ゲーム「ソードアート・オンライン フェイタルバレット」のキリトイベントのベースとした夢小説です。

基本的にゲームをプレイしていなくてもGGO編を知っていればある程度読むことができる作りにしたつもりですが、一部UFGなどゲームオリジナルの名称が出てくることがあります。(UFGに関しては銃型の立体起動装置的なものと思ってください)

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第1話

「リロード!」

「任せろ!」

 

 私の弾切れの隙をカバーするために大サソリの群れにキリトさんが飛びこむ。すれ違いざまに私へ<ヘイト>を向けていた2体に切り込みそれを奪っていくプレイはさすがMMO熟練者だと思った。

 新しい弾倉をアサルトライフルに差し込み素早くボルトリリースを行う。

 

「キリトさん!」

 

 声を聴くなり返事をするでもなく素早く私のほうへ離脱する。

 すると大サソリは全て私にその正面を向け弱点を横一列にさらした。

 

ダンッダンッダンッ…

 

 小気味よくセミオートでゆっくりと大サソリの針を打ち抜く。

 エネミー相手には十分な威力を発揮しない実体弾、それも小口径高速弾だが50m程度の距離であれば傷を負った大サソリの弱点を打ち抜くには十分だった。

 ブロックエフェクトと共に大サソリは荒れ果てた町の空へと消える。

 

「ナイス、キンメ!」

「キリトさんこそ流石ですね、ヘイト管理が完璧です!」

 

 幼馴染のクレハの誘いで始めたGGO<ガンゲイル・オンライン>で出会ったキリトさんは、初日に参加したイベントで出会った。

 そのイベントダンジョン偶然にもたどり着いた場所で、そのイベントの目玉アイテム<Afasys>を半ばキリトさんから横取りするような形で手に入れてしまった。

 そんな出会いながらもキリトさんはその後も縁があって度々クエストに行っている。

 

「キリトさんって、やっぱりゲームのカジノとかはまっちゃうタイプなんですか?」

「あー…そんなつもりはなかったけど確かにそうかもな。どうも実際のお金じゃないと思うと、気が付けばずっとスロットまわしてたりするよ」

「わかります!ギャンブルで人生壊れる話をよく聞くから現実ではしないだけで、こう…ゲームだと自制心がなくなるというか…」

「そう!そうなんだよ!多分本質的にはこういうギャンブル的なものからは逃げられないんだろうなぁ…」

「RMTして現実のお金までつぎ込まないようにしてくださいよ、キリトさん」

「するか!」

 

 今日はキリトさんがカジノで大当てをしたときに発生した特殊クエストをやりに来ている。

 

「すごい価値のあった宝…ですか……どんなものなんですかね?」

「あぁ…『すごい価値のあった』ということだから今は価値のないものってことなんだろうけど…」

 

 この特殊クエストはいわばフレーバークエストの類のようで、どうやら価値のあるレアアイテムがドロップするといったものではなく、このGGOの世界を語る掘り下げのためのクエストのようだ。

 

「まぁ、貴重なレアアイテムとかは期待しないまでも別のイベント発生アイテムかもしれないし、こういうの気になっちゃうんだよね」

「いいですよね、攻略とは関係ない世界観を広げるクエストやアイテム。私も基本は攻略に集中しちゃうんですけど、こういう小ネタが好きで暇な時は集めたりしちゃいます」

「だよな!SA:OやALO…あっ、前にやってたVRMMOのことなんだけど、そっちじゃそういうのに浸る時間も中々取れなくてな……」

「前のMMOまでは攻略メインって言ってましたもんね」

 

 キリトさんは以前のMMOでは攻略最前線を走ってたトッププレイヤーだったらしい。

 なのでこのGGOで対エネミー戦でも、そのセオリーを熟知しているらしく、私とそう大差ないレベルにも関わらずその動きは正に熟練者のそれだった。

 

「そういえばキンメは対エネミー戦でも実態弾をつかうよな。<セカンダリー>も実態弾のハンドガンだし」

「そうですね、ビームとかレーザーより実態弾が好きというのはもちろんあるんですけど、実際にある銃が好きなんですよね」

「そりゃまた意外な」

「まあそうですよね…女性でFPSが好きってだけでも少ないですからね」

 

