鬼との戦いですー
一気に間合いを詰めながら徐々に体制を低くし、
最終的にはかがんだような姿勢から刀を振り上げる。
「くっ!?」
ギリギリ反応したカスミが刀を咄嗟に上げ、迫る刀を弾く。
そのまま駆け抜けた鬼が悠然と振り返る。
(今までよりさらに速いだと…?)
だが!我が振るう刀も曰くつきよ!
そう言うと鬼は踵を返し、今度はランチのもとへ高速で迫る。
そして一定距離を近づいた時、鬼が持つ刀を謎の赤いオーラが覆う。
「ランチ!避けろ!それはヤバい!」
「えっ?わわっ…!」
完全に直感で叫ぶカスミの声に反応し、
ランチは持っているボウルを咄嗟に掲げる。
「わぁ!!?」
刀とボウルがぶつかった瞬間、刀の赤いオーラがボウルにまとわりつき、
破壊不能なはずのボウルが木端微塵にはじけ飛ぶ。
「ちいぃ!【超加速】!」
返す刀で追撃をしようとする鬼に対して、
カスミがスキルを使って急接近し刀を振り下ろす。
横からの突進となったカスミに対して、
半歩引いた鬼が難なく刀を受け止める。
しかしランチへの追撃は阻止された。
「こ、壊れちゃった!?どうしよう!?」
「ランチ!気を抜くな!来るぞ!」
珍しく慌てるランチをカスミが一括する。
だが、鬼は一気に攻撃を詰めてはこなかった。
そして刀を一度収めて笑い出した。
ランチが慌ててインベントリを見ると、
食神のボウルは【消失】状態となっていた。
【消失】
維持限界を超えて一時的に現世へ顕現できない状態。
再顕現まで5分。
「ほ、ホントだ。【消失】ってなってる…」
「【消失】だと…聞いたことが無いな。」
そう言って先ほどまでつかっていた刀を再度抜き、
切っ先をまっすぐランチ達の方へ向ける。
「…その刀はなんだ?見た目は普通だが…」
そして、戦いの場ということは分かっているが、
改めて刀を見た思わずカスミが聞いてしまう。
刀部分は約80cmで美しい曲線の反りと小乱れの刃文をもつ鋼色。
一見すると大きな特徴のない刀だった。
しかし、先ほどの攻防からまともな武器であるはずはなかった。
「そうか…。良い刀だな」
「なるほど…だからランチの装備に効果があったのか…」
「ど、どういうことだろ?」
「ランチは確か【魔神】をもっていただろう?」
「うん」
「おそらくあの刀はそれに反応したのだろう。」
そういった鬼の手から刀が消え、薙刀が現れる。
次の瞬間、今度はカスミに向かって低い姿勢で突進、
そのまま足首を狙う超低空の一閃を繰り出す。
「くっ!?」
ギリギリ反応したカスミが小さく飛び上がる。
足の下すれすれを薙刀が通る。
鬼は笑いながら振り抜く薙刀から片手を離し、
そのまま掌底の形でカスミの腹部に叩きつけた。
「ぐっ!?」
吹き飛ばされるカスミを追うように、投擲された薙刀がカスミへ迫る。
「くっ!あああ!!!!」
地面に激突する衝撃にも構わず、
カスミも声をあげながら目の前の薙刀を刀ではなく拳で払う。
大きなダメージエフェクトが発生した。
「カスミ!ディナー!【覚醒】×2!【ヴァナルガンド】!」
ディナーが地に降り立つと共に鬼の足元に川が出現し、鬼の速度が落ちる。
出来た時間を使い、カスミが体勢を立て直す。
「ディナーこっち!載せてー!」
そしてランチはディナーへ跨り、カスミの横へ移動する。
それを見た鬼は一度距離を取った。
「な、魔法だと!?」
次に鬼は周囲を一気に魔法陣で埋めると、両手に青白い炎が現れる。
手を体の前で組むと炎は一気に大きさを増した。
【鬼焔(おにほむら)】!
