ロクでなし魔術講師とマダオ(まるでダメなおっさん) 作:嫉妬憤怒強欲
※本編開始前に、『ロクでなし魔術講師とマダオ(まるでダメなおっさん)』の最新話投稿に当たって、レイモンド=バルフェルムによる謝罪会見が行われるもよう。
会見場で記者一同が注視する中、頭を七三分けにしたレイが檀上中央に据えられた講壇の前に立つ。
『えー、本日はお忙しい中、えー、お集まりいただきありがとうございます。』
撮影機のフラッシュが点滅する中、レイの口が開いた。
『えーこの度の二次小説「ロクでなし魔術講師とマダオ(まるでダメなおっさん)」の最新話投稿の長期間の遅れにつきまして、あー当作品の関係者を代表しまして、主役の私レイモンド=バルフェルムが謝罪と釈明会見を行いたいと思います』
レイは少しの間を目を伏せ、そして意を決したように………
『えーまずはあの……一年も投稿遅れて、すみませんでした!!』
記者たちの前で深々と頭を下げた。
「質問よろしいですか?」
『あっ、はい。どうぞ』
銀髪の女性記者がメモ手帳を手に、レイに質問する。
「あのう、まずは今回の事態に至った経緯を教えていただき―――」
『うわぁぁぁああん!』
「おい、泣くの速いわよ!?」
女性記者がまだ何も聞いていないのに、レイが突然壇上にある机に頭を突っ伏して号泣しだした。
『私は、次話の出番が来るまで○ャンプを読みながらずっとスタンバってました!でもまた、まだ細かい設定を決めていないまま次話のタイトル予告しちゃった作者がスランプに陥り、リハビリで別作品の執筆に奔ったものの、そこでまたスランプに入っては別作品に奔るという悪循環に陥り、待つのに疲れてぐうたらしていた頃に性懲りもなく顔を出してきたと思ったら作り直しにトライして初回から失速する始末ぅ!!でもね、それのなにが悪いんですか。作者のなにがわかるんですか!?』
「なにを言ってるのかわけわからなんですけど…」
『ですから、ここでみなさまに申し上げたいことはこんな感じ何でぇぇぇ‼︎』
しばらくワンワン泣いた後、レイが顔を上げると髪型が元のテンパに戻っていた。
『今謝ったんで、二次小説「ロクでなし魔術講師とマダオ(まるでダメなおっさん)」再開しまぁす』
「《ふざけんなぁ》!!」
けろりとしたレイの態度にムカついた女性記者、システィーナが放った【ゲイル・ブロウ】にレイは、
『サイコパスッ!』
と叫び空高く吹っ飛んだのであった。
♢♢
side.アイザ
『さぁ、魔術競技祭もいよいよ大詰め!午前の部では大健闘を果たした二年次生二組、後半になって遂に失速か――ッ!?』
競技場に相変わらず威勢の良い実況の声が響き渡る。
外では大変なことが起こっているというのに…。
次の種目は『変身』……。文字通り何かしらの姿に変身し、その変わり様の出来に応じて点数を競い合う競技、リンの出る種目だ。
……正直不安だな。
彼女は真面目でプレッシャーに弱いタイプだ。今落としてはならないこの競技に彼女が上手くやれるかどうか。
『おおっ――とぉおおおおッ!?ハーレイ先生率いる一組、セタ選手!迫力満点な竜に変身したぁっ!これは凄い!』
競技フィールドで、一組の選手が黒光りする巨大な有翼の竜に変身し会場を騒がせる。
本物と見紛うほどの迫力もあってか、一組が獲得した点数は合計37点の高得点。40点中のだ。
後がないというのに、これは……………。
待機用のテントにいるリンの方を見やると、プレッシャーからか頭を抱えだした。
……仕方ない。やはり誰かに代わってもらうべきか。
そう考えていた時、テントにもう一人二組の生徒の姿があった。
いつの間にかリンの傍にいたそいつは、リンに何か言葉をかけた後にすぐに立ち去る。
『さぁ、次は変身魔術なら学院内でもちょっと有名人、二組のリンちゃんの登場だ!さて、彼女はどんな変身を見せてくれるのか――ッ!』
実況のアナウンスが流れ、リンは舞台に向かって歩いて行く。その頃には先程までの狼狽えぶりが噓だったかのように落ち着いていた。
そして――
『て、天使様だぁあああ――ッ!?魔術学院に聖画から抜け出てきたような天使様が降臨したぁあああ――ッ!?これは美しい!』
時計の文字盤を模した光輪を背に、純白の三対六翼、揺れ流れる純銀の髪、ふわりとたなびく薄絹の衣。巨大な黄金の鍵を携えた女性……………時の天使ラ=ティリカか。
宗教神話上の存在に過ぎない天使の実在を証明するかの如き神々しさを上手く体現していた。
どうやら俺の杞憂だったようだ。
滝のように轟く拍手と大歓声の中、二組の獲得点数が発表される。
完璧と言っていいほどの出来具合に、誰もが文句なしの高得点をあげるのは言うまでもなかった。
『さぁ、勢いを盛り返した二組!続く「使い魔操作」、「探査&解錠」でも結果を出し、現在三位!再び優勝が射程に入りました!!』
