惚れた相手は、百合な幼馴染   作:まさきたま(サンキューカッス)

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13話(完結)

 失恋。

 

 それはありふれた、何処にでもある普通の悲劇だ。

 

 

 本気で好きになった相手に、振り向いてもらえない。

 

 好きだと思っていた人に、恋人が出来ていた。

 

 それは悲しくて、辛い事だ。しかし、乗り越えるべき挫折だ。

 

 

 

 それでも。なお、諦めきれない時は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お邪魔するわ」

 

 空が赤み刺す夕暮れ時、やがて俺の待ち人は現れた。

 

 いつもと同じような仕草で、表情で、背後にニカ従えて涼加瀬シノは俺の家の玄関を潜った。

 

「よう、遅かったな」

「少し、話し合いが長引いてね。ねぇ、ニカちゃん?」

「ああ」

 

 俺の幼馴染み二人は、さっき別れた直後みたいな険悪な雰囲気では無くなっていた。

 

 ある程度落ち着いて、二人でするべき話し合いは終えたらしい。

 

「まぁ部屋で待ってろ、ジュースでも持ってきてやるよ」

「いいえ、結構。それより、先にすべきことがあるでしょう?」

 

 とりあえず場の潤滑油に飲み物を用意しようとしたが、あっさり断られた。

 

 ……シノの目が座ってる。こりゃ、変に時間稼ぎはしない方が良いか。

 

「分かった、じゃあまず話を聞こう」

「そうね。テル君、先ほどニカちゃんから抱き着かれていた件だけど」

「……はい」

「あれはアウト。流石に浮気よ、私はとても傷ついたわ」

「………は、はい」

「何か、誠意ある埋め合わせを考えておくことね。……はい、私からの話は終わり」

 

 俺はいろいろと気構えてシノに向き合っていたが、話はそれだけで終わった。

 

 言うべきことは言ったとばかり、シノはそのまま我が家の玄関を後にする。

 

「へ? それだけ?」

「それだけよ。私から言うべきことは」

 

 拍子抜け、というのも変な話だが。

 

 涼加瀬シノは大した話もしないままに我が家から出て行った。

 

「じゃあね」

 

 俺の恋人は、こちらを見ないままにそう言って。

 

 玄関には、先ほどから無言で地べたを見つめていたニカだけが残された。

 

「え、え? えっと、これはどういうことだニカ」

「……テル。ここじゃ何だし、部屋に行こうか」

「お、おう」

 

 これは、どういう状況なんだ。

 

 俺はてっきり、ニカとの告白の件でアレコレ詮索されたりするかと思っていたのだが。

 

「屋上での、続きをしよう」

 

 朝星ニカはそう言うと。

 

 黙って静かに、俺の手を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまんニカ、まったく話が見えん」

「涼加瀬さんが気を利かせて、二人きりにしてくれたんだよ」

「……。いや、意味が分からん」

 

 え、これはどういうことだ。

 

 部屋には、俺とニカが二人きり。俺の基準でも、割とアウトな浮気空間である。

 

 あの二人の間で、どういう話し合いが行われてこうなったんだ。

 

「聞いて、テル。さっき屋上でも言ったけど」

「え、あ」

「……今までずっと気付いてなかった。いや、気付いていたのに蓋をしていた感情があった」

 

 ニカは俺の目を見ず、自らの手元を凝視したまま。

 

 顔を真っ赤に、少しずつ言葉を選んで言った。

 

「そして、君の中にあった感情にも気付けていなかった。ちょっとボクが勇気を出せば、実っていたその感情に」

「……」

「虫のいい話だとは思う。それは全部分かってる。涼加瀬さんだって怒っていたし、それは全部承知の上で言わせてもらうよ」

 

 ただ、俺の目の前で繰り広げられていた光景は夢でもなんでもなく。

 

「ずっと、好きだった」

 

 改めて、俺の大事な幼馴染で、無二の親友であった朝星ニカからの……告白であった。

 

 

 

