ロクでなし魔術講師とマダオ(まるでダメなおっさん) 作:嫉妬憤怒強欲
いよいよ女王陛下を歓待するその時が近づいていた。
魔術学院正門前は、女王陛下の行幸を出迎えるため、学院関係者でごった返していた。
「な、なんかグレン先生瘦せこけてるな」
「……ダイエット中なんだろ」
ショウとアヤトが担任のグレンの方をちらりと見ると、この一週間で随分とやつれている様子だった。しかも校庭に生えてるシロッテの木の枝を口にくわえている。
賭け以前に今日生きられるのかすら怪しい。
ちなみにレイは正式な学院関係者ではないためこの場にいない、
正門から本館校舎の来客用正面玄関に向かって人垣の道ができている。先発で到着した王室親衛隊の面々が周囲に目を光らせ、あふれかえる生徒達を仕切っていた。
「女王ってことは、この国のトップってことだよな?」
「まあ、そうなるな。帝国を建国した初代国王タイタスの後の歴代全ての王が女王らしい」
「え?全員女性?ずっと王家に男が生まれなかったのか?」
「さあ?どうなんだろうな」
ショウがふとした違和感に気づいたその時だ。
「女王陛下の御成りぃ~ッ!女王陛下の御成りぃ~ッ!」
人垣の道の中央を、馬に騎乗した衛士が叫びながら駆け抜けて行く。
それを受け、待機していた楽奏隊が歓迎のパレードマーチを演奏し始めると、生徒達一同は大歓声を上げながら盛大な拍手を巻き起こした。
爆音が辺り一帯を支配する。やがて、人垣でできた道の間を護衛の親衛隊に囲まれた豪奢な馬車が悠然と進んで行く。女王アリシア七世が窓から身を乗り出して、生徒達の歓声と拍手に応えるように手を振ると、さらに拍手と歓声の音量が上がった。
そんな盛況ぶりの最中、アイザはふと、ルミアを流し見る。ルミアは首にかけられたロケットらしいものを手に、それを開いていた。
(……まあ、そう簡単に割り切れないか)
彼女はルミア=ティンジェルが本名ではない。本当の名前はエルミアナ=イェル=ケル=アルザーノ。帝国王室直系の正統な血筋を引く、元・王位継承権第二位――つまりはアルザーノ帝国の王女様だ。
ルミアは本来ならば、このような場所にいるはずのない貴人なのだ。だが、三年前、ルミアが『感応増幅者』と呼ばれる先天的異能者であることが発覚し、様々な政治的都合から表向きは病で崩御なされたとして、その存在を抹消されたのである。
その裏事情はとても複雑だ。
アルザーノ帝国王家の始祖は、隣国のレザリア王国王家の系譜に連なっている。それゆえにアルザーノ帝国とレザリア王国は、互いの国家の統治正統性や国際件以上の優位性について、常に揉めに揉めてきた関係だ。おまけに帝国王家の統治正統性を保証する帝国国教会を、レザリア王国を事実上支配する聖エリサレス教会教皇庁は異端認定しており、両教会の関係もすこぶる悪い。
そんな中、帝国王室の血筋から悪魔の生まれ変わりであると、いまだ広く堅く信じられている異能者が生まれてしまったことが明るみになりかけたのだ。
もし、エルミアナの存在が外部に漏れれば国内混乱は避けられず、神の子孫であるとされる帝国王家の威信は地に堕ち、常に帝国の併合吸収を狙うレザリア王国や聖エリサレス教会教皇庁が知れば、第二次奉神戦争勃発の引き金になりかねない。
アルザーノ帝国は良くも悪くも神聖なる王家に対する民衆の絶対的な威信でもっている国である。エルミアナの存在は帝国を根幹から揺るがしかねない猛毒だったのだ。
そのためエルミアナ王女は表向き病死とされ、密かに処分されることが決定した。国家を背負い立ち、国民を守らねばならない女王と帝国政府の苦肉の決断だった。
そして、様々な思惑と権謀術数の果てにエルミアナ王女——ルミアは今、システィーナのそばにいる。
(別にルミアが悪い訳じゃないのにな)
……自分の意思に関係なく家族の下を去ることを強いられ、環境をぐるりと変えられ、当時の彼女はどんな気持ちだったか……否、その複雑な気持ちはきっと今も彼女の中に傷として残っているんだろうな。だからアイザからは何も言えないし、姉妹同然の関係であるシスティーナですらどんな言葉をかけていいかわからないといった様子だった。
♢♦♢
『我が国の未来を担う若き魔術師の卵達よ。その溢れる才気のまま、存分に力を競い合ってください。それでは、アルザーノ帝国女王アリシア七世の名のもとに、魔術競技祭の開催をここに宣言します』
