ロクでなし魔術講師とマダオ(まるでダメなおっさん)   作:嫉妬憤怒強欲

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アニメで変身魔術の辺りを見た時は笑いましたね。
この時、リンがほんの少しよう実の佐倉に似てると思いました。


不穏な動き

side.アヤト

 

 午前最後の競技『タッグロワイヤル』に勝利したオレ達が二組のところに戻ってからは叩かれ褒められの揉みくちゃ状態だった。その際、オレの水系魔術をどう作ったとか聞かれたりした。この質問に関しては『グレン先生に最後の切り札として教えてくれた』と噓こいて誤魔化した。グレン先生の戦法ミスを隠すのと同時に、グレン先生の株は急上昇とクラスの士気向上維持のためにはうってつけの噓だ。あまり目立つのも好きじゃない。

 グレン先生に耳打ちでオハナシし、本人もそういうことにした後、小一時間ほどの昼休みに入った。

 競技場に集まっていた生徒達は学院内の学食に行く者、学院外の外食店に赴く者、あるいは弁当を用意してきた者と分かれて、ぞろぞろと移動し始めていた。クラスの生徒達も一旦解散し、昼食のために各自分かれて移動し始めている。

 

「……ん?」

 

 今、誰かが目の前を横切った気がしたのだが、それらしき姿は見えない。

 人の気配と足跡があるというのに、視界には映っていない。

 認識阻害…………いや、隠蔽か。

 それに微かに感じるこの魔力の波長パターンには開会式の時に覚えがある。首のあたりについているのも含めて……。

 

「…………まあいっか」

 

 あの人物がどこでなにしようとオレには関係ない。関わり合いになるのは避けたいし。

 見えない要人への視線を外して止めていた足を動かす。

 

 昼飯はどこで済まそうか。

 確か学院の近くに安い飲食店があったはずだ。

 

「……ん?」

 

 学院中庭を歩いていると、見覚えのある小柄な女子が周りをきょろきょろしていた。

 

「どうした?」

「……ひゃっ!?」

 

 少女はびくりと飛び上がり、こちらに振り向く。どこか小動物的な雰囲気を持つその少女は、同じクラスメイトの…………名前は確かリン=ティティスだったか。

 

「悪い。驚かせて」

「あ………えっと、アヤト君」

 

 振り向いたリンの顔は、なぜか少し泣きそうな顔をしていた。

 

「大丈夫か?なんか泣きそうなんだが」

「そ、その…えっと…」

「……誰かを探しているのなら、一緒に探そうか?」

「え、えと……そう、なんだけど、その……アヤト君でもいいから……その……」

 

 とにかく誰かに自分の話を聞いてほしいという感じなのか。

 

「ひょっとして、競技のことで不安なのか?」

「う、うん、その……」

 

 リンがおどおどしながら、少しずつ心の中をまとめるように呟いていく。

 

「あ、あのね、私、『変身』の競技を任せられているんだけど……その、自信がなくて…………変身の魔術は一生懸命練習してきたんだけど……今日になったら緊張してきて……全然、上手くいかなくなっちゃって……それで、私を他の誰かに代えてくれないかと、グレン先生を探していて……」

「……リンはどうしたいんだ?」

「そ、それは……」

 

 しばらくの間、リンは自分の心の内をさらうように押し黙って、そして――

 

「本当は……私も出たい……でも、皆に迷惑かかるから……せ、せっかくクラスの皆が一丸になって一生懸命、優勝のために頑張っているのに……私が足を引っ張っちゃったら、皆に申し訳なくて……その……だから……私を、他の誰かに代えて……ほしくて……ッ!」

 

 肩を震わせ、目尻に少し涙を浮かべてリンが心情を吐露する。

 彼女が出たいのは間違いないだろう。だがプレッシャーの影響で萎縮した自分はクラスの優勝のために出るべきではないと、葛藤が混じっているだろう。

 そんな彼女にだからこそ、オレはこの時、本心で言った。

 

