ロクでなし魔術講師とマダオ(まるでダメなおっさん)   作:嫉妬憤怒強欲

17 / 17
なんか銀魂外伝の三年Z組銀八先生がまさかのアニメ化するみたいですね。
またやるやる詐欺じゃないか心配ですが…


事態は収束し……

「おのれ小癪な真似を……!」

 

 現代最強の呪術師が張った黒い結界がドーム状に張られ、互いの景色が見えなくなった結界内部は俺とグレン先生、ルミア、レイ先生、アリシア七世女王陛下に大陸最強のセリカ=アルフォネア教授、そして―――この馬鹿騒ぎを止めるのに一番の障害となる人物、『双紫電』のゼーロスのみとなった。

 

「さあ、馬鹿騒ぎは終いにしようぜオッサン。そっちの事情は大体察しているよ。セリカが教えてくれたからな。まあ、余りにも分かりづらいヒントだったが………それもコイツの話を聞いてピンときた」

 

 グレン先生はああ言っているがあくまでも状況証拠に過ぎない。

 もし間違っていれば本当に取り返しがつかなくなる。

 

「失礼ながら陛下」

 

 だから確認する必要がある。辿り着いた可能性を直接口に出さずに。

 

「……何でしょう?」

「その首元にかけておられるネックレス、以前かけていた物とは違いますね。新調なされたのですか?」

 

 ネックレスの話題を持ち出した途端、ゼーロスがビクッと反応した。

 

「ええ。この競技祭のために選んでいただいたものです」

 

 俺の唐突な質問に、女王陛下は嬉々として笑いながら首にあるらネックレスを持ち上げる。

 

「そうですか。お選びになった方は類い稀なるセンスの持ち主なんでしょう」

「えぇ、信頼できる侍女の一人です」

 

 他の二人の様子をちらりと確認すると、ゼーロスの顔に焦りが生まれ、アルフォネア教授の方はその反対でほくそ笑んでいた。

 

「恐れながらそのネックレスは陛下に合っていないかと。別のものをつけることをお勧めします」

「ふふっ、駄目ですよ?私はこれ外したくないですから」

 

 一見すれば何てことのない俺と女王陛下の会話だが、確定だな。

 俺は目だけグレン先生に向けると、ろくでなし講師はニヤリと不敵に笑った。

 

「つうわけだ……あとは俺が陛下をお助けしてやる。俺が……陛下のネックレスを外してやるよ」

「なっ!?貴様、何を巫山戯たことを!?余計な真似はするな!事が終われば儂は全ての責を負って自害する。だから――」

「うっせえな。白髪と皺まみれのおっさん一人の首で全部チャラになるわけねえだろ?鏡見て出直せこの野郎」

「そうだそうだ。時代錯誤もいいとこだぜ。だから黙って見とけおっさん。俺らで全部まるっと解決してやるからよ」

 

 元『愚者』と元『悪魔』、『ドS=サディスト』の二人が前に出た。

 グレン先生はスラックスのポケットに手を突っ込んで何かを握り、レイ先生は木刀を構える。

 

 陛下を守らんと躍起になって視野が狭くなっているゼーロスの目には、二人が陛下を害そうとする敵にしか見えないだろう。

 

「何をするつもりか知らぬが、させると思っているのか?」

「もちろん思ってねぇよ――レイ。そっちは任せた」

「あいあい。つーわけだ騎士様よ。この黒いカビの生えたもやしじゃ役不足だ。俺が相手してやんよ」

「誰がもやしだ腐れテンパ!?もやしに失礼だろ!」

 

 互いに罵り合いながら、二人は同時に駆け出した。

 グレン先生は陛下に向かって。

 レイ先生はゼーロスに向かって。

 

 互いが担う役割を果たす為に動き出す。

 

「させるかぁ!」

 

 だが、ゼーロスは俺の想像を上回る程の速度で飛び込んだ。

 残像すら置き去りにする、人の身ではありえない神速の踏み込みと共に左右一振りずつ、細剣でグレン先生へと斬り掛かるが、その剣はグレン先生のところまで届かない。

 

 ガキンッ

 

「───!?貴様!?」

 

 レイ先生の木刀がゼーロスの剣を真っ向から受け止めていた。

 自分の攻撃が防がれたことにゼーロスは驚いた様子だ。

 

