術で俺をぶちのめしたいとか、物騒な事を考えていそうで怖い。そうでない事を心から願うよ…。

 

 

 

 

一方で魔術は、エリス、ギレーヌ共にこの1年で火魔術・水魔術と互いに初級魔術を2属性ずつ覚えた。

 

最初の目標をクリアしたわけだ。

 

そうなると、今後は魔力制御を鍛えていく方向で進めていく。

 

ギレーヌは魔眼を使ってコツを掴んでるみたいだ。エリスにも教えていきたいが、さてどうするか。

 

そういえば、前回はエリスの誕生日後に2人に杖を送ったんだっけか。

 

魔術師は弟子に杖を送る。けど、どう考えても前衛タイプの2人にまた杖を送るってものなんだかなぁ。

 

剣士でも使える魔術の発動アイテムみたいなモノが良いだろうか。尚且つ、魔力制御を感覚的にわかるようなアイテムが理想だな。

 

しかし、後は魔術の授業と言っても何をするか正直迷う。彼女たち2人は剣士として才能がズバ抜けている。仮に中級以上の魔術を使えるようになっても、実践ではあまり役に立たないだろう。

 

エリスなんかは未だに俺が使った宴会芸みたいな魔術の方が、使いたくて仕方がないみたいだけど。これ覚えてもあんまり意味ないと思うが…。ロマン溢れる魔術の方が興味津々なのかもしれない。ギレーヌにしても、お手軽に出る水や火に興味を示していた。

 

無詠唱は使えなくても、俺の作った魔法陣でエリスが似たような現象を引き起こす事は出来る。よし、なんとなく彼女たちに送るモノの考えが固まってきた。

 

そして、他の授業では対魔術師戦を想定した模擬戦のようなものがいいだろうか?彼女たちはなんだかんだ搦め手に弱そうな所があるし、距離を取られた時の魔術師の怖さは確かにある。

 

今後は検討していこうと思う。

 

 

 

 

--- フィリップ視点 ---

 

 

ダンスパーティ前日。状況の確認の為に再びエリスを呼び出した。

 

 

「どうだいエリス?ダンスの練習は順調かい?」

 

「はい。お父様」

 

「よく頑張ったね。明日はルーデウスをダンスに誘ってみるといいよ。出来るだけ可愛らしく誘うとルーデウスも喜んでくれるかもしれないね」

 

ルーデウスはなにやら娘に挨拶の仕方を教え込んでいたみたいだし、きっと喜んでくれるだろう。

 

「わかりました!」

 

「その辺はヒルダから聞いてみるといいよ。後はそうだな、明日はエリスが主役な訳だけど、なるべくルーデウスとは一緒に行動するといいよ。何故だかはわかるかい?」

 

「…いいえ。わかりませんワ!」

 

「この間、ルーデウスがどこかへと行ってしまうかもしれないって話をしたのを覚えているかい?明日のダンスパーティーには多くの貴族たちが訪れる。もしかしたらその中にルーデウスが次に予定している家庭教師先のご令嬢がいるかもしれない。僕の方でもそれとなく探ってみたけどわからなかった。だから、エリスが注意深くルーデウスに付いて回るといいよ」

 

実際にはボレアス家が中心のパーティーなので、その可能性は低い。招待しているのは下級・中級の貴族達ばかりだ。けれど、またそれとは別にルーデウスが他の貴族たちに目を付けられてしまっては困る。エリスが近くに居れば、大々的に近づくことはできないだろう。

 

「…はっ!?わかりました、頑張りマス」

 

やれやれ、我が娘もどうやらルーデウスに大分ご執心のようだね。娘が素直に言う事を聞いてくれるのは嬉しい。ルーデウスと仲良くなってくれるのも嬉しい。けれど、父親としては複雑な心境がないとも言い切れない。

 

「そうかい?期待しているよエリス。頑張りなさい」

 

頑張ろうとしている娘の気持ちに、水を差すような事をする程ではない。この変化もやはりルーデウスが起こしたものだしね。

 

 

 

---

 

エリスの誕生日当日。

 

