西暦2203年。ついに現実味を帯びてきたガトランティスとの全面戦争。人類最大の危機を前に、地球防衛軍は超実戦的な艦隊演習を計画する。
波動砲艦隊の中核を担う2人の艦娘、「アルデバラン」と「アンタレス」。
長く互いにライバル視してきた「アンタレス」と、直に対峙できることに気分の高揚を感じる「アルデバラン」。
2人の戦士の熱意と、戦意と、そして闘志が、漆黒の宇宙を紅く染め上げる。

彼女らは、まだ自分達の運命を知らずにいた。

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擬人化モノですので、苦手な方はご注意ください。

本編でいうと、ヤマトがテレザートへ向けた航海の最中のことです。たぶんヤマトは今頃、宇宙ホタルに乗っ取られかけてますw
さて、今回はアルデバランとアンタレスが初登場(一応)なので、気合い入れて書きました。
暗くない話も楽しいですねw
戦闘描写は拙いですが、どうかご容赦くださいまし。

それでは、どうぞ。


アステロイドベルト沖艦隊対抗演習"エミリーⅣ"

西暦2203年。ガミラス戦役で滅亡寸前にまで追い込まれた地球は、諸外国も目を見張るほどの超短期間の内に復興を遂げ、さらには銀河系で随一の軍事力を誇るまでに大成長した。しかし、この前年に地球連邦領空限界点に位置する第11番惑星に突如として侵攻したガトランティスにより、状況は一変する。同惑星で繰り広げられた戦い、後に第1次第11番惑星沖海戦と呼ばれた戦いは250万隻vs1隻という前代未聞の戦いとなった。ガトランティスが地球本星を脅かすほどの強大な戦力と兵器を有することがわかると、地球の国防体制は急変を余儀なくされ、ガトランティスとの全面戦争も現実味を帯びてきた。

そこで、新設された地球連邦航宙艦隊、通称"波動砲艦隊"による超実戦的な艦隊演習を計画した。通常、こういった演習は対外的な圧力も視野にいれたものになるが、今回は相手が相手であったためむしろ気兼ね無く練度向上と戦術の確認をするものとなった。

演習は艦隊の再配備や各種調整、時間断層での艦隊増産や訓練などの諸準備が整った上で行われるものとされた。

急ピッチで進められた準備は艦隊各艦の士気向上にも作用し、当日予定宙域に集まった艦艇約300隻は皆一様に滾り、その熱意で漆黒の宇宙を赤く染め上げんばかりであった。

予定よりも遅れた演習開始日は第1次第11番惑星沖海戦から約2ヶ月が経った2月14日のことだった。

 

 

アステロイドベルト。それは地球と火星の中間点にある小惑星帯のことである。その起源は太陽系の誕生にあるとされ、長い歴史故に多くの秘密が眠る太陽系考古学の最前線の1つであった。しかし、その日はいつもとは様子が異なっていた。普段なら商船が数隻ちらほらと見える小惑星だらけの寂しい宙域だったが、その日に限っては最新鋭の宇宙戦艦が宙を埋め尽くさんとばかりに独特な轟音を響かせて、開戦の合図を今か今かと待っていた。

演習に参加するのは旗艦アルデバラン(BB-A-0002-01)率いる第2航宙艦隊と、旗艦アンタレス(BB-A-0005-01)率いる第5航宙艦隊の2個艦隊だった。第1航宙艦隊は首都星防衛、第3、第4航宙艦隊は外周警備のために常駐させられたためだった。

両艦隊の旗艦はそれぞれ手練れといわれる歴戦の艦娘で性格や戦術はまるで逆だったが、それがむしろ実戦的な演習となると判断されたのだ。

さて、開戦直前の両艦隊は布陣からして性格の違いが現れていた。

「全艦隊は指示通りに布陣しました。しかし、本当にこれで宜しかったので?」

第2航宙艦隊旗艦副艦兼第2分艦隊旗艦ウォースパイト(BB-D-0032-02)は旗艦アルデバランへの報告と、準備を済ませたところだった。だが、彼女は真面目故に少々鈍感であり、アルデバランの意図が読めずにいた。

「これで良い。あのバカのことだから、艦隊を1個か、または2~3個に分けて突撃してくるだろうしな」

アルデバランは艦隊布陣や戦術概念等の演習情報が表示されているホログラムを注意深く確認しながら答えた。

彼女は、防衛軍きっての戦術家とされ、単純な軍師としての才能ならアンドロメダやヤマトをも上回るとされるほどの秀才だった。彼女の思考には、一切の無駄が無い。

「しかし、仮にそうだったとしたらそれこそ問題では。敵が吶喊してくるなら我が方は相応の壁を展開し、敵を受け止める必要が……」

「いや、だからこそだ。守りを強固にすればその分多くの被害が出る。耐えるのでは無く、受け流すのだ。」

ウォースパイトの具申を途中で遮りながらアルデバランは答える。確かに、とウォースパイトは思う。現在の第2艦隊の布陣は薄く広くなっており、敵を受け止められなくとも受け流し、被害を抑えられる。また、小惑星群を背にした陣形をとることで例え敵が吶喊してきても後方に小惑星群があっては勢いそのままに敵艦隊は小惑星群に突っ込んでしまう。ようは闘牛士ということか。

ウォースパイトが感心していると、非常ベルが聞こえた。そろそろ演習が開始される合図だ。

「では艦隊旗艦、御武運を」

胸の前に腕を水平に翳す新しい防衛軍敬礼をした後、アルデバランは返礼する。

統率の取れた優雅な艦隊布陣と洗練された艦娘らの眼差しと、まるで今にもワルツを踊り出しそうなほどの可憐さを秘めた第2艦隊は静かに、その時を待っていた。

 

一方の第5艦隊はといえば。

「お前ら、運が良かったな。地球連邦初の大規模艦隊演習に参加できること、そして……」

しばらく溜めたあと、握りしめるマイクをそのまま潰しそうになるほどに力を込めて叫ぶ。

「俺たちが地球、いや、銀河系最強の艦隊であると証明できることをな!!」

第5艦隊の全艦から大きな鬨の声が上がった。

厨二くさい訓示を上げたのは第5艦橋旗艦アンタレス。アルデバランとは全くの逆であると先述したが、彼女は特に極端だった。まず、彼女の基本戦術は吶喊である。

緻密に計算された高度な艦隊運動を花形とする第2艦隊とは打って変わり、いわば統一された狂気というべき代物で、彼女自信の性格もあってか、戦闘では毎回夥しい戦果を上げていた。

無茶な戦い方とよく評される一方で、アンタレスは全く計算高かった。まず、彼女は野性的で直感に頼るタイプだった。昔から自身の直感や勘、というよりは本能のようなものに従い、数多の戦場で生き残り、かつ戦果を着実に重ねていた。その戦歴には強烈なものもあり、ガミラス戦役時には味方を含めた4隻の艦隊で三倍以上の数的不利を補い、見事に全艦を生還させるという同戦役では数少ない勝ち戦を戦っている。

故に、彼女は地球艦隊でもアルデバランとはまた違った厄介さを持つ艦娘だった。

かつての敵国であるガミラスからも一目を置かれる彼女は、はたして第2艦隊にどのように立ち向かうのか。

「艦隊旗艦、1つよろしいでしょうか?」

「なんだぁ?!」

まるでヤクザか何かのように凄みながら返答するのが彼女の癖の1つだった。今では慣れたが、最初は困惑したものだ。と、しばし感傷に浸っていたのは副艦のメトロポリス(BB-D-0054-02)だった。初めて会った時は勝ち気なアンタレスによく困惑していたが、今ではその性格に絶対的な信頼を寄せ、安心感さえ覚えている。

