多分こんなことやってたら本当は追い出されるんだろうなぁ←トレーナー
2025 9/23、挿絵追加
「・・・」
深夜11時。暗い部屋にガサゴソという何か、人一人が動くような音が響く。
ここはウマ娘達がトゥインクルシリーズを目指し競い合う「日本ウマ娘トレーニングセンター学園」通称トレセン学園。
その中にある施設の一つ、【栗東寮】のレストルーム。昼間であれば様々なウマ娘で賑わうであろうそこは、流石に真夜中、消灯時間もとうに過ぎたため誰もいない、はずであった。
「・・・よし。あとは・・・」
ガサゴソ、ガサゴソといるはずのない何者かが蠢く。時折何か袋のようなものをパリパリと開封するような音、シュンシュンとまるで何かが沸き上がっているかのような音も混じり、当人は静かに行動しているつもりであろうが全く静かではない。
「うん・・・?やっぱり暗すぎると見えづらいな」
「そうかそうか、じゃあこれでどうだ?」
「あ、ああ。ありが・・・!?」
暗闇の中苦戦していると、横から声と共に懐中電灯の光が当たる。油断していた何者かは突然の親切な誰かへと礼を言う。が、遅れてようやく気づき驚きに固まる。
光に照らし出されたのは、一人のウマ娘。寝巻きであろうラフな服装に身を包み、固まっている手にはホカホカと湯気を立ち上らせるお湯が入ったばかりのカップ麺と割り箸。葦毛とクールな表情が特徴的な彼女は、今は驚きから若干目を見開いている。驚愕しつつも手に持ったものは落とさないところはさすがと言うべきだろうか。
「・・・で、何か言うことはあるかな?『オグリキャップ』?」
「・・・すまない」
葦毛の怪物、『オグリキャップ』。彼女は耳をペタンと倒しながら、心なしか悲しげな表情をしつつ謝罪の言葉を述べた。
それに対して素直か、と苦笑しつつ懐中電灯をおろしたのは、この寮の寮長を務めるウマ娘、『フジキセキ』。
「全く、こんな時間にそんなもの食べようとか中々にチャレンジャーな事するねぇ」
「どうしても、お腹が空いてしまって・・・もう見回り時間は過ぎたんじゃなかったのか?」
「いや、私の部屋わりとここから近いから。お湯沸かす時やかん使ったら音でバレるに決まってるじゃん・・・」
フジキセキのアホの子を見るような呆れ顔に一層しょんぼりするオグリキャップ。そんな彼女を見て今度は完全に疲れからくるため息がフジキセキから溢れるのだった。
「ところで、せめてこれだけでも食べていいだろうか?」
「それ以上食べるつもりだったんだ!?」
「そこに後一箱ある」
「・・・とりあえず没収ね?」
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「え?夜食食おうとして怒られたぁ?」
翌日、トレーニングの時間に現れたオグリキャップが異様に落ち込んでいた理由を聞いたトレーナーは驚きの声を上げた。対する当事者、オグリキャップ。目元には若干の寝不足が見られ、それ以上に普段からクールというかマイペースでポーカーフェイスな彼女の顔には珍しく悲壮感が漂っていた。
「・・・部屋に置いていたストックも全部取られた。暫くは反省しろって」
「そりゃまたなんとも・・・ってか毎食しっかり食ってるんじゃないのか?」
「ああ。でも最近、なんだか食べ終わっても夜に不意に目が覚めてお腹が空くんだ」
「まだ胃袋に伸び代がある・・・だと!?」
オグリキャップの無尽蔵な胃に戦慄するトレーナー。そんなトレーナーの驚愕は意に介さず、トレーニング前のストレッチを行うオグリキャップ。心なしかその動きは精彩を欠いているようにも見える。というか、めちゃくちゃ悲しそうである。
「今日の食事は?」
「量を増やしてもらった。とりあえず夜中は何も食べられないんだ・・・私は何を求めて生きていけば良いんだろうか・・・」
「壮大。話が壮大だわ。というか必要以上に食うな、管理しづらくなるわ。でもまぁ、そうか。食事、かぁ・・・」
さっきから耳がずっと垂れっぱなしである。走り出してもそれは変わらず、どこか上の空なオグリキャップにトレーナーはトレーニング中ずっと思案していたが、終了間際によし、と一言呟きオグリキャップを呼び寄せる。
「おーい、そろそろ終わるぞー」
「わかった・・・」
そうして自分の元へと戻り、運動後の柔軟をしているオグリキャップへと声をかける。
「よし、じゃあ帰る前にちょっと寄るか!」
「?トレーナー、どこにだ?」
