ヒロアカ×ダークザギ  ネタ   作:蜜柑ブタ

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筆が乗っているうちに。



一気に終わらせました。

戦いは原作を意識しつつオリジナル展開です。
ザギは鉄砲玉達を。治崎を通形が相手します。

通形は原作通りになるが……?


あとタイトル通り、ザギが治崎に罰を下します。





それでもOKって方だけどうぞ。






いいですね?


第82話  ザギが与える罰

 

 

 奇妙な空間には、二人しかいない。

 治崎廻の前には、闇より濃いと錯覚するほどの黒い色と、黒を映えさせるような鮮やかな赤い色の模様と同じ色の奇妙な両目の人型のそれが立っていた。

 無様に尻もちをついて動けない治崎を見下ろすそれは、仮面の様に変化のない顔なのになぜかこちらをあざ笑っているように見えた。

 きっと正常で理性があった時の治崎なら、その視線をすぐに破壊してやっていただろうが今の治崎にはできない。

 もはや喰われるのを待つだけの獲物のように何もできないことができてしまう冷静さが残っていることが呪わしかった。

 

 

『〔因果応報ってのが現実にあればいいよな?〕』

 

 

 治崎は、眉唾な知識を信じない。

 個性は病気であるという思想や論文は科学的な観点もあって信じたが、科学では解明できないものは信じない。

 だが……、もしも地獄から罰を与えにやってきた使者がいるのだとしたら……。

 今目の前にいる黒い怪物じゃないかと、今なら信じられる。

 そして……、自分に今まさに罰が与えられようとしていることを理解してしまう。

 いっそ死を宣告し、地獄に送り届けるために迎えに来た死神の方がマシだったと。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 時は少し遡る。

 

 まず、事務所内の照明が消えた。

 ブレーカーが落ちた様にブツンと音が聞こえた。

『〔あのクチバシがきたみたいだな〕』

「えっ⁉ ま、まさか…。」

 突然のことに驚く三人にザギが落ち着いた声音でそう言った。

 クチバシと言われてすぐに出久と通形は、ペストマスクの男こと治崎を思い出し、顔をゆがめる。

 壊理は最初のうちは突然のことにオロオロしていたが、本能的に何が迫っているのかを察したのかすぐに青ざめ、両腕で体を抱いてガタガタと震えだした。

『〔ま、本人は来ちゃいない。あいつの下っ端が裏口から入ってきたってところだ〕』

「本当なのか?」

 通形が慎重に聞き返した。

 その間に出久は恐怖に震え上がって動けない壊理を両腕に抱きかかえて持ち上げていた。

『〔鉄砲玉というんだろう? 反社会勢力で使い捨てるための部下というのは〕』

 ザギはどこか嘲るようにそう言った。

 実際プロヒーローのビルに直接襲撃をするようなのは、よっぽどの実力者か、それこそ使い捨てで自爆させるか、囮に使われる人間ぐらいだろうと見ている。

 しかも事務所所長のナイトアイ不在を狙ったとのも警察機関やプロヒーロー達が本気で動き出すまでに片をつけるために焦ったためだろうとザギは考えた。

 反社会勢力。いわゆるヤクザと呼ばれる勢力は、今のこの日本では縮小か解体かのいずれかになる状態になっていた。そんな中で細々と生き残ってきた治崎が率いている死穢八斎會というヤクザの組も縮小していて元々の力をほとんど失っていたが治崎の策謀や知略で勢力を持ち直しつつあったようだ。

 これはナイトアイの事務所のパソコンなどの情報媒体からザギが勝手に閲覧した死穢八斎會に関する情報だ。

 ヤクザの組織は、個性が当たり前になる前から存在する悪党の集団の代名詞のひとつであるため、前々からナイトアイが警戒しており、最近では組長に代わって治崎が上に立って組を動かしているということも判明している。