「変身の魔術は好きか?」

「え?う、うん……私……昔から気が弱くて、優柔不断だけど……変身の魔術は、その……なんだか違う私になれるみたいで……」

「さっき競技に出たいって言ってたな。なら、それだけでいいじゃないか?」

「え?」

 

 リンが泣きそうな表情からキョトンと色を変えてこちらを見た。

 

「で、でも!私が出たら、皆に迷惑が――」

「そもそもこれはお祭りだぞ?お祭りに足を引っ張るも迷惑もあるもんか」

「で、でも、皆で優勝目指すって盛り上がってて……先生もそう言って……」

 

 別に、あのろくでなしが何かよからぬことをたくらんでいるからってのもあるし……そこまで深刻に考えなくてもな…

 といっても、リンは見た通り真面目そうだし、だからこそ悩んでいるのだろう。

 

「あれのノリで始まったみたいなもんだから、目一杯楽しめばいい。その上で優勝できればいいよな、くらいの程度だろうから気にしなくてもいいと思うぞ」

「……そう……なの?」

 

 戸惑うリンに、オレはさらに言葉を畳み掛ける。

 

「真意はどうあれだ。クラスのため、栄誉のため、優勝のため…なんてそんな考えは、一度全部捨てろ」

「全部…捨てる?」

「あれもこれも考えて、抱え込まなくていい。競技に出るのは、リン自身の為だ」

「私の………為?」

「好きなことを楽しんでやる。それで十分だ」

「あっ………」

「まあ、学院に通って二週間しか経っていないオレが何言ってんだと思うだろうがな。まだ不安なら担任に相談するといい」

 

 ちょうど中庭に傍を餓死寸前の担任が徘徊しているのが見えた。

 グレン先生に声をかけようとしたその時だった。

 

「おーいアヤトー」

 

 中庭に、いつの間にかショウがやって来ていた。

 

「どうしたショウ?」

「いやーせっかくだから昼飯に誘いに来たんだが、取り込み中か?」

「いや。もう終わった」

 

 リンの方に向き直る。

 

「オレから言ってやれるのはここまでだ」

 

 そう、これ以上は何もない。勝つ策を授けることも必要ない。

 

「じゃあオレは行くから。またな」

「う、うん…………」

 

 また…小さな声で挨拶が返された。

 オレは振り返ることなく、片手を挙げることで応えて、ショウと共にその場から立ち去る。

 

「なに話してたんだ?」

「ちょっとしたお節介だ。それよりどこで食べるんだ?」

「もう少しすれば着くよ」

 

『こ、の、お馬鹿ぁあああ――ッ!』

『ぎゃああああああああああああああ――ッ!?』

 

「ん?なんか聞こえなかったか?」

「いや、オイラにはなにも……おっ、いたいた」

 

 ショウの視線の先には、レイというもじゃもじゃのマダオと、東方の着物を着こなしてる老婆がいた。

 

「来たね。その子がそうなのかい?」

「おう。あっ紹介するよ。この人はアヤメ=マダラメさん。オイラの祖母ちゃんの知り合いで、万事屋レイちゃんの大家だ。バーを営んでるからマダムって呼んでる」

 

 ショウが軽く紹介してくれた後、マダムという女性がオレに話しかけてきた。

 

「あんたがアヤトかい?」

「はい…アヤト=キヨハラです」

「ショウが世話になってるみたいだね。試合見てたよ。あんな派手なのを使うなんて凄かったじゃないか」

「えっと、ありがとうございます」

 

 一見高圧的に見えるが、話してみると親切そうな人だ。

 

「お昼はもう食べたかい?」

「いえ、まだですが…」

「なら一緒にどうだい?実はちょいと作り過ぎてね。残るのもあれだから男もう一人分いてくれると助かるんだけど」

「いや、俺が二人分食えばすむ話だろ」

「お前は今日なにもしてないだろ!」

 

 食べ物の匂いが漂う大きな箱にマダオの手が迫るも、マダムがその手をはたくことで食い止める。マダオの目つきが獣染みた何かになっているのは気のせいではない。 

 

 ん?なんか箱の傍に着物を着た猫がぼんやりと見えた気がしたが………気のせいか?