「……何がどうしたら、こんな展開になるんだよ」

「テル?」

「シノの奴、コレを許したのか? アイツの気持がわからん」

「コレ……、って。ボクの告白の事? うん、許してくれたよ。好きにしたらいいって」

「マジか」

 

 どうやらシノは、俺がニカに告白されることを織り込み済みで帰っていったらしい。

 

 さっき、あれほど激怒していたのに。何かニカに弱みでも握られてるんだろうか。

 

「涼加瀬さん、普段から告白されまくってるし。ボクが告るところまではセーフなんじゃない?」

「え、いや、大分アウトな反応してたけどアイツ」

「ただし『私の彼氏にボディタッチは絶対に許さない。さっきみたいに抱き着いたら●●す』って怖い顔で言われた。すごく怖かった」

「そこか。そこがアウトの基準か!」

 

 そうか、成程。シノの浮気判定は、肉体的接触からか。

 

 アイツは学年一の人気者だし、普段から告白も受けているのだろう。逆に言えば、告白すること自体は咎めないのね。

 

「……。うん。テル、やっぱりまだボクの事大好きでしょ」

「うっ」

「見ればわかるよ。君は今動揺して、目線が定まってないし、鼓動も早くなってる。その反応は涼加瀬さんにも見せたことのない、心の底からの動揺」

「お、おい」

 

 ニカはそういうと、ニタリといつもの悪戯な笑みを浮かべて俺に迫ってきた。

 

「いつから? ボクの事、いつから気になってたの?」

「う、うるさいな。いつでもいいだろ」

「10年以上片思いしてたって言ってたけど。もしかして幼稚園の頃から?」

「うぐっ……」

「奇遇だね、テル。ボクも、そのころからずっと、君が好きだった」

 

 ニカの顔が見れない。

 

 何だこれは、恥ずかしすぎる。

 

「そのころからボクと君は、二人で一人だった」

「……ああ」

「何をするにも一緒に遊んで、笑って、怒られてた」

 

 俺は必死で顔をそらすが、ニカは俺の正面へと回り込んできて離れない。

 

 コイツ、俺が動揺しているのを知ってグイグイ攻めてきやがる。

 

「今更、離れたくないよ。テル」

「……」

 

 畜生、負けるな。冷静になれ。

 

 相手はニカだ。お気楽ノー天気な、俺の幼馴染のバカだ。

 

「お願いだ、殆ど付き合っていたようなものじゃないか」

 

 一息だけ深呼吸して、俺は顔をそらすのを諦めた。

 

 これ以上、奴に好き放題させるものか。ここらで一丁、反撃をしないと男としての沽券にかかわる。

 

「あのな、ニカ─────」

「ボクを、捨てないで……」

 

 

 覚悟を決めて、改めてニカに向き合うと。

 

 彼女は、過呼吸気味になりながら顔を真っ赤にして、言葉をつづっていた。

 

「あう、あう。やめろ、急にボクを見るな」

「……ニカ」

 

 彼女もまた、限界だったらしい。

 

 俺が死ぬほど照れていたのと同様に、ニカも半ばがむしゃらに攻めてきていたらしい。

 

 

 

「……」

 

 

 

 俺がニカの手を握ればどうなるだろう。

 

 きっと、楽しい未来が待っているのかもしれない。

 

 俺もニカも、10年来の想いが成就するのだから。

 

 

 ただ、同時にシノの悲しい顔が目に浮かんでくる。

 

 彼女は俺の為に努力して、自分を変え、あそこまで美人に成長してくれた。

 

 そんな彼女を捨てて、ニカと幸せになるなんて許されるのだろうか。

 

 

『恋愛ってのは自分本位な欲望なの。あの人と付き合いたい、あの人が欲しい。そんな身勝手な欲望を、皆が達成できるわけがない』

 

 

 その時、西姫の言葉が頭の中で反芻された。

 

『ちゃんとテル自身で心の奥底を整理して、付き合いたいと思った方とくっつけばいい』

『そんで、選んだ方を目いっぱい大事にするの。これで、はい解決』

 