「言っただろ。てめーの相手は、この俺だぁあああ!」

「───なっ!?」

 

 一振りの木刀と二振りの細剣を交差させた激しい鍔迫り合いの中、レイ先生が雄叫びを上げながらゼーロスを押し返した。

 

「邪魔を――」

 

 かなり動揺していたが、ゼーロスは排除の対象を目の前の障害であるレイ先生に切り替えたようだ。

 

「するなぁあああ!!!」

 

 レイ先生の首に刃を立てようと迫った。

 

 だが、視界の端からキラリと光るものが飛んできた時、ゼーロスの速度が落ちた。

 陛下が首にかけてあったネックレスを投げ捨てたのだ。

 

「陛下、なんてことを――ッ!?」

「ぉおおおおおおおおおおおおお――ッ!」

 

 ゼーロスが動揺した瞬間を狙って、レイ先生が鋭い突きを彼の鳩尾目掛けて放った。

 

「――っがぁあああああああああ――ッ!?」

 

 その威力はゼーロスの体を浮かし、結界の端まで吹っ飛ばした。

 

「喧嘩の最中に余所見とたぁいただけねえな騎士様よぉ。少しの油断が命取りになるぜ」

 

 

「うっ……へ、陛下」

 

 剣を杖代わりに立ち上がろうとして、それでも足腰に力が入らず失敗し、地面にくずおれながら、ゼーロスは主君の安否を確認する。

 

「私は大丈夫ですよ、ゼーロス」

「な……」

 

 鬼気迫る表情のゼーロスだったが、陛下が朗らかにたたずむ様を見て取ると、呆然と言葉を失った。

 

「へ、陛下……?何故無事で…………」

「俺がコイツを無効化したからな」

 

 ゼーロスが呆気に取られるとグレン先生が地面に落ちた翠緑のネックレスを忌々しげに見やりながらセリカに問う。

 

「やっぱ条件起動型の呪殺具だったか。『勝手に外したら装着者を殺す』、『装着から一定時間経過で装着者を殺す』、『呪いに関する情報を新たな第三者に開示したら装着者を殺す』。散々使い古された古典的な手だ」

「呪術師ノクティス・フィフスが現れた時の慌てようからして、彼が装着者に近づけば発動するのも条件に含まれていたんでしょう。そして解呪するための条件は『ルミアの殺害』。だから王室親衛隊はルミアを狙った、で合っていますか?」

「呪いの起動条件に細かい差異はあるが…ま、ご名答。大体そんなとこだ。私じゃなくあのクソガキなのは気に入らないが」

 

 俺達の予想にアルフォネア教授は少し不服そうにしながら頷いた。

 

「今回の件、陛下と一緒に来ていた侍女長が仕組んだんだろ?ルミアを狙って陛下にこれを上手いこと着けさせ、後でそれを知らせる。そして陛下を救うためにルミアを殺そうと親衛隊は大暴走。陛下が死ねばそれも良し……ルミアが殺されても後でいくらでも事情をでっち上げられることも込みで仕掛けた……コイツを仕掛けた奴、絶対頭イカれてやがるぜ」

「ええ、その通りです。私の秘書官も務めていた彼女、エレノア=シャーレットは天の智慧研究会所属からの回し者でした」

 

 成程。情報の漏洩は彼女から……。

 

「グレン、お前ってさ。普段、鈍くて馬鹿のくせに、なんかいざとなると冴えるよな。やっぱ、お前は私の自慢の弟子だよ」

「たくっ、調子のいい……コイツがいなかったらこの壇上登っても混乱真っ只中だったぞ。もうちょっとマトモなヒントよこせよ…こっちはジョセフがいたとはいえ、危うく死ぬとこだったんだぞ…ったく……」

「いや、改めて考えたらグレンにしかできないことといったら【愚者の世界】しかねえよな?それ取ったらもうお前に屁理屈とナルシスト、クソ雑魚しか残らねえだろ」

「んだとこらぁ!?テメエとうとう言っちゃいけねえこと言っちまったなおい!表出やがれ!」

「表ってどこですかあ?周り真っ黒で見当たりません~」

 

 この2人は顔を合わせれば互いを罵り合うな。

 

