コメント返信はしていませんが、読ませてもらって励みにしています。
やっぱり改行はたくさんあった方が見やすいですかね?
検討中です。
結論から言って、ギロチンカッターは死んでいない。理由は阿良々木暦が助けたから。今は置物のように何事も言わず、赤べこのように頭を揺らしている。
「お前さん、敵を助けてどうするつもりなんだ?」
「うるさい。僕にだってどうしてギロチンカッターを助けたのかわからないくらいだ」
悪態をついて俺から視線をそらす阿良々木。
はるか上空から投げ出されたギロチンカッターだったが、幾度となく修羅場を乗り越えているだけあって、地面に近づいていくにつれ、正気を取り戻していったらしい。
とはいえ奴の肉体は人間のそれである。半ば諦めが入ったところで羽川翼がギロチンカッターに人質にとられたと聞いて駆けてきた阿良々木が、頭上に迫る人型を見て無意識に助けに入ったらしい。付け焼き刃だが変身能力で腕を植物に変え、蔦のようにうならせてキャッチした。
けれども相当な落下速度なので、阿良々木はそのままギロチンカッターの体に押しつぶされたようだ。回復力が凄まじいので既に体は元の姿に戻っている。
「ひどい目にあったぜ。そうだカトラス。羽川は無事なのか?」
「無事だな。捕まったとはいえ『俺』にかかりゃ大した話じゃない。すぐに解放してやったさ。お、礼か? 礼なら松阪牛のA-5ランクで構わないぜ」
「黙れ! お前なんかに礼をするか!」
「そうか、黒毛和牛もくれるのか。太っ腹だな、お前さん」
「羽川! 羽川はどこだ! この業突く張りな吸血鬼にセクハラされてないか!?」
そう言って阿良々木は羽川翼の元に走り寄って彼女の腰に抱きつく。
まるで駄々をこねた小さい子供のように、阿良々木は顔をグイグイと羽川翼のお腹に押し付けた。
「あ、阿良々木くん? 私はカトラスさんにセクハラをされてないし、特に傷もないのだけれど。どうして私のお腹に顔を埋めているの?」
「羽川が無事で良かった」
「阿良々木くん……」
「羽川のお腹に傷一つついてない。はぁ――すぅ……はぁ……」
「やめて! 私のおなかで深呼吸しないで!」
グズる阿良々木に羽川翼はどこか必死な顔をして奴の頭をチョップした。
本来なら俺が阿良々木暦とギロチンカッターの戦いに介入する必要はなかった。
いや、してはいけなかったと思う。もともとハートアンダーブレードの眷属である阿良々木暦がギロチンカッターと戦うべき事柄だし、忍野メメ風に言うならバランスが崩れることになるからだ。
しかし羽川翼は家族関係で苦しい思いをしていることもあって、少々感情的になってしまったようだ。頼り先の一つになれれば良いやと思って羽川翼の俺へのポイントをもう少し稼いでおきたいところだった。阿良々木が思いの外速く来てしまった。予定はしていたが、予想外だった。
もちろん彼女を助けるにあったって下心はある。エロ的な意味ではなくだ。
俺の店はバーの形をした隠れ家だが、ワイン自体は一般販売している。現状では俺が取り仕切っているが怪異だけでは(認めたくないが)限界があるので人の手を借りたいわけだ。ワイン工房を一人でやり続けて云百年。流石に戸籍のないダミー人間でダミー会社だと面倒なことになる。力に物を言わせて解決したところで吸血鬼という俺の存在意義が不透明になるとバランサーが『ちゃんと(吸血鬼)やってる?』と視察しに来てしまうので勘弁願いたい。手を変え品を変えやり過ごしてきたが、表向きの経営者がほしいと何度思ったことか!
