今日は師匠のご入場です。
ちょっと予定してた話と前後させた結果、切り詰めたりしたので短めです。
「うん、良い天気だ」
雨続きだったここ数日の天気が嘘のように快晴の中、ストップウォッチを片手にトレーニングを行う。今日はタキオンをメインで練習するということで、彼女の研究の助手のようなことをしている真っ最中である。
「タキオーン。タイム落ちてきてるぞ、そろそろ休憩しとけー」
トレーナーが声を上げて伝えると、遠くを走るタキオンが速度を落とし手を挙げて答える。それを確認しストップウォッチをポケットにしまい、代わりに手に持ったバインダーへと何かを書き込んでいく。
「あ、見つけた!トレーナーさーん!」
「ん?」
後ろから聞きなれた声がして振り返るトレーナー。遠くから手を振りながらかけてくるたづなさんを目にし首を傾げつつ応える。
「たづなさん、どしたんですか?」
「トレーニング中に申し訳ありません、少々お時間良いでしょうか?」
「ああ、ちょうどひと段落ついたとこだったんで今は大丈夫ですよ」
近くまでやってきて軽く息を整えてつつもそこまで息が上がっていない様子のたづなさんに少々驚きつつも、お願いに承諾を告げるトレーナー。すると、戻ってきたタキオンが頬を膨らませながらトレーナーの服の裾をつまみ抗議する。
「トレーナー君ー?今日は私の実験に付き合ってくれる日じゃなかったのかい?それを無視して他の女についていこうとはいい度胸じゃないか」
「うっせぇわ、もう今日の分のトレーニング終わりかけだろうに」
「あ、大丈夫ですよ?トレーニングが終わってからでいいので理事長室に来ていただければ。チームのことで話しがあると」
「理事長室・・・またなんかやらかしたっけか?」
ふん、とそっぽを向きつつもそれ以上文句を言う様子のないタキオンに笑いかけつつ後でいいと伝えるたづなさん。理事長室への呼び出しということでなにしたっけと冷や汗をかき始めるトレーナーになんとも言えない微妙な視線を送りつつ、たづなさんは用件を伝えたということで去っていく。
「まったく、油断も隙も無いなトレーナー君は」
「はいはい、それで?つづけるんだろ?」
「無論だ!今日は時間いっぱい実験を続けようじゃないか!」
「失礼します」
「許諾!入ってくれ!」
トレーニングを終え、理事長室へとやってきたトレーナー。結局なぜ呼ばれたのかの見当はつかなかったためその表情は怪訝なものとなっている。それでも上司の呼び出しということであまり良い予感はしないとため息をつきつつ扉をノックする。理事長の許可を得て扉を開け、中へと入ると、出迎えたたづなさんがトレーナーの入るのを見て扉を閉め、静寂が訪れる。その後、誰も用がなければ通らない理事長室の廊下にはウマ娘の聴力でも聞き耳を立てられないとされる理事長室の防音性を突き抜けて二人分の怒声が響くのだったが、幸いにも話が終わるまでの間にそこを通る存在はいなかった。
「うん、良い天気だ・・・」
翌日の昼、前日に続き快晴となったためトレーナーは一人青空の下ぼーっとグラウンド近くで寝ころんでいた。時間は正午を過ぎ、学園では昼食を食べるウマ娘でにぎわっているころであり向上心の高い娘はグラウンドにて自主練を行っている。その様子を眺めて時間をつぶしていたトレーナーだったが、特に見ていて面白いこともなかったため仮眠でも取ろうと目をつむる。
「にしても、流石にやりすぎたか・・・」
思い出されるのは、前日の理事長の呼び出し。開幕で申し訳なさげでもあり怒っているようでもあるという何とも器用な表情で宣告された通達は、トレーナーの度肝を抜いた。
『決定!君の部室の使用について、料理禁止令を言いわたす!』
『はい・・・はい!?』
完全に想像の埒外の話であったために動揺するトレーナに、理事長は難しい顔でつづけた。
『詰問!身に覚えはあるだろう?あなた宛ての苦情はトレーナーから、主にベテランから少なくない数が届いている』
『げっ・・・』
見せられたのは、トレーナーへの苦情・・・というよりは、ただの文句とも言える内容も混ざっているものだった。
