ACE WITCHES -Count of the Cranes- 作:Theine137
先程、坂本少佐からドーバー海峡を哨戒していたブリタニア海軍の駆逐艦が接近するネウロイを発見したという報告があったわ。これより、我々は当該空域に緊急飛行しネウロイを排除します。今回は新人の2人を編隊に入れるため、フォーメーションを変更するわ。
トリガーとカウントも前衛に起用。バルクホルンとハルトマンのペアと分かれてネウロイを攻撃する。目標はポーツマスに向かう2機とロンドンへ向かう2機の二つだ。前者をバルクホルンとハルトマンが、もう一つはトリガーとカウントが対応する。そして後衛としてシャーリーとルッキーニをポーツマス方面のやつに、リリーナは私とペアを組みもう一方のほうにあたる。トリガーとカウントにはブリタニア空軍から正式に譲渡されたスピットファイアMk.Ⅸとブレン軽機関銃があるのでそれを使ってくれ。
残りの人は私と基地で待機です。それでは状況を開始します。
10:28 20.Jun.1944
51°07‘17“N 1°57’04”E Straits of Dover
「初日から使いっ走りとは、なかなか素晴らしい職場だな」
「人手が足りないもんでな。それに、お前たちの腕のお披露目は早い方がいいだろう?」
「そりゃまた何でだ?」
「大方、自己紹介でやらかしただろう? とりあえず腕ぐらいは見せてもらわんと他の奴らが安心できん」
たしかに自己紹介はひどいもんだった。一応の軍籍をもらうために書類を出した時に適当に偽名を決めたのがまずかった。
ここが別の星だってのが本当なら、あっちの軍に配慮せずに本名を名乗ってもいいんだろう。だが、ここで名乗ってしまったなら、男だった俺と今の俺がおんなじもんだと認めてしまうような気がしてならなかった。それに、ここで俺が名前を名乗って、この組織の一員と完全になってしまったのなら、
だから偽名を決めたんだが、書類を丁寧に書き上げる時間がなかったもんだから、かなり適当なものになり、選んだのもエマとスミスというありきたりな名前。無事に調整のための訓練がくり返された後には綺麗さっぱり忘れていた。
だが、サカモトはあの時には現場にいなかったはず。どうして知っているのだろうかと聞こうとする前にサカモトはその理由を話した。
「部屋に入った時のミーナの顔と他の奴らの目を見れば分かる。何か余計なことでも言ったんだろう。お前たちの片方は口が悪いしよく喋るからな」
「おいおい、あいつだって無表情だし何も喋らないしで不気味だろ」
「そうだな。トリガーにお前の口の回りようを分けてやりたいな」
話が少しずつ加熱していくのを、サカモトに付いてきたリリーナと呼ばれた眼鏡と金髪のいかにもプライドの高そうな女性がぶった斬るように報告をする。
「坂本少佐。そろそろ作戦空域です」
「そうか」
「この2人は本当に使えるんですか? どことなく胡散臭いのですけれど」
「腕は本物だぞ。私たちの仕事は今回ないぐらいにな」
「流石に盛りすぎではないですか」
「なに、今にわかる」
自信溢れた笑みを浮かべるサカモトをまだ納得いかないという様子で見るペリーヌ。追求はまだしたかっただろうが、それをする前に黒い機体が現れた。
「ネウロイを視認。これより作戦を開始する。前衛は……」
サカモトが作戦開始を宣言した直後、俺の相方はエンジンをぶん回し、追加の説明を聞くことなく敵へと突っ込んでいく。それがペリーヌにとっては気に食わないらしく、怒り心頭の様子だ。
「何ですの! 話も聞かずに行ってしまうだなんて!」
「そりゃびっくりだろうが、ああいうのはいつものことだ。俺も行くから後は無線で頼む」
「何ですの!」と真っ赤になって怒るペリーヌとそれを宥めるサカモトを尻目に俺をアイツの後ろを追う。トリガーらしいといったらトリガーらしい行動だ。アイツだって作戦が始まれば部隊員を置き去りにし、アフタバーナーを吹かして敵のど真ん中に突っ込むなんてのは日常茶飯だ。こいつがトリガーだというのを認める自分とまだ認めない自分に苛まれながらも敵陣に突っ込むアイツの後ろを追っていた。
《こちらから魔眼でコアを確認する。2人は出来るだけネウロイが動かないようにしてくれ。ペリーヌは一応のバックアップを頼む》