「てか、アイザ。お前よく呪殺具や侍女長に気付いたな?」

「……いえ。正直あくまで状況証拠だったので確認するまで確証はありませんでした」

 

 いや、気付いたというより、誘導されたというのが正しいか。考えすぎかもしれないが。

 

「貴様等……一体何をした……?なぜ、呪いが発現しなかった……?勝手に外せば……陛下は……」

「その正体はコレだ」

 

 状況が把握できていないゼーロスに、グレン先生は右手に持っている古い一枚のタロットカードを見せた。

 

「……アルカナ……?『愚者』の……?」

 

 大アルカナのNo.0。『愚者』のアルカナ・タローだった。

 

「こいつは俺の魔導器。愚者の絵柄に変換した術式を読み取ることで、俺は一定効果領域内における魔術の起動を完全封殺できる」

「……ぐ、『愚者』だと…?魔術の起動を…封殺……?」

 

 固有魔術【愚者の世界】を持つグレン先生だけが、この状況を打破出来るとアルフォネア教授は伝えたのだ。もっとも、勘の悪い本人はいまいちピンとこなかったようだが。

 

「う、噂に聞いたことがあるぞ…宮廷魔導士団の…まさか貴公が、貴公らがあの、ドS=サディ――ぶふぅ!?」

 

 最後まで言い終わる前に、グレン先生とレイ先生の蹴りがゼーロスの両足の太股に入った。

 容赦ないな。

 

「せ、先生!?」

「誰がドS=サディストだこら?軽々しく口にすんじゃねえよおっさん」

「散々ガキ殺そうと躍起になってやられた後だっていうのにまだ上下関係がわかってねえようだな?女王様の代わりにお灸を据えたろうかああん?」

 

 柄悪いな。一応元戦争の英雄だぞ。

 流石の陛下とルミアもドン引きしていた。

 

「つーかもう【愚者の世界】を解いていいよな?術式を封殺したからもう大丈夫だろ。ぶっちゃけ魔力を消費するからしんどい」

「けっ、引きこもりが」

 

 グレン先生が愚者の世界の解除しようとする。

 その時、ネックレスから僅かに黒い瘴気が漏れて揺れ動いている瞬間を、俺は見逃さなかった。

 

「術を解くな先生!まだ終わってない!」

「え?――おわぁ!!?」

 

 俺の大声にグレン先生が反応するよりも先に、ネックレスの中から瘴気が一気に溢れ出し、生き物の形を作っていく。

 

おオオオおオオオ

 

 ホウライエソのような魚の胴体に人間の手足を百足のようなに無数に生やした巨大な異形の怪物がここに顕現した。

 

「せ、先生…これは――」

「くそ、魔物かよ!?呪殺具の中に仕込まれてたのか!?」

 

 魔物。

 生物が霊脈の関係で進化した魔獣とは異なり、魔物は生物ではない。

 カテゴリは妖精や精霊と同じ概念存在だが、自然の触覚である妖精や精霊とは異なり、人間の身体から流れた負の感情が具現化し、意思を持った異形の存在。人語を話す個体がいるが、うわ言の様に言うだけで意思疎通はできない。

 

 東方では呪いの霊――通称『呪霊』とも呼ばれている。

 

 普段なら見ることも触れることも出来ない存在だが、極限状態に置かれた時や呪術師の張った帳の中でならその限りではない。

 

「《失せろ》!!」

『おおおっ!?』

 

 その刹那、耳をつんざく爆音が轟き、視界を紅蓮の衝撃が埋め尽くす。アルフォネア教授が唱えた呪文によって起動した魔術の爆炎が、魔物を容赦なく焼く。

 だが魔物の身体がすぐに修復されていき、元通りの形に形成される。

 

「ちい!やはり魔獣に物理攻撃は効かないか!面倒なのを仕掛けやがって」

 

 アルフォネア教授は忌々しそうに舌打ちする。

 人間の負の感情から生まれた魔物には基本、物理的な攻性呪文の効果が薄い。

 より威力の高い攻撃なら再生に時間がかかるだろうが、この空間内で放てば俺達を巻き込んでしまうとわかっていて、アルフォネア教授はあまり攻勢にでれないようだ。

 

 魔物を倒すための効果的な手段として二つある。

 高位司祭が使うような祓魔の高等浄化呪文を使うか、同じように負の感情から生み出される力『呪力』をぶつけるかだ。

 