『具体的な苦情の中身ですが、「飯のにおいで自分もウチのウマ娘も腹が減ってしょうがない」「せめて減量中にいいにおいをただよわせるのはやめろ、うらやまけしからん」「皇帝のトレーナーとしてもう少し周囲への影響力を考えていもらいたい。あとあの牛筋煮込み美味かったから追加希望」「隣の部屋への迷惑も考えてほしい。あとチャーシューはもう少し味をしみこませてから持ってきてくれると嬉しい」・・・などですね』
『待て!もっともな意見もあるが大体はおかしくないか!?あと牛筋煮込みは△△トレーナーだな!?絶対そうだ量が足りなくてあのおっさんにしかおすそ分けできてないし!隣の部屋ってのは○○さんだな!?チャーシュー気に入ったのかよ渡したときスゲー睨まれたのに!?』
たづなさんの読み上げていく苦情にツッコミを入れつつもだんだんと苦しい顔になってくるトレーナー。これまでは他トレーナーからの部室での料理についての文句は、おすそ分けという名の口止め料で対応してきたトレーナーだったが、とうとうそれが通用しなくなったのだ。
『・・・減刑!あなたの皇帝を育てたという実績があり、更にはあらかじめルドルフ本人にあなたの作る食事がチームのメンバーの力になっているためどうか許してほしいと嘆願されている。それらの話を加味して、各トレーナーとの話し合いで折り合いをつけた!故に
『・・・』
苦い顔をしつつもそこが落としどころだろうと理解しているトレーナーは重苦しい顔で頷く。それを見た理事長は一瞬しょんぼりとした表情を見せたが、すぐに元の引き締めた顔つきに戻り扇子を開き「解決!」という文字を見せる。
『では、明後日までに調理器具等は自分の寮へ持って帰るように!』
『・・・分かりました』
結局しょうがないとあきらめたトレーナーは、しょんぼりと肩を落としつつ退室するのだった。
『あ、そうだ。カレー粉入りハヤシライス思っていたよりおいしかったからまた持ってきてくれると助かる!』
『この流れでそれ言うかぁ!?』
「さて、どうするか・・・担当の昼食についてはまぁいつも通り寮で作るとして・・・オグリかぁ」
昨日の話を思い出しつつ考えを巡らせるトレーナーは、よっこいしょと体を起こし、しょうがないとため息をつくのだった。
「うわー!?」
「んぁ?」
大きなあくびをしつつ伸びをしたトレーナーは、グラウンドの方で聞こえた叫び声に気づく。目を向けると、そこでは一人のやたらと目をひく青色の髪のウマ娘が頭から見事なヘッドスライディングを極めながらゴールするところであった。
「うぅ・・・ターボは負けないぃぃ」
「・・・色物ォ」
ため息とともに重い腰を上げたトレーナーは、よく見るとその倒れて目を回しているウマ娘以外の娘がもういなくなっていたためとりあえず保健室だな、と搬送するため近づいていくのだった。
「・・・ふぅ。さてこれからどうするか」
時は進み、放課後。ナリタブライアンは、どうにか厳しい副会長の監視を逃れ生徒会業務をサボり散歩していた。特にあてもなく歩いていたため、気がつくとトレーナー寮近くの遊歩道を歩いていた。学園からも離れておりよほどのことが無ければだれも通らないだろう道だ。
「学園に戻ってもエアグルーヴに見つかりそうだ。おとなしく散歩か昼寝か・・・ん?」
ふと、なんとも言えない匂いを感じ取る。それは決して不快なものではなく、むしろ食欲を誘う、いわゆるいい匂いというものだった。
「・・・まぁ、何となく予想はつくが」
行く当てがあるわけでもなし、と匂いをたどり遊歩道をはずれ道のそばにある休憩スペースへと向かう。
「よーし、見てろよ、もうすぐで美味く完成するからな・・・」
「わぁー!ターボも!ターボもやる!」
「落ち着けって!もう少しだからおとなしく待ってなさい」
「・・・何をやっているんだお前たちは」
向かった先で見つけたのは、七輪に乗せたサンマへと真剣な表情で汗を流しつつ団扇で風を送るトレーナーと、その横で興味津々にサンマを見ている青髪のウマ娘、ツインターボだった。あきれた様子のナリタブライアンのつぶやきを聞き、ビクッと肩を跳ねさせたトレーナーと、そんなトレーナーの様子に首を傾げつつナリタブライアンの方を見るツインターボ。
