『チカラをやろう』
『おまえの・・・・・・と引き換え・・・・・・守るチカラを・・・・・・』
「・・・・・・・・・・・・んぅ・・・・・・?」
■
ドナと一緒に寝たと思ったら日本の新宿らしき場所に居た件。
はいはい異世界異世界。流石に目覚めたら違う世界に居ることももう慣れた。
どうして異世界だと分かったかって?周りの建物が何処も崩れてるからだよ。日本語が書かれた看板が散乱している。まるで大地震に見舞われたみたいだ。
アタシは昨夜も配信してたが、日本で大災害が起こったなんてニュースは聞いてない。流石にアタシが眠ってる間の数時間でここまで広範囲が崩壊することはあり得ないはずだ。ここは平行世界か何かか?
遠くの高層ビル群の隙間から東京タワーが見える。アタシの生前の記憶にあるものと同じ『赤』の塔だ。
「というか、さっきの渋いオジサマの声は何だったんだ?幻聴かな・・・・・・」
確かチカラがどうとか言ってたけど・・・・・・
とりあえずこのあたりを探索しようと周囲を見渡すと、アタシの足元に1冊の本が落ちていることに気付いた。
奇妙な本だ。『拾い上げて』パラパラとページをめくってみる。黒の分厚い表紙、黒のページ、白の見たことのない文字。表紙や背表紙に銀の装飾が施されている。これは顔だろうか?
「それにしてもブサイクな顔の装飾だなぁ。アタシの方が何倍も可愛いよ」
『・・・・・・見つけた』
「は?」
アタシが確認できたのはそこまでだった。
持っていた本が光り輝き、アタシを光が飲み込む。思わず目を瞑るとさっきの声が聞こえる。
『貴方は選ばれたのです。『王』よ』
「!?・・・・・・オマエは誰だ?何がどうなってる!?」
『我が名は『黒の書』。貴方が、この世界を救済へと導く王となる御方か』
「いや、まったく身に覚えがないんだが・・・・・・」
何なんだコイツ・・・・・・?いや、黒の『書』だって?もしかしてこの本が喋っているのか!?
『何、そう驚かれますな。王よ。人間の言葉を扱うことなど、我にとっては容易いこと』
「・・・・・・まあ、よく考えたらアタシも無機物だし、そう珍しいことでもないのか・・・・・・?」
『貴方は奇妙な御方だ。人間の魂が人形に宿っているとは』
「!・・・・・・分かるのか?」
『ええ。ですが器は関係ありません。魂が人間のものであれば、我の起動条件を満たすことが出来ますので』
「そもそもオマエは何者なんだ?目的は?」
『その前に、貴方のお姿を確認した方がよろしいかと』
「え?」
いつの間にか光は収まっていた。慌てて近くにあった割れたカーブミラーで自分の姿を確認すると、そこには『人間』が立っていた。
常に濡れそぼっているかのように艶やかな黒い髪、熱を感じさせない灰色の肌、黒い眼球と黄金に輝く瞳。人形の時と同じ太陽と月の顔。人間離れした、それでいて途方も無く美しい姿だ。
これがアタシ・・・・・・?
「な、何が起こって・・・・・・!?」
『『ゲシュタルト』でございます。人の魂が器から抜け出し具現化した存在です。ですが、貴方の場合は分離ではなく変化のようだ。今までになかった事例です』
「???????」
どういうことだ・・・・・・!?器・・・・・・肉体と魂が分離した存在だって?
だが、アタシは通常の人間とは違うから分離するんじゃなく、人形の身体が変化してこの姿になった・・・・・・ってことか?
だが、何のために魂と身体を分離する?それにアイツ・・・・・・黒の書が言ってた『この世界を救済へと導く王』の意味もよく分からない。この世界に何が起こってるんだ?
『それを説明するには、些か時間を必要とします。まずは・・・・・・ムッ!?』
「え!?何!?」
話を聞こうとすると、突然黒の書がうろたえ始めた。いったいどうしたんだ?次から次へと問題が起こりすぎだろ。展開が早すぎてついていけない。
『まさか・・・・・・!?もう1人、適合者が・・・・・・?』
「適合者?」
『我に触れた人間は魂と肉体が分離しますが、『資格』がなければ正気を失い化け物と成り果てるのです』
「クッソ危険な書物じゃねーか!!」
ちょっと待って!それじゃ、アタシもその資格がなかったら化け物になってたの!?ふざけてんのかこのクソ紙!
ん、あ、あれ・・・・・・?何だ・・・・・・?急に、意識が・・・・・・
『!?王よ!どうされたのです!・・・・・・こ、これは・・・・・・?』
だめだ・・・・・・なにも・・・・・・みえなく・・・・・・
■
「・・・・・・ンジー?アンジー?もう朝よ」
「・・・・・・・・・・・・んぅ・・・・・・?」
気が付くと、アタシはドナのベッドの中にいた。部屋の窓から朝日が差し込んでくる。
・・・・・・まさか、さっきまでの出来事は夢?
「なぁんだ。良かった。アタシはまた厄介事に巻き込まれたのかと・・・・・・」
「また変な夢でも見たの?・・・・・・あら?アンジー、胸に何かついてるわよ」
「え?」
アタシは自分の胸を確認する。相変わらず貧乳(人形なので成長しないのは当然)だが、確かに胸元に何かついている。これは、まるで顔のような・・・・・・?
「・・・・・・ま、まさか・・・・・・?」
『お目覚めですか。王よ』
「ほわあああああああああああ!?!?」
うわあああああああああ!アタシの胸に黒の書がくっついてるうううううううう!!
『どうやら貴方と融合してしまったようです。それにしても驚きました。まさか貴方が異世界の住人だったとは。『竜』の研究で多元世界の存在が立証されていましたが、まさか我自身がそれを体験することになろうとは・・・・・・』
「いや何でそんなに平然としてるんだよ!?」
『我々がいた世界には貴方の他にもう1人、王の存在が確認されました。後のことはその方に任せましょう。それよりも、この世界の調査が先決です。書物となった我とて、流石に気分が高揚します』
「つまりずっとアタシについてまわるって事じゃねえか!」
「・・・・・・ええと、アンジーの新しいお友達、かしら・・・・・・?」
嘘だろ・・・・・・?アタシのプライバシーは!?
「・・・・・・良し!とりあえず、アタシ達が分離する方法を探すぞ!一時的でも良い!アタシのプライバシーを取り戻すんだ!」
『分かりました。ではそのように』
「よく分からないけど、頑張って!アンジー!」
こうして、アタシに奇妙な相棒ができた。これから一緒に数々の修羅場をくぐり抜けることになるのだが、その時のアタシ達には知る由も無かったのだ。
「よろしくな!『クロ』!」
『黒の書とお呼びください』
アンジーは『ゲシュタルト化』を習得した!
『黒の書』が仲間になった!