魔神の子のダンジョンライフ 〜最強を目指して〜   作:やってられないんだぜい

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闇の扉は開かれた

 〜ヘスティア&エルside〜

 

 「ベル君が食べに出かけた店ってここだったんだ」

 

 まさかこの場にベルがいるとは思っても見なかった。彼からしたら今日は史上最悪の1日だろう。ミノタウロスに命を狙われ、命からがら生き延びた。恐らく彼が求めていたのは労いや祝福の言葉だっただろう。みんなから暖かい言葉を掛けられてミノタウロスに襲われる恐怖を忘れたかっただろう。想い人の話をしたのもそれだ。それなのに自分に向けられたのは非難の声。自分なりの一生懸命を他ならぬ家族からの駄目だし。そして、気分転換にと来た店では止めの辱めを受ける。冒険者を続けられるかを通り越して、人生を続けられるかのレベルだろう。

 

 ヘスティアはなるべく他のファミリアと問題も起こさない様に、ベルやエルへの罵声を我慢してきた。それは、【ヘスティア・ファミリア】が零細ファミリアだからだ。しかも相手はオラリオトップレベルの【ロキ・ファミリア】。象に対して1匹のアリで戦いを挑む位に無謀なのだ。しかし、それが結果としてエルの心をズタボロに切り裂いただろう。もし、この場にいるのが自分だけなら、真っ先に彼の責任者であるロキを見つけ出し、店に連れ戻して、彼と同じ様にみんなの前で天界でのロキの醜態の暴露大会を決行していただろう。だが、今はそうも言ってられない。この場を離れる事は非常に危険だと彼女の神としての勘が言っている。

 

 「エル君、落ち着いて。怒りを鎮めるんだ」

 

 現在のエルはこちらが話しかけても返答が無い。彼女のする事はまず彼の怒りを沈める事だ。。彼をこのままにしてはまずい。

 

 「……べ………ル…?」

 

 エルの言葉がおぼつかない。怒りに呑まれそうになっている。だが、言葉を喋らない状態からベルの名を口にした。さっきのベルの叫びが彼に届いたのかも知れない。それ故にヘスティアは焦る。

 

 (どうしよう。ベル君は店を飛び出しちゃったし、エル君を放っておく事も出来ないし。それにしてもまさかだよ。エル君の性格から少し危ない雰囲気はあったけどこれ程とはね。ベル君が貶されて苛立ち、自分が馬鹿にされてガチギレ。これじゃ君の方がよっぽど幼稚だよ。精神的に幼かったのはベル君よりも、エル君だったのか)

 

 「そうだよ。ベル君が勇気出して立ち向かったんだ。君が今どう言う状態か分からないけど負けちゃ駄目だ!」

 

 ヘスティアに今出来る事はただ語りかける事だけだ。

 

 

 〜エルside〜

 

 「ここは………何処だ?」

 

 エルが現在いるのは彼の精神世界。彼の精神状況によってどの様な状態にもなる。そして現在は黒。真っ黒。光が一切差し込まない闇の世界だった。

 

 彼があまりに幼稚なのは、魔神族という種族が関係している。魔神族は寿命は長く、千年以上生きる。そして身体の成長だが、自分で行動出来るある程度(8〜9歳程)は人間と同じ速度で育つ。しかし、それに精神の成長が人間の様に追いついている訳では無いのだ。彼等にとって200歳過ぎる辺りが成人なのだ。そんな彼等にとって15歳とは、人間に例えると園児に等しい。対等な力を持つ者がいない事で全力で遊ぶ事が出来ず、つまらなそうにしているのを、周りは『落ち着いていて大人びている』と勘違いしていたが、本来は楽しい事は全力で楽しみ、気に入らない事があると怒る子供なのだ。

 

 魔神族は精神的に強い種族でもある。だが、それは決して産まれた時から優れている訳ではない。魔神族の子供は些細な事で自身の闇に呑まれる。その闇に呑まれ無い様に、簡単な事で動じない精神力を後天的に身につけていくのだ。闇の呑まれた魔神族は、己の魔力と体力が尽きぬ限り暴れ回るのだから。

 

