ACE WITCHES -Count of the Cranes-   作:Theine137

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MISSION 03 Test Fly

 

16:13 15.Jun.1944

501JFW Base : Hangar

 

 広々としたハンガーの中にポツンと武骨な機械が三つ。多くの機体が入るであろう広さのハンガーにはあまりにも小さいが、スポットライトで照らされる様子は我が主役たらんと言わんばかりに堂々と佇む。そして、その機械には大昔のレシプロ機のミニチュアらしきものが備え付けらていた。

 

 隻眼の女、つまりは坂本少佐とやらはこいつを指差してこう言った。

 

「これで飛んでくれ」

「こんなちっぽけでコックピッドもないやつに乗れって?冗談だろ」

「ストライカーユニットは乗るモノじゃない、“履く”モノだ。」

「履くだって?」

「そうだ。まずは1番機のトリガーだったかな?そっちからやってみるか。」

 

 そう言われて、トリガーと名乗る女は足場へと登る。それを確認した坂本はストライカーユニットの四角い口をなぞる。どうやらここに足を通せということらしい。恐る恐るソイツは足を通すと、その口からは青い光が吹き出してアイツの体を照らす。足を通し終えると、ソイツの頭からは黄金色のオオカミの耳が、尻からは尻尾が生える。

 

 その変身ショーを目の当たりにして、しばらくは空いた口がふさがらなかった。だが、しばらくして口が閉じた後、その口角が上がる。足に謎の機械をつけ、オオカミの耳と尻尾を生やすその様子はトリガーと名乗るにはあまりにも威厳がなく、とても滑稽に見えた。そうして笑いを堪えていると俺に坂本は爆弾を投げつける。

 

「次はお前だぞ」

 

 その一言で俺の顔は一気に強ばる。こんな格好をしろと?たしかに俺は機体を試すだなんて言ったがこんな変なコスプレで空が飛べるほど変人じゃない。

 

「冗談だよな?」

「本気だ。別にやらなくたっていいが、その時には…」

「わかったわかった!やりゃいいんだろ」

 

 脅しの言葉をかけようとする坂本を遮り、ストライカーユニットを履く志願をする。あらかた、乗れない穀潰しは基地に置いとけないということだろう。どうも身寄りがない俺たちにとって、ここにいるのが数少ない生き残れる手段の一つ。世知辛いモノだ。

 

 足場に立ち、その機体を見下ろす。上から光が当たるのにその四角い穴の先は真っ暗で何も見えない。そこへゆっくりと両足を下ろしていく。そうすると、さっきと同じように眩い青い光が穴から溢れる。俺ははっとして、頭と尻を押さえてたが無慈悲にもそれは生えてくるのをはっきりと理解させるだけだった。病室で拝借した手鏡を恐る恐る自分の顔を見ると頭から鳥の羽が生えている。

 

 プライドをズタズタにされ気を落とす俺と涼しい顔でハンガーの扉の先にあるであろう滑走路の先の空を見つめるアイツを尻目に坂本は俺たちのものとは別のストライカーユニットに足を通す。

 

「よし。まずはエンジンを回してくれ。」

「回すったって、どうやるんだ?」

「そうだな…空を飛ぶイメージを持つんだ。」

「イメージねぇ…」

 

 『イメージ』と言われ真っ先に思い浮かんだもの。それはFー15Cのコックピッドだった。鮮明に浮かぶ記憶上のコンソールを動かしてエンジンをかけていく。奇しくも、同じタイミングで2人のエンジンは唸り声をあげた。

 

「上々だな。よし、離陸だ。離陸するときは…」

「いや、大丈夫だ。これなら聞かずとも飛べるさ」

「ほぉ…じゃあお手並み拝見といこうか」

 

 そう言って、坂本はニヤリと笑う。嘲笑なのか期待なのかは俺には分からない。

 

 ただ、それを考える前にハンガーの扉が開き、水平線へまっすぐ向かう滑走路が現れる。滑走路の先端をじっと見つめた後、目をつぶってもう一度コックピッドを思い浮かる。頭ん中のスロットルレバーをあげていくと、体が前に傾き、足元には魔法陣が現れる。そして、固定具が外れた。

 

 体が前へと進むのと同時に、記憶の操縦桿を引く。そうすると、ふわりと体が浮かび上がる。髪はなびき、体は僅かに押され、滑走路の白線は段々と細くなる。俺が目をつぶってイメージをしていた間に先に上がっていたのだろう。ヤツらしき人影が青い空の中にポツンと浮かんでいた。

 

 そうして、しばらく高度をあげていると、坂本が後ろから追い上げてきた。

 

