ロクでなし魔術講師とマダオ(まるでダメなおっさん)   作:嫉妬憤怒強欲

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一時のテンションに身を任せる奴は身を滅ぼす

「……うーん、駄目だな。掠りもしねえ」 

「ショウには遠距離攻撃は向かないな」

 

 魔術競技祭開催前の一週間は、授業が三コマのみとなり残りの時間は練習時間に当てられる。それぞれのクラスが担当講師の監督の下、魔術の練習に励んでいた。

 ショウとアヤトも最近授業で覚えた攻性呪文(アサルト・スペル)を唱え、植樹に向かって電光を撃つ練習をしているのだが、紫電は的に掠るどころか、的に寄る気配すらない。

 ショウの魔術狙撃の技量は、クラスの中ではぶっちぎりワースト一位だ。

 

「はぁ…やっぱ代役頼んだ方がいいんじゃねーか?」

「……誰に頼むんだ?」

「誰ってそりゃあ………」

 

 ショウは周りを見渡す。

 空を飛んでいる生徒がいれば植樹に魔術を打ち込む生徒がいる。女生徒の何人かはベンチに集まり呪文書を片手に魔術式の調整中だ。

 中庭の向こう側では、システィーナとルミアがベンチに腰掛けて呪文書を広げ、数人の生徒達とあれこれ話しながら、羊皮紙に術式を書き連ねている。時折、セラに術式について質問しているらしく、セラは羊皮紙を指差しながら答えている。

 グレンのクラス一同は今、一週間後の競技祭に向けて静かに盛り上がっていた。

 

「皆楽しそうだな」

 

 昨日までは気後れして尻込みしていたようだが、皆、なんだかんだで少しでもいいから競技祭に参加したかったのだろう。生徒達は生き生きとしながら、自分が出場する魔術競技の練習をしていた。

 

「…で、なんで全員参加させることにした張本人が疲れた顔で眺めてるんだ?」

「単純に、選手を使い回していいことを後で知った上に、あの状況で編成変えると言い出せなかったからだろ」

「殆ど自滅じゃん。というかなんで怠け者講師があんなやる気になってたんだ?」

「それも単純に欲だろ。さっき魔術競技祭について調べてみたが、どうも優勝したクラスの担任は特別賞与がもらえるみたいだぞ」

「特別賞与?」

「簡単に言うと金だな。それで位階を上げるために講師たちは研究費に当てるそうだ。まあ日頃の行いから研究にあてがったりしないだろうが」

「じゃあ金目当てってことか?いやいやいくら怠け者講師でもさすがに……………………ちょっと本人に確認してくる」

「え?今から?」

 

 ショウがグレンのところに駆けて行ってなにか話していると、グレンが大慌てでショウを捕まえてアヤトのところまで駆けてきた。

 

「おいアヤト!なんでお前俺が特別賞与目当てだってわかったんだ!?」

「やっぱりそうだったのか」

 

 アヤトの予想が当たっていた。

 

「……それで、なんか金が入り用なんですか?学院の魔術講師として収入があるはずでしょ?」

 

 アヤトの問いに、グレンは憂いを湛えた表情で、雄大な幻の城—フェジテの象徴、メルガリウスの天空城が浮かぶ夕焼けの空に目をやる。

 

「全額未来へと投資したんだよ」

「未来に投資?」

「ああ……明日という無限の可能性のため、そして、より多くの希望を掴むために――」

「ひょっとしてギャンブルでスッたのか?」

「やめてよね、せっかく人が格好良く決めてるのに水を差すの」

「うわぁ…マジか。まじで駄目な大人、略してマダオだ」

「誰がマダオだ。最近マダオって言葉よく聞くけどプチ流行してんの?」

 

 身もフタもないショウの言い草に、グレンは口を尖らせて抗議した。

 

「大体、俺が悪いんじゃないぞ!?あそこでハートの3が来るのが悪いんだッ!4以上のカードだったら、俺はぁーッ!?」

「「…」」

 