 今までこうならなかったのは祖父のお陰が大きい。エルは祖父にとても懐いていた。全力で遊べる相手がいないエルにとって、祖父が1番親しい友となった。修行の時間、祖父と過ごす時間が彼にとって最良の時間だった。祖父は度々エルを馬鹿にするものの、加減を分かっている。平たく言えば飴と鞭が上手いのだ。悪口を言ってエルの闘争心を煽り、褒める時はとことん褒める。だから口こそ悪くなっても嫌いには一切ならなかった。祖父が子供らしかったのも友達感覚で接する事が出来て、エルには良かっただろう。兄という役職を押しつけられる事も無かった。何でもかんでも、兄なのだから、兄なのだからと望まぬ我慢を押しつけられる事も無かった。祖父は2人を兄弟としてではなく、平等に育てた。だからエルは兄という役職を受け入れたのだ。誰かに決められるのではなく自分で。

 

 もし祖父が違ったら、エルの暴走はとっくに起こっていただろう。兄を押しつけられた時。下手な優しさ発揮され、修行時に手加減された時。逆にバリバリの体育会系の様に怒鳴り散らし、エルのストレスが爆発した時。その他様々な事がきっかけで暴走していただろう。

 

 「うぅ………がぁ……」

 

 それでも暴走に抗っているのは、ベルのあの一言だろう。怒りに飲み込まれていたエルがいたのは、何も見えない無の空間。何処がゴールかも分からず、ただ徘徊するしか無い。その空間にベルの言葉が響いたのだ。それは、暗闇に差し込んだ一筋の光だった。エルは直ぐに理解した。ベルがあの男の暴言に一言言ったのだと。あのベルが立ち向かったのだ。現在の力では例え逆立ちをしたって敵わない相手に向かって叫んだのだ。自分の訳もわからない力なんかに負けていられない。

 

 「何だ?急に叫んだと思えばあの時のトマト野郎か?」

 

 しかし、その想いを無にするかの様にベートの暴言は止まらない。

 

 「てかお兄ちゃんとか言ったか?アハハハッ!弟に助けられてやがんのかよ!それじゃ世話ねぇわ!雑魚弟に庇って貰って恥ずかしくねぇのか⁈俺なら死にたくなるなぁ!」

 

 ガシャン!!

 

 淡い光の一本道がまた闇に塗りつぶされてしまう。これでまた出口が分からなくなってしまった。もう闇に囚われているエルにはベートの発言など全く聴こえていない。闇自体が暴走しているだけだ。闇が自立して判断しているのだ。宿主が貶されているのだと。

 

 

 エルside終了

 

 「アハハハッ、はぁ。なんか笑いすぎて疲れたぜ。じゃあ質問変えるぜアイズ。あのガキと俺、ツガイにするならどっちがいい?」

 

 それはもう告白だった。酔うと人はここまで本性を暴露してしまうのか。だがら先程まで散々性格の悪さを露呈した後にこの告白。答えは分かりきっていた。

 

 「ベートさんだけはごめんです」

 「無様だな」

 「黙れババァッ!」

 

 アイズもベルの発言に救われた1人だった。あの発言があったお陰で一旦冷静になる事が出来た。ベートへの怒りは収まってないが。

 

 「じゃあ何か?お前はあのガキに好きだの抜かされたら受け入れるのか?」

 

 アイズは思わず顔を赤らめる。口移しを思い出してしまったからだ。あの時は助けたくて必死だったとは言え、思い切った事をしたと自分でも思う。

 

 そもそも、何故彼をあそこまでして助けたかったのか。まず自分達のせいで、そして自分の勝手な我が儘で助かる命を奪い兼ねなかったからだ。だが、それだけで唇を許す程の事ではない。1番は彼の戦闘に惹かれたからだ。今思えば、自分は彼に父の姿を重ねていたのかも知れない。父と同じ様に、絶対に勝てないであろう敵から命をかけて片目を奪った所までそっくりだったのだから。だが、重なっただけだ。彼はまだまだ弱い。

 

 告白の事だが、受け入れるかと聞かれればノーだ。そんな余裕は無い。自分の目的を果たすまで、他の事へ考えられない。自分は青春を全て『父と母を救う事に捧げた』だから。確かに自分と同じ様に強さをまとめている彼とは気が合うだろうと思うが、そんな事にうつつを抜かす暇は無い。1分1秒も早く助け出すと決めたのだ。だが、もし全てが終わった後。私も彼も成長して、私の英雄になってくれるのなら……