「「「「わああああああああ!」」」」
魔術競技祭開催式では、魔術学院の敷地北東部にある魔術競技場にて、開式の言葉、国家斉唱、関係各者の式辞、生徒代表による選手宣誓——式は粛々と進んでいく。
そして、女王陛下の激励の言葉と共に開会宣言を行われ、競技場が拍手喝采で響き渡った。
まるで石で作られた円形の闘技場のような構造の競技場の中央、芝生が敷き詰められた競技用フィールド上に競技に参加する生徒一同が集合整列している。
観客席にいるのは学院の生徒達だけではない。生徒達の両親や、学院の卒業生など、学院の関係者が続々と集まっている。
「おや?競技に参加する生徒の人数がやけに多いクラスがありますな」
「二組……ああ、最近入った新任講師のクラスですな。確かグレン=レーダスとかいう…………」
フィールド上にいるグレンのクラスは、他クラスだけでなく観客から奇異の目を集めていた。
「なんでもクラス全員を参加させるとか」
「全員!?それはまた豪気な……」
「思い出作りのつもりですかな?陛下の御前で礼を欠いてるのでは?」
「はは……まあまあ」
「それよりも見るべきは一組でしょう?」
「ええ、あの若さで第五階梯にまで至ったハーレイ=アストレイ率いる大本命の組、あそこがいる以上勝負を投げる組も出てくるでしょう」
「確かに」
誰もグレンの担当しているクラスに期待などしていなかった。勝負になるとすら思っていなかった。
だが、
『そして、さしかかった最終コーナーッ! 二組のロッド君がぁ、ロッド君がぁああ——ぬ、抜いた——ッ!? どういうことだッ!? まさかの二組が、まさかの二組が——これは一体、どういうことだぁあああ——ッ!?』
二人で一チームを作り、広大な学院敷地内に設定されたコースを、一周毎にバトンタッチしながら何十周も回る『飛行競争』の競技のラストスパートで驚くべき番狂わせが巻き起こっていた。誰もが期待などしていなかったグレンの担当クラスである二組が、次から次へと好成績をもぎ取っているのだ。
『そのまま、ゴォオオオル——ッ!? なんとぉおおお!? 飛行競争は二組が三位! あの二組が三位だぁ——ッ! 誰が、誰がこの結果を予想したァアアアアア——ッ!?』
魔術の拡声音響術式による実況担当者、魔術競技祭実行委員会のアースの熱狂的な実況のゴール合図と共に会場に用意された席に座していた観客達からの実況にも負けない拍手喝采。トップでゴールした一組よりも盛り上がっていた。
『トップ争いの一角だった四組が最後の最後で抜かれる、大どんでん返し——ッ!』
一位は当然のようにハーレイ率いる一組だったが、前評判で勝って当たり前のハーレイの一組より、負けて当然だったグレンの二組の奮闘ぶりの方が会場の注目の的だった。
一方、競技祭参加クラス用の待機観客席にて。
「うそーん……」
「いや、アドバイスした本人が何一番意外そうな顔してんだよ」
目を点にして呆然とするグレンに、ショウが思わず突っ込む。
「ああ、正直ここまで奮闘できるとは思ってなかったからな」
「まあ、この『飛行競争』に勝つ条件が二つも揃ってたから当然か」
「え?なんだアヤト、その二つの条件って?」
「まず一つ目は参加する競技を一つに集中させたことだ。この一週間、この競技だけを練習してきた奴と、複数の競技の練習の片手間にしか練習してこなかった奴や練習する暇がまったくなかった奴とでは必然的に差が出てくる」
「まあ当然だな」
「二つ目はペース配分だな。去年の『飛行競争』がごく短距離の速度比べだったらしいが、今回は二人で交代しつつの長距離レースになっていた。一周だけ見るなら瞬発的な飛行速度が重要だろうが、二十周ともなれば相当の魔力消費と疲労が予想される持久戦だ。練習不足の他クラスの選手が去年と同じペースで飛行し続けていれば、当然後半で失速、自滅するのは分かり切っていた。魔力切れで途中脱落してしまう奴がいたから、そいつは次の競技棄権するしかないな…………グレン先生がペース配分だけを教えていたようだから、漁夫の利みたいな形でこんな結果になったんだろう。このことを読んでいたんですか?グレン先生」
アヤトは冷静に分析してグレンに話を振る。