 旧来のモニター式FPSはいくつかやってきたが、VRFPSに手を付けなかったのは過去のSAO事件のこともあったが、何よりザ・シード以降もVRFPSといえば海外製のバタ臭い奴や泥臭いものしかなかった。

 GGOの存在は知っていたが、日本製のシューターゲームと高を括っていたところがあり、クレハに誘わなければこのままやることはなかったかもしれない。

 しかし、ふたを開けてみれば各銃器メーカーとライセンス契約を交わし、実名で精巧なモデルの銃が登場し、そのリアルさは光学サイトやグリップなどのパーツまでライセンスを取得しているレベル。

 欲を言えば服飾関係も実際に存在するメーカーのものまであれば完璧だけど…

 

「だからキンメの銃はそんなにカスタムされてるんだな」

「そうなんです!私個人はCQB向けのカービンタイプが好みなのですが、このゲームだと開けた戦闘が多いのでヘビーバレルを採用してて、それに合わせてハンドガードもあえて15インチの長いStrike Industries製のものを採用してリコイルを下げて狙撃向きにしつつ、対エネミー戦ではその低リコイルを生かしつつ腰だめで…」

「ははっ、まるでシノンみたいだな」

「はっ…!す、すみませんつい!!」

 

 気が付けばオタク早口でまくし立ててしまった。

 こんなのだから男っ気はなく、なまじ詳しくなりすぎてしまったためミリオタからも距離を置かれてしまう。

 

「何も謝ることないだろ」

「いやでも…さっきの私気持ち悪かったですよね…」

「シノンみたいって言った手前、気持ち悪いなんて言ったら殴られるよ」

「シノンさんは私みたいに無駄にべらべら喋る訳じゃないし…」

 

 シノンさんはキリトさんのMMO仲間で、キリトさんが使っているハンドガン「Five-seveN」を選んだその人だ。

 メイン武器のフォトンソード「カゲミツG4」を買った際に、その邪魔にならずかつ高威力なものとしてシノンさんが選んだらしい。

 実にいいチョイスだ…

 

「俺は銃に詳しくはないけど、そういうこだわりは理解できるよ。俺だってこの世界で剣をメインに使っているのはコンバートで剣への適正が高いだけじゃなくて、剣へのこだわりがあったからだし。この服だってエギルには『もっといい装備があるから買い換えろ』なんてよく言われるけど、この黒い衣装が気に入っているんだ」

「なんていうか、中学生みたいですね」

「なんだとミリオタ!」

 

 キリトさんとは全く趣味が合わない。だけどゲームを楽しむことに対しては真剣なキリトさんと話すのはとても居心地がよかった。

 あまりにも居心地がよかったからついさっきも話してしまった。

 ほかの趣味のことは話せても銃のことだけはあまり話さないようにしていた。

 クレハにだって再開してから一度も話したことはなかった。

 

 クレハも一人でGGOにはまるくらいにはこういうゲームは好きだ。だけど私とは、銃に対する熱の違いを感じてしまった。

 彼女の家族の事情で引っ越して別れてしまってから数年間私は一人でFPSにはまり、そして銃にはまっていった。

 クレハは私と昔と同じように接してくれるけど、今の私に同じように接してくれるだろうか…

本当は対エネミーよりも、「プレイヤーを撃ちたい」と思うような私に…

 

「ねぇ、キリトさん…」

 

 そんな心配を打ち明けようとするとキリトは「しっ…」と私の口をふさいだ。

 

「敵プレイヤーだ…」

 

 キリトさんの目線の先を見るとビルの間から他のプレイヤーが現れた。

 GGOではフィールドに出ればほかのプレイヤーは全て敵となる。

 プレイヤーを倒せばその所持品の一部がドロップするため、プレイヤー狩をメインにしている人たちもいる。

 

「すべて実弾銃…プレイヤー狩りですね……」

「あぁ…どうする?やり過ごすか…?」

 