 

「それで、どうするんだい?」

「とてもありがたい話ですが……いいのですか?」

「年寄りの厚意は受け取るもんだよ。それに食事中にショウの学院での様子を詳しく聞きたいしね」

「ちょっアヤノさん!?」

「いいじゃないか。減るもんじゃないし」

「…………まあ、そういうことなら」

 

 ただ飯が食えるのはありがたいしな。

 

「けっ、いいかクソガキ。ちゃんと均等に食べるんだぞ?欲をかいて俺の分まで食おうとすんなよな」

「その言葉、そっくりそのままバットで撃ち返しましょうか?」

 

 目を離した隙にもじゃもじゃに取られないよう細心の注意を払いながら、マダムの用意した昼食にありつくのだった。

 

 

♢♦♢

 

 生徒達が各々で昼食を取ろうとする中、ご存知金欠グレン=レーダスはと言えば、空腹を堪えて生徒の相談に乗り、何だかんだの自業自得でシスティーナに吹っ飛ばされ、そして飛ばされた先の森の中で、とある生徒の厚意によって久方ぶりの食事にありつけていた。

 

「ふー生き返った、生き返った。ほんと、マジ助かったわ、ルミア」

「あはは、それは良かったです。でも、お礼は私じゃなくてその女の子にお願いしますね」

 

 たった今、グレンが余すことなく食したサンドイッチの数々はとある素直になれない女子生徒が相手に渡せないで廃棄しようとしていたのを、見かねたルミアが代わりに届けた物だ。まあとある女子生徒が誰であるかは鈍感でない限り察しがつくだろうが、生憎とこのロクでなしはその鈍感に含まれていた。

 

「おう、分かってるって。序でに美味かったって伝えといてくれ……ところで、ルミアのそれは自分の弁当か?」

 

 グレンの目がルミアの抱える小さなバスケットを捕捉する。決して狙っているわけではない。ただ気になっているだけだ。目つきが獣染みた何かになっているのは気のせいだろう。 

 

 そんなグレンに苦笑いながらルミアはバスケットの表面を撫でる。

 

「これは、とある人に食べて欲しくて作ったんです。不器用だから見た目は不恰好になっちゃいましたけど、味は問題なく仕上がったので渡したいと思ったんですが……」

「ほほぉ?なら渡しにいけばいいんじゃねーの?」

「残念ながら、多分その人は受け取ってくれないと思うんですよね」

 

 誰か察しが付いたグレンの無遠慮な物言いにルミアは肩を落とす。

 

「男だな」

「ち、違いますからね!?」

 

 ここまで赤くなりながら言うと最早肯定しているのと同じである。

 誰かは察しが付いてるグレンは後でそいつ弄ってやろうと企みつつ、

 

「まあいいや。そろそろ競技場に戻るか」

「はい」

 

 グレンとルミアがベンチから立ち上がった。

 その時。

 

「そこの貴方はグレン、ですよね?あの……少し、よろしいですか?」

 

 立ち去ろうとする二人の背後から、不意に女性の声がかかる。呼び止められたグレンは、いかにも面倒臭そうに振り返った。

 

「はいはい、全然よろしくありませーん、俺達、今、すっごく忙し――って、ぇえええええええええええええええ――ッ!?」

 

 グレンは背後から声をかけて来た人物の正体を知ると、素っ頓狂な叫びを上げた。

 

「じょ、じょ、じょ、女王陛下――ッ!?」

 

 そこにいたのは他でもない、アルザーノ帝国女王アリシア七世その人だった……。

 

「ど、ど、どうしてアナタのような高貴なお方が、下々の者のたむろするこのような場所に、護衛もなしで――ッ!?」

 

