トレーナー式雑ご飯とウマ娘   作:コジマ汚染患者

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お久しぶりです。
遅くなりました。
実はあと二話で終らせるつもりだったのでどう終わらせるかで悩んでました。
原因は私が普段食べている雑飯のレパートリーの終了です。
今までありがとうございました。

と思ってたら知らないうちにもう20個くらいレパートリーがふえたのでそこまでは書こうと思います。あ、短編から連載にしないと。

以上、本編どぞ(・ω・)ノ


トレーナーは食わせたい

その事件は、ある一人のウマ娘が生み出したとある一つの薬品によって引き起こされた。のどかな空気の漂うトレセン学園職員室。昼食の時間となり、授業を終えた教師やトレーナーはコーヒーやお茶を片手に一息つき、次の授業の担任は準備と確認に勤しむ。そんな平和な一日の空気を切り裂くようにして、ドタドタという騒音が廊下の奥から職員室前へとやってくる。

 

「た、大変です!」

 

そう言って汗をかきつつ職員室の扉を壊さん勢いで開いたのは、普段からクラス委員長として日々バクシン、いや邁進するウマ娘、サクラバクシンオー。普段の彼女であれば模範的ウマ娘として優しく、そっと扉を開く・・・いや、そもそもノックをして返事が返ってきてから扉を開くという模範的行いをするはずである。その普段との違いが、明らかに異常事態が発生していることをその場にいた教員とトレーナー達へ感じさせていた。

 

「ど、どうしたんですかバクシンオーさん?いったい何が・・・」

 

ちょわっ!?わ、私としたことがノックもせずに・・・!失礼しました!」

 

「いやもうそれはいいです!良いですから要件をお願いします!?」

 

(おい、本当に異常事態なのか?)

 

(・・・俺も正直少し疑問に思う)

 

律儀というか融通が利かないというか、再び扉を閉めてノックから入ろうとするバクシンオーを教員の女性が止める。そんな彼女の様子に最初は不安からざわついていた職員室内も、色んな意味で大丈夫か?という空気になる。そんな中ようやく落ち着いた様子のサクラバクシンオーが耳をピンと立てて手をブンブンと振り回しながら、職員たちへと事のあらましを言う。

 

「そ、そうでした!こんなことをしている暇はないんでした!学園の食堂でスーパークリークが暴れているんです!対応を、いえ応援をお願いします!」

 

「ス、スーパークリークが?」

 

思いもよらない名前が出てきて面食らう女性教員。耳を傾けていた他の職員たちも、首をひねっていた。スーパークリークと言えば、気性はおとなしく世話好き、そして目の前の暴走機関車のごときウマ娘程ではなくとも真面目で、トラブルが起きたとしてもむしろそれを止めに入るようなウマ娘であったはずだ。

 

「ほ、本当にスーパークリークさんなんですか?彼女が暴れる、というのはちょっと考えられないのですが・・・」

 

 

「ええ、ええ!私もそう思います!ですが実際彼女のせいで食堂が大変なことになってまして。私も止めに入ろうと思ったのですが・・・その・・・あれは無理だとおもいまして」

 

そう言って歯切れ悪く目を逸らすバクシンオー。珍しい表情に疑問を感じるトレーナーもいる中、まぁそんなこともあるんだろうという空気が流れる。バクシンオーは嘘をつくような娘ではないため、対応した女性教員はとにかく確認せねば、と背後に振り返り職員室内へと声を響かせる。

 

「と、とりあえず見に行きます。トレーナーの方で誰かついてきてくださいますかー?」

 

「どうするか・・・お前いける?」

 

「いや、次授業だし準備が・・・」

 

職員室内にいたトレーナー達が状況が分からず戸惑う中、不意に一人・・・昼寝でもしていたのか寝ぼけ眼のトレーナーが手を上げる。いつもの飯テロトレーナーである。

 

「んじゃぁ今日はもう授業は無いし俺がついていくよ」

 

「あ・・・ありがとうございます。それではバクシンオーさん、行きましょうか」

 