「作戦会議で仰られていたあの件についてですが……」

控え目に物申すメトロポリスに気だるさを感じたのか、アンタレスはぶっきらぼうに答える。

「あぁ、あぁ、アレだろ。"最終撃滅目標"。何度も言わせんなっつーの」

ずれた帽子を直そうともせずに乱暴に頭を掻くアンタレス。それが苛立っている証拠であることはメトロポリスはよくわかっていた。が、何に怒っているのかはいつもわからなかった。

「この演習の勝敗は、敵艦隊の戦力の7割に撃沈判定を

出すか、もしくは……」

アンタレスは自身の拳を強く打ち立てた。

「敵旗艦を撃沈すること」

その顔には新しい玩具を与えられて興奮する子供のような無邪気さがあったが、同時にとてつもない底無しの闘志を見せつけられているようで、メトロポリスは身震いした。本当に恐ろしい奴だと改めて認識する。

すると、アンタレスは徐に振り向くと。

「なぁ……俺が苛立ってる理由、分かるだろ?」

実に不機嫌そうな彼女の顔は少しオーバーな気もして面白くも見えた。メトロポリスは少し意地悪そうにこう言った。

「さて、何のことだか。検討もつきませんね、艦隊旗艦」

「……それだよ、それ」

はて、心当たりのないメトロポリスは意地悪ではなく心底不思議そうな顔を浮かべた。

「その艦隊旗艦って呼び方だよ、俺の親友を自称するんだったら名前で呼べって、いつも言ってんだろが……」

面倒くさそうにしながらも照れ隠しするような顔に若干ときめいてしまったメトロポリス。頬を赤らめているとアンタレスも恥ずかしさの余り何やら怒鳴ってきたが、メトロポリスにはよく聞こえなかった。

「……あの、そろそろ演習開始なんですが……」

直掩の護衛艦に呼び止められ、ようやく我に返る両名。演習開始を目前に締まらないのはいつもの2人だった。

演習開始のカウントダウンが始まり、各艦のホログラム投影機に無機質な時計が表示される。

「いよいよね」

ウォースパイトは今一度艤装を念入りに動かす。

「……」

静かにその時を待つアルデバラン。

「じゃ、アンタレス。目標は?」

分かりきったことを聞いてアンタレスに発破をかけるメトロポリス。

「決まってんだろ」

アンタレスは帽子を深々と被り直し、ただ一点を指差す。その先に光る蒼い星を見つめ、狙いをつける。

「目指すはアルデバラン、ただ1艦だ!!」

波動砲艦隊設立後、初の大規模艦隊演習はこうして開始された。後に大波乱を生み、防衛軍の戦略にも大きな影響を与えることになるのはまだ、誰も知らなかった。

 

 

静かな漆黒の宇宙に、無数の青白い光線が飛び去って行く。それらの光りは瞬く間に遥か数十万km離れた地点に届き、そこで炸裂した。

先手を打ったのは第2艦隊だった。この演習は出来る限り実戦に合わせるため、ビーム砲や実体弾に関わらず実弾を使用していた。当然、ビーム砲はエネルギーを抑えたもので、被弾しても轟沈はしないようになっており、それは実弾も同じだった。しかし、それでも尚、第5艦隊の前衛が崩れるほど、"それ"は強力な兵器だった。

「こっちがまだ1発も撃ってねーのにバカスカ撃ちやがって!てめーらそれでも艦娘か!?」

「余剰次元の爆縮を確認……また来ますぅ!?」

報告も終わらぬ内に早くも第2射が届いた。既に前衛は総崩れとなっていた。

「これが"波動砲"か。喰らってみると想像以上に痛いわね」

ダメコン妖精を発動させながらメトロポリスは険しい表情を浮かべた。自分達が使う分には強力な兵器に違いないのだが、いざ受ける側になってみればその脅威が身に染みてわかる。

「クソッ、状況は!?」

「既に前衛の3割が撃沈判定、もしくは重大な損傷。全艦隊ではまだ1割程度だけどこの被害はまずいわ」

「チッ!」

思わず舌打ちするアンタレスだが、現状は手出しができない。反撃しようにもこの状態では効力射は見込めないし、後衛も前衛が邪魔で撃てない。と、なれば彼女が執るべき行動は1つだけだった。

「前衛艦は全艦後退、後衛も第2艦隊と距離をとれ!」

前衛は動ける艦から直ちに後退し、後衛も距離をとってバラけた。本来なら後衛艦隊が艦載機を上げて、前衛はそれとともに敵艦隊に急接近、離脱を繰り返しヒット&アウェイ戦法を執るはずだったが、敵の攻撃が予想よりも早く、また強力だったのが誤算だった。アンタレスは苦々しい気分を抱きながら殿として後退していった。

一方の第2艦隊は。

「第2射完了。敵艦隊の後退を確認。第3射は不要」

第2艦隊は広く薄く展開する本隊と、吶喊してくるであろう第5艦隊を警戒するため、各所に5隻前後のピケット艦隊が複数展開していた。

先程の波動砲による先制攻撃は本隊によるもので、10隻ずつに分かれた3個戦隊が代わる代わる発砲することで、短い時間に多数の波動砲を撃ち込むことを実現していた。これはマルチ隊形の応用だったが、実は第2艦隊旗艦アルデバランこそがマルチ隊形の立案者だった。まだ各艦隊旗艦とも共有されていない独自のマルチ隊形応用法をいくつも考案しており、これはその一例に過ぎなかった。

しかし、敵前衛艦隊の3割を撃破し、敵の初撃を防いだにも関わらず、第2艦隊各艦は飄々としていた。誰も傲ることも敵を貶すこともせず、あくまで事務的にしていた。第2艦隊は、旗艦アルデバランの方針により、地球防衛軍の中でも特に規律に厳しく、また精強な艦隊として知られていた。

「こちら、第8ピケット艦隊。敵艦隊は後衛も含め全艦が後退。はぐれ小惑星の影に隠れた模様。波動砲有効射程内です」

ピケット艦隊は第5艦隊だけでなく、付近の小惑星や航空機、さらには空間次元震も常に観測しており、抜け目ない探知網を形成していた。

「艦隊旗艦、波動砲有効射程内とのことですし、第3射で止めを刺しては?」

参謀艦サスケハナ(CA-J-0019-01)は戦闘の早期終結及び、味方艦隊の損害ゼロでの勝利に拘っていたため、アルデバランにこのように具申するのは当然ともいえた。しかし、アルデバランの返答はノーだった。

「いや、第3射は必要ない。全艦は警戒体制へシフト。以後、ピケット艦隊からの報告を待つ」

これにサスケハナは不満そうな顔を浮かべた。敵が撃破可能な位置にいるのになぜそれをしないのか彼女には理解が出来なかった。

「艦隊旗艦、なぜですか。敵は我が第2艦隊の有効射程内にいるのです。このまま押し潰せば我が艦隊は被害を被ることなく、敵艦隊を撃滅できるのですぞ?」

アルデバランは表情1つ変えずにサスケハナに向き合いながら答えた。

「確かに我が艦隊は圧倒的優位にある。それは疑い様はない。……が、今ここで第5艦隊を撃破しては演習にならない」

「なぜです?理由をお聞かせ願いたい」

第2艦隊には彼女を含め、優秀な艦が多く所属していたが、同時に独創性に欠け、思考の練り固まったいわば頑固者と呼ばれる艦も少なくはなかった。例えば彼女のように。

「今ここで我が艦隊が勝利したとしても、実戦的な演習とは言えない。本来戦いには攻守があるものだ。それが全く相手に隙を見せず、常に攻撃側にあるというのは歴史的に見ても極稀だ。そんな戦術というより奇術でしかないような勝ち方をした所で、どちらの身にもならない。……と、いうわけだ。わかってくれたかな?」