「え?………あっ、お、おう。と、当然だ。いやぁ楽な作戦だったぜ」
((まぐれだったんだな))
グレンは余裕の態度を装って最初からこうなることを見越していた風に話した。
周りで聞いていた生徒たちは、アヤトとショウ、アイザを除いて勘違いして尊敬の眼差しを向け始める。
「ひょ、ひょっとして俺達……」
「あぁ……まさか……とは思ったが、先生についていけば、ひょっとしたら……」
(やめて、君達。俺にそんな期待に満ちた純粋な目を向けないで。心が痛いから)
また、観客席通路の向こう側から、土壇場で負けてしまった四組の生徒と二組の生徒達が言い争いをしているのが聞こえてくる。
「……ちっ! たまたま勝ったからっていい気になりやがって……ッ!」
「たまたまじゃない! これは全部、グレン先生の策略なんだ!」
「そうだそうだ! お前らはしょせん、先生の掌の上で踊っているに過ぎないんだよ!」
「な、なんだと!? くっ……おのれ二組、いきがりやがって! 俺達四組はこれから、お前達二組を率先して潰しにいくからな! 覚悟しろよッ!?」
「返り討ちにしてやるぜ! なんてったって俺達にはグレン先生がついているんだ!」
「ああ、先生がいる限り、俺達は負けない!」
(やめて、君達。本当にやめて。もうこれ以上、ハードル上げないで、お願い)
グレンは心の中で冷や汗をかいていた。
それからも、グレンのクラスは快進撃を続けた。
『あ、中てたーーーッ!?二組選手セシル君、三百メトラ先の空飛ぶ円盤を見事、【ショック・ボルト】で打ち抜いたーーーッ!?『魔術狙撃』のセシル君、これで四位以内は確定!これは盛大な番狂わせだぁぁぁぁぁ!』
「や、やった・・・動く的に狙いをつけるんじゃなくて、動く的が狙っている空間にくるまで待ってろってグレン先生の言うとおりだ・・・・これなら・・・・・・ッ!」
成績が平凡な生徒達は予想外の活躍を見せ────
『さぁ、最後の問題が魔術によって空に投射されていく──これは・・・おおっと!?まさかの竜言語だぁあああーーッ!?これはえげつない!さっきの第二級神性言語や前期古代語も大概だったが、これはそれ以上!さぁ、各クラス代表者、【リード・ランゲージ】で解読にかかるが、これは流石に無理────」
「わかりましたわッ!」
『おおっと!?最初にベルを鳴らしたのは二組のウェンディ選手!先ほどから絶好調でしたが、まさかこれすらも解いてしまうのかーーーッ!?』
「『騎士は勇気を宗とし、真実のみを語る』ですわ!メイロスの詩の一節ですわね!」
『いったーーッ!?正解のファンファーレが盛大に咲いたぁーーーッ!?ウェンディ選手、『暗号解読』圧勝ーーッ!文句無しの一位だぁぁぁぁぁーーッ!』
「ふふん、この分野で負けるわけにはいきませんわ。とはいえ・・・もし、神話級の言語が出たら、いきなり共通語に翻訳するのではなく、一旦新古代語あたりに読みかえろっていう先生のアドバイスには感謝しないといけませんわね・・・・・・」
成績上位者は安定して好成績を収め続ける。
自分達でもできる、戦える。そんな二組の生徒の士気の高さに加え、使い回される他クラスの成績上位者は魔力を温存しなければいけないのに対し、グレンのクラスの生徒達はその競技だけに全魔力を尽くせるという構造的有利が働いていた。
さらに、過去に生きるか死ぬかの軍生活が長かったグレンとセラは、表向き精神論を掲げていたが、勝つという一点に関してはどこまでもシビアな戦術を指導していたことも、他クラスとの地力の差を埋める要因となっていた。
『こ、ここまでの競技で一位は一組、二位は五組、そして三位は意外にも二組だあぁ! トップはみなさんも予想した通りハーレイ先生率いる一組だが、三位がまさかの二組だなんてこんな展開誰が予想できたことかぁ! すごい、すごいぞグレン先生率いる二組ぃ!』
実況も観客もトップの一組よりも二組への応援が多くなってきている。しかも他クラスの観客までもが二組の奮闘に見入って応援しているのがチラチラ見えた。成績上位者が出るのが当たり前という認識があるとはいえ、出られない人達は自分もこういった舞台に立ちたいという思いがあった。だから自分達と立場の近い二組が全員出るというのが意外と思う反面、羨望と共感が出てきたということだろう。