「はい!では私についてきてください!」

 

そうして、気合十分のサクラバクシンオーの先導のもとトレーナーと教員は食堂へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、先行っててくれ。すぐ追いつく」

 

「?どこへ?」

 

「万が一がある。一応スーパークリークの担当に会ってから行くわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、件の食堂では、バクシンオーの言っていた通りスーパークリークが暴れていた。・・・ある意味で。

 

「アカン!みんな逃げるんや!今のクリークには何言っても通じん!」

 

「うふふふふふ、タマちゃんー?お昼ご飯のお時間ですよ~。ほら、あーん」

 

「ちょい待ちィクリーク!?ウチは赤ちゃんやあらhモガッ!?」

 

尋常ではない力で無理矢理スモックを着せられ、膝の上に乗せられたタマモクロスが周囲にいるウマ娘へと警告を叫ぶ。必死に逃げようとする彼女だが、普段のおっとり具合からは考えられないくらいがっちりと抱っこされてしまっているため身動きが取れず、目の前に持ってこられたスプーンを口に突っ込まれる。

 

その周囲には、死んだ目で赤ちゃん椅子に座らされたナリタタイシンと、目を回しながら口の中へとにんじんを詰め込まれたスペシャルウィークが転がっている。もちろん二人ともスモック姿だ。

 

「あらあら、タイシンちゃんとスペシャルウィークちゃんはもうおねんねのお時間ですか~?じゃあタマちゃんもそろそろねんねしましょうね~」

 

「ヒィッ!?だ、誰か助けてや!?だれかぁぁぁ!?」

 

スーパークリークに頭を撫でられながら万力のような力で床になぜか敷かれている布団へと押し込まれるタマモクロス。恐怖に引きつった顔を周囲へと向け、助けを請う。

そんなある意味悲惨とも言える様子を見ているウマ娘達だが、だれも助けに行かないわけではない。流石に昼間の食堂で赤ちゃんプレイの真似事はいかがなものか、と止めに入ったウマ娘達もいるにはいた。

 

「バッドステータス、【バブみ】を検出。これ以上の活動は不可能と判断します。これが母性の暴力ですか」

 

「こ、これはマズいデース・・・頭がとけてきあ゛あ゛~」

 

「デジたんにそんなご褒美を・・・ああ、もう幸せすぎて死ねる・・・」

 

しかし、スモックだけは辛うじて着せられなかったがあふれるスーパークリークの母性にやられ倒れ伏した彼女たちは、もはや役に立たないであろうことは一目瞭然であった。

 

「どうするべきだろうか。このままではタマもスーパークリークに堕ちるぞ。・・・あ、おかわりください」

 

「こんな時にも呑気ですわねオグリキャップさん!?と言うよりも、なんで彼女があんなことになってるんですの?」

 

止めに入りたいがどうにもできず様子を見ているメジロマックイーンと、止めたいのか食べたいのかわからないオグリキャップ。二人だけでなく、周囲にはスーパークリークにロックオンされないよう距離を保って何人かのウマ娘たちが見守っている。

 

「このまま放置ではまずいだろう。・・・よし、私が行く」

 

「会長!?」

 

このままでは埒があかないと、エアグルーヴと共に様子を見ていたシンボリルドルフが、立ち上がる。驚愕と心配の眼差しを向けるエアグルーヴにフッと微笑み、ルドルフは皇帝の威厳を身に纏いながら歩み出す。

 

「会長が行った!?」

 

「でもあの人なら、あの会長ならあのバ○オハザード的母性に負けることなく事態を解決できるかも・・・!」

 

「待ってください会長!何の対策もないままにアレに踏み込むのは下策です!一度バクシンオーが助けを連れてきてから・・・」

 

エアグルーヴの言葉に首を振り、ルドルフは歩みを進める。その目に宿るは会長として、皇帝としての矜持。制服でありながらまるで勝負服を着た重賞レース直前のような空気を纏った彼女は不敵に微笑みすら浮かべる。

 