 突然、現れた女王の前に、グレンはひたすら恐縮しまくっていた。

 

「あ、いえ、その、さっきは無礼なことを言って申し訳ございませんでした――ッ!」

 

 いつもの横柄で傍若無人な態度はどこへやら。グレンは畏まって片膝をつき、その場に恭しく平服する。

 

「そんな、お顔を上げてくださいな、グレン。今日の私は帝国女王アリシア七世ではありません。帝国の一市民、アリシアなんですから。さぁ、ほら、立って」

 

「いや、そうは言ってもその……し、失礼します……」

 

 グレンはおそるおそる立ち上がって、恐縮する。

 

「ふふっ。一年ぶりですね、グレン。お元気でしたか?」

「あ、はい、そりゃもう。へ、陛下はお変わりないようで……」

「……貴方達にはずっと謝りたいと思っていました」

「あ、謝る……って、そんな……」

「貴方とセラ、そしてレイはこの国のために必死に尽くしてくださったのに……あのような不名誉な形で宮廷魔導士団を除隊させることになってしまって…………セラにも伝えてください。申し訳なかったと。彼女も私の不甲斐なさのせいで魔術行使が……」

 

 アリシアはそういいながらグレンに頭を下げる。

 

「いやいや、陛下がこんな社会不適合者に頭下げちゃ駄目ですって!俺はただ仕事に嫌気がさして辞めただけのゴミくずなんで!それにレイとセラの件に関したってあの時の俺に責任があるんで」

 

 ぶんぶんと頭を掌を左右に振りながら、グレンはアリシアの謝罪を固辞する。

 都合の良いことに――いささか都合が良過ぎる気もするが――周囲には誰もいなかったが、グレンは気が気ではなかった。

 

「で、陛下……その、今日はどういった御用向きで……?」

「そうですね。今日は……」

 

 アリシアは視線を横にずらす。その視線が捕らえた先に、呆然と立ち尽くしているルミアがいた。

 

「……お久しぶりですね、エルミアナ」

 

 そんなルミアに、アリシアは優しく語りかけた。

 

「ぇ……」

 

 陛下の発言に戸惑うルミア。当然だろう、彼女からしてみればいまだに信じられない光景なのだから。

 ルミアは無言でアリシアの首元に視線をさまよわせる。そこに翠緑の宝石が納まった金細工のネックレスがかけられているのを確認すると、なぜかルミアは目を伏せた。

 

「元気でしたか?見ない間にずいぶんと綺麗になりましたね。フィーベル家の皆様とはどうですか?食事はしっかりとっていますか?」

「あ、えっ…その……」

 

 硬直するルミアをよそに、アリシアは本当に嬉しそうに言葉を連ねていく。

 

「あぁ、夢みたい。またこうして貴女と言葉を交わすことができるなんて……」

 

 そして、感極まったアリシアは、ルミアに触れようと手を伸ばす。

 

「エルミアナ……」

 

 だが――

 

「・・・お言葉ですが、陛下」

 

 ルミアは逃げるように片膝をついて平伏する。

 

「!」

「陛下は・・・その、失礼ですが人違いをなされております」

 

 ぼそりと呟いたルミアの言葉に、アリシアは凍り付いた。

 

「私はルミア。ルミア=ティンジェルと申します。恐れ多くも陛下は私を、三年前御崩御なされたエルミアナ=イェル=ケル=アルザーノ王女殿下と混同されております。日頃の政務でお疲れかと存じ上げます。どうかご自愛なされますよう・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 慇懃に紡がれるルミアの言葉に、アリシアは気まずそうに押し黙る。

 

「・・・・そう、ですね」

 

 そして、アリシアは寂しそうな微笑みを浮かべながら、目を伏せる。

 

「あの子は・・・エルミアナは三年前、流行病にかかって亡くなったのでしたね・・・・あらあら、私はどうしてこんな勘違いをしてしまったのでしょう?ふふ、歳は取りたくないものですね・・・・・・」