アルデバランは一息に、しかし力強く反論した。この演習の極意は互いの戦術の確認とそれの実践、そして発展だ。それが一方にはあってもう一方には無いとなれば、演習の極意は果たせず、無価値となってしまう。流石のサスケハナもそれを察せられないわけではなかった。

「……なるほど、よく理解出来ました。自分の任務に戻ります」

所定の配置に戻り、自身の空間コンソールに向かうサスケハナ。アルデバランは第2艦隊各艦を誇りに思い、防衛軍最強であると自負していたが、このいい意味では教科書通りといえる、思考の柔軟性の欠如を最大の懸念事項としていた。その点では、常識破りな第5艦隊との対戦は願ってもない機会だったが……。

「奴がどういう戦いをするのか……今一度確かめねば」

アルデバランは常に冷静沈着な、感情をあまり表に出さない性格だったが、この時の彼女の胸の奥には燃え盛る情熱が芽生えていた。第5艦隊(アンタレス)に勝ちたいと。

 

 

アステロイドベルト、小惑星帯にははぐれ小惑星と呼ばれるものが無数に点在していた。地球と火星の間にあるそれらは、互いの重さや大きさ、あるいは惑星等の重力、太陽の引力等のさまざまな力に引かれて時折その群れから離れてしまうことがあった。

第5艦隊が身を潜めていたのもそういった小惑星の1つだった。普段は地球や火星への衝突の懸念や、航路に立ち塞がる氷山のような厄介者だが、今回は攻撃から身を潜める第5艦隊の絶好の隠れ場となっていた。

「本当にここに隠れてよかったの? ここまだ第2艦隊の有効射程内なんだけど」

艤装の点検をする妖精さんを眺めていたメトロポリスはやや不安気にアンタレスに問いかけた。

「心配ないさ。奴はここで撃ってくるようなタマじゃねぇさ」

艦載機の整備や、艤装の調整をしながらアンタレスは答える。仮にも姉妹であるからには、アルデバランのある種の癖のようなものも熟知しているのだろう。

「それにしたって、他にやるべきことはあるでしょう?」

「あぁ、そうだった、いけねぇ。艦隊の損害確認と敵陣の偵察結果を聞かなきゃだな」

付き合いの長いメトロポリスも、アンタレスの癖がよくわかっていた。闘志を燃やすのが彼女の原動力の1つだが、この場合は燃やすのに手一杯で他のことが目に入らなくなるのだ。彼女の弱点でもあったが、同時に愛くるしい点でもあった。メトロポリスは1人、その表情を楽しみながらも、演習の経過に不安を感じていた。

しばらくして各分艦隊旗艦や偵察部隊からの情報が届いた。

「艦隊は2割弱が戦闘不能か……」

「その内撃沈判定は半分。残りは航行可能なれども主兵装大破につき、戦闘不能……か。ま、鉄砲玉ぐらいにはなるでしょう」

作戦会議で淡々とジョークを飛ばすメトロポリスに、第5艦隊司令部の一同は引き攣った笑みを浮かべた。

「メトロポリスさんのはなんだか冗談に聞こえないや……」

苦笑いをするのは第5艦隊先遣突撃小隊旗艦オオナミ(DE-F-0026-01)だった。小柄な体躯と機動性の高い艤装による吶喊戦術を得意とする勇猛な護衛艦娘だ。

「まぁ、お前らも言いたいことはあるだろうが、とりあえずやることは変わらねぇ」

アンタレスは自分の胸に拳を打ち付けると、高々と宣言した。

「手っ取り早く敵の懐に飛び込んでアルデバラン(ヤツ)をぶっ飛ばす! そのためにまずは……」

「あ……会議中失礼します。緊急の報告です!」

改めて意気込みを見せようとしたアンタレスの元に伝令に走らせた護衛艦ナガユキ(DE-F-0009-01)が戻ってくる。やけに急いでるようで艦隊主要メンバーの間に緊張が走る。

「どうしたの。何か報告?」

面喰らうアンタレスを尻目にメトロポリスが尋ねると、伝令艦が答えた。

「はい……あ、偵察機の観測結果なんですが、どうもおかしくて……何度も確認したんですが……」

「一体なんだってんだ。もどかしい、はっきり言え」

急かすアンタレスにナガユキはようやく答える。それは衝撃的な内容だった。

「あ、はい……あ、第2艦隊旗艦(アルデバラン)がいっぱいいます……」

「はぁ?!」

艦隊司令部は一様に困惑した。

 

「いっぱいいるってどういうことだ?!」

「あ、見てもらった方が早いです!」

ナガユキが見せたディスプレイには第2艦隊の布陣が写されていた。所々不鮮明ではあるが、小惑星帯を背に両翼と中央に陣取る本隊と、前方に展開するピケット艦隊があるのがわかった。しかし、問題はそこではなかった。

「確かにアルデバランがいっぱいいるわね……」

メトロポリスの言う通り、コンソールには5つの同じ艦、つまりはアルデバランであることを示す青い光点があった。全てが地球連邦防衛軍宇宙軍の共通認識コード、BB-A-0002-01を表示していたのだ。

「どういうことだ……これは……」

流石のアンタレスも頭を抱えた。通常、同じ光点が表示されるはずはない。同じ艦が複数見えれば混乱は必至だからだ。言わずともわかる。単なるビーコンの類いかもしれないが、結局はわからないし、推測の域を出ない。

「これは目視の結果? それともレーダー観測?」

「あ、えと、レーダー観測です。宇宙軍標準コードによる解析結果です……」

ナガユキの言葉に参謀艦たちはまたしても困惑し、同時に疑問が噴出する。

「どうしてビーコンを切らないんだ。複数あるにしても場所がバレたら向こうにいいことはないのに」

「いや、囮かもしれん。アルデバランは別の場所にいるのかも」

「そもそもなぜ、肉眼で捉えられなかったのか」

「第2艦隊の哨戒網が予想以上に厚くて、偵察機がそれ以上近付けなかったんだ」

「だとしても情報が少なすぎる。また偵察を出すべきでは……」

「敵は既に臨戦態勢にある。さっきの我が艦隊の吶喊でそれはより顕著だ」

「では我々はどうすれば……ここにいてはムザムザやられるだけだ」

参謀艦や各分艦隊指揮艦たちは一様に混乱した。それはなにより、型にはまっているがしかし、斬新で応用的な戦いを好むアルデバランにしてはあまりにトリッキーすぎるその情報に惑わされたからだ。

彼女がここまでするのはよほど全力で勝ちに来ているということ。突撃一辺倒な第5艦隊には開戦前から予想していた通り、誰の目から見ても不利だったし、旗艦であるアンタレスはそれを誰よりも一番理解していた。

「てめぇら、うるっせえんだよ。その実が詰まってねぇ頭でいくら頭良さそうにしたってどだい無理なんだよ。俺たちはバカらしく愚直に行きゃいいんだよ、わかったら黙りやがれ!!」

混乱し、情報が錯綜してた司令部に静寂が訪れる。本来、空気のない宇宙では音が伝わることもないが、意志疎通のためのマイクや、環境音を再現し、直接鼓膜を刺激する小型装置がすべての艤装に標準装備されていた。