「私は生徒会長、シンボリルドルフだ。学園の問題の全てを解決するという覚悟なくして、何が会長か。・・・なぁに、安心しろエアグルーヴ。少し彼女に小言を言うだけさ」

 

「か、会長・・・!」

 

そう言うとともに、スーパークリークがルドルフを視界に入れる。圧倒的母性に冷や汗を垂らしつつ、ルドルフは皇帝であり会長であるという己の在り方を成し遂げるために、戦場へと駆けた。

 

汝、皇帝の神威を見よーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし、よーし。お仕事疲れたのよね〜。いい子いい子、会長もよく頑張りました〜」

 

「あ゛あ゛〜」

 

「会長ぉぉぉぉぉ!!!!」

 

そして一瞬で堕ちた。用意された乳児用のお粥のような何かを死んだ目で食べ続ける機械と化したタマモクロスに変わり、スーパークリークの膝枕の上で気の抜けたうめき声をあげるルドルフ。よだれ掛けをつけられ、スーパークリークの膝の上でほんわかとルナちゃん顔を見せるシンボリルドルフの姿は、日頃の激務がどれだけ疲労につながっているかが伺える。

その悲しい最後に、エアグルーヴが膝をつき悲壮な叫びをあげる中。皇帝の、ある意味であられもない姿を見た他のウマ娘は「何も見ていない、私たちは何も見ていない」と現実から目を逸らした。自分たちの会長の名誉のために。

 

「・・・こうなっては仕方ない。私たちが、会長の意思を継ぐ・・・!」

 

「おい、正気か。アレに突っ込むのか、私は流石に嫌だぞ。というか私も巻き込む前提で言うな」

 

ルドルフの痴態(?)に覚悟を決めたエアグルーヴが、自身も乗り込まんと歩み出す。横で何とも言えない表情で見ていたナリタブライアンはその蛮勇に心配半分、呆れ半分で呟く。

すると、不意に背後から手が伸びてきて、エアグルーヴの肩を掴んだ。

 

「エアグルーヴ、もう大丈夫だ。おまえが行く必要はねぇよ」

 

「あなたは・・・!会長のトレーナー!」

 

エアグルーヴを押しのけて前に出たのは、息を切らせて汗を流すトレーナー。その手には何やら紙袋を持っており、後ろからは追加で女性教員が一人、遅れて走ってくる。

 

「なるほど、スーパークリークがねぇ・・・」

 

「ああ、どうやら食堂に来ていたアグネスタキオンから、間違えて薬品を渡されて飲んでしまったらしい。それであの有様に」

 

「えぇ・・・」

 

エアグルーヴから説明を受けたトレーナーは、深刻そうな顔つきから一転「またタキオンか」と呆れた雰囲気を纏う。一方の女性教員は、なぜ食堂に薬品を・・・とドン引いている。

 

「ところでそのタキオンはどこに?」

 

「あそこだ。真っ先に餌食になっていたぞ」

 

ナリタブライアンの指さす先には、おしゃぶりを口に突っ込まれ、知性のかけらもない様子で普段から持ち歩いている薬品の入った試験管で遊ぶタキオンの姿があった。時折「たきおん、とれーなーのところいく~」と、キャッキャ騒いでいる。どうにかスーパークリークからは引き離せているようで、横で心底面倒くさそうな表情のマンハッタンカフェがあやしている。

 

「ふむ、あいつに解決させるのは今はまだ無理か・・・まぁ大丈夫だ。スーパークリークの担当から秘策を受け取ってきたからな」

 

「おお、そんなものがあったのか」

 

期待に沸く周囲のウマ娘をよそに、トレーナーは持ってきた袋の中をガサゴソと漁る。一方、スーパークリークはタキオン謹製の『やりたい事への自制心を抑えられなくなる薬』がまだ効いているのか、周囲にいる他のウマ娘達へとロックオンし始める。

 

「あらあら〜」

 

「ヒィッ!?ト、トレーナーさん早くして!」

 

「お、おいスカーレット押すな!というか後ろに隠れんなよ!」

 

「嫌よ!私はあんな痴態晒したくないの!」

 

