ロクでなし魔術講師とマダオ(まるでダメなおっさん)   作:嫉妬憤怒強欲

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前回のあらすじ…………
魔術競技祭が開催し、二組の快進撃が続く。
だが他のクラスとの地力の差は歴然としており、一位を取るための策を考える中、グレンの前にかつての先輩ノクティス=フィフスが姿を現した。
彼はほんの短い時間に再会を喜び(?)、最後にグレンに意味深な言葉を残してその場を去るのだった。

 その頃、レイは「か、紙がねえぇ!?」と個室トイレで立ち往生していた!



言うは易く行うは難し

(まさかあの男が来るとはな…………)

 

 ノクティスが去るまでの間、彼の視界に入らないように気配を殺していたアイザは少なからず動揺していた。

 

 ノクティス=フィフス。

 彼の実家のフィフス侯爵家は、イグナイト公爵家に次ぐ帝国古参の貴族であり、かつ、帝国民の平穏を乱す魔物、不死者を祓う呪術師の家系である。

 彼はそのフィフス家相伝の術式と特異体質を併せ持って生まれた数百年ぶりの天才であり、帝国で二人目の第七階梯魔術師(・・・・・・・・・・・)だ。

 一人で帝国を壊滅させることが可能な程の実力者で、加えて普段の唯我独尊っぷりの性格から古典的貴族主義のイグナイト家現当主から過剰敵視されている。そのため、イグナイト家はノクティスの情報が広まらないように情報を統制している。

 だが世界最高峰の第七階梯魔術師セリカ=アルフォネアを歴代最強(・・・・)と呼ぶなら、ノクティス=フィフスを知る者達は彼をこう呼ぶだろう。

 

 現代最強(・・・・)と。

 

(しかも愚者と親しい間柄なのは初耳だぞ…………)

 

 これはアイザも予想だにしていなかった。

 実はアイザはノクティスと仕事上何度か面識がある。

 もしノクティスにアイザのことが気付かれれば、潜入任務はそこで失敗。しかもノクティス「制服姿とかうける」と笑われること間違いなしだ。

 

 というのもあって、アイザは彼に気付かれないように隠れていたのだ。

 

 それにしても――――

 

(あの男はルミアとシスティーナ、ショウ、そしてアヤトに反応をしていた。いったいあの目で何が見えたんだ?)

 

「あ、アイザ君!どこ行ってたの?」

 

 ノクティスの行動の意味を考えているとき、ルミアが声を掛けてきた。 

 

「すぐそばで隠れていた。あの不審者と関わりたくなかったし」

 

 噓は言っていない。

 

「不審者って……一応グレン先生と私たちの先輩なんだけど」

「子供の顔を近距離でまじまじと見るような奴だぞ。というか、目隠しした状態でなんで普通に歩けるのやら」

「そう言えばそうだね。なんでだろう?」

「………それより、ルミアはどうした?」

「次私の競技だから向かうとこだよ!」

「ルミアの競技…『精神防御』か」

「うん、ちょっと緊張してるかな…」

 

 ルミアはそう苦笑で返す。

 

「……必要なら俺が代ろうか?」

「ううん、大丈夫だよアイザ君。それに、クラスのみんなが一生懸命頑張ってるんだもん、私だけ出場しないで黙って見てるのなんてできないよ!」

「……そうか。まあ、無理しない程度に頑張れ」

「うん、じゃあ行ってくるね。」

 

 そう言ってルミアは小走りでフィールドへと向かった。

 

 

♢♦♢

 

『まったく、若の手を煩わせるなんて……』

「いやぁ、本当助かったぜショウ。お前は命の恩人だ」

「んな大げさな」

 

 用を足した後に、尻を拭くトイレットペーパーが無く個室トイレから出れない状態にあったレイだが、トイレに来たショウとタマフミに紙を持って来てくれたおかげで運良く出ることができた。

 

「大げさじゃねえよ。もしあのまま誰も来なかったら、片手を犠牲にするか、ビッグフットのフリして外へ出るところだったぜ」

「んなことしたら一生他人の振りするわ」

『エンガチョ、だにゃ』

 

 偶然居合わせて本当によかった、と心の底から安堵するショウはタマフミを引っ込め、レイを連れて競技祭参加クラス用の待機観客席に戻り、アヤトに声をかける。

 

「おっすアヤト。今どんな感じだ?」

「ちょうど次の競技が始まるところだ」

 

 午前の部も残り二つの競技を残すのみとなった。

 競技『精神防御』。グレンのクラスからはルミアが選手として出場する。

 精神汚染攻撃への対処法は魔術師の必須技能の一つであり、この競技はその能力を競うためのものである。具体的には精神作用系の呪文を、白魔【マインド・アップ】と呼ばれる自己精神強化の術を用いて耐えるという形で競わされる。そして、少しずつ受ける精神汚染呪文の威力は上がっていき、最終的に正常な精神状態を保って残った者が勝者となる敗者脱落方式の耐久勝負だ。

 

「出てるの殆ど男子ばっかだな」

 

 中央のフィールドに佇む出場者十人、いかにも精神的にタフそうな男子生徒達が揃い踏みする中、ルミアだけが紅一点だ。

 その紅一点の女子生徒を観客は困惑の目で見ていた。

 そんな状況でもルミアはにこにこと笑い二組のクラスメイト達に手を振っている。

 

「おい、なんだあれ?なんか一人変なのがいるんだけど」

 