 治崎の目的は、組の勢力を強化することと、治崎個人の野望を叶えることだ。

 治崎は、個性に対して異常なレベルで嫌悪感を持っておりそれは肉体に顕れるほど酷い。

 個性を持つ人間が体に触れるだけで蕁麻疹が出る有様である。

 治崎は個性とはある種の病気だという思想と論文に共感し、それを治療する=無くすことで病気まみれの世界を良くして自分がその頂点に立つことを目論んでいた。

 そのために必要としたのが組長の実の孫娘であり、『巻き戻し』という強力すぎる個性を持つ壊理だった。

 彼女が個性の暴走を起こし、実の父親を巻き戻しの末にこの世から完全に消し去ったという事故を起こしたことが治崎が彼女の力を個性を消す武器に使えると判断するに至った要因だった。

 生命体限定で作用するこの個性は、まさにこの世の理を破壊しかねないほどのものだと治崎は考えており、実際大人の男を生まれる前……完全消滅させたほどだ。力の作用の仕方次第では、人間を猿にするなど特定の要素だけを退化させて消失させられると考え、個性だけを巻き戻して消滅させる個性破壊弾というものを発明した。

 その製造方法が強い力を持っているだけの罪のない幼子を生きたまま切り刻んで取り出した血と肉を詰め込んだある意味生物兵器であることを伏せてすでに試作品の一部を売り込んでいる。

 祖父の組長は夫を消したことから娘を捨てた母親(組長の娘)から引き取り、個性の使い方などについて参謀の治崎に任せていた。それは純粋に治崎を信頼してのことだった。

 だが治崎は、壊理自身の現在と未来を犠牲にして、個性という病気をこの世から無くすための材料にした。

 そのことを知った組長が当然止めさせようとしたが、治崎は敬愛する組長のためだとして自分の個性を使って組長を植物状態にした。

 あらゆる方法で壊理の肉体を生きたまま体中を切り刻み、限界になって死ぬ寸前になったり個性が暴走すれば治崎の持つ個性で強制的に個性を止めたり、修復して生き返らせる。

 個性『オーバーホール』は、右手と左手で破壊と修復を行う強力な個性である。治崎はこの個性の名を自分のヴィランとしての通り名にもしているほどだ。

 個性アレルギーの癖に子供の個性と自分が生まれ持った個性を使って個性を無くそうとは…、とんだ矛盾だとザギは呆れている。

 たった6歳の幼子に個性というものが当たり前になった社会の闇を濃縮した地獄に堕とした張本人。

 切り刻まれて採取された血肉は、銃の弾丸に込められ個性破壊弾として一部がすでに裏で売買されていた。研究の成果を試すため、そして個性が消される恐怖で周囲を抑え込むため、色々な準備をジワジワと行っていたまっただ中で材料である壊理を出久達に確保された。

 これは完全に治崎にとっては想定外であり、しかも出久にはあの黒い巨人ことザギがついていることもすでに周知されているから治崎も見知っている。だから壊理が隙をついて脱走したのを追いかけて捕まえに来た先でザギを模したパワードスーツ姿の出久を見て強く出られなかったし、ザギが壊理から記憶を読み取ったことを知らせたことで自分の所業や情報を知られたと知って退散せざるおえなくなった。

 逃げ帰った後相当荒れたに違いない。やっと実用化できる段階まで個性を消して無個性にする最強の武器を流通する流通網を築こうとした矢先のことだったからだ。

 しかもあのあとからナイトアイを中心に治崎達の組に正式に立ち入るための準備をしている動きがあることも、治崎達は気づいたはずだ。すでに裏で少量だけ流通させた個性破壊弾そのものを確保されるのも時間の問題。

 つまり時間がない。焦りはピークを超えている。だから鉄砲玉を使ってでも強硬手段に打って出て、壊理を確保しようとしたのだろう。

 ナイトアイが色々な法の問題ですぐに動けないうちに終わらせようとして……。

 

 

 〔囮か、爆弾か毒物でも持たせて自爆前提で攻め入らせたか……。あのクチバシが焦って行動を起こしたにしては……雑だ。そもそも毒物を用意する余裕があるか? 警戒MAXの中で武器確保は困難なはず。チビガキを確保すれば高飛びなりなんなりして国外逃亡をするとして、そうなると組も部下も、そしてそれ以外も残して、海の向こうにいる同じ思想家がいるコミュニティに駆け込むか? 少なくとも思想を現実に実行するだけの知力と資金と技術が手元にあるっていうことは、知識を共有しあった同じ思想家が他にいれば個性という病気を完治させる名目での発明がしやすくなる。っとすれば、芋づる式でそこの繋がりも手繰り寄せて一網打尽ってことになればナイトアイとかいうのの手柄にもなるし、その一番弟子ということで通形の出世も早まるか?〕