「オレだって嫌だよ!?」

 

「あら〜、喧嘩はメッ!ですよ〜?」

 

「「しまった、こっちに来た!?」」

 

真っ先に狙われたのは、ダイワスカーレットとウオッカ。2人が恐怖に震えながら抱き合う中、恐怖すら感じる笑みを浮かべてゆっくりとスーパークリークが近づく。

慌ててエアグルーヴが助けようと動く寸前、トレーナーが袋からさっとあるものを取り出し口に咥える。

 

「スーパークリーク!こっちだ!」

 

「?あら、会長のトレーナーさん。一体どうs」

 

振り返ったスーパークリークは、トレーナーを視界に入れるや否や目を見開き固まる。いや、その場にいた幼児退行したウマ娘以外の全員の思考が止まった。

 

トレーナーの口に咥えられたものは、子どもが好きそうな黄色とピンクというファンシーな配色。手に持っているのは、中に入ったものが振るたびにガラガラと音を立てるおもちゃ。よく見れば体の前、首元を覆うようにつけられた布には小さい女の子に大人気のアニメである【ウマピュア】があしらわれている。

 

・・・いや、おしゃぶりとガラガラとよだれ掛けじゃね?と、少しずつ理解が及んできたウマ娘達。ただし皆理解を脳が拒む。

トレーナーはその場の全ての時が止まったような空気の中、スゥッと息を吸い込むと、普段の数倍はキメた真剣な表情でおしゃぶり越しに言った。

 

「・・・ばぶぅ」

 

「何をしてるんだお前はあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

本日一のエアグルーヴ渾身の叫びが食堂に響いた。実際他のウマ娘達も心の中でツッコんだ。

 

(え、何であのトレーナーさん自分から赤ちゃんになってるの!?)

 

(さすが色物チームの担当さん・・・)

 

(というかこれ、要するにトレーナーさんが犠牲になっているうちに助けろってことだよね?)

 

(どうして何とかなると思ったんですか?)(現場ウマ)

 

「バカか!?貴様はバカなのか!?」

 

普段はかろうじて敬語、呼びかける際は「あなたは〜」と丁寧に言っていたエアグルーヴからついに敬語も遠慮も抜ける。しかしトレーナーとしても大真面目なようで、表情は真剣である。格好はふざけているが。

 

「あ、あら・・・あらあらあら〜」

 

「今だ!エアグルーヴ、後は頼む!」

 

「ああもう!貴様は何故そう奇怪な方にばかり思い切りがいいんだ!」

 

フラフラとトレーナーの元へ向かうスーパークリークを警戒しつつ、見守っていたウマ娘達が幼児化した娘達を回収していく。その間にもスーパークリークはトレーナーへと誘引され、トレーナーはゆっくりと他の食堂の面々から離れていく。

 

「全員回収したぞ!」

 

「でかした!じゃああとは頼む!」

 

「は!?」

 

エアグルーヴ主導で被害者達を回収することに成功し、ナリタブライアンがトレーナーへと叫ぶ。すると、トレーナーは全てを彼女達へ託し、スーパークリークへと突貫した。目指す先には、目に危ない光を灯しつつ両手を広げるスーパークリーク。

 

「さあ来いやスーパークリークゥゥゥ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ〜しよしよしよしよし、えらいでちゅね〜。いつもお仕事お疲れ様です~」

 

「ば、ばぶぅ~」

 

その数十秒後、そこには細めた目の中に猛禽類のような鋭い光をたたえたスーパークリークに、ほぼ羽交い絞めと言ってもいいレベルで拘束されたトレーナーの姿があった。

トレーナーは赤子の真似を継続し、他へと被害が出ないようにしつつも、恐怖が勝つのか抜け出そうと時折身じろぎしている。

 

「・・・と、とりあえず被害はこれで抑えられるだろう」

 

「ああ、あのトレーナーはあと何時間あのままなのかは知らないがな」

 

「ばぶ・・・」

(いや俺のせいじゃねぇぇ!!)

