魔神の子のダンジョンライフ 〜最強を目指して〜   作:やってられないんだぜい

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我慢

 

 ヘスティアはベルの肩に手を置く。その行為には『悲しいのは分かる。だけど、泣くのは家に帰ってからにしよう』、そう言う意味が込められていた。ベルもその意味が分からない訳では無かった。それでも立ち上がれない。力が入らなかった。ヘスティアはそんな彼の正面に回り、優しく抱きしめた。自分よりも小さな彼女が、その時は大きく感じたとベルは思った。

 

 「ベル君…………お家に帰ろ」

 「………はい」

 

 ベルはヘスティアに手伝ってもらって立ち上がり、肩を担いでもらいながらゆっくりと家に帰った。

 

 ベルは家に着くと、彼はエルの部屋に入る。自分の部屋と大して変わらないその部屋。しかし、部屋に飾ってある写真を見て、感極まって涙が溢れた。その写真とは、家族写真。ベルとエルとゼウスの3人で撮った最初で最後、唯一の家族写真。真ん中にゼウスがいて、両サイドにベルとエル。笑顔なゼウスがベルを抱き寄せ、悪戯顔でエルの頭をくしゃくしゃし、ゼウスの行動に迷惑そうにして睨むエル。ベルもこの写真を持っていて、宝物だった。作った顔ではなく、3人それぞれの素の表情が出て綺麗と思えたから。家族全員に配られ、エルにも当然ゼウスから渡されていた。当時はこの写真を素直に受け取らなかった彼が、大事そうに写真立てに入れて飾っているのだ。

 

 (兄ちゃん、あの時頑なに『要らね』って言ってたのに……)

 

 ベルは、この悲しみを全て吐き出す様に、泣きに泣いて涙も枯れ果てるまで泣いた。涙も枯れ果て疲れきった彼は、その部屋に兄の布団を敷いて寝た。もしかして翌朝に『勝手に俺の布団で寝てんじゃねぇ!』と怒る兄の姿を想像して。

 

 ベルだって分かっている。そんな事はあり得ないと。夢物語だと。怒られたい訳でも無い。怒られてもいいから帰ってきてほしかったのだ。自分の成長を1番近くで見てて貰いたい人だから。

 

 

 

 

 「………う、うーん」

 

 しかし、寝た時間が夕方と早かった為か、彼は夜中に起きてしまった。当然太陽光は差していない。だが、リビングが明るかった。

 

 (ん?まだ夜なのに、誰?神様?それともお兄ちゃ……)

 

 兄と思いかけて、彼の思考は1度停止した。

 

 (もしかして!帰って来たの?!)

 

 ベルは奇跡が起こったと思った。眠たい瞼を擦り、灯りの主がいるであろうリビングに走り出す。勢いよくドアを開けるが、エルの姿は無かった。居たのは唯一の同居者であるヘスティア。彼女が布団にも入らず、灯を付けたままで机に突っ伏していた。居たのが兄では無い事にショックで溜め息を漏らす。そして、寝ているであろうヘスティアにせめて毛布を掛けてあげようと毛布を持ってきたところ、まだヘスティアが寝てない事に気付く。体が不規則に震えている。だが、こちらに気付いた様子は無い。ベルはヘスティアに声を掛ける。

 

 「神様?どうしたんですか、こんな時間に。布団で寝ないと風邪引きますよ」

 「ん?ああ、ベル君か。どうしたんだい?ダンジョンに行くには早過ぎと思うけど」

 「ッ?!」

 

 ヘスティアの顔を見たベルは息を呑んだ。彼女顔は普段からは想像も出来ないほどに、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。涙は木で出来ている机に完全に染み込んでいる。先程の不規則な震えは悲しみで泣き叫ぶのを必死に堪えていたのだと気付く。驚いているベルを見たヘスティアは首を傾げる。

 

 「ん?どうしたの?そんなに驚いて。……ああ、僕の顔か、はは、参ったよ。君の前では見せないつもりだったんだけどな。ベル君を前にしても隠そうとする気力も残ってないや。ごめんね。お兄ちゃんを守れなかった弱いk」

 

 ダキッ

 

 ベルはヘスティアが言葉を言い切る前に彼女を抱きしめた。

 

 「神様、そんな悲しい事言わないで下さい。言おうとしないで下さい。神様は弱くなんか無いです。誰よりも強い神です。謝ったりなんかしないで下さい。それに、謝るべきなのは僕の方です。神様がお兄ちゃんを人一倍強く思ってたのを知っていたのに、神様の気持ちも考えず1人で泣き喚いたりして」

 「ううん、ベル君は悪く無いよ。家族を失ったんだもん。泣くのが普通さ」

 「何言ってるんですか、神様だってもう立派な僕達の家族ですよ」

 「言うてもファミリアの主神と眷属の関係だけどね。…………まぁ、それも無くなっちゃったけど」

 「それでも神様はいまでも僕の家族です。そしてお兄ちゃんも家族です。家族の家族はみな家族ですよ」

 「家族………家族かぁ。ねぇ、僕も家族ならさ、泣いても良いのかな?人前で泣いても。弱みを見せて同情を買う狡くてはした無い女性にならないかな?」

 「なりませんよ。家族を失って泣くのは普通だって言ったのは神様でしょ」

 「そ……か、そうだよね。…………う……う、うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 「いっぱい泣いて良いですよ。気が済むまで」

 

 ベルはヘスティアを抱きしめた。ヘスティアはベルの暖かさに触れて我慢という壁が消滅した。彼の胸の中で何十分も泣き続けた。夜中というのも忘れて涙を流した。ヤミを失った悲しみ。これからずっと帰りを笑顔で出迎えると決めていたのに、支えると決めていたのに、守ると誓ったのに、最強への手助けをすると決めていたのに、その全ての権利を奪われた。