 

 

 トカゲのしっぽ切りで治崎がその思想のコミュニティから弾かれる可能性があるが、少なくとも治崎には個性を破壊する兵器を開発し製造するノウハウがすでにある。

 壊理という絶対必要な素材だけが不可欠であるとなれば、壊理さえ持っていけばそのコミュニティの加護下で亡命成功という未来があり得てくる。

 だから非効率的な襲撃作戦をしてでも動いたのかとザギは考えた。

 治崎と同じような思想家のコミュニティが実在するかは不明だが、少なくとも似たような考えを持つ人間は海を越えた先、言語の違う世界の裏側であっても意外といるものだ。全く違う国に血のつながりもないのに外見だけそっくりさんがいるほどなのだし、そうでなくともネットという電子世界の匿名の繋がりで顔も名前も分からない相手と意見を出し合い意気投合できる今の社会の文明のレベルなら、可能性はゼロじゃない。

 そこまで詳しくネットの海を調べてやる気はないが、向こうから来たのは非常に都合がいい。逃げる前に潰せばいいのだ。

 

 

 〔獲物が自分から喰われに来るなんて……、まさに鴨が葱を背負って来る…か。都合がいい。クチバシが土壇場で愚かで馬鹿になる奴で良かった〕

 

 

 自分が世界の中心になるという野望が普段の正常な状態ならやらないことをやらせた。

 ジワジワと迫る野望が潰えるまでの音に臆して判断力を欠いた。

 愚かで。罪を重ね。まだ自分だけは助かるのだという可能性を信じている馬鹿者。

 利用できるものは利用してやる。そのために周りを見ていた。口出しもした。

『〔……出久〕』

「なに?」

『〔体を借りたい〕』

「それって…。」

『〔ちょっとばかり便利に見える力があるだけのチビに地獄を与えた馬鹿には、この国の法の裁きより地獄の予行演習がちょうどいいと思った。…ダメか?〕』

 ザギの言葉に出久は目を見開くが、すぐに表情を引き締めた。壊理を抱きしめる腕に力がこもりそうになるのを抑え、通形に向き直った。

 出久はザギと共に壊理が受けた仕打ちを読み取り、その痛みと感情を自分のこととして感じているのだ。込み上がる感情は耐えがたい。今の法治国家の裁きでは足りないと賢いから理解できた。