 西姫は言っていた。俺に求められるのは、誠実であることだけだと。

 

 

 もし俺が、本当はニカが好きなのにシノを選んだ場合。それは結局、どちらも傷付ける結果にならないか。

 

 

 では俺の心の奥底の、純粋な感情はどうだろう。

 

 俺は、ニカが好きだ。これは隠しようのない、事実である。

 

 同じように、俺はシノも好きになった。彼女と話す度に、どんどん好きになっていく自覚があった。

 

 この時点で。二人の女性を好きになった時点で、俺は不義理だったのかもしれない。

 

 

 いや。

 

「ありがと、ニカ」

 

 人間は、自分の感情だけはどうにもならない。

 

 人を好きになるのは、仕方ない。自分にできるのは、ただ選択するべきこと。

 

「俺も、正直な気持ちを言う。……お前の言ったとおりだよ」

 

 改めて冷静に、自分の気持ちと向き合おう。

 

 俺は自分の心に正直に、決断を下せばいいだけ。

 

 

 

 ────そしたら、スッと。

 

 俺は、自分のすべき事が見えた気がした。

 

 

 

「俺、今でもお前のこと好きだ。シノよりニカ、お前のことの方が好きだ」

 

 

 そして飾らない本当の気持ちを、ニカにぶつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニカが家を去った後。

 

 俺は改めて、涼加瀬シノに電話した。

 

「……話、終わった?」

「ああ。……今から少し、話せるかシノ」

「うん。というか、直接会って話しましょう。まだ貴方の家の前にいるわ」

「え、怖……」

 

 どうやらシノは、帰ったふりをしていたらしい。

 

 恐る恐る玄関を開けると、そこにはいつも通りの表情の彼女がそこにいた。

 

「じゃ、改めてお邪魔するわ」

「お、おう」

「今度はジュース貰おうかしら」

 

 シノは勝手知ったる我が家と言った感じで、靴をそろえて俺の部屋に向かっていく。

 

 彼女のご要望通りに、俺は冷蔵庫からドリンクを用意して部屋へ持っていった。

 

「さてテル君。ニカちゃんから、ボディタッチは無かったでしょうね。そこだけはキツく言っておいたけど」

「……ああ」

「変な顔をしてるわね。何かあったの?」

 

 どうやら俺は、かなり険しい顔をしていたようで。

 

 ……シノに指摘されるまで、それに気づけなかった。

 

「シノ、聞いていいか。お前、何でニカの告白を許したんだ?」

「ん。そりゃあ、告白されるのを止めることなんかできないわよ。振ってもらって次の恋を探すための、大事な儀式だし」

「儀式、か」

「変にベタベタしない限りは、私から言うことはないわ」

「……俺がニカのこと好きなの、知ってるのに?」

「ええ。止められないもの」

 

 どうやら、シノにはシノなりの恋愛倫理観があるらしい。

 

 告白されるまではセーフ。……それは、彼女がモテすぎるが故の倫理観なのかも。

 

 だけど、俺には彼女に話さねばならないことがある。

 

 

「でさ、シノ」

「……」

「ニカの告白の話、なんだけど」

 

 

 俺がその話を恐る恐る切り出すと。

 

 シノは小さくうずくまって、体育座りになった。

 

「……いいわ、続けて」

「シノ?」

「うん、私からけしかけたわけだし。ある程度、覚悟はできてるよ」

 

 そのシノの声は、小さく震えていた。

 

 

「……止めればよかったじゃないか。お前が本気で詰めよれば、告白なんか阻止できただろうに」

「そんなことできない」

「何でだよ」

「そんなの、テル君の好みの女の子じゃないもん」

 

 シノは三角座りになって、そのまま顔を太ももにうずめてしまった。

 

 彼女の表情が、よく見えなくなった。

 

