※オリキャラあり(セリフ等はありません)
3人の関係がこうならいいなというただの駄文ですが、供養のため投稿いたしました。

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今なら分かる特別な関係

そういえばいつ以来になるだろうか。

 

彼女たちと集まるというのは。高校卒業後それぞれの大学に進学した後も何かにつけて集まっていた。

しかし大学を卒業して2年が経つ今では、たまにしていた携帯での連絡さえも全くしなくなった。

そういう意味では今日の食事もそれに関する連絡も久々と言ってもいいのだろう。

そんなとりとめもないことを考えながら待ち合わせの店に彼は向かった。

 

 

 

 

店に着いてまだ着け慣れない時計を見ると約束の5分前だった。

いざ店の扉を開けると店員に声をかけられるが、適当に返事をして店内を見渡す。

店内では3月下旬ということもあっていろいろな客でいろいろな盛り上がりをしていた。

時間は早いが必ずこんな店内にいると確信があった。

 

その確信は正しかった。

店の奥の座敷に見知ってはいるものの、前見た時よりも美人な彼女たちがいたのだ。

久々に会う旧友に何と声をかけようか迷っていたら、向こうがこちらに気づいたらしく手を振っている。

気づいてくれたことは嬉しかったがそれを表に出すのは恥ずかしい。

彼は手を軽く上げて、そのまま彼女たちが並んでいる机の向かいに座った。

するとその態度に不満があったのか、今は黒髪に戻した彼女が、私怒ってます、という顔をしている。

 

「久々に会ったのにその普通な態度おかしくない、ヒッキー?」

 

彼女の中の想像上の彼はもっと喜怒哀楽のどれかに富んだ対応をする予定だったのだろう。

しかし、そんな彼は酷いことを言うが、皆目見当もつかない。

 

「いいだろ俺なんだから。もし俺がそんなバラエティに富んだ人間だったら逆に引くだろ。後、俺も不本意ながら社会に貢献してる一人なんだから、その不名誉なあだ名もう止めろ、由比ヶ浜。」

 

そう言うとこの場のもう一人が微笑を浮かべながら会話に入ってくる。

 

「あらヒキガエル君、あなたが貢献している社会はカエルの世界ではないの?」

 

この返しも8年前のあの日々ならイラッときただろうが、今は懐かしさで少し緩和されている。

 

「おい雪ノ下、そのあだ名も止めろ。昔思い出してセンチメンタルになるだろうが。こう見えてさっきも仕事してきたんだぞ。」

 

拝啓、16の君へ。

あの頃叶えたかった夢の一つは叶いませんでしたよ。

 

そんなどうでもいいことが彼の頭の端に浮かんだ。

 

「未だにあなたの口から仕事という単語が出ることに違和感しかないわ。ホントに比企谷君?」

 

「この眼鏡の奥の瞳こそが俺である証明だな。」

 

「まあ確かにこんなゾンビみたいな死んだ瞳をしているのはあなただけね。疑って悪かったわ、ゾンビ谷君。」

 

「そこで謝られると逆に辛いわ。ついでに謝るなら最後まで誠意を示せ」

 

「まあまあ、こんな会話も久しぶりだよね!じゃあヒッキーも来たしそろそろ注文しよっか。」

 

その言葉と同時に由比ヶ浜はベルを鳴らした。

比企谷は先ほど注意したのに呼び名変えない由比ヶ浜の頭の悪さに呆れながらも、注文を聞きにきた店員に生ビール3つと枝豆とタコわさを頼んだ。

 

頼んですぐに生ビールは届いた。

ここで本日の幹事である由比ヶ浜が乾杯の音頭をとるのかと思っていたが、やはり大事な場面では昔と同じ様に雪ノ下がするようだ。

彼女は軽く咳払いをすると、

 

「それじゃあ、久々の奉仕部の再会を祝って。」

 

その後に続く様に3人で、乾杯、と声を揃えてグラスをぶつけた。

グラスの奏でる音はいつになく澄んでいて心地よかった。

 