 ショウとポーカーフェイスを崩さないアヤトもグレンを冷めた目で見る。

 

「——というわけで、このことは黙ってください、お二方。クラスの連中に、特に白猫と白犬にバレたらどんな目に遭うか」

「………まあ皆やる気出してるみたいだから水を差すようなことはしませんよ。それで、勝算はありそうですか?」

「……微妙だな。さっき【コール・ファミリア】で他のクラスを偵察していたんだが・・・やっぱりどこのクラスも成績上位者で全種目固めていやがった……ちくしょう、ずるいだろ・・・優秀な奴ばっか使うなんて、どいつもこいつも勝ちゃそれでいいのかよ!?勝利よりも大切なものってあるだろ、くそぅ!」

((さっきまで自分も同じことやろうとしてたくせに・・・))

 

「……ま、いっか」

 

 誰へともなく呟くグレンの顔は、どこかさっぱりしたものだった。

 

「ともあれ、当面の食料はなんとか調達しないとな。特別賞与とかもう期待してねーが、餓死はごめんだぜ。この学院、シロッテの木とか生えてなかったかな……あれの小枝がありゃ、次の給料日くらいまでならなんとか……」

 

「さっきから勝手なことばかり……いい加減にしろよ、お前ら!」

 

 突然、激しい怒声が耳に飛び込んでくる。

 

「……なんだ?」

 

 グレンが面倒臭そうにその方向へ目を向けると、どうやらグレンのクラスの生徒達と他のクラスの生徒達の何人かが、中庭の隅で言い争っているらしかった。

 

「……おーい、何があったんだ?」

 

 放っておくわけにもいかず、ため息混じりにグレンがその場所へ向かった。件の生徒達は、今まさに相手へ掴みかからんばかりの一触即発の雰囲気を放っていた。

 

「あ、先生!? こいつら、後からやってきたくせに勝手なことばかり言って——」

 

 2組の生徒、カッシュが興奮気味にまくし立てる。

 

「うるさい! お前ら二組の連中、大勢でごちゃごちゃ群れて目障りなんだよ!これから俺達が練習するんだから、どっか行けよ!」

 

 カッシュに相対する他クラスの男子生徒も、やはり興奮気味に言葉を吐き捨てる。

 

「なんだと——ッ!?」

「はいはい、ストップ‾」

 

 グレンは取っ組み合いを始めたカッシュと男子生徒の首根っこを掴んで、左右へ強引に引き剥がした。

 

「あがが……く、首が……痛たた……」

「うおお……い、息が……く、苦し……」

「ったく、くっだらねーことで喧嘩してんじゃねーよ……お前ら沸点低過ぎだろ」

 

 生徒達が大人しくなったのを確認して、グレンが手を離す。

 首を解放された二人がむせながら地面に這いつくばった。

 

「えーと? そっちのお前ら……その襟章は一組の連中だな。お前らも今から練習か?」

「え……あ、はい。そうです……その……ハーレイ先生の指示で場所を……」

 

 比較的大柄な生徒二人を、腕力だけであっさり制したグレンの姿に萎縮してしまったらしい。一組の生徒達は先ほどまでの威勢を引っ込め、殊勝に応じる。

 

「ふーん、そう……」

 がりがりと頭を掻きながら、周囲を見回す。

「うーん、まぁ、確かに俺ら、場所取り過ぎか……悪かったな。全体的にもちっと端に寄らせるからさ、それで手打ちにしてくんね?」

「ば、場所を開けてくれるなら、それで……」

 

 なんとなく丸く収まりそうな雰囲気に、様子を見守っていた生徒達が安堵するが——

 

「何をしている、クライス! さっさと場所を取っておけと言ったろう! まだ空かないのか!?」

 

 怒鳴り声と共に二十代半ばの男がやってくる。学院の講師職の証である梟の紋章が入ったローブを羽織り、眼鏡をかけた神経質そうな男だ。

 

