ACE WITCHES -Count of the Cranes-   作:Theine137

3 / 9
MISSION 02 QUESTIONING

15:23 15.Jun.1944

501JFW Base : Medical room

 

 目が覚めて、初めて見た景色はあどけない少女の顔だった。目を合わせたまましばらくの間の沈黙が続いたあと、ゆっくりと周りを見渡す。この場所は医務室のようだが、分厚いブラウン管のモニターや板張りの床がどこか古臭く感じさせる。

 

 部屋の様子をもっと探ろうとした時、さっきの少女はふと我に帰ったようにして俺の腕を持つ。そしたら、その手が青く光り輝いてGによって破裂した毛細血管からの内出血の跡がみるみると消えていく。そのあまりに幻想的ながら非現実的な光景から、はっと彼女の顔を見ると、驚いたことにさっきまでなかった犬の耳らしきものが頭から生えていた。

 

 俺はあまりに突拍子もない出来事が続いたものだから、しばらくベッドの上に座って固まっていた。そんな俺に気づいたのか入り口にいた2人の将校らしき女性は少女を退出させ、代わりに小銃を持った男たちを部屋に入れる。

 

「…お目覚めのモーニングコールとしちゃ、なかなかなもんだな」

「えぇ、我がホテルはご満足していただけるよう最大限のサービスを提供するわ」

「モーニングが鉛玉とは大したもんだ」

「あら、もう昼よ。それにご注文とあれば、別のものでも用意するわよ? その分、チップは弾ませてもらうけど」

「どのくらいだ?」

「まずは所属ね。それと既に起きてるそっちのかたも」

 

 赤毛の将校がそういうと、寝たふりをしていたらしい黒髪の少女は体をおこしてきっと相手を睨む。その姿からはどことなく普通ではない雰囲気を出していた。

 

「起きた順から話してもらうわ」

「オーシア国防空軍だ」

「なるほど、あなたも?」

 

 そう赤毛が聞くと、黒髪はコクリと頷いた。

 

「そのような軍隊は存在しないはずだが。あくまでしらを切るつもりか?」

 隻眼の将校はそういい、こちらを睨みつける。

 

「オーシアが存在しない? んな馬鹿な! あんたらエルジアの者だろう!」

「エルジアというものも聞いたことがない」

「最近までドンパチしてたんだ。知らねぇってことはねぇだろう」

「国同士での戦争はここ数年はない。そろそろ、本当のことを教えてもらいたいんだが」

「だから、俺はストライダー隊の二番機としてロングレンジ部隊で戦闘機を乗り回してたってこと以上に何もねぇよ」

「そうか…だが、隣はそうでないみたいだな」

 

 そう隻眼がいうので、隣の方をみると、その黒髪の少女は溢れんばかりの驚きを隠せないらしく、なんとも分かりやすい表情を浮かべていた。

 

「さて、お前はどこに所属しているんだ?」

 隻眼がそう尋ねると、黒髪はこうしっかりと答えた。

 

 オーシア国防空軍 長距離戦略打撃群 第124戦術戦闘飛行隊

 コールサインは『ストライダー1

 

 あまりにも突飛な答えだった。けれども、2人の将校はこれを飲み込む時間を与えてくれない。

 

「おんなじ部隊に所属しているのね。一番機ってことは……」

「ちょっと待て! こいつが一番機? こいつがトリガー? 冗談じゃない!」

 赤髪が話を続けようとするのに待ったをかけるよう大声で遮る。

「俺の知ってるトリガーはこんなちんちくりんじゃねぇ! 第一、ガキは戦闘機には乗れねぇだろ!」

 

 その少女はハイスクールに通いたてぐらいの年齢、つまりは子供に見える。どうみても徴兵可能な18歳以上には見えない。そんな見え見えの嘘をつく少女への怒りは全く思いもよらなかった言葉で霧散してしまう。

 

「お前だっておんなじようなものじゃないか」

 

 隻眼の言葉は俺を混乱の渦の中に叩き込むのに十分な威力があった。もうすぐ30の俺が、こいつとおんなじだって?