 出久は、己を善良だとは考えない。時にヒーローは大勢に後ろ指差される役だってこなさなければならないのだから。

「先輩! 壊理ちゃんをお願いできますか!」

「何をする気なんだ⁉」

「いずくさ…。」

 通形に渡される形で通形の腕の収まった壊理は途端に泣きそうな顔で出久に手を伸ばす。

 そんな彼女に出久は精一杯の笑顔を見せた。

「壊理ちゃん。君の地獄も悪夢も……、全部今日で終わりにさせるよ。」

「!」

「ザギと…僕と…、ルミリオンが!」

 パワードスーツを納めている鞄を素早く開き、慣れた手つきで素早く装着する。

 通電していない暗闇の中で全ての準備が整い、パワードスーツの模様と目に赤い光が灯る。

 スーツの通風孔から蒸気が漏れ、侵入者達がその音を聞いて近づくのを感じた。

『……任せるよ、ザギ。』

 そう言って出久は頭部を覆うヘルメットの下で目を閉じた。

 意識がザギと交代する。

 ヘルメットの目の部分の輝きが強まった。

 それを見て通形の身が勝手に震えた。ザギと意識が入れ替わったのだと気づいたからだ。

『〔……雑魚どもは適当に片づけてくる。クチバシが来たときはお前がやれ〕』

「あいつが来るのか?」

『〔冷静でいろ。奴は冷静さを装っているだけだ。上手くやれ〕』

「分かった!」

「ざ、ぎ…さ……。」

『〔ガキは嫌いだ〕』

「!」

「ちょっ、言い方!」

『〔ガキらしくデカい奴らに守られてろ。ちょこまか動いてあのクチバシに捕まりたいか?〕』

 ザギの脅すような声音に、顔が青を通り越して白くなった壊理がブンブンと首を横に振った。

『〔それでいい。嫌なら嫌って言え。本音と建て前なんて大人になってから覚えればいい。言いたいことはハッキリとな、ガキのうちにワガママできるだけ、ワガママでいろ。ワガママでやった失敗は、お前が味わった地獄に比べりゃどーってことないって笑い飛ばせるほど痛くもかゆくもないってな。傷ついた分だけ強くなるってやつだ。それと、あのクチバシに返してやる気なんぞはなからない。だから、今後、ガキしらくない媚びもするな。言うこと聞けねーなら、つねるぞ?〕』

 ザギはそう言って片手の指でほっぺたを摘まんで捻るような仕草を見せた。

 尖った指先のせいであれでつねられたら絶対痛いと分かり、壊理はブンブンと今度は首を縦に振った。

 それからザギは、通形を指差した。

『〔ルミリオンの名前の由来に恥じない行動をしてみろ。できたら卵以下じゃないって認めやる〕』

「当たり前だ! あと、その酷い例え方、二度と言わせないよ!」

『〔できたらいいな?〕』

 ザギは肩をすくめながら意気込む通形と、通形の腕の中で大人しくしている壊理を残して食堂から出て行った。

 

 

 〔……何やってんだオレは。本当に……らしくない。なんでこんなことをしている?〕

 

 

 廊下も真っ暗だがザギには関係ない。

 なんなら壁の向こうだろうと見えるし、聞こえる。

 

 

 〔全部出久のためだ。そうだ。そのはずだ。そのつもりであの男も…、チビガキも……。使える物は全部使え! そのつもりでいただろうが! 何を揺らいでいる⁉〕

 

 

 暗い中を動けるサポートアイテムを使って動き回っている侵入者に音もなく背後に近寄り、わざと肩をツンツンしてから向こうが振り向いた瞬間にザギの姿を見た表情を堪能してからバチコーンと死なない程度に一撃を入れて動けなくさせる。

 なんかバリアのような個性を使っていたが、脆すぎてザギからしたら意味がない。

 妙にうるさい音を辿って非常食が置いてある倉庫の方に行けば、バクバクと任務そっちのけで段ボールと包装ごと食い荒らしている布で全身を覆ったような男がいたから足を掴んで宙ぶらりんにしてやってやっと我に帰った食いしん坊の眉間に膝をお見舞いしたら顔が軽くへこんで白目剥いて顔から血やら口から流れ出る涎でダ~ラダラになったが命に別状はないので、見つけやすい位置に捨て置いた。膝のパーツの範囲のせいで男の前歯がほとんど砕けたが知らん。歯が無くても死にはしないし、今は歯医者の技術も入れ歯も優れているからなんとかなる。

 そう思っていたらすぐに二人の侵入者が倒れている男を見て声を上げた。

 なんか怒っているようだがどーでもいいのでサクッと水晶を砕いて、手癖の悪い手も捻ってから意識を奪い、仲良く並べてやった。こいつらの事情なんて興味もない。

 事務所内にいた駐在している事務所職員やサイドキックのプロヒーロー達は、一か所に監禁したらしく、扉を蹴り破ったら扉の前にいたばかりに扉ごと侵入者のひとりが吹っ飛んで壁まで飛んでめり込み、残りのデカい体をしたひとりは拘束された奴らを人質に使おうとする前に首をコキッとしてやって終了。命に別条がない程度なので問題なし。

 意識が戻った職員が、やりすぎだと青ざめていたが、そんなの自分には関係なしとザギは彼らの拘束を解いてからさっさと去っていった。

 そうこうしていると食堂のある階から轟音。振動。

 しっかりした造りの事務所からパラパラと漆喰の欠片が落ちてくるほどの戦いが起こっているようだ。

 天井を見上げれば、治崎以外に邪魔がいる。

 捨て駒がまだいたらしい。

 そいつだけを狙うため天井をぶち破って、床からそいつの足を掴んでアリ地獄のように穴に引っ張り込んだ。

 何事か言っていたが聞いてやる義理もないので、さっさと黙らせて床に転がし、天井に開けた穴から上に出る。

 食堂だった場所は少し見ない間に見るも無残な有様になっていた。

 治崎という男の個性で壁も床も天井も変形しており、それを攻撃と防御に使っているようだ。

 この勢いだと事務所が丸ごと治崎によって破壊され尽くされそうだが、それだとあとが面倒くさいので奮戦している通形の頑張ってもらいたいところだ。たぶん通形もそこは理解しているだろう。