 敵プレイヤーを前に私はうずうずしていた。

 撃ちたい。

 中に人の意思がある相手を撃ちたい。

 相手の意識を一瞬で刈り取る銃弾をその頭に撃ち込みたい…

 

「私は…戦いたいです」

 

 気が付けば口に出ていた…

 

「…そっか。そうだな!」

 

 キリトさんは笑っていた。

 あぁ、ダメだ……

 こんな可愛げもない私でも受け入れてくれる。

 ニヤける顔が止まらない…

 

「クエストはこのあたりなんだ。あいつらをさっさと倒してクエストクリアするぞ!」

 

 コクンとうなずき私はUFGを使ってビルの間の道路を見渡せるビルの屋上へワイヤーを打ち込み飛び乗った。

 プラスチック製のバイポッドを展開し、スコープの高さを合わせる。

 距離は240m、高さがあるのでゼロインは200m程度に設定した。

 低倍率でキリトさんが物陰から近づくのを確認すると、私はスコープの倍率を切り替え敵を狙う。

 スゥ…と息を吸い交差点の真ん中で立ち止まる敵の頭に照準を合わせる。

 

ダンッ

 

 銃口初速にしておよそ1秒間で1km先へ到達する高速弾は、240m先のターゲットの頭を砕くのに1秒というわずかな時間さえ必要なかった。

 ドサっと倒れる仲間に判断が追い付かず立ち尽くす敵プレイヤー。

 次は呑気に頭を狙う余裕はない。素早く次のターゲットの胸に合わせ2射目、3射目を放つ。

 

ダンッダンッ

 

 重い銃身で反動を抑えているが、この距離では限界がある。

 二射目ではアーマー越しの胸と腕を貫き負傷させるにとどまった。

 しかし十分である。

 

「す、スナイパー!3時方向ビル屋上!!!」

 

ブシューーーー

 

 撃たれたプレイヤーが叫ぶとスモークがたかれた。

 

「誰が炊いた!!!」

 

 スモークは通常自分と敵の間に巻き、斜線の視界をふさぐことが多い。

 足元に炊いてしまえば自分の視界を奪ってしまうからだ。

 そう、スモークグレネードを投げたのはキリトさんだ。

 

「うらあああああ!」

 

 煙が上がった瞬間キリトさんは接近し、私が倒し損ねたプレイヤーにハンドガンを打ち込む。

 サイトを使った正確な射撃ではないが、10mほどまで近づけば数発は当たる。

 その数発さえあれば、残りを削り切るには十分だった。

 

「ほかにもいるぞ!!」

 

 一人外れた場所にいた敵は、立ち込める煙の中倒れる仲間の方から接近する影に撃ち込むもその剣にはじかれる。

 

「どこだ!!!」

 

 敵と敵との丁度中間に投げ込まれたスモークは彼ら同士の視界を真っ先に奪った。

 

「ここだあああああ!!!」

 

 混沌とするビル群の戦場に木霊する断末魔の音源には4方に青白く光る刃が交差し、その空間の煙のみを払いのけた。

 キリトさんが編み出したスキルシステムを使わないソードスキル「ホリゾンタル・スクエア」だ。

 

(さすがキリトさん、かっこいいな…)

 

 敵三体を倒しスモークが濃くなったことを確認し、再びUFGで移動する。

 キリトさんが斬りこんだ大通りの十字路を右から大きく迂回し敵に接近しスモークの裏側へ回り込む。

 視界を奪われ散り散りになった敵は一人ひとりとスモークから出てくる。

 煙の中では一切の視界がないが、こちらからはそのシルエットが煙に浮かぶ。

 セレクターを切り替え、浅く構えトリガーに指を構える。

 この距離ではもうスコープは必要ない。スコープが視界を遮らないよう、銃を斜めに構えトリガーに指がかかるとバレットサークルが出現し予測線が赤く伸び、煙の中の影をとらえる。

 

(相変わらずこのバレットサークルにはなれないな…)

 

ダダダダダッ

 