 

 ふと顎に手を当てる。蓄えていた髭はない。

 

 両腕をもう一度見る。毛は綺麗さっぱりなくなり、腕は細く華奢になっている。

 

 将校の1人から手鏡を借りて、自分の顔を見てみる。

 

 そこにはいつもの自分ではなく1人の金髪のうら若き少女だった。

 

 手鏡を持ったまましばらく動かなくなった俺を心配したのか、それとも怪訝に思ったのか赤毛が声をかけた。

 

「自分の顔に何かついているの?」

「自分の顔自体がおかしいな」

「あら、どんな感じに?」

「どっからどう見ても俺が女だ」

 

 そんな返事が返ってきたので少し眉をひそめる2人を尻目に俺は感情をぶちまける。

 

「おかしいんだよ! なんでこんな格好なんだ! もうすぐ30行く男がこれだぞ! 若返っただけでも目ん玉ひん剥かれるほど驚かされんのにさらに女の体ときた!」

「あなたは男性だったっていうの?」

「そうさ! 28の男だったもんだよ!」

「そんなこと、あり得ないだろう」

「そうだったらよかったんだがな!」

 

 しばらくの沈黙。俺の絶え絶えの荒い呼吸の音のみが部屋に広がる。鋭い目つきでお互いを睨み合い、まさに一触即発の状況。

 

「別室へといきましょうか」

「…えぇ、例の部屋へ。手錠をお願いします」

 

 部屋にいた男の1人が沈黙を破り上申したのを、赤毛は了承し俺たちに手錠をかけさせる。抵抗しようとするがか弱い少女となった俺にそれだけの力はなかった。あっさりと両手には鉄の輪が通されベッドから立たされる。

 

「そろそろ鉛玉のプレゼントというわけか」

「まだお話は残っているわよ。しっかりと精算してもらうわ」

「こんな格好でか?」

「ちゃんと着てるじゃない。それとも初めの服のほうがよかったのかしら」

「ズボンなしとはなかなかのファッションだな」

「履いてるじゃない」

「どこがだよ」

 

 そういうと、奴は自分のパンツを指さす。どうしてこいつはパンツ一丁なのか。というか、どうして俺はこいつらがそんな格好をしているのに気づかなかったのか。

 男の服装はちゃんとしているのに、こいつらは当たり前のようにこんな格好で突っ立っている。全くもって恥じらいを感じてなさそうだが、エルジアにはそんな民族衣装があるなんて聞いてない。それじゃあ、独立しようとしてる旧自治領の奴らで、うんと昔にやってたのをもう一回やろうとした馬鹿がいたのかと思案を巡らせていると小銃の銃床で小突かれる。俺たちは仕方なくこのまんまの格好で外へと引っ張り出された。

 

15:53 15.Jun.1944

501JFW Base : Interrogation room

 

 俺たちが突っ込まれた部屋はいかにもなものだった。石造の無機質な部屋に鉄格子付きの窓、そのど真ん中には鉄製の机と4つのパイプ椅子が置いてある。俺たちはその椅子に座らされ、足は机の足に繋がれる。

 

「それじゃあ。遅れたけれど自己紹介をしましょうか。私はここの司令のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ。所属は連合軍第501統合戦闘航空団。階級は中佐。でこっちが……」

「坂本美緒。所属は同じく連合軍第501統合戦闘航空団。階級は少佐だ」

「若いのに少佐だの、中佐だのなかなかなもんだな」

「あなたはどうなの?」

「俺は少尉だよ。そこで空ばっか見てる大馬鹿野郎は中尉の筈だ」

 

 俺のいうように、隣の黒髪の女の子は椅子に座ってからは前を見ることなく、ずっとこの部屋の外の青い空だけを我関せずと言わんばかりに見つめている。とりあえずこいつがトリガーだとは認めてはいないが、そうしたもんだとしておかないと話が進まない。

 

「本題にいかせてもらうわ」

 そう言って赤髪は、あのスクランブルした時の黒い機体のスケッチを渡す。

 

「このネウロイとの関係は?」

「関係も何も、こいつは俺たちが近づいたら骨ほど残らねぇほど吹っ飛ばそうとしてきたクソッタレってだけだ」

「つまりは味方としているということではない?」

「当たり前だ。まぁ、生きているってことはトリガーがどうにかしてくれたんだろう」

「いや、こいつはまだ確認されている」

「このネウロイは各地で確認されているの。昨日は扶桑。一昨日はリベリオン西海岸。あなたたちがこのネウロイと発見されてから世界中で目撃が相次ぐのよ」

「戦ったのだろう。何か特徴はあったか」

「特徴ねぇ……こいつはハリネズミみたいにレーザーを撃ち、あと、最後らへんに紫色のスモークを出していたな」

「スモークか……それについて何かないか?」

「こいつのレーザーから逃れるためにこいつの頭上を飛んだんだが、急に紫色の光と共にこのスモークが出たんだ。んで、頭上から離れたもんなら焼き鳥になっちまうから、仕方なくこの煙に入ったんだが、そこから記憶がねぇ」

「なるほどな。お前の諸問題もその煙が関係するかもな」

「煙がか?」

「光の発生方向に煙の柱ができるのはわかっている。そして、リベリオンで発射された光の方向は扶桑を向いていた。そしてその煙に入ってすぐ、扶桑の方に光が現れて同じような煙が出た後にこいつが現れた。」