 治崎の後方に現れたザギを見つけ、通形が少しホッとした顔をした。

 通形からお守り代わりに渡されたらしい通形のコスチュームのマントで身を包むようにしマントを握りしめた壊理は、通形からかなり後方に下がっていて戦いを見守っている状態だ。

 通形の様子を見てやっと後ろにザギがいることに気づいた治崎が目を見開き、顔色を悪くした。

『〔オレは、手を出さないぞ?〕』

 そう言って崩れかけの床にあぐらをかいて座り、観戦する客のようにふんぞり返った。

「ぐ…く、く……、き、きさま、さえ……。」

『〔理不尽な不幸はな、大なり小なり誰にでも降りかかる。お前のそれは、今。ほら、前見ろ〕』

 ワナワナと震える治崎に通形の拳が迫る。

 寸前で避けが治崎が個性で無数のトゲを生成して、通形ではなく壊理を狙った。

「なに⁉」

 まさか生きて確保したいはずの壊理を狙うとは考えていなかった通形が凄まじい速さで踵を返し、壊理を抱き上げて飛んできたトゲから守った。

「壊れれば直せばいい! 壊理が限界になるたびに何度もそうしてきた! どこまでも邪魔をする病人共……、調子に乗るのも今のうちだ……。」

 治崎が懐から小型の銃を取り出す。

 普通の拳銃ではない。オモチャとも違う。恐らくあれは……。

 ザギには、あれがなんであるかがすぐに分かった。だが通形には伝えない。ここは通形の戦場だ。

 通形の個性は、透化。自分自身をあらゆる物質やエネルギーを受け付けなくさせる、使い方次第では無敵だが、制御できなければ下手すると地球の中心に落ちてしまうという一発アウトの使い勝手の悪い個性だ。

 それを使いこなすまでに費やした時間と努力は確かなものだ。

 だが守る対象がいたら自分だけが攻撃を受けないが守る対象を透化できないので攻撃から守らなければならない。壊理が狙われると通形は、自分を無敵状態にする個性に制限をかけなければならなくなるのだ。自分が透化せずに盾にならなければ通り抜けた攻撃が壊理に当たってしまうからだ。

 通形は、確かに最も№1に近い男とプロヒーロー達に認めさせるだけのことはある。実力は確かだ。

 だがやはり経験値…、戦いの経験が足りない。

 しかも相手は危険思想を持った手段を選ばないヴィランときた。

 壊理が負傷したとしても治せる手段があるから遠慮がない。

「壊理…、いい加減に戻ってこい。お前が普通に生きられるとでも思っているのか? その個性で父親をこの世から完全に消しておいて……、そのせいで母親はお前を化け物と詰って捨てて…。そんなお前がただの普通の子供と笑って遊べるとでも考えたか? そんな幻想を夢見てどうする。その個性さえなければ今頃…。」

「ぅ…うう……!」

 治崎の言葉に壊理はガタガタと震え、目から涙があふれる。目をギュッと瞑り、身を縮める。

 通形の表情が怒りに染まる。

「弱い者いじめをして楽しいか⁉ 子供を! ただ強い個性があるだけの子供を! 追い詰めて! そんなことをしてお前の野望が叶っても誰が称賛するんだ!!」

「この世には俺と同じように個性なんてなければ……と考えている人間は少なくない。お前が知らないだけだ。知ろうとしない。視界に入れていない。目もくれない。なにがありったけの人を助けるヒーローだと? 俺の部下はお前達ヒーローどころか、誰にも目を向けられずに社会の底辺も底辺で這いずっていたぞ? そいつらは対象外か? なあ、ヒーロー? この偽善者が。」

「ああ…、今の俺じゃ何もかもは救えない…。ルミリオンの名前通りになんてできない。それは俺自身が嫌というほど分かっている! だからこそ! 俺は! もっと、もっと! 強くなって! 仲間もたくさん作って! 広げるんだ! 手が届かないところで助けを求める人を救うために!! だから!!」