リンが『変身』で最高得点を叩き出してくれたおかげでクラスの士気が戻って行き、いくつか競技を乗り越えた頃には一組との差がかなり縮まり始めた。
今は「グランツィア」という、制限時間内に結界でどれだけ陣地を奪うを奪うかの陣取り合戦の真っ最中。
ハーレイ先生の一組チームと、アルフ、ビックス、シーサーの二組チームとで拮抗状態が続く。
クラスの連中とセラ先生達の意識がフィールドに向いている中、俺は女王陛下がいる貴賓席を見つめていた。
やはり警備は厳重になっており、陛下の後ろには王室親衛隊が蟻の入る隙もなく固めていた。
今回の連中の暴走には不可解なことが多すぎる。
使い魔を使って王室親衛隊の周りを探ってみたところ、王室親衛隊隊長のゼーロスが部下たちになんの詳しい説明もなく、今日の夕方までにルミアを抹殺せよという命令を下したらしい。部下たちはなにも知らないようで、戸惑いながらもしかたなく命令に従っている感じだ。王室親衛隊全体というより、ゼーロス個人の暴走に近い。
ご丁寧にその少女の姿を射影機で撮像したモノクロ写像画すら用意してあるときた。
予め計画されたものかとも考えたが、彼の慌て振りを見た限りどうもそうでは無いようだ。
俺が陛下に情報漏洩のことを話してすぐのタイミングで動いたことから、彼が天の知恵研究会の間者という可能性が浮上してくる。
そうなると、今回のルミア暗殺に奴等も一枚噛んでいるということに…
だが、何故陛下の傍に座っているセリカ=アルフォネアは動こうとしない?
学院に大量の酒を置いておくぐらいのだらしない奴とはいえ、大陸最強である彼女なら簡単にねじ伏せれるはずなのに大人し過ぎる。
それに、彼女の言うグレン先生にしかこの状況を打破できないとはいったいどういう――――
「なにを見てるんだアイザ?」
「!?」
いきなり横から声をかけられ、反射的に身構えてしまった。
馬鹿か俺はッ…これが暗殺者だったら既に死んでいたぞ…。
「…悪い。驚かせるつもりはなかった」
「………あっ、いや」
思考に耽りすぎている俺に声をかけてきたアヤトと少し気まずい雰囲気になるも、向こうから話を切り出される。
「貴賓席の方を見ていたな?」
「あ、ああ……改めて、陛下の御前で競技に挑むと考えるとな」
「………ああ、なるほど。グレン先生に頼まれたとはいえ緊張しない方がおかしい」
「そういえばお前、午前の部では緊張した様子を見せなかったな。緊張を解すのになにか秘訣を知ってるのか?」
「いや知らない………強いて言うなら、ただの作業の一環と割り切ればいい」
「作業?」
「周りの目を気にして、緊張とかでいつもの調子がでないのは馬鹿みたいだからな」
「馬鹿みたい、ね」
こいつが常時無表情なのはそれと関係しているのか?
「参考になったよ」
「そうか……ところで話は変わるが、貴賓席にあのメイドの姿が見当たらないな?」
「メイド?」
「午前中陛下の傍にいた黒髪の女の人だ」
言われてみれば見当たらない。
彼女は陛下に仕える侍女長で、秘書官も務めている。いくら王室親衛隊の暴走しているとはいえ、陛下の傍を離れるなんてことは―――まさか。
『こ、これはぁあああああああああああああああ――ッ!?』
実況の割れんばかりの怒号が鼓膜に響く。
競技フィールドに目を向けると、一組の赤いフィールドが成立するのと同時に、それを切欠として突如、それを大きく取り囲むように黄色の光のフィールドが出現したのだ。
『サイレント・フィールド・カウンターだ――ッ!?なんと一組のアブソリュート・フィールド成立を条件にしたサイレント・フィールドを二組が仕込んでいた――ッ!?』
「あの三人はいったいなにをしたんだ?」
「サイレント・フィールド・カウンターという奴だ。一組のアブソリュート・フィールドが成立するのを条件起動式に組み込んだんだろう」
「?アイザ、その条件起動式ってのはなんだ?」
「この前の魔導戦術論で教わっただろ。対象とする場や物に初期設定した条件が達成される際、自動で術が起動する魔術起動法だ。今の場合は、『敵が一定得点以上のアブソリュート・フィールドを構築』を起動条件に、『サイレント・フィールドを発動』となるようにしたんだろう」
今回グランツィアでは結界を構築する速度が重要になるから、選手達は結界構築速度を極限まで高める方向で練習する。まともにやりあえばあっという間に陣地を食われて終わりと考えたグレン先生がこのえぐい戦術を考えたんだろう。
「なるほど……………そんなに便利な起動法があるなら、色々と使いようはありそうだ」
「…………お前この前授業をちゃんと聞いていなかったのか?条件起動式は昔から呪いや制約に散々使い古されてきた悪名高い術式だ。『○○しなければ、対象者は死ぬ』という感じで――――」
ん?
