ロクでなし魔術講師とマダオ(まるでダメなおっさん)   作:嫉妬憤怒強欲

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魔術競技祭、開催前

「よし、いいかテメェら。この俺が来たからにはテメェらのクラスは優勝したも同然だ。当日までに鍛えてやる」

「ふん、何を言い出すかと思えば……冗談はその辺にしておいてくださいよ。レイ先生は魔術が使えないというのに、僕達をどう鍛えるのですか?」

 

 強引な形で戻ってきたレイに、インテリ然と澄ましているギイブルが相変わらず嫌味な物言いで茶々を入れてくるが……

 

「おいおい、そう小馬鹿にするような言い方してるとモテねえぞ新八」

「誰が新八ですか!?僕の名前はギィブルです!」

「八みたいな眼鏡かけてるだろ」

「八みたいな眼鏡をかけてる生徒僕以外にいるでしょうが!?」

「ごちゃごちゃうるせえな。話が進まねえから黙ってろ。眼鏡かち割るぞ」

 

 脅迫紛いの言葉でギイブルを黙らせて、話を続ける。

 

「まあ、俺に魔術なんて教えることはできねえが、知恵を授けることはできる。この俺が確実に優勝するための秘策を考えてきた」

「えっ、マジで!?」

「なんなのレイ君。その秘策って?」

 

 いつになく頼もしげなレイにグレンとセラ、クラスが注目する。果たして、自信ありげな彼が思いついた方法とは一体何なのだろうか。

 

 

「なに、簡単なことさ。当日までに」

「「当日までに?」」

「他クラスの出場選手全員闇討ちすればいいんだよ」」

「「「「アホかぁああああああああああああ――ッ!?」」」」

 

 途轍もなく酷い策だった。当然クラス中が非難轟々となる。

 

「え?気に入らなかったか?競う相手がいなければ自動的に優勝になるだろ」

「ふざけんじゃないわよ!そんな汚い手段で勝っても全然楽しくないわ!」

「卑劣にも程がありますわよ!」

「人として最低だぞ!」

「そうだそうだ!」

「成程その手があった「グレン君?」却下じゃぼけえ!」

 

 全員(?)の反対意見が出てレイの策は即却下された。

 

「真面目だなぁ………じゃあ相手と直接対決する競技に出る奴俺が見る方向で」

「結構絞られたな」

「最初からそんな感じで真面目にやってください」

「さっきのはほんの軽いジョークだって。お前等が本気か試したんだよ」

(((絶対にやりそうだった……)))

 

 レイの手のひら返しに不満を抱きつつも、『決闘戦』と『殲滅戦』、『タッグロワイヤル』に出る面々がレイのところに集まる。

 

「よし、これからテメェらを担当するぞ。やることは簡単だ。ショウとなんかパッとしない茶髪の奴の二人で、あとの奴は一人ずつ俺が相手する。遠慮なくかかってこい」

「「「…………はぁ?」」」

 

 システィーナ達はレイが出してきた訓練の内容を理解できなかった。

 

「僕達を舐め過ぎじゃないですか?こっちは魔術を使えるんですよ」

 

 決闘に出場するギイブルが再び茶々を入れる

 

「バーカ。使えると戦えるは全然違うわ。座学しかほとんど学んでいねえテメェらには足りねえ要素だ」

「足りないって…魔導教練には真面目に取り組んでますが」

「あんなの予め想定された状況下を用意したもんじゃねえか。本当に求められるのは、常に変化する状況下で咄嗟の判断ができる行動力なんだよ」

「くっ、だ、だとしても」

 

 口喧嘩では誰にも負けないレイの言葉に負けじと食いつく。

 

「じゃあ実際にやって見せるよ。いいだろグレン?」

「言っとくがやりすぎるなよ」

「わぁーてるって。ほら、ショウに根暗そうな奴、先ずはお前らからだ」

「あの、ちゃんとアヤトって名前があるんですが」

 

 悪口に近い呼ばれ方に文句を言いながらも、アヤトはショウと共に前に出る

 

「名前知らなかったから仕方ねえだろ。あっそういえば俺他の奴等の名前覚えてなかったわ」

「「「おい」」」

「じゃあこれを機に全員の名前覚えたらどうですか?」

「へっ、気が向いたらな!」

 

