ACE WITCHES -Count of the Cranes-   作:Theine137

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MISSION 05 Intersecting

1944年6月20日11時53分

第501統合戦闘航空団基地 テラス

 

 私とリーネちゃんは基地へ戻ると、ネウロイのせいで中断された基地の案内を2人にした。2人の部屋や食堂といった基地の施設を隈なく紹介して回り、紹介する最後の場所、基地の中央の塔を案内していた。

 

 趣向の凝らされた螺旋階段をのぼっていくと、だんだんと風の音が響き始めてくる。さらにどんどんと登っていくと、所々にあった小さな窓から入ってくる光の筋とは違う光が見えてきて、その光の入り口をくぐると、そこにはテラスがあった。澄み渡る空の下に広がる深い青色の海。左手には青々とした山々と言う若い緑の草原が、そして右手にはうっすらと欧州の姿が見える。つい最近見たばかりであるのに、それを超えるような感動を感じさせる景色だ。ただ、それを見る2人にはこの景色に感嘆する様子は毛頭もなく、もとより無口だったトリガーさんだけでなく、あの顔合わせで飄々ととしていたカウントさんも一言も話すことなく、空をどことなく遠い目で見ていた。

 

「ここは基地で1番高い場所なんです」

 

 そう話すリーネさんに、2人は軽く相槌をうつ。どうにも扱いづらい2人をどうしようかとリーネちゃんと目を合わせて考えていると、カウントさんが煙草を一本吸っても良いかと尋ねてきた。それに了承を返すと、彼女はおもむろにジャケットのポケットからタバコの箱を取り出して、スッと一本を取り出す。それを咥えて、どこからか取り出したライターを使って慣れた手つきで先端に火をつけると、その赤色は灰を作りながらゆっくりと根元に近づいていく。その動きが止まると、彼女は煙が立ち上り始めた煙草を手に取り、真っ白な煙を吐き出した。

 そして、手すりに手を置くと、私たちに話しかけてきた。

 

「あんたらはなんでここに来たんだ?」

「困ってる人の役に立ちたくて……」

「私もおんなじだよ!」

 

 近寄り難い2人が切り出した話題にようやく仲良くなれるきっかけを見出して、明るく応える私達。ただ、その答えを聞いたカウントさんはもう一度煙草を吸うと、もう一度質問をしてきた。

 

「じゃあ、なんでここなんだ? 別に平和のためだってんなら他にやり口はあっただろう。嬢ちゃんたちが別に命を張らなくたっていいだろう?」

「それは……」

「私たちは魔法が……」

「魔法が使えるからってやる必要はねぇだろう。別に徴兵されたわけでもねぇ」

「私はここを……故郷を守りたいんです」

「私は……」

 

 話している間、私たちを一瞥すらすることなく海を眺めて煙草を吸う彼女に、私はそう言いかけて、何かできることをやりたいと言う思いの中にあるものを心の中から探していた。お父さんのお墓に刻まれた言葉。そして、それを見てから決めた覚悟。それを話そうとしたその瞬間、12時の鐘が鳴り響いた。鐘の音に気を取られた私とカウントさんに、リーネちゃんがこの話をあやふやにしようと半ば強引にご飯に誘い、私たちは食堂へと引っ張られるように向かっていった。

1944年6月20日12時06分

第501統合戦闘航空団基地 食堂

 

「どうだ? よくやってるか?」

 

 坂本さんはあの2人が食事をしている間、手をこまねいて外に呼び出した後、そう尋ねた。私たちは目をしばらく合わせた後、バツが悪そうにあまりうまくいっていないことを報告する。

 

「2人ともなかなか話しかけてくれなくって」

「話しかけても空返事か適当な皮肉しか返ってこないんです」

「トリガーは……まぁ、それはそれとして。カウントは口が悪いがそこまで取っ組みにくい奴じゃないだろう」

「2人とも目が怖いんです。なんだが私たちのなにかを見透かそうとしてるみたいで」

「話しかけてはくれたんですけど……」

「なんて言われたんだ?」

「『なんでここに来たんだ?』って言ってました。『みんなの役にたちたいなら他に手があるだろう』とも」 

 

 それを聞いた坂本さんは、顎に手を当てしばらく考え込んだ後、急に笑顔を見せて一言。

 

「明日の模擬戦、2人と組んでみないか?」

 

09:47 21.Jun.1944

501JFW Base : Hangar

 