「こいつは雲を使ってテレポートをしてるってのか? それで俺たちも巻き込まれたと?SFの見過ぎだろ」

「そうか、なら今までの出た国名は聞いたことがあるのか?」

 

 今まで出てきた国名はリベリオンと扶桑。たしかに聞いたことがない国名だ。少なくともユージア大陸では。

 

「だからって……」

「光の方向は?」

「……空に向かっていた」

「空ってことは、他の星から? 美緒、これはさすがにないんじゃない?」

「ネウロイ自体が超常現象だ。そいつが宇宙人を連れてきたって不思議じゃないだろう」

「じゃあ、そのエイリアンが俺らを連れて行くついでにこんな姿に改造したってのか? B級映画でもそんなひでぇ設定は使わねぇよ」

「でもここにいるだろう、エイリアン君。一回世界地図を見てみるかね?」

「あぁ、見てやろうじゃねぇか」

 

 そう言って隻眼は部屋を出る。

 あまりにひでぇ話だ。だが、直感はコイツが正しいもんだと言っている。たしかにあの黒いネウロイとやらに関わってから全てがおかしくなった。俺がこの星の人間ではないから、獣耳が生えたりすんのも、あんな格好が普通なのも不思議に見えるだけかもしれない。だが、こいつはあまりにもあり得なさすぎる。

 

 相談する相手が欲しくて隣を見るが、こいつはまだ空をじっと見つめている。『空さえありゃ問題ない』そんな雰囲気からはトリガーらしさを感じる。こいつの正体にやきもきしているうちに地図が届いた。

 

 机に広げられた地図。そこにはユージア大陸もオージア大陸も他の俺が知る大陸は何もない、全く見たことがない地図だった。

 

「見たことねぇ地図だ……」

「そうだろうな。君たちにとっては他の星のものだからな」

 

 得意げに隻眼がそういう。だが、赤髪はまだ受け入れていない様子だ。それを見越したのか、隻眼はそれを証明せんと意気揚々と拳銃を見せる。

 

「お前たちのベストから拝借したものだ。とくにフレームは明らかに未知の技術でできている。」

「そうなのか? ポリマーフレームは最近普及したんじゃないのか?」

「ポリマーフレーム……。そんなものはまだ普及してないわ。主流は金属と木材のはずだけど。オーダーメイドではないの?」

「いや、官製のモノだが」

「やはり話の認識のズレがあるな」

 正体見切ったりと言わんばかりの自慢げな表情で頷く隻眼を、少し心配したように赤髪は「これまでの話を鵜呑みにしたそんな仮説を信じるの?」と諭すが、

「あぁ、こいつらは嘘をついてないみたいだからな」

 そう言って、隻眼はニッと笑って赤髪の方を見る。それを赤髪は鳩が豆鉄砲を食らったように目をパチパチさせて見ていたが、しばらくして大きなため息を吐いたあと、俺たちを見る。

 

「あなたたちはこれからどうするつもり?」

「どうするったって……原隊に復帰したいが……」

「だが、その原隊は遠い空の向こうだな」

 

 しばらくの沈黙の後、隻眼がある提案をした。

「うちに来ないか? 大層な特殊部隊にいたそうじゃないか。お前たちの魔力も申し分ない。ウィッチとしてネウロイと戦っていたら帰るきっかけも見つかるだろう」

「美緒! 流石にそれは……」

「危険かなのは承知だ。流石に見張りはつける。それに戦力の増強は急務だろう」

「……試すだけ試しても損はないかしら」

「ないだろう。それに他の星のエースだなんてワクワクするじゃないか」

 そういう隻眼の目は少年のように好奇心を満たしていて、キラキラと光っている。

 

「だが、そっちの飛行機の飛ばし方なんて知らないぞ。」

そういう俺の言葉に、隻眼は一笑にふすように高笑いしてただ一言。

「なるようになる。」

 

 呆れて、何か反論しようとするが隣のヤツはもうやる気らしく、空を見るのをやめて、将校たちをじっと見ていた。ここが俺らの星と違うのなら生活のあてはたしかにない。どっちにしろここにいた方があのネウロイとの接点があるだろう。そう自分を言い聞かせなんとか決心をつける。

 

「…わかった。じゃあ機体をためさせてもらおうか」

「今、お前たちが元々使っていたのはないが、予備のやつがある。早速その実力を試させてもらおう。」

「…本当に使うのね。」

「もちろんさ。さあ、こっちまできてもらおう。」

 

 そう言われて、手錠と足枷が外される。俺たちは新たな翼とやらを見に格納庫へと向かった。




 F-15Cはしばらく帰ってきません。武装や機体などは諜報部にまわされているため、しばらくの間は研究に回されますがいつか必要な時は来るでしょうね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。