 そして後者を使い魔を祓う者たちのことを呪術師と呼ぶ。

 

 

「―――や。手こずってるようだね。手を貸すよ」

 

 そして幸運なことに、現代最強と呼ばれる男がすぐ近くにいた。

 

 

♢♢

 

「あらら、失敗しちゃったか」

 

 ほぼ、同時刻。混乱の渦と化した魔術学院から離れた、南地区にて。

 

「まさか、失敗するとは思いませんでしたわ。せっかく陛下を人質に、セリカ=アルフォネアという規格外の動きを封じることができましたのに…流石は第七階梯、中々の狸ですわね」

「元『愚者』のグレン=レーダスと元『悪魔』で今は万事屋を営んでいるレイモンド=バルフェルムにその他。念には念にとノクティス=フィフスの動きを間接的に封じたのにこの結果………とんだジョーカーだったね」

「………貴方彼らのこと知っていて話さなかったのですね」

「人聞きが悪いな。聞かれなかったから言わなかっただけだよ」

 

 くすくすと楽しげに笑う二人の男女が裏道を歩いていた。

 女の方は二十代半ばほどで、ヘッドドレスにエプロン、ガーターベルトなどと言った使用人服に身を包む、黒髪黒瞳の女性。

 男の方は二十代半ばほどで、東方の僧が着るような黒の僧衣と袈裟を身に纏い、黒髪の腰まで伸ばしている。

 大きめの耳に大きなピアスを付けた塩顔で、前髪をオールバックにしていることで額についている大きな縫い跡が印象的だ。

 

「ま、なにも悪いことばかりじゃないさ。急進派の要望通り暗殺を試みたんだ。結果がどうであれ、連中も一応は納得してしばらくは大人しくしてくれるはずさ。多分」

「今回綿密な遺体回収ルートを苦労して用意したのはわたくしでしてよ。そもそも貴方はその急進派の代表でしょうに」

「やだなぁ。私はあくまでも代表代理だよ。本当はどちらかというと現状肯定派側なんだけど、彼らの暴走を抑えるためにあえて逆の立場についているんだ。呪霊入りの呪殺具を用意したのだって仕方なくだということをわかって欲しいね」

 

 男はあーやだやだとわざとらしい身振り手振りをするが、ふと、脚を止めた。

 

「?どうされました?」

「どうやら向こうは君が間者だと気付いたようだね。今『星』と『戦車』がこっちに近づいてきているよ」

「まあ、帝国もぼんくらばかりではないようですね…」

 

 女――エレノアは薄ら寒い笑みを浮かべていた。

 

「私は向こうに見られるわけにはいかないからここで失礼するよ」

「でしたら去る前に一つお願いしたいことが」

「ん?」

「今回の競技祭に出ていた魔術学院の生徒で一人気になる方がいまして。代わりに調べて欲しいのですが」

「誰だい?」

「確かお名前は――」

 

♢♢

 

 歴代最強のセリカ=アルフォネアが手こずっていた魔物を現代最強のノクティスが(あの場にいた王室親衛隊全員をボコった後)あっさり倒し、最後の最後でなんとか無事に馬鹿騒ぎは終わった。

 軽い事情聴取を終えた後、俺は一人人気のない場所で長官に連絡を入れた。

 

『そうか。そっちはどうにか治まったようだな』

「ゼーロスの投降宣言で暴走する王室親衛隊は沈静化、陛下の弁舌でどうにか」

 

 陛下が自身の身に降りかかった事件を学院生徒達の前で演説した。

 帝国政府に敵対するテロ組織の卑怯な罠に陥ったこと。そして、勇敢な魔術講師と学院生徒達の活躍で事なきを得たこと。

 ノクティスの張った帳のおかげで陛下達の会話が漏れなかったのも幸いしたのだろう。国難に関わる危険な部分はさりげなくぼかし、華々しい部分はあえて美化して強調する――世界を相手取る一国の女王の巧みな話術が、場にいた全ての者達を見事に欺いた。

 

「ですが………」

『ああ。王室親衛隊がフェジテで起こした騒ぎを既に多くの住民が目撃している。去年の不祥事に続いての今回の騒動。反魔術師主義の連中が黙っていないだろう。しかも下手人が秘書官を兼任していた侍女長ときた。その彼女が軍の作戦の情報を敵に流していたとなれば……』