 レイはそう呟いて、腰に差していた木刀に手を掛けた。

 そして次の瞬間、レイの姿は二人の前方50センチほどの位置に移動していた。木刀を水平に振るい、二人の胴辺りめがけて薙ぎ払う。

 

 異変に気付いたギイブルとカッシュ、システィーナが息を呑み、アイザが視線だけで彼を追う。

 

「ちょちょちょちょちょッ!?何やろうとしてる!?」

 

 グレンが止めに入ろうとするが――

 

「うお!?」

「――――」

 

 バックステップ1歩だけで、ショウはレイの攻撃を易々と避けた。それは意識的に1歩後退ったというよりは、例えばタンポポの綿帽子が振るわれた木刀の気流に乗って移動したような錯覚すら生まれるほどに自然な動作だった。

 アヤトの方は、上体のみを後方に仰け反らすことでギリギリで避けた。

 しかしレイも、自分の攻撃が避けられた驚愕で動きを止めることはしない。ほとんど反射的に木刀を振り上げ、もう1歩踏み込んで即座に2撃目を繰り出した。だがアヤトは上体を後方に反らした状態から両手を地面につけ、バク転をしてそれも回避した。

 振り下ろされた木刀が空を斬り、そのまま地面に激突して土煙が舞う。土煙が晴れた時には地面に大きな窪みができていた。

 後方へとアヤトが距離を取った後の追撃はない。

 

「「「「………………」」」」

 

 クラス中の生徒達が目を剥き、口をあんぐり開けて硬直する中、レイの顔がシスティーナ達の方へと向いた。

 

「とまあ、こんな感じで対処できればいい。わかったか?」

「なにが『わかったか?』だぁ?このボケがぁああ!」

「べぎらまぁ!?」

 

 レイの後頭部にグレンのドロップキックが叩き込まれた。

 

「いてえな。何すんだグレン!」

「それはこっちのセリフじゃぼけえ!やりすぎるなって俺さっき言ったよな!?なのに初っ端からなにやらかしてんだよ!?当たったら二人共確実に死んでたぞ!」

「は?制服になんかの術式がついてるってお前この前言ったじゃん。だからこれくらい大丈夫だと思って」

永続付呪(エンチャント)されてるのは気温・湿度調節魔術黒魔【エア・コンディショニング】で、防御用じゃねえよ!」

「えっそうなの?」

「そうなのって、人の話ちゃんと聞いとけよ!?」

 

 グレンからもたらされた情報に、レイは冷や汗をダラダラと流し始めた。

 

(や、やっちまった!これじゃあ俺誤って生徒を殺しかけたやべえ奴じゃん!誰も教わろうなんて思わねえよ!は、早くなんとかしねえと――)

 

「い、いやー、ちょっと小突く程度の力しか出してないのにこの辺の地面思ってたより柔らかいなー?落とし穴でも仕掛けられてたのかもしれねーな。きっとどっかのクラスが仕掛けた罠なんだろ。うん、きっとそうだ。危ない危ない。お前ら気を付けろよー」

「「「「「「…………」」」」」」

「やめて!そんな目で俺を見ないで!」

 

 棒読みで誤魔化しだしたレイを見て何とも言えないシスティーナ達の視線が痛い。

 

「ま、まあ二人共怪我が無くて良かったね。レイ君手伝いに来たのならちゃんと加減とかもしないとメッだよ」

「…はい。すみませんでした」

 

 フォローに入る形でセラがレイを軽くしかる中、グレンはやれやれと呆れながらショウとアヤトに声を掛ける。

 

「にしてもお前らすげーな。レイの初撃を避けれる奴なんて早々いねえぞ」

「いやーそれほどでも」

「あれですかね。火事場の馬鹿力ってやつ」

「いや、火事場の馬鹿力であんなアクロバティックな動きできるか。サーカスにでもいたのか?」

「いえ、ここに通うまで普通のところにいました。そう言うグレン先生達はあのレイ先生とどういう関係なのですか?」

「は?どういうって?」

「さっき言いましたよね?『レイの初撃を避けれる奴なんて早々いない』と。どういうところにいればあんな言葉が出たか気になったので」

「(こ、こいつ妙に鋭い!)あ、あっれ~?俺そんなこと言ったっけ~?」

「いや、言ってたぞ。そういえばグレン先生はレイさんと前の仕事の同僚だって聞いたが、どんな仕事についてたんだ?」

「えっ、いや、その……」

 