 

 そんなアリシアの哀愁漂う言葉に、グレンは複雑な表情で頭を掻く。ルミアは淡々と言葉を続ける。

 

「勘違いとは言え、このような卑賤な赤い血の民草に過ぎぬ我が身に、ご気さくにお声をかけていただき、陛下の広く慈愛あふれる御心には感謝の言葉もありません……」

「いえいえ、こちらこそ。不愉快な思いをさせてしまって申し訳ありません」

 

 しばらくの間、沈黙が場を支配し、アリシアは何かを言おうとしては、諦めたように口を閉ざすことを繰り返した。

そして───

 

「・・・・・・そろそろ、時間ですね」

 

 未練を振り切るように、アリシアはグレンを振り返った。

 

「グレン。エル――……ルミアを、よろしくお願いしますね?」

「……わかりました、陛下」

 

 グレンが何か物言いたげな表情で見送る中、アリシアは静かに去って行った。

 やがてアリシアの姿が、中庭から見えなくなる。

 

 

 

 

 

 

「……アリシア女王陛下」

 

 自分を呼ぶ声にふと、アリシアが顔を上げる。周囲を見渡せば大きな大木の背後からアイザが現れた。

 

「貴方でしたか……」

「お久しぶりです」

 

 アイザはアリシアの前までいき、片膝をついて静かに平服する。

 

「三年ぶりですね。あの時エルミアナを救ってくれたこと、今一度お礼を言います」

「お気になさらず。たまたまその場に居合わせただけです………彼女に会われたようで」

「はい……拒絶されてしまいました。今更ですよね……大人の勝手な事情で大事な一人娘を捨てておいて…随分と身勝手ですよね……あの子の気持ちをもっとよく考えるべきでした……でも、我慢できなかったのです。あんな風に友人に囲まれ、尊敬できる先生に出会い、楽しそうに笑っている姿を見てしまったら……」

「…………」

 

 今にも涙を零しそうな勢いのアリシアの告白。娘に赤の他人として接されると分かっていたはずなのに、会いたいという願いが勝ってしまった。そして案の定、惨めな思いをして帰る羽目になっている。一国を治める女王として、そして一人の娘の母親としても今のアリシアは見るに堪えない。

 

「この1年間彼女の護衛をして分かったことがあります。別にあなたが嫌いなわけではない……ただ恐れているだけなのでしょう、また貴女に拒絶されることを。彼女に貴女の真意を伝えたのですが………」

 

 ちゃんと伝わらなかったようだ。

 これ以上アイザから何か言えることはない。この問題は帝国の、そして親子の問題であると弁えているからだ。二人の間の問題は、あの二人にしか解決できないのだ。部外者が何を口出ししても、それは嘘になる。問題の根底にある物が理屈ではなく感情である以上、どんな正論も慰めも、まったく役に立たないのだ。

 

「…………悲しみにくれてるところ心苦しいですが、陛下のお耳に入れておきたい情報がありまして」

「なんでしょうか?」

「長官直々に聞いた話ですが、政府内の情報が外部に漏れてるようですね」

「!!」

 

 アリシアの悲痛な表情が驚愕に一変した。

 

「その話は本当ですか?」

「ご存知なかったのですか?」

「ええ、私の方には何も報告が来ていません」

 

 帝国保安局情報調査室の長官がいくら秘密主義でも、情報漏洩……もとい裏切り者という問題を部下のアイザには伝えて、一番の上司に当たるアリシアに伝えていないのは不自然だ。

 

「あの長官が陛下に敢えて報告しなかったということは…………」

「私の周りの人間も警戒してのことでしょうか」

「わかりません。ですが万が一のことがあるので周囲の人間にお気を付けください。誰が敵で味方なのかわからない今は特に」

「……あまり身内を疑いたくありませんが致し方ありません………」

 

 アリシアはアイザの言葉を聞いた瞬間、国を納める陛下の表情を浮かべていた。

 