「あ、ユーレイ先輩、ちーっす」

「ハーレイだ! ハーレイ! ユーレイでもハーレムでもないッ! ハーレイ=アストレイだッ!グレン=レーダス、貴様、何度、人の名前を間違えれば気が済むのだ!?てか、貴様、私の名前を覚える気、全ッ然! ないだろッ!?」

 

 二人の間で、このやりとりはもうすっかりお馴染みらしい。

 気楽に挨拶したグレンに、学院の講師ハーレイはもの凄い形相で詰め寄った。

 

「……で? ええと、ハー……なんとか先輩のクラスも今から競技祭の練習っすか?」

「……貴様、そこまで覚えたくないか、私の名前」

 

 ぴきぴきと拳を振るわせるが、ハーレイはつき合ってられんとばかりに話を続ける。

 

「ふん、まあいい。競技祭の練習と言ったな? 当然だ。今年の優勝も私のクラスがいただく。私が指導する以上、優勝以外は許さん! 今年は女王陛下が直々に御尊来になり、優勝クラスに勲章を賜るのだ。その栄誉を授かるに相応しいのは私だ!」

「あっはっは! うわー、凄い熱血すねー、頑張ってください、先輩!」

 

 道化じみたグレンの態度に、ハーレイは忌々しそうに舌打ちした。

 

「それよりもグレン=レーダス。聞いたぞ?貴様は今回の競技祭、クラス全員をなんらかの競技種目に参加させるつもりなのだとな?」

「え? あぁ、うん、はい、まぁ、そうなっちゃったみたいっすね……不本意ですけど」

「はっ!戦う前から勝負を捨てたか?負けた時の言い訳作りか?それとも私が指導するクラスに恐れをなしたか?」

 

 グレンが困ったように頭をかいていると。 

 

「あの~、話が脱線してますよ?これ場所取りの話ですよね?」

 

 セラがこの状況を打破しようとし、ハーレイとグレンの間に割り込んだ。

 

「ちっ……まぁ、いい。さっさと練習場所を空けろ」

「あー、はいはい。あの木の辺りまでで充分ですかね?」

 

 セラに乗るようにグレンが練習用の面積を考慮して、場所割りを提案するが───

 

「何を言ってる?お前達二組のクラスは全員、とっととこの中庭から出ていけと言っているんだ」

「は?」

「え?」

 

 そんなハーレイの一方的な言葉に、その場にいた二組の生徒達が凍りついた。流石にグレンも渋面になり、セラは憤慨しながら抗議する。

 

「それは流石に横暴ですよ!こっちも真剣に練習しているのに!」

「何が横暴なものか」

 

 ハーレイが吐き捨てるように言い放つ。

 

「もし、貴様に本当にやる気があるのであれば、練習のために場所も公平に分けてやってもいいだろう。だが、貴様にはまったくやる気がないではないか! なにしろ、そのような成績下位者達……足手まとい共を使っているくらいなんだからな!」

「——っ!?」

「勝つ気のないクラスが、使えない雑魚同士で群れ集まって場所を占有するなど迷惑千万だ! わかったならとっとと失せろ!」

 

 その酷い言い草に二組の生徒達は一気に表情を暗くする。そんな中――――

 

「《雷精の紫電よ》」

 

 ショウから放たれた紫電がハーレイの頭の上スレスレを飛んで行き後ろの木に当たる。ちなみにハーレイの前髪が何本か焦げた。

 

「お、少し掠った」

「なっ!?誰だ今のをやったのは!?」

「あっ、オイラっす」

「なっ…東方からの留学生、ショウ=ソウマ貴様!何をしたか分かって…!」

「いやーすんませーん、狙撃の練習してたんすけど、間違えてそっちに飛ばしてしまいやしたー別にさっきの先生の発言にムカついて後退を始めてる生え際に当てようとしたわけじゃないっすよー」