 

 ベルに言った通り、彼の前では我慢する気だった。この件で1番悲しんでいるのは彼だ。仲違い気味のまま飯を食べに行って帰ってくると家族の姿は無い。翌日に再会したが、状況も分からないまま、会話する時間もまともに与えられず、もう一緒に住めないと告げられたのだ。自分とエルみたいな所詮(仮)とも言える薄い家族ではなく、小さい頃から寝食を共にした正真正銘の家族。祖父が死んだ為唯一の家族を、自分の知らない所で進んだ会話により、奪われたのだ。

 

 それに対して自分はどうだ?昨日、エルが帰宅して食べに行ってから、【フレイヤ・ファミリア】に連れてかれるまで、気絶していた時間を除いて常に一緒にいた。助けられた筈だ。そもそも暴走させなければ良かった。エルの精神が不安定だと直ぐに気付いてあの場を離れれば。危険を顧みず、彼らに立ち向かって会話を途切れさせばこうにはなってなかった。裁判でも助けると約束したのに助けられなかった。ベルと違って目の前にいて、救う剣をを持っていながら……。だから自分はベルの前で泣いてはいけない。悲しみの重みが違う。彼の涙と自分の涙を同等に扱ってはいけない、並べてはいけないと思っていた。

 

 でも、結局は泣いてベルの優しさに甘えてしまった。彼なら必ず許して慰めてくれると分かっていたから。気付かれたくなければ、灯りを消せば良かった。もっと言えば彼が寝静まった後、誰もいないオラリオの塀の上で1人寂しく泣けばバレなかった。だけどしなかった。なぜならバレても良いと思っていたからだ。『自分から見せるのは気が引ける、だがバレてしまうのは仕方ない』、と調子の良い事を思ったからだ。こんな気持ち、誰かに慰めてもらわないとやってられないから。

 

 だから自分は弱い神様なのだ。最低最弱の泣き虫神様なのだ。ヘスティアはそう自虐した。

 

 

 

 

 

 「落ち着きましたか?神様」

 「……ん、ありがと。大分落ち着いたよ//」

 

 落ち着いて自身の行動を客観的に判断出来たヘスティアは、先程の自分の行動を振り返り顔を赤くする。泣きそうな所(というか泣いていた)を男に見られ、慰められ、抱きしめられて号泣する。という世の女性陣が羨む体験をしたヘスティアだが、自分が当事者となると崩れた泣き顔」声を聞かれて羞恥心でどうにかなってしまいそうだ。

 

 いや、恥ずかしさだけでは無い。あの可愛らしい顔が今では格好良く見える。昨日まではあれ程頼りなく、情けなかった彼が、今では逞しく見えるのだ。

 

 (あれ?ベル君ってこんなにカッコ良かったっけ?どっちかっていうと可愛い弟キャラだったと思うんだけど)

 

 「神様」

 「ひゃい?!」

 「ひゃい?」

 「な、なんでも無いよ!それでなにかな?」

 

 突然呼ばれて驚いたヘスティアは思わず変な声が出てしまった。ベルはどうしたのか気になっていたが、ヘスティアが半強制的に話題を戻す。ベルは数秒黙ってから真剣な表情で切り出した。

 

 「お兄ちゃんに、何があったか教えて下さい」

 「?!」

 「神様は知ってるんですよね?だってあの場で泣いてる僕を見て何も言わずに抱きしめたって事は、お兄ちゃんにあった出来事を知った上でそれが僕に伝わったと理解したからですよね?そうじゃなきゃあり得ないんです」

 「………まぁ、分かるよね。でも隠そうとする気は無かったよ。君は知らなきゃいけない話だし。君が落ち着いたら話す気でいたよ。僕が言うのもなんだけど、大丈夫なのかい?」

 「大丈夫です………って言いたいですけど微妙ですね。リビングの灯りを見た時お兄ちゃんが帰って来たって思ったくらいですから」

 「そっか、紛らわしい事してごめんね」

 「大丈夫ですよ?!そんな謝んないで下さい」

 

 ヘスティアは説明し辛かった。兄の存在をベルは受け止め切れるのか心配だからだ。ベルの事を話す。つまりそれには暴走の原因である種族を話さねばならない。だが、それを話せば自分達は本当の兄弟では無い事に気付いてしまうからだ。その時ベルは冷静で居られるのか。そんな思考を巡らすヘスティアにベルが声を掛ける。

 

 「神様、覚悟は出来ています。驚かないなんて事は無理でしょうけどどんな話でも受け止めようと思っています。だって僕達は兄弟なんですから。例え血は繋がって無くても、ヒューマンじゃ無くても」

 「え?!知ってたのかい?!」

 

 ベルはまさかの自分とエルは義兄弟だと知っていたのだ。これにはヘスティアも驚きだ。

 

 「ええ。以前おじいちゃんが生きてる頃に僕だけ知らされました。もしかしたらお兄ちゃんも薄々気付いているかもですけど」

 「ええ…君のおじいちゃん言っちゃうんだそれ。結構隠す方が多いのに」

 「まぁ、小さい頃に色々ありまして。………だから大丈夫です。どんな事があっても受け止める自信があります」

 「……分かった。驚いても腰抜かしちゃ駄目だからね」

 「はい」

 

 2人の夜は続く

 

 

 

 

 





魔神王の魔力『支配者」についてですが、今作ではあらゆる物理魔力に対して反応しますが、原作では魔力だけどの事でした。『支配者』の魔力をそのままにするか、原作同様、物理は関係無しにするかアンケートを取ります。変更してもあの時のセリフが一部改変するだけで、それ以外は矛盾が生じませんので安心して下さい

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