 何発当たったかはわからない。

 ただ、倒れこんで頭だけ煙から出た敵の死体がブロックエフェクトと共に消えた。

 正確な人数も位置も把握できていない。そんな状況で人数差の有利すら失ってしまった敵を全滅させるまではそう時間はかからないだろう。

 既にいない屋上のスナイパーにおびえ建物の陰に隠れた敵は格好の標的だった。

 

「これで全部かな…?」

 

 ビルの陰にいた最後の一人を倒し、大通りへ戻りつつドロップしたアイテムを確認する。

 

「そっちは片付いたか?」

 

 キリトさんの方ももう一人を倒したようだ。

 

「これでクエストに戻れ─────」

「危ない、キンメ!!!」

 

 キリトさんがスプリントスキルを使いこっちへ飛んでくる。

 

「ぐっ…」

「キリトさん!?」

 

 気が付くとキリトさんに覆いかぶさられ、一瞬気が動転したが足元を見るとキリトさんの右足からダメージエフェクトが見え状況を理解した。

 

「ごめんなさい!私…!!」

 

 狙撃されそうになった私をかばい、キリトさんはスモークの中へ私を突き飛ばしたのだ。

 

「最近編み出された撃つギリギリまでトリガーに指をかけないで予測線を撃つ直前まで出さない方法だろう。俺は一瞬だけ見えたから反応できたけど」

「ごめんなさい…気が緩んでました。大丈夫ですかその足…?」

「すまない、ここから動けそうにない…もうすぐこのスモークも晴れる、君は一人でここから脱出するんだ…!」

 

 スモークグレネードの効果が薄れ、赤茶の切りは徐々に消え煙の中からも周囲のビルの影が見えるようになってきた。

 

「キリトさんを置いてなんていけないですよ!まだクエストもクリアしてないのに!」

「機動力を失った接近職なんて格好の的だ!この霧が晴れたらまずは君が撃たれ、次に俺が撃たれる!クエストはまたくればいい…2人分もアイテムを無駄に失う必要は……」

 

 キリトさんの武器はフォトンソードとハンドガン。敵が狙撃してきているとすれば動けない以上相手にする必要はない。

 煙の中とはいえ、居場所を把握している狙撃手と私では私一人を相手にするだけであれば敵のほうが有利だろう。

 

「私が先に敵を倒せば問題ないですよね?」

「は?」

 

 とっさに言葉が出ていた。

 たとえゲーム。

 けれど、ゲームだから死んでもやり直せばいい。

 そんな戦い方をしたくなかった。

 キリトさんにそんなあきらめをしてほしくなかった。

 

「キリトさん、予測線が見えていたんですよね。角度と方角はどのくらいだったか覚えてますか?」

「おいおい待てよキンメ─────たくっ、わかったよ」

 

 ニっと笑ったキリトさんはすぐにまじめな表情に戻った。

 

「角度は大体30度。方角はあっちの方だ」

 

 30度、あまり角度が付いていないので低い位置かすごく遠くにいるかだ。

 

「中央のドーム…」

 

 このエリアには都市部中央に巨大なドームがある。この場所からはおよそ500メートルといったところだ。

 

「なるほど…確かにそこからなら狙えそうだな。だけどキンメの銃で狙えるのか?」

「さっきも言ったでしょ。私の銃は遠距離仕様なんです。それより相手が撃つよりも先に銃弾を当てるのは無理です。こっちにまっすぐ撃ってくるってわかってればキリトさんなら切り落とせますよね?」

「ギリギリまで出ない予測線をみて銃弾を叩き斬れなんて、無茶いってくれるぜ…だけど、任せろ」

「私、キリトさんを信じるのでキリトさんも私を信じてください」

 

 私は半分嘘をついた。

 

 いくら、この銃が遠距離向けにカスタムしてあるといっても、有効射程距離はせいぜい400mが限界だ。

 HK416が使用する5.56mm弾は小口径高速弾。小さく軽い弾頭故に高速で射出されある程度の距離までであれば到達時間が短く狙撃にも適した優秀な汎用弾薬だが、500mともなれば弾速は落ちその軽い弾頭故に風の影響を大きく受け命中率は下がってしまう。