そこから聞こえる音はまさしく無で、刹那の合間に音が消え去ったように感じられた。

しばらく呆然としていた一同だったが、誰かが吹き出すと釣られて皆が笑った。

皆、自身がはぐれものだとようやく思い出した。

最初から彼女らは愚直なバカだとようやく思い出した。

「なんだ、てめぇら笑いやがって。俺がそんなに面白いことを言ったか?」

アンタレスの苛立ち声に、メトロポリスは答える。

「違うわよ。貴女の言う通りだからよ、全く自分たちのことすらわかってないだなんて、相変わらず私たちは馬鹿だわ」

彼女の言うように、第5艦隊は軍内でも特に気性が荒く、命令違反も稀ではなかった。

そんな荒くれ者たちが、同じく荒くれ者であるアンタレスの元に集い、第5艦隊が編成された。つまりはこの艦隊に配属された時点で、厄介者扱いされているということだった。

全員がそれをわかってはいたが、忘れていたのだ。

波動砲艦隊の一員という、アンタレスからしてみれば柄でもないエリート思想が彼女らに芽生えていたのだ。

しかし、アンタレスの一言は、彼女らに自身がどういう存在なのか、そして成すべきことを思い出した。

「……なんだかよくわからんが、とにかく俺たちはやるだけのことをやる、それだけだ。そのためにはまず……」

司令部各員は傾注した。何処か吹っ切れたような覚悟を再度固めた面持ちで。

第2艦隊(エリート)どもの真似をしてみるか」

アンタレスは持ち前の勘に全てを託し、乾坤一擲の作戦を思い付いた。

 

 

「こちら第13ピケット分隊旗艦ヒューベリオン。敵艦隊に動きあり。10列前後の立体縦隊を組みつつ高速で進行中」

ピケット艦の報告に、第2艦隊各員は身構える。その視線の先には今まさに陣形を整えつつある第5艦隊の姿があった。

第2艦隊ほど洗練されてはいないが、正確な陣形を敷き、尚もまた増速中だった。

「またしても現れたか。まさに飛んで火に入る夏の虫……ね」

ウォースパイトは戦術儀仗剣を抜き、臆することなく眼前の敵艦隊を睨んだ。

「敵艦隊はジグザグ航行をしており、最大戦速に到達しつつあります。尚も増速中です」

「艦隊旗艦、敵は高速航行中ですが、拡散波動砲なら捉えられるはずです。直ちに波動砲戦の用意を」

サスケハナは拡散波動砲での一気殲滅を具申したが、アルデバランは受け入れなかった。

「いや、波動砲は必要ない。全艦に火気使用許可、兵装使用自由(ウェポンズフリー)を」

「しかし、艦隊旗艦……」

「復唱はどうした?」

食い下がらないサスケハナだが、次の瞬間にはアルデバランの静かな怒気の前に諦めるしかなかった。

「……わかりました、艦隊旗艦。全艦火気使用許可、兵装使用自由(ウェポンズフリー)。繰り返す、全艦火気使用許可、兵装使用自由(ウェポンズフリー)……」

慌ただしく動き始める幕僚艦を尻目に、アルデバランは戦闘帽を直す。彼女は、かつて無いほどに高揚しながら、目の前の敵を睨んだ。

 

 

交戦開始から僅か5分、前衛のピケット艦隊は大混乱に陥っていた。

「第5ピケット分隊通信途絶。戦艦ネブラスカ大破、戦列を離れる」

「第19中隊後退。第88連隊応答無し」

「巡洋艦エムデン撃沈判定。第58駆逐隊全滅」

「巡洋艦ナガヤ、轟沈判定」

「すでに前衛の3割が戦闘不能……」

「第2デコイ破壊されました。続けて第3デコイも……」

司令部各艦からの被害報告は膨大なもので、事実前衛艦隊は半分が戦闘不能か、または戦列を離れており、その被害の凄まじさを物語っていた。

第5艦隊は"統制のとれた狂気"と言われるほどに恐れ知らずで、勇猛果敢。そして、高い戦果を誇っていた。

ただ闇雲に吶喊するのではなく、細分化された組織の全てに潤滑に命令が伝達され、それを確実に実行しかつ味方の損害を極力減らし、なるべく多くの敵を屠る。

洗練された狂気は、時に洗練された統制を大きく乱す。

「艦隊旗艦、すでに我が方の損害は計り知れません。このままでは前衛が瓦解してしまいます。今こそ統制波動砲戦を……」

具申したのは狂信的波動砲艦隊派とも言われるサスケハナだった。

今回の演習でやたらと波動砲を使おうとする彼女の戦術論は、基本的には防衛軍戦術ドクトリンに合致していた。しかし、彼女の場合はそれが行きすぎていたのだ。

アルデバランもそれを知ってるからこそ、無闇には波動砲を使わない。

「何度言えばわかる。波動砲は無しだ。それよりも艦隊陣形をイ-08-βに変更させろ」

アルデバランは正直に言うと、彼女の扱いの難しさを痛感せざるを得なかった。普段ならアルデバランが最も嫌うタイプの一つとして、なるべく近付かんとするところだが、仕事ともなればそうもいかなかった。

「……了解です、艦隊旗艦」

それだけ言うとあからさまに不機嫌な顔をしながら部下に艦隊陣形の変更を命令した。

この演習で、アルデバランはもう一つの不安要素を見つけようとしていた。

だが、それは彼女の想定よりも悪い方向になっていた。

 

 

「敵艦隊、陣形を変えます!」

前衛で遊撃中の護衛艦からの方向を受けて敵艦隊を睨む。

確かに、無事だったピケット艦隊や他の艦も後退していき本隊にも陣形の変化が見られた。

「あれは……艦隊行動パターン、イ-08か」

3Dコンソールを睨みながら告げるのは第5艦隊の"唯一"の頭脳である戦艦ムツ(BB-D-0054-02)だった。

度の合っていない瓶ぞこ丸メガネで睨みながら、防衛軍基本戦術概念を確認していた。

「艦隊行動パターンイ-08。たしか、突撃してくる敵艦隊を受け流す、いわば闘牛士のような陣形だったわね?」

艦隊の指揮を執っていたメトロポリスは各艦に遊撃中断を伝令させながら、ムツに確認した。

「そうだね。でも、どうやらアルデバランのオリジナルみたい」

「と、言うと?」

妖精と戯れながら、メトロポリスは聞き返す。

「うん、闘牛士は闘牛士でも、そのマントはスパイクだらけ。おまけにバズーカを持ってる」

ムツの表現はかなり癖が強く、付き合いが長くなければ解読は困難だった。

しかし、今回はその表現の読解に難儀する必要はなかった。

目の前に見易い形であったからだ。

「貴女がこんなに分かりやすく解説してくれるなんて、明日はイオン嵐かしら?」

「僕はいつも分かりやすく言ってるさ。ついでに正直」

「よく言うわ」

冗談を飛ばす2人だが、実際は笑ってもいられなかった。

敵は広く薄くの陣形、これ自体は通常の艦隊行動パターンイ-08で、基本中の基本だった。しかし、目の前に広がる第2艦隊の陣形はそれとは全くの別物となっていた。

念のためと距離を取って遊撃を中断したほんの僅かな時間で、艦隊陣形を丸々変更させたのはアルデバラン様々といったところだ。

第2艦隊は文字通り、スパイクのついたマントとなっていた。

広く薄くの艦隊は若干収縮し、要所要所に突出した少数の部隊が見えた。

ただ、突撃する第5艦隊を受け流すだけではなく、このスパイクに捕まって文字通り粉々に砕かれる。

受け流しても2度、3度とくると流石に持たない。だからこそ1回の突撃で第5艦隊の戦闘能力を削ぎ、次の一手を封じる。

守勢と攻勢を兼ねた全く新しい艦隊陣形だ。

さすがのメトロポリスでも、敵ながら天晴れといった所だった。

「……で、どうする?アンタレスたちはまだっぽいけど」

ムツがボサボサの髪の毛を乱暴に掻き乱しながら訊ねる。

ここにいてももうじき波動砲やショックカノンの嵐が飛んでくる。

次の一手をどうするか。メトロポリスも思い付かずにいた。時間稼ぎをするならこのまま第2艦隊の射線上を行ったり来たりしながら妨害するか、または第2艦隊に小部隊で突っ込むかしかない。