首を傾げるオグリキャップにニヤリと笑うと、トレーナーは人差し指と中指で何かを食べるようなジェスチャーをした。
「小腹を満たしに、な」
「よーするに、だ。とりあえず腹に溜まるもんを今のうちにしっかり食っとけば夜しっかり寝れるだろうよ。当面は夕食後は食えねーってんなら、夕食までにも一回食って貯めとけばいいんだ」
「な、なるほど・・・!」
やってきたのはチームの部室。幸運なことにほかの所属ウマ娘はおらず、今はトレーナーとオグリキャップの二人きりである。引っ張り出されたちゃぶ台の前に座ったオグリキャップの前に、トレーナーがドン、と巨大なホットプレートを用意する。
基本的に飲み物を冷やすための用途で使う中型の冷蔵庫の中には、何故かチョコなどの冷やした菓子やちょっとした食材なんかがしまってある。冷蔵庫を漁るトレーナーの後ろ姿に、とりあえず何か食べることができるとなりオグリキャップの腹からギュルギュルと催促するような異音が響き出す。
「えーっと、確か安かったから買いだめしといたやつが・・・あったあった!」
「ト、トレーナー。まだか?というより、何があるんだ・・・?」
「まぁまぁ慌てなさんな。ほら、これだよ」
そう言って得意げにトレーナーが取り出したのは、大量の『餃子の皮』だった。それを見て段々とオグリキャップの顔に不安の色が宿る。
「・・・トレーナー、これを食べるのか?その、餃子を今から作るのでは夕食までに間に合わないと思うんだが」
「いんや、餃子作るわけじゃないぞ。作るのはピザだ」
「ピザ・・・?」
ああ、と答えながらもトレーナーは再び冷蔵庫へと手を突っ込み、様々なものを取り出していく。未だ要領を得ていない様子のオグリキャップを横目に、ホットプレートの電源を入れ、少量の油を垂らしていくトレーナー。
「というか、なぜ部室にそんなものがあるんだ?前に見た時には無かったはずだが・・・」
「ゴルシと一緒に食ってた。たまに」
「なっ、なぜ呼んでくれなかったんだ・・・!?」
「いやお前終わったら普通に寮に直行して飯食ってたじゃんかよ・・・」
くそ!あの時の私はなんで・・・!と悔しがるオグリキャップにえぇ・・・と若干面食らいつつもホットプレートの温度を確認していく。十分に暖まったところで満を辞して餃子の皮を用意していく。
「まぁ、たまにって言ってもゴルシ自体が用がないとあんまし部室こねーからな。基本は俺が休日一人で食う時とかに作ってた雑料理だよ。まぁ小腹満たす分にはなるだろ」
「でも、餃子の皮でピザ、か?どうやって回すんだ?」
「いや回さねーよ。なんでもピザは回すと思うなし」
オグリキャップへとツッコミを入れつつトレーナーは準備を進めていく。ちゃぶ台の上には調味料や食材がドンドンと溜まっていく。オグリキャップはそれを見つつ(もうこれ全部焼いて食べられれば良いけどなぁ)と呟いていた。そんなオグリキャップをよそにトレーナーは準備を進める。
「まずは無難にケチャップとチーズだな」
「・・・なるほど、ピザとはそう言うことか」
餃子の皮の上にケチャップをぶちまけ、チョンとチーズを乗せてプレートの上へと投入。控えめにじゅうじゅうと音を立てる様にオグリキャップはピザ、というトレーナーの言葉に納得する。
そして音を立てて焼けていく餃子の皮を凝視し腹からの異音をさらに大きくさせていく。
「トレーナー、ま、まだか?」
「待て。上のチーズがはじけ出すくらいがちょうどいいんだよ」
そう言ってオグリキャップの伸ばした手を押さえるトレーナー。ギラギラとした目でプレート上の獲物を見つめるオグリキャップの口元からは、タラリ、とよだれが垂れ始める。
そんな我慢の限界が近いオグリキャップとちょうど良いタイミングを図っているトレーナーの熾烈な攻防(手)が行われること3分強。
「・・・そろそろかな」
「!」
「よし、いいぞオグリ。『なんちゃって餃子の皮ピザ』だ。まぁちょっとしたおやつ程度にしかなんねーだろうが熱いから気をつけ「あつっ!」全然話聞かねーなお前!?」
トレーナーの言葉を待つことなく手を突っ込んだオグリキャップ。熱さにひるみながらも決してピザを離すことはなく、そっと手に取ったそれを顔の高さまで持ってくる。
側面付近と裏面についた少々の焦げ目。上の方では真っ赤なケチャップが熱を持ち湯気を燻らせその更に上に乗ったチーズがトロリと覆い被さっている。
「なるほど、確かにピザだ」
一言そう呟くや否や大きく開けた口の中へと放り込む。