 レイの指摘通り、ルミアの右隣にやたら迫力のある生徒がいた。魔術師らしからぬがっしりとした体格はルミアの二回り三回りも大きい。赤く染めた髪に、日焼けした浅黒い肌。顔立ちは常に何かに苛立っているかのような強面、夜道で不意に出会った女子供の誰もが泣いてしまうこと請け合いだ。指輪やネックレス、ピアスにブレスレットなど、なんの魔術的効果もない銀細工のアクセサリを体の至る所に身につけており、制服の袖はまくりあげられ、肩に入れ墨の入った筋肉質な腕がさらされている。

 

「五組のジャイル。没落貴族や商家の次男三男が集まる不良チームの頭だの、暴力事件を起こしてよく警備官のお世話になっているだの、色々と悪い噂が絶えない生徒ですよ」

 

 近くにいたギイブルが、道を歩けば往来の札付きチンピラすら避けて歩きそうな、威圧感と迫力をまとうその生徒について話し出した。

 

「だが、それでも彼は去年の『精神防御』の勝者だ。他の追随を許さぬほどの大差をつけた、ね。やれやれ、素行はともかく精神力の強さだけは本物らしい」

「えっ、なに?なんか人間眼鏡かけ機が解説者みたいに喋り出したんだけど」

「きっとオイラ達にわかるように教えてくれてんだよ。冷めてるように振る舞ってるけど実は親切な奴?」

「そ、そんなんじゃないぞ!ていうか人間眼鏡かけ機ってなんですか!?……ちっ!」

 

 ひそひそと話すショウとレイに顔を真っ赤にしながらシャウトするギイブルは忌々しそうに舌打ちし、前方にいるグレンに話しかける。

 

「まさか…とは思いますが。先生、彼女…ひょっとして捨て石のつもりですか?」

「はぁ……?」

「彼女は治癒系の白魔術は得意ですが、それ以外はそうでもない…そこそこ、こなしはしますがね。今回、治癒系の呪文が役に立つような競技がない以上、他の戦力温存のために、彼女をここで使うのは実に合理的だ……」

「ルミアが捨て石?…何言ってんのお前?」

 

 

 

 

『あー、あー、音響術式テス、テス。えー、時間になりましたので、ただ今より「精神防御」の競技、開始します!』

 

 響き渡る実況の音声に、観客席から歓声が上がる。

 

『ではでは、今年もこの方にお出まし願いましょう!はい!学院の魔術教授、精神作用系魔術の権威!第六階梯、ツェスト男爵です!』

 

 すると、参加生徒達が組んでいる円陣の中心に、突如どろんと煙が巻き起こり、燕尾服にシルクハット、髭といった伊達姿の中年男性が現れた。

 

「ふっ、紳士淑女の皆さん、ご機嫌よう。ツェスト=ノワール男爵です」

 

 比較的紳士な短距離転移魔術で、芝居げたっぷりに現れた男が一礼する。

 

「さて、それでは早速、競技を開始しよう。選手諸君、今年はどこまでこの私の華麗なる魔技に耐えられるかな……?」

 

 ごくり、と。参加選手達の何人かが唾を呑んだ。

 

『それでは第一ラウンド、スタート!ツェスト男爵お願いします!』

「それではまず、小手調べに恒例の【スリープ・サウンド】の呪文あたりから始めてみようか…いくぞ!」

 

 こうして、『精神防御』の競技が始まった。 

 

「《身体に憩いを・心に安らぎを・その瞼は落ちよ》」

 

 ツェストが白魔【スリープ・サウンド】の呪文を唱える。 

 

「《我が御霊よ・悪しき意思より・我が識守りたまえ》」

 

 同時に、生徒達が対抗呪文として白魔【マインド・アップ】を唱えていく。 

 

 生徒達が呪文を完成させた直後、ツェストが自分を取り囲む十人の生徒へ、等威力で一斉に術をかけた。音叉を叩いたような音が波紋のように周囲に染み渡っていった。

 

 呪文の威力が場に拡散していき―― 

 

『ね、寝た――ッ!?第一ラウンドでいきなり脱落したのは一組、ハーレイ先生のクラスだぁあああああ――ッ!?』

 

 地べたに倒れ伏してぐっすりお眠りになった生徒に、観客の失笑が集まった。

 

『ちょ、これ完全に捨て駒だ――ッ!?やる気なさ過ぎでしょハーレイ先生ッ!?』

「うーむ、私としては、もうちょっと耐えて欲しかったのだがね……」

『まぁ、去年の覇者、五組のジャイル君がいますからねー、きっと主力温存作戦でしょう。彼の勝利がもう決まっているようなものですから、イマイチ盛り上がりも欠けますしね。というわけで、実況の僕としては、紅一点、二組のルミアちゃんがどこまで残れるか…これが見所だと思うんですけど、どうです?男爵?』

「ふっ、そうだな。可憐な少女がどこまで私の精神操作呪文に耐えてくれるか、いたいけな少女の心をどのように汚染し尽くしてやるか、実に楽しみだ・・・ふひ・・・ふひひ・・・・・・」

 

 男爵が気持ち悪い笑みを浮かべながら、ルミアを一瞥する。

 

『うわぁ・・・ここで男爵、まさかの嫌な性癖大暴露・・・ていうか、男爵ってまさかそういう変態的な人だったんですか?』

「何を言うか!私は断じて変態ではない!私はただ、喪心しちゃったり、心が病んじゃったり、混乱しちゃったり、恐慌を起こしちゃったりした女の子の姿に、魂が打ち据えるような興奮を覚えるだけだッ!」