 

 

あれから幾度かの注文を繰り返し、物寂しかった机は大分賑わっている。

比企谷は正面を見るとほんのり顔を赤く染めた2人が目に入った。

おそらく自分もそんな顔色をしていると思うと少し笑えてきた。

その笑いが顔に出ていた様で雪ノ下に不審がられる。

 

「突然人の顔を見て笑うだなんて最低と思わない?」

 

「いや、美人な2人と酒が飲めてるなんて凄いな、って思ってたら何となく笑えたんだよ。」

 

この発言の後比企谷自身、結構酔ってるとわかった。

いつもの彼ならこんなことは言わないだろう。

 

それでも以前より綺麗になったのだ。

雪ノ下は昔と変わらず黒髪を伸ばしているが、あの頃と比べて大人びた顔でいろんな表情をするせいか、お世辞抜きで綺麗になっていた。

由比ヶ浜は染めていた髪を黒に戻してショートにし、幼さの残っていた顔も大人びながらも可愛らしさを持つ彼女の内面の変化を表している様な綺麗な顔になった。

 

そんなことを考えていてふと由比ヶ浜の顔が視界に入ると顔が真っ赤に染まっていた。

 

「ヒ、ヒッキーが突然そんなこと言い出すからびっくりしたじゃん!もしかしてゆきのんの言ってたみたいにヒッキーじゃなくてニセッキーなの?」

 

「ニセッキーってなんだ、そのポケモンに出てき損ねたみたいな名前は。」

 

「まあ比企谷君がそんなお世辞を言えるくらいに成長したことはずいぶんな進歩だわ。でも私たちが美人なのは当然のことだから言わなくても結構よ。」

 

「うるせぇ。」

 

比企谷は半分ほど残っていたビールを一気に飲み干してベルを鳴らした。

照れていることが長年の付き合いからわかった由比ヶ浜と雪ノ下は軽く目を合わせて笑った。

 

由比ヶ浜は昔と今の比企谷を比べた。

あれから比企谷も変わった。

最低限のオシャレに気を遣うようになったし、少しは目の濁りはとれているが、眼鏡の奥の瞳にはそれとない自信と強さを感じる。

おそらく周りの人間からでもかっこよく見えるのではないか。

 

そんなかっこよくなった彼も今は何かのタイミングを待っているようだった。

彼の雰囲気を察したのは雪ノ下も同じらしく2人は次の彼の一言を待つことに決めた。

するとその優しさを感じた彼は意を決した様でたどたどしく話し始めた。

 

「―あのさ、俺、結婚、しようと思うんだ。」

 

 

 

 

彼の一言は彼女らを驚かせるものだった。

しかし妙な納得感も存在した。

それは彼の態度であったり、服装であったり、仕草であったりと言った節々からも理解ができたからだ。

おそらく彼女たち以外では気づくことができなかっただろう。

比企谷は話を続けた。

 

「その相手は今大学生を卒業したばっかで、春から同棲することになってる。結婚するって言ったけどまだプロポーズできてないんだけどな。」

 

それから彼は多くのことを語った。

その子と付き合い始めたのは丁度2年前の大学卒業と同時であること。

相手は当時教授に気に入られゼミによく手伝いに来てくれていた子であること。

ゼミの仕事や飲みなどから親しくなり卒業と同時にこちらから告白して付き合ったこと。

着け慣れない時計は1年記念日に彼女から貰ったこと。

遠距離恋愛であることや喧嘩と、山や谷も少なくなかったけど、それでもその子が好きで結婚するならその子がいいということ。

 

話を聞いている内に由比ヶ浜には今は無い高校生の頃の淡い恋の思い出が蘇った。

あの頃の想いが恋に恋していたか結果かどうかは分からない。

しかし彼への恋心は、彼と彼女と過ごしたことで変わったのだ。

言葉にはできないがこの気持ちは恋ではないのだ。

おそらく2人もそうであると確信できる。

それほどまでに3人の関係は深いものなのだ。

 

