魔神の子のダンジョンライフ 〜最強を目指して〜   作:やってられないんだぜい

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不死身

 戦況を有利に進めていたのは【ロキ・ファミリア】だった。フィン、ベートを中心とした近接部隊に防戦一方のヤミ。反撃しようにも、ピシャ岡さんを彷彿とさせるレフィーヤと、その他のエルフの援護射撃により不発に終わる。闇で傷を治せると言ってもそれは闇を回復に回す余裕がある時の話だ。フィン達がその隙を与えないように攻撃している為、既にヤミの体は傷だらけであった。身体中に刺さっている矢に刺し傷に切り傷。普通なら意識を保つのでさえ限界な傷だ。だがヤミは倒れない。戦意も保ったまま。

 

 (何故だ?!これ程までに戦力差を見せつけているのに何故倒れない?!何故この状況で諦めないのだ?!」

 

 フィンは逆に不気味に思えてきた。戦闘狂の様に頭のネジが外れている者なら兎も角、勝ち目が全く見えない状況で何かを悩んでいる表情をしていた。得体の知れない恐怖を感じたフィンは密かに後ろに指示を出す。その後にベートと同時に攻撃を仕掛ける。当然ヤミは防御の姿勢を取った。2人は闇で覆われた腕を狙わず腹部を狙う。フィンの槍は脇腹を、ベートはみぞおちを狙いクリーンヒット。

 

 「グゥッ!!」

 

 ヤミは初めて口から血を吐いた。それ程までにダメージが溜まっているのだ。だが、まだ終わらない。更なる攻撃がヤミに降りかかる。

 

 【ヒュゼレイド・ファラーリカ】

 【ウィン・フィンブルヴェトル】

 

 レフィーヤとリヴェリアの合体技だ。まず初めに撃ったのがレフィーヤの【ヒュゼレイドファラーリカ】。数百、数千にもなる数の魔力弾を放つ。それはさながら火の雨だ。レフィーヤはそれを狙った場所に落とす。まずはヤミの周りに落とし、火の鳥籠を作り逃げ場を無くす。余った魔力弾を頭上から落とす事で上空への回避を防ぎ、尚且つダメージを与える。

 

 更にリヴェリアの全力の【ウィン・フィンブルヴェトル】を叩き込む。射線上のあらゆる者を極寒の吹雪により凍結させる。逃げ場は無い。前面しか使えない闇での防御も意味がない。射線に射線から脱出しながらば意味がないのだ。【ウィン・フィンブルヴェトル】は直進と思われているが正しくは違う。前方への攻撃という意味では直進だが、内部は違う。内部は凍てつく吹雪の乱気流となっている。上下左右前後の全てから吹雪が襲うのだ。つまり防御するなら全方位への防御、又は魔法を通さない程強固で巨大な壁を作らなければならないのだ。今のヤミに全方向を覆う闇も、魔法をシャットアウトする程巨大な闇も作れない。つまり、チェックメイトだ。

 

 「………………!」

 「「?!」」

 

 魔法が通りすぎた道に残っていたのは綺麗なヤミの氷像だった。かつてこの魔法を破った者はいない。彼がどうすれば死ぬか分かっていない今、死んだと断定は出来ないが少なくとも戦闘不能にする事が出来ただろう。

 

 「団長、これどうします?バラバラにします?」

 

 女性冒険者が平然と、さも同然かの様に尋ねた。彼女の名前は【アキナティ・オータム】。レベル4の冒険者で種族は猫人(キャットピープル)だ。

 

 「君はさらっと恐ろしい事言うね………バラバラにすらのは止めとこうかな。彼の存在は謎に包まれているからね。魔神族、聞いた事のない種族だがそれだけに感じないんだ。何かもっと恐ろしい事が起きそうな気がしてね。それにアイズにも話を聞きたい。ここで止めを刺せばアイズは今度こそ心を閉ざすだろう。最悪ファミリアを脱退するかも知れない。それは何としても避けねばならない。とりあえず彼が完全に意識を手放してから氷を溶かしてから『隷属の首輪』を付けるとしよう」

 

 ※『隷属の首輪』 主に奴隷に使用される。効果は以下の通りである。

 

         ・魔力を使用不可にする

         ・身体能力も制限され、主人に歯向かったり、主人の不利益になる行為の一切を禁ずる

         ・主神の命令は絶対遵守される

         ・嘘がつけなくなる(主人限定ではない)

         ・隷属の首輪は主人以外に外す事が出来ない

         

 フィンは戦いの序盤にヤミの斬撃によって戦闘不能に陥られたティオナの元へ駆けていく。彼女の元にはポーションを持ったサポーターと回復魔法を使用しているリヴェリアがいた。ティオネの体を見ると傷は既に塞がっている。あれ程斬り刻まれた筈なのに、2人には感謝だ。

 

 「ありがとう、団長として礼を合わせてくれ」

 「頭を下げるなフィン。私は何もしてない。全て彼女のお陰だ」

 「いえいえ、大した事はしてません!!」

 

 

 リヴェリアが彼女を持ち上げると、彼女は顔を赤くして照れていた。フィンはそんな事ないと思っていた。確かに彼女がポーションを描かなければどうなっていたか分からない。しかし、ポーションだけで治せる傷とも思えない。リヴェリアも褒められていい事をした筈だ。なのにサポーターの子を持ち上げたりするからママと言われるのだろう。敢えて言葉にしないが、リヴェリアにはもう1度礼を言った。長年の付き合いだからか、表情でフィンが何を思っているのかを察したリヴェリアは真実をもう1度伝える。

 

 「フィン、何か勘違いしている様だが私は本当に治療をしていない。私がここに駆けつけた時には既に完全に傷が塞がっていた。私は別に持ち上げる為に彼女のお陰だと言ったのではない」