「本当にできるとは中々じゃないか」

「そりゃどうも」

「魔導エンジンの制御も上々。初めてとは思えないぐらいだな」

「こんなので飛べるもんだな。コミックだけのもんだと思ってたんだが」

「よかったじゃないか。夢のヒーロー様だ。だがそれに完璧になるためには、空での動かし方を確認してもらう必要がある。しっかりとついてこい」

 

 そういうと、坂本は速度を上げる。右へ左へ自由に空を飛び回るスーパーウーマンのケツを俺たちの見習いはしっかりと追いかける。

 

 ある程度飛ばし終わったところで坂本はくるりと回って器用に背面飛行をし、こちらの方を見てニッと笑うと一気に軌道を変えた。ここからが坂本の本気らしい。ヘリも真っ青な機動力で、空をあっちへこっちへぐねぐねと。まるで宙を優雅に舞う龍のような軌道を描く。頭ん中の操縦桿は、スポッと抜けそうなほど振り回されて頭がこんがらがる。

 

 だが、そんななかでもヤツはピッタリと坂本にくっついている。まるで元からこいつの飛ばし方を知っているかのように澄ました顔で堂々とヤツは飛ぶ。その様を見て、さっきの滑稽に思っていた俺はどこへやら。驚くべきことに見ていて嫉妬よりも誇らしさとやる気が湧いた。

 

 別に俺はコイツをトリガーだとは認めちゃいない。だが、トリガーを名乗る女郎が天性のセンスをまざまざと見せつけるその様は、あの大馬鹿野郎の名を名乗るのにふさわしい。あのコスプレはともかく、本物だろうが偽物だろうが『トリガー』がそう飛ぶのなら、俺もそれを目で盗むだけ。機体の鞍替えはSu-33からFー15Cの時がある。あん時だって意外となんとかなったもんだ。なら今度もいけないことはねぇ。

 

 体全体を傾けて行うピッチや足を使ったロール。腕を使った慣性移動。五体を使う重心移動。坂本やヤツが使う動きをゆっくりと真似ていく。必死こいてついていく中でゆっくりと習得をしていると、坂本はブレーキをかけた。

 

 あまりにも急なものだから追い越して、変な姿勢で止まる。キッと睨もうとしたところ、しっかりと後ろで止まっているヤツを見て、なんとも言えない気分となってしまう。急ブレーキの怒りはどこへやら。その怒りは中途半端な感情へと中和されてしまった。どんな顔をすればいいのか分からなくなっていると、坂本は陸の方を指さす。その先に円錐形の黒い雲の塊がある。

 

「あそこからネウロイが生まれてくる」

「ネウロイってのはあの黒いヤツ?」

「あぁ。今から大体5年前に突如と現れて瘴気を撒き散らし、片っ端から消し炭にしてしまった。そのおかげで、向こうの国々は滅ぼすどころか塩漬けだ。エッフェルも、ブランデンブルクも、我ら人類の文明のいかなる構造物を焼き尽くし、その廃材を吸い尽くす異形どもの巣がアレだ」

 

 そう言う坂本の目は悲哀に満ちていた。何人が死に、何人が母国の地を踏めなくなったのだろう。ただ、その表情からはこの星の人類の悲しみが詰まったように感じた。

 

「海を隔てたここが最後の希望って訳か」

「その通りだ。君らにも働いてもらうぞ」

「エイリアンのセオリーは侵略者(インベーダー)じゃないのか?」

「人類を救うためやって来た救世主(ヒーロー)ってのもセオリーだろう?」

「やってくるっていう割には、なんとも強引なもんだ」

「それは連れてきた奴に聞くんだな。奴らなら知ってるだろう。」

 

 たしかに奴らが連れてきたなら、返すこともできるだろう。この星での住処と帰れる手がかりが手に入るんなら、断る必要はない。まぁ、元々断れる状況ではないが。それならばやる事はひとつだ。

 

「分かったよ。連中にはわざわざ連れてきてもらったんだ。こんな体にしやがったことだとか、いろんなツケを利子をしっかりと付けて払ってもらわんとな」

「頼みにしてるぞ。それとだ…」

「なんだ?急に改まって」

「何か欲しいものがあるか?この星のことに付き合わせるんだ。何か埋め合わせをしたい。」

「そうだな…」

 

 埋め合わせに欲しいものは沢山あるっちゃある。金だとかそんなんが頭に浮かぶが、真っ先に必要なものはとっくに思いついている。

 

「1カートンのタバコだ。こんなしみったれた空にはコイツがなけりゃ話になんねぇ」

「そうか…トリガーはどうだ?」

 

 坂本はそう尋ねるが、アイツは話に飽きていたらしく、俺らの後ろのほうでアクロバティックな飛行していて話なんぞ聞いていない。どうするかわからない坂本におんなじもんでいいだろうと助け舟を出して、もう一度巣を望んだ。黒い円錐の雲はゆっくりとまわりながら、うごめいていた。

 