「帝国政府に大きな波乱を呼びそうですね…」

 

 最悪なことに、女王陛下付きの侍女長…しかも四位下の官位を持つレベルにまで天の智慧研究会が入り込んでいたという事実はまさに毒だ。

 近いうちに他国や反政府勢力、反王室派の連中に叩かれるだろう。

 

『特務分室の二人が来ていたんだな?』

「はい。王室親衛隊の監視が任務だったと《星》が言っていましたが…」

『その最中に親衛隊の暴走が起こったと…』

「長官?」

『…いや、考えすぎか』

 

 まさか、疑っているのか?

 今回の騒動を収めたのに特務分室の二人も関わったという既成事実がある。

 これで一番得をするのは武断派筆頭で軍のトップであるイグナイト家現当主だ。

 

 そうなると、あの侍女長が行動を起こすことを事前に知っていたというのが前提条件となるが。

 

『とにかく帝国政府内に敵が他にも潜んでいる可能性が高い。誰が敵か味方かもわからないこの状況で人を信用するのは自身だけではなく周りの人間にも危険が及ぶ。念の為に言う』

 

 

―――誰も信用するな。

 

 

「…了解」

『引き続き彼女を護衛しろ。ただし他の誰にもそれを悟られないよう、今まで以上に注意しろ』

 

 それだけ告げられ、長官の通信が終わった。

 

 しかし今回もまたルミアか。

 今回の騒動の標的もルミアである。

 感応増幅者というルミアの異能。触れた相手の魔力と魔術を強化する生きた魔導回路。

 確かに珍しい力ではある。

 だが天の智慧研究会ほどの魔術結社が、そこまでして掌握したい存在だとは思えない。

 確かに感応増幅者は希有な能力だが、別にあいつに限った能力ではない。探せばいくらでもいるはずだ。あの組織が別の感応増幅者を見つけ出すのは難しくはないだろう。だが、連中はあくまでもルミアに拘っている。

 しかも最初は誘拐だったというのに今回は暗殺ときた。

 

「…向こうも一枚岩というわけではないのか」

 

 内ゲバでも起こして勝手に自滅してくれればありがたいが、そんな都合のいいこと起こるわけないか。

 

「あっ、アイザ君!」

 

 正門に向かっていると、背後からルミアがトコトコと子犬のように駆け寄って来た。

 

「もう、何処行ってたの?」

「少しな。そっちこそ聴取の後どうしてた?」

「…実はあの後お母さんと色々話したんだ。言いたかった事も不満も全部…そしたら、何だかすっきりしちゃった」

 

 いろいろあったが数年ぶりに母子の再会が叶い、互いの溝が解消できたようだ。

 

「これも全部、先生達やアイザ君達のお陰だね」

「だから大袈裟だ」

「そんなこと無いよ。アイザ君はあの時も私を助けてくれた。あの時言ってくれた言葉覚えてるよ────」

 

 

 

『言っておくが俺は正義の味方じゃない。だが、もし俺とまた会えたなら——……』

 

 

 

「――お前の味方ぐらいにはなってやるって」

 

 そういえばそんな恥ずかしいこと言ってたような。

 

「よく覚えていたな」

「あの時の約束で、あの時の私は救われたんだよ」

「だから大袈裟だ…

 

 正門に着くと、グレン先生とレイ先生、セラ先生、ノクティス・フィフスの姿が見えた。

 

「へ~グレン君って学生だった頃身長低かったんですか」

「そーそー昔は豆粒くらいだったにいつのまにかこんなに大きくなっちゃって…」

「いや流石にそこまで小さくなかったから!あと言い方が親戚の叔母さんみたいっすよ」

「つーかオタクなんで目隠ししてんの?見えてんの?」

 

 グレン先生の学生時代の話に花を咲かせているようだ。当の本人は珍しく羞恥で顔を赤くしていた。

 

「あっ、おーい!二人共~こっちこっち~」

 

 こっちに気付いたセラ先生が俺達に向けて手を振っていた。

 

「やーやーお二人さん、お疲れサマンサ〜」

 

 なんだそれ。ヘラヘラ笑うノクティスから変な労いの言葉を貰った。

 というか俺だと気付かれてないよな?