だが、第2艦隊の大攻勢は至近距離で耐えられるほど甘くはない。さて、どうするかと悩んでいれば次期にショックカノンの雨が強制無料デリバリーされる。

「らしくないね。悩むなんて」

呑気におやつを食べ始めるムツ。まるで慌てている様子もない。これでも第5艦隊主席参謀艦なのに。

「私だって、いつも悩んでるわよ。特にどこぞの誰かさんのことでね」

メトロポリスはムツと自分のあまりの温度差に火傷しそうになっていた。

半ば諦めムードの彼女に、ムツは意外な言葉をかけた。

「そのどこぞの誰かさんはどうしろって言ってたっけ?」

その瞬間、メトロポリスはようやく気づいた。ムツの食べこぼしのおやつなどいつもと違って全く気にもならなかった。

(好きにしろ。俺の花道を作るのがお前の役目だからな。お前の作った花道ならどんな道だって構わねぇさ)

「……フフッ、本当にらしくないわね私ったら。ありがとう、ムツ」

「吹っ切れたようだね。じゃぁ、ご指示を仰ごうかな、艦隊次席旗艦殿?」

食べ終わったおやつの包みをポケットに雑に突っ込むと、メガネを直しながらムツは改めて敵を睨む。

「そのメガネ、そろそろ買い換えたら?」

メトロポリスも冗談半分で返す。

「これ、結構愛着湧いてんだよ?てか、指示してよ艦隊次席旗艦殿」

少しうざ絡みになったが、ようやく本調子を取り戻したメトロポリスは力強く発令する。

彼女のように。

「目標、前方の敵第2艦隊。全艦、空間紡錘陣形展開用意」

一呼吸置き、覚悟を決める。

「第5艦隊、全艦吶喊せよ!!」

第5艦隊全艦に再び轟く鬨の声。その波動は、真空の宇宙を震えさせ、第2艦隊にもその声は低く、まるで巨大な生物の唸り声のように響いた。

 

 

「まだまだ来るぞ、衝撃に備えろ!」

「クソっ、今度はこっちか」

「艦隊、陣形を崩すな!」

「第28戦隊全滅」

「右翼展開部隊をもっと回せ。これじゃいくらあっても足りない!」

「奴ら、ホンモノのバケモンだ!」

「第95、96、97、103戦隊壊滅」

「第31駆逐艦戦隊、応答無し」

第2艦隊左翼は阿鼻叫喚の嵐だった。本来なら突撃封じのはずの艦隊陣形を物ともせず、着実に間合いを積めてくる第5艦隊。スパイクを一つ一つ徹底的に潰し、得意の統制のとれた狂気を武器に圧倒的な戦力で左翼を殲滅させていた。

一方、無事な右翼でも左翼大混乱の様相ははっきりと伝わっていた。

「何足る様なの、右翼(コッチ)に来てたら袋叩きにしていたのに!」

右翼艦隊旗艦ウォースパイトは歯痒い思いをしていた。

第5艦隊は指揮艦のクセもあって右翼を先に攻撃するとされていての布陣であったのに、である。

「ウォースパイト様、左翼艦隊に援軍を送るべきでは」

部下からの進言に、賛同するよりほか無かった。

「仕方ないわ、この際総力戦よ。中央の艦も何隻か左翼に回して!」

「ハッ!」

一方の左翼艦隊司令部は。

「ダメです、最先端の艦隊はほぼ全滅。次々と"薔薇の刺"が破壊されてます!」

薔薇の刺、ムツがスパイクと呼んだそれの正式名称だった。美しい薔薇の花は見るものを魅了し、多くの人を呼び集めるが、花には刺があり、愛でようとした人を傷付ける。

第5艦隊の十八番を使えなくする、まさにこの陣形にうってつけの名前であったが、今は誰もそれを気にする余裕はなかった。

「ええぃ、これなら第5艦隊も吶喊しては来まいと言ったのは誰だ!まるで嘘じゃないか!」

司令艦は露骨に慌てていた。既に左翼の半分は戦闘不能となり、司令部の混乱もあって組織的抵抗能力を失いつつあった。

「右翼ウォースパイト艦隊から援軍です!」

「いまさら遅いわ!」

時既に遅く、左翼の戦闘能力はほぼ喪失していた。

「艦隊旗艦、このままでは!」

第2艦隊司令部でも同様に混乱が広がっていた。

しかし、アルデバランだけは落ち着き払い、静かに戦況を見つめていた。

後にある艦娘は、この時のアルデバランはまるで美術館で有名絵画を鑑賞しているかのような上品さと、そして余裕を持っていたと言う。

しかし、かといって彼女もやられるばかりでは無かった。

「艦隊行動イ-08γ。左翼指揮系統を放棄し、艦隊を再編。戦闘パターンはコードH4」

アルデバランの命令に、混乱しかけていた司令部は直ちに落ち着きを取り戻し、艦隊は1/3を捨てて第5艦隊と距離をとる。

第5艦隊は左翼の残敵掃討に移行しており、中央と右翼はほぼ無傷だった。

「メトロポリス!」

ムツの叫びに第2艦隊本隊を見ると、既に戦闘体形を整えつつあった。

しかし、ただ陣形を再編するだけでなく、沈黙していた中央と右翼も攻撃を開始。まだ無事だった多数の艦から、雨あられのごとくショックカノンが降り注いだ。

「しまった!全艦、波動防壁を……」

そう思った次の瞬間、間に合わなかった。

遊撃中だった第5艦隊先鋒は蜂の巣となり、紡錘陣形の先端はひしゃげた。

 

 

まだ統制の取れていた第2艦隊中央と右翼は悠々と、その陣形再編を終わらせた。

「敵艦隊の先鋒を撃破。誤射により、多少旧左翼艦隊にも撃破判定が出たもようです」

「それくらい構わん。それよりも次の行動を開始しろ」

「ハッ!」

第2艦隊はさらに小さく円を作り、欠けたドーナッツのような陣形を形成し始めた。ようはこの内側に敵を封じ込め、そのまま円を縮小させながら殲滅しようという魂胆に見えた。

「……と、僕は思うね」

ダメコン妖精がよたよたと宙を漂うなか、常備しているドリンクを飲みながら、またしても呑気に戦況を分析していた。

「ムツ……貴女って、本当にわからないわ」

今日だけで2度目のダメコン妖精を発動させながらメトロポリスは飽きれて問うた。

「それよりも、どうするのさ艦隊次席旗艦殿。こっちはさっきの攻勢で半分が戦闘不能。残りはあと駆逐艦や巡洋艦だけ。先鋒に戦艦を固めたのは失策だったかもね」

「そうね……そう思うわ」

ムツはいつも正しいが、今回は特にそうだった。残った戦艦は2人を除いて4人。あとは数十隻の巡洋艦に駆逐艦、空母はもうすでに全滅しているので、まさしく窮鼠といった所だった。