(絶対当てる気だったな…)

「き、貴様…留学生だからと…ふざけるな!」

「ふざけるなだと…?」

 

 普段ののほほんとしたような感じが鳴りを潜め、どこか冷めたような目でハーレイを見るショウ。

 

「ふざけてるのはそっちだろ?グレン先生を目の敵にするのはまあしょうがない。日頃の行いがあれだからな「おい」けどな、他の皆を悪く言うのはお門違いだ。『足手まとい共』だ?『使えない雑魚』だ?講師以前にいい年した大人が子供にそんなこと言うなんて最低だぞこのハゲ!」

「は、はげ…」

『『『ぶっ!』』』

 

 何処からか笑いを堪えようとしたのが間に合わずに吹き出した音がいくつかした。

 

「き、貴様……学生の分際で講師である私に暴言を……!」

 

 ハーレイも流石に我慢の限界なのか、決闘用の手袋を外そうとしていた。

 

 そんな張り詰めた空気の中、二人の間に割って入る影があった。

 

「あ〜、はいはい……ショウもハーなんとか先輩も落ち着いてくださいな」

「何だグレン=レーダス。私はこの無礼者に灸を据えねば……」

「ハーなんとか先輩、うちの生徒が失礼しました。ですがお言葉ですが、うちはこれが最強の布陣なんすよ。もちろんうちは、優勝を狙ってますよ。油断して寝首をかかれないことっすね!」

「フン…口ではなんとでも…」

「給料三ヶ月分だ」

「な、何ィ……ッ!?」

「俺のクラスが優勝する、に俺の給料三ヶ月分だ」

 

 グレンの宣言に、ハーレイは当然、周囲全員がどよめいた。

 特にグレンのクラスの生徒達が、ぽかんとした表情でグレンを見つめている。

 

「しょ、正気か、貴様……ッ!?」

「さて、どうしますかね? 先輩。この賭け乗りますか? いやぁ、三ヶ月分は大きいですよねぇ? もし負けたら先輩の魔術研究が、しばらく滞っちまいますよね……?」

「ぐ……ぅ……ッ!」

(金欠の癖に何見栄張ってるんだ?)

 

 大方ムカついたから後先考えずに強がったんだろう。ギャンブルでもこんな感じだったんじゃないかというのがアヤトによる見解だった。

 

「くっ……そこまで言うならいいだろう。私も自分のクラスに給料三ヶ月分だ!」

「や、さ〜っすが先輩。そうこなくっちゃ面白くないですよね〜。いやぁ……先輩くらいの教師なら給料も俺と違って相当なんでしょうねぇ……ごっつぁんです」

「き、貴様……」

「そこまでです、ハーレイ先生」

 

 凛と涼やかに通る声が、ハーレイの言葉を封じた。

 

「それ以上、グレン先生を愚弄するなら、私が許しませんから」

 

 声の主は、いつの間にか駆けつけてきたシスティーナだった。

 

「貴様、システィーナ=フィーベル!?あの名門フィーベル家の…くっ!?」 

 

 ハーレイはシスティーナの介入に明らかな狼狽を見せている。

 

「そもそも、練習場所に関する貴方の主張にはどこにも正当性がありませんし、グレン先生に対する侮辱行為も不当です!これ以上、続けるなら講師として人格的に相応しくない人物がいることを学院上層部で問題にしますが、よろしいですか?」

「ぐぅ…ッ!?こ、この親の七光りがぁ……ッ!」 

 

 明らかに余裕をなくしたハーレイに、システィーナは余裕の笑みを向ける。

 

「今、ここでそんな低俗な争いをせずとも、グレン先生は逃げも隠れもしません。一週間後の魔術競技祭で正々堂々とハーレイ先生率いるクラスと戦うでしょう……」

 

 そして、どこか嬉しそうな、期待に満ちた表情でシスティーナはグレンに振り向いた。

 