 

「いやぁ今日は大変だったね。特にエルミアナ様はお辛かったでしょ」

「え?」

「え?先輩ルミアのこと知って…」

「ん?ああ、だってエルミアナ様が病気で崩御したように見せかけるための裏工作に僕の家が一枚噛んでたからね」

「えぇ…マジっすか」

「あはは、マジだよ」

「おいおい。アイツの知り合いヤベえ奴ばっかだな」

「あはは…そのヤバいのにレイ君もいるような」

 

 ヘラヘラしながらとんでもないことをぶっちゃけたな。

 

「そう、だったんですか。なんかすみません私のために」

「ああ、気にしなくていいですよ。僕自身王室の権威だの予言だのしょうもない理由で周りが母子が引き裂こうとしてたことにムカついたから嫌がらせでやっただけですし。それに、陛下に頼まれてたら断るわけにいかなかったんで」

「お母さんから?」

「一国の女王である以前にあの人は一人の母親なんだ。周りが何と言おうとこの事実は変わらないってことを忘れないでくださいよ?」

「っ…はい!」

「いやあ、それにしてもまさか後輩のグレンの生徒になってたなんてねえ。大丈夫?変なことされてない?」

「なんで俺が変なことする前提で聞くんすか!?」

「いや、実際女子更衣室覗いただろお前」

「えっ、マジで」

「いや、あれは間違えただけで「グレン君、あとでお話しようか?」ひいっ!?」

 

 セラ先生はグレン先生が絡むと時々怖いな。

 

「…あっそうだ。今クラスの皆で打ち上げやってるんです。ノクティスさんも良かったら一緒にどうですか?」

 

 すぐにハイライトがオンに戻ったセラ先生がノクティスを打ち上げに誘う。

 そういえば優勝して特別賞与とハーレイ先生から三ヶ月分の給料を分捕って気を良くしたグレン先生が、俺が奢ってやるからお前らで好きに打ち上げパーティでもやれ、と言ってたな。レイ先生は報酬が減ると渋っていたが。

 

「あ~…ごめん。せっかくのお誘い嬉しいんだけど、この後始末書やらなんやらで帰らないといけないんだよ」

 

 そりゃあ公衆の面前で王室親衛隊ボコったからな。

 

「また別に機会に誘って。僕下戸だけど」

 

 

―――ノクティスぅううう!どこ行ったぁあああああ!!

 

 

「おっと部長かんかんだな。それじゃあ僕はこれで退散するよ。またね~グレン。彼女さんと健やかに~」

「か、彼女じゃねえって…あっ、そういえば先輩、スグル先輩は元気っすか?」

 

 え?

 

「?すぐる先輩?」

「ああ、俺が学生時代にノクティス先輩以外と交流のあった先輩だ」

 

 ということはあのスグルか?でも確かそのスグルはもう――――

 

「あー、スグルは…うん。元気でやってると思うよ」

「?なんか歯切れ悪いっすね。喧嘩でもしたんすか?」

「…まあそうだね。喧嘩しちゃって、それっきり…」

「お、おお。なんかあったんすね」

 

 さっきまでの飄々さが鳴りを潜めているな。あのことを引き摺っているのか。

 

「まあ、また前みてえに仲直りすればいいんじゃないっすか?」

「…うん。そうだね…じゃあ、もう行くよ」

 

 その場から立ち去ろうと、俺の横を通るノクティス。

 すれ違った瞬間、彼は俺にしか聞き取れないほどの声量で俺にこう言った。

 

『―――スグルのこと、グレンには黙ってて』

 

 

 どうやら俺のことはバレていたようだ。

 

 

♢♢

 

 少し時が流れ、太陽が沈み、空は暗くなった頃に打ち上げ会場に着いた。

 北地区学生街では結構名の知れた店で、よく生徒同士の宴会などに利用されたりするとか。今夜はその店を二組が貸切っている。 

 

「おいおい。随分と高そうな店じゃねえか。ちゃんと金払えるんだろうな?」

「特別賞与と給料三ヶ月分あんだ。全部使い切っちまうこともねえだろ」

「俺の取り分忘れんなよ。8割は貰うから」

「なんでだよ。てかなに普通についてきてんだよ。帰れよ」

「もうグレン君、レイ君も陛下とルミアちゃんを助けるのに協力してくれたんだからそう邪険に扱わないの…私のことは頼ってくれなかったけど」

「うっ…あの時は切羽詰まっててたからな……それより中に入ろうぜ」

 

