ACE WITCHES -Count of the Cranes- 作:Theine137
1944年6月11日午前11時38分
北緯50度17分 西経1度74分 イギリス海峡
微かに聞こえるプロペラの音。私は隻眼の女性の胸の中で目覚めた。私を抱き抱える女性はまっすぐとした父親のような温かい目で私を見る。
「気が付いたか?」
「坂本さん」
「よくやってくれたよ。おまえがいなかったら私もどうなっていたか」
「でも……私また最後に失敗しちゃったし……」
私はついさっきまでネウロイと呼ばれるものと戦っていて、その戦いで私はコアを見つけることはできたものの、肝心のトドメを刺すことは出来なかった。そういった結果から来る気持ちは素直に自分が勝ったと理解するのを妨げる。そんな私に様子を見越したのだろうか、坂本さん私の目を見て、
「何を言ってるんだ。初めてであそこまでやれたら上出来だ」と励ましの言葉を贈った。
「ほら、見てみろ」
そう言って、坂本さんが目線を向けた先には空母「赤城」があった。
そこには甲板から、救難ボートから、そして屋根がなくなった艦橋から乗員のみんながその両腕を、その帽子を必死に振って勝利を祝う雄たけびを私たちに向ける姿が見えた。私は驚いて、その様子をしばらくのキョトンと見つめたあと、誰かを守ることができたという事実から来る喜びと達成感をかみ締めていた。
その余韻を感じるのもつかの間、水平線の向こうに一筋の紫色の光が降りた。私を抱えている坂本さんの表情が強ばるのと同時に、その光から紫がかった黒色の雲がどんどんと出来上がっていくのが見える。雲ができるのは一瞬の出来事だったはずなのに、今度は何が起こるのかと思うと気が気でなくて、時間が数時間ぐらいに引き伸ばされたように感じられる。
不安でしょうがなくて、坂本さんの顔に視線を向けると、坂本さんは眼帯をあげてからネウロイが現れていないか、必死の形相で探していた。
「雲の隙間からコアを見つけた。だが……」
「どうしたんですか? 坂本さん」
「宮藤。先に戻っておけ。もう限界だろう」
「まだ行けます!」
「無理をするな。奴はこっちから離れていっているが何をしでかすか分からん」
「でも1人じゃあ」
「私は他の部隊と合流するから心配いらん」
「それでも……」
坂本さんが私を心配してくれるのはとても嬉しい。それでも私は坂本さんの役に立ちたい一心でジッと目を見る。意図を汲んでくれたのか、少し驚いた表情をした後に呆れたような喜んでいるようなそんな様子で微笑を浮かべた。
「わかった。だが私の後ろにしっかりと付いて来いよ」
「分かりました!」
そうして私たちは立ち上る奇妙な雲の柱へと向かう。ある程度近づいたときにその大きな柱から巨大なネウロイと二体の小さな何かが現れた。
「坂本さん! 出てきました!」
「あぁ、でかいな。やはり増援の到着を待ったほうが……」
「それもですけど! あっちも!」
そうして私は小さな何かが落ちているほうを指さすと、坂本さんは右目を使ってそれを確認した。そうすると、ひどく驚いた様子で私に小さくウィッチだと教えてくれた。
「それなら早く助けに行きましょう!」
「だが、罠かもしれん」
「他に何か見えたんですか?」
「コアらしきものは見えなかったが……話してみよう」
そう言うと、坂本さんはそのウィッチたちに無線で呼びかけをするが返事は無く、その高度をどんどんと下げていく。
「気を失っているんじゃあ……」
「おそらくそうだろうな……」
「早く助けに行かないと!」
「その通りだ。動けるか?」
そう尋ねる坂本さんをしっかりと捉えて頷くと、坂本さんは2人のもとへ最大速で向かい、私もその背中をどうにかして追いかけた。
奇妙なことにネウロイは攻撃を仕掛けてこない。ただ、先程の雲がどんどんとネウロイに吸い寄せられているような気がする。ネウロイが何かをしようとしていることに坂本さんも気が付いているのか、どこか焦っている様子だった。
そして、2人がはっきりと見える距離まで近づくと、2人の奇妙な様子に呆気に取られた。なぜなら、金髪の子と黒髪の子の2人が履いているストライカーユニットがとても奇妙な見た目をしていたからだ。私たちの履いているものは先が細くなる円錐形のものだが、この2人は円筒形のものを履いていたのである。備え付けられる翼も三角形で私たちのと全く違う。
「変なの」
「あぁ、この軍服も見慣れない」
そう話す服装は2人が羽織っているオリーブ色のジャケットのことを指していた。そこには肩に『白と青の二つのラインに六つの星』という見慣れない国旗と、黒髪の子のには『リボルバーを咥えた狼』、金髪の子のには『羽の生えたシルクハット』のストライカーユニットにあるエンブレムと同じようなもののワッペンが、右胸には『二対の稲妻』と『突撃する騎兵』のエンブレムのワッペンがつけられていた。
「ここにある国旗も部隊も聞いたことがない。一体何者なんだ」
「坂本さん! 早く助けましょう!」
「……あぁ。金髪のほうを頼む。とりあえず赤城まで運ぶぞ」