 

元からなかったとはいえ、威厳も何もない姿となっているトレーナーを可哀想なものを見るような目で眺めるブライアンとエアグルーヴ。他の被害者達は既にスーパークリークから遠ざけられ、残ったのはトレーナーだけとなった。

 

「・・・あれ、放っておいてもいいんじゃないか?」

 

「!?」

 

「正直私達ではどうにも出来んからな。申し訳ないが会長を復活させる為に動かねば」

 

「!?!?」

 

あんまりな2人の言葉に、トレーナーが驚愕と悲しみの表情を向ける。しかし、周囲にいた他のウマ娘達もトレーナーを助けに行くのは難しいと判断し目を逸らす。

 

「ちょっと待ってぇ!?俺助けにきたぞ!?俺を助けてくれてもいいじゃんkモゴォ!?」

 

「よしよし~、お飲み物飲みましょうね~」

 

抗議の声を上げようとおしゃぶりを外し叫ぼうとするトレーナー。しかしその声が届く前にトレーナーの口内に試験管が突っ込まれ、無理やりに中身を流し込まれる。急に飲まされたことに抗議する間もなく白目をむいておとなしくなるトレーナー。

その様子を遠巻きに眺め、なんとも言えない表情となる生徒会メンバーの背後では、被害者達をまとめてどうにか復活させようとウマ娘達が声をかけたり頭をはたいたりしていた。その中には、トレーナーの担当バであるアグネスタキオンとシンボリルドルフもいた。

ルドルフはともかく、そろそろ復活してもいい頃合いであるアグネスタキオンにはマンハッタンカフェがついており、もう面倒になったのか頭をはたきながらカクカクと頭を揺らしている。

 

「全く・・・なんで薬品を持ち歩くんですかタキオンさ・・・タキオンさん?あの薬どこにもっていったんですか」

 

「えへへ~、『危ないでしょ、も~』っていってたからすーぱーくりーくにもっててもらった!」

 

「・・・え?」

 

「ん?どうしたんだマンハッタンカフェ」

 

「なんでもいいが、そいつにはさっさと復活してもらってこの状況を何とかしてもらわないと」

 

「え、あの、その・・・タキオンさんが持っていた薬、スーパークリークさんに渡してしまったって・・・」

 

「「・・・は?」」

 

「「「「「「・・・え?」」」」」

 

マンハッタンカフェの言葉に周囲が凍り付く。ブライアンとエアグルーヴも、他のウマ娘に対応していた女性職員も先ほど見たトレーナーの惨状を思い出し青ざめる。あの人、今何を飲まされていた・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ううむ・・・困ったことになったな」

 

「ええ・・・ですが、すでにベテランの方々には断られてしまいましたし、あとはこれまで参加したことのないトレーナーさんに任せるしか・・・」

 

数十分後。話し合いをしつつ移動していたたづなさんと理事長。本来ならこのように廊下で話し合うような真似はしない二人だが、仕事による疲労や今が授業の開始時間であるという事もあって油断し、小声でこうして話し合っていた。今は理事長の話し方も普通である。

 

「・・・?何やら騒がしいな」

 

「あら・・・?もうお昼の時間は終わっていたはずですが・・・」

 

食堂に差し掛かったところで、もう時間帯的にほぼ人がいないはずのそこから響く怒声と悲鳴に不審に思った二人。そっと近づき、顔だけを角から出して中をのぞく。

 

「いったい何・・・が・・・」

 

「起きているんで・・・しょう・・・」

 

言葉を失った二人の眼前に広がっていたのは、悲しみの連鎖の上に成り立つ地獄だった。

 

「ヒィィ!?トレーナーさんやめてぇぇ!!」

 

「お、おいスカーレット!こっちにそのカロリーの化け物持ってくるな!?」

 

「アタシだっていやなのよぉぉ!!」

 

「お前らうるせぇ!んな喧嘩するくらいなら飯食え飯ぃぃ!!」

 

「「い、いやあぁぁぁぁ!?」」

 

