無惨in炭治郎   作:笑む英伝


原作:鬼滅の刃
タグ:R-15 残酷な描写 転生 憑依
リハビリを兼ねた落書きです

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無惨in炭治郎

 生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く、死に死に死に死んで死の終わりに昏し。

 

 ○

 

 その身を百万回と灼く劫火の内で男は目を覚ました。

 蘇るのは敗北の記憶。今際の際、彼を煌々と照らして死に追いやった忌々しき太陽、そして彼を執拗(しゅうね)く付け狙い、とうとう討ち果たした人間たちの顔。

 

 その記憶には悔恨があり、憎悪があり、しかして何よりも大いなる感動があった。人間など取るに足らぬ存在であると信じて疑わなかった彼は、闇の中に産まれ出づる日より千有余年を経て、日輪を背負った一人の少年に屠られた。

 

 なんと屈辱的な事であろう。なんと無様な事であろう。しかしその一刀は、少年がただ一人きりで振るうものではなかった。人の身をはるかに超越した千年という時を超え、脈々と受け継がれる鬼殺の魂を込めた、まさしく鬼滅の刃と呼ぶべき一刀である。

 

 散りゆく意識の片隅で鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)は歓喜した。

 

 素晴らしい。人間の紡ぐ想いというものが、かくも美しい物であったとは。

 人から人へ、世代から世代へと引き継がれていく想い、願いは、あらゆる困難を打ち砕いて光をもたらす。

 

 惰弱で矮小な人間たちの手によって鬼舞辻無惨という巨悪が滅ぼされたのは、決して彼らが化け物染みて強かったからでも、無惨に致命的な油断があったからでもない。

 想いだ。心だ。それこそが鬼殺隊の根幹を成すものであり、彼らの強さの源泉なのだ。

 

 だから、無惨もそれを真似することにした。

 

 自分に引導を渡した憎き剣士、竈門炭治郎。少年は鬼の血に天性の適性を持っていた。

 彼が鬼と化せば、太陽すら克服し、日輪の刀をも跳ね返し、鬼狩りの剣士たちを皆殺しにすることさえ時間の問題だ。

 間違いなく、この地上に存在するあらゆる人間を超えた『鬼の王』となるだろう。

 

 無惨は炭治郎に、自らの想いを託した。生きたいという願いを込めた。

 

 長きに渡って人間を苦しめ続け、身勝手にも自らの理想を他者へ押し付けた無惨の行く末は、まあ、推して知るべしである。

 

 ○

 

 無惨に信心はない。羽虫を潰すのと同じようにヒトを殺し続けたにも関わらず、無惨は千年にものぼる生涯の中で、一度も仏罰を受けたことがないからだ。

 しかし彼は失念している。なべて衆生は死後に沙汰を受けるのであり、生前の行いこそがその末路を決定づけるものであることを。

 

 死後の無惨を待ち受けていたのは、生前に経験したあらゆる苦痛を合算して数層倍にしてもまだ足りぬほどの苦しみであった。

 永劫にも近い時を燃え滾る炎の渦中に過ごし、苦悶の声をあげることすら叶わない激痛にあえぐ。それはまさに地獄と呼ぶに相応しい、想像を絶する苦痛の世界である。

 

 苦しみに耐えかねて瞼を強く閉じるたび、網膜の裏にはある男の姿が投じられた。

 その男はいつも無表情で、馬の尾のように長く伸びた髪をしており、花札に似た耳飾りをつけ、じっと立っている。

 

 それはかつて、まだ現世が動乱の世であった時分、自らを死の目前にまで追い込んだ最強の鬼狩りの姿であった。

 

 無惨は男の顔を見るたび、満腔の憤怒と厖大な恐怖とを抱く。無惨が真の意味で死に瀕したのは、討たれたその時を除けば、この男、継国縁壱と出会った時だけなのである。

 

 瞑目すれば必ず縁壱と対面することになるという事実は、ともすれば無惨にとって、全身を灼き続けられることよりも屈辱的なことであった。

 

 縁壱はいつも決まって同じ問いを繰り返す。

 生命を弄ぶことがそれほど愉快か、と。無惨にはその問いの意味が分からなかった。

 

 自分だって好き好んで人間を殺しているわけではない。ただ不老不死という目標のために鬼を増やそうとした結果として仕方なくそうなっているだけであって、本当ならば人間に関わることなど面倒ゆえ御免蒙りたいほどなのだ。

 それをさも殺戮を楽しんでいるかのように語られるのは不快だ。自分は快楽のために人を殺すのではない。生きるために殺しているに過ぎないのである。

 

 とまあ、ざっとこのようなことを考えていたようである。地獄へ堕ちてなお性根が変わらぬとは、なんとも呆れたことではあるが、無惨らしいといえば無惨らしい行く末でもあろう。

 

 ○

 

 ところで、仏教界には輪廻転生という考え方がある。

 あらゆる生命の魂魄は死後その身を抜け出し、数え切れぬ輪廻の果てに別の肉体へと宿るという思想のことを指すのだが、この輪廻転生は時間軸を問題にしないというのだ。

 

 つまり、遠く過去に亡くなった者の魂が遥か未来の肉体に収まったり、また逆に遥か未来で亡くなった者の魂が遠く過去の肉体に収まったりするのだと。

 

 なればこそ、斯様な奇跡が起きたことに、一体どのような疑問があるというのであろう。

 それは如何なるみ仏の御志(おこころざし)であったか。あるいは無惨の、常軌を逸した妄執の賜物であったか。

 

 千年にも渡る死闘の末に陽光の下へと晒され、赫灼の刃の錆と消えた男の魂は、ある一人の少年へと転生を果たすことになる。

 

 舞台は明治三十三年、東京。夏草の生い茂る頃、ある山中の炭焼き小屋の夫婦に、ひとつの子宝が授けられた。

 少年の名は竈門炭治郎。後に鬼の祖である鬼舞辻無惨を滅し、世に太平を齎す剣士となるべき男である。


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