「「「『へ、変態だァアアアアアアアーーーーッ!?』」」」

 

 

「おい、なんか不良より問題のある奴がいんぞ」

「うわ…ここの講師ってあんなのばっかなのか?」

「…………あれだけが特殊なんじゃないか。知らないが」

 

 レイとショウ、アヤトもドン引きしていることも露知らず、男爵は次々と威力を高めながら精神操作系呪文を唱えていき、生徒達も必死に【マインド・アップ】を唱えて対抗し、ラウンドは着々と進んでいった。

 

『ツェスト男爵の白魔【コンフュージョン・マインド】がきまったーーーーッ!?うわぁ、やばい!?八組の生徒耐えられなかったぁあああーーッ!?』

「あばばばばばばばば・・・暑い!暑い!」

「ぎゃぁあああーーーッ!?ちょっと君!男子生徒に脱がれても私はちっとも嬉しくないのだが!?どうせならルミア君────」

『おい、やめろ!ちったぁ欲望隠せよ、この馬鹿男爵!救護班、早く八組の生徒連れてって!大至急!』

「次は白魔【マリオネット・ワーク】だ!皆を私の操り人形にしてせんじよう!さぁ、踊れ!」

『ぷっ!だっははははーーッ!耐えきれなかった十組の生徒が踊り出したーーッ!ていうか男にセクシーダンス踊らせんな、馬鹿男爵!キモいんだよッ!』

「・・・ちっ」

『ちょっ、男爵、あんた何ルミアちゃんの方見て舌打ちしてんの!?いい加減にしろよ、この変態エロ親父ッ!?』

「だ、男爵・・・俺、実は男爵のことがずっと好きで・・・・・・」

「ぎゃぁあああーーッ!?嫌ぁあああーーッ!?じ、蕁麻疹がぁあああ!?」

『く、腐ったぁあああーーッ!?男爵の下心全開の白魔【チャーム・マインド】!ド裏目だぁあああーーッ!?ていうか、ホント誰かなんとかしろよ!この変態犯罪貴族!救護班はとりあえず精神浄化!ついでに男爵の頭も浄化したれ!早く!ていうか毎年思うんだけど、何でこの競技禁止になんないの!?』

 

 

「うえっ…あんな気持ち悪い競技を毎年やってんのか」

「…………女子が出ない理由がわかった気がするな」

「うぷっ、なんか俺気持ち悪くなってきた」

「ちょっ!?大変だ!レイ先生が二次被害受けてるぞ!」

 

 観戦者は最初は冷めた目で見ていたが、段々と盛り上がりを見せていた。

 なぜなら、早々に脱落すると思われていたルミアが、ジャイルと同じように平然として立っていたからだ。

 

「う、うそ……」

 

 観客席でルミアを見守っていたシスティーナは唖然としていた。

 

「こ、こんなことが…ここまで強かったのか…彼女……」

 

 常に冷めた態度を崩さないギイブルも動揺を隠せないようだった。

 そんな二人にグレンは面倒臭そうに言った。

 

「白魔【マインド・アップ】は、素の精神力を強化させるだけの呪文だ。元々の精神制御力が強い者ほど……要するに肝が据わっている奴ほど大きな効果がある。で、うちのクラスにルミアより精神力が強い奴はいない」

「あの子が……?」

 

 ん、とグレンは頷いた。

 

「あいつは常人とは心構えっつーか、在り方がなんか違うんだよ。まるで平時からいつだって死ねる覚悟を固めているような……ある意味、異常な人種だ。素の精神力の強靭さでルミアに敵う奴はなかなかいやしない」

 

(一ヶ月ほど前に学院で起きたテロ事件…………あの時のルミアはテロリストの外道魔術師達を相手に一歩も引くことなく、毅然としていた。少し間違えばすぐに殺されるかもしれなかったというのに。あいつは平時でも常に死の覚悟ができている。それがあいつの強みでもあり、同時に危うい面でもある……生い立ち故か)

 

 そう内心で呟くアイザの予想では、もう勝敗はルミアが勝っていてもおかしくはないと踏んではいたが、ジャイルもよほどの修羅場を潜っているように見える。

 

 

「……グレン先生、万が一の時は………」

「ああ、わかってる」

 

 

 

 

 一方のフィールドでは、この予想外の展開に男爵も困惑気味だった。

 

「むぅ、なんと・・・ジャイル君はともかく、ルミア君がここまで粘るとは正直予想外だったよ・・・・・・ちっ」

『・・・あの、男爵?なんで微妙に悔しそうなんですかね?』

 

 ツェスト男爵の【マインド・ブレイク】を耐えたルミアだったが、額から脂汗が浮いており、今もやせ我慢で立っているようなものだ。

洪水のような歓声と嵐の拍手の中、ジャイルがルミアに声をかける。

 

「ふん。お前…………女のくせにやるじゃねえか。ここまで気合の入っているやつは野郎でも、めったにいやしねえ」

「そ、そうかな?」

「へっ。だが、そろそろきついんじゃねえか? 脂汗浮いているぜ?」

「あ、あはは…………わかる? うん、実は結構、きついかも…………今も一瞬、くらっとしちゃったし…………」

「棄権したらどうだ? 三日昏睡は嫌だろ?」

「心配してくれてありがとう、ジャイル君。でも…………だめ。私だって負けるわけにはいかないんだ」

 