 「………本当か?」

 「そうだ」

 

 にわかに信じられなかった。あれ程の剣撃を食らってポーションだけで治るなんて。エリクサーを使っていたなら別だが今あるのは普通のポーションだ。ポーションで治せると言う事は相当浅い傷という事。あの隙を見逃さなかった奴がそんな浅い攻撃を仕掛けるとは思えない。そう思ったフィンはもう1人ヤミにやられた人物に駆け寄る。

 

 「アイズ!」

 「あ、団長」

 

 アイズの所だ。

 

 「アイズの傷は?!」

 「それが…………何処も怪我していません」

 「そ、そんな筈は無い!壁にめり込む程強く叩きつけられたのだぞ!」

 「ヒィッ!?わ私にも分かりません!」

 

 心臓を、潰しても死なない生物。戦闘不能に追い込まれたにも関わらず、実はポーションで治る程度の傷しか負っていないティオネ、そしてそもそも傷すらないアイズ。自分の理解の範疇を超えた出来事の連続で軽いパニック状態に陥り、声を荒げてしまう。

 

 「だ、団長。意見良いですか?」

 

 近くにいた別のサポーターがフィンに声をかける。

 

 「なんだ?」

 「え、えぇっと。あの人?って本当に敵なんですか?」

 「………どういう意味だい?」

 「最初にあの人、邪魔したら殺すって言ってますけど誰1人として殺人を犯してませんよね。『豊饒の女主人』にいるガレスさんやティオナさんもアイズさんの話を聞く限り生きているらしいですし、アイズさんも殺してません。ティオネさんも戦闘不能にしただけで命に別状の無い範疇ですし。言葉と行動が一致してないんです矛盾してるんです」

 「………つまり、本当は誰も殺したくない。君はそう言いたいのかい?それこそ1番の矛盾だと思うが?」

 「だから分からないんです。あの人が何をしたいかが」

 

 ピキッ!!

 

 その時、何かにヒビが入る音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 アキナティはヤミの氷像を前にして暇そうにしていた。

 

 「完全に意識を手放してからって言っても固まった状態じゃよく分からないな。まぁ、もう意識ないと思うけどな」

 「まだっすよ。暫くはそのままにして体力削らないと。アキは本当にいつもそうっすね。見た目の割にずさんと言うか、いい加減というか、適当っていうか」

 「あ、ラウル。大丈夫だったの?」

 

 アキナティに声を掛けたのは【ラウル・ノールド】。アキナティと同じく、レベル4の冒険者でヒューマンだ。彼もヤミとの近接戦闘に参加していた1人。ヤミの殴打によって腕がアザだらけになっている。

 

 「まぁ、自分は団長やベートさんみたいに警戒されてなかったっすから大した怪我にはならなかったっす」

 「そう、良かったわね。それにしてもさっきのは私を褒めてるの?それとも貶してるの?」

 「解釈は任せるっす」

 

 彼女達がたわいもない話をしているのは当然だと。自分達に降りかかる脅威を跳ね除けたのだから。周りも既に終戦した空気を漂わせている。しかし、2人、2人だけこの状況に似つかわしくない表情をしていた。

 

 1人目はレフィーヤだ。彼女はリヴェリアの魔法の威力を下げないように、【ヒュゼレイド・ファラーリカ】の檻を【ウィン・フィンブルヴェトル】がぶつかる瞬間に前面部分だけ解いた。リヴェリアは自分の魔法によって視界を遮られていて見えていなかっただろう。他の者もリヴェリアの魔法に意識を持ってかれ、その時のヤミの表情と行動(・・・・・)を見ていたのは彼女だけだったのだ。

 

 (あの人、攻撃がくる瞬間に笑ってた。何かを待ち侘びていたかの様に。そして、次の瞬間。あの人は剣を振った。結果何も起こらなかったけど、彼が何をしたかったのかが異様に気になる)

 

 そして、もう1人はベートだった。彼はレフィーヤとリヴェリアの魔法の巻き添えを食らわない様に避けたとはいえ、1番近くにいた。そして彼の種族は狼人(ウェアウルフ)。小さな音でも見逃さない耳を持っている。そんな彼の耳はヤミの発言を拾っていたのだ。攻撃が当たるであろう瞬間に叫んだ言葉を。

 

 『全反撃(フル・カウンター)

 

 素直に読めば全ての攻撃を跳ね返す。だが、結果はご覧の通りだ。

 

 (あんな状況でハッタリなんかしても意味がねえ。つまり奴には【全反撃(フル・カウンター)】って能力があるって事だ。だが、能力は使えず今に至る。意味が分からねえ。扱いにくい魔法はあっても、使う事すら出来ねぇ魔法なんて聞いた事がねぇ。種族といい、心臓を潰されても死なないといい、能力といい、お前は一体何者だ?)

 

 ベートはヤミという未知の存在に僅かながら興味を持ち始めていた。

 

 ピキッ!!

 

 ヤミの氷像に1本の亀裂が入った。【ウィン・フィンブルヴェトル】は自然に亀裂など入ったりしない。そんな柔な魔法じゃない。誰かしらが手を加えなければならない。そして自分達は触るどころか、近づいてもいない。だが1人だけいる。氷に触れている人物が。

 

 ヤミは生きているのだ。

 

 

 




 ご愛読ありがとうございました。

 では次回もお楽しみに。またね

魔神王の魔力『支配者」についてですが、今作ではあらゆる物理魔力に対して反応しますが、原作では魔力だけどの事でした。『支配者』の魔力をそのままにするか、原作同様、物理は関係無しにするかアンケートを取ります。変更してもあの時のセリフが一部改変するだけで、それ以外は矛盾が生じませんので安心して下さい

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