「本日10:00(ヒトマルマルマル)より、模擬戦闘訓練を行う。まずはリーネとトリガー、宮藤とカウントでエレメントを組み、高度10000まで上昇。その後東西に分かれてこちらの開始の合図で戦闘を開始する。どちらかのチーム2人を先に撃墜したほうは勝ちだ」

「こんな新入りがあいつについていけんのか? あいつはお構いなしに突っ込んでいくぞ」

 

 俺は空を飛びたくてウズウズしているアイツを横目に抗議をする。

 組まされるのは、あの時に浮かんでいた新人らしい2人。まだまだ立っているこの場所が命のやりとりをしている場だとはまだ気づけていない2人には、あまり関わりたくはなかった。実際、新人のお守りなんぞ御免だったし、この多感な時期に透き通る空の濁った部分なんぞ見てほしくはない。

 

 だが、そこの隻眼野郎は仲がうまくいってないんだろうと妙な親切心で、俺の気持ちとは関係なく、適当にエレメントを組ませやがった。余計なことをしてくれたとさらなる抗議をしようとしたところ、プロペラの音がハンガーに響く。音の鳴る方を振り向くと、アイツはとっくにコスプレ姿になって準備万端と言わんばかりの自慢気な顔をしてこっちを見ている。あの新人2人も準備を始めているようだ。とっくに外堀は埋まっていることを確認し、目に手を当てて大きなため息を吐いた後、俺も準備を始めた。

 

09:47 21.Jun.1944

N51°11‘04“ W1°26’99” Dover

 

「えーと……どうするんですか?」

「とりあえず、俺のケツについてこい。アイツほどのご利益はねぇが、まぁマシだろう」

 

 不安げに聞いてくるミヤフジとやらに軽くそう答える。十中八九、俺の態度のせいだろうが、どこか配慮している様子だ。気まずさがはっきりと見えるこの空気に辟易しながら飛んでいると、無線から開始の合図が飛び込んできた。

 

 そうして相手側の方向を見ると、高速で一気に突っ込んでくるヤツが1人見えた。それを見た俺は反射的に散開(ブレイク)の四文字を叫ぶ。

 

 そうして、俺は奴の視界の左下に逃げるように急降下し、元いた場所にはペイント弾とアイツが通り抜ける。その後、ヤツは照準をどことなく拙い避け方をするカモに決めたらしい。反転して、ミヤフジの方へと向かっていき、俺はそれをさせまいと銃で牽制する。それはあっという間に回避されたが、少しの隙は稼げた。その隙を使い、ミヤフジに無線を飛ばす。

 

「ミヤフジ! フラフラするな! 俺のケツに向かって飛ぶんだ!」

《でも、そっちにもトリガーさんが……》

「テメェはテメェの心配だけしとけ。こっちの心配なんぞしなくていい。ひよっこは親鳥について飛べ。少しでも飛んでいたけりゃな」

 

 だが、そうこうしている間にアイツは上での旋回を終えて、こっちにまさに向かって来ようとしてくる。こんなガキ1人ひっつけてヤツを落とすなんていう無理難題に、リードなんていう俺には荷が重い役をさせるなんてとサカモトへの恨み辛みをどしたもんだかと考えながら、次のアイツの手に対応していく。

 

 アイツは急降下した後、俺たちの進行方向へペイント弾の雨を降らせる。それを斜めに軌道を傾けて上方宙返りをし、それを避けると下に潜り込んだヤツがこっちへ登ってくると同時にヤツの銃が火を吹いた。アイツの銃撃をバレルロールでなんとかかわし、ヤツが上昇旋回を終えて下を通り抜けるのをチラリと確認すると、アイツのケツに潜り込むように下降旋回する。そして、今までのお返しをしっかりとお釣りの分まで食らわせてやろうとペイント弾を叩きこむが、奴は急上昇と共に速度を一気に落としたため、ペイント弾が無駄になっただけではなく、こっちがオーバーシュートした形になる。

 

 後ろをチラリと確認すると、降りてこようとするアイツともう限界に近いミヤフジの姿が見えた。こっちはもう耐えられる魔力は残ってない。なら、短期でケリをつけなければならない。だが、相手が相手だ。チェックはもう唱えられている。それでも、ここから反撃の一手をくらわしてやらないと気が済まない。だが、どうしたものか。

 

1944年6月21日11時09分

北緯51度10分 西経1度26分 ドーバー上空

 