そう言った後、私たちは2人に詰め寄って、背中に背負って赤城の方へ向かう。かなりの重量で少しふらつくがどうにか飛ぶことはできる。
そうして2人を運んでいた時、ネウロイはあの雲を大体吸い上げ終えていた。柱からマーブル模様の球体を出し、ネウロイの巣がある方向へ一筋の光を放つ。そうするとその方向には先ほど雲がまた現れて、その中にネウロイは入っていく。
「行っちゃうみたいですね」
「あぁ、増援もまだこっちまで来れないからな。助かったが、脅威を逃してしまったのは確かだ」
坂本さんはネウロイが消えた雲を睨みそう言う。しばらくすると、雲は晴れてネウロイは姿形も見えなくなった。
「この2人はどうなるんですか?」
「ブリタニアにまで連れて行く。特にこのストライカーユニットのことでな」
ふらふらと安定しない飛び方でしばらく飛び続け、ようやく赤城に着くと2人は用意してあったタンカに乗せられて医務室の方へと消えていった。
1944年6月15日午後03時17分
第501統合戦闘航空団基地
私は正式にウィッチーズの一員となることが決まり、挨拶と案内を終えて部屋へと戻っていた。まだ家具も何もない殺風景な部屋には、窓の冊子の影とベッドしかなくどことなく寂しいく、扶桑が愛おしく思えてくる。
ベッドに座り天井を眺めながらそのどことなくホームシックな感情を感じていると、軽いノックの後に坂本さんが私を呼ぶ声が聞こえた。そのため、私はドアを開いて訓練は明日からではないかと怪訝そうに坂本さんの顔をジロジロ見る。
「あー……お前の治癒魔法を見込んで話があるんだが……」
「どういうことですか?」
「2人の治療の手伝いはできないか?」
その頼みに了承の返事を返し、坂本さんの後ろをついて行く。
「2人の容態なんだが……」
「悪いんですか?」
「そこまで外傷はひどくないんだが、奇妙な点があるんだ」
医務室に着き、ノックをした後ドアを開ける。そこには患者服に着替えた例の2人がいた。坂本さんはその1人の腕を掴み、腕の様子を見せる。そこには無数の赤い斑点が特に肘あたりにあった。
「医師たちによると内出血の後だろうと。ここに来るまでに鼻と耳からの出血の跡も見つかっている。2人はもしかしたらそういう病気にかかっているかもしれんということでな、お前の力を借りたいというわけだ」
私はわかりましたと一言返し、まずは手前の方にいた黒髪の子から治療を始めた。
彼女の腕の上で両手を重ね、指先にかけて力を込め、魔法を発動させる。眩い青色の光が出るのを確認したら、ゆっくりと両手を離していく。坂本さんがいる前だという緊張感の中で行ったが、どうにか今度は上手くいったらしく腕の痣は消えていた。
次の子のほうの治療に行こうとした時、ドアが叩かれてふと振り返る。そこには、この基地の司令官であるミーナさんがいた。
「あら、宮藤さんもいたのね」
「ちょっとこいつの手を借りようとね。宮藤は続けておいてくれ」
坂本さんはそう言って私の近くから離れ、部屋の入り口の方へ向かう。
「それでどうだった?」
「服装にあった“長距離戦略打撃群”に相当する部隊も"STRIDER"に相当する部隊も存在しないわ」
「そっちもか。装備のことなんだが、こっちの拳銃も同型は存在しない。オーダーメイドとはなかなかなもんだ」
そう言って、坂本さんは件の拳銃を出して、話を続ける。
「弾は9mmが12発。そしてこいつは一部が未知の物質でできている。そいつのせいなのか重量は1キロにも満たない」
「軽いとは思ったけれどそこまでとはね、一体何でできてるの?」
「あのユニットと同じく、全くの謎だ。」
「今研究されている素材と似たものはあるかしら?」
「軽い素材としちゃあベークライトがある。だが、この黒は塗ったっていうより元々こういう色だったってやつだろうから色が違う。似たような素材ってのはわかるんだがどんな分子からできてるかはさっぱりだ」
「どれも完璧なオーパーツね」
「ただ、そっちとは違ってリバースエンジニアリングから、内部機関の流用自体はできるだろうな」
「装備から傭兵ではなさそうだけど、やっぱり上層部しか知らない何かなのかしら」
「その可能性が高いだろうが、なにぶん起きてもらわないとな」
金髪の子の治療をする最中、会話を盗み聞きしていてわかったことは、この2人の裏に何か大きな何かがあるということだけ。治療に集中したいが、2人の正体のことが気になってなかなか集中できない。
坂本さんたちの議論が白熱する中、治療そっちのけで腕を組み、首を傾けて、目をぎゅっとつぶってあれこれ考えていた。それでも何も浮かばない。諦めて作業に集中しようと目を開けると、いつの間にか目を覚ましていた金髪の子と目があった。その子はキョロキョロと周りを見た後、一言だけ発した。
「……ここはどこだ?」
もう1人の主人公視点での話です。2人の視点は不定期に入れ替わりますが、トリガーが視点となることは現段階ではありません。今回の彼はカウントにとっての道標としての役割のみ果たしてもらう予定です。