「…分かりました。こちらの問題はこちらで対処します。貴方は貴方の役目を果たしてください」

「御心のままに」

 

 アリシアに頭を下げた後、アイザはその場から立ち去る。

 

 

 

 

 残されたアリシアは、貴賓席へと歩みを再開した。

 

「陛下……」

 

並木道に並び立つ木陰に見知った姿があった。

やや白髪交じりの黒髪に髭、鋭い眼光、あちこち肌を走る古傷がいかにも歴戦の古強者を思わせる男だ。

王室親衛隊、総隊長ゼーロスだ。すでに初老の域にさしかかっているものの、四十年前の奉神戦争を戦い抜くことで鍛え抜かれたその士魂には微塵の陰りもなかった。

 

そんな彼が、なにやら切羽詰まった鬼気迫る表情でこちらの様子を伺っていた。

 

(おや、変ですね。どうして私のことを認識できたのでしょう? まだセリカの魔術が効いているはずなのですが……)

 

 不思議に思いながらも、アリシアはこの忠義あふれる衛士に声をかける。

 

「あらあら、見つかってしまいましたね。勝手に外を出歩いてしまって、すみません、ゼーロス。ところで……どうかしましたか?」 

 

「少し、お話があります、陛下」

 

 ゼーロスは音もなく木陰から出ると、アリシアの前に立ち、手を振り上げた。

 それが合図だったのか。

 

「――ッ!?」

 

 どこからともなく現れた数名の衛士が、あっという間にアリシアを取り囲んでいた。

 

「……まさか貴方が!?」

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃グレンはというと………

 

「もうグレン君どこ行ってたの?ずっと探してたんだよ」

「悪い悪い。ちょっとな」

 

 むぅっ、と不機嫌そうにむくれたセラに軽くしかられていた。

 

「それより、弁当作りすぎて余っちゃったんだけど…………その、食べる?」

 

 セラが手に掲げている大きめのバスケットを見て、グレンは目を輝かせる。

 

「おお!一度ならず二度も食い物にありつけるとはついてるぜ!」

「二度?」

 

 グレンの口から出た聞き捨てならない単語を聞いてセラはぴくッと反応する。

 

「ひょっとしてもう食べたの?」

「ん?ああ、どっかの誰かが作った廃棄寸前のサンドイッチをルミアからくれてな。すっげぇ美味かったぜ」

「………ふーん」

「あ?どうしたセラ?」

「別にぃ」

 

 それからしばらく不機嫌な白犬と、近くで耳まで真っ赤にした白猫が目撃されたそうな。

 

 

♢♦♢

 

side.アイザ

 

 あまり勝手に動かないで欲しいな…………。

 

 魔術競技祭、午後の部が幕を開け、二組は午前と同じく快進撃を続けた。

 一度はグレン先生と共に競技場へ戻ったルミアは、何を思ってか目を離した隙に競技場を抜け出していた。

 気づいた俺はすぐに遠見の魔術【アキュレイト・スコープ】で彼女の居場所を探す。

 まずは学院校舎本館、西館、東館の周囲を確認し、学院付属図書館と図書館前広場、迷いの森入り口周辺、薬草菜園、魔術実験塔周辺と順に確認してもルミアの姿は見当たらない。

 遠見の魔術【アキュレイト・スコープ】は光操作による遠隔視により、指定座標の観測地点が発する光を曲げて、術者の視覚に届ける術だ。対象指定魔術ではなく座標指定魔術のため、一旦観測対象を見失うと再補足が非常に困難になる。また、観測地点が発する光が、いかなる曲げ方をしても決して届かない状況…例えば真っ暗闇の中や、完全に光を遮断された建物の内側等の遠隔視は不可能だ。

 流石に焦りを覚え始めた頃、学院敷地の南西端、学院を取り囲む鉄柵のかたわら、等間隔に植えられた木々の木陰にちらりと、見覚えある金髪が見えた。

 

「……見つけた」

「なにを見つけたんだ?」

「!?」

 

