それは、なんということはないひととき。
に参加させていただいた作品です。かなり大人な感じのレミリアを書かせていただきました。
それでは、長話もあれですので、本編をどうぞ!
カツン、と靴は階段を鳴らし、私は屋上へと向かう。
およそ一月に一度くらいの頻度で、私の友人は茶会を開く。
やはり引きこもりはよくないと痛感しながらも、かといって今更運動など始める気にはなれない。
そんな私を気遣ってか、友人はいつも瀟洒な従者を仕向けてくれる。
「ねえ、咲夜……あと何段よ」
困った表情を浮かべながらも、優しい笑顔を向けながら従者は答えてくれる。
「あと十段ほどですパチュリー様。がんばりましょう」
そう言いながら応援するように、彼女は優しく手を差し伸べてくれる。
その手を頼りにして、とうとう十段ほどを登り切った。
「はぁ……はぁ……」
息切れしながらも前方を見渡すと、そこにはやはり壮麗な景色が広がっていた。
丁寧に手入れのされている花壇、うっすらと敷地の境界を照らす欧風の街灯。
滅多に外には出ないからか、屋上から外を見渡した時のこの風景にはいつも感動させられる。
左手の方へ視線を向けると、茶会の用意がなされた席。
そして、そこではなく館の屋上の鉄柵から、明るく照らす満月を見上げている友人がいた。
その姿は、まるで月に想いを馳せているようでとても可憐だった。
到着した私に気が付くと、ゆっくりと友人は席に着いた。
「待っていたわパチェ。咲夜もお座りなさいな」
咲夜は「失礼します」と一言、席に着き、私もそれに続く。
テーブルにはケーキセットと紅茶、いつも通りの上物。
友人は吸血鬼が故か、よく赤色を好む。
だから彼女のケーキセットだけは、苺の使われているものばかり。
いつから始まったかよくわからないこの茶会は、私と、友人にしてこの館の主人たるレミリア・スカーレット、そしてその従者にしてこの館のメイド長、十六夜咲夜の三人で、いってしまえばただお茶を飲みながら雑談するだけの女子会のようなものだった。
話題はいつもレミィが振ってくる。
「ねえ、今日は何を話しましょうか」
「いつもレミィが振ってくるでしょ。まさか、今回はネタがないの?」
まさか、と一言。たくさんある中からどれを選ぼうかと、レミィは少しばかり考え込んだ。そして、こんな話を初めてきた。
「そうね、それじゃあパチェ。私とあなたが出会ったのはどうしてだと思う?」
それは、あまりにも予想外な問い。
どうして、と言われてもそれは単なる……
「『偶然』、でいいのかしら」
「ええ、『偶然』、で構わないわ。私と咲夜にしたってそういうことになるわよね?」
これまた急に、レミィは咲夜へと話を振った。やはり、咲夜も少し驚いて、すぐには答えられずにいた。
「え、えぇ……そうなりますよね」
頷いて、レミィは続けた。
「それじゃあ、その『偶然』はどうして起こったんでしょうね?」
少し考え込んでいると、私より先に咲夜が返した。
「それは……私とお嬢様があの時、あの場所にいたから、ですよね?」
レミィは少し不満そうだった。
「なら、私たちが出会うためには、私たちはある過程を踏んでいなきゃいけないわよね?それじゃあ、その過程は何だと思う?」
「それでは……私たちがこの世界に生まれたから、ということですか?なんだか無理矢理ではありますが……」
レミィは先ほどとは違い、満足そうに頷いた。
「そういうこと。そして私たちがこの世界に生まれるためには、そもそもこの世界が『存在』しなければいけない。こうして元を辿っていくと、私たちが出会ったのは『この世界が生まれたから』と言えるわけね。少し話は飛躍するけど、この世界が存在することは、私たちに起こる全ての出来事の原因となっているわけだから、もしここに因果関係が成り立つと仮定すれば、私たちが経験する全ては、原因をそれとした結果に当たるわけね」
なるほど。言われてみると確かにそう言えなくはない。
いや待て、そういってしまえばこの世に起こる事象の全てはそれが原因となっているではないか。
「面白い考えね、レミィ。まるであなたの操る『運命』は、あたかも決められているようにも聞こえるけど」
お茶を飲みながら、私はありのままの考えを口にした。
レミィのその時の顔は、先ほどと同じく笑顔が浮かんではいたのだが、少し悲しいような、自虐的な、そんな感情がこもっているように感じられた。
「そうね。確かに私は運命を操る能力を持っている。けどね、よく考えてみなさいよ。私が生まれたのも『運命』によるものということになれば、そんな『運命』の流れの一部に過ぎない私が『運命』を『操る』だなんて、度が過ぎるとも思わないかしら?」
そんなことは、今まで考えもしなかった。
そして、こんなに自嘲的なレミィをみるのは珍しかった。
「私の能力っていうのはね、もし、『運命』が大河の流れのようなものなら、私はただその河に分かれ道、それもとても小さなものを一つ作ってやることしかできない。大元を変えことなんてできないけど、少しだけ、誰かを辿るはずだった道とは違う道に誘導してやることしかできない。それだけのものに過ぎないのよ」
そうでなければ…… 言いかけてレミィは止めた。
それは、受け入れるしかない現実。
どう嘆いたって、どう抗ったって過去は変わらない。
大河の流れという圧倒的なものは、変わることなど無理に等しければ、過去なんてどうすることもできないのは道理。
彼女は、もしかするとどっちつかずの中で苦しんでいたのかもしれない。
万能でこそないが、便利ではある。
故に、できそうでできないからこそ歯痒くも感じられるのかもしれない。
そう考えれば、レミィにとってその能力は、果たして便利なものという言葉一つで済ませられるものだったのだろうか。
「それでも、どうしてでしょう。私はなんだか、お嬢さまが作りなさった道であったからお嬢様に巡り会えた、という気がしないのです。『運命』の流れが、まるで元からそうであったように、感じられるのです」
不意に、咲夜がこんな事を言ったのだ。
「それはそうかもしれないわね。レミィが作った流れに乗ろうと思ったら、そもそも道を作ったレミィに出会わないといけないじゃない。そこまでは定まっていたのかもしれないし、もしかしたらレミィが道を作ったから、その流れにつられただけかもしれないし。まあ、わかんないものね、『運命』なんて」
レミィは、お茶を飲んでいた。そして、ただこちらを見つめていた。
何も語ることはなく、ただ黙々と。
少し難しい話題とはうって変わって、外から陽気にはしゃぐ声が聞こえてくる。
庭を見てみると、そこにはフランと美鈴、そして小悪魔が楽しそうに追いかけっこをしていた。
妹のフランがこちらを見て手を振る姿を見て、レミィも笑顔で手を振って返していた。
息を一つ。レミィは一言だけ残して、お茶会を後にした。
「運命なんてね、わからない方がずっと楽しいものよ」
少なくとも、彼女は『運命』を観測できることは明らかだ。
しかし、なぜ彼女は私と咲夜の出会いについては何も触れなかったんだろう。
彼女の作った道か、あるいは元からあった道か。それについては彼女は答えなかった。
もしかすると、彼女はもうとっくに『運命』なんて見るのをやめていたのかもしれない。
それは、私のちょっとした妄想。
ただの思いつきに過ぎない、的外れのものかもしれない。
ただ一つ、確かなのは、今のあなたはあの出会った時ほど、この世界に絶望していなかった。
「全くね。運命なんてわかりたくもないわ」
ご拝読いただき、ありがとうございました!
もしよければ、感想などいただけると、作者としては感謝の極まるところです。
それでは、また何処かで