ヤンデレられる人がヤンデレしてる人から重い感情をむけられてることに気がついていないシチュっていいよね

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おや、弟子の様子が……?

「ほんとうに、師匠なんですか……。」

 

 震える声で女が聞いてくる。僕はひきつった顔をフードで隠そうとした。

 

「すみません、僕はあなたのことを知らないのですがいったいどなたなんで」

 

「やめてください! なんで生きてるって教えてくれなかったんですか、この三年わたしがどんな思いで暮らしていたか考えてみたことがあるんですか!」

 

 いきなり叫んだ女に、まわりの人が訝しげに僕たちをみつめてくる。面倒なことになったとため息をついた僕はかつての弟子の手をひいて路地の奥へと駆けていった。

 

 あんなふうに騒がれたら僕が生きていることが知られてしまうじゃないか。我ながら気の利かない弟子である。

 

 誰もいない暗がりにきてようやく僕は足をとめる。つないでいた手を離そうとするも、弟子にきつく握りしめられてどうすることもできない。

 

「えっと、あの我が弟子? 聞こえてるかな?」

 

「生きてる、師匠が生きてる……。」

 

 弟子が狂ったように僕の顔をべたべたと触ってくる。その泣きだしそうな瞳に僕は困り果てた。

 

 

 

 

 思えば、僕の人生の不幸はあのクソジジイに目をつけられたことなのだろう。

 

 僕が生まれたのは、王国の東のほうにあるへんぴな村だった。幼いころから僕はぐうたらで、豚を森につれていくと嘘をついては草花で昼寝をするのが常だった。

 

 猫をかぶるのだけは上手だった僕は、父に叱られることもない。

 

 そんな村の暮らしをずっと続けていくものだと思っていた僕は、ある日ひとりの老人と会った。その老人は北の学院で魔法を教えている先生なのだという。

 

 そいつがいうには、僕には魔法の才があるらしい。

 

 学院にいけばずっと寝ていてもご飯がでてくるという誘い文句に騙された僕は、老人についていくことにした。豚と戯れて泥まみれになるのにも飽きるものである。

 

 結論からいうと、老人の言葉は真っ赤な嘘だった。

 

 学院ではずっと魔法の勉強をさせられた。文字なんかわかるわけないのに魔導書ばかり読まされた僕は、かなしいかな猫をかぶって魔法の理屈を理解しているふりをする。

 

 書いてあることはわからなかったが、魔法はてきとうにやったら上手くいった。

 

 そのことを親友に話したら、化け物をみるような目でみつめられたことを今でも憶えている。幸いなことに親友はそのことを言いふらしはしなかった。

 

 ともかく、僕は学院をぶっちぎりの首席で卒業した。僕もなんでこんな怠惰なやつがこんなに魔法ができるんだと不思議に思ったが、とにかく僕は千年の天才ともてはやされたのである。

 

 だからか、僕はまったく楽ができなかった。

 

 森の奥で暮らしていても、王様に永遠の命とか金銀財宝が欲しいというどう考えてもおかしなお願いをされる。断れば兵隊をさしむけてくるので逃げなければならなかった。

 

 そうして旅をしていて拾ったのが弟子である。

 

 どうやら竜の怒りをかって村もろとも襲われたらしく、息も絶え絶えといったふうなところであった。ちょうどお手伝いが欲しかった僕は弟子を助ける。

 

 ついでに恩を売ろうと竜も退治した。

 

 それからは楽だった。きらきらと瞳を輝かせた弟子がご飯から寝床までなんでもしてくれるので、僕はずっとぐうたらな暮らしができる。

 

 弟子が僕を褒めてくるからいい気になって魔法もかなり教えてやった。そのぶんもっと熱心にお世話をしてくるので暮らしももっと楽になる。

 

 

 

 

 なにもかもがおかしくなったのは、勇者とやらがやってきてからだ。

 

 魔王が現れたとかでもっとも優れた賢者を探しているらしい。嘘をついて魔法を勉強させたあの老人が僕のことを口にしたのだそうだ。

 

 ほんとうにクソジジイである。

 

 死んでしまえばいいのにと思っていたら、ほんとうに魔王の手にかかって殺されたらしい。僕のことを死の淵で勇者に伝えたのだとか。ちょっぴり悲しくなったのは秘密である。

 

 もちろん僕は断ろうとした。

 

 勇者には僕なんかよりももっと優れた賢者がいるとかいろいろと理由を口にする。だが、弟子が潤んだ瞳ですがってくるものだから、頷かざるをえなかった。

 