ボレアス家では、早朝から獣人メイドさん達が目まぐるしく動き回っていた。曲がりなりにもアスラ王国で四大貴族のご令嬢であるエリスの10歳の誕生日。多くの周辺貴族たちがこぞって参加するダンスパーティーだ。ボレアス家の従者達にとっては、年に1度あるかないかの大忙しの日だと言うわけだ。

 

そんな様子を横目に、俺は気が楽だった。今回はなぜかエリスが自主的にダンスの授業に励んでいた。おかげで、俺にやる事もなかった。元々、家庭教師の立場としてボレアス家に招かれている。食客のようなもんだ。俺自身の立場についても分かっている。パウロが出奔した上級貴族の身である以上、俺の存在は(おおやけ)にできない。貴族に興味があるわけでもないし、むしろパウロが貴族を嫌い家を出た事を感謝したいくらいだった。パウロ自身に貴族としての思い入れがあれば、ゼニスとの結婚を機に出奔しても家に戻ったり、あるいはコネを使って再び貴族に戻る事は可能だったかもしれない。それすらもせずに、ブエナ村で下級騎士に収まっているのは、余程貴族が肌に合わないからなのだろう。

 

俺としても、貴族のしがらみのようなモノで行動を制限されずに済んで助かっている。一応は俺もダンスパーティーに招かれている訳だが、そんな事情もあり完全におまけ扱いだろう。目立たずコッソリと食事でも楽しみつつ、陰ながらエリスのダンスの成果でも拝見しよう。そんな風に気楽に思っていた。

そして、そんな砂糖菓子よりも甘い幻想は、開始直後に早くも崩れ去っていった。

 

「ルーデウス!ご、ごきげんようですわ」

 

はて?これは誰なのだろう?…いや見た目はわかる。ドレスアップをして可愛らしい様相で、いつもは下ろしてる髪を上げている。それでもエリスを見間違うはずもない。

だが、しかしだ。俺の知っているエリスはごきげんようなどと、どこぞの縦ロールのような挨拶はしなかった記憶がある。いつからツインドリルにジョブチェンジしたんだ?

 

この時、ルーデウス・グレイラットは瞬時に悟った。

どうやら俺の知らないところで、何かが起こっているのではないかと。

 

「や、やぁ。エリスお嬢様。お誕生日おめでとうございます。本日は一段と可愛らしいですね。さぞ、招待客からも持て(はや)される事でしょう。僕は邪魔にならないように、末席にてささやかにお祝いするとします。それでは」

 

長い人生を生きていれば、誰しも危機管理能力は蓄積されていく。そんな俺がこの局面で取る行動は、戦術的撤退だった。

何かが起こっているみたいだが、その理由はわからない。ゆえに撤退。好奇心は猫をも殺す。触らぬエリスに祟りなしだ。藪をつついたらエリスの鉄拳が飛んでくるんだろ?俺だって馬鹿じゃない。先の展開が「予見眼」なんてなくても、見えるようになったのさ。

人は知恵を付けるものなのだよ。颯爽(さっそう)とフェードアウト一択だ。

 

「ま、待ちなさっ…ごほん。お待ちになってルーデウス」

 

ほらきた。絶対おかしいよコレ。お待ちになって?お控えなすっての間違いじゃないのか?任侠映画とかなら、まだエリスは溶け込めると思うよ。気が強い我侭タイプのお嬢みたいな感じで。でもさ、貴族のお嬢様はないよ。いや、実際そうなんだけどね。ここで笑ったりしたら、やっぱりエリスの鉄拳が飛んでくるんだろ?無限ループじゃん。

エリス様からはどうやら逃げられないらしい。

 

「はい。なんでしょうか?エリスお嬢様」

 

俺は意を決して尋ねる。それ以外の選択肢がいつの間にかなくなっていたとも言える。

 

「私と一緒にお話でもしませんカ?」

 

エリスはなにがしたいんだろう?いつも話くらいしているじゃないか。やっぱりこれはエリスではないのだろうか。どこぞの縦ロールの神がエリスに宿っているのかもしれない。

少し考え込んでいると、スッとエリスが近づいて来た。なにやら異様に距離が近い。いつもはこんな距離まで近づいて来る事はない。俺の方から近づけば鉄拳…以下略。

 