「あ、セイトカイチョーのとこの人!」
「びっくりしたぁ・・・お前は、たしかナリタブライアン」
「お前たち、こんなところで何をしているんだ?」
「そうだ、見て見てこれ!このトレーナーがサンマ焼いてくれるって!」
「サンマ・・・?」
「!いかん、そろそろ焼ける!」
訝しげな表情のナリタブライアンをよそに、トレーナーは七輪の上のサンマを長い菜箸でとり、紙皿へと乗せる。やや焦げ目の付いた表面を熱でパリパリと音を立てているサンマをそのままツインターボに渡すと、オッドアイの目を輝かせ、尻尾を振りながら受け取る。すかさずトレーナーは手元に置いていた醤油を一たらし。
「ありがと、トレーナー!」
「おうとも。ナリタブライアンも食べるか?」
「くだらん・・・私はサンマなんて食べる気はない」
「そうか・・・」
少ししょんぼりしているトレーナーをよそに、ナリタブライアンはさっさと帰って飯の時間まで寝よう、と踵を返す。
「おいターボ。お前減量とかしてないよな?」
「ん?ターボはやってないよ!」
「よし、じゃあここに友人からもらった豚バラを串に刺した奴があるから、これも焼こう」
「え、いいの!?やったー!」
「・・・」
「・・・おい」
トレーナーはサンマを齧りながら喜ぶツインターボをよそに、何故か自分の座るベンチの隣にそっと腰かけたナリタブライアンに冷ややかな目を向ける。
「どうした、早く焼かないのか」
「帰るんじゃないのかよ、おい?」
「私はサンマは食べないといっただけだ。肉については何も言っていない」
「自分に正直な奴だなおい!?というかお前も減量は!?」
「私も問題はない」
そう言ってすでに視線を豚バラへとロックオンしているナリタブライアン。何とも調子がいいな、とからかうトレーナーだが次に返された理事長に言うぞ、の一言で諦めた様子で七輪の火を団扇で強める。
一方のツインターボは、トレーナーからもらったサンマをモグモグと嬉しそうに食べている。そこへトレーナーがすかさず焼けた豚バラ串を乗せていく。紙皿に乗せられたのは串二本分、しかしその一本がとても大きく、紙皿の上のサンマと合わせると、一面を覆うほどの量になっている。塩コショウを振りかけて焼かれたため、肉の焼ける匂いの中に食欲をそそる香辛料的なにおいが混じっている。
「わぁ、おっきいね!」
「おい、私にもよこせ。理事長と生徒会長に言うぞ」
「一人増えてんだよなぁ!?言われんでもやるから少しくらい待てや!」
ツッコミを入れつつ団扇と串をひっくり返す手は止めない。そうして十分にやけたところで、ナリタブライアンに手渡した紙皿へと二本乗せていく。
「おい、その一本もだ。渡せ」
「お前に慈悲はないんか!?これは俺のだよ!」
そう言って抗議するトレーナーだったが、そんなささやかな抵抗も虚しく最後の一本までも奪われ情けない悲鳴を上げる。
「ん・・・やはり肉はいいな」
「くそぅ・・・覚えてろよこの野郎・・・」
「私はウマ娘だ。野郎じゃない」
「細かいわ!」
ブライアンとの言い合いをしつつも、追加で自分の分のサンマを焼いていくトレーナー。そんな彼をよそにターボとブライアンはやや遅めのおやつと言わんばかりに食べ勧める。ターボは豚バラも美味しく食べたがサンマの方が良かったらしく、少なくなった最後の身をチビチビと食べ進めている。十分に焼けたサンマの身は、若干の苦みと共に魚特有のしつこくない油による旨味をしみこませ、かけられた醤油と合わさりターボの舌を唸らせる。
「・・・おかわりいる?」
「いる!・・・あ、でもターボそんなに食べれないかも」
余りにもおいしそうに食べるためつい聞いてみるトレーナー。嬉しそうに答えた後にすこし耳を垂れさせて迷った様子のターボに、しょうがないなぁと笑うと自分の分として焼いたさんまを半分にし、ターボの皿へ置く。
「!ありがと!」
「おう。しっかり食いな」