 そう語る通形の脳裏には、ザギによって体験したあの恐ろしい怪物スペースビーストとの戦いの記憶が鮮明に蘇っていた。

 どんなに手を伸ばしても、どんなに力を尽くしても、助けられない、逆に助けないことで得られたもので後に助かる別の命があるという非情な選択をしなければならなかった記憶。

 ありったけを救うための強固な足場は、誰にも助けられなかった、助けてもらえなかった屍で築かれているのだと知らされた。思い知った。その残酷極まりない事実と疑似世界で得た経験が通形を強くした。

 通形が壊理を片腕に抱えたまま、治崎が作った防壁を片腕と脚で砕いていく。壊理に一切の攻撃が当たらないように全ての障害物も攻撃も防ぐために破壊する。

 その勢いは最初の頃とは違う。通形の意志が力を増幅させているのか治崎は通形の猛攻に目を見開く。

「俺は立ち止まらない! 何度倒れても立ち上がるんだ!! いいや、立ち上がってみせる!! ありったけのたくさんの人を助けるヒーロー、ルミリオンに絶対なるんだ!!」

 治崎が慌てて造り直した壁は一瞬にして砕け、通形の渾身の拳が治崎の顔面をとらえた。

 治崎の体がボロボロの食堂内を何度もバウンドし、壁際に叩きつけられて止まった。

 だが治崎は、笑った。

 通形の右の鎖骨辺りに何かが刺さっていた。小さな吹き矢のような……、それよりも小さい何か。

 痛みがなかったから異変にすぐに気づけなかった。

「っ、…個性無しで、ヒーローが務まるのか?」

「これは…!」

「個性破壊弾の…完成品だ。どうだ? 無個性になった感想は…?」

 それを聞いて、通形の腕に抱かれている壊理が過呼吸を起こしかけていた。

 個性破壊弾が自分の血肉を素材に作られていると知っているからだ。そのせいで通形がヒーローとしての道を絶たれたと理解したのだ。

「だいじょうぶだよ。」

 通形は、鎖骨に刺さった小さな小さなその注射器を掴んで抜き取り、壊理の頭を優しく撫でながらとびっきりの笑顔を見せた。

「ヒーローは、一芸じゃ務まらない! そう先生達から嫌ってほど教わってるからさ! 個性が無くなったくらいでなんのこれしき! この程度で勝った気になるなんて甘いぞ!」