 突然背後から声をかけられたため、すぐに遠見を解き、後ろを振り返る。

 そこには午前最後の競技で水系魔術を披露した編入生アヤト=キヨハラがいた。気配をまったく感じなかったぞ。

 

「驚かすな」

「悪い」

 

 謝罪するも、表情が変わらないこいつは不気味だ。

 タッグロワイヤルで見せた水系魔術はグレン先生の策という話だが、あの男の反応から嘘だというのはすぐにわかった。

 練習の様子を観察したがあれを使った様子もなかった。

 つまり、本番中にぶっつけ本番で改変を行ったことになる。あの弾幕の中でだ。

 本当に学院に編入するまで魔術に触れていなかったのか疑わしい。

 加えて、こいつのまったく変化の無い無表情と無機質な瞳は、まるで人形が独りでに動いてるかのような既視感を覚える。

 こいつの身元調査の報告がくるまで気が休まらない。

 

 とはいえ、今こいつに構ってる暇はない。

 

「すまない。しばらくここを離れる」

「離れるって、お前もルミアって子を探しに行くのか?」

「何故そう思う?というかお前も?」

「さっきグレン先生が探しに行った。あの子と『精神防御』で仲良さそうに見えたから。お前も心配してると思った」

「……別に心配していない」

「心配していないのなら駆けつけたりしないと思うが」

「……っ」

 

 上手く反論できない。

 あいつはあくまで護衛対象だ。それ以上でもそれ以下でもない。護衛対象に特別な感情を抱くなど論外だ。

 

「……まあ、オレがとやかく言えることじゃないか」

 

 ん?なんだ?心の内を見透かされたような感じは…………。

 と、ここで止まってる場合じゃない。

 

「………とにかく、『殲滅戦』までには戻る」

「ああ、わかった。誰かに聞かれたらそう伝えておく」

 

 

 競技場から離れ、ルミアの元へ向かう。

 

 

 

「ん?」

 

 だが途中で奇妙な集団が遠目に見えて、思わず足を止めた。

 その集団は全員が全員、身体の要所を守る軽甲冑に身を包み、緋色に染め上げられた陣羽織を羽織り、腰には細剣を佩剣している。

帝国軍の精鋭中の精鋭。最も女王陛下に忠義厚い者達で構成された、王室一族を何よりも優先して護衛する、王室の守護神――それが王室親衛隊だ。

 ゆえに王室親衛隊は今回の女王陛下の学院訪問の際、当然のように女王の近辺警邏と護衛を務めているはずなのだが――

 

 なぜ連中が女王陛下の傍から離れて行動している?

 

 しかも向かってる先は――――

 

 

 嫌な予感がした俺は連中に気づかれないように密かに尾行する。

 

 しばらくして嫌な予感が的中してしまった。

 

 

 

 王室親衛隊の面々は、前方で競技場に向かって歩いていたグレン先生とルミアの前で足を止め、二人を囲むように、音もない足捌きで素早く散開した。

 

「ルミア=ティンジェル……だな?」

「え?は、はい……そ、そうですけど……」

 

 ルミアが返答した次の瞬間、衛士達は弾けたバネのように一斉に抜剣し、ルミアにその剣先を突きつけていた。

 

「お、おい!?なんのつもりだ!?」

 

 グレン先生がルミアを庇うように前に出る。

 

「傾聴せよ。我らは女王の意思の代行者である!」

 

 

 

ルミア=ティンジェル。恐れ多くもアリシア七世女王陛下を密かに亡き者にせんと画策し、国家転覆を企てたその罪、もはや弁明の余地なし! よって貴殿を不敬罪および国家反逆罪によって発見次第、その場で即、手討ちとせよ。これは女王陛下の勅命である!

 

 

 

――――は?

 






レイ「あり?俺出番少なくね?一応主人公だぞ」

嫉妬憤怒強欲「次の話でちゃんと出番用意しますよ……多分」
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