さて、俺にもギロチンカッターに対して申し訳ない気持ちはあるので、テヘペロするぐらいには反省の意を示したのだけれど、やはりというべきかギロチンカッターには睨まれてしまった。
しなしながら、それでは日を改めて戦いましょう。ということにはならなかった。
「ハートアンダーブレードを神――つまり僕が抹殺する場をあなたが整える、ということは本当ですか?」
「そんなところだ。だからハートアンダーブレードの腕を返せ。奴を全盛期の体に戻させろ」
「……理由がわかりませんね。全盛期に戻られてはこちらに分が悪すぎます」
阿良々木たちと別れてからギロチンカッターと内緒話を始める。
こいつは吸血鬼を狩る専門家だが、その吸血鬼と一緒にいることについてどう思っているのだろうか。ドラマツルギー、エピソードとはビジネスライクな付き合いをしているのか? ハートアンダーブレードを狩る理由もいまいちだ。
「そこは俺が先にハートアンダーブレードをボコボコにしておくから、弱ったところをお前さんがザックリやりゃあいいだろ」
ギロチンカッターは不服そうな表情をした。
「信じられませんね。あなたは吸血鬼なのですよ?」
「俺には人間の方が信じられんがね。俺の生まれたころから今までどれだけ人同士が醜い争いをしてきたことか。そうでなくとも人間の恐れや伝承で怪異が生まれちまうんだぜ。怪異は人間がいないと存在できないが、怪異を生むのも人間だ。幕裏の存在とは言え、共存って考えはないのかねぇ」
「ありませんね。神――つまり僕が怪異の存在を認めませんので」
「あっそ。だが、俺がハートアンダーブレードと戦うとなればどちらも弱る。お前さんにとっては俺かハートアンダーブレードのどちらか片方だけでも殺せるチャンスだぜ? どうする? こんなワインみたいに美味しい話は二度とないだろうよ」
ギロチンカッターは俺の提案に瞠目した。これでもプロの吸血鬼殺しの専門家だ。大物をどちらか片方だけでも殺せるメリットは大きいと思うが……どうだろう。
「わかりました。非常に不服ですが受け入れましょう。ハートアンダーブレードの両腕はあの仲介人に渡しておきます」
「ケッケッケッ。それは何よりだ」
去っていくギロチンカッターの背を見ながら、俺は牙をむき出して破顔した。
羽川がギロチンカッターに誘拐されたと忍野から聞いた時、僕は正直どうにかなりそうだった。クラスでは浮いている、植物みたいな学校生活を送っていた僕なんかと友達になってくれた羽川。放っておけばいいのに、こんなファンタジーな出来事に巻き込んでしまって、ただでさえ迷惑をかけている。
にもかかわらず僕のせいでまた羽川を危険にさらしてしまっている。
けれども指定の場所に急行してみれば、そこには誰もいない。かと思えば空からすごい勢いでギロチンカッターが落ちてくるなんて思いも寄らない事が起こった。その後はカトラスがギロチンカッターと話をつけるといって僕と羽川を学習塾跡に戻るよう言ったが、一体どうなるんだろう。
忍野は軽薄に見えるけれど交渉事には慣れているみたいだ。
しかしカトラスが交渉とか不安過ぎる。
僕たちがここ最近仮宿にしている例の学習塾跡に戻ると、僕は早速キスショットに尋ねてみた。
「なぁ、キスショット。カトラスは信用できるのか? 知り合って長いんだろ?」
「確かにあやつに初めて会ってから長いが、そこまで深い付き合いをしているわけではないぞ。儂から見て、あのワイン馬鹿はむやみやたらに嘘をつくタイプではないと思うが、ワインと料理以外は本当のことを話しているとも限らんし」
「結局ワインと料理かよ」
「そうじゃ。あやつは生粋のワイン馬鹿なのでな。それ以外に何か考えているかなど儂は知らんし、興味も特にないのう」
おっと。心の声のつもりでいたのだけれど、どうやら口に出していたらしい。
というか、興味もないって。確かにキスショットは傲慢な態度だし、偉そうだ。他人にも怪異にも興味がないのかもしれない。
いくらか時間がたってから、忍野が火のついていないタバコを口に咥えながら教室に入って来る。
忍野はいつもの軽々しい口調で僕に声をかけてきた。
「やあ、阿良々木暦くん。ちゃあんと委員長ちゃんを取り戻せたようだね」
「……まぁな」
「はっはー。無事委員長ちゃんを助けられたっていうのにテンション低いねぇ。何か良いことでもあったのかい? いや、ないからテンションが低いのかな?」
「別に……僕が羽川を助けたわけじゃないからな。どうせ知ってるんだろ?」
忍野の目はどこか僕の心の奥底を見透かすような目をした。
「まぁ、そうだね。ギロチンカッターから委員長ちゃんを取り戻したカトラスに感謝しなよ」
感謝はしてる。お礼は言わないけど。
「ついでにこれもギロチンカッターから預かっているよ。いや、どちらかといえばカトラスから……という方が正しいのかな。とにかく、ハートアンダーブレードに渡すといい」
「それって――」
ボストンバッグを僕に投げ渡す忍野。中を見ればそこにはキスショットの、大人の姿の時にとられた両腕があった。白くて、けれども残酷に赤い。
「おーーー! あやつもやりおるのう!! 次にワインのムダ知識を言ってきても五分ぐらいは黙っていてやるわ!」
キスショットは自分の両腕を手に取ると頬ずりをしている。エピソードから取り戻した左脚を食べて十七歳ぐらいの姿になった彼女だが、やはり前回と同じく猟奇的に思えてしまう。
僕は喜ぶキスショットを横目に忍野に質問をした。
「本当にカトラスがギロチンカッターと交渉したのか? 忍野じゃなくて?」
「そうさ。僕がしたことといえばギロチンカッターからそのバッグを預かってここに持ってきたぐらいだよ。実際のところ、何かを取引したらしいけど僕はそれを知らないんだ」
「取引?」
「ギロチンカッターはハートアンダーブレードの両腕の返却に、ドラマツルギーやエピソードと比べれば絶対に渋ると思ったんだけど、これは相当ギロチンカッターにメリットのある話しをしちゃったかもしれないねぇ」
ギロチンカッターにとって相当なメリットのある取引。この後キスショットを簡単に倒せそうなほど有利になりうる情報ってことだろうか。
「さすがに美味いワインを渡すからってほど単純なものじゃないよな?」
「さて。僕はそうだったとしても驚かないよ。なんたってピノ・ノワール・カトラスは神速にして迅速にして敏速の、ワイン好きの吸血鬼なんだからね。大体、怪異の目的なんて人間が推し量れるもんじゃないよ。怪異の王なんて言われている奴は特にね」
外を見れば薄明るくなってきているようだ。酷い眠気がする。
僕は忍野の言葉にため息をついた。