「あいよ。とりあえず攻撃を加えたんなら動かないんだな」
《あぁ。少なくともダメージを受けたなら速度は下がるはずだ》
「さっさと見つけてくれよ」
《それが上官に向ける態度ですか!》
《ペリーヌ、そんなにいうことじゃないか》
《ですが、少佐!》
《私が早く見つけられるかどうかで彼らの戦闘時間が変わるんだ。そこまでの死活問題だということだ》
「そうだぜ、嬢ちゃん。まぁ見てなって」
そうしている間に、ネウロイは目と鼻の先。相手のレーザーをバレルロールで回避しつつ、2人でネウロイの上部を数センチ単位の高さで飛び、レーザーの出どころを少しづつ削っていく。
前回のよりもだいぶ小型とはいえ、赤い六角形は片面にすら数十はある。発射から着弾までのラグはあるとしても当たったら大火傷どころか骨すらも残らない代物だ。古臭い機関銃から盛大に弾をばら撒き、あらかた鈍くなったあたりで六角形の少ない側面を使って射線を切りながらもう片方へ、さらにこっちが片付いてあっちが治ってきたら、次はあっちへと行ったり来たりを続ける。
《完璧な軌道ですわ……》
《言っただろう? 2人の腕は確かだ》
《ここまでの逸材聞いたことありませんわ。いったいどこから……》
「おいおい。喋ってる暇があんならさっさと見つけてくれよ」
《その通りだな。……コアは両機とも先端部だ》
そう聞くと、相方はネウロイの腹の方へと潜り込み、オーバーシュートする瞬間にネウロイの鼻面に鉛玉を叩き込む。魔力とかいうとんでもパワーで反動や銃そのものの重さは無視できるほど軽くはなっているが、不安定な空中でさえ圧倒的な正確さをもって放たれた弾丸があっという間にコアをむき出しにする。そしてネウロイから飛んでくるレーザーを舞う木の葉のように避けつながらリロードを済ませて、一気に急上昇してからのパワーダイブで頭から落ちながらコアを射抜く。この間たったの数十秒。カバーに入る隙すらない。
ただ、ネウロイはもう一体いる。アイツがこっちに上がってくるまでにネウロイの正面まで飛んで、一気にブレーキをかけて上へと避けようとするのを狙い撃つ。放たれた弾はネウロイの鼻からケツまで一文字に叩き込まれ、途切れ途切れの線ができたが、まだコアは見えない。
アイツが戻ってくるのをチラリと確認すると、赤い六角形のあたりを撃ってネウロイの意識を誘導させる。こっちに攻撃が集中する中、その隙を使ってトリガーが先端部に接近し、すれ違いざまに発砲。今度はしっかりと赤い結晶があらわになる。
そして、コアを狙われてお冠な様子のネウロイはさっきの恨みと言わんばかりにレーザーを放つが、蝶を刀で斬るが如く、ひらひらと避けて掠りもしない。
こっちを狙うレーザーが手薄になったのを見計らうと、あの六角形のない側面を伝ってネウロイのコアを目指す。レーザーはこっちに一本に来ることなく、楽々と先端に到達。ほぼゼロ距離でコアを撃つと、ネウロイは白い煙となり綺麗さっぱり消えてしまった。
「一丁あがりよ」
《2人とも一体づつ、しかもほんの数分。素晴らしい戦果だな》
「やりにくいったらありゃしないがな。こんな格好で空を飛ぶなんて、昔の俺が見たら卒倒するぜ」
《その話は調整期間中の数日で何回も聞いたぞ》
《少佐! この2人と飛んだんですか?》
《あぁ、ストライカーユニットと銃の訓練を配属前にしたからな。アグレッサーとして何回かは飛んだんだ。とても強くてな、トリガーなんか……》
《一緒に飛んだんですのね》
「おいおい。それがどうかしたってのか?」
《……いえ、別に何もありませんわ》
《それではもう一組の方に向かうぞ》
それを聞くと、アイツはネウロイがいるという方向にすっ飛んで行く。それに合わせて、少し遅れたが、こっちもエンジンを限界まで出力を上げる。いつも通りのトリガーらしいやつの動きに辟易し、愚痴がこぼれる。
「相変わらずだな」
《前の舞台もそうだったのか?》
「トリガーってヤツは天上天下唯我独尊ってのを地で行くやつだよ。任務じゃあ、はいともいいえとも言わねぇで、勝手に1人で飛んで勝手に無茶をするやつだ」
《どうしてそこまでに無口なんでしょう》
「さぁな、第一アイツがトリガーだとは認めちゃいないんだ」