「貴方の好きな娘は、自分に自信のある娘だもん。振られるのが怖くて取り乱すような、そんな女の子じゃないもん」

「……シノ」

「私が私であるために。テル君に、見合う女の子になる為にしてきた努力を裏切れない。だから私は、ニカちゃんの告白なんか笑って流せないといけないんだよ」

 

 彼女の顔は隠れて見えないけれど。

 

 涼加瀬シノは、泣いていた。

 

 何かを悟って、静かにその場で泣いていた。

 

「だって。テル君は私を裏切らない、だって私は可愛くなったから。そう自信満々に言い切らないといけないのよ、私は」

「……」

「ニカちゃんに取られるかもしれないと分かっていても、私にはそれを止めることなんて出来ないんだよ。君の好みから外れてしまう方が、ずっとずっと怖いから」

 

 ポツリ、ポツリとシノの口からこぼれたその言葉は。

 

 ……どことなく、昔の気弱な彼女を思わせる、自信なさげなモノだった。

 

「……なぁ、シノ。聞いてくれ」

「何よ」

「ごめん。やっぱり俺、お前よりニカの方が好きだった」

 

 そう告げると。

 

 俺の部屋で体育座りしていた彼女は、大きく肩を震わせた。

 

「お前は間違いなく、俺好みに育ってたよ。びっくりした」

「……」

「でもさ。やっぱり、ずっと一緒に居た奴に情が移るんだ。アイツが近くにいるのが当たり前で、今後もずっと一緒にいるんだろうなって思うと、好きで好きでたまらなくなってたんだ」

 

 涼加瀬シノは、動かない。

 

 俺の話を黙って、静かに聞き続けていた。

 

「そんな状態で、お前と付き合ったりなんかして、ごめん」

「……良いよ。知ってたし」

「でもさ、シノ」

「もう良いわ。それがテル君の出した答えなのね?」

 

 やがてゆっくりと、シノは顔を上げた。

 

 その整えられた化粧は崩れ、涙で美人が台無しになっていた。

 

「私は、捨てられるのね」

「……違う」

「何が違うの。テル君は、ニカちゃんを選んだんでしょ」

「待て、違う!」

「二股なんてナシよ。私は、私を選んでもらえないなら─────」

「落ち着けシノ!!」

 

 ふらり、と瞳孔が開きかけたシノに慌てて駆け寄る。

 

 俺はまだ、彼女に何も告げていない。

 

 

 

 

「─────ニカは振った」

「え?」

 

 これ以上誤解が先行しないよう、俺は先にその事実を言った。

 

 シノに落ち着いてもらうのが、第一だと思った。

 

「確かに俺は、お前よりニカの方が好きだった」

「……」

「でも、お前と付き合って半月ほどで。俺は、10年一緒にいたニカと同じくらい、お前を好きになってたんだ」

 

 そう。俺はニカを振った。

 

 確かに今は、シノよりニカの方に心を揺らしてしまっていたかもしれないけれど。

 

 

「これから絶対に、お前の方を好きになっていく」

「あ、う」

「だから改めて、俺と付き合ってくれ。シノ」

 

 気付けば俺は、こんなにもシノの事を好きになっていた。

 

 ならばきっと、すぐに誰よりシノにゾッコンになるはず。

 

 何故なら、

 

「お前は俺にとって、世界一可愛い娘なんだ」

 

 

 

 彼女がそう、有ってくれたから。

 

 俺は世界で誰よりも、彼女を幸せにしていきたいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようし愛人で手を打とう。テル、どうだ」

「帰れ」

 

 その後しばらくして。

 

 数十分くらい無言でシノと二人抱き合っていたら、部屋にお邪魔虫が乱入してきた。

 

 振られた直後に部屋に突撃してくるって、どんな鋼メンタルしてんだこの(ニカ)

 

「……ニカちゃん、お邪魔」

「いやごめん。でも家で一人でべそ掻くと、本当にどこまでもネガティブに行っちゃいそうで」

「だからってここに来るか普通」

「隣の家でイチャイチャしてんだろうなぁ、おっぱじめ始めたりしないかな、そうなったら鬱で死にたくなるなぁとか思って気づけばここに来ていた」

「無駄に建設的」

 