 流石に帝国軍が一翼、帝国宮廷魔導士団、特務分室に所属して外道魔術師をぶっ殺してましたなんて言えるわけもなく…………

 

「あ、遊び人やってました」

 

 グレンは思いっきり納得できる職業を答えた。

 

「遊び人?」

「それただの無職じゃん。なんかピッタリだけど」

「だあぁああ――ッ!この話は終わりだ、終わり!今は練習の時間だぞ!」

 

 後になって恥ずかしくなってきたグレンは強引に話題を変えた。

 

「さっきのを見てお前らの回避能力が高いのは改めてわかった。あと必要なのは攻めと連携だな。出場するのはクラスの数だけチームがあるから、合計十チーム。それに加えて魔導用ゴーレムがいるんだ。よそのクラスをちょいと使い魔に偵察させてきたんだが、正直回避にばかり徹してばかりだと正直勝率が低い」

「けど先生、オイラの【ショック・ボルト】全然当たらねえぞ」

「あー……そりゃああれだ。マトモに使えないなら、マトモに使わなければいいって話だ。ようするに――――」

 

 グレンが少し考え込んで、ショウとアヤトにとある提案をした。

 

 

「……まあ、確かにそれならいけるかもな」

「問題は完全にものにするための時間ですよ。本番まであと数日ですし」

「そこなんだよな………練習を見てやるにも、俺とセラは他の競技に出る奴につきっきりになってしまうし…………」

 

 ちらりと、暇そうな人間の方に横眼を向け、はぁと思いため息を吐く。

 

「仕方ねえ。猫の手どころか、マダオの手も借りてぇところだ」

 

 本当は頼りたくねーがな、とグレンは頭をボリボリ掻く。

 

 結局、クラスに危ない奴という印象がついたレイはショウとアヤトを担当する運びとなった。レイからは攻撃しないという条件付きで。

 

 

 そんなこんなで、瞬く間に一週間が過ぎた。

 今日はアルザーノ帝国魔術学院、魔術競技祭、開催当日。

 そして、アルザーノ帝国女王アリシア七世を来賓として学院に迎える日である——

 

 

 

♢♦♢

 

 

 帝国北部イテリア地方と、フェジテのある帝国南部ヨクシャ―地方を南北に結ぶ、アールグ街道を南下する馬車があった。

 

「あぁ……かったるぅ、ねえこれまだ着かないの?」

 

 馬車の中にて。窓の外の光景を眺めながら気だるそうにぼやく奇妙な青年がいた。白い髪、190台の長身、目元を黒い目隠しで覆うという不審者スタイルの20代の男性だ。

 

「こうも長い時間座ったままだと尻が痛くなってくるよ」

「文句ばかり垂れるなノクティス。これでも速い方なんだぞ」

 

 目隠しの男性の向かいの席に腰掛ける40代の男性が咎める。刈上げ頭でアゴヒゲを蓄え、サングラスを掛けた、強面の男性だ。

 

「いやね。それはわかってますよネイモス部長。ただね、転送法陣があったときは移動が凄く楽だったから」

 

 転送法陣とは、離れた場所と場所を繋いで一瞬で移動することを可能とする、超高等儀式魔術を補助する魔導施設である。 敷設に適した土地の霊脈の関係上、世界中のどこにでも自由に敷設できる代物ではなく、おまけに敷設には莫大な金と時間がかかる上に、法陣を活用できるのは魔力操作に長けた人間——魔術師だけという欠点もある。

 だが、それでも都市間移動を駅馬車や徒歩、船に頼るこの世界では便利極まりない代物だ。近年開発された蒸気機関という新しい動力源を利用した鉄道列車の整備も現在、政府の開発条項にあがっているが、実用化はまだまだ当分先、転送法陣に代わる物ではない。

 

「帝都オルランドと学院を繋ぐ転送方陣は一ヶ月ほど前のテロリスト襲撃で使い物にならなくなって復旧のめどは立ってないって話じゃないですか。なのに陛下もわざわざ馬車で遠出する必要ないでしょうに……ていうかあの人戦争回避の為の和平協定締結とかで忙しい上に魔術師への世間の風当たりが強いでしょ?」