 

 

 【ロキ・ファミリア】の面子は驚愕する。ベートの告白同然の問いにアイズが即答でお断り。ここまでは大方予想通りであった。しかし、その後の問い。もし助けた子に告白されたら?この質問をされた彼女は即顔を赤くした。これにはリヴェリア以外は大方含んでいたものを吹き出しそうになった。それを見た彼らはコソコソと噂をする。

 

 『何だ⁈あの赤らめ方』

 『まさか⁈』

 『い、いや無いだろ』

 『ただ純情なだけだよな』

 

 彼の意見は、彼女がこう言う話に慣れていないだけなのだと決まった。それならベートへの即答は何なのか?と思われるが彼らは都合の悪い風に考えない。しかし、その後の少女の様な(まだ少女)微笑みを見た彼らは現実を突き付けられたかに思えた。『あ、これ確実に脈アリだわ』と。

 

 だがベートは違った。そもそも彼の酔い具合は半端無く、もうぶっ倒れる寸前である。そんな彼はアイズの顔をハッキリと捉えられていない。その為、アイズの今の表情を認識出来ていないのだ。

 

 「そんな筈ねぇよな!気持ちだけが空回りした軟弱野郎にお前の横に立つ資格なんてねぇ!他ならぬお前がそれを認めねぇ。雑魚じゃあアイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねぇ」

 

 周りは『アイズの表情を見て良くそんな事言えるな』と意見が一致する。少なくとも意識はしているのはベート以外はバレた。それを見た男性陣は血涙を流し、女性陣は近いうちに女子会をしようと話し合っていた。

 

 ガゴンッ!!ゴ ゴ ゴ ゴ 

 

 だが、彼の言葉は本来レベルの昇華でしか解放できない封印の扉を1つではあるが、無理矢理抉じ開けるまでに怒らせてしまったのだ。

 

 エルが放っていた黒いオーラは勢いよく彼の体を囲む様に高速で回転しだす。高速で回転した事で風が生じ、近くにいたヘスティアは吹き飛ぶ。風の真ん中にいるエルの上半身の服は斬り刻まれる様に弾け飛ぶ。【ロキ・ファミリア】は周りの騒ぎ声と風によって事態に気付く。

 

 「何だ⁈魔法か⁈」

 「こんな所で魔法なんて⁈」

 「彼は⁈アイズ!」

 「⁈」

 

 オーラはエルの周りを高速で回転し出すと、衣服の様に纏われた。極め付けは彼の額痣。額全体を覆う禍々しい渦状。エルを知っているアイズは、目の前の男があの時に助けた彼と同一人物とは思えなかった。

 

 「なんや⁈なんの騒ぎや⁈」

 「なんなの⁈アレ⁈」

 

 外にいたロキ達も店の騒ぎを聞き戻って来た。

 

 「何したんだよ⁈」

 

 【ロキ・ファミリア】の下っ端が騒ぎを止めようとエルに近づく。エルはそれをビンタで店の外まで吹っ飛ばした。彼は下っ端と言ってもレベル3。レベル1のビンタで吹っ飛ばされれる人物では無い。明らかに今までのエルとは違っていた。彼等は仲間がやられた事でスイッチが入る。女将であるミアもエルを止めようと厨房から出てくる。

 

 彼が見ている人物はベート1人。

 

 「下賤な人間風情が俺を愚弄するなど万死に値する。俺はエルアコス。最強の魔神だ」

 

 もうエルでは無い。ただの殺戮兵器の魔神だった。

 

 




 ご愛読ありがとうございました。

 とうとう怒りが爆発したエル、もとい、最強の魔神。ひたすら暴れる魔神を止めるため彼等は一度店を飛び出す。一体どうなってしまうのか?

 次回も楽しみに! 

 眠い

魔神王の魔力『支配者」についてですが、今作ではあらゆる物理魔力に対して反応しますが、原作では魔力だけどの事でした。『支配者』の魔力をそのままにするか、原作同様、物理は関係無しにするかアンケートを取ります。変更してもあの時のセリフが一部改変するだけで、それ以外は矛盾が生じませんので安心して下さい

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