 いや、だってあんなの断ったら僕がとんでもなく卑劣なやつになっちゃうじゃん。

 

 それから僕は賢者として猫をかぶったまま勇者の旅についていった。辛くて苦しくてすぐに後悔する羽目になるのだけれど。

 

 ともかく、それからしばらくして僕たちは魔王の暮らす城までやってきた。僕の魔法と勇者の剣に追いつめられた魔王は最後にとんでもない魔法を放とうとする。

 

 その瞬間、僕の頭に悪魔のような考えがうかんだ。

 

 魔王のあの魔法を防ぐ魔法を僕は知っているのだが、ここにはそんなことを知る人間などいない。弟子にも教えていないし、勇者はそもそも魔法の才がない。

 

 ということはだ、ここで命とひきかえに魔王を殺したことにすればどうだろう。

 

 僕は死んだことになってもう誰からも追いかけられることはない。弟子とか勇者は悲しむかもしれないが、これで僕は永遠の自由を手に入れられるのである。

 

「あ、あの魔法は! 僕がなんとかするから勇者たちは逃げてくれ、あれは賢者の僕にしか防げない魔法だ!」

 

 考えるよりも先に口が動いていた。真っ赤な嘘を口にしながら、僕は勇者たちに弟子をつれて逃げるよう叫ぶ。

 

「師匠、師匠! また生きて魔法を教えてくれるんですよね!」

 

 そんな悲痛な叫びをあげる弟子に、演技に入りきった僕は我ながらすばらしい作り笑いをうかべた。まるで死にゆく賢者がひと時でも弟子を安堵させようとしたかのような悲しげな笑顔である。

 

 涙をぬぐった勇者が叫んで僕に手をのばす弟子を無理やりつれていく。

 

 しばらくして、魔王の放った魔法と僕の魔法とがぶつかりあって城のまわりは吹き飛んでしまった。もちろん魔王は死んで僕は生き残ったけれども。

 

 

 

 

 それからは最高だった。

 

 賢者としてささやかな富は隠してある。後はその金をつかって世界中を旅してまわって遊ぶだけである。僕は世界でもっとも怠惰に暮らした人間であるという自信があった。

 

 だが、久しぶりに王国を訪れてみたのが運の尽きである。

 

 まさか学院長にまでなっていた弟子に捕まるとは思いもしなかった。震える手で抱きついてくる弟子の頭を撫でながら、僕は考える。

 

 たしか、弟子は僕のいうことはなんでも聞いてくれるなかなかできたやつだったはずだ。

 

 ということはだ、僕が生きていたことを言いふらさないよう説きふせることも簡単にできるのではないか。僕はにやりと笑った。

 

「いいかい、我が弟子よ。僕が生きていることは内緒にするんだ。」

 

「なぜですか、勇者も旅の仲間もずっと師匠のことを気に病んでいます! それにわたしに魔法を教えてくれるって約束したじゃないですか!」

 

「まあまあ、いいじゃないか。学院長までなったんだろう、だったらもう僕に教えることなんかなにもないって。」

 

 言いすがってくる弟子を僕はなだめる。信じられないとばかりに僕をみつめてくる弟子に明るい声をかけた。

 

「それに悪い話じゃないだろう。我が弟子もいきなり賢者が帰ってきたら学院長の座を僕にわたさなくちゃいけなくなるかもしれない。僕が死んだことのままにすればいいじゃないか。」

 

「……なんですか、それ。これから師匠はどうするつもりなんですか。」

 

 弟子がうつむく。なぜかひくくなった声に首をかしげながらも、僕はもう王国なんかにくることもないだろうなと考えた。

 

「また旅にでるよ。安心するといい、もう王国を訪れることはしないから。それじゃこれで顔をあわせるのは最後ってことで、さよなら……!?」

 

 僕の足が、影に沈んだ。

 

 弟子が暗い瞳をゆらめかせながら、顔をあげる。近づいてくる弟子の影に僕はどんどんと飲まれていった。

 

「師匠に魔法を教える気がなくても、わたしは無理やり学びます。これ、師匠がもし生きていることがあればなにがなんでも捕まえるって思って考えた魔法なんです。」

 

 弟子の魔法に僕は顔を青ざめさせる。魔法の天才であるはずの僕が、どうやったら逃げられるかがすこしもわからない。こんな魔法は知らなかった。

 

「さあ、どうやって逃げるか教えてください。教えてくれるまで……。」

 

 ―――――――師匠はわたしのものです。


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