 気丈に笑うルミアにジャイルはやれやれと肩を竦める。

 

「はっ…………わからねえな。どいつもこいつもが自己顕示欲と名誉欲にまみれたこのクソくだらねえ競技祭ごときに…………一体、何がお前をそこまでさせている?」

「…………信じてくれている。私が勝つことに疑わないで信じてくれているんだ」

 

 観客席にいる親友であるシスティーナの隣にいるテラスに視線を向ける。

 

「だから、それに応えたいの…………」

 

 自分の勝利を疑わずに信じてくれている。それを裏切らずに応えたい。

 その本心を聞いたジャイルは小さく口角を上げた。

 

「なるほど、男か」

「ち、違うよ!?」

 

 慌てて否定するもその顔は赤く染まり、ジャイルの呆気ない一言にルミアに精神は簡単に揺さぶられた。

 それからもラウンドが重なるごとに威力が上がって行く【マインド・ブレイク】に耐えていく二人の膠着状態は続くも、第三十一ラウンドでルミアの身体がぐらりと傾いた。

それに対してジャイルは全く動じず仁王立ちしたまま。

 

「大丈夫かね…?ギブアップするかい?」

「………い、いえ」

 

少し意識が朦朧としていたらしい。

返答にラグが数秒あったが、ルミアは頭を振って気丈に顔を上げ、立ち上がった。

 

「…………大丈夫です。まだ、行けます!」

 

力強く言い放つその言葉と目にはまだまだ力が灯っている。

 

『な、なんとぉおおおおおお―――――ッ!? 続行です、続行――――ッ!? まだまだ勝負の行方はわからない――――――ッ!?』

 

 実況のアナウンスに観客が総出で大歓声を上げた。ここまでくれば誰もが見てみたいのだろう。可憐な少女が屈強な男に勝つその光景を。

 

「もういい」

「棄権だ!」

 

 だが、突然上がったその叫びに、会場は水を打ったように、しん、と静まり返った。

 

「え…アイザ君、先生…?」

 

 ルミアが振り返るとそこにはアイザとグレンがフィールドに上がってきていた。

 

「え、えーと。二組の担当講師グレン先生…?今なんと…」

「棄権だ、二組は三十一ラウンドクリアした段階で棄権する。これ以上はルミアが無理だ」

『な、なんと!二組のルミアちゃんは棄権!今年の『精神防御』もジャイル君の勝利だぁぁぁぁぁぁ!』

 

実況がそう告げるがルミアの番狂わせが観れると期待していた観客たちからはブーイングの嵐が起きてしまう。しかし、アイザとグレンはそんなことをお構い無しにルミアに対して労いの言葉をかける。

 

「よくここまで頑張ったな、ルミア」

「ふ、二人とも!私はまだ…」

「無理しない程度に頑張れって言ったはずだ。本当は、わかってるんだろ?」

「そ、それは…」

 

 図星なのかルミアはしゅん、と俯いてしまった。

 

「お前が負い目を感じる必要はない。全部采配をミスったグレン先生が悪い。無理をしてルミアを三日間も昏睡状態にしたら先生がシスティーナにタコ殴りにされるだけだ」

「お前やっぱ俺のこと舐めてるだろ…………そういうことだ。マジですまん」

「ううん、そんなことないです、先生、アイザ君。楽しかったですよ? 負けちゃったのはちょっと悔しいけど…………私も皆のために戦えているんだって気持ちになれたから」

「…………そうか」

 

 そうこうしているうちに、実況の話題は勝者インタビューに移ったようだった。観客の意識を、なんとかブーイングからそらそうと実況は必死のようだ。

 

『えー、それでは、去年に続いて見事、「精神防御」の勝負を制した五組代表ジャイル君。何か一言お願いします』

「ふっ、流石だね、ジャイル君。…………ん? …………ジャイル君?」

 

 呼びかけても、まったく微動だにせず終始無言を貫くジャイルを不審に思い、ツェスト男爵がジャイルの顔を覗き込んだ。途端に、その顔色が変わる。

 

『おや? どうかしましたか? 男爵』

「じゃ、ジャイル君はすでに―――」

『え? ジャイル君がどうしたんですか?』

「た、立ったまま気絶している―――――」

 

 その言葉でブーイングが一気に収まる。

 

『えーと?ということは……?』

 

「……ルミア君の勝ちだろう。棄権したとはいえ、第三十一ラウンドをクリアできなかったジャイル君に対し、ルミア君は一応、クリアはしたからね」 

 

 数瞬の間。そして――

 

『……な、なんとぉおおおお――ッ!?なんというどんでん返し!この勝負を制したのは紅一点、二組のルミアちゃんだったぁああああ――ッ!?』

 

 再び爆音のような大歓声が渦巻いた。

 

「やったぁ!やったよ!アイザ君!」

「…なっ!?」

 

 ルミアは自分が勝ったことを聞いて興奮のあまりアイザに抱きつく。

 

「「「「な、何ィィィィィィィィィ!?」」」」

 

 それを見ていた男子生徒たちはおいこらそこ代われ状態になっており大歓声の中に悲鳴や叫び声が聞こえたとかなんとか…

 

「おーおー昼間からお熱いこって」

「あっ…ご、ごめんアイザ君…つい」

「………いや」

 

 状況に気づいたのか慌てて離れるルミア。

 

「おーい!早く戻るぞ!」

 

 グレンに促されてそそくさと観客席に戻ると、

 