「どうした?」
「………いや。とにかく、魔術師の間では邪道とされているから興味本位で使おうと考えるなよ」
「ああ。わかった」
正直不安だな。
だが、お陰でアルフォネア教授のあの言葉の意味がようやく理解できた。
『まさかの大逆転だぁあああッ!これで二組は現在首位を走る一組に大きく追いついた――ッ!わからなくなってきた!確実だと思っていた一組の総合一位が、これは、わからなくなって来たぁ――ッ!?』
グランツィアが二組の圧勝で終わった。
現時点で既に一組が優勝に大手を掛けている。二組も健闘して二位まで上り詰めたものの、各競技において常に一位か二位を取り続けてきた一組には及ばない。
残す競技は二つ。
俺が出る『殲滅戦』とシスティーナ達が出る『決闘戦』のみ。
優勝するには、二組が両競技で一位を手にする以外に道はない。
だが、そう簡単に事が運びそうにない。
『精神防御』で活躍した五組のジャイルと同じように、『殲滅戦』にも実力者が一人、敵クラスとして出場する。
それに、ここまでの二組の快進撃を他のクラスが面白くないと感じているだろう。手を組んで二組を優先的に潰しにくるかもしれない。
普段演じている学院生アイザック=ソーントンのやり方では、その対応をするのは正直きつい。
となると、全てグレン先生の策という事にして誤魔化すのも手か。
「そうだアヤト。お前に少し頼みがある…」
『次の競技、『殲滅戦』に出る生徒は入場口まで来てください』
レイ先生達とこの後のことに関して打ち合わせをした後、そろそろ『殲滅戦』の時間になり、フィールドに向かおうとしたときにくいっと袖を引っぱられた。
「どうした?」
システィーナに話しかけた時を除いて沈黙を貫いていた青髪の少女が口を開く。
「……お願い、勝って」
抑揚のない声援。けれどそこには偽りようのない強い想いが秘められていた。
「――ああ、勝つさ」
それだけ告げて俺はフィールドへと向かう。
選手が全員揃ったことにより、実況が声を張り上げた。
『さぁ、やってきました「殲滅戦」!今年の新競技で注目する選手は二組のアイザック=ソーントン君!二年次で既に第三階梯までに至っている彼がどのような戦いぶりを見せるか!!』
階位の話のくだりから、他のクラスの代表選手が俺に鋭い眼差しをくれる。一人を除いて。
『そしてもう一人!三組のリリアーナ=オーウェン選手にも注目だ!』
そう。俺が警戒している相手が彼女だ。
リリアーナ=オーウェン。
身長約158センチの華奢な体付き。サラリとした金色の髪を腰まで伸ばし、静かに周囲の選手たちを見据える透き通るような碧眼を持つ、人形のように整った顔立ちから冷静さと知的さを感じられる。
騎士の家系であるオーシェン家出身のご令嬢にして、俺やシスティーナ、ギイブルのように学年の成績上位陣に食い込んでいる優秀者。
性格は冷静沈着。魔術師にしては驕ることがなく、決して相手を下に見たりしないため一部では人気とのこと。
雷系の魔術を得意としており、去年の競技祭でそれ1つで高得点を勝ち取ったことがある。
つまり、この『殲滅戦』に出ている選手たちの中で一番の障害は彼女だ。
種目のルール説明が終わり、競技者達は位置に着く。
『それでは「殲滅戦」を始めてください!!』
「「《雷精の紫電よ》!」」
「「「《大いなる風よ》!」」」
「「「《白き冬の嵐よ》!」」」
実況が競技開始を告げたと同時、全クラス………いや、リリアーナを除いた8クラスの選手が俺に向けて一斉に呪文を唱えた。
彼女の性格を考えると、腹いせで手を組むという大人げないことに賛同するわけないか。
「――【水陣壁】」
俺に向かって放たれるは眩い雷光、吹き荒ぶ暴風、凍てつく冷気の衝撃。
アヤトから教えてもらった術式を元に改変した水系呪文を唱える。
下方から猛烈に吹き上げる水の壁が俺を中心に円を描くように吹き上がり、全方位からの攻撃を防いだ。
「……っ」
水への変換だけにかなり魔力を消費するな。
『な、なんとぉ!?二組のアイザック選手、午前の競技でアヤト選手が見せたのと同じ水系魔術を使用、他クラスの攻性呪文を悉く防いだぁ!!』
別の奴も使ってくることは想定外だったようで、観客だけでなくフィールド上の選手達も目を剥いている。
不意を衝くことには成功し、俺はこのチャンスを逃さずに攻撃を仕掛ける。
「《大いなる風よ》!」
「がぁ!?」
まず一組を【ゲイル・ブロウ】で場外へ吹っ飛ばす。
『ああっとぉ!?早くも一組脱落だ!!最初に脱落した一組への得点は0点となります!現時点で一位の一組にこれ以上得点を取らせないつもりなんでしょう!』