「窮鼠猫を噛むとは言いますけど、これはさすがに無理があるんじゃ……」

さすがの突撃隊長オオナミも、弱音を吐くより他無かった。

「艦隊旗艦たち、間に合わなかったのかな……」

艦隊各艦に不穏な空気が漂い始める。

しかし、それでも変わらないのはやはり彼女だった。

「まぁ、アイツのことだし、どっか道に迷ってんでしょうね。だとしても私たちはもう少し時間稼ぎするだけだけどね」

メトロポリスの一言に、艦隊各艦は笑みを溢した。

「確かに、あの人のことですし」

「メトロポリスさんがいなきゃ、1人でコンビニにも行けませんもんね」

「それは言い過ぎじゃね?」

「あと、ムツさんがいなければ九九もまともに出来ない」

「九九くらい出きるでしょ流石に」

「いや、どうだろう?」

艦隊各艦の賑やかなディスりトークに思わず笑みが零れる。

「あとで怒られても僕は知らないよ~」

ムツは卑しく氷まで食べ尽くすと、またしてもポケットに雑にゴミを突っ込んだ。

「てことで、艦隊次席旗艦殿。もうちょっと頑張ろっか」

ムツの伸ばした手を、メトロポリスはしっかりと握る。

「そうね。あのバカのためにも、もう少し頑張りましょうか」

そしてここに、第5艦隊は最期の吶喊を敢行した。

 

 

「第5艦隊、陣形を再編し突撃してきます」

「万策尽きて自殺を図るか。馬鹿な奴らだ」

「結果的に我が艦隊が優勢のまま、戦況は推移した。実戦的な演習とは言いがたいなあ」

第2艦隊各艦にも余裕の表情が窺えた。

敵はすでにほぼ全滅し、今やナケナシの艦隊が網の中にわざわざ飛び込んできている。

第2艦隊もかなりの損害を被ったものの、今だ旗艦は健在。組織的抵抗能力も十二分に維持し、圧倒的優勢のまま、戦いは最終局面を迎えていた。

旗艦アルデバラン含め、誰もが第2艦隊の勝利を疑わなかった。誰の目に見ても第5艦隊が必敗するであろうことは間違いなかった。

しかし、アルデバランには何か引っ掛かったものがあった。

何か大事なことを見落としている気がする。

とても大事な何かが。

「……我々は確実に勝利に近付いている。それなのに何故だ、胸騒ぎがする」

必死に心当たりを漁ったが、それは見当たらない。

どうしても心の何処かに蟠りがあって取れない。

その奥にあるものが見たいのに、だ。

「艦隊旗艦、全艦布陣完了しました」

参謀艦からの報告さえも、どこか上の空だった。

「あ、あぁわかった。……攻撃始め」

「攻撃始め!」

直後、突入する第5艦隊に全方位から容赦なくショックカノンの雨が降り注ぐ。

雨は、薄く今にも千切れそうな艦隊を無惨に砕き、次々と墜としていった。

だが、彼女の胸騒ぎは消えない。むしろ大きくなっていき、彼女の心を抉っていく。

かつてないほど動悸がする。心臓の音が、直接鼓膜を刺激する。今まで実戦でもほとんどかいたことが無かった冷や汗が頬を伝う。

「艦隊旗艦、どうかなさいましたか?」

「い、いや。なんでもない」

果たして本当にそうだろうか。

だが、何気なくふと覗いた自身の空間コンソールで、ようやく胸騒ぎの原因を突き止める。

そうか……なるほど。そういうことか。

「全艦、奴らは囮だ。本隊は別の場所に……」

声を荒げ、柄にもなく焦ったアルデバランの背中が突如、閃光に包まれた。

彼女は、被弾した。

 

 

アルデバランが見た空間コンソール。そこには配下の第2艦隊と、第5艦隊の布陣。そして、周辺宙域の状態等がリアルタイムで表示されていた。

そこには当然、IFF(敵味方識別装置)による鑑定結果も加味されており、個艦識別もある程度は可能だった。

それによると、第5艦隊旗艦アンタレスは艦隊の後方に配置され、目立った行動を取っていなかった。

アルデバランは警戒を怠らず、常に精神を集中させ、戦場を逐一観察し、確実な情報収集と指示をしていた。

だが、彼女にも想定外はある。

例えば、自身の戦術を模倣された時だ。

あらゆる状況を想定する彼女は、当然敵も自身と同じ作戦を取り得ることは考えていた。

しかし、目の前の敵が見知った相手となればそのクセや戦術も自ずと分かる。

そうなれば戦術の模倣やその意図を読み取ることはほとんど無いと、最初にその選択肢を排除してしまう。

だが、それこそが彼女の最大の失敗であり、アンタレスにとっては最大の好機だった。

「敵艦隊旗艦に初弾命中、初弾命中です!」

第5艦隊強襲分隊各艦に歓声が上がる。

彼女らは艦隊指揮をメトロポリスに任せ、小惑星帯を大回りし、第2艦隊の背後に接近したのだ。

入り組み、航路の予測すら難しい危険な航路で熟練の艦娘でも避けるのが鉄則で、あえてここを通るのはある意味自殺願望と同じだった。

太陽系のサルガッソーとも言われる危険航路を、アンタレス率いる少数艦隊はほぼ全速で走り抜けた。

それも1隻の落伍艦も出さずに。

確かな艦隊技量と、度胸、そして向こう見ずで死に急ぎな馬鹿野郎共にしか出来ない芸当だった。

「後半ただの悪口じゃね?」

「ほっとけ」

かくして、第2艦隊の背後をとったアンタレス分隊。

突如として被弾した旗艦に艦隊には動揺が広がった。

「被弾!?」

サスケハナは目の前で起こった状況を理解できず、半ば放心状態にあった。

右翼ウォースパイト艦隊でも、同様に混乱が広がっていた。

「アルデバラン被弾、繰り返します、アルデバラン被弾!」

「何故よ、目の前の第5艦隊は瀕死なのに!」

ウォースパイトは激しく動揺し、その声は困惑していた。

「ど、どうやら小惑星帯を突っ切ってきた少数艦隊のようです。その中に第5艦隊旗艦アンタレスも確認されました」

あわてて、ウォースパイトは空間コンソールを見ると、だが確かに包囲されている第5艦隊の中にアンタレスの反応があった。

「なによ、これ。アンタレスが2隻なんてそんな……あぁ、なるほど……戦術を模倣されたのね」

第2艦隊の撹乱作戦を盗用されたことを瞬時に理解し、同時に納得する。

アンタレスの柔軟で大胆な作戦には感嘆するよりほかなかった。

しかし、今は艦隊の危機。感動してもいられなかった。

「半分は私と共に艦隊旗艦の援護、もう半分は残りの敵を足止めなさい!」

「どうなさるのですか、ウォースパイト様!」

彼女は戦術儀仗剣を収めると、すぐさま別の剣を抜いた。

「まさか、フォトンソードを?」

あくまで士官用の指揮剣である戦術儀仗剣ではなく、正式な戦術近接武器、フォトンソード。超硬化スチールに高電圧を流すことで、理論上は全ての物体を破断する現状最強クラスの近接武器の1つだった。

フォトンソードに火が入ると、刀身は紅く滾り、異様な神秘さとも言える光を解き放つ。

これを抜くことは即ち、彼女が本気を出すと言うこと。

「私は艦隊旗艦を助太刀するわ。貴女たちは彼女らが邪魔をしないよう、ここに釘付けにしてなさい。良くって?」

その威容は見るものを畏怖させる正に王者と言うべきものだった。

「は……承知しました、閣下」

ウォースパイトは踵を返し、半数の部下を従えて艦隊中央へ向かった。

「艦隊旗艦……どうかご無事で」

 

