ACE WITCHES -Count of the Cranes- 作:Theine137
これより訓練を中断し、グリット東07地区高度1万5000に侵入したネウロイに対しスクランブルを行う。基地からはペリーヌとミーナ、ハルトマンが上がる。これらとはグリット東04地区高度1万7000にて合流、その後敵の侵入と共に攻撃を開始する。合流時にはリーネはミーナ、宮藤は私に、そしてカウントはバルクホルンの2番機に入る。
11:19 24.Jun.1944
51°19‘37“N 03°88’40”E Oostende Belgica
遥か上の淡い青の世界、17000フィート上空で風を切り、白い線を引いていく。風を遮るものなどない。その身に風を受け、髪をたなびかせ、風へ切り込む。雲も少ない絶好の行楽日和だが、ネウロイのクソッタレがバカンスしにこっちに来るのを、しっかりサービスしてやるっていう臨時の仕事が入ったというわけだ。今日の仕事はちょいとあの嬢ちゃんたちと遊んでやるだけだって思っていたのに蓋を開けてみればこれだ。
「明日って話じゃなかったのか?」
「最近、奴らの襲撃サイクルは不安定になっているからな」
「カールスラント領で動きがあったらしいけど、詳しくは……」
俺の愚痴にサカモトとミーナが返事を返した時、いや、カールスラントの単語が出た時、バルクホルンの表情に明らかに動揺の色が見えた。すぐに見開かれた眼は寂しげな影に閉じられてしまい、目の光は無くなってしまいそうなほど静かになってしまったが、憂鬱なものとは違う初めて見せた表情は、彼女がかつての故郷に縛られているのを明確に暗示させていた。
このやり取りの後、しばらくも立たないうちに空に小さな黒い点、ネウロイが現れた。
ミーナがバルクホルン隊とハルトマン隊に突撃の指令を出すのを皮切りに、俺含む4人が高度を下げてヘッドオンをかます。
「突っ込み方は基地にいる誰かさんと同じだな」
「私語は慎め、新人。仕事の途中だ」
「お喋りは余裕の証だぜ」
俺がそう返すと、一瞥することなく無言でネウロイの方へ飛んでいってしまった。どうも、仲良しこよしなコミュニケーションは苦手らしい。
俺たちはネウロイの表面スレスレを発砲しながら飛んでいく。1番機様の飛び方はなかなかなもんだが、突っ込み方だけじゃなく独りよがりなところもそっくりだ。2番機のことなんぞどうでもいいのか、それとも……
俺がこの1番機様のことを考えていると、一本の無線が入る。
《新入り君、聞こえる?》
「聞こえるが、あんたは……えっと……」
《エーリカ・ハルトマン。まぁ、自己紹介が有耶無耶になったから知らないのもしょうがないけど》
「それで、一体どうしたってんだ?」
《トゥルーデの様子には気づいているでしょ? いつでも視界に2番機を入れるしっかりものが、今日に限って一人で突っ込んでばかり。だから、やって欲しいことがあって》
「やって欲しいことねぇ……」
《だいたい察しはついてるだろうけど、トゥルーデを見ておいてくれないかな? 嫌な予感がするんだ》
「こういう大馬鹿野郎の相手は慣れてるよ」
《こっちは遠くの方で援護をしておく。よろしく頼むよ、“カウント”》
無線は終わりらしい。さて、任された仕事どおりトゥルーデちゃんの様子を見ていこう。頭に血が上っているのを除けば、腕はそんなに悪くはない。独りよがりな所がどっかの大馬鹿野郎と同じでも、ケツを追っかけるのは全く難しくない。
しばらくの間、ネウロイの周りを這いつくばるように飛び回っていると、視界の先でリーネが打ち込んだ弾がネウロイに突き刺さり、そこから噴煙が上がるのが見えた。どうやらネウロイもだいぶ応えたらしく、悲鳴をあげてレーザーを飛ばしてきた。