「「「「アイザ、ちょっとオハナシしようか?」」」」

「「「「ルミアはこっち!」」」」

 

 男女それぞれに連行された。

 

 

♢♦♢

 

 『精神防御』が終了し、オレとショウが出ることになっている午前の部最後の競技『タッグロワイヤル』が始まろうとしていた。

 

「ルミアが勝ったおかげで三位から二位に繰り上がった。この流れ、切るわけにはいかねえ。つうわけでお前ら、頼んだぜ」

「簡単に言ってくれますね……」

 

 競技出場以前に、学院に編入して2週間ぐらいしか経っていないオレ達にトップを取れとか。

 

「『言うは易く行うは難し』ってことわざを知らないのですか?」

「あ?なんだ?東方のことわざか?」

「何かをしろと言葉で言うのは簡単だが、それを実際にするのは非常に困難であることが多い事、だろ」

 

 グレン先生が首をかしげている中、天然パーマのあの男が代わりに答えた。

 

「レイさんよく東方のことわざ知ってたな」

「あー……昔知り合いに東方人がいて、そいつから教わったんだよ」

「へー」

 

 レイ先生の話にショウが興味を示している。

 

「まあ、んなことはいいんだよ。難しいなんて言うが、テメエらは鍛えたこの俺から見ても他の連中に後れを取ることはねえよ。てゆーか、負けたらテメェら一ヶ月女子の制服で登校な」

「「は?」」

 

 今なんて言った?

 

「ちょっ、ちょっと待て!オイラ達にあの露出の多いあれを着ろってのか!?」

「そうだよ。単位取り上げるよりこれぐらいの罰ゲームがあったほうがモチベーションが上がるだろ?」

「いやモチベーションより男として大事な何かを失う危機感が上がったんだが!」

 

 なんて残酷な脅迫をしてくるんだこの天然パーマ。クラスメイト達もドン引きだ。

 

 魔術学院の女子用の制服はかなり変わっている。腹が出るように裾が滅茶苦茶短い涼しげなベストに膝上までぎりぎりの短いプリーツスカートとガーターストッキング、その上から羽織るケープ・ローブ…………学院を創設した人間の趣味なんじゃないかと疑いたくなる。

 正直、思春期の男子には刺激が強すぎる衣装は可愛い女子に着せればある意味良い絵になる(鼻からケチャップをぶちまける)だろうが、それを男子が着るとなると…………酷い絵面しか想像できない。

 

「本気ですか?」

「本気も本気。それが嫌なら絶対勝ってこい。ついでに他の連中が午後の競技に出れねえよう再起不能にしてやれ」

「それは反則になるから駄目でしょ」

 

 類友のグレン先生同様特別賞与を狙ってるのだろう。醜い欲望で目がくらんでいる。

 だが先生と違いかなり卑劣な手で優勝させようと色々吹き込んでくる。

 駄目さ加減ではグレン先生の上位互換みたいだ。

 加えて魔力ゼロなのに練習中に見せたあの異常な身体能力…………天与呪縛【フィジカルギフテッド】かなにかか?

 

『えー、まもなく「タッグロワイヤル」が始まります』

「ほら、さっさと行って勝ってこい」

「ショウ!アヤト!このままトップもぎ取るぞ!」

「ここで負けたら承知しませんことよ!」

「が、がんばって……っ!」

「しっかりしなさいよ!」

「負けたら単位取り上げるのと一ヶ月女子の制服で登校な」

「もう!グレン君、悪乗りしないの!」

 

 いよいよオレ達の出る競技の時間となり、クラスメイト達からの声援を受ける。

 オレ達が学院に編入して2週間ってことが頭から抜けているな。

 とはいえ、クラスのこの空気が台無しになるようなことをする勇気はオレにはない。

 

「……はあ、行くか」

「おう」

 

 ショウと共にフィールドへと上がる。他のクラスの競技者達も舞台へ集まると、あちこちに石柱や樹木が現れた。

 この競技場は魔術的ギミックを組み込んだ建築物でもあり、管理室からの制御呪文一つで、フィールドをなみなみと水の張られたプールにしたり、樹木が乱立する林にしたり、炎の海にしたり、石造りの舞台を出現させたり、あらゆる条件・競技に対応可能とのこと。

 この現象もその一つだ。

 

『さあ!午前の部の最後は、今年からの新競技「タッグロワイヤル」!ルールは簡単!ゴーレムの大群がいるこのフィールドで最後まで残ったクラスが勝者です!片方が脱落した時点でそのクラスは負けとなります。また、ゴーレムを倒せばスコアがクラスに加算され、小型サイズの人型ゴーレムは倒せば1点、中型は3点、大型は5点とサイズによって得られるスコアが異なります。ただし、途中で撃破されればせっかく倒して得たスコアがゼロになりますので注意を』

 

 内容はグレン先生が言っていた通りだな。

 やたら視線を感じる。視線の方を向けば、40体以上の大小さまざまなゴーレム達がフィールド上に配置されていく傍ら、オレ達を除く各クラスの代表全員がオレ達を睨んでいた。なんて分かりやすい。

 

『えー各クラスのメンバーはーっと!おっと二組から出るショウ=ソウマ君は東方からの留学生、相方のアヤト=キヨハラ君の方はショウ君と同じ時期に編入するまで魔術に触れたことがないようです!二組はいったいどうやってこの状況をどう捌くんだ!?』

 