当然だ。ここで一組よりも点を取らないと二組は優勝できない。
相手に余裕を与えずに一気に畳み掛ける。
「《雷精の紫電よ》!」
「「「あばばば!!?」」」
次は他の選手……ではなく、先程の突風で飛び散った水へと【ショック・ボルト】を放つ。
午前の部の時と同じようにフィールドを駆け、バチバチと派手な音を立てて競技者達の身体を襲った。
『こ、これはぁぁ!?水を利用して電撃を三人に命中させたぁ!まさか最初の防御はこのためかぁ!?』
その通り。
防御に【フォース・シールド】などを使わなかったのは、水の方が次の攻撃につなげることができることを午前の試合で知ったからだ。
だが、やはり全部はうまくいかないな。
一番の脅威であるリリアーナも狙ったのだが、午前の試合を見ていたであろう彼女は俺の意図にすぐさま気付いたようで、すぐさま自身の足元にあった水を威力の低い【ゲイル・ブロウ】で吹き飛ばして感電を逃れた。
「――――《白き冬の嵐よ》」
リリアーナが【ホワイト・アウト】をフィールド上の水に向けて放った。冷気の衝撃が水をたちまちに凍らせていく。 狙いが分かった俺はすぐに跳んで回避したが、遅れた他の選手たちの足を凍らせた。
そして彼女はすぐさま作り出した氷の道を素早く駆けて八組の選手の背後を取り、隙だらけの背中に【ショック・ボルト】を打ち込んで倒した。
『なんとリリアーナ選手!アイザック選手が出した水を逆に利用し、氷で四組、六組、八組、九組の身動きを奪い、八組を脱落させたぁ!』
両足が動かなければ汎用魔術を放つ左腕の可動範囲も制限される。範囲外に移動してしまえば反撃の心配なく攻撃できるわけだ。
俺もこのチャンスを逃さず、身動きの取れない選手達を潰していく。
俺とリリアーナ以外の全員が揃って地に沈むのにそう時間はかからなかった。
『な、なんと驚くべき展開だぁ!?激しい乱戦になると思われていた「殲滅戦」が、僅か2分足らずでアイザック選手とリリアーナ選手の二名のみとなったぁ!!』
「―――先程はすまなかった」
「ん?」
実況の声が響く中、詠唱以外寡黙だったリリアーナから謝罪の言葉が出た。
「彼らが卑怯な手段を取ることを知っていながら黙認していた」
「ああ、そのことか。気にするな。こうなることは読んでいたし、責めるつもりもない。そっち一人が強く反対してもこいつらはやっていただろう」
別に卑怯だとか言うつもりはない。元より俺自身、その卑怯な手段を是としている諜報員だ。むしろ無駄に高いプライドをかなぐり捨ててまで結託したその意気は素直に賞賛する。
だからと言って、勝ちをくれてやるつもりは毛頭ないが。
「まあ一応謝罪は受け取っておくから、この話はもう終わりにしよう」
「………そうか。そうだな。試合に集中しよう」
短いやりとりを終え、俺とリリアーナの一対一の戦いが始まった。
♢♢
side.アヤト
『こ、これはすごい!!アイザック選手とリリアーナ選手、両者攻撃の手を緩める様子がありません!』
フィールド上で繰り広げられる二人の激しい攻防の嵐に、闘技場は沸いていた。
当初は全クラス同士による乱戦を想定されていた新競技だが、成績下位者に負けた腹いせのために殆どが結託して二組を潰しにかかった…………にも拘らず、オレが教えた水系魔術のコンボでアイザと二組潰しに加担していないリリアーナという女子生徒以外すぐさま脱落という形になった。
余りの呆気なさに観客の熱が冷めるかと思いきやその逆で、残った二人の一対一の白熱した戦いいつの間にか観客たちは盛り上がり、大歓声を上げていた。
ちなみに担架で運ばれている脱落者たちのことは皆まるで眼中にない。まあ………そこは自業自得ということか。
「おー、やっぱりとは思ってたが、アイザの奴すごく強いな…」
「そうだな…他クラスの選手達とはまるで別格だ」
ショウの言う通り、確かにアイザは強い。
これまでの競技を見て分析したところ、魔術師の技量というのは、魔術という使える手札の強さや数、そして手札を出す速度の三つのようだ。
強い魔術を多く使えれば、まあ優位にはなれるだろう。
だが、持っているだけで使いこなせていなければ、ただの宝の持ち腐れだ。
三つの内、魔術戦というもので重要視されているのは手札を出す速度…………次の手を打つ判断の速さやその善し悪しだろう。
レイ先生が言っていた『常に変化し続ける状況の中で、咄嗟の判断が下せる能力』という言葉はあながち間違っていなかったわけだ。
その点を踏まえれば、アイザの手札の出す速度は二組…………いや、全クラスの中で一番秀でている実力者だ。いや、まるで戦い慣れているといったほうが正しいか。