 

その時、アルデバランは右舷に受けた損傷のダメージコントロールと最低限の発令をしていた所だった。

「まさか、小惑星帯を回ってきたとは。恐れ入った」

修理妖精が艤装を駆け回るのを横目に、アルデバランは体制を建て直していた。

中央の混乱はある程度治まったものの、後ろのアンタレス分隊と、正面のメトロポリス艦隊に挟まれ、圧倒的優位のはずが、いつの間にか挟み撃ちになってしまっていた。

後方のアンタレス艦隊は相も変わらず、乱射を続けている。

ここまで節約していたであろう、弾薬を撃ちまくる。

その様は滑稽で、少々愚連隊じみていた。

そこで、ふと気づいた。自身に向かってくる1隻の艦娘に。

間違いない。ヤツだ。

アルデバランは今まで感じたことのない闘志を感じた。

演習の序盤、あの時まさに滾ったあの感覚。

思わず笑みが零れる。まさかここまで正々堂々と果たし合えるとは思いもよらなかった。

「すまえねぇな、アルデバラン。本当は正々堂々戦いたかったが、見ての通り俺は空母だ。アンタにはハンデをつけてもらうが、構わねぇよな?」

ニヤリと、その顔に携えた獲物を突き刺す鋭い視線を隠すでもなく、まるで試合に興じるスポーツ選手のような余裕と猟奇に満ちた目線だった。

「艦隊旗艦……」

幕僚陣は一様に困惑し、アンタレスのその闘志の元に戦意を喪失しかけていた。

「諸君、手出しは無用だ」

アルデバランは今までにないほど、この瞬間に興奮していた。

今までずっと背中を見てきたライバルに、一泡吹かせられる。

アルデバランもまた、この状況を楽しんでいた。

残っていた2基の主砲をアンタレスに向けたその瞬間、アンタレスが跳躍した。重力場を一時的に生成し、そこから一気に脚力で間合いを積める。宇宙空間での近接戦闘の基本だ。

まっしぐらに跳んでくるアンタレスに、アルデバランは主砲の斉射をかける。

しかし、波動防壁で弾かれ、霧散する。

間髪を入れずに重力子スプレッドを至近距離で爆破させるアルデバラン。

またしても重力場跳躍で躱すアンタレス。ネコのような俊敏な動きと、まるで慣れているような余裕を見せ付ける。何を隠そう、彼女はこの重力場跳躍の考案者で、近接戦闘の基本戦術概念も彼女が作ったものだった。

戦略や座学ならまだしも、近接戦闘でアルデバランが勝てる道理は無かった。

だが、アルデバランにも秘策があった。

「そうして飛び回ってるだけでは私は倒せんぞ?」

アルデバランはわざと余裕そうな所を見せ、アンタレスを誘う。

「へっ、その手にゃ乗らんぜ。俺を近接で倒そうなんざ100年早いっての」

「そう来るだろうと思った……よ!」

無事だったすべての実体弾兵装が火を吹く。

アルデバランは実体弾攻撃により、アンタレスに隙を作り、距離を取ってビーム兵装で片を付ける算段だった。

結果的に、この作戦はほぼ成功した。

「な……テメ、この……あれだ、狡いぞ!」

飛行甲板を盾にする彼女独特(というより彼女だけ)のスタイルと持ち前の頑丈さをフルに使って案の定全ての攻撃を耐えた。

だが、次の瞬間。アルデバランの40.6cm3連装陽電子砲が、アンタレスを捉える。アルデバランは勝利を確信し、笑みを浮かべる。

「ナ……!」

アンタレスは砲口と目が合い、驚愕する。

「残念だったな、アンタレス。私の勝ち……」

しかし、アルデバランの主砲は、アンタレスには掠りもせず、明後日の方向へ消えていった。

そして、アルデバランの撃沈判定結果と、第2艦隊の敗北という結果がもたらされたのはその直後だった。

 

 