 プライバシーの侵害だな。

 盛り上がる実況を他所に会場はあいつ、死んだなって目を向けてくれる。

 

「あの実況煽るの上手だな」

「言わせておけ。それでショウ、どういう作戦でいく?」

 

 屈伸運動をしているショウに作戦の確認をすると、ショウは簡潔に答える。

 

「ん~他のクラスの連中もあの岩人形も全部ぶっ飛ばす方向で」

「簡単に言ってくれるな」

「なんとかなるって、オイラとアヤトならいけるさ。頼りにしてるぞ相棒」

 

 そう言ってショウはニシシと笑った。頼りにされても困るんだが…………まあいい。どっちにしても負けるわけにはいかない。自分達の尊厳を守るためにも。

 

『それではゴーレムの準備も完了したようなので、試合開始!』

「近い奴からいく。練習通りいくぞ」

「おう!」

 

 司会者の開始宣言と同時に、オレ達は近くにいた人型のゴーレム一体に向かって駆けだした。

 ゴーレム達は視界内に入った者、もしくは攻撃された場合に対象を追跡・攻撃するように設定されている。

 当然、オレ達を認識したゴーレムが狙いを定めて右手を振り上げた。

 

「フォーメーション『雷』」

「承知!」

 

 ゴーレムの攻撃が当たる前にオレはショウに指示して二手に散開。ゴーレムの右側面、ショウは左側面に移動し、至近距離で呪文を同時に詠唱する。狙いは勿論人型ゴーレム。

 

「「《雷精の紫電よ》」」

 

 左右同時に放たれた輝く力線がゴーレムに直撃し、バチンッと電気が弾ける。

 二発分の【ショック・ボルト】を受けたゴーレムはあっさりと倒れ伏した。

 

『い、いったあああ!二組が早速一体目を撃破!二組に1ポイント加算されます!』

 

 グレン先生がショウ用に考えた戦法は、当たらないよう動き続けろ、当たらないなら当たる距離まで近づいて撃てという、実際に通用するか相当怪しい戦法である。

 こんな戦法、ショウとオレ以外でやる等無謀の極みだ。

 ショウの相手の攻撃を受け流す回避能力を生かし、かつ一応の戦力にするには十分であった。 

 

「次、十時の方向の中型いくぞ。フォーメーション『爆』だ」

「ならもっとタイミングを合わせるぞ!」

「ああ」

 

 こっちから行かなくとも、中型のゴーレムが向こうから来た。 

 オレは振りかぶってきた拳を屈むことで躱し、ショウは横っ飛びで躱してゴーレムの背後に回り込む。

 

 前後から挟む形になり、今度はゼロ距離、つまりゴーレムに左手で触れる形で次の呪文を詠唱。

 

「「《弾けろ》」」

 

 発動させたのは【スタン・ボール】。激しい音と震動が発生する球がゼロ距離で、しかも前後同時に放たれ、ゴーレムはいとも簡単に崩れ落ちた。

 

「次、まだまだ行くぞ」

「おう!」

 

 

 

♢♦♢

 

 

『おーっと、二組またまた撃破だ!フィールド上を駆けながら次々とゴーレム達を倒してスコアを獲得していく!なんというコンビネーション!本当に学院に来て2週間しか来ていないのか!?』

「はは、日輪の国の陰陽術が見れると期待してたけど…………これはこれで面白い」

 

 あまりの予想外の展開――ほぼ二組の独壇場と化している展開に、観客達がどよめいていている中、ノクティスは愉快そうに笑っていた。

 

「ノクティス、さっきのあれは【スタン・ボール】だったはずだ。なのに何故ゴーレムがいとも容易く砕けたんだ?」

 

 ノクティスの右隣の席に座る彼の上司、ネイモス部長が全て彼に問う。

 

「簡単なことですよ。確かに【スタン・ボール】って、激しい音と震動が発生する球をぶつけて、相手を気絶させ無力化させたりするのが目的の学生用の攻性呪文なんすけどね……それはあくまで遠い方向、それも一方向から球をぶつける前提の話なんですよ。前方から受ければ当たった人間は少なからず後方へと飛ばされる。それに伴い力がある程度逃げるわけ」

「ああ、だがあの二人は至近距離で――――まさか」

「そういうこと」

 

 ニヤリと口角を上げるノクティス。

 

「前方と後方、それぞれの方向から同じタイミングで同じ衝撃を与えれば力を逃がそうにも逃がすことができない。しかもゼロ距離ともなれば、震動に全身を行き渡って大ダメージを与えたってわけ」

「な、なんともえぐい……人間が受ければただではすまないぞ」

「そうっすねぇ。しばらくトマトが食べられなくなるかも………」

 

 例え護身用の攻性呪文でも使い方次第では人を殺せることを認識し、ネイモスは戦慄する。

 

「まぁ、人に使わないのなら良しとしましょうよ。それはひとまず置いといて、もっと見るところがあるっすよ」

 

 いちいち説明するのも面倒臭いと言わんばかりにショウを顎で指し示してみんなに見るのを促すと、丁度動きがあった。

 

「「「「「「《雷精の紫電よ》ーー!」」」」」」

「「「「「「《大いなる風よ》ーー!」」」」」」

「「「「「「《白き冬の嵐よ》ーー!」」」」」」

 

 ゴーレムを倒して着々とスコアを獲得していく二組に向けて他クラスが一斉に攻撃を仕掛けた。どうやら結託して二人を……というよりは二組を最優先して狙いを定めに来ているようだ。二組を本格的にダークフォースとして認識したのと、二組の参加に対する姿勢が面白くなかったからだろう。