「えっと、なんのお話でしょうか?」

 

一度、冷静になって周囲を見渡す。ダンスパーティーの為、広間にて立食パーティーに近い形式を取っている。今はあまり注目されていないが、エリスはこのパーティーの主役だ。そんな主役と長々と行動をしたら、それこそ目立ってしまうだろう。よく見て見ると、ギレーヌが少し離れた所から、コチラの様子を伺っている。フィリップやヒルダも露骨ではないが、チラチラと視線が向く。なんだ?まるで自分が要注意人物のような扱いに戸惑いを隠せない。

 

「な、なんでもいいわよ!」

 

どうやら、きょろきょろとエリスも周りを確認するといつもの口調に戻った。誰かに乗り移られたりはしていないらしい。安心したよ。エリスの縦ロール化は、さすがに俺も似合わないと思う。

 

「そうですか。そういえば、魔術師は弟子に杖を渡すのが通例なんですよ。用意したのは杖ではないのですが、一応、魔術師の師匠として贈り物を弟子に用意しました。パーティーが終わったらお渡ししますので、ギレーヌと一緒に来て下さい」

 

「わぁ!ほんと?必ず行くわ!」

 

どうやらエリスは俺から離れる気はないらしい。まぁ、多少目立ってしまっても良いんだけどね。ボレアス家の方々も認知しているみたいだし。

エリスと他愛もない会話を続けていた。「早くルーデウスに剣で勝ちたいわ!」とか、「冒険者ってどうやったらなれるの?」とか勇ましい事だ。けれど、エリスはそれでいいのかもしれない。少なくとも、貴族の真似事をしているよりも似合っているし、前回もそう言った姿をこの目で見ているからかもしれないが。

 

…しばらくして、宴もたけなわと言うのだろうか。ボレアス家に呼ばれた楽師たちによる演奏が始まった。それを境にパーティーの参加者も動き出そうとしていた。

そんな中、我先にと動き出す人物がいた。

 

「あ、あのね、ルーデウス」

 

エリスだった。一度、会話を区切り深呼吸。

アップした髪を強調し、腰をくねらせしなを作る。衣装も相まって、セクシーポーズに磨きがかかっていた。

 

「エリスと一緒にダンスを踊って欲しいニャん☆」

 

……はっ!不覚にも見惚れてしまった。いや、そうじゃない。この状況は予想していなかった。

これはまずい。俺は今回ダンスは無縁だと思っていた。エリスが自発的に動いていたし、俺が関わる事もないと。二度も人生をやり直していても、当然できないことはある。ダンスなんて、前回エリスと踊った1度きりだ。正直、うろ覚えどころかほとんど覚えていない。リーリャから礼儀作法を教わった時、ダンスも教えて貰えば良かった。後悔あとに立たずとは、まさにこの状況。

 

「ルーデウスと一緒に踊りたいニャん☆」

 

エリスはやや屈んで、上目遣いでコチラの様子を伺っている。その所作(しょさ)は完璧だった。もうどこに出ても恥ずかしくない立派なアイドルだった。

これはプロデュース編が始まってしまうのか?エリスのアイドル育成計画が!

やがて俺はアイドルマスターへと至るのか?

 

…しまった、ついあまりの出来事に思考が飛んでしまった。

 

「エリス、そのですね、私はあまりダンスは得意ではないのですが…」

 

「ルーデウスっ!」

 

ひと際大きな声で、俺の名前をエリスは呼んだ。

 

「大丈夫よ!私に任せなさい」

 

毅然(きぜん)とした佇まい。一層と際立つ凛々しさをもってエリスは堂々と宣言した。

 

「わかりました。よろしくお願いしますエリスお嬢様」

 

「うん!」

 

ここで断ったらさすがに男じゃないな。俺も覚悟を決めた。

今日一番。いや、エリスと再び出会って、一番のとびきりの笑顔がそこにはあった。

 