 カウントさんの後ろにつくように言われてから、たったの3分ほどであっという間に疲労困憊の私。カウントさんの軌道は確かに素晴らしく、1人で飛んでいたらあっという間にペイント弾で、私の服は鮮やかに彩られていただろう。

 ただ、追ってくるトリガーさんはまるで別物だ。さっきからくっつかれて離れない。カウントさんが上へ下へとどれだけ動いたとしても、すぐに背後に迫ってペイント弾を放ってくる。

 そんなトリガーさんを避けるのに必死になったからこんなにも疲れたのかと言われるとそれは間違いである。他の理由、それは彼女の目だった。地上で感じた視線から感じる恐怖の正体は、相手を隈なく睨むオオカミの目の鱗片だったのだと一瞬で推察できるほど鋭く、模擬戦でありながら本能が警笛を上げるほどの迫力がある。

 

 その間にもトリガーさんは私たちの後ろにつき、断続的にペイント弾を放ってくる。

 その様子を、私の私の疲労の進み具合と共に確認したカウントさんは私に一本の無線を入れた。

 

《まだ、キツイのはいけるか?》

「はい! まだなんとか」

《俺が囮になる。お前が狙いやすいように飛ぶから時間は持たない。一気に決めるぞ》

「でも、それじゃあカウントさんが落ちるかもしれないんじゃあ」

《つべこべ言ってる場合じゃないだろ? お前さんの体力ももうもたねぇってことは自分でもわかってるだろ?》

 

 柄にもねぇことばっかだと小さく愚痴を言いながら、カウントさんが体を回してから足を進行方向へ向け、急ブレーキをかけながら後ろにペイント弾をばら撒くと、トリガーさんが上へと逃げる。それを追撃しようとカウントさんも上に上がるも、トリガーさんはバレルロールを駆使してオーバーシュートを誘い、まんまとカウントさんは前へ押し出されてしまう。

 だが、ここからが作戦の始まりだ。

 カウントさんが緩やかなバレルロールと急旋回を組み合わせた回避運動でトリガーさんを引きつけている間、私はカウントさんの入れ知恵から一撃離脱でトリガーさんに挑む。これはトリガーさんからドッグファイトに持ち込まれにくいだけでなく、魔力のコントロールが細かい旋回を少なくするためでもある。

 そして今まさに突っ込もうとトリガーさんを視界に捉えた時、その後方に1人の人影、リーネちゃんが見えた。じっとライフルを構えている彼女から意図が見えた。2人から1人に減り不確定要素が減ったので、あの偏差打ちができるようになったのだ。カウントさんが危ない。そう思った時にはもう身体は動いていた。向かう先はトリガーさんではなくカウントさん。真っ直ぐ飛び込んで、カウントさんを救出する。カウントさんがさっきまでいた位置には一発のペイント弾が通り、私のストライカーユニットを掠めていった。

 

「急に何するんだ!」

「リーネちゃんの狙撃です!」

「狙撃って……どんくらいの?」

「飛びながら遠くのものに命中するぐらいの狙撃です」

「おいおい、化け物かよ。だが、だからといってアイツを狙わなかったことの言い訳にはならんぞ」

「昨日、なんでここに来たのかって聞いたじゃないですか。あの時答えられなかったんですけど。今、答えます。お父さんが言ってたんです“その力を多くの人を守るために”って。私がここにいるのはもっとたくさんの人を守るために私の力を使いたいんです」

「それがどうしたんだ」

「言ったじゃないですか。多くの人を守るため。1人でも多く守るためって。1人だって誰かのために犠牲になるなんてことがあってはならないのは、模擬戦だろうが実戦だろうが関係ないんです」

「そんなことのために、わざわざ突っ込んできたのか」

 

 そう言って、カウントさんが目を覆うとしばらくして、その口角が上がった。手が目から離れると、そこには前とは違う優しい目があった。

「そんな綺麗事のために危険を賭して突っ込んでくるとは、なんて“大馬鹿野郎”だ」

「大馬鹿野郎だなんて酷いですよ」

「いーや、お前にゃお似合いだ。さぁ、もう一回やるぞ」

 

 そう言って2人が振り返った先には、すぐそばに佇んでいたトリガーが銃を構えていた。気の抜けた声が私たちから漏れると、銃口からペイント弾が飛び出して私たちの服に水玉模様を作っていった。




トリガーは会話が終わるまで待っててくれてます。お茶目なのか舐めプなのかはご想像にお任せします。
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