「あのリリアーナって女の子も凄いな。成績上位陣?って奴らもあれぐらい普通にできるのか?」
「い、いや。さすがの私でもあんな身のこなしできないわよ」
「ふ、ふん!わたくしだってその気になればあのくらい」
「ふん、強がるのはよしなよウェンディ」
「シンパチの言う通りだぞドジっ娘ツインテ。お前にはお前の強みってもんがあるんだからよ。知らねえけど」
「べ、別に強がってなんか………って誰がドジっ娘ツインテですの!」
「だから僕にはギイブルって名前があるんですが!」
クラスにいた成績上位陣でも難しいか。
どうやらリリアーナという女子生徒も別格のようだ。
アイザの独壇場の中でうまく立ち回り、軽い身のこなしで高速移動しながら、アイザにヒットアンドアウェイ攻撃を仕掛けている。
固定砲台のように魔術を放つ選手と違い、防御よりも狙いが定まらないように回避する方に重視するタイプか。
ずっと【ショック・ボルト】オンリーで攻撃してくるのは水を使わせないためなのだろう。不用意に使えば、アイザ自身が水を通して電撃を喰らうことは分かっているだろうからな。
水系魔術が使われたのは午前の試合のも合わせて二回だけだというのにこの理解力。
そして鋭い洞察力と咄嗟の冷静な判断力…………。
優れた両者が魔術でぶつかり合うこの状況は実に…………
……………面白い。
「おい茶髪、お前なにあのパッキン女子の方じっと見てんだよ?やめとけって。あれ絶対陰キャとか眼中になさそうだし」
「……なに勘違いしてるんですか、もじゃもじゃ」
「誰の頭がもじゃもじゃ○毛頭だ!?こう見えてもレイさんの髪はゆるふわ系だって巷じゃ人気なんだぞ!」
「いや誰もそこまで言ってませんって」
「ちょっレイ君!?女の子もいるからそういう下ネタ発言控えてよ!」
♢♢
正直言って、現在俺は苦戦していた。
「《電よ》」
「《大気の壁よ》!」
リリアーナが放った【ショック・ボルト】を【エア・スクリーン】による風の防壁で防ぎ、それから攻性呪文で攻撃に移ろうとした時、気付けば彼女は俺の背後へと回りこんできた。
「《電よ》」
「《紅蓮の円陣よ》!」
放ってきた電撃に対応するために【ファイア・ウォール】を起動し、放射状に展開した炎の壁で防ぐ。
こちらが攻撃を仕掛ける頃にはリリアーナはすでに俺の射線から外れ、別の角度から攻撃を仕掛けてくる。
狙って放っても難なく回避され、カウンターを仕掛けられる。
互角に見えても防戦一方なのだ。
これだけ強いとなると、システィーナやギイブルでも粘れるかどうか疑問だ。
いや………もし全競技に彼女が出ていたら、二組に勝ち目はなかったかもしれない。
なんで全種目使い回されずにこの競技にだけしか出ていないのか疑問だが、そんなことを今考える必要は無い。
「……………《我、力を解放せん》!―――《守人の加護あれ》!」
俺は身体強化に【フィジカル・ブースト】、三属エネルギー対抗用に【トライ・レジスト】の呪文を詠唱する。
防御呪文を使うだけでも魔力を消費する。
避けられるのは最低限回避に徹し、残りの魔力の殆どを攻性呪文に回す。
「《吹き荒べ・白き吹雪よ》!」
「っ!」
俺は【ホワイト・アウト】を即興改変し、広範囲に渡る吹雪の嵐へと変えてフィールド上を包み込む。
『こ、これはぁ!?吹雪です!アイザック選手の改変呪文で、フィールドが吹雪に覆われました!!勢いが強いせいか、リリアーナ選手の動きが少し鈍くなっている気がします!』
この中では突風で速度が落ちるし、予め【トライ・レジスト】を付与していなければ寒さで体力を奪われる。しかも視界が悪くて狙いもつけにくい。
この隙に――――……
「――――《風よ・荒れ狂え》」
「なっ」
透き通った声を認識したとき、旋風が巻き起こった。
フィールドを覆っていた吹雪が渦巻状に立ち上る大きな突風に吸い寄せられ、上空へと巻き上がっていった。
『おおっ――とぉおおおおッ!?リリアーナ選手も改変呪文を使用した模様!広範囲の【ゲイル・ブロウ】を上空に放つことで吹雪を搔き消したぁ!!レベルが高すぎでしょ二人共!?』
向こうも即興改変を使ってくるか。
そういえば非常勤時のグレン先生の授業を立ち聞きする他クラスの生徒達の中に彼女もいたんだっ――――
「おっと」
俺の姿を認識したリリアーナの放った紫電が迫ってきたため、俺は強化した身体能力ですかさず避ける。
再び彼女のヒットアンドアウェイ攻撃が再び始まる。
誰もが振出しに戻ったと思うだろうが、違う。
何故なら………
ピッ
「えっ」
視界を封じている隙に、フィールド上に大量の魔術罠を仕掛けさせてもらったからだ。
チュドオォン!