 見れば振られたニカは、ある程度立ち直っているようだった。

 

 彼女はもともと、今日振られるつもりで俺に告白してきたわけで。

 

 前もって覚悟できていた分、ダメージはどうやら浅く済んだらしい。

 

「でもボクが乱入してこなければ、おっぱじめる空気だったでしょどうせ。あーイヤらしい」

「そんなことしねーよ!!」

「えっ?」

「えっ?」

 

 え、シノさん。その意外そうな顔は何ですか。

 

「落ち着け涼加瀬さん、君は今一時のテンションに飲まれてるんだ。こんなサルと一線超えたらどうなるか」

「ど、どうなるの?」

「ボクの脳が弾け飛ぶ」

「何それ怖い」

 

 今のシノの感じ、もしかしてイケてたのか。

 

 今夜シノを押せば、良い感じのアレが出来てたのかっ!!

 

「よし帰れ。ニカ、俺には今から大事な用事が出来たからすぐ家に帰れ」

「涼加瀬さん、その男から離れるんだ。彼は自分のパソコンにエグめの画像を大量に保存してる屑野郎だ。ドン引きするようなプレイを要求されるよ」

「根も葉もないデマを流すな」

「テル君、パソコン改めても良いかしら?」

「頼むシノ。慈悲をくれ」

 

 くそ、ニカの奴め。俺がPCにエロ画像を保存しているのを見抜いていたか。

 

 まあそこしかないもんな。エロ脇経由でバレたのかもしれん。

 

「……。口煩いと思うかもしれないけど、私はテル君がそう言うの保存してるの嫌だな」

「よしわかった、全て消そう。シノと付き合えるなら、そんなもんお安いご用だ。だからパソコンの中身を改めるのだけは許してくれないか」

「……むう」

 

 しかしアレだけは誰にも見られるわけにはいかない。絶対に、絶対にだ。

 

 厳重にパスワードでロックしているし、俺が死んだらHDはハンマーで粉砕してもらうよう父に懇願しておいた。

 

 俺の秘密が明かされることはあり得ない。

 

「じゃあボクが中身を教えてあげる。テルは細かくフォルダ分けして、エロ画像を保存してたよ。幼馴染フォルダ、とか」

「へぇ、幼馴染……。ギリギリ許容するけど、やっぱり改めさせてもらうわね」

「根も葉もない勘でもモノを言うな!! 俺はそんなフォルダを作ってなどいない!!」

 

 そう、有りえない。だから、いまニカの言った幼馴染フォルダ云々は適当吹かしてるに違いない。

 

「彼は幼馴染フォルダの他には、ボクっ娘フォルダとか百合フォルダとかも作ってたねぇ」

「……へぇー。誰かを意識してそうな」

「待てニカ。適当だよな。それはお前、適当に言ってるんだよな!? 当て勘でモノを言ってるんだよな!!」

 

 しかしニカの発言は、さっきから妙に具体的でかつ正解だ。

 

 ブラフ吹かしてるんだよな。そうだと言ってくれ、ニカ。

 

「特に、幼馴染ー凌辱のフォルダがドン引きだったね。もしかしてテル、ボクにあんなエグい妄想をしていたのかな」

「わー、私も興味あるなぁ。へー、ふーん。ほー?」

「待って嘘だろ。え、嘘だよね? ニカさん、マジで?」

「ボクにならともかく、涼加瀬さんにあんなエグいプレイを要求するなんて言語道断だ。全力で邪魔させてもらうよテル」

「見たの? え、嘘、見たの? 俺の恥ずかしいところ全部見られちゃった?」

 

 顔の血の気が引いていくのが分かる。

 

 え、何で。どうやって? マジで見られた?