「ですよね、先生!?」

「お、おう……この俺が教えるんだ。必ず勝つぜ」

「く、精々首を洗って待ってろ、グレン=レーダス! 集団競技になった際には、まずお前のクラスから率先して潰してやるからな!」

 

 そんな捨て台詞を置いてハーレイは中庭から去っていった。

 

「…………なあ先生、あのクズに喧嘩売ったオイラもだけど、あんな賭け持ちかけて大丈夫か?」

「大丈夫なわけねえだろ」

「じゃあなんで?」

「いや、勢いというか……ついな……」

「それにしても、少し見直したわ。グレン先生……もなんだけど、ショウまで教師相手に随分な啖呵を切ったじゃない」

「いや、別にお前らのためじゃないんだが……」

「んー……オイラもただむかついただけだからな」

「何?照れ隠し?」

 

 もちろん、照れ隠しとかではなく、紛れもない事実である。

 

「いや、先生。アンタ漢だよ!」

「いつものほほんとしてるショウが俺達のために怒って……」

「僕、見てて感動しました!」

 

 二組の生徒たちがグレンとショウに欣快の言葉を浴びせる。

 

「ほら、みんな!二人があそこまで言ってくれてたんだもの、絶対に負けるわけがないんだから!みんなで競技祭、勝ち抜くわよ!」

『『『おおぉぉ────っ!!』』』

 

 システィーナのあおりに、セラ含むクラスの生徒達皆のテンションが最高潮に上がっていた。

 

 珍しくグレンへ、ご機嫌な笑みを向けるシスティーナ。

 そんなシスティーナへ、グレンは恨めしそうに引きつった笑いを向ける。

 

 

 

 

「…なあアヤト」

「なんだショウ?」

「気が変わった。『タッグロワイヤル』に勝ちに行く。気張っていくぞ」

 

 なんやかんやで、ショウの方にも火が点いていた。

 

「………まあ、オレができる限りフォローする」

 

 そんなショウにアヤトはポーカーフェイスを崩さずに淡々と告げる。

 

 

 

♢♦♢

 

「そういえばあんた、来週学校の方で競技祭があるんだって?」

 

 下宿先に戻ったショウが下のバーで晩飯を食べていると、ママであるマダムから話題を振られた。

 

「おう、オイラのクラス全員で参加するんだ」

「へえ、あそこは少人数を使い回すのが恒例になってたのに、あんたのところは随分ともの好きな講師がついてるんだね」

「もの好きっていうか、授業以外はてんでやる気のない駄目人間だけどな」

「あら、駄目人間ならここにもいるじゃないか」

 

 カウンター席の方を見ると、しこたま酒を飲んで酔い潰れているレイがいた。

 

「おいおい、オレのいったいどこが駄目人間なんだよ。今日もちゃんと仕事こなしてこうして酒で自分を労ってるってのに」

「自分を労うのに今日の報酬分使い果たす馬鹿が駄目人間以外なんだって言うんだい。あんたもう少しで来月分の家賃払う日だっての忘れてないだろうね」

「ああ、大丈夫大丈夫。そのうち払うから」

 

 レイの適当な返事にマダムは溜息を吐く。

 

「あー……なんていうか、レイさんとうちの先生って似てるところあるな。やる気出したのもギャンブルですっちまった給料の代わりに特別賞与ってやつで食いつなごうとしてるし」

「ギャンブルで給料すっちまうたとんだ駄目人間だな。一度顔を拝んでみたいぜ」

「拝みたいなら競技祭に観に行ったらどうなんだい?どうせあんた仕事がなかなかこないから暇だろ」

「えー、面倒くせぇ。つーか俺こいつがどこの学校に通ってるか知らねーし」

「なんだい聞いてないのかい。アルザーノ帝国魔術学院ってあんたがこの間まで行ってたところだよ」

「…………え?」

 

 マダムからの思いもしなかった情報に、レイの動きが止まる。顔には今日1番の驚愕を貼り付けていた。

 

