そうして雇われ提督と秘書官初霜は逃亡しました。 作:ぽかぽか
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無事に潜水艦の中に乗り込む事が出来た二人は小さな客室のような部屋で、のんびりと伊58に出されたお茶を飲んでいた。因みに伊58も二人と向かい合ってお茶を飲んでいる。
「はぁ~、こんなに平和にお茶が飲めるのはいつぶりでしょうか?」
「確かあの新海域以来だろうな。あぁ、茶が上手い」
「そうですね~。あっ、そう言えば提督。その似合ってないダイバースーツはもう脱いでもいいんじゃないですか?」
「おっ、そうだな。忘れてた。んじゃ着替えてくるわ」
男性は初霜の言葉に同意して部屋を退出して、すぐに戻ってきた。その姿は変質者から一変、白い軍服に身を包んだ褐色肌の若きの将校へと変わっていた。
「やっぱりその姿の方が良いです」
「でち」
「おう、ありがとうな」
ボサボサの髪を右手で掻きながら人懐っこい笑みを二人に向けて男性は初霜の隣に腰を下ろす。
「それで、結局どうして帰ってこれなかったんでちか?」
二人の空っぽになった湯飲みに新しいお茶を注ぎながら伊58は訊ねた。その問いに二人は口笛を吹きながら目を泳がせる。
その明らかにおかしい反応に伊58はまたか、と溜め息を吐いた。
「また男気を魅せたんでちな」
「……しょうがないだろ。新海域で第一艦隊が敵に囲まれてヤバかったんだから……」
「……それに六隻中五隻が大破してたんですよ。なら私達が頑張るしか無いじゃない……」
「……で、その勇気溢れる行動の結果、鎮守府中の艦娘に好かれて監禁まがいな事をされていたんでちな」
「艦娘だけじゃないぞ。雇い主のあちらの提督にもだ」
「毎日毎日、執務室に呼びだされては念仏のように残ってくれないかと頼まれたわ……」
「重症でちね」
そこまで話して二人はまた茶を啜る。その姿はまるで幾重の戦場を駆け抜け疲れ果てた老兵のようだと伊58は思った。
「……もうあそこの鎮守府の仕事は受けないようにしよう……」
「……次は本当に監禁されそうで怖いわ……」
「それだけ愛されている証拠でち」
「そんな重い愛はいらない」「そんな重い愛はいらないわ」
「まぁ、そうなるでちな。さて、二人はもう休んだ方がいいでちよ。特に鈴(すず)提督は着いたらすぐに書類の山が待ってるでち。それに初霜はすぐに別の鎮守府で補給船の護衛任務でち」
その言葉に初霜の隣に座っていた男性、鈴提督はまるで石のように固まり、初霜は顔を青ざめた。
「仕事が出来る二人がいない間、厄介な仕事が溜まりにたまったんでち。それを消化させるためにも、二人には休む暇はないでち」
「嘘……だろ……?」
「嘘じゃないでち。これを見るでち」
そう言って伊58はセーラー服の上着の内ポケットから一枚の紙を取り出し、鈴提督に差し出す。恐る恐るその紙を受け取り目を通していく鈴提督。そしてみるみる内に体が石化していった。
「人気者は大変でちね」
伊58の言葉に二人はやっぱり監禁されてた方が良かったかもしれない……と考え直すのであった。
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簡単な紹介
◇鈴(すず)提督
とある島の出身。褐色肌の若き青年。変わった特技?を持っている。
初霜の提督で、伊58の提督ではない。
元々は海軍将校だったが、上からの指示を何度も無視し、ブラックな鎮守府紛いの事をしていた為に軍を辞めさせられた。今は考えを改め、真っ当に生きている。
今は伊58の提督と共に民間の鎮守府を立ち上げ、毎日仕事に励んでいる。仕事内容は主に軍の補給船の護衛。たまに民間からの依頼もくる。
所有している艦娘は初霜一人のみ。
軍からの依頼で、ある鎮守府に教鞭を執(と)りにいったのだが、初霜と同じように男気を見せすぎたせいで艦娘と何故かその鎮守府の提督(男の娘)に惚れられてしまった。
監禁まがいな事をされる前に無事脱出する事ができた。
ちなみに別の鎮守府でも同じような事が何度かあった模様。
「……とりあえず仕事するか……」