炎が意志を持つかのようにうねりながらカスミのもとへ迫る。
「任せて!」
対して、炎無効を持つランチが前に出て、炎を掴もうとする。
「ランチ!」
「大丈夫!効かないから!捕まえた!」
炎に包まれながらも一端を捕らえたランチは、そのまま口へ運ぶ。
「あむっ!んーブルーハワイな感じ。イケるね!」
「ううむ…間近で見ると凄まじい光景だな…」
【口腔浄化】による【スキル封印】を当然のように無効化する鬼は、
両手へ短刀を出す。次の瞬間、短刀は青白いオーラに包まれる。
青白いオーラまで含めると小太刀に近いその武器をその場で振るう。
「なっ!?」
短刀から伸びたオーラが二人の上空へ渦巻、数百はあろうという短刀へ姿を変える。
次の瞬間、短刀が雨のように降り注ぐ。
「【比翼連理】!うわあ!」
「【参の太刀 弧月】!ぐああ!!」
カスミがスキルで迎撃するがとてもすべて落とせるものではない。
体中を切り刻まれるが、【比翼連理】でHPを共有した二人は倒れずに残る。
それを見た鬼は嬉しそうに木槌を取り出し、
何とか立て直したカスミに突っ込んでくる。
「くっ!【連続斬り】!」
迎撃のためスキルを使用するカスミだが鬼は止まらない。
「ちっ!がああっ!!?」
スキル後の硬直が解けた瞬間、何とか刀を木槌に合わせる。
しかし、木槌を弾いた瞬間凄まじい衝撃がカスミを襲う。
「な、なんという衝撃だ…!?う、動けん!?」
「カスミ!?」
今までにない焦った顔のカスミ。体は動かそうと小刻みに震えている。
「…【封鎖海域】!」
そのカスミに迫ろうとする鬼を見たランチが切り札のスキルを放つ。
さすがの鬼も深海に突然沈められては対応はできなかった。
その間に、人魚へ変身したランチがカスミを連れて移動する。
「た、助かった!ランチ、感謝する!」
「どういたしまして―。」
ゆらゆらしていた鬼だったが、先ほどランチを斬った刀に持ち替える。
そして水の中とは思えない動きで一気に水球の中を降りていく。
そして刀を水球の壁へたたきつける。
物理魔法無効のはずの水球があっさりと貫かれ、水球が砕け散る。
「えっ!?」
「な、なんだと!」
元の場所へ投げ出された二人が思わず固まった。
またも鬼が笑う。
何とか自失から立ち直るが、今まで数多の危機を救った
【封鎖海域】が一方的に破られた衝撃は大きかった。
「少し下がるぞ!作戦を決めたい!」
「わかった。」
すると、鬼は突然どかっと地面に座り、大きなお猪口を出す。
そして瓢箪を出して何かを注ぎとても美味しそうに飲み始めた。
「どうする!?後は【紫幻刀】と【終わりの太刀 朧月】だけか…!」
「んー、アレが決まればなんとかなりそーだけど…交わされそう」
襲ってこないことを見ると警戒しながらも話し出す二人。
最大の切り札が破られた以上、残るスキルを数えるカスミだったが、
ランチの方にはもう1つ、切り札といえるスキルがあった。
「何かあるのか!?」
「うん。でも、撃つまで少し時間がかかるんだよ」
「…おそらく【紫幻刀】なら一時的に動きは封じられる。その力はある。
ただ…その後が続かん。」
「【朧月】は撃てないの?」
「お前も知っているだろう…【紫幻刀】を撃った後は」
「うん。可愛いよねー。その状態では撃てないんだ?」
「ああ………!?」
思わず自分のスキル欄を見る。カスミは1つの事実に気が付いた。
「そうなると…こんなのどうかな♪」
「!!??い、いやそれは…だが確かに…!」
「それで私が撃てば、勝てるかも♪」
「……ぐううううう!!わ、分かった!」
悲壮な顔で決意するカスミととても笑顔なランチが居た。
立ち上がった鬼はお猪口と瓢箪の代わりに、両手に1本ずつの刀を出す。
1本はカスミが何度か見たことがある刀、
そしてもう1本は先ほど【封鎖海域】を切り裂いたあの刀だった。
「行くよ!【封鎖海域】!」
そして突進してくる鬼が近くまで迫ったことを確認し、ランチがスキルを撃つ。
同時にカスミが駆けだす。
深海の中、すぐさま鬼は下方へ急降下し、同じように刀で壁を突き破った。
「今だ!【紫幻刀】」
そして、元の場所に戻った瞬間、壁を突き破る体勢のままの鬼に対して、
駆けて至近距離まで近づいたカスミが【紫幻刀】を放つ。
「はあああああ!!!」
鬼に紫の刃が突き刺さる。凄まじいダメージエフェクトとともに鬼の体がその場に縫い留められる。
「…それはどうかな?」
「カスミー!!キャッチ!」
一矢を与えた代償として体が縮むカスミに鬼が一閃を放つ。
しかし、その直前でディナーに乗ったランチがカスミを抱え去る。
「よっし!抱っこOK!いいよカスミ!(【銀翼の魂】!消費HPは30000!)」
「…もうどうにでもなれだ!【終わりの太刀 朧月】!」
すぐに身をひるがえすディナーの上で、
満面の笑みなランチに抱えられたままのカスミが半ばヤケクソでスキルを放つ。
同時にランチが口を開き、周囲に魔法陣が立ち込める。
幼くなったカスミと対照的に、2振りの巨大な腕と刀が鬼へ迫る。
身体制限がかかる今のカスミではほとんどダメージは与えられない。
しかしそれは縫い留められた鬼を何度もたたき伏せ、身動きを許さない。
「ああそうだな。だが次の攻撃はどうかな!?ランチ!」