 次々と魔術が殺到するが、二人には届かない。

 

「《大気の壁よ》」

 

 アヤトは対抗呪文黒魔【エア・スクリーン】を起動し、空気の障壁を広く張り、迫り来る突風と冷気を受け止め、飛んでくる紫電をそらして防御。

 ショウの方は一発も当たらない。かすりもしない。見てもいないのに次にどこに当たるか読んでいるかのように全ての攻撃を受け流してしまうのだ。なんと対抗呪文を使わずに、である。

 

「あれはいったい…………」

「奇門遁甲…………いや、巫門遁甲か」

「巫門遁甲だと!?」

 

 ノクティスの口から出たワードにネイモスは大きく反応する。

 

 日輪の国の陰陽術には、占術「式占」によって相手の一手先を視ることが出来る術がある。

 太乙神数、奇門遁甲、六壬神課、そして…………巫門遁甲。

 巫門遁甲は他の3つの原型で、五感で感じ取る相手の力の波を見極め、受け流す技術だ。

 ただ、その技術は門外不出のもので、陰陽術でもごく一部に限られている。

 

「ちょ、ちょっと待てまさかあの少年は…」

「でしょうね。ソウマって名字でなんか引っかかったけど、やっぱり倉麻家の人間だったのか」

 

 倉麻家。

 千年前に存在した日輪の国最強と謳われる大陰陽師を先祖に持ち、今も朝廷に意見を言える程の影響力がある一族。

 VIP中のVIPである。

 

「それが確かなら、何故向こうは彼を留学生として送り込んだんだ?」

「さあ?向こうの事情は僕でもわかりませんよ。第一僕等が深入りすることじゃないですし、試合の観戦に集中しましょ」

「はぁ、まったく…………」

 

 ノクティスのあっけらかんとした態度にネイモスは重い溜息を吐く。

 

(まあ、もう一人の方も普通じゃないね…………)

 

 

 

 

 

 一方、競技祭参加クラス用の待機観客席にて。

 

『二組のアヤト選手!【ウェポン・エンチャント】を付呪した拳で大型ゴーレムを撃破!5ポイント加算され、現在二組のスコアが19ポイント!他クラスが攻撃をしてますがスコアの加算が止まりません!』

「うそ……」

「す、すごい……」

 

 フィールド上の光景を見ていた二組の生徒達も、息ピッタリの連携攻撃でゴーレムを着々と撃破していく二人の戦いぶりを唖然として見守っていた。

 

「ショウはともかく、アヤトなんてかなり魔術を使いこなせてるぞ」

「本当に習って2週間程度なんですの?……」

「これもやっぱりグレン先生の指導のおかげか?」

「いや、俺は基礎しか教えてねえぞ」

「「「「え?」」」」

 

 グレンの声が聞こえたのか、システィーナにルミアと他何人かの視線がグレンに集中する。

 

「冗談言わないでくださいよ。習って2週間程度なのに、他のクラスと渡り合えてるじゃないですか」

「別に冗談言ってねえよ。本当にあいつにはお前等に教えた範囲の基礎部分しか教えてねえ。練習を少ししか見てねえからはっきりとしたことは言えねえが、多分あいつはクラスの中で一番飲み込みが物凄く早いうえに、揃えた手札を出す速度……つまり前にレイが言っていた、常に変化する状況下で咄嗟の判断が下せる能力がクラスの中じゃずば抜けている。それに、予め用意したいくつかのフォーメーションをショウと連携を取ったり、レイの攻撃を躱してしまう程の身のこなしを見た限り実戦向きだなあいつ」

「けっ、あの時の俺は本気出してなかったんだ。本当だったらあいつの骨がバキバキになってたぞ」

「もう、変なところで強がらないでよレイ君。皆が怖がるでしょ」

「マジかよ…………」

「あいつ凄い奴だったんだな」

 

 グレンの説明を聞いてクラス全員は動揺を隠せなかった。自分達よりも魔術にかけた時間も短い上、人畜無害、影が薄い、コミュ障、根暗そうな奴という印象が強いクラスメイトが他クラスや自分達を圧倒する実力を見せたのだから。

 

「無理もねえな。俺も正直最初はショウのサポート役ぐらいが適任だろうっていう認識程度だったんだ。アイツ自己主張の強いタイプじゃないし。どこぞのナルシストの眼鏡と違って」

「ちょっ、なんで僕を見るんですか?」

「確かにどこぞの天翔けるメガネのひらめきみたいな存在感はないしな」

「レイ先生もなんで僕を見るんですか!?ていうか、いい加減その眼鏡ネタやめてくれませんか!」

 

 グレンとレイに眼鏡ネタで弄られるギイブル。

 ドSコンビにターゲットにされたら碌なことにならない。哀れギイブル。

 

「まあとにかくだ。意外と実戦派のアヤトと回避力が凄えショウがタッグを組んだ時点で、この競技は二組の勝ちで決まったも同然だな」

「勝ち誇った顔で言ってるところ水を差すようですみませんがグレン先生」

「あ?なんだアイザ?」

「あの二人スコア稼ぎに集中してるようですが後の残ったクラスの連中を全員倒すまで体力とか持つんですか?」

「あっ」

 

 

♢♦♢

 

「「「「「「《大いなる風よ》!」」」」」」

「「「「「「《残響為る咆哮よ》!」」」」」」

「「「「「「《白き冬の嵐よ》!」」」」」」

「《霧散せよ》」

 

