相変わらずちょっと短いです。
<Chapter4-2-17-M>
「狼が始まり――――ただ、呪いの始まりは其処じゃない」
なら、一体何が本質なのでしょうか。
思わずそう問い掛けそうになって、彼に気付かれないように口を閉ざす。
「呪いは正負の感情問わず、強い感情が切っ掛けになるはず……だから、そういう意味では間違ってないはずなんだけど」
何かを零しながら手元の紙に乱雑に、それでもきちんと整えた文を認めていく姿。
もう何度も見ているけれど、昼間彼が授業の時に見せる姿とは何処か違う。
……多分、その気力の大本は……彼がこの事象に関して抱く本気の度合いと。
後は――――私達の為なのでしょうか。
はっきり聞くには、当たり前のこと過ぎて聞けなくなってしまったこと。
それでも、朝晩問わず動いている時。
或いはなにかに打ち込んでいる時の横顔を見る度に胸の内側に熱が灯る。
そして、そういう時であっても私達に気付いてくれさえすれば優先してくれる優しさ。
そういった全部が全部、彼に惹かれる理由に行き着くのだと思う。
普段は芳乃様か、ムラサメ様か。
誰かが必ず近くにいるから、こうした二人きりという機会も実はそう多くはなくなっていた。
それだけ、受け入れられるために何かしら動いているから。
私達のために……そう思えば思うほどに、感じてしまう熱と吐息が濃くなっていく。
忍者、或いは仕える者。
そういた精神を研ぎ澄ます必要がある役割とは掛け離れて、どんどんと降り積もるのは
口に出すことはない。
表には出来れば出したくはない。
それを見咎められて、彼に妙な目で見られたくはない。
結局は、自分のためでしか無いのだけど。
それでも。
全部が片付いたら。
そう思ってしまう、女としての私がいるのは自分自身では否定できない。
(……芳乃様も)
或いは、ムラサメ様も。
気付いているかは別としても――――抱いていると思えるのは、同類だからだろう。
「狼が芳乃様の血に呪いを掛けた、という大前提で思うことが無いでもないんですけど」
だから、取り繕う。
薄皮一枚だと分かっていても、全てを開いて今の彼の眼前に立ちたくない。
全部を受け入れてくれるとしても。
それで、全てが片付いてしまうわけではないのだから。
「うん」
こうした話に混ぜ込んで。
何かの切っ掛けを持ち込んで。
――――彼から手でも出してくれれば。
そう浅ましく思う、私を振り払う。
「掛けるだけの切っ掛け……出来事があったとしてですよ」
代わりに浮かぶのは、純粋な疑問。
「うん」
「ただの獣が其処までの感情を抱くもの……なんでしょうか?」
ずっと引っかかっている気がするのは其処だ。
神の獣、或いはそのままズバリの意味で神であるならば。
それだけの怨念を込める力を抱えているのなら、そもそもの話生贄にする前に呪い殺すことだって容易かっただろう。
それをしなかった、或いは出来なかった。
その事象に意識を向けなければ、なにか大切なものを見落としてしまう気がしている。
「…………どうなんだろうなぁ」
ちらり、と彼が目線を横に向けた。
飾られた刀……彼が抜いた霊刀、代々継がれてきた神の刃。
思い起こしたのは、其処に宿る一人の敬うべき相手のことでしょうか。
「俺は案外、逆だったんじゃないかとも思えてきてるよ」
はっきりした理由はないけれど。
そう付け加えるように口にした内容を、もう少しだけ掘り下げて聞いてみる。
目で。
少しだけ近付いて。
「つまりね」
そんなワタシの行動に、小さく笑いながら。
けれど、口だけは決して笑わずにそう述べる。
「村人の、
全ては、想像でしかないけれど。
さらに一言残された言葉だけが……妙に、耳に響いた気がした。