「え?レイさん学院に行ってたの?」

「こいつの前の仕事の同僚がそこの講師を勤めるってなった時にサポートにまわってたんだよ」

「………おいショウ、その駄目講師って、ひょっとしてグレンって名前か?」

「そうだが……」

「へえ…」

 

 それから顎に手を当て、数秒。何かブツブツ言ってるようなのでショウがレイの顔を覗き込むと、とんでもなく悪い顔をしていた。

 

(い、嫌な予感―――)

 

 

 

 

「はぁ~い。というわけで、二組のクラスの元副担任の万事屋レイさんが期間限定で戻って参りました」

「「「「「なにがというわけなんだ!?」」」」

 

 翌日。数ヶ月振りに現れたレイに、グレンとセラ含む二組の面々は戸惑いを隠せないでいた。

 

「誰だ?」

「あそっか、アヤト君はその時まだいなかったね。グレン先生がうちのクラスに来た時に副担任として一緒に来たんだよ。その後セラ先生と交代して辞めたけど」

 

 レイと面識のないアヤトに、女顔の小柄な男子生徒セシルが簡潔に説明してくれた。

 

 

「えっと…レイ君久し振りだね。どうしてここにいるの?」

 

 突然の再会に戸惑いつつも、セラがクラスを代表して問いかける・

 

「いやーショウから魔術競技祭の話聞いてよ。元副担任としてなんとかしてやらんとなとはせ参じたわけよ」

「は?お前ショウと知り合いなのか?」

「知り合いもなにも、俺のところに居候してるぞ」

 

「「「えええええええええええ!?」」」

 

 教室内が驚愕の声で反響した。

 

「今の話本当なのショウ!?」

 

 全員ショウの方を向くと、なんとも気まずそうな表情をしていた。

 

「お、おう。オイラもレイさんがここに仕事で来てたのを昨日初めて知った……よくよく考えたら、酒飲みながら知り合いについてよく愚痴ってた知り合いってグレン先生のことだったんだな」

「は?俺についてなに言ってたんだ?」

「年下の子供に発情する変態ホモン=ロリーダスだって」

「表出ろや腐れ天パぁああああああ!今日こそ決着つけてやらああああ!」

 

 自分の知らぬ所でとんでもないあだ名をつけられたことを知りグレンは叫ぶが、レイは悪びれた様子はない。

 

「ままま、怒るなよ。ほんの冗談だって。そんなことよりもだ。ショウの話だとお前クラスのこと馬鹿にしたハゲに啖呵を切ったんだって?いやぁ、それ聞いて俺まじ感動したわぁ。だから俺も一肌脱いで協力してやろうと」

「協力だぁ?別にお前の助けなんて――――」

 

 レイは断ろうとするグレンのそばに寄り、

 

「……特別賞与」

「―――!?」

 

 誰にも聞かれないようにぼそりと出た単語にグレンが凍り付いた。

 

「ショウから聞いたぜぇ。優勝したクラスの担任は金が貰えるんだろぉ?」

「お、お前……」

「山分けとしては2対8が妥当だな。あっ、8は俺の分な」

「ちょっ、何勝手に――」

「まあ取り分の詳細は後にして、だ。お互い金欠で困ってんだ。仲良くやっていこうぜぇ」

 

 レイは他の人間からは見えない角度でグレンに笑顔を向ける。

 ニヤりと黒いニヒルなその笑みはまさしく悪魔の笑みだった。

 

「そ、そうか。来てくれて本当に助かるぜ。お前がいたら百人力だ」

 

 もし断ればセラ辺りにバラされる。そう悟ったグレンは作り笑いで快くレイを迎えた。

 

(先生、本当にすまん)

 

 それを見てショウは秘かに心の底でグレンに謝罪するのだった。

 




レイが再び登場。


主人公にあるまじき行為。
そして追い詰められていくグレン。

……酒が旨いぜ(愉悦)。
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