何故か逃げ惑うダイワスカーレットとウオッカに、普段はしないであろう全力疾走で追いかけるトレーナー。周囲には他にも被害にあったのかお腹を押さえてうーうー唸るウマ娘達。一眼見てわかるタイプのお手軽地獄がそこには広がっていた。

 

「くそ、なんだあの薬。あのトレーナーに追いつかれそうになるなんて・・・!って、んん?」

 

「あらあらブライアンさん、お疲れですね~?ここでおやすみ、していきましょうね〜?」

 

「!しまっ、力つよっ・・・!?」

 

「うふふ、ほぉらいい子いい子~♪」

 

「ブライアン!?」

 

トレーナーから逃げる中で運悪くスーパークリークの領域へと入ってしまったナリタブライアン。そのまま引き込まれた彼女を心配し声を上げるエアグルーヴだったが、いつのまにかダイワスカーレットとウオッカを仕留めて(?)背後に近づいていたトレーナーに気がつかなかった。

 

「エアグルーヴゥゥ・・・さっきは良くも見捨ててくれたなぁ~」

 

「ちょ、待て!あれはしょうがないだろう!?それにその手に持ってるものを放せ、それを置いてくれるなら謝罪する!」

 

「うるせぇ!これはお前らが生徒会業務で忙しいだろうからと思って作っておいたものだ!食ってそこでスーパークリークに休息をもらってこい!いつも働きすぎなんだよ!」

 

配慮の仕方が捻じれてるんだよ貴様!?ムグッ!?」

 

思わずツッコんだエアグルーヴの口へと持っていたものを押し込むトレーナー。

押し込まれたのは見た目は食パン。普通に売っている市販のものを四等分したもので、押し込まれた拍子に噛むとジュワリ、中から甘くてしっとりとした何かがあふれ出す。

 

「ング・・・これは、牛乳?」

 

「おら!お前もだブライアン!」

 

「モゴッ!?」

 

エアグルーヴが渡されたもの・・・ミルクトーストに思考を奪われている横では、スーパークリークに捕まったナリタブライアンが同じくトーストを口に突っ込まれていた。

見た目にはただの食パンと変わりなく、しかし持ってみればシットリとしていて歯触りは柔らかく、再び口に含めば口の中に広がるのはやや甘味の増した牛乳のクリーミーな味わい。

 

「はむ・・・うん、いい味が出てる。しかし、少々甘すぎる気も・・・」

 

「言ってる場合か!さっさとこいつを・・・!」

 

「はぁーいブライアンちゃん、あーん」

 

「ちょ、こいつも止めフグッ」

 

背後でブライアンがトーストを口にくわえ必死に逃げようとするもスーパークリークに追加のトーストを「あーん」され失敗する。一方のトレーナーはと言うと、未だに食堂から逃げ出そうとしているウマ娘達の口へめがけてトーストをシュートしている。

 

「・・・いや待て、食べている場合じゃないんだっt」

 

「おら!これも食うんだよ!」

 

「ムグッ、だから、少しは加減し・・・ふむ、これもなかなか」

 

正気に戻ろうとしていたエアグルーヴだったが、再びやってきたトレーナーが口に放り込んできた追加のトーストを口にしてさらに思考が沈んでいく。甘くて柔らかいのは先程と変わっていない。変わった、というよりは追加されたのがその見た目と味の変化だった。

見た目は先程のトーストと違い、若干コーヒーのような暗い色に染まっており、口にするとやはりコーヒーの風味と味がかすかに表れる。ただ、苦みはほとんどなくむしろ食べやすく、甘さ控えめで先ほどの者よりやや大人向けな味わいを生み出していた。

 

「ふむ・・・これならば先ほどのトーストよりも美味しいな。今度また会長のトレーナーに作ってもらうとするかって違うだろ!!っは!トレーナーとスーパークリークは!?」

 

トーストを片手にようやく正気を取り戻したエアグルーヴ。しかしそれはすでに遅く、周囲にはトーストにより腹を膨らませたウマ娘と、スーパークリークにより幼児化されたウマ娘。更には幼児化されたうえでトーストを与えられひたすら食べさせられている者までいるというまさに死屍累々の状況だった。