 壊理を抱えていない方の手を腰に当てて胸を張って堂々と言ってのける通形は、実に晴れ晴れとした顔と輝かんばかりの光オーラを出している。

 治崎は、通形の前向きさに呆気にとられたという様子だ。

『〔何度転んでも立ち上がり…、何度泣いても笑うか……。どこにでもいるんだよな。こういう前向きなクソしぶとい奴は……。そこだけは、オレが負けた奴らに似てる…〕』

「!?」

『〔なんだその顔は? こう見えても、オレは敗者だ。これ以上ないほど完璧に負けている。お前はどうなんだ? 負けた側になった気分は?〕』

「う…。」

『〔残念だ。もう少し冷静でいれば……〕』

 ザギがぐったりしてる治崎に言葉をかけている間に、事務所の照明が灯った。

 そして無数の足音が近づいてくる。

『〔1パーセント以下でもお前が勝つ可能性はあったかもなぁ?〕』

「うぅぅ…、あ、ああ……、ああああああああああああ!!」

『〔やかましい〕』

「ぐはっ⁉」

 まともに動けないのに騒ぐ治崎をスパーンっとザギがしばいて黙らせた。白目をむいて倒れたが、死んではいない。

「て、手加減はしてるよね?」

 通形が念のために聞いてきた。

『〔こんなのを殺して得があるのか?〕』

「よく分からないけど酷いこと言ってる⁉ すごい酷いこと言ってる⁉」

「留守にしている間に……、ずいぶんと……これは…。」

「サー!」

 そこへやってきたのは、ヒーロー達や武装した警察を連れたナイトアイだった。

「……ひとまず全員救急医療センターへ。詳しくはそのあとで。まさか、あなたの仕業ではないでしょうね?」

 ナイトアイが疑いの目を向けるがザギはフンッと鼻を鳴らし、肩をすくめた。

『〔鴨が葱を背負って来ただけだ〕』

 そう言って倒れている治崎を指差した。

「それなら良いです。……諸々の手続きの手間が無駄に終わりましたが。」

『〔出回った個性破壊弾の回収と裁判用には十分だろう?〕』

「それは抜かりなく。あなたからの情報があったからできました。」

『〔そこのチビが色々耳にしてたのが功を奏しただけだ〕』

 ザギが通形の腕の中にいる壊理を指差した。

 ザギは、壊理を超能力で調べた際に様々な情報を得ていた。その中には試験段階の個性破壊弾の流通ルートやその顧客についての情報も一部あったのだ。壊理が実験をしていない間に監禁されている部屋でたまたま耳にした治崎達の会話だった。どうせ壊理が聞いたとしても意味がないから隠しもしなかったのだろう。ザギの超能力じゃなくとも、多種多様な個性がある今の時代に情報集めに特化した個性によって些細なことで情報が漏れる可能性を考えられない時点で治崎は野望を叶えることはできなかったのかもしれない。

『〔大金星をあげたのは、お前の弟子だ。オレより先にそっちを労え〕』

「そうでしたか……。ミリオ、よくやりました。」

「はい…!」

「あ、あの…っ。」

「どうしました?」

「あっ…、実は……。」

 目からポロポロと泣いて酷く震えている壊理の様子に顔をしかめるナイトアイに、通形が言いにくそうに説明した。

 それを聞いてナイトアイは、目を見開き、だがすぐに冷静さを取り戻して眼鏡を指で押さえた。

「壊理ちゃんのせいじゃありません! 俺のミスです!」

「……分かってます。とりあえず精密検査などをして、今後のことも考えましょう。」

「ごめんなさ…っ、ごめんなさい…。」

「だいじょうぶ、だいじょうぶだから。悪いのは君の力を利用してあいつだ。俺が倒したからもう誰かがこんな目にあわないよ!」

 通形が泣きながら謝罪を繰り返す壊理を抱っこし直し、懸命に慰める。

 ザギは、まったく動じていない。

 通形が個性を失ったことでヒーローへの道が絶たれたかもしれないという中で余裕だ。

 なぜならこうなる可能性を考慮していたからだ。だから治崎が完成した個性破壊弾を持ち歩いている可能性と使用されることもあえて伝えなかった。

 やはり治崎は変なところで馬鹿だったとザギは再度思った。

 個性を奪われて無個性になったプッシーキャッツのひとりを現役復帰させたという事例をザギがやったというのに。

「ところで、緑谷くんは? さっきから表に出ているのはあなたですよね、ザギ?」

『………ナイトアイ。これは僕の判断です。』

 ザギが引っ込み、出久が深々と頭を下げた。

「それについても聞きますので、まず病院に行きますよ。」

 そうして救急隊によって事務所の人間達が救急車に乗せられ、治崎と治崎の部下達はガッチリ拘束した状態にしてから病院に搬送された。

 

 

 〔……さてと。地獄の予行演習だ〕

 

 

 負傷したヴィランを治療しつつ収容する警察が管理している専門の病院の一つの一室に、ザギのホログラムが現れた。

 がっちり全身拘束された治崎は、まだ意識が戻っていない。

 だがそれでいい。

 その方がいい。

 眠っている間に済ませるつもりだった。

 

 

 

 そして……、話は冒頭に戻る。

 

 

 

 ここは、治崎の夢の中。

 外部では何が起こっているかなんて知られない。

 

 

『〔地球人は寿命がなぁ。足りない足りない。あのチビが受けた地獄を倍にするには全然足りない。じゃあどうする? なあ…、不思議なものだよなぁ? 体感時間ってものがある。確か地球のどこぞの神話じゃ、2種類の時間の神がいたな。ひとりは世界そのものの時間。もうひとりは人間の主観から感じる時間。後者の名前は……、カイロス。ああ、そうだ、そんな名前だった。そのカイロス時間でならいけそうだ。なにをって? 地獄に落ちる前の……予行演習だ。他人に地獄を与えておいて、自分が地獄を味わないなんて不公平だろう? 自分がされて嫌なことは人にするなって、お前らはよく言っているなぁ? お前みたいに頭のいい奴や反省なんてその場限りで済ませられるって知っているから意味がない。せいぜい短い世界の時間の中で、人間の体感時間でなが~~~く地獄を楽しんで来い。怨むなら、オレがいる時に生まれて生きてきたことを怨め。怨める余力が残ればいいがな? じゃあな、クチバシ。来世にオレがいないことを期待してろ〕』