 現実にはアフガニスタン戦争以降、遠距離での戦闘が多くなったためにその問題を解決すべく弾頭を重くしたMk262弾なども開発されたが、このゲームでは細かいバリエーションは実装されていないので、その性能は概ね一般的なM855A1のそれだろう。

 

 ビル風も吹くこのエリアでは間違いなくその影響を大きく受けてしまう。

 それに、私のライフルのスコープの倍率は1-6倍の可変式ショートスコープ。6倍でも500mともなれば人影など米粒ほどの大きさだ。足に当てただけで瀕死のダメージを与えてきた敵の狙撃銃ならともかく、ヘッドショットを出さなければ一撃で倒せないこの銃ではかなり分が悪い。

 正直、敵の居場所が分かったところで五分五分どころかかなり分の悪い賭けだった。

 だけど、不思議と気分は高揚していた。

 

 決して怖くはないとか絶対に勝てるとかそう思っているわけではないけども。

 いま、この瞬間がとてもわくわくした。

 スモークグレネードの煙が徐々に晴れる。

 じっと見つめる先のドームの影がくっきりと映り、その頂上にスコープを合わせる。

 このエリアは西から東へ一定の風が流れるが、複雑なビル群の間を縫った風がその流れを複雑に乱す。

 後は運だけが頼りだ。

 

 クリアになった視界に僅かに見える人影を見つけ誤差を調整する。

 荒廃したビル群の静けさにビル風だけが響く。この後に訪れる銃声を控え声を潜めるように。

 

「秒速、900メートル」

「は?」

 

 赤い予測線がまっすぐ私の額へへのびる。

 

「この銃の……銃口初速」

 

ダンッ……

 

 マズルフラッシュが見えたと同時に私はトリガーを引いた。

 ほんの一瞬の時間差でキリトさんがフォトンソードを振る。

 私の目の前で重い弾丸が切り落とされ、キリトさんの行動が成功したことを知る。

 

「2射目は…来ない……?」

 

 スコープを覗くとドームの上でボックスエフェクトがうっすらと見えた。

 

「あたった、みたい……」

「おわっ大丈夫か、キンメ!?」

 

 緊張が解けてキリトさんに思わずもたれかかってしまう。

 というか、ずっとキリトさんに半ば抱きかかえられたまま狙撃をしていた。

 

「あっ……!ご、ごめんなさい!!!」

 

 急に羞恥が込み上げてきた。

 

「へっ!?あっ…!す、すまん!!」

 

 その場で正座する。

 

「い、いや~本当に当てるとはな。この前までとても初心者とは思えないな!」

「ほ、ほんとは当たるかは賭けでした。あんな距離、いくらこの銃でも射程外ですし」

「そうなのかよ!?」

「「ぷっ…」」

「「はっはっは……!」」

 

 気が付けばお互い笑っていた。

 

「キンメといると、ほんとトラブルに絶えないな」

「そんな助けてあげたのに人をトラブルメーカーみたいに!」

「わるかったって」

 

 むくれる私にキリトさんはからかうように笑う。

 

「助かったよ」

 

 握りこぶしを突き出し、優しく微笑むキリトさんと私はきっと同じ気持ちなのだと思った。

 たかがゲーム、されどゲーム。今この一瞬一瞬を本気で戦い得た勝利に言葉に表せない高揚感と達成感。

そのすべてがその一言から感じられた。

 

「ナイスファイト、キリト」

 

 私たちは拳をぶつけ合いダップを交わした。

 

「さて、この後はどうしたものか…この足じゃ満足に散策もできないし、一旦諦めて───」

「アダっ!!」

 

 立ち上がり歩き始めようとした瞬間何かに足を取られ転び情けない声をあげてしまった。

 

「だ、大丈夫か?ん……キミの足元にあるそれ……もしかして」

「わっ、わっ、ちょっと!?」

 

 人の足元を無神経にもあさり始める。

 私の足に絡んだ蔦を払いのけ土を払うと何か箱のようなものがアスファルトの下から現れた

 

「あっ…」

「旧文明のトレジャーボックスじゃないか!」

 

 通常のダンジョンに配置されている白くきれいなトレジャーボックスとは違い、スチームパンクに出てきそうな鈍く光る古めかしいそれは、明らかに特殊イベント用のトレジャーボックスだった。