 

「しまった・・・!そうだ、ブライアン」

 

「よしよし~、これ美味しいですよ~」

 

「あ゛あ゛~」

 

「ブライアァァァァン!!」

 

成すすべなく幼児化させられてしまったブライアンを見つけ絶望するエアグルーヴ。もはや周囲には彼女以外まともな状態のウマ娘はいなかった。

 

「ああ・・・終わった・・・」

 

「そんな・・・うっぷ、食いすぎた・・・」

 

「トレーナー、お代わり・・・」

 

周囲に転がるウマ娘のうめき声に恐怖を覚えたエアグルーヴが一歩下がる。すると、背後に壁などないにもかかわらず何かにぶつかる。すでに顔は真っ青なエアグルーヴがゆっくりと振り返ると、そこに立っていたのは笑顔でトーストを手に持ったトレーナーだった。

 

「あの、その・・・勘弁してくれないだろうか?」

 

「・・・」

 

にっこりと笑う、いや嗤うトレーナーにエアグルーヴが耳を垂らし頬をひくつかせる。スーパークリークに幼児化させられたわけでもないのにトーストを食べた者達は皆絶望している。何を隠そう、エアグルーヴも含めたこの場にいたウマ娘達は・・・トレーナーの担当以外は・・・減量中であった。

 

「いいから食えおらああああ!!無理な減量は体に悪いんだよぉぉぉおらぁぁぁぁ!!」

 

「勘弁してくれぇぇぇぇ!」

 

その日、滅多にどころか普段聞くことのできないであろう女帝の悲鳴が食堂にこだましていた。騒動はたづなさんによってトレーナーが鎮圧され、スーパークリークも薬切れからの土下座謝罪コースで無事とは言えないまでも解決するのであった。後にこの日の事件は、『スーパークリーク・トレーナー薬漬け事件』ということで当事者たちは口をつぐみ、彼女たちのその後の体重増減も含めて詳細は誰にも明かされなかった。

 

 

 

 

 

「・・・これ俺悪いの?」

 

「うう・・・ごめんなさいぃ・・・」

 

「まだ軽かったですか?追加の重石はたくさんありますよー」

 

「ハイごめんなさいなんでもないです!いっだああああ!?」

 

なお、タキオンは薬品関連の実験を完全に禁止され、しばらくの間生気を失っていたという。




トレーナー:スーパークリークのトレーナーに教えられた対処法を行っただけなのに・・・と言っているが割と戦犯。たまたま差し入れ(オグリ基準)を持っていたことで周囲へ飯をばらまく飯テロ(ガチ)と化した。もし手元に持っていなければ厨房を占拠して飯を作ったかもしれない。反省部屋で重石を乗せての正座なう

スーパークリーク:タキオンの薬で母性が爆発した。触れる者みんな赤子の精神ですべてをオギャらせる。事件終息後、自分の意志でトレーナーと一緒に反省部屋へと入る。

スーパークリークのトレーナー:事件後、「まぁ割と弱めの発作でよかったよ」とのコメントを残し、事件の被害者たちを震撼させる。哺乳瓶とおしゃぶりは持ち歩くもの。

アグネスタキオン:流石に反省したし、実験もほぼ禁じられたので最近はトレーナーに甘えまくっている。あとたまにカフェ。今回の原因であり被害担当。

シンボリルドルフ:正気に戻ってから顔が真っ赤になってその日一日悶々として過ごした。

エアグルーヴ・ナリタブライアン:スーパークリークこわい、トレーナーこわい

その他ウマ娘達:体重計に乗れない体になった。

タキオンの薬:飲むとホルモンとか脳内分泌物のなんやかんやとかで自制心が効きづらくなる。今回の事件で完全に使い切った・・・と思いきやタキオンの自室にあと一本置いてある(タキオンは覚えていない)次の被害者を虎視眈々と待っている。飲まずに塗ると全身が七色に光りながら点滅する。


次回 ウララちゃんはかわいい()
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