「だいぶお冠だな! 俺たちを焼こうって必死だぜ」
軽いジョークを飛ばすも乗ってくれることはなく、淡々と仕事をする相方。本当にどっかの誰かとそっくりだ。だが、大馬鹿野郎っぷりを発揮するには腕はまだ足りない。弾を浴びせることに夢中で、危なっかしくもギリギリで攻撃を避けてはいるものの、いつ体に窓ができたっておかしくない。
「コアってのはまだ見つからんのか?」
《図体が無駄にでかいからな、探すのも一苦労だ》
《このままじゃ、ジリ貧だね》
《前衛4人でシュヴァルムを組みましょう。ネウロイのコアを見つけるまで敵の注意を向かせて、こちらかは援護射撃を行うわ》
「
司令の下、別の方を攻撃していたハルトマンたちと合流し、ネウロイに臨む。
「そこの……えーと……メガネのやつ!」
「ペリーヌです! 一回、一緒に飛んだでしょう!」
「まぁ、それはいいだろ? そんなことよりもだ、さっき出してた青いやつはなんだ?」
さっき出していたのとは、ネウロイのレーザーを受け流した青色の円盤のこと。前回はアイツがさっさと片付けたもんだから、確認する暇もなかった他のウィッチとやらの動きを今度はしっかりと観察できた。そこで見たのが、それがレーザーを受け流す様子だった。
そんなことを聞く俺に、そんなことも知らないのかと鼻で笑うような嘲笑を顔に浮かべた後、ペリーヌはそいつが“シールド”というもんだと教えてくれた。
次に出し方を聞いてみると、出そうと思った時に出るとかなんとか。アバウトでクソみたいなアドバイスに感謝しつつ、とりあえず後で考えることにした。
こっちの攻撃の少し後、ネウロイの赤い部分に光が集まる。それを踏まえて、こっちも回避行動を行おうとするが、バルクホルンだは光を確認したにもかかわらず、引っ掻き傷をつけるのに必死だ。
《トゥルーデ! 何してるの!》
《まだいける!》
ハルトマンの悲鳴とも怒声とも取れる声。それに短くそして大声で返すバルクホルン。
その会話の次が来る前にレーザーは放たれた。
バルクホルンはどうにか上方向へ避けたものの、その射線上にはペリーヌもいた。バルクホルンに隠されて見えなかったレーザーを反射的にシールドで対処できたが、大きくバランスを崩すこととなった。吹っ飛ばされた体を持ち直そうと、下手にフラフラと上昇したことで、ペリーヌはバルクホルンの背中に突っ込んでしまう。さらに間の悪いことにネウロイの追撃が重なった。バルクホルンは咄嗟にシールドを貼るが、ちゃんとシールドに隠れきれなかった片方の銃がレーザーによって暴発。破片をあたりに撒き散らせる。
声にならない悲鳴をあげるペリーヌと空気の裂けるような大声で落ちていく彼女の名を呼ぶミヤフジ。二人が全速力で彼女の元へ向かうのを、少しの間呆然と眺めた後、俺もいまだ現実を理解できていない色を失った表情のハルトマンを連れて降りていった。
バルクホルンが落ちたのは鬱蒼とした森の中のちょっとした芝生の広場で、2人はどうにかバルクホルンが地面とキスをするのを止めることができたらしく、背丈の小さな草のベットの上に寝かされてある。派手な爆発の割には火傷の跡もなく、怪我は胸のところだけ。しかし、それからとどめなく溢れる血液は、この傷は命に関わるものだと知らせていた。
「私のせいだ! どうしよう……」
今にも泣きそうな声で自分を責めるペリーヌを横目に冷静に怪我の様子を見るミヤフジ。
「動かせない。ここで治療しなくちゃ!」
「お願い! 大尉を助けて!」