『さぁ、盛り上がってますねー!現在トップのハーレイ先生率いる一組! 彼らを追い抜く展開が訪れるのかー!?』
二組の奮闘に盛り上がっているが――――
「一組はもう三桁稼いじゃったねグレン君」
「あぁ……今はあいつらの奮闘ぶり見てやる気が向上してるから誤魔化せてるが、やっぱ地力の差が数字に出てきてんな」
二組の待機観客席にて。自分達のクラスの生徒達がハイテンションで盛り上がりに盛り上がる中、グレンとセラは冷静に戦況を見つめていた。
競技場の端に据えられた得点板にも映ってる通り、グレンのクラスは十クラス中の三位。ハーレイのクラスは一位である。一位から三位までは、それほど大きな得点差はない。だが、じりじりとハーレイのクラスに離されている感は否めなかった。
「ていうか、よくここまで食い下がったもんだ」
「そりゃあこの一週間、皆、本気で一生懸命頑張って来たからだよ」
「……まあ、そうだが」
思い返せば、グレンは当初、魔術競技祭になど欠片も興味なかった。そもそも、この学院出身だというのに、素で競技祭のことなど忘れていたし、さらに競技祭に熱を入れることになったのも、元はと言えば金のためだ。それが嘘偽りない事実だった。だが、こんなにも皆で一丸となって、楽しそうに、一生懸命に勝負に挑み、皆で応援し合っている自分のクラスの生徒達の熱い姿を見ていると——
「……ったく、勝たせてやりたくなっちまうだろうが……あぁ、面倒臭ぇ」
「ふふ」
独り言ちるグレンを見て、セラは微笑む。
「だが、どうする?他のクラスとの地力の差は歴然としているぞ……」
「そうだね…でもこのまま高順位を保てれば…!」
「でもそれだと優勝できないよ?二組が一位になるためには二組が勝って一組が負ける状況を作り出さないと、二組の上位者が出てる競技以外は一組に一位を取られてるからどれだけ好成績を収めていても点差は縮まらないと思うよ」
「そうなんだよな。できれば午前中に後、一つ順位を上げておきたい…………ん?」
途中でセラじゃない人物の声が会話に紛れてたことに気づいたグレンは後ろを振り返る。
「や」
目元を目隠しで覆うという不審者スタイルの白髪の男性がいた。
「ちょっ、ちょちょちょなんだあんた!?いつからいた!?」
「え!?いつの間に!?」
セラや生徒達も白髪の男性の存在に気づいて戸惑う。
「久しぶりだねグレン、元気そう…には見えないね」
一同が警戒する中、そんなことは知らないと言わんばかりに、白髪の男性はグレンに馴れ馴れしく声を掛けた。
一同が即座に、グレンへと視線を向けた。その男をじっと見つめる彼の両目は、驚きで大きく見開かれていた。
「あんた、まさか――」
「グレン君、知ってる人?」
「……………………………………………………誰だっけ?」
一同思わずズッコケた。アイザとアヤトはそんなキャラではないため体勢を崩すことは無い。
「へ?嘘でしょグレン?僕だよ僕」
「新手の僕僕詐欺か?俺の知り合いに目隠しして歩く不審者なんていねえけど」
「あー……これ着けてると分からないか」
そういうと男は目隠しに手を掛け、目元から外した。
そして目隠しによって上がっていた前髪は落ち、男の素顔が露になる。
「これでどう?」
「「ええ……!?」」
白髪に透き通るような碧眼、長いまつ毛、そしてまるで彫像のように整った甘く美しい顔立ち。
まるで『美』という文字の体現。神秘的と言っても言いかもしれない。
あまりの美しさに殆どの女子が心を奪われていた。
目隠しの有無で人はここまで印象が変わるモノなのだろうか。
先程までは不審者にしか見えなかった男は今や絶世の美男だ。
その評価は天と地ほどの差がある。
「あっ!ひょっとして、ノクティス先輩!?」
「改めて、久しぶりグレン」
「いやぁ、ホント久しぶりッスね。何年振りでしたっけ?」
「ん~大体七年くらいかな」
誰か気付いたグレンが白髪の美男と親しそうに話す。普段の彼の振る舞いから、生徒たちは戸惑いを隠せない。
「あ、あのグレン先生、その人は?」
「あっ、紹介するぜ。この人はノクティス=フィフスっていって、俺の3個上の先輩だったんだよ。お前等の先輩でもあるぞ」
「やあ、初めまして後輩諸君、大先輩のノクティス=フィフスだよ」
「はあ、どうも。先輩ってことはここの卒業生?」