「不安定な情勢だからこそだ。由緒正しい学院の競技祭に来賓として顔を見せることで大衆に陛下の威厳を示す必要がある。それに…………」

「それに?」

「……親がしばらく会っていない子の顔を見たいというのに理由なんているか」

「あー……そうだった」

 

 馬車の中がしんみりとした空気になる。

 

「でもな~あそこの魔術競技祭すっごくつまんないんだよな~毎年特別賞与目当てで優秀成績者ばかり使い回してて……僕ら面倒くさくてよくばっくれたんだっけ」

「そういえばお前達の母校だったな…だが今回のはひと味違うみたいだぞ」

「ん?」

「なんでも二ヶ月くらい前に来た新しい魔術講師はクラス全員を出場させるらしい。東方からの留学生も含めてだ」

「へぇ?そりゃ随分な物好きだね。どんな奴か見てみたいよ」

「名前は確か………グレン=レーダスだったか」

「…………マジ?」

「マジだ」

 

 魔術講師の名前を聞いた途端、

 

『グレン、お前やっぱ講師目指せ』

『ちょっ、いきなりなんてこと言うんですか先輩』

『だってお前魔術で戦うことに向いてねーし、まともにやろうとすればマジで死ぬぞ。死んだらマジビンタな』

『デリカシー!?』

 

「……そうか。あいつ講師になったんだ」

 

目隠しの男性、ノクティスの気だるそうな表情が一変。口角を上げて、楽しそうに笑みを浮かべていた。

 

「きっと楽しくなるな」

 

 

 

 

 

♢♦♢

 

 

 

 ——夢を、見る。

 それはルミアにとっては、もう何度見たかわからない夢。

 だから、ああ、またあの夢だ……と胡乱な意識の中、ルミアは漠然と思った。

 

「うぅ…ひっく……おかあさぁん…私を捨てないでよぉ…いい子に……いい子にするから…わがまま言わないから…私のこと嫌いにならないでぇ……」

 

 幼い頃の私にとって母は私の世界の全てだった。だから母から捨てられた私は、世界の全てから嫌われてしまった、要らない子になってしまった、そんな風に感じていた。

 母に捨てられたと思って僻み、お世話になっていた家の人達に毎日当たり散らして屋敷を飛び出した。

 

 しばらく森で泣いていると、誰かが声をかけてきた。

 フード付きローブを纏っていて、顔が見えなかったが後で男の人だと分かった。

 

『こんなところで何してる。早く家に帰れ』

「帰る家なんて、ないっ…………」

 

 私は半分ヤケクソ気味に自分の中に溜め込んでいる物を彼に吐き出した。母親に捨てられた嘆き、誰からも必要とされない悲しみ、誰一人として味方のいない絶望。全部、全部、吐き出した。知りもしない相手に私は本音をぶつけていたのだ。

 全ての話を聞いた彼は私に告げる。

 

『母親に捨てられたのは偽りない事実だ。そこは変えようがないし、そのあたりの事情を理解しろってのも無茶な話だ。本当に親に愛想をつかされたのなら、なんでその辺の森に捨てずに他の家に預けられてる?』

 

 まるで全て知っているかのように彼は言葉を紡ぐ。

 

『誰も味方がいないならなんでその家の人たちは悲しみに暮れるお前を根気強く向き合おうとしてくれる?自分は要らない子ならなんでその人たちは引き取った?本当に味方がいないのかよく考えろ』

 

 彼の言葉に私は思い当たる節があった。私のことを引き取ってくれたフィーベル家の人達。どんなに私が当たり散らしても、酷い喧嘩をしても、あの家の人達は私を追い出したりはしなかった。いつも私のことを心配して、守ろうとしてくれていたのだ。それにどうして気付けなかったのだろう。

 

『ちゃんと話し合って謝ればいい…………無事ここを切り抜けれたらの話だが』

 

 周りを見渡すと、何十人といるかもしれない悪い魔術師達が出てきた。

 

 どうも私をシスティと間違えて攫いに来たらしい。

 

『事前調査も碌にできない馬鹿どもの集まりか…………雑魚だな』

 

 すると彼は私を庇うように魔術師達の前に出る。

 

『言っておくが俺は正義の味方じゃない。だが、、もし、俺とまた会えたなら——……』

 

 

「ルミアー? ほら、そろそろ起きないと……」

「……むにゃ?」

 