そこから先にもう会話はなかった。恐る恐ると言った感じで始まったダンスだが、思った以上に体が感覚的に覚えていたのも少なからずあるだろう。

だけど、それはエリスが目線で、動作で、俺を上手く誘導(リード)してくれているのが大きい。

よく、ここまで練習したもんだ。前回の彼女を知っている身として言わせて貰えば、その成長は著しい。自分ではステップ一つまともにこなせていなかった。それがいまはどうだ?自分ばかりか、相手である俺を気遣う余裕すら感じられる。やっぱり俺の知っているエリスではなかった。

 

…いや、これが彼女の持つ本来の力なのかもしれない。

 

エリスは純粋だった。前回の彼女はずっと、馬鹿みたいに俺を好きでいてくれていた。俺をいつも陰ながら守ってくれた。その為の強さを、ただ純粋に、ひたむきに努力して手に入れたんだろう。俺はまた危うく間違いを犯す所だったのかもしれない。エリス・ボレアス・グレイラットという人物を見間違う所だったのかもしれない。

 

彼女の意思の強さを。純粋一途な気持ちを。そして、そんな彼女の努力を。

 

やがてダンスは終わりを迎える。詳しい知識なんてないからわからないが、子供が踊ったにしては、想像以上に上手く踊れたのではないだろうか。

はっきり言おう。エリスはさすがだった。滅茶苦茶かっこよかった。

 

そんな俺の気持ちに呼応するかのように、満場一致の喝采(かっさい)が会場の熱量をもって伝わってくる。

 

「おおーエリィス!良くやった!さすがはワシの孫娘じゃ。ルーデウスもよくぞエリスに付き合ってくれた!」

 

サウロスが全員を代表するあのように近づき、誰よりも孫娘の成長を喜んでいた。年甲斐もなく大はしゃぎだ。

フィリップやヒルダも娘の成長に笑顔が絶えない。

 

誰がどうみても、このパーティーの主役はエリスだった。

俺が審査員なら主演女優賞とかあげたいね。そのくらい完璧だったよエリス。

 

その後は徐々に他の貴族たちが押し寄せてきた。当然、エリス目当てだろう。しかし、エリスはダンスに誘われても断り始めていた。おいおい、主役がそれでいいのかよ。とか思っていたが、やんわりとフィリップやヒルダが他の貴族たちに話を付けているみたいだった。

そしてなぜか俺のそばをずっと離れない。

 

「どうしたんですかエリス。別に私に気を遣わずに踊ってきて構いませんよ。主役はエリスなのですから」

 

「な、なんでもないわ!これでいいのよ」

 

何がいいのかは聞かない方がよさそうだ。まぁ俺も下手に色んな人からダンスに誘われて踊るのは疲れるしな。このままにしておこう。

こうして、エリスの誕生日パーティーは幕を閉じた。

 

 

---

 

パーティーが終わった後、エリスがギレーヌと共に俺の自室へと訪れて来た。

ささやかではあるが、パーティーの主賓を労う為にいくつかの食べ物とお酒を用意した。

興奮冷めやらぬ様子のエリスはお酒を飲みたがっていたし、無礼講というヤツだ。

 

「カラン」とグラスを合わせると、酒を軽く一口だけ含み俺は彼女たちに話を切り出す。

 

「こうして2人に集まって貰ったのは、エリスには少し話しましたが、魔術師と言うものは弟子に杖を渡すものだと聞いたからです。以前、私も師匠から杖を頂きました。2人は剣士としての才能が豊かなので、杖よりも身に着けられるアクセサリーの方が良いと思いまして、コチラを用意しました」

 

そう伝えると俺は立ち上がり、棚にしまってあった2つの腕輪を取り出す。

 

「エリスにとっては誕生日プレゼントになりますかね」

 

「わぁー。きれい!」

 

今回は時間もあったので、少し趣向を凝らした。土魔術で固めた石を生成。それで腕輪の原型を作り2つの魔法陣を組み込む。その周りに特殊な光沢感のある石を生成して、模様のようなモノを作った。石と言っても模様の部分は金属、宝石とかに近い。魔法陣に込められているのが、初級の水弾(ウォーターボール)火球弾(ファイアーボール)なので、その魔法陣を囲うようにそれぞれにサファイア、ルビーの光沢感をイメージした模様が描かれている。会心のデキだった。喜んでもらえたようで嬉しいよ。

 