だからこそ今二人が彼に向けて言える言葉は一つだけ。

それでもこの言葉には万感の想いが、確かに存在する。

 

「比企谷君、おめでとう。」

 

「ヒッキー、おめでとう。」

 

比企谷もまた込められた万感の想いを察した。

そして言葉をかけてもらいたい人に、かけてもらいたい言葉をかけてもらえた。

これ以上に喜びがあるだろうか。溢れる気持ちは彼の理性の扉の鍵を壊した。

扉からは様々な感情が飛び出してきた。

それは涙となって溢れだしてくる。

 

彼女らに返せる言葉もまた1つ。

その言葉には多くの気持ちが宿る。

出会えたこと。

かけがえない時間を過ごせたこと。

自分の間違いを気づかせてくれたこと。

 

…そして「本物」の関係になれたこと。

 

だからこそ、

 

「ありがとう。」

 

この一言で雪ノ下と由比ヶ浜も笑顔のまま泣き始めた。

 

 

 

 

それから3人が泣き止むと同時に店を出ることに決めた。

会計は祝いだと言って雪ノ下と由比ヶ浜が奢ってくれた。

店から元気のいい声で送り出されるのを聞きながら3人は外に出た。

 

比企谷は送ろうか、と声をかけたが2人で泊まるしタクシーで帰るからと断られた。

ならタクシーが見つかるまでと比企谷も途中まで2人と歩くことにした。

タクシーはすぐに見つかった。

そこで比企谷はタクシー代を出そうとするが、それもまた断られた。

 

ここで別れたらまた当分会うことはない。

そんな時に言うべき言葉が今日はなぜか見つからない。

そうやって言葉を探していると、雪ノ下が微笑みながら、

 

「またね、比企谷君。」

 

そう言葉をくれた。その一言に比企谷はまた救われた気がした。

 

「―じゃあな、雪ノ下、由比ヶ浜。」

 

「じゃあね、ヒッキー!」

 

別れの挨拶が終わるとタクシーは夜の街の中に消えていった。

比企谷は携帯を軽く弄るとまた元の位置に戻した。

それから自宅へ向かって歩き始めた。

 

 

 

 

その帰り道でふと彼女たちへの想いとは何なのかと考え始めた。

友達への想いか?

―いや近い想いはあるが、高校や大学での友達への想いとは別だ。

なら家族への想いか?

-いやこれも近い想いはあるが、小町への想いとは別だ。

それなら恋人への想いか?

-いやこれもまた近い想いはあるが、愛する彼女への想いとは何かが違うのだ。

それからいろいろ考えたがどれも納得できない。

なら果たしてこの気持ちは何なのか。

 

答えは突然すっと出てきた。

この想いは特別なのだ。

何物にも代えることができない、たくさんの想いが詰まった大切な想いなのだ。

考えてみれば当たり前だ。

なぜなら奉仕部という関係は特別な関係であるからだ。

そんな当たり前のことに気づかず、既存の枠組みに入れようとした自分を、比企谷は笑った。

そして自分がこの考えに気づいたなら、彼女たちもきっと気づく、いや気づいているのではないか。

そんな特別な関係が存在することを昔の自分に伝えたくなった。

 

 

拝啓、16の君へ。あの頃叶えたかった夢の一つは叶いましたよ。

 

 

そんな手紙が届けばいいのにと思った。

 

気づくと見知った顔が目に入った。

連絡はしたがわざわざ迎えに来てくれるとは何とも優しい人だと思った。

向こうはこちらが大分酔っていることに呆れた顔をしている。

そんな顔も可愛いと思ってしまうのは惚れた弱みか。

そんな彼女に伝えたいこと、話したいことはたくさんある。

たくさんできた。

今じゃなくてもいい。

いつでもいいから、ゆっくり聞いて欲しい。

だからそんな日を夢見てまずは一言伝えたい。

 

「なぁ、また聞いて欲しいことがあるんだけどいいか。」

 


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