 ゆさゆさと揺さぶられ、ルミアの意識が夢の中から現実世界へ舞い戻る。

 

「あれ? …………ええと」

 

 ルミアが寝ぼけ眼をうっすらと開ければ、そこはシスティーナと共同で使っている、いつものフィーベル邸の一室だ。華やかな文様が描かれた絨毯、壁の燭台、磨かれたオーク材の机に椅子など、部屋に据えられた調度品の数は控えめだが、どれも品が良い。

 自分はゆったりと丈の長いネグリジェ姿で、ふわふわの羽毛布団を抱きしめ、ベッドの上で寝そべっている。

 そのベッドのそばにはシスティーナがいた。

 ゼンマイ式の壁かけ時計へ目を向ける。朝の七時過ぎだ。窓から差し込む朝の陽光と、カーテンを揺らしながら吹き込む爽やかな風。本日はよい日和になりそうだ。

 

「……早いね、システィ」

「ほら、まぁ、私はその、やることあったから……そんなことよりもほら、今日は魔術競技祭なんだし、お父様とお母様は仕事でいないし、もう起きなきゃ」

「うん、そうだね……」

 

 ふわ、と小さくあくびをしてルミアは身を起こした。

 

「私、下で待ってるから。……二度寝しちゃだめよ?」

「……しないよー」

「と、言って二度寝したことが今まで三回あったわよ」

「あはは、そうだっけ?」

 

 互いに苦笑いを交わしながら、システィーナは部屋から出て行き、ルミアはベッドからのそのそとした動作で降りる。絨毯の柔毛がルミアの足の裏を微かにくすぐった。

 

「久しぶりにあの夢、見たなぁ……」

 

 ルミアはまだ少しはっきりしない頭のまま、夢の内容に思いを馳せた。

 今からおよそ三年前、エルミアナとして生きていた今までの人生を全て否定され、ルミアとして生きていくことを余儀なくされ、フィーベル家に引き取られた頃の話。

 母親から捨てられたという負い目から、何もかもが信じられなくなり、この世界に自分の味方はいない、自分は一人ぼっち、自分は世界で最も不幸な子、と荒れていた頃。

 ルミアはアイザと出会った——

 

「どうして今になってまた、あの頃の夢を見るんだろう……?」

 

 もう、全て吹っ切ったはずだ。

 考えようによっては母親がしたことはルミアにとって悪いことばかりではなかった。システィーナと友達になることができたし、なにより自分を助けてくれたアイザと出会うことができた。

 助けたのは任務だったからと言うアイザの返答にほんのちょっとだけ不満だけど、

 それでも今の自分はあの頃よりも前向きに生きている。エルミアナとして何不自由なく生きていた頃とは違い、人生に新しい目標もできた。

 全て、吹っ切ったはずなのだ。

 

「……ううん、吹っ切ったって……思いたいだけなのかな……?」

 

 なんとなく、またこんな夢を見た原因には心当たりがある。

 今日、学院にあの人が——かつて、自分を捨てたあの人が来るのだ。夢の中の出来事を体験する切欠、全ての元凶が、今日、学院にやって来る。どうやらその事実は自分にとって、思っていた以上の心労だったらしい。

 

「…………」

 

 ルミアはベッド横に据えてある小さな丸テーブルの上に置いてあった楕円形の真鍮製ロケットを手に取り、その蓋を開く。中には何も入っていない。否、正確には、かつてそこには何かが入っていたらしく、その何かが剥ぎ取られたような痕が残るのみだ。

 ルミアはしばらくの間、無言でそれを見つめ、やがて何かを振り払うかのように、軽く頭を振りながら、その蓋を閉じた。

 ロケットに繋がる鎖の端を両の手でつまみ、首の後ろに回して留め具を合わせる。

 

「よし、今日は頑張ろう」

 

 一つ、小さく気合いを入れて、ルミアは自分の衣類が納められたクローゼットに向かって歩き始めた。

 





「よーし、お前ら好きなだけレイに攻撃仕掛けろーレイは攻撃禁止な~」
「はっ!?おいテメェざけんなよこらぁ!」
「え~?分け前の件どうしよっかな~?」
「こ、このぉ…なんて卑劣な…!」
「先に脅迫してきたのはそっちだろうが」


 大人の醜い争い……。
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