ギレーヌはおもむろに立ち上がると、前回のように恭しく片膝を付く。剣神流の門弟が師匠に敬意を払う時の所作である。なんだかんだ言って、ギレーヌはこういった礼儀をわきまえている。

 

「ハッ、ルーデウス師匠。ありがたく頂戴いたします」

 

「はい。受け取って下さい。これは2人の努力への対価のようなものですから」

 

すかさずエリスも佇まいを正して、仰々しく腕輪を受け取る。別にそんな畏まらなくて良いんだけどね。

 

「ありがとうございます。ルーデウス師匠」

 

「これであたしも魔術師を名乗れるのか」

 

ギレーヌは感慨深そうにそう言った。

 

「ええ、勿論名乗って構いませんよ。しかし、ギレーヌやエリスの場合剣での戦闘が主体になると思いますので、魔術も使える剣士と言った方が正確かと」

 

その場合、魔法剣士になるのか?まぁ、その辺の呼び方は好き好きなのだろう。

 

「そうか。ありがとうルーデウス師匠」

 

師匠と連呼されてもなんだかむず痒いな。

 

「ごほん。渡した腕輪はもちろんただのアクセサリーではありません。私が作ったマジックアイテムです。初級の水弾(ウォーターボール)火球弾(ファイアーボール)が無詠唱で発動する仕組みになってます。これを使って今後は魔術の授業をするつもりなので、授業中は必ず身に着けておいて下さい。訓練をすれば例えばこんな事が出来ます」

 

俺はサンプル用に作った魔法陣を組み込んだだけの同じ効果のある腕輪を、あえて装着して以前ギレーヌに見せた小さな火を灯したり、エリスに見せた水のアーチを作ったりして空いたグラスへと移したりする。

 

「わぁーすごい!ついに私もできるようになるのね!」

 

この腕輪は無詠唱で発動できる仕組みなので、サイズ設定、発射速度設定、発動のプロセスを任意で行えると言う代物だ。今は家の中なのでやらないが、特大の火球弾を作る事だって可能だし、高速の水弾を飛ばす事だって可能だ。けれど、誰でも簡単にと言う訳ではない。発動自体は誰でも簡単にできる。サイズ設定、発射速度設定には魔力制御が関わってくる。

 

「ええ、訓練次第ではありますが、自在に水弾と火球弾を操れるようになりますよ。上手くいけば初級の魔術とは言え脅威です。十分に戦闘に組み込めるようにもなるでしょう」

 

初級とは言え自在に扱える魔術は侮れない。特に人族、生き物の大抵は火に弱い。火球弾はかなり有効だ。これを高速で発動し扱えるようになれば、彼女たちの戦闘の幅は広がるだろう。

 

2人はポカンとした表情だった。もしかして説明が分かりにくかっただろうか…。

 

「いや、その、なんだ。ルーデウスは本当に凄い魔術師なんだと思ってな。自分だけではなく、このようなマジックアイテムも作れるヤツは探しても見つからないだろうな」

 

まぁ、そこまで凄い効力があるわけではないんだけどね。伊達に何十年も魔術師をやってないって。

 

「そうよ!ルーデウスは凄いのよ!」

 

あまりおだてられると調子に乗ってしまいそうだ。

 

エリスはその後、チラッと視線をギレーヌへと動かした。

ギレーヌも視線に気付き、逡巡したのち首を横に振った。

 

「すまんが、あたしの種族にそういった習慣はなくてな。何も用意していない」

 

ミスった。そう言えばこんな事もあったわ。ギレーヌにもさり気なく、エリスへのプレゼントを考えておくように伝えておけば良かった。すっかり忘れていた。

エリスは心なしかガッカリした様子で腰をソファーへと落とした。

 

まぁ、まだ挽回はできる。獣人のギレーヌからしたら習慣とか風習の違いで分かりにくいのだろう。人族にとっては5歳、10歳、15歳の誕生日は意外と重要なイベントだ。日本人だった頃の価値観と合わせて考えても、誕生日5回分相当のプレゼントを用意する感覚だろう。別に値段どうこうではないが、何も貰えないのはエリスが可哀そうである。

 