何かを踏んだ拍子で鳴ったピッという音がリリアーナの行進を止めてすぐに彼女の足元に方陣が展開、【スタン・フロア】による衝撃が炸裂。砂塵と爆風が巻き起こった。
『な、なんとぉ!?リリアーナ選手、高速移動中に爆発!どうやらアイザック選手が地雷式の魔術罠を仕掛けていたもよう。もろに受けた彼女はただでは済まないはずだ!』
そうだ。あの距離で受ければ戦闘不能になるはず。
かなり苦戦したが、これで……………
「―――《我・雷光を纏いし者なり》」
バチチチチっ!
「なっ…」
勝利を確信したその時、土煙の中からリリアーナが飛び出てきた。
その身を黄色く輝く雷光に包み、先程とは比べ物にならない速度で迫ってくる彼女自身が雷になったかのようだ。
距離を取ろうと後退しようとするが、彼女の加速が俺の身体強化を上回っており
「ガアアアアア!?」
もろに突進を受けた俺は大きく吹き飛ばされ、同時に全身が電撃に襲われた。
正直甘く見ていた。
所詮祭りだ、相手はたかが魔術師の卵だからと、どこかで小バカにしていた。
優勝しないといけないと頭では分かっていても、無意識にブレーキを掛けていたのかもしれない。
あいつに『勝つさ』と格好つけておきながら情けない。
ふと、ある日の白髪の軽薄男の言葉が頭をよぎった。
『――――本気でやれ。もっと欲張れ』
「っ!!」
ふと我に返った時、視界にはフィールの地面がすぐ目の前まで迫っていた。
俺はすぐさま空中で体を丸め、ボールのようにフィールド上をゴロゴロと転がることで衝撃を軽減。
すぐに体勢を変え、まだ動けることに彼女が驚いている隙に両手を構え、あいつに教えてもらったもう一つの切り札を発動する。
「《水龍弾》!!!」
残っている魔力がありったけ水に変換され、俺の両手から一気に吹き出す。
【爆水衝波】とは違い局所に、渦巻く水の塊はまるで東方に伝わる蛇のような細長い龍を象り、うねりながら弾丸のような速度でリリアーナを襲った。
「――っ」
物量による強い衝撃により、リリアーナはフィールドの外まで弾き飛ばされた。
…………。
一瞬の静寂。そして――――。
『き、決まった―ッ!?場外だぁあああああああああああ――ッ!激しい戦いの末、勝利を手にしたのは二組のアイザック選手だ――――――ッ!!』
次の瞬間、実況の声に会場に歓声が巻き上がった。
「はぁ――はぁ―疲れた…………」
辛うじて勝利を拾ったものの、俺はぐったりと脱力して、その場に片膝をついた。
【トライ・レジスト】がまだ効いていたお陰でなんとかあのボルテッカーに耐えることができたが、痛いもの痛い。
それに最後に使ったあの水系魔術は魔力の消耗が激し過ぎた。これを教えたあいつはいったいどれだけの魔力を保有しているというんだ。
まあいい。とにかく、後は決勝戦でシスティーナ達が勝てば――――
「うおおおお!すげえぞアイザぁ――!!」
「本当に見事な戦いぶりでしたわぁ!!」
二組の生徒達が観客席から飛び出し、次々と俺の元へ駆け出してきた。
あっ
魔術罠解呪してなかった。
「おい待て!まだそっちには――――」
ピッピッピッピッピッピッ
「「「えっ」」」
遅かった。
フィールドに上がってきたクラスメイト達の足元からピッという非情な出来事がこの先に起こると告げる音が複数回も鳴り、
チュドドドドドドドドドドオォン!