1944年6月20日9時53分

第501統合戦闘航空団基地 ブリーフィングルーム

 

 新しく2人が入隊する。みんなはその話題でもちきりだった。基地に連れ込まれたウィッチの噂や数日前、坂本さんがその後ろにピッタリとくっつける腕利きのウィッチと飛んでいたといった話があちらこちらで聞こえる。

 

 だが、その喧騒もミーナさんの入室と共に静まり、視線は一気に前の新入り2人へと向けられる。その新入りはいつかに見たあの2人。ただ、着ている服は病衣ではなく、初めて見た時のオリーブ色のジャケットを羽織っている。

 

 いかにもトップシークレットだった2人が、意外にすんなりと部隊入りしていることの奇妙さもさることながら、あの医務室で見た美麗な寝顔からは想像もつかない鷹のような目でこちらをじっと観察する様子は恐怖を感じるに容易い。

 

「今日からここに新しく入る2人の新人を紹介します。」

「オーシア…いや、ガリア外人部隊 第一外人航空戦隊124戦略戦闘隊、TACネームはカウントだ。で、こっちはトリガー。名前は…えーと…ジョンだったか?」

「書類上では、あなたはエマ・スミスです。やっぱり偽名だったのね…」

「まぁ、そう頭を抱えんな。あっちの俺は死んだも同然なんだ。名前ぐらいはあっちに残しときたいもんさ。んで、コイツは…」

「ジェーン・ドゥです。つけるにしてももうちょっとまともなものはなかったの?」

「仮の名前なんぞそんなもんだろう。まぁ、カウントとトリガーと呼んでくれりゃあいいさ。」

 

 おちゃらけてサラッと偽名を使っていたことを話すカウントと名乗る少女の様子を見て、ミーナさんは何度目かわからないため息をつく。ジャケットにある見覚えのない国旗や部隊章、そしてその態度から、他のウィッチたちの目もより猜疑に満ちたものになる。

 

「おかげで先の計画まで台無しだわ…」

「そりゃあ、大変なこった。」

「もうちょっとこっちに馴染んでから話すつもりだったのよ。…単刀直入に言うわ」

 

 そういうと、ミーナ中佐は配属の経緯を話し始めた。

 

 最大の原因は世界中で確認されている、急に現れてはしばらくしてどこかに消えるネウロイだった。このネウロイは単体でも強大な力を持っているが、もう一つ特徴があるとされている。それは周囲のネウロイの活性化だ。実際、ブリタニアに発生した後にネウロイの発生周期は不規則となっており、同様な事例が様々な場所で確認されている。中央はこれを大変な脅威と認識していて、現在の最重要目標のひとつとしたが、決まった戦果は上がっておらず犠牲が増えるばかり。そこで、このネウロイとの戦闘経験のあるウィッチを派遣して、ブリタニアに現れた時に必ず仕留めるようにする計画が立案された。そして、白羽の矢が立ったのがこの2人という。

 

「何か質問は?」

「“あっちの俺は死んだも同然なんだ”といったがどういうことなんだ?」

「そのまんまさ。古巣から離されて、こっちで勝手に放り出されちまった渡り鳥って感じだな」

「今回の任務のために戦死扱いされているというのか?」

「まぁ、そういうことだ。だが、二階級特進じゃあなくて軍曹からのやり直しだがな」

「質問は以上ですか?バルクホルン大尉」

 

 バルクホルンさんは短く肯定の返事を返す。そうして他に質問がないかミーナ中佐は尋ねるが誰も質問をする者がいないのを確認するとこう言った。

 

「2人の階級は軍曹です。同じ階級の宮藤さんとリーネさんはしばらく面倒を見てあげてね」

 

 飄々としているカウントと名乗るウィッチと人形のようにその場に佇むトリガーと呼ばれたウィッチのどちらとも私とそこまで年齢は変わらないように見える。だが、その目は私とは全く違う。皮肉った笑みにも何の表情もない顔にも鷲のような鋭い眼光が宿っている。

 

 機密のヴェールにあらゆることが隠されて掴みどころがないし、ちょっと怖いしどうしたもんだろうと考えていたその時、警報が鳴り響く。

 

 ほんの少したって、坂本さんが部屋に入りあることを伝える。

 

「5体のネウロイが真っ直ぐロンドンへ向かっている」

「分かったわ。さっそく2人の腕を見せてもらいましょう」

 

 そう言って、ミーナ中佐が目線を2人に合わせると、初めてトリガーさんは表情を崩し微笑んだ。




 トリガーならストライカーユニットは余裕で乗りこなしそうなものです。だけれど、カウントはいけるのかと思っていたんです。
 けれど、よく考えたら、ほんの数週間でSu-33からF-15Cに機種転換を成し遂げて、しかも完璧に扱うっていう才能の持ち主なんですよね。
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