「ていうかグレン先生ここの卒業生だったんだ」
「そそ。僕が三年生の時にこいつが新入生でね。しかも11歳で入学するぐらいのやつだったんだ」
「11歳で!?」
「やっぱりグレン先生って凄い人だったんだ」
おぉ!とクラスの歓声と共に全員が尊敬の眼差しをグレンに送った。
「あっでも、優秀だったのは座学の方だけで、実技とか略式詠唱とかてんで駄目だったね。友達もろくにいなかったし」
「「「あー…」」」
地味に寂しい過去をお持ちだったグレン。クラスの尊敬の眼差しが一気に憐憫に変わった。
「ちょっ、やめて!俺をそんな哀れむような目で見ないで!」
変な空気になるが、つくった元凶であるノクティスはお構いなしにヘラヘラ笑う。まるで中身が無邪気な子供のようだ。
「いやぁ、それにしてもグレン随分と変わっちゃったね。昔は一人称が僕だったし、死んだ魚の目じゃなかったのにすっかりグレちゃって」
(((一人称が僕で死んだ魚の目をしていないグレン先生……………想像できない)))
「そう言う先輩も昔は一人称の俺だったじゃなかったすか。雰囲気もなんか違いますし。デリカシーがないのは相変わらずみたいすけど」
「あはは、そうだっけ?時間の流れは不思議なもんだね」
最後のは皮肉のつもりで言ったが、本人は全く意に返さない様子にグレンはため息を吐く。
「で、なんで先輩がこんなところにいるっすか?」
「そりゃあ、魔術競技祭の観戦に」
「観戦にって、先輩よく競技祭当日よくばっくれてたじゃないっすか」
「僕これでもちゃんとした部署についててね。顔を出さなきゃいけないって部長に引っ張り出されてさ。そりゃあ、来る気全然なかったよ。どうせ例年通りクソな講師達の顔を立てるためのクソつまんねぇ行事だろうから途中で抜け出してどっかで適当に時間潰そうと考えてた」
「この人本当にここの卒業生!?さっきから問題発言ばかり出てくるけど!?」
「あ、あはは……きっといい思い出がなかったんだと思うよ」
優等生で通ってるシスティーナは卒業生である筈のノクティスの口から出てくる言葉にドン引きする。ルミアも苦笑いを浮かべる。
「でもグレンが講師になってるって聞いてさ。きっと今回は楽しくなるだろうなって来たんだ。せっかくだしグレンが受け持つ生徒達の顔を見ようと…………ん?」
ルミアを見て、何かに気づいたように眉根を寄せるノクティス。
「ん?ん?」
「あ、あの……私の顔に何かついていますか?」
戸惑うルミアに構わず、ノクティスはずいずいと顔をルミアに寄せていく。いきなり、ぶしつけな視線をぶつけられてルミアは目を瞬かせた。
透き通るような碧い瞳にまるで全てを見透かされているように錯覚する。
「ん~?」
「えっ、ちょ!?今度は私!?」
一通りルミアを観察し終えたのか、今度はシスティーナの方に顔を寄せて観察しだす。
「え!?なんだなんだ!?」
システィーナのが終わったら今度はショウに……
「じ~……」
「………」
次にアヤトを観察し、最後に女王がいる貴賓席の方をちらりと一瞥してから離れる。
「いやぁ、グレンのクラスには面白い子がいるね」
「あの、なんか見えたんすか?」
「ほんの微かだけどね。きっとこの子達今よりももっと強くなるよ」
一同が戸惑う中、はぐらかすような物言いをするノクティスは自身の目元を目隠しで覆って元の不審者スタイルに戻った。
「それじゃあ僕は戻るよ。あんまり長居しすぎると部長から怒られるからね。今度ゆっくり話そう」
「あっ、はい」
「っと、そうだ――」
ノクティスは誰にも聞かれないようにグレンのそばに寄り――
「しばらくしたら少し厄介なことが起こりそうだ。いざという時は手を貸すよ」
「は?」
「それじゃあね~」
「いや、ちょっ」
グレンの制止の声も届かずノクティスは去ってしまう。
「……なんか、嵐の様な人だったね」
「そうね。人の顔じろじろ見てなにが分かったのかしら?………そういえばレイ先生はどこにいるんだろ?」
一方、レイはというと、
カランッ
「あり?」
便意に襲われ個室の男子トイレで用を足していたが、トイレットペーパーがないことに今気づいた。
「か、紙がねえええ!?」
「…………腕がなんで二本あるか知ってるか?それはな――――」
「早まるなレイさん!まだ希望はある!」