歓声と拍手が響く中で大きな爆発音がその場に鳴り響いた。
♢♢
「だっはははははははははははははははは!爆発!?そこで爆発って、ひひひ!」
観客席にいたノクティスが『殲滅戦』終了後のアクシデントに、周りの目も気にせず腹を抱えながら大笑いしていた。
「はぁ…おいノクティス、笑い過ぎだぞ」
同じく観客席に相席するネイモス部長が、ため息交じりにノクティスをたしなめる。
「ははは………あー、いや、あまりにも最後のオチが可笑しくてつい」
「まったく……それよりも気付いたか?王室親衛隊が妙に慌ただしいぞ」
「あーそれね」
ピタッと、先程まで爆笑していたノクティスがシリアスな雰囲気に切り替わる。
「どうも裏でなにか騒動が起こっているみたいですね」
「騒動だと?お前なにか知ってるのか?」
「うーん……知ってはいるんですけど、言えません」
「言えないだと?ふざけるのも大概にしろ」
「ふざけてませんよ。原因をこの眼で観測してしまった時点で口にすることができなくなったんですよ」
そう言ってノクティスが目隠しをずらして露わになった蒼い瞳を見て、ネイモスはハッと得心がいった顔になる。
「………つまりアレ関係ということか」
「うん、完全にアレ関係ですね」
「そうか…………ということは我々の管轄になるな」
「無理ですよ」
「なに?……………まさか、それも制限に入っているのか?」
「…」
ノクティスは何も語らない。
「はぁ……参ったぞ。うちから人員を回そうにも時間がかかるし、事態を説明しようにもできないとなると………」
「いや、その辺の問題ないと思いますよ」
「?何故だ?」
ノクティスはニヤリと笑い……
「こういう時頼りになる後輩がいますから」
♢♢
悲しい爆発事故(笑)の後、一組と二組の間にあった差は一気に縮められた結果に、勢いを増した二組は『決闘戦』でも快勝を続け、一組との決勝では大将戦まで縺れ込むもののシスティーナの奮闘によって勝利を掴んだ。
アリシア女王陛下から直々に勲章を賜る栄誉を得るクラスは、大逆転の総合優勝を掴みとった二組に決まり、競技祭の終了式へと入る。
競技場に学院の生徒達(二組の殆どがボロボロ)が整列し、開式の言葉から始まり、国歌斉唱やら来賓の祝辞、結果発表が恙無く終わり、いよいよ迎える勲章の下賜。
表彰台であるフィール上には既にアリシアが立っており、彼女の背後には王室親衛隊の総隊長ゼーロスと学院が誇る第七階梯魔術師セリカが控えていた。
『それでは、今大会で顕著な成績を収めたクラスに、これから女王陛下が勲章を下賜されます。二組の代表者は前へお願いします。生徒一同、盛大な拍手を』
拍手が上がる。
例年通りであれば担当講師とクラス代表の二名が勲章を受け取りにいくのだが、表彰台に立ったのは、アルベルトとリィエル、アイザの三人であった。
「…………あら?貴方達は…………?」
「……来たか」
見知っている二人の登場に戸惑い、首を傾げるアリシアに一人呟くセリカ。そして訝しみ、不審に思うゼーロス。
「申し訳ありません陛下。此度はもろもろの事情により、例年とは違う形になっていますが……」
「なあ、おっさん」
アイザの説明を引き継ぐかのように、アルベルトが、アルベルトではない声でゼーロスに話しかける。
「なん、だと……ッ!?」
そして、アルベルトらしき男が、ぼそりと呪文を唱える。
すると、アルベルトとリィエル―――二人の周囲が一瞬ぐにゃりと歪んで――
再び焦点が結像し、そこからグレンとルミアが現れた。
「き、貴様らは――ッ!?どういうことだ、ルミア殿は今、魔術講師と町中にいるはずでは──!?」
王室親衛隊からの報告でルミア達は未だ町中を逃走中と聞いていたゼーロスは、突如として目の前に現れた二人に驚きを隠せない。
「入れ替わったんだよ。【セルフ・イリュージョン】を使ってな」
ゼーロスの疑問に正体を明かしたグレンはそう答える。
グレン達は女王陛下の前に会うために一つの作戦を考えだした。
グレンとルミア、アルベルトとリィエルが黒魔【セルフ・イリュージョン】―――光を操作して変身したように見せる幻影の魔術―――で互いの姿へと変身し、アルベルト達は親衛隊の引き付け、グレン達は警備が最も手薄となるこの瞬間のために二組の総合優勝を目指すというものである。
「こんな単純な手に引っかかるなんてお前、もうちょっと部下の教育した方がいいんじゃねーの?」
「くっ!親衛隊ッ!何をしている!?賊共を捕えろッ!」
「は、は「薄いィ!!」があっ!?」
会場を警邏していた衛士達が我に返って一斉に抜剣、グレン達を取り押さえようと殺到した時、真横から途轍もない衝撃波が彼らを遅い、何名か悲鳴を上げながら吹っ飛ばされていく。
「な、なんだ!?」
「ふ、伏兵か!?」
立ち込める土煙の中で一人の人影が映る。
「サガ◯オリジナルより薄いぜ。テメエらそれでも、女王陛下に仕える騎士かこのヤロー」
土煙から出てきたのは、木刀を携えた灰色天然パーマのレイだった。
「何者だ貴様!?」
「我々が陛下に仕える親衛隊だと知っての狼ぜ――――」
ドゴォ!