 グレン先生が勢い良く店のドアを開けると、店内ではクラス全員が大盛り上がりだった。

 賑わっていたというか、どんちゃん騒ぎだなコレ。

 

『『『あ、先生っ! お先にやってまーす!』』』

「「「「…………」」」」

「……おい、何だこの皿と空き瓶の量は?」

 

 床にはワインボトルらしき物がゴロゴロ転がっている。ちょうど自分の目の前に転がっているボトルを拾い、ラベルを確認してみる。

 

「リュ=サフィーレ?」

 

 確か、サフィーレ地方の厳選された特級葡萄棚からとれる高級ワイン…だったか?

 

「貴族御用達の高級ワインじゃねえか…誰だこんなバカ高いもん頼みまくったの…?」

 

 グレン先生が代表して聞くと、全員さっと視線をあさっての方向にそらした。

 

「あ、あはは…きっと、誰かが間違って頼んじゃったのを、誰かが葡萄ジュースか何かと間違って飲んじゃって、それで気分が高揚して、次々と…空けちゃったのかな?」

「あの、逃げていいですか?ねぇ、ボク逃げていいですか?」

 

 現実逃避し始めようとするグレン先生だったが、店の支配人らしきから手渡された伝票の数字を見て絶望の呻きを上げた。

 

「3カ月分の給与と特別賞与が一瞬でパァに…」

「…おいグレン、コレ俺の取り分はどうなるんだ?」

「ゼロに決まってるだろうが!ボケェ!!」

「ふざけんじゃねえぞオラ!あんだけ苦労したってのにタダ働きとか冗談じゃねえよ!腎臓や玉を売ってでも金作ってこいやぁ!」

「ガキの前で玉とか言うな!なんでモジャモジャの為にそこまでんなことしなきゃならねえんだ!こっちだって金無くて餓死寸前なんだよ!つーかテメェおっさんぶっ飛ばした以外なんもしてねえだろうが!殆ど空気だったろ!」

「あーそんなこと言っちゃうのか。そんならおめえがギャンブルで給料全部すっちまったからボーナス目当てで扱き使ってたことガキ共に言っちまうぞ?」

 

 ああ、道理であれだけ真剣だったわけだ。

 

「先生~~ッ!」

「うぉ!?」

 

 グレン先生とレイ先生が醜い争いを始めようとする前に、横からシスティーナがグレン先生に抱きついてきた。あ、コイツも相当酔ってるな……。

 

「先生〜……今回もまたルミアを助けてくれてぇ〜。私見直しちゃったぁ〜」

「や、やめろ!くっ付くな!」

「うふ、うふふふ!先生偉いなぁ〜! お礼に〜、私を娶る権利をあげてもいいわよ〜!」

 

 酔ってるからって、ものすごい事を言い出した。酔いから醒めた後が大変そうだ。

 

「ちょ、ウゼェ……いい加減離れろ!」

「や〜だ〜!」

「・・・・・・ねぇ?グレン君?」

「ちょ、ちょっと助けて白犬・・・・・・」

 

 助けを求めてグレン先生がセラ先生を見る。

 普通の男なら一目惚れてしまいそうな微笑みを浮かべているが、セラ先生の瞳はハイライトをオフにしていた。

 

「あ、あの・・・セラ先生?ちょっと助けて頂いても・・・・・・」

「チョットオハナシシヨウカ?」

 

 セラ先生の圧倒的な威圧感の前に、グレン先生はすっかり縮こまっていた。

 

「先生〜!セラ先生じゃなくて、わらしを見て〜っ!」

「グレンクン?」

「ひぃぃぃぃ──────ッ!?」

 

 巻き込まれる前に俺達は避難……もとい、気を遣って退散した。

 

 

「もう自棄酒じゃオラぁああ!!ガキ共おおおお!今夜は思いっきりレッツパーリィと洒落こもうぜぇ!!」

「「おっけえぇぇぇぃい!!!ヒアウィゴ――――っ!!」」

 