「!ほふっ!」
瞬間、口の中に火がついたかのような熱気が訪れ、冷まそうと口を窄め空気を取り込む。
そうして熱がある程度ひくと、今度はケチャップの酸味とチーズの濃厚な旨味が合わさり、オグリキャップの口の中に至福が広がってゆく。
餃子の皮のパリッとした食感に溶けたチーズがからまり、本当にピザを食べているかのような感覚を覚えオグリキャップの耳が無意識にピンと立ち、背後で尻尾がゆらゆらと揺れる。
「・・・ああ、いいなこれは!」
「だろ〜?まだ皮結構あるからな、飯に遅れない程度に食ってけ」
「ありがとう・・・!ありがとうトレーナー!」
おーう、と答えながらひたすらに餃子の皮にケチャップとチーズを乗せてはプレートに乗せていくトレーナー。
一度味わい、美味しさを知った以上オグリキャップも止まらない。トレーナーからの良しが出た瞬間には完成したなんちゃってピザはオグリキャップの口の中へと消えていく。その動きは繰り返される中で無駄に洗練されていき、遂にはトレーナーが一つピザを焼き始めると同時にオグリキャップの口の中へとピザが一つ消えてゆくという流れ作業へと突入する。
「ほい」
「むぐ」
「ほい」
「はふっ」
「ほい」
「んむ」
「ほい」
「さて、と」
「・・・トレーナー?」
餃子の皮の袋が二桁消し飛んだ頃、トレーナーの手が止まる。それにより無限にも思われたピザの生成が終わってしまい、オグリキャップの手元の一つを残しプレート上のピザが残らず消えた。
まだ残りの皮がある中で止まってしまったトレーナーに、オグリキャップはもう終わりなのか、としょんぼりする。
「ああ、終わりってわけじゃねーぞ?ちょっと味変でもしようかってな」
「味変?」
「バリエーション増やしてみるってことだ」
そう言ってトレーナーが取り出したのは、明太子にツナ缶、ふりかけにカレー粉。それを見たオグリキャップの目に喜びの色が戻り、二人顔を見合わせニヤリと笑う。
「何からいく?」
「私は明太子がいい。トレーナーも食べないのか?」
「おう、じゃあ俺はこれだな、ふりかけ。実は結構いいんだこれが」
そこから始まるは軽食という名の暴食。ピザ生地たる餃子の皮を全て食らいつくさんばかりの勢いでプレートにピザが置かれていく。
オグリキャップは色とりどりのピザがじゅうじゅうと音を立てている光景に目を輝かせた。
「ツナはいいな・・・缶の汁をかけると風味が強まってシーフードピザみたいだ・・・!」
「ふりかけもどうだ?こいつはゆ○り、こっちはの○たま。後これはす○焼き」
「!どれも美味しい・・・!トレーナー、これにさらにチーズをかけてはどうだろうか!?」
「おまっ、天才かよ・・・!?それはまだ試してなかったわ、よしやろう!」
「明太子にチーズ、ふりかけ、ツナ・・・」
「おま、オグリお前、全部のせだと・・・!?この短時間でよくそこまで!ええい、こうなったらとことんやるぞ!おら!一口焼豚!」
「そ、それは!チーズの上に一口大の焼豚を・・・!絶対美味しいものじゃないかトレーナー!私にもくれないか!?」
「おう、食え食え!・・・っはぁ〜!肉汁が加わってやべーなこれ!」
「肉汁もそうだが、焼豚とチーズを合わせるというのも良いものだな・・・まろやかになっていくらでも食べれそうだ!」
「さらにちょっと輪切りにしたウインナーをドーン!」
「ああ、それはダメだトレーナー!ウインナーとケチャップとチーズなんて、最強な組み合わせじゃないか!」
「はっはっは、これも良いぞオグリ!」
「これは、まさか昆布!?合うのか!?」
「俺の一押しだ。案外合うんだぜこれ!」
「!い、いける・・・!ならトレーナー、これはどうだろうか・・・?」
「明太子と昆布、それに鮭フレーク・・・だと!?山賊おにぎりか!」
トレーナーとオグリキャップ、二人の軽くを超えた軽食は続いたのだった。
なお、その後二人は結局時間も忘れて皮を使い切るまで食べまくり、二人とも夕食に遅れそうになったのであった。
オグリキャップ:ウマ娘ユーザーおなじみ胃袋ブラックホール娘さん。トレーナーから雑ご飯を教わっては寮で自作しようとする。失敗したものは同居人にもお裾分けされ彼女の体重を激増させる。
トレーナー:オグリのトレーナー。雑な調理のご飯をよく食べる。オグリなど担当のウマ娘に食べさせることに若干楽しさを見出してる。ホットプレートはたづなさんにバレて部室の使い方でお説教を食らった。
次回、タマちゃん編(未定)