「きィイイイイ!!?」
レイは衛士の一人が何かを言う前に木刀でかっ飛ばした。あまりにも早すぎる行動に他衛士達はしばらく困惑する。
「え…ええ!?」
「ああ、うん…絶対にやると思った」
当然グレン達もだ。
「あ?悪い。なんだって?」
当の本人は吞気に鼻をほじっている。
「き、貴様ぁ……」
「自分が何をしているのか分かっているのか!?我々に刃向かうということは、国家反逆罪に問われること――――」
ゴ チ ン !!!!
「にぃイイイイイイイイイ!?」
レイの放った突きが衛士の一人の両脚の付け根にクリーンヒットした。
それを見た会場にいる殆どの男性達は、無意識に同じ箇所を手で隠した。
「!?!???!」
直撃を受けた衛士は直立不動のまま前のめりに倒れ、気絶した。
「な、なんという惨いことを………」
「悪魔の所業だ……」
特務分室時代のコードネームは『悪魔』だったのだからあながち間違っていない。
「ああはいはい。俺が誰かね。簡単に説明すっからよく聞け。俺はこいつらと腐れ縁で、女の子一人を寄ってたかって苛めるテメエら税金泥棒共をしばくために来ました。わかったかこのヤロー」
滅茶苦茶喧嘩を売っているレイの発言に、王室親衛隊全員が殺気立つ中、その場に雰囲気に似合わない渇いた拍手が鳴り響いた。
「いやぁ。面白いねキミ。王室親衛隊に平然と喧嘩売るなんて凄くイカれてるよ」
「なっ」
「いつの間に!?」
目元を目隠しで覆うという不審者スタイルの白髪の男性、ノクティスが王室親衛隊の中に紛れ込んでいた。
「あ?誰だテメェ?(こいつ何時からそこに……)」
「ノクティス先輩!!」
「やっ、グレン。約束通り手を貸しに来たよ」
「なっ、ノクティス!?まさか……現代最強の呪術師ノクティス=フィフスか!?」
「『双紫電』殿に名前を覚えられているなんて光栄だね」
とんでもない人物の登場に周囲はさらにざわついていく。
「!駄目だ!これ以上陛下には――――」
「あー分かってますって。僕はそっちには手を出しませんよ。代わりに部下の足止めをさせてもらいますよ」
そう言ってノクティスは印を結んで詠唱しだす。
「―――闇より出でて闇より黒くその汚れを禊ぎ祓え」
その直後、黒い影が地面を駆け抜け、表彰台を中心に覆い始める。まるで内側を覆い隠す黒いカーテンのようだ。
「なんだこりゃ、確か”帳”ってやつか?」
「ほら、キミも中に入ったら?」
「あ?」
黒いカーテンに皆の注意が行く中、ノクティスがレイに表彰台に上がることを薦める。
「ゼーロス相手にあの二人じゃキツイだろうからさ。キミ、手を貸しに行ってよ」
「おい、なに勝手に――」
「後輩のグレンの教え子は僕の後輩でもある。事情が事情とはいえ、その後輩を泣かせたこいつらに、僕もお灸を据えておきたいんだよ?」
軽薄そうなノクティスはこの時、ドスの効いた声を出していた。
「だから、後輩を頼むよ」
「……」
なにも応えず、レイは閉じかけていた黒い帳の隙間を猛スピードで突っ込み、姿を消した。
「さてと」
「「「「ひっ!?」」」」
ノクティスのドスが効いた声で、衛士達が後ずさる。
「他の後輩達の手前なんでね。格好つけさせて貰うよ」
『殲滅戦』に出てきたオリジナルキャラクターは魔法至上主義の学院で魔法が使えない少年の活躍を描いたあの作品に出てくるあのキャラクターを参考にしています。
セリカ「しまった……レイの馬鹿に気を取られて結界を張るチャンスを逃した」