遠い星々の瞬きのように震える悲痛な叫びが森の中へ消えていく。返事をするように、手のひらから青い光が現れた。
時を同じくして、ネウロイにも動きがあった。奴は頭を上へと向けゆっくりと降りてきた。
じわりじわりと高度をを下げてくるネウロイは先刻の借りを返さんとレーザーを一発放った。ペリーヌがシールドでそれをとっさに受けたが、俺はここに降りて何もしていない。何か力になろうと試しに手を出して何か出ろと念ずるもうんともすんとも言わない。手をふれども、必死にシールドの事を考えても、ただ手が空を切り焦りが募るだけ。後ろでは空虚な目でバルクホルンを見るハルトマンが見える。俺は、こいつらよりも2倍も長く生きているのに何もできない無力感に呑まれていった。
「私に張り付いては危険だ。離れろ。私なんかに構わずその力を敵に使え」
目を覚まして早々に、全てを諦め切った表情でバルクホルンはそう言った。
「いやです! 必ず助けます! 仲間じゃないですか!」
「敵を倒せ。私の命なぞ捨て駒でいいんだ」
「あなたが生きていれば私なんかよりもっともっと大勢の人を守れます!」
「……無理だ。皆を守ることなんてできやしない。私はたった1人でさえ……」
「皆を守ることは無理かもしれません! だからって、傷ついている人を見捨てるなんて出来ません! 1人でも多く守りたいんです!」
バルクホルンの言葉を、綺麗に吹っ飛ばす年端も行かない少女の叫びを聞いて俺は腹を括った。
「皆を守れないなんざ、その通りさ。死は平等にいつか来るもんだ。ほっときゃ死ぬこいつをほっぽり出すことなんざ簡単なことだ。だが、こうやって敵が降りてくるど真ん中で必死こいて世話を焼く大馬鹿野郎がいるんだ。勝手に無力感に苛まれてる場合じゃねぇな」
「……そうだね。それじゃあ、トゥルーデが治るまでにどっちがあの悪趣味な野郎をやっつける?」
「決まってるだろ? 早い者勝ちだ!」
地面に突き刺さったストライカーユニットのエンジンをぶん回し、一気に上昇していく。もうやることはわかっている。俺がここに来たのはこいつらが平和に暮らせるまで1人たりとも欠けないためだ。あの肥溜めの中で、あの渡り鳥の群れの中で、俺は数々の命の灯火が消えるのを見てきた。だからこそ、こいつらにはそんな思いなんぞさせるわけにはいかない。
「コアの位置は!」
《胴体中央! バルクホルンは大丈夫なのか?》
「下で大馬鹿野郎が治療してる! 俺たちでさっさと白煙に変えなきゃなんねぇ!」
コアの位置はわかった。僚機にはハルトマンがいる。タイムリミットはペリーヌのシールドが耐えれるまで。こんな無茶振りはアイツ無しにはキツいが、出来ねぇとは言えねぇ。
ネウロイはこちらに気づいたのか、地上への攻撃を取りやめこっちにレーザーを向けてきた。それを機織りのように2人で交差しながら飛んで、飛んでくるレーザーを避けながら2人で同時に肉薄し、攻撃を行こう。2人で円を作るように飛び、マシンガンから弾を撒き散らせる。そして、円の完成と共に赤い宝石があらわになる。
一度、離脱して再度攻撃を行おうとしたその時、雄叫びとともに地上から上がってくる一機の機体、バルクホルンが現れた。手に持った二丁のマシンガンは火を吹き、曳航弾は光の帯を描く。そのいずれかがネウロイのコアを打ち砕き、その体を白い破片へと変化させた。
「綺麗に美味しいとこ持っていかれちまったな」
「それでいいよ。トゥルーデが無事なら」
ミーナから愛の平手打ちをくらい、その上で愛のあるハグを受け取っているバルクホルンを遠目から見て、ハルトマンは心底安心して体の内側から灯がともったような温かな表情を浮かべていた。