 

「やっぱりキミ、リアルラック高いんじゃないか?連れてきた甲斐があったってもんだよ」

「それって私の運目当てで誘ったってことですか!?」

「ははっ、冗談だよ。さて肝心の中身は…っと。……ん?」

 

 トレジャーボックスを開けてみると中は空だった。

 

「ん、よく見るとずいぶんと古びたケースが落ちてるな…これが『すごい価値のあった宝』か?」

 

 パカっと蓋を開け中身を取り出す。

 

「コイン…ですか?」

「いや、これはポーカーのチップだ。かなり高額なものみたいだな」

 

 よく見ると汚れているがふちが二色の色が交互に並んでいる。

 

「『宇宙一のギャンブラーを讃え、これを捧げる。カジノ・ギガラスベガス』……」

 

 キリトさんはケースの蓋の裏に刻まれた文章を読み上げた。

 

「宇宙一……?」

「ふふっ、なるほどな」

 

 キリトさんは意味を理解したようで一人で笑っている。

 

「どういう意味なんですか?」

「このゲーム<ガンゲイル・オンライン>は高度に発達した人類文明が戦争によって滅びた後の世界なんだよ。その昔は宇宙進出も精力的に行っていた程にね。つまりは、まだ人類が宇宙で活躍していたころのお宝。宇宙にあるギガ・ラスベガスに行く手段はとうに失われた。だから、このチップは使えない。正に『すごい価値のあった宝』、だな」

 

 価値がないと言いつつも嬉しそうに語るキリトに思わずこっちの顔もにやける。

 

「なんだよ、ニヤニヤ笑って」

 

 長々と説明していたのが恥ずかしかったのかキリトさんは赤面している。

 

「なんでも…ううん。価値はなくてもいいアイテムだねって」

「うん…そうだな。こういう仕掛けをムダだっていう人もいるかもしれないけど、俺は好きだな」

 

 果てしない未来の大昔、そんな矛盾を感じるような時間のの先にある宇宙一のギャンブラーのチップ。

 かつて、栄えていた未来都市から飛び立つ宇宙船。そして戦争で滅びてしまい銃弾が飛び交う現在。

 遥か未来へ思いをはせればそこに詰まったロマンがその小さなチップには詰まっていた。

 

「本当はクレジットの山か何かが換金アイテムが大量に眠っているものだと思っていたから山分けするつもりだったけど、このチップは…」

「私の報酬はさっきの楽しい思い出で十分だよ」

 

 キザったらしいセリフににやけるとキリトも笑い返してくれる。

 

「ありがとう。そうだな。今、宇宙一のギャンブラーは俺だもんな。今度お礼に……ッ!!」

 

 キリトがチップをアイテムポーチにしまうと、近くから大量の足音が聞こえる。

 

「また、新手か…?」

「ここへまっすぐ来ているみたい…もしかしてさっきの仲間…?」

「そうか……さっきのやつらは巡回、ドームのやつは広範囲の見張り、本隊の戦闘に特化したチームが別にいたってわけか…」

 

 そうであれば最初に接敵したチームが軽装であり、あの短時間でドームから援護射撃が行われた理由も説明がつく。

 この一帯を縄張りにしているPvPスコードロンだろう。

 

「走れますか?」

「いや、まだ回復が終わらない……すまない、せっかく助けてもらったのに」

「謝らないで。どこかに隠れてやり過ごせれば…」

「といっても遮蔽物は多いがあの大人数の捜索から隠れ切る場所なんて……そうだ!さっきのトレジャーボックス!」

 

 『すごく価値のあった宝』が入っていた旧文明のトレジャーボックス。人2人くらいなら確かにギリギリ入りそう。

 

「急ぎましょう!」

 

 急いでトレジャーボックスへ戻り蓋を閉じたときに見つかりにくいように蔦をかけなおし隠れる。

 しばらくすると足音は真上まで迫り、足音たちが立ち止まり会話が聞こえる。

 

「この辺りか?斥候がやられたのは」

「ああ、やられたスナイパーの証言もここだ。光剣使いのキリトも見たって話だからこの周りで間違いない」

 