そしてカスミは抱っこされているランチを見あげる。
そこにはまばゆいばかりの閃光が集まっていた。
それはランチの口に集約され、1筋の光線となって鬼へ向かう。
今まで幾つもの攻撃を意に介していなかった鬼が初めて大きな声をあげる。
思わず両手の刀で防衛するがSTR3000相当の攻撃に耐えられるものではない。
光が周りを包み込んだ。その中でカスミが見た鬼は、笑っているように見えた。
「はぁはぁ…な、何とか上手くいったな。凄まじい攻撃だ…」
「うん。凄かったね。カスミもお疲れ様ー。カッコ良かったよ!」
「あ、ああ。と、ところでそろそろ降ろしてもらえるだろうか。ここはもう敵も居ない」
「まーまー。こんなちっちゃい体で頑張ったんだから、休憩しないと!」
作戦がうまくいったことでホッとするカスミと、相変わらず満面の笑みなランチ。
決め手は【朧月】の発動条件に身体制限などの制約が無かったこと。
【紫幻刀】を使った後の身体制現状態を即座にランチが拾い上げ、
ランチが抱っこしたまま突撃することで速度を補い【朧月】を発動する。
そしてスキルで拘束している間にランチの【銀翼の魂】を発動させた。
二人の息が合った連携が成した連続技であった。
「と、とりあえずあのボスの所へ行こう」
「わかったー」
そして二人は大きく吹き飛ばされて倒れている鬼のもとへ向かう。
鬼は元の姿に戻っていた。二人の姿を見ると音もなく立ち上がる。
そして中央の座敷に案内された二人に料理が振舞われる。
鯛料理を中心とした総菜が美麗な器に盛られている。
「わああ!美味しそう!」
「おお…これは…」
「いただきまーす!美味しい!ありがとうございます!」
「うむ…とても好みの味だ…」
二人が堪能していると、鬼が何かを取り出す。
「な!?これは…!」
そう言って鬼がカスミに渡したのは一振りの刀。
それは先ほどまで鬼が使っていたものだった。
しかしカスミが驚いたのはそれではない。
その刀の説明を見た際のメッセージの方だった。
【オリジンシリーズ】
取得した者だけの唯一無二の装備。
取得した者はこの装備を譲渡できない。
【童子切安綱】
【STR+200】
【対神】
本スキルが付与された武器および武器に付与されたスキルで
【神域】もしくは【魔神結界】を有する相手を攻撃する場合、
以下の効果を得る。
・【神域】を無効化する。
・【魔神結界】を無効化する。
・相手のVITを0でダメージ計算する。
・最終ダメージが3倍になる。
【神域】もしくは【魔神結界】を有しない相手の場合、最終ダメージが0.1倍になる。
【血吸】
本スキル使用時、刀を用いたスキルすべてに【対神】の効果をつける。
・消費:1日3回
・継続:5分
「ま、待て!この刀は…!」
カスミは思わず笑う鬼を見る。
その刀について無論カスミは聞いたことがある。
とある鬼を斬ったことで、銘の一部に鬼を含む刀。
「あ、貴方はもしや…」
しかし、鬼はそう言って高らかに笑った。
「感謝する。いずれまた!」
思わず頭を下げたカスミを見た鬼は、今までに一番楽しそうに笑った。
「うん?」
そして改めてランチを見た鬼は、ランチに大きなお猪口を渡し、
取り出した瓢箪から透明な液体を並々と注いだ。
「うーん…さすがにお酒はー」
何でも食べるランチだがさすがに20歳以上ではないので
お酒はまずいかなと思っている。
「うーん、お酒はお酒でもちょっと違うのかな?」
「それじゃあ…いただきまーす」
「ま、待て待てランチ!呑んで大丈夫なのか!?今の説明、とても吞んでいいものには聞こえんぞ!?」
「それでも…いただいたものは平らげる必要があるんだよ!」
お酒でないなら飲んでも良いかなと思うランチ。
思わず声をかけたカスミに力強く言い返した。
「では!いただきまーす!(んぐんぐ・・・)」
そう言うとランチは大きなお猪口を傾け、一気に飲み干していく。
「(不思議な味…甘いような辛いような苦いような…でも美味しい!)」
様々な日本酒の味を混ぜたようなそれをランチは堪能した。
「ごちそうさまでしたー!」
ランチが呑み終わると共にメッセージが表示される。
【魔神III】が【魔神IV】に進化しました
【魔神結界】が【神域】に進化しました
【幽世】が【幽世のまつろわぬ詩】に進化しました
【幽世のまつろわぬ詩】
通常時に以下の補正がかかる。
HPが0になった時【顕現】が発動する。
・消費HPが2倍になる
・消費MPが2倍になる
・最大HPが0.7倍になる
・最大MPが0.7倍になる
【顕現】
発動と同時に以下の効果を得る。
・5秒間無敵状態になる。
・周囲10mにSTR0の不可視の衝撃波を発生させる。
・HP/MP/スキル回数が全快する。
・【神域】を発動する。
【神域】
・HP/MPが1分間に1%回復する
・状態異常を無効化する
・状態異常を即時回復する
・最終ダメージを0.6倍にする
「どういたしましてー。こちらこそ美味しいものをありがとうございましたー」
「ああ。良いものを戴いた」
そう言って笑う鬼へ深く礼をし、二人は塔を後にした。
ということで鬼との戦い、そして神に抗する武器の初登場ですー
ランチも1段階次に行きますー