そんな二人を見つつブライアンは豚バラに食らいつく。肉汁があふれ出て、塩コショウの味と絡み合いドロッとした脂身と共にブライアンの胃へ重くどっしりと落ちてくる。そして肉のうまみの中にほのかにかんじる炭の風味がさらに食べる勢いを加速させる。
「あ、そうだ。二人ともこれ居る?」
「?」
「なにこれ?」
ウマ娘二人の前に一つの瓶を取り出す。見た目は、そのまま『ご〇ですよ!』と書いてあるが中身は明らかに別物とわかる色をしている。それの中へスプーンを差し込み、一掬い取ると自分のサンマの上にのせていくトレーナー。
「柚子味噌。これかけるとさっぱりしてうまくなるんだよ」
「ターボもやる!」
美味しくなると聞いて早速ツインターボがスプーンを受け取りゴッソリと中身をとってサンマへと乗せる。味噌から香る柑橘系の香りにニンマリ笑うと、ツインターボはサンマにかぶりつく。先ほどまでの油と醤油の味に炭の風味といったサンマとはうってかわり、柚子と味噌によってさっぱりとした味わいとなり一気に印象を変える。柚子の酸味が食欲を増進させ、味噌のまろやかな塩気がサンマをより食べやすく変える。
「これも美味しい!」
「おい、私もかけるぞ」
「はいはい」
ツインターボの様子を見ていたブライアンは最初は迷っていたが結局好奇心に負けて少しだけ取り肉へとのせる。
「・・・なるほど、少々さっぱりした、か?」
豚バラの持つサンマ以上のこってりとした油の味が、さわやかな柚子と味噌と合わさったことで緩和され、くどくない風味へと変わる。一口ごとに主張していた肉の油に、柚子味噌が加わることで胃にどっしり来る重さは変わらずすっきりとした味わいをもたらした。
「おい、追加はないのか」
「もう肉はないって。・・・サンマならあと少しくらいあるけど?」
「む・・・くれ」
「ターボも!ターボもサンマ食べる!」
「ターボはダメ。お前それ以上食って晩飯ダメだったら俺が怒られるもん」
「うぅ~!」
結局三人は、この後もしばらくの間七輪を囲んでいるのであった。
「ところで、お前たちはどういう関係だ?」
「倒れたところを回収したら怪我とかじゃなく空腹だったから食わせた」
「自主練で疲れてたからサンマもらった!」
「・・・何をどうすればそうなる」
トレーナー:とうとう禁止令を食らった。その後は部室が使えないので外のウマ娘があまり通らないところとかでこっそり作ることにした。ナリタブライアンとツインターボは買収で来たが七輪の煙でエアグルーヴにバレたため三人とも正座の後説教を食らった。これ以上怒られたくないので自分の担当以外のウマ娘に食べさせるときは減量中かどうか聞くようにした。進歩。
ツインターボ:自主練中ガス欠で倒れたところをトレーナーに保護され、ついでにサンマをもらった。その後はトレーナーのところにたまに顔を出す仲に。お礼として「ご飯ありがとう」という筆ペンで書かれたクッソ上手な手紙を渡した。なおトレーナーの部室と間違えて隣の部室へ放り込んだのでトレーナーには届いていない。
ナリタブライアン:サボり中に肉が食えて大満足。ただ結局エアグルーヴに見つかって怒られた。解せぬ。トレーナ-を見つけると無意識のうちに唾が口の中にあふれるようになって戸惑うが二日で元に戻った。
予定とちょっと違うし、ターボ師匠の口調再現難しいな。でも師匠すき
多分これ以上メインで出すウマ娘キャラは増えないと思う。原因は私の頭の容量の関係。増設できれば出すかも。
前回の真夜中優勝丼
材料
米:たくさん
チャーシュー:手作りでも市販品でもヨシ
照り焼きのタレ
カレー粉
明太子
温泉卵:作者は圧倒的に二個推し
だし醤油
牛筋煮込み:プライスレス。頑張って作って
ホカホカの米に、多少炙ったチャーシューをのせたらタレやらなんやらを全部混ぜたオリジナルタレをぶっかける!以上!温玉は途中で味を変えるように入れると二度おいしい!牛筋煮込みじゃなくても味が濃いものを追加で投入すると優勝できる。あと体重は増える。
次回 トレーナー、死す
デュエルスタンバイ!