 やはりあのチームとスナイパーは仲間だったらしい。私たちを捜して辺りを捜索しているようだ。

 しかし……

 

「す、すまない…」

 

 隠れたトレジャーボックスだが、本当に二人入るのがギリギリだった。

 

「しゃべらないで…息がくすぐったい……」

 

 急いで入ったせいで体制に無理があった。

 キリトの胸に顔を押し付けるような形で抱きかかえられるようにすっぽりと収まる二人。

 

「あっ…」

「すまん、ちょい体制を──」

「声を出さないでって、ばれちゃうでしょ!」

 

 すまんと小さく漏らし上を向くキリト。

 聞こえるはずのないキリトの鼓動が、香るはずのないにおいが、すべてがこの狭い空間に充満しているようで動機が止まらない。

 吊り橋効果という心理現象が頭から離れなくなり、今まで考えないようにしていた事がぐるぐると巡る。

 考えても見れば二度も今日だけでキリトに抱かれている。

 意識し始めると華奢に見えた体格も、女性アバターが似合うその顔つきも、すべてが変わって見えた。

 現実ではないアバター越しではあるが、その触れている肉体ではない、その先のキリトが目に鼻に肌に脳にこびり付く。

 

 喋らないでといった手前話してなんて言えないが、暗闇と沈黙の中異性をこの距離に感じ続けることに危険信号が鳴りやまない。

 自分の鼓動とキリトの息遣いだけがはっきりと聞こえ、頭の中をひたすらかきむしる。

 最後にシャワーを浴びたのは何時間前だったか、汗臭くないか、要らないリアルの心配事がよぎる。

 

「キリト…私……!」

 

 我慢の限界に来たその時、グイっと体を引っ張られ言葉が遮られる。

 なるようになれと、目をぐっと瞑り覚悟を決めた。

 

「いった、ようだな…」

 

 ふわっと風が前髪を揺らし肌に当たる。

 

「どうした、目なんかつぶって。あぁ、ずっと暗闇だったからまぶしいのか?」

 

「────馬鹿っ……」

「へっ…?」

 

 キョトンとするキリト。

 まるで私だけが変に意識していた様で恥ずかしさがまた込み上げる。

 

「声出すなって言ったでしょ馬鹿キリト!」

「だぁーー!だから悪かったって!ちゃんと言われた後は静かにしてたろ!?」

「狭い箱に二人で押し込められたってアスナさんやシノンさんに後で言お」

「おい!すみません、それだけは勘弁してください。なんでもしますから」

 

 情けなく謝るキリトは黒の騎士でも光使いでもなく、私の好きなキリトだった。

 この思いは出さずにとっておこう。

 きっと彼を困らせるだけだ。

 それに彼はきっとまた別のVRゲームに行くだろう。

 私はきっとそこには行けない。

 

「じゃあ、その代わり今日の報酬もかねて私のクエストも今度手伝ってくださいね!」

「おう!任せろ!」

 

-fin-




あまりにも女の子扱いをしてくれないキリトくんにイライラしながら書いた小説ですが、思いのほか戦闘シーンに力が入ってしまい、肝心のイチャイチャ展開がやや雑気味になってしまいました。

銃は私個人がとても好きなものなので細かくねちねちと書いていますが、正直500mの射撃がどうとか6倍が米粒ほどかとか知りません。多分もっと小さいです。
あまり細かく突っ込まないでいただけるとありがたいです。

SAOメンバーはGGOにおいてあまり精力的に活動しているわけではありません。
SAOのゲームで唯一キリトじゃない主人公が与えられたフェイタルバレットというゲームは、キリトにとって通過点でしかない作品なのでしょう。
その中で築いた絆はきっと寂しく切なくも掛け替えのない出会いなんだろうな、と書きながら思い、最後の文章を修正したりなどしました。

若干クレハの扱いが雑という反省はしていますのでクレハが好きだった方、すみませんでした。

ちなみに、タイトルはパロディがしたいだけでした。
若干無理やり気味にあのセリフが入ったのはそのためです。

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