「ギレーヌ。こういうのは特別に何かを用意していなくてもいいのですよ。普段身に着けているものとか、お守りになりそうなものとか。そういうのでいいんです」

 

「ふむ」

 

ギレーヌはふと考え込むと、自分の指から一つの指輪を外した。

木彫りの指輪だった。

 

「一族に伝わる魔除けの指輪だ。付けていると悪い狼に襲われないと言われている」

 

「い、いいの……?」

 

「ああ、ただの迷信だったからな」

 

知っています。パウロとかいう性欲モンスターには効かなかったわけですよね。家の父親がご迷惑をお掛けして大変申し訳ございません。

 

「た、大切にします」

 

エリスは指輪と腕輪を装着して、ニマニマと笑みを隠せていなかった。

 

「さて、そろそろ食事を再開しましょう!折角の料理が冷めてしまいます」

 

こうして、この後3人でささやかながらパーティーの続きが行われた。

 

転移事件が起こるまでは、ブエナ村でも、ボレアス家でも平穏な日常が訪れていた。どこにでもありそうな日常だ。この先、多かれ少なかれ転移事件の影響をそれぞれが受ける事になる。勿論、今回はできる限り救うつもりだ。しかし、無くなってしまうものは多い。例えば家だ。復興活動をするにしても、失ったものは戻らない。

歯がゆい思いを抱えながらも、前に進むしかない。

 

ふと、自室にて眠ってしまったエリスを見る。ギレーヌは少し前に自分の部屋へと戻って行った。誕生日でダンスを踊ったり、慣れない対応をしたりで疲れ果ててしまったようだ。

 

「すぅ~。すぅ~」

 

規則正しい寝息が僅かに聞こえる。その寝顔は懐かしくもあり、真新しくも感じる。今回の一件で俺は再確認した。エリスという女を俺は大切に思っていると。

この先、彼女に対して何ができるかはわからない。けど、彼女に不幸な人生は歩ませたくない。

そんな風に思いながら、しかし、今はこの平穏な日常を甘受しておこうと考え眠りに付いた。

 

 

 

---

 

 

翌朝、目が覚めた。

ふと、横を見るとエリスはまだスヤスヤと眠っていた。

当然のように隣で寝かせて貰った。もし、エリスの方が先に起きていたら殴られたかもしれない。

 

エリスが起きる前にとりあえずベットから出る。今日は何をしようか。などと考えていると、自室へと「コンコン」っとノックが聞こえた。

こんな朝っぱらからなんだろう?と思っていると、現れたのはボレアス家の執事であるアルフォンスだった。

 

「ルーデウス殿。おや、すいませんお邪魔でしたかな?」

 

ベットで寝ているエリスとその横で腰かけている俺を見て、そのように問われた。

 

「いいえ、そんなことはありませんよ。昨日はエリスお嬢様とギレーヌの3人で私の自室で、誕生日パーティーの続きをしていまして。エリスお嬢様が疲れてここで眠ってしまっただけです」

 

さすがにこんな子供が手を出すとは、アルフォンスも思ってはいなかったようですんなりと引いてくれた。良かったよ。この状況が5年後くらいなら、言い逃れが難しそうだ。

 

「そうですか。実はルーデウス殿宛に手紙が朝早く届いておりまして。昨日のパーティーで皆お疲れのようでしたので、私が届けに参りました」

 

「手紙ですか?ありがとうございます」

 

要件はそれだけだったのか、アルフォンスはすぐに出て行く。

 

誰からだろうと思ったのは一瞬の事で、見覚えのある龍神マークがすぐ目に付いた。オルステッドからだ。

俺はすぐさま手紙を開封して、目を通す。

 

内容は前回と一緒で、「ロアの街郊外の森で待つ」それだけだった。

 

…このタイミングでのオルステッドからの接触は予期していなかった。

何か予想外の事でも起こったのだろうか?

なんにせよ、会いに行かない訳にはいかない。

 

俺は寝ているエリスを起こさないように、すぐさま身支度を整えるとオルステッドに会いに向かった。

どうやら、平穏はそう簡単に訪れるものではないらしい。

 

 

 




感想返しは活動報告の方で行っています。全ては返せていませんが、今後はなるべく多く返せるようにしたいと思ってます。
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