 

 自分でも引くくらいヤバいけど、何となく刺さったから保存した画像がたんまり入ってたぞあの中。

 

「死ななきゃ。ああ、早く死ななきゃ……」

「テル君。パスワード教えてくれるかな?」

「え、その、シノさん。俺今から自殺しないといけないんで、その」

「良いよ死んでも。ボクがそのパソコン開いておくよ」

「甘いなニカ。俺が死んだら盟約に従って、我が父がこのHDを粉砕してくれる手筈になっていて」

「ボクの家に来るかい? データのコピーあるよ、涼加瀬さん」

「え、本当? 行く行く」

 

 

 そしてシノとニカは、ついさっき大喧嘩していたとは思えないほど仲良く部屋の外へ出ていった。

 

 慌ててシノを追いかけ、背後から抱き締めて甘い言葉を連呼したが、止まってくれる様子がない。

 

「今のテル君の性癖情報……。大丈夫、怒らないから。参考にするだけよ」

「お願いいたします! そこをどうか、ご容赦を!」

「テル君の好みをニカちゃんだけが知っていて、私が知らないなんて耐えきれないわ」

「教えます! 何でも素直にお答えしますのでご容赦を」

「エロ画像くらいで情けないなぁテルは」

「ニカてめぇ、明日の朝日拝めると思うなよ」

 

 

 

 

 

 こうして、俺とニカとの恋は終わった。

 

 初恋は実らない。10年越しのニカとの関係は、結局何もないままに終わった。

 

 でも。今までの付き合いが付き合いだったからか、ニカとあまり気まずくなることは無かった。

 

 むしろ、

 

「テル君。それはボディタッチよ。浮気だわ」

「すまんシノ、(怒りの)感情が抑えきれなくてな。後で埋め合わせする」

「ぎにゃぁあああああ! 腕が折れる、折れるー!!」

 

 変に意識していたのを隠していた今までより、気軽に話しかけられるようになった気がする。

 

 こんなにもニカに密着してアームロックしているのに、俺の心はこんなにも穏やかだ。

 

「涼加瀬さん助けて。テルに襲われてる……い、痛ででぇ!?」

「どうしよう、ちょっとニカちゃんが妬ましくなってきた。やめてあげて」

「え、シノ? 変な趣味ないよな」

 

 それはきっと、これからも変わらない。

 

 俺とニカは、きっとこれからもこんな感じで。

 

「……テル君が、ニカちゃんを構っているのが気に入らないわ」

「お、おう」

 

 俺とシノも、きっとこんな感じなのだろう。

 

 

 

「だからテル君、私の機嫌を取りなさい」

「えっ? ……っと」

 

 幼馴染(ニカ)を解放したあと、少し唇を尖らせた恋人(シノ)を前にして。

 

 俺は、照れながらはっきりこう言った。

 

 

「世界で一番、誰よりお前が魅力的だよシノ」

 

 

 きっと俺は、誰よりシノを好きになっていく。




これにて本作は完結となります。長らくお付き合いいただきました読者の方に感謝を申し上げます。誠にありがとうございました。

そして、自作(異世界転生したけどチートなかった;ナマクラ氏)連載中で急がしい中、投稿前に査読いただきました師匠や兄弟子にも、この場を借りて改めてお礼申し上げます。

そしてせっかく最終回なので、少し自分語りをさせていただきたく思います。

実は私は普段、異世界ファンタジーを好んでよく執筆しておりました。本作のような、ファンタジー無し現代日本の何の変哲もないラブコメはあまり書き慣れていません。

なら何故こんな話にしたかと言えば、前回連載していました異世界ファンタジーモノでラブコメを書こうとして全く書けなかったからであります。

恋愛要素皆無のまま、何とかねじ込もうとして入れきれず。これは一度、ラブコメの修行をした方がいいかなと考えまして王道のラブコメを執筆するに至りました。

プロットも何もなく見切り発車でしたが、無事に完結できてホッとしております。

次回作も、また皆様の目に留まることがあれば読んでいただけると幸いです。

では、短い間でしたがお付き合いくださいましてありがとうございました。
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