 オレとショウに殺到してくる魔術を、黒魔【トライ・バニッシュ】で打ち消す。

 迫りくる突風と吹雪がぱぁんと音を立てて弾け、魔力の残滓となって空間に散華した。

 

 手を組んだ他クラスの競技者は、ゴーレムを粗方撃破して20ポイント以上のスコアを獲得したオレ達をなにがなんでも脱落させたいあまりに遠慮がない。だが中々当たらないから焦りのあまりに魔力のペース配分を忘れてしまってる。あんなにバカスカ撃てば魔力の消費量は激しい。昼休憩を挟んだところで午後の競技に全力で挑むのは難しいだろう。

 

 想定通りだな。

 とはいえ…………

 

「ぜぇ、はぁ………」

「ショウ、大丈夫か?」

「はぁ…すまんアヤト。少しはしゃぎすぎて魔力とか体力がそろそろまずい」

 

 そりゃああんなに動き回ればそうなる。ショウはオレより体力が劣っている。

 グレン先生の考えた戦法にはショウ本人の持久力を考慮されていなかった。断食の影響でそこまで頭が回らなかったかあのマダオがただのうっかりさんかどうかはこの際どうでもいい。

 

「ショウ、【ショック・ボルト】を放てる余裕はあるか?」

「あ、ああ…」

「ならオレが合図を出したら地面に向けて【ショック・ボルト】を一発放て」

「え?なんで地面に?」

「後でわかる」

「……それやれば勝てるんだな」

「ああ、勝てる」

「………そっか、じゃあなんとかなるな!」

 

 目立つのは控えたいが負ければ酷い罰ゲームが待っている。

 速攻で片を付けるか。

 

 

 オレは他選手たちの攻撃を避けながら、魔術公式の構築を行う。

 グレン先生のとてもわかりやすい基礎講座のおかげでいろいろとわかった。

 黒魔術の『炎熱』、『冷気』、『電撃』の三属呪文の術式構成は根元的には同じものが使われている。

 導力ベクトルは根源素中の電素の振動方向と流動方向の二つだけなのだが、振動方向には加速と停滞の二つの振動方向。つまり、電素の振動が激しくなると『炎熱』に、止まると『冷気』に変わる。

 この二つのエネルギーを調節して1:1の比率で複合すれば――――

 

 できた。改変完了にかかったのは10秒くらいか。この程度なら一節で十分だな。

 

 回避しながら他選手たちが入る射線に移動し、改変呪文を唱える。

 

「《爆水衝波》」

 

 呪文が完成。魔力が大量の水へと変換され、オレの両手から吹き出す。

 局所に集中させず、オレの視界に入るものを呑み込むような、広範囲にわたる津波のようだった。

 

「は!?ちょっ――」

「は、範囲が広い!」

「ごぼぼぼ!?」

 

 想定外の攻撃に反応が遅れた連中と、残ったゴーレム達が押し寄せる波に呑まれて場外へ流される。

 

『な、なんと驚くべき展開だぁ!?二組のアヤト選手、改変呪文なのか津波を発生!四組、五組、六組、九組、ペアが場外に出てしまったのもいたため脱落!ゴーレムも撃破されたと判定され一気に二組に合計20ポイント加算された!』

 

 一組、三組、七組、八組は残ったか。【エア・スクリーン】と【フォース・シールド】でなんとか持ち堪えたようだ。

 まあ、即興だとこんなもんか。

 

 最後の仕上げはショウに任せるとしよう。

 

「す、すげー……」

「ショウ、今だ」

「お、おう!《雷精の紫電よ》!」

 

 オレの合図とともに、水浸しになった地面に向けてショウがショック・ボルトを撃ち込んだ。

 水は電気を通しやすい。

 水浸しにしたところに電気が流れれば、流動性なんてものは関係ないわけで

 

「「「「「「「「あばばばばばば!?」」」」」」」

 

 フィールドを駆けていった紫電が、足がずぶ濡れの競技者達の身体に一気に襲いかかる。

 

「な、なんで………」

 

 バチバチと派手な音を立てて感電した競技者達は、何が起こったかわからないままあっさりと倒れ伏した。

 

 

 オレ達を倒すために手を組んだのは悪くなかった。が、相手が悪すぎたな。

 

 

『こ、ここで決着ぅぅぅぅ!『タッグロワイヤル』を制したのは二組のショウ・アヤトペアだああぁぁぁぁ!あんたら本当に魔術触れて2週間かぁ!?』

 

 終幕の合図と共に実況の説明が会場内に響く。観客も予想外の決着に熱狂している。二組の席を見れば揃いも揃って歓喜に沸いていた。

 

「やったなアヤト!」

「ああ」

「なんだよ~?少しくらい喜んで見せたりしても罰当たらねえだろぉ?」

「これでも喜んでるほうだが」

 

 主に女装回避とかで。

 

「じゃあほれ」

 

 ショウはオレの前に右手を出した。

 

「なんだそれ?」

「ハイタッチだよハイタッチ。勝利を分かち合うんだよ」

「ああ、なるほど」

 

 そういうのもあるのか。

 オレも右手を上にあげ、ハイタッチというのをする。パンっと手のひら同士の当たる小気味よい音が競技場に響いた気がした。

 




圧倒的勝利!

後半はアヤト視点にしました。
爆水衝波のネタ元はナルトからです。
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