「……ナガユキィ!よくやった、お前のおかげだ!」

護衛艦ナガユキは割れた眼鏡など知らぬと言わんばかりに髪の毛をぐしゃぐしゃとアンタレスに掻き回されていた。

「あ、痛い。あの、あ、痛いです……」

「おぉ、すまんすまん!」

しかし、今度はよくやったと背中をバンバン叩き始める。全く迷惑な上艦だが、そこが愛すべき所でもあった。

「あ、あの、何で私なんですか?」

ナガユキの質問に、アンタレスは首をかしげた。

「ん、なにがだ?」

「あ、ですから、何で私にこんな重要な役を任せたのかと……」

ナガユキの言葉に一瞬、言葉を詰まらせるアンタレス。

しばし、虚空を見つめ、考え込んだ末に簡素に結論を述べた。

「わからん!敢えて言うなら勘だな!」

全くわからない上艦だ。ナガユキは困惑しながらも、誉められていることを少し嬉しくも思っていた。

するとそこへ、少しばかり煤に汚れた艤装を抱えたアルデバランが近付いてきた。

「あ、アルデバランさん!」

ナガユキの呼び掛けに、アンタレスもようやく姉が労いに来たことに気づいた。

「相変わらず無茶をするな。今回はまんまとやられた……完敗だよ」

潔く敗けを認め、清々しい笑顔でアルデバランはアンタレスに握手を求めた。

アルデバランが伸ばす手をアンタレスは力強く握り返す。

「アンタこそ天晴れだったぜ。ウチの艦隊をここまで痛め付けたのはアンタが初めてだからな」

アンタレスもまた、満足げな笑顔を浮かべていた。

「ハハ、確かにそうだろうな。お前の艦隊の動きは予測不能だからな」

お互いに軽口を叩き合う様は、2人が互いに数多の戦場を駆け抜けてきた歴戦の戦士であることを証明し、それを見守っていた者も、それを心から理解していた。

親友同士の決して侵犯を許さないその空気感が、ただただ美しく、それに見惚れていたようだった。

「そういえば、何故私のトリックを見破ったのだ?」

アルデバランは演習の途中からずっと抱いていた疑問を彼女にぶつけた。

「トリック……あぁ、あのビーコンか。そんなの簡単なことさ、アンタなら中央で堂々と待ち構えてるだろうし、そうに違いないと思ったからな。敢えて言うなら……勘だな」

何故か、得意気な顔で言うアンタレスに、アルデバランはまたしても笑みが溢れた。

全く不思議な奴だ。口を開けば理解が追い付かない独自の世界観を見せるくせに、筋は通ってるので納得してしまう。

「……お前は相変わらずわからんな。だが、そこがお前の一番の良いところで、そして悪いところでもある」

アルデバランとしては最大限の褒め方をしたつもりだったが、どうやらアンタレスにはイマイチ通じなかったらしく、怪訝そうな顔で首をかしげるばかりだった。

「フフッ、少し難しかったか?私としては最大限に褒めたつもりなのだがな」

「アンタはいちいち意味深に言いすぎだ。もうちっとわかりやすくしてくれよ」

アルデバランは笑って誤魔化すと、改めて彼女と握手を求めた。

「重ね重ね申し訳ない気もするが……改めて言おう。おめでとう、アンタレス」

そこにあるのは、敗者のそれではなく、相手への敬意を最大限に評し、その健闘を称えんとする一流の武人の顔だった。

さしものアンタレスも、それがわからないはずが無かった。

さっきよりも強い力で握り返す。強く、強く、ただ清く相手を想いながら。

「次またこーゆー機会があったら、その時も俺が勝つぞ」

野性味溢れる笑顔と、ちらりと覗く彼女の八重歯が光る。

とことん高みを目指して行く、まさしく勇士のそれは、彼女の心に深く刻まれた。

「それは楽しみだ。だが、次はどうなるかはわからんぞ?」

それぞれが交わす笑顔は未来への誓いだった。

しかし、2人はお互いの未来と、来る再戦の日をまだ知らなかった。

「アンタレス!」

「アルデバラン様!」

そこへ、それぞれの腹心がようやく戻ってきた。

2人は一目散に彼女らの元へと駆け寄る。

「やったじゃない、アンタレス!私は貴女のこと信じてたわよ、絶対やってくれるって」

メトロポリスは少々大袈裟なアクションを取りながら、その勢いのままアンタレスに抱擁した。

「あでで……あのな、もうちょっと優しく抱けよ。いつも言ってるじゃねぇか」

しかし、満更でもなさそうなアンタレス。2人の距離感は何処かはかりづらい雰囲気があった。

そこへムツがようやく追い付く。

「良く言うよ。一瞬諦めかけたくせに」

息切れしながらまたしてもオヤツのチョコ菓子を口に放り込みながら、もはや定番となった惚気に嫌々しながら冷酷なツッコミを下した。

「ナニ、本当か?」

アンタレスに睨まれ、即座に距離を取ると、今度は大金星を上げたナガユキを誉めまくり始めた。

「誤魔化しに入ったね」

「後でちゃんと話を聞くからな、ムツ」

「なんで僕なの??」

漫才のようなやり取りを尻目に、ウォースパイトは猛省していた。

「アルデバラン様……間に合えずに申し訳ございません。このウォースパイト、一生の不覚であります」

もはや、前転してしまいそうな程に頭を下げる彼女とその部下らに、アルデバランは少々恥ずかしさを感じていた。

「そこまでしなくても良い。貴艦らの戦い振りは十分に勝算に値するものだ。だから、自分を責めることは無いさ」

「私めには勿体無いお言葉。そのお言葉を胸に、2度とこのような過ちは犯しませぬゆえ」

ウォースパイトは義理堅く、忠誠心の強い勇敢な騎士の家の出身なのもあり、その実力はピカイチだったが、あまりに真面目すぎるのが玉に瑕だった。

「ふふ、貴艦は変わらんな」

アルデバランは、いつになく清々としていた。

この先どうなるかわからない不安に、彼女でさえも押し潰されそうになっていた。

だが、それさえも忘れて目の前のライバルに必死に食らい付く。それの楽しさと、爽快感は暫く彼女は体感したことがなかった。

気分転換というと少し違うかもしれないが、少なくとも彼女にとってはそれに近い、有意義な時間だった。

「……たまにはこういうのもアリだな」

「は……今、なんと?」

キザったらしい笑みを浮かべると、アルデバランは高々に宣言した。

 

「全艦に告ぐ。現時刻を持って、演習の全過程を終了し、『アステロイドベルト沖艦隊対抗演習"エミリーⅣ"』の閉幕を宣言する。全艦、状況終了!!」

『『ハッ!』』

胸の前に腕を水平に翳す新たなる敬礼。宇宙を紅く染め上げんばかりの熱意の声は、演習開始直前の鬼気迫るモノではなく、肩の荷が降りたようなどこか安心感を感じられる柔らかな熱意だった。

全艦には、心地よい疲労の顔が浮かべられていた。

「ったく、最後の最後で〆やがやって。相変わらずの目立ちたがりだな」

アンタレスの嫌味に、彼女は涼しい顔でこう返した。

「なぁに、私の方が先任だからな。いくら同期でもここは引けんな」

「良く言うぜ、たった1週間先任なだけでよ」

「それでも先任には変わりないさ。規則だぞ?」

「お前のそーゆー所、嫌いじゃないぜ」

アンタレスはアルデバランの肩を叩くと、踵を返して部下に号令を飛ばす。

「演習はこれで幕引きだ、皆ご苦労だったな。各分艦隊旗艦に従って撤退準備だ」

演習開始直前よりも一層引き締まった面子の第5艦隊各艦が帰還準備を始める横で、アルデバランもまた、撤退の準備を進めていた。

「アルデバラン様、撤退準備完了しました。いつでも出帆できます」

「うむ、わかった。全艦順次出帆せよ。目的地は月面泊地」

第2艦隊全艦のエンジンが唸りを上げ、漆黒の宇宙にオレンジ色の光を瞬かせた。

列を成す艦娘たちは、まるで夜空に輝く銀河のように、ゆったりとその艦列を伸ばしていた。

「オイ、アルデバラン」

アンタレスのぶっきらぼうな呼び声に、振り向くと。

「今回は楽しかったぜ。また一緒に()ろうぜ」

サムズアップを堂々と掲げながら、悪戯っ子のような屈託のない笑顔を見せていた。

アルデバランは、そういう彼女の顔が、好きだった。

「あぁ、またいつか……な」

アルデバランは配下を従え、漆黒の宇宙に大きな川を形作った。川はいつしか小さな支流となり、大宇宙の中に消えていった。

「……さて、俺たちも帰るか。メトロポリス、ムツ、準備はいいな」

「もちろんよ、艦隊旗……アンタレス」

「ルートはもう策定済みだよ。けど、どうせならちょっと遠回りしようか」

第5艦隊首脳メンバーの顔を順番に見やる。彼女らが勝ち取った勝利は、彼女らに確かな自信と、確信をもたらしていた。

それは確固たるアイデンティティー、それぞれが夫々のやるべきことを理解し、そして実行する。

そのための行動は躊躇してはいけない。

故に、彼女らは止まらない。それこそが地球連邦防衛軍宇宙軍第5航宙艦隊の、唯一のルールだ。

それが皆に共有された、記念すべき日にアンタレスは柄にもなく感極まりかけていた。

涙を押しこらえながら、堂々と、発令した。

「よし、折角だし別の厳しいルートを通って第2艦隊(ヤツら)よりも早く月面泊地に着いてやろう。ムツ、ナビゲート頼んだぜ」

「任せて」

ムツはもそもそとふ菓子を頬張りながら答えた。

「メトロポリス、サポートは任せた」

「合点承知。まかせなさい、アンタレス」

そして最後に、自身の背中に従う愛すべき部下たちへ告げる。

「お前ら、もう少し付き合ってくれ。あいつらの鼻をもう一回明かしてやろうぜ」

全艦の意思も決まった。

彼女はまさしく、一皮剥けて新たなる航海へと旅立とうとしていた。

明日からの俺は、今日までの俺とは違う。

その誓いと、確信を胸に、彼女は駆ける。

「全艦、出帆用意!目標、月面泊地!第2艦隊よりも早く到着するぞ!」

静かな海に、エンジンの独特な鳴き声が響く。

彼女らの新たなる航海への旅立ちは、誰からも祝福されなかったが、彼女らはそんなことは知ったことでは無かった。

ただ、自分を生かして生きろ。その思いと共に彼女らは、広く美しい漆黒の海へ往く。

「全艦、最大戦速!行くぞ、付いてこい!!」

『『おぉ!!』』

 

漆黒の海に、少女たちの鬨の声が響く。張り裂けんばかりの声量で。

 

少女たちの航海の行く末は、まだだれも知らなかった。




……とゆー感じでした。
如何でしたでしょうか?
こーゆーちゃんとした戦闘描写は初めてなので、至らない所もあったと思いますが、そこは大目に見ていただけると幸いです。

今後の予定ですが、しばらくは戦闘シーンはほぼ無いと思います。
当初の構想通り、暗めのヤマト擬人化百合を書いていくつもりなので、また気長にお待ちください。

では、また。

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