 打ち上げはレイ先生が加わったことで更に混沌と化した。

 クラスメイトが顔を赤くしながらグラスを持ち、ハイテンションでどんちゃん騒ぎをしている。この中で酔っていないのは、酔いつぶれてぐったりしているショウを介抱しているアヤトだけだ。

 陽気に騒ぐクラスの様子を端の席で眺めつつ、俺もこっそりと頼んでおいた高級酒を飲む。

 サフィーレ地方の厳選された特級葡萄棚からとれる高級ワインとだけあって、味わい深くかつ清純。

 酒の良さが分かるほど嗜んでいるわけではないが、美味しいと素直な感想を抱いた。

 

「アイザ君、隣、いいかな?」

 

 半分ほどボトルを空けたところで、小さなバスケットを手に持つルミアが隣までやってきた。

 わざわざ断るのも不自然だと了承する。

 許可を得たルミアが隣の席にちょこんと腰を下ろす。

 

「それ、アイザ君も飲んでるんだ」

「今日一日大変だったからな。頑張った自分へのご褒美ということで」

「あはは……でも、ご褒美かぁ……ご褒美なら、いいかな」

 

 ふと小さく呟いてルミアはテーブルの上に小さなバスケットを置く。

 

「あのね、今日お弁当を作る時に作り過ぎちゃって。アイザ君、今日は凄く頑張ってくれたから、ご褒美として貰ってくれないかな?」

「いいのか?」

「むしろ私が押し付けてる側だからね。迷惑だったりする?」

 

 上目遣いでルミアが訊いてくる。

 

「…まあ、捨てるのは勿体ないからな」

「うん!」

 

 ニコニコと嬉しそうに微笑みながらルミアはバスケットを開けて差し出す。中身はシンプルにサンドイッチであるが、少しばかり形が崩れている。

 

「ちょっと見た目は不恰好だけど、味はちゃんと保証するよ。システィも美味しいって言ってくれたし」

 

 少し気恥ずかしげに頬を掻くルミア。

 

「システィーナがそう言ったのなら問題ないな」

 

 バスケットからサンドイッチを一つ手に取ると躊躇うことなく一口頬張った。

 パンから飛び出しそうになる具材を押さえつつ、よく味わうように何度も噛み締めて飲み込む。

 

「味は悪くないな。見てくれはあれだが」

「もう。最後の一言余計だよ」

 

「―――ふっ」

「あっ、アイザ君今笑った?」

「ん?笑ってない」

「噓。今笑ってたよ」

 

 

 

 俺も少し酔ってしまったのかもな。

 

♢♢

 

 

 それから時間が経ち、宴会の席のエネルギーが尽きた頃。

 

「ふぃ~飲み過ぎて上からも下からもリバースしちまったぜ」

 

 便意に襲われたレイは店の奥にある客用トイレで用を足していた。

 さて拭くかとトイレットペーパーに手を伸ばした瞬間

 

 カランッ 

 

「あり?」

 

 レイの手の中には僅か数センチの紙切れのみ。

 ペーパーホルダーを見れば、そこには剥き出しの芯のみが残されていた。

 

「ま、また紙がねえええええ!?」

 

 酔って赤くなっていた顔が真っ青になった。

 

 

 

―――おーい。お前らもう打ち上げは終わりだぁ

 

―――帰り道気を付けてね~

 

―――は~い

 

―――あれ?レイ君は?

 

―――さあ?先に帰ったんじゃね。もう俺らも帰ろうぜ。

 

「あ、うそ。ちょっ、お前ら待てって!紙持ってきてくれない!?ねえ聞いてる!? ちょっ、グレン!セラ、ショウ!!」

 

 レイはトイレで叫ぶが、既にグレン達は店から出ていた。

 そんなこと、つゆしらずレイは叫び続ける。

 

「紙を!どうか俺に紙を!!わかった!報酬とかなしで良い!金はいらねえから、だから俺を助けてください!」

 

 店の営業時間も終わり、消灯される。従業員もいなくなり、店にはレイ一人となっていた。

 

 

「誰かあァァ!! 俺に紙をくれえェェェェ!!」

 

 





最後に金にも神にもトイレの紙にも見放された主人公(笑)
二度あることは三度あると言いますしね。まだ二度目ですけど。

第2章はなんとか終わりました。

次の章に入るまでにレイさんは、果たしてこの状況を切り抜けれるのか
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。