《お前もほとんど同じことが起こっただろう。まだ認めきれないのか》
「そうさ。ただ、トリガーはただ一人さ。アイツの真似なんぞ誰でもできねぇ。そのうち本物かははっきりするだろうよ」
《起こったこと? 少佐、それはいったい?》
「どうせ、言ったって信じねぇさ。それよりもネウロイが見えたぞ」
《よし、こっちでももうすぐ視認できる。コアを見つけるまでよろしく頼む》
サカモトに了解と返し、アイツがまっすぐ向かう中、俺は斜めに飛んで高度をあげる。そしてアイツの銃が弾をばら撒きだしたのを確認すると、こちらも一気に降りる。しばらくして、ネウロイスレスレで止まるように一回転をし足をネウロイに突き出すようにしてブレーキをかけると同時に弾をばら撒き、ネウロイの表面に傷をつけてそのまま一気に急上昇。そして、こっちの方にいた仲間に無線を入れる。
「新人様のご登場だぜ」
《トリガー! カウント! 貴様らはロンドンへ向かうネウロイへと対応するよう言われていたはずだ》
「あっちのはもう片付けちまったのさ」
《その通りだ。ネウロイ2体はすでに消滅。こっちの2体のみだ》
《戦闘開始からほとんど時間が経っていない。こりゃ本当に凄腕かもね、トゥルーデ》
《たった一度の出撃で実力なんて分からん》
《それにしたって、すごい連携だな》
《トリガーが切り込んで、空いた隙にカウントが追撃。これほどのウィッチが無名だったとはね》
好きなように俺らを品評するここの4人もその会話を終えると一気に動き出す。前衛がこまめに銃撃を浴びせてネウロイの意識を引き寄せ、そのあと後衛が突っ込んで一気に叩く。そして離脱するのを前衛が援護し、その隙にレーザーの出本を減らしていく。なんとも見事なものだ。ただ、相方はその連携なんざ知ったこっちゃないと言わんばかりに空を掻っ切る。俺もそのスタントプレーに合わせてヒットアンドアウェーの戦法をとっていく。
しばらく飛んでいたが、まだサカモトからコアの発見の報告がない。とっくに目視圏内のは入ってるはずなんだが。そう思いながらネウロイの周りを飛んでいると、ようやくサカモトの報告が入った。
《両機ともにコアが見つからない》
「そんなことあるのか?」
《……陽動ということか》
《だとしたら基地が危ない!》
そう叫ぶサカモトの声には焦燥からか若干震えていた。
10:28 20.Jun.1944
51°10‘86“N 1°35’81”E Straits of Dover
最大出力で俺たちは基地の方へと向かっていた。ミーナによると基地のレーダーがネウロイの接近を確認。亜音速で海面スレスレを飛んでいるらしい。自分たちのレシプロじゃあ追いつけるかどうか怪しく、かつての愛機がたまらなく恋しい。ただ、この焦りを感じるのは俺だけでなく、他の奴らも同じようだ。
「誰も気づけなかったのか?」
「低高度、それも海面スレスレだ。図体がデカかろうが海面の乱反射で捉えられなかったんだろう」
「居残り組に任せるしかないのは辛いもんだな」
彼女らの会話からは焦りがはっきりと浮かんでいる。なかなかネウロイに追いつけず、誰もが基地のことが気がかりでいる中、ここでミーナから無線が入る。
《ネウロイを撃墜。リーネさんと宮藤さんのお手柄よ》
無線が入った初めは身構えていたものの、報告が入るとどっと緊張が取れる。そしてここでふと、こうも思った。「こんな多感な時期である子供にこんな思いをさせてもいいのか」と。
実際、軍の規定としては18歳以上が入隊するはずだ。だが、ウィッチたちはそれよりも若いのが多い。確かに魔力とやらは20までにしかないというのは講習で聞いた。だが、それに満たない子供達をいつ死ぬかも分からない戦場に送り込むのである。そんなことは許されるのだろうか。
そんな、周りの安堵の空気とは違う悶々とした気分で空を飛んでいるとミーナたちと合流した。そして、その下の海面で笑い合って戦果を喜ぶ新人の2人とやらをじっと見つめていた。
その2人には、戦争、そして戦場の暗い場所なんぞ全く見えていないようで、どこか他のエースとは違っているようにも見えた。
エスコンのチュートリアルであるスクランブルなんですが、自分の文章力の無さから思ったように戦闘を書くことができず、作家の凄さというのをまざまざと感じた今日この頃。