 

 

 ザギの高笑いを最後に、治崎は己の体感時間の中の地獄に堕とされた。

 いくら言い訳や言い分を述べてもザギには意味がない。そもそも聞いてやる理由がない。最初から治崎のことをただ利用できる要素としか見ていないのだから。

 壊理が受けた地獄を倍以上にしたうえに、治崎が最も嫌がる内容も盛り盛りに加えた地獄。

 あくまで治崎の体感時間、夢の中などの外部に分からない形で、それが治崎を襲う。

 ザギが設定した世界の時間の期間が終わるまで。だが治崎の体感している時間は遥かに長い。

 いったいそれは、何年? 何十年? 何百年? 世界の時間と切り離された体感時間はいったいどれぐらいして終わるのかは、その地獄に堕とされた治崎にしか分からない。

 

 

 

 

 出久達は関わらない後日談であるが、インターンが終わって更に約30日後……。

 治崎は見る影もないほど真っ白な髪になり、瘦せこけて生気を失った有様で法廷に引きずられるように出てくることになる。

 そんな有様では当然まともな受け応えなんてできやしない。

 こんな状態では法に則り、実際に実行した罪に与えられる減刑されてしまうのが常だ。

 心身膠着という理由から減刑されたり、なんなら無罪放免なんてこともあり得ることからどれほどの被害者遺族が悔し涙を流しただろう。時に怒りと憎しみによって私刑が行われてしまうことすらある。法の限界による絶望の末路というべきか。

 だが加害者にも権利があると法で定めた法治国家では、それに従うしかない。

 しかし……、今回の場合は、むしろ今の日本の刑罰を与えても意味がないほど酷い有様になっていたため、きっと何か分からないがとんでもない罰が当たったからあんなことになったのだと誰もが考え、納得した。

 誰かが何もしなくてもあのままの方がもっとも辛い生き地獄だろうから……。

 

 

 

 




治崎に与えられた地獄は、世にも奇妙な物語でよく話題に出てきてると自分は認識してる「懲役30日」を参考にしました。
体験したのは、壊理が受けた仕打ちの倍以上+治崎がやられて嫌なこと盛り盛りの地獄です。
治崎の体感時間でどれくらいの期間になったかは不明ですが、元ネタより酷いことにはなっています。

カイロス時間について知ったきっかけは、SCP関連でした。
パッチワークの熊がカイロスくんというので、カイロスの意味を調べたらギリシャ神話の時間の神様だと分かり、クロノスが世界そのものの時間で機械的、カイロスは人間の主観で見たり感じた時間でつまり体感時間だというのをWikipediaで知りました。
確かにその時その時で時間が短く感じたり、逆に長く感じたりするし、見ないでストップウォッチを押すゲームとかをテレビで見ると体感時間って不思議だなって。

ザギは、通形が個性を失う可能性を予想していましたが全然心配してません。
プッシーキャッツのひとり、ラグドールが個性をオールフォーワンに取られてしまった後、神野事件後に出久に頼まれて何をしたかを覚えているならすぐ分かるかな?って。
濁しても仕方ないんですが、他者の個性を自分に書き込んで自由にできるようにするのは、神野事件でやったようなことをせずとも気づかれずに簡単にできるんです。触手みたいなのを刺さずともできるように自分を進化させておけば、それこそネクサス世界を基にした疑似世界を体験させた時にでも……。

治崎が知らなかったのは、壊理を奪われたこととナイトアイによる包囲網が築かれることへの焦りによって冷静さを欠いたこともありますが、ザギが通形の個性をすでにコピーしていて個性破壊弾で無個性にされてもすぐに戻せる準備をしていたことを考えていなかったからです。
ザギがヒーロー嫌いだってことは広く知られていますが。まさか出久からの頼